「ネガティブなクチコミ」を減らす方法
企業にとって一番頭が痛いのは、
自社商品の購入者が、当該商品や企業についての
不平不満や悪口を言いふらすこと、すなわち、
「ネガティブなクチコミ」
ですね。
もちろん、そうした不平不満は、商品やサービス改善の
ヒントであり、貴重な情報ではあります。
しかし、ネガティブなクチコミが拡散することよって、
売上が抑制されてしまう点が頭が痛いわけです。
実際、心理学の研究によれば、
人は良いクチコミよりも、悪いクチコミに対して
強い印象を受けやすく、結果として記憶にも残りやすい
ことがわかっています。
したがって、よいクチコミが「買う気を高める効果」よりも、
悪いクチコミが、「買う気を失くさせる効果」のほうが、
より大きいと言えるでしょう。
しかも、ソーシャルメディアの浸透によって、
クチコミがより拡散されやすくなっている昨今、
ネガティブなクチコミが持つ、
「購買意欲抑制効果」
はますます大きくなっていると思われます。
では、ネガティブなクチコミをできるだけ減らすため
にはどうしたらいいのでしょうか?
購入した商品に対して不満を持った消費者は、
以下の行動をどれか、または複数同時に取ります。
-------------------------------------------------
1.他の商品に切り替えてしまう(ブランドスイッチ)
2.当該企業に直接苦情を言う(苦情行動)
3.不満足な経験を他人に話す(ネガティブなクチコミ)
-------------------------------------------------
実のところ、何も言わず、黙ってブランドスイッチ
する消費者が相当数存在していて、こうした、
「もの言わぬ離反者」
こそが、企業にとって何のリカバリー策も打てない、
最も頭の痛い消費者かもしれません。
さて、消費者行動の研究者、
マーシャ・L・リッチンズの研究によれば、
不満が小さければ、消費者は特になにもしません。
多少の不満は我慢してしまうということでしょう。
ただし、次回購入時は、ブランドスイッチされてしまう
可能性は高いわけです。
一方、極めて大きな不満を感じた場合は、
企業に対して直接的な苦情を申し立てます。
その結果、なんらかの形で解決に至ることになります。
(訴訟にまで発展することもありますね。)
もし、直接的な苦情に対して、
企業側が迅速に、適切に対処できれば逆に満足度が高まり、
「良いクチコミ」が拡散することもあります。
「ネガティブなクチコミ」が発生しやすいのは、
上記2つの間のレベルです。
すなわち、人が相応の不満を感じていて、
我慢はしていられない。
ところが、直接的な苦情行動がとりにくい時や、
企業が、苦情を軽くあしらうような態度を取るとき、
消費者は、不満のはけ口として、
「ネガティブなクチコミ」
をばら撒いてしまうわけです。
したがって、
「ネガティブなクチコミ」
を減らす方法は基本的には以下の2つです。
-------------------------------------------------
1 直接的な苦情を言いやすくする仕組み・体制をつくる
2 苦情に対して真摯に対応する
-------------------------------------------------
従来、多くの企業では、
「臭いものにはフタ」
の考え方が強く、苦情を受け付ける仕組み・体制に
十分な予算を割かず、問い合わせ先の情報をあえて
目立たなくしたり、また、実際の苦情に対しても、
心のこもらない、型どおりの対応で受け流すことが
みられました。
(消費者は泣き寝入りするしかなかったわけです)
しかし今や、消費者誰もがネットを通じて情報発信でき、
企業が「泣き寝入り」させることができなくなったばかりか、
「ネガティブなクチコミ」
あるいは、さらに極端な場合には、
「組織的な不買運動」
を起こすことさえ容易になっています。
企業としては、気の進まないことではありますが、
「苦情」
を真正面から受け止め、真摯に対応するしか道はありません。
*参考文献
『雑談力 おしゃべり・雑談のおそるべき効果』
(川上善郎著、マイコミ新書)
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<主催セミナーのご紹介>
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●【マスターコース(全10回)】英語で学ぶ「ベーシック・マーケティング」
投稿者 松尾 順 : 10:35 | コメント (0) | トラックバック
人はなぜ「クチコミ」するのか?
インターネットは、一般庶民の私たち誰もが、
いつでもどこでも、様々な情報を簡単に収集すること
を可能しました。
同時に、私たち個人がそれぞれ自由に、
社会に向けて「情報発信」することを簡単にしました。
さて、いち消費者、いち生活者としての個人が
発信する情報は、他者からみれば
「クチコミ」
にほかなりません。
クチコミは、
消費者行動に大きな影響を与えます。
なぜなら、私たちは、
「他の人々はどんなものを購入しているのか」
また、
「人々は、購入した商品についてどのような評価を
しているのか」
を大いに参考にして、
自分が購入する商品の選択を行なうからです。
「なぜクチコミを参考にするのか」という
理由としては、大きくは2つあります。
------------------------------
1 失敗が少ない
他者の評価が高ければ、自分にとっても
満足できる商品である可能性が高い。
2 嘲笑されたり、非難されることが少ない
みんなが購入しているものなら、
多くの人に受容されているということであり、
「変なもの買っちゃって!」
などと笑われたり非難される可能性が低い。
------------------------------
要するに、「長いものに巻かれる」ほうが、
「安心」
という心理が働くからです。
ちなみに、これは『影響力の武器』で
解説されている「カチッ・サー理論」では、
「社会的証明の原理」
と呼ばれているものに含まれます。
では、そもそも人はなぜクチコミをするのでしょうか?
クチコミをする、したくなる理由については、
これまでの心理学の研究によれば、
以下の4つの理由が提示されています。
------------------------------
1 購入した商品を好きになるしかないから
複数の競合商品から一つの商品を選んだら、
少なくとも、当面その商品を利用するしかありません。
せっかく貴重なお金を投じて購入した商品ですから、
「失敗した」
などと後悔はしたくない。むしろ、自分が購入し
所有している商品をできるだけ価値あるものと考えたい。
そのために、
「その商品がどれだけいいか、満足しているか」
を周囲の人に対して語る、示すことによって、
本人が購入後に(無意識に)感じている
「この商品選択は正しかったのか?」
という不安や緊張を解消しようとするのです。
(心理学では「認知的不協和の解消」と言われるもの)
すなわち、この口コミは、他人のためでなく、
あくまで、自分で自分自身を納得させる、
安心させるための情報発信です。
これは、じっくり比較検討する商品、
購入金額が高い商品においてとりわけ起きやすい
クチコミ発生の動機であり、最も基本的なものだと
言われています。
なお、購入した商品が大きく期待はずれだった場合、
「かわいさあまって憎さ百倍」ではないですが、
極めて強い、ネガティブな口コミが撒きちらされる
可能性が高くなります。
2 「良いものを選んだ自分は偉い」という自己顕示をしたいから
人は、各自の好み、価値観や感性に基づいて、
なんらかの製品を選択します。
したがって、ある製品を購入することは、
その人自身のパーソナリティやセンスの良し悪し
を示すものだと言えます。
映画や音楽、演劇などについて、
積極的にクチコミをしたがるのは、
「こんな良いものを楽しんでる私ってセンスいいでしょう?」
ということを周囲に知らしめたいという
「自己顕示欲求」
が根底にあります。
これは、フェイスブックなどのソーシャルメディア
において頻繁に観察されるクチコミですね。
自己顕示は、自分を良く見せたい、
認められたいという心理から行なわれるもの。
誰もが持つ
「社会的欲求」
であり、これを否定するものではありません。
(振り返ってみれば、私自身結構やってますw)
3 相手を喜ばせたい、相手の役に立ちたいから
1や2の理由のように、自分のためではなく、
他の人に教えてあげることで、
「相手に喜んでもらいたい、役に立ちたい」
という「利他意識」からもクチコミが行なわれます。
これもまた、社会という集団を形成・維持するために、
お互いを助け合うことが必須であることから、
私たちのDNAに深く刻み込まれた心理です。
4 その情報がとても興味深い、面白いから
オリンピックで、
「○○選手がメダルを取った」
といったことがクチコミされやすいのは、
オリンピック自体が4年に1度のスポーツの祭典
という希少価値あるテーマであり、そこで
「メダルを取る」というニュースは、
とても興味深く、面白い情報だからです。
あるいは、ソフトバンクの「犬のお父さん」
のような奇妙なテレビコマーシャルがクチコミ
されやすいのは、純粋に面白いからです。
要するに、とても興味深い情報や面白い情報は、
誰かに語らずにいられない力を持っています。
言い換えると、上記のような情報や広告こそが、
「話題性のある(クチコミされやすい)
コンテンツやクリエイティブ」
と呼ばれるわけです。
--------------------------------
なお、近年は、
「クチコミに対してなんらかの報酬を支払う」
という仕組み・仕掛けが展開されているため、
口コミをする第5の理由として
「金銭的報酬が支払われるから」
も上がるようになっています。
ただ、前述した4つの理由は、
人の内側からわきおこる欲求に動機づけられたもの
であるのに対し、「金で買う」クチコミは、
外側から与えられる動機付けです。
したがって、どこか白々しく、本人の思いの弱い、
説得力に欠けたクチコミになりやすいため、
その効果はあまり高いとはいえません。
冒頭に述べたように、
クチコミは消費者行動に大きな影響力を
有しています。そこで、
「いかにクチコミを発生させるか、拡散させるか」
というのがビジネスにおける大きなテーマになっていますね。
ただ、いわゆる「クチコミマーケティング」や、
「バズマーケティング」と呼ばれる施策では、
「金で買うクチコミ」
で手っ取り早くクチコミを発生させようという風潮があります。
しかし、それ以前に、
人がクチコミをする基本的な4つの理由を理解し、
人が自然にクチコミしたくなるようになるためには、
どのような商品づくりや、コミュニケーションが
有効かをじっくり考えるべきでしょう。
*関連記事
*参考文献
『雑談力 おしゃべり・雑談のおそるべき効果』
(川上善郎著、マイコミ新書)
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<主催セミナーのご紹介>
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●【マスターコース(全10回)】英語で学ぶ「ベーシック・マーケティング」
投稿者 松尾 順 : 10:36 | コメント (0) | トラックバック
ハイタッチな口コミ・マーケティング~カイタッチ・プロジェクト
「愛」とはなにか?
心理学では次のように説明されることがあります。
「愛とは、相手本位に時間を与えることである」
つまり、相手のために、
自分の限られた時間を奉げることです。
私たちにとって最もうれしいのは、
金さえ払えば誰でも買えるモノをもらうよりも、
わざわざ時間を取って助けてくれたり、一緒に過ごしてくれること。
(ちなみに、相手が望まないのに自分の時間を奉げるのは、
単なる「ストーカー」ですね)
ビジネスにおいても同じです。
へたな「おまけ」や「プレゼント」も、
ないよりはマシですが、簡単でもいいから、
手書きのカードをもらうほうがよほどうれしい!
自分のために時間を割いてくれたということが
わかるから。
こうした意味で、
キッチン用品やカミソリ等のメーカー、貝印が
昨年(08年)10月から続けている、
カイタッチ・プロジェクト - KAI TOUCH Project! -
がなかなか面白いと思います。
当プロジェクトは、端的には
「ネット口コミ促進施策」
と言えますが、
従来になかった取り組みを行っています。
それは、上記プロジェクトサイトで出されている
各種のお題にユーザーがブログで答えると、
担当者がその回答を探し出して当該ブログを訪問、
個別のコメントをつけるという点です。
当プロジェクトの対象はエンドユーザーであることから、
このプロジェクトが成功すればするほど、
担当者の負荷は相当なものになります。
一日中コメント対応に追われるという状況に
なりかねません。ひょっとしたら、もうそんな状況に
近づいているかも知れませんね。
わたしも、たまたま年末に、
貝印の替刃式カミソリ
を購入し利用していますので、
お題のひとつにブログで答えましたが、
まだコメントがつきません!(笑)
・カイタッチ・プロジェクト!(KAI TOUCH Project!)参加
あるブロガーは、お金をもらうよりも、
担当者からコメントをもらうほうがよほど
記事を書く気になると言っていますが、私も同感です。
マーケティングは、
「効率性」
を重視しすぎるあまり、
しばしば、いかに手間をかけないか、
楽をするかを考えがちになりますよね。
効率性を追求することはもちろん間違いではありません。
しかし、お客さまの信頼や好意を得るためには、
誠実な愛
を行動で示すことが最も有効です。
それには、お金ではなく、
もっと時間を使うべきなのです。
この場合、
効率性の追求
をあきらめなければならない。
カイタッチプロジェクトは、
当の担当者にとっては、目先の成果にもすぐには
つながりにくいし、正直面倒な作業かもしれません。
しかし、こうした
ハイタッチなコミュニケーション
は長く続ければ続けるほど、
見返りが大きくなっていきます。
貝印製品について書かれたブログ記事が増えるだけでなく、
そこには、貝印という顔のない法人ではない、
生身の人間である担当者の人となりがうかがえるコメントも
増えていく。
半永久的にネットに残り続けるこうした口コミ情報が、
貝印のブランドイメージアップに漢方薬のようにじわじわと
効くのではないでしょうか?
*カイタッチ・プロジェクト
KAI TOUCH Project!
http://www.kai-group.com/jp/kaitouch/
投稿者 松尾 順 : 13:50 | コメント (1) | トラックバック
インフルエンサー・マーケティング
先日開催されたSPSS(統計解析ソフト)のユーザー会
「SPSS Directions Japan 2007」
http://www.spss.co.jp/directions/index.html
に参加してきました。
このユーザー会最終日のトリに講演された
ニフティ研究所 所長、友澤大輔氏は、
ブログ、SNSなど「CGM」(Consumer Generated Media)
の存在を企業が無視できなくなった背景
について、「物言う客」と「物言わぬ客」の対比で
わかりやすい説明をされていました。
その部分を簡単にご紹介しましょう。
これまで、企業に対して「物言う客」というのは、
コールセンターなどに電話してクレームを言う人や、
お客様アンケートを回答してくる人たちだけに
限られていましたよね。
これは、顧客全体をピラミッドとして捉えると、
頂点のほんのわずかな人たちだけ。すなわち氷山の一角。
残りの大多数の人たちの考えを知るのは困難でした。
ところが、今まで「物言わぬ客」だった人たちが、
パーソナルメディアである、ブログ、SNS上で盛んに情報を
発信するようになった。
こうした「物言う客」が爆発的に増大していること、
そして、あいかわらず自らは情報を発信しない
「物言わぬ客」ながら、ネット上に大量に流通する
「物言う客」の情報(いわゆる「口コミ情報」)に
影響を受ける顧客が増えています。
ですから、
・自社商品について、
CGM上ではどのようなことが言われているか
に目が離せないし、
・企業は、CGMとどのような関係をつくるべきか
が企業のマーケティング・コミュニケーションに
おける重要課題になってきたというわけです。
ちなみに、友澤氏が示してくれた野村総研の調査によれば、
2006年末現在のブログの書き手(ブロガー)は
約1,000万人、一方、読者は約5,000万人。
合計6,000万人が「ブログユーザー」となります。
これが5年後の2011年には、
ブロガー1,800万人、読者8,000万人となり、
およそ「1億人」がブログを利用して情報を発信したり
収集することが予測されています。
つまり、数年後にブログは、
国民的メディアになるということです。
なるほど確かに、
企業としてはCGMとの関係づくりを
真剣に考える必要がありますね。
さて、では、私たちマーケターとしては、
実際これにどう取り組んだらいいのかということですが、
ご参考として専門書を一冊ご紹介しておきます。
「その1人が30万人を動かす!影響力を見方につける
インフルエンサー・マーケティング」
(本田哲也著、東洋経済新報社)
これはインフルエンサーとの関係形成や、
コミュニケーションの方法について体系的に解説した
初めての専門書。つい先日発刊されたばかりです。
同書では、「消費者に影響を与える存在」である
「インフルエンサー」を次の3つに大別。
・マスメディア
(テレビ、ラジオ、深部、雑誌、ネットメディア)
・プロフェッショナル・インフルエンサー
(専門家、有名人、タレント、カリスマモデルなど)
・個人インフルエンサー
(情報発信力を持ち、他に影響力を与える消費者)
そして、これらインフルエンサーと共に
企業が情報発信する内容を
「関心テーマ」
と呼んでいます。
関心テーマは、
企業本位の単なる商品情報ではありません。
関心テーマとは、
(1)対象となる商品の便益や社会に貢献できるポイント
(2)インフルエンサーのそれぞれの立場における関心事
(3)消費者の関心事とメリット
をつなぐ架け橋であり、
インフルエンサー・マーケティングの「生命線」となるもの
だそうです。
著者の本田氏は、同書の中で、
インフルエンサー・マーケティングの戦略づくりとは、
(1)どんな関心テーマのもとに
(2)どのように3つのインフルエンサーを配置するか
ということに他ならないと述べています。
この本は、専門書とはいえ、
事例も豊富ですし、平易な文章で書かれていますので、
読みやすいですよ。
投稿者 松尾 順 : 10:05 | コメント (0) | トラックバック
推奨者、無関心者、刺客
顧客満足度調査を専門に行っているJ.D.パワー社では、
顧客を次の3タイプに分けています。
--------------------------------------------------
1.推奨者
企業、サービス、商品の熱狂的な信者となった顧客
他者に対して積極的に、商品・サービスの使用を勧めます。
2.無関心者
最低限の期待しか満たされなかった、満足しているだけの顧客
ちょっとした刺激でブランドスイッチしてしまいます。
3.刺客
不快な体験をした商品・サービスをけなして
ダメージを与える顧客
--------------------------------------------------
さて、顧客満足度調査の結果を見る時、以前は、
「とても満足」(20%)+「まあ満足」(60%)
で、「うちは顧客満足度80%だ!」と自己満足していました。
以前も書きましたが、こういうのを「自己満足度調査」と
私は呼んでいます。
でも、今では、
「とても満足している」
だけの数字を特に重視します。
なぜなら、顧客満足度調査の主な目的が、
顧客維持、つまりリピート購入率の向上であることを考えると、
「まあ満足している」と回答した顧客は、「無関心者」に
他ならず、彼らがリピートする可能性は決して高くないからです。
要するに、リピートしてくれる可能性の高い「推奨者」
(彼らは「とても満足」と答えることが多い)の数をどれだけ
増やすかが大事なんですよね。
一方、「刺客」をどうやって減らすかもきわめて重要。
自社商品・サービスの「悪口」をいいふらしてるわけですから。
J.D.パワーズの調査では、推奨者や刺客となるきっかけとなった
消費体験が明らかになっています。
--------------------------------------------------
●推奨者の体験談トップ5
・期待を超えるサービス 47%
・長期的判断による対応 27%
(短期的損失)
・親切/親身 18%
・製品品質の高さ 11%
・価格の安さ 9%
*「長期的判断による対応」とは、購入商品の無条件の
返品受付のように、企業側に短期的な損失をもたらしてでも
顧客の利益を優先する対応のことです。
●刺客の体験談トップ5
・製品品質の悪さ 20%
・修理拒否 19%
・無愛想なサービス 17%
・失礼な対応 16%
・短期的な考え方 11%
*「短期的な考え方」とは、顧客の利益よりも、
企業の短期的な利益を優先する対応のことです。
--------------------------------------------------
企業としては、ぜひ自社の宣伝をしてほしいし、
逆に、悪口を吹聴して回って欲しくはないですよね。
つまり、近年関心を集めている顧客の「口コミ」には、
好ましいものと好ましくないもの
があるわけで、上記の体験談は「口コミ」活用
(CGMマーケティング)にも、とても参考になります。
出典:J.D.パワー 顧客満足のすべて
J.D.パワー4世+クリス・ディノーヴィ著、ダイヤモンド社
投稿者 松尾 順 : 11:19 | コメント (0) | トラックバック
口コミマーケティングの倫理学
今年5月18日のマインドリーディング・メルマガ&ブログで、
口コミ・マーケティングの新手法を取り上げました。
新手法というのは、個人のブログで特定商品・サービスの
紹介記事を書いてくれたら「謝礼」を払う仕組みのことです。
しかし、お金をもらって書く記事は、実質的には
「記事風広告」(ペイドパブ)
であって、広告と明示しない限り、「ちょうちん記事」と
みなされてしまうのでメディア倫理上まずいんじゃいないで
しょうかという趣旨の内容を書いたんですが・・・
案の定、NHKテレビの番組(11/3放送のニュースウォッチ9)で、
女子大生ブロガーが映画の試写会やレストランなどに招待され、
後日、ブログにそのことを取り上げると「謝礼」が支払われると
いう裏の仕組みが報道されたことをきっかけに、
当女子大生ブログに非難が殺到し、炎上。
当ブログは、実質閉鎖に追い込まれるという結果を招いています。
(今は別のところで再開してますね)
また、この仕組みを運営していた企業は解散を決めています。
大手企業の子会社でした。
解散の理由は明らかにされていませんが、
女子大生ブログ炎上が最大の理由でしょう。
こうした事件が起こるたびに思うのは、
企業側の論理ばかりが立ち、
消費者の気持ちをまるで理解できてない点です。
消費者をバカにするようなアプローチは、
必ずしっぺ返しがあると考えるべきじゃないでしょうか。
ともあれ、お金を払ってブログに書いてもらう
口コミマーケティング手法は、もはや
大手企業には手の出せない禁じ手になってしまったと
言えますね。
この仕組みを通じて得られるポジティブな効果よりも、
ネガティブな効果の方が大きくなってしまったからです。
さて、女子大生ブログ炎上について、ふじしろ・ひろゆき氏は、
アメリカの口コミ業界団体「WOMMA」
(Word of Mouth Marketing Association)が定めた倫理コード、
R:Honesty of Relationship
(関係。誰を代弁しているのかを説明する)
O:Honesty of Opinion
(意見。自分の信じていることを言う)
I:Honesty of Identity
(アイデンティティ。自分の正体を偽らない)
に照らして、次のような指摘をしています。
(PRIR、2007 January)
・サービスを提供されたことを明示していない →R
・女子大生が会社に所属してプロモーションを
行うセミプロ的立場であることを明示していない →I
・会社が上手なブログの書き方を指導していたこと
から、「無理やり書かせているのではないか」
という疑惑が生まれた →O
そして、一言で言えば「正直でなかった」と結論づけています。
商品・サービスの人気に火をつけるための着火剤として、
適度な「やらせ」「さくら」は必要(悪)です。
したがって、マーケターとしては、上記のようなアプローチを
完全に否定するのは自分の首を絞めるようなものです。
しかし、「一線」は超えてはいけないということなんですよね。
ちなみに、口コミの定義は、
慶應義塾大学、濱岡教授によれば次のとおりです。
(1)話し手と受け手との対人コミュニケーション
(2)ブランド・商品・サービス・店に関する話題
(3)受け手が非商業的な目的であると知覚している
(4)話し手と受け手が社会的な関係に規定されている
この定義に照らしても、金銭の交換が発生する
口コミマーケティングは、そもそも「口コミ」ではないと
言えます。
投稿者 松尾 順 : 10:53 | コメント (2) | トラックバック
ホテル・ルワンダと総表現社会の三層構造
水曜日(15日)に有楽町シネカノンで話題の映画、
「ホテル・ルワンダ」
を観てきました。
午後9時過ぎのナイトショー上映でしたが、
客席は7分の入りといったところ。
「ホテル・ルワンダ」は、
94年に同国で起きた民族虐殺が背景です。
実話に基づいています。
映画の舞台となったホテルの支配人は、
虐殺から逃れてきた民族をかくまい、彼らの命を救います。
演出は抑え気味です。派手な流血もありません。
主人公の人物像についても、いたずらにヒーロー的な描き方を
していません。
逆に、だからこそ心にじわじわと迫ってくるものがあります。
なかなかの名画です。一見の価値があります。
さてこの映画、海外では評価が高く、
アカデミー賞にもノミネートされたほどでした。
しかし、そのおかげで配給権が高騰したこと、
また「民族虐殺」という背景の重さが女性には受けないだろう
という判断で、当初、日本では公開が見送られていたんですね。
しかし、日本での上映が実現されないことを残念に思った
26歳の青年、ミズキユウタさんは、2005年6月8日、
mixi内で「ルワンダ・コミュニティ」を立ち上げ、
日本上映を働きかける活動を開始します。
さらに、『ホテル・ルワンダ』日本公開を求める会」の
ホームページを6月24日に開設、署名運動を開始しました。
署名運動では、全国から4595名の署名が集まりました。
この数自体は決して多いものではないですね。
しかし、署名運動以外にも「ほぼ日刊イトイ新聞」で
紹介されるなど話題が広がったおかげで、
mixiに「ルワンダ・コミュニティ」を立ち上げてから
わずか4ヵ月後の10月頭には、日本公開が決定しました。
配給を決めたメディアスーツの村田敦子取締役は、
“・・・その(署名運動の)数字で動いたわけではない。
テーマや主演俳優で話題になる要素は少ないのに、
mixiを起点にこれだけ話題になっていることで、
見過ごしていた作品の魅力に気づかされた”
と日経ビジネス(2006.02.20号)の記事で述べています。
こうして、ホテル・ルワンダは今年1月14日、
渋谷のミニシアターでの単館での上映が開始されたのですが、
当初から立ち見が出るほどの人気で上映館が増加、
2月20日時点で全国50館に拡大する見込みだそうです。
たった一人の無名の青年の思いが、
ネットを活用することで大きく増幅され、
莫大なお金の動く映画配給に影響を与えたのはすごいですね。
そして、おそらく公開後のヒットには、ネットを通じた口コミが
大きな効果を挙げているに違いありません。
今までは、マスメディアに登場するごく一握りの人々が
発信した情報が、その情報の受け手たる「大衆」を動かし、
大きなムーブメントに仕立て上げてきました。
しかし、だれもがその気になれば自分の意見・考えを公開できる
ネット社会(ブログ社会というべきでしょうか)では、
マスコミには登場しないものの、
ネット上で積極的に発言する人々が急激に増殖しています。
ITコンサルタントの梅田望夫氏は、近著「ウェブ進化論」に
おいて、誰もが表現できるようになった現代社会を
「総表現社会」
と規定します。
そして、これまでマスメディアに登場するような、
表現者として認められた少数の「エリート層」と、彼らに
扇動される側の「大衆」との2層の間に
「総表現社会参加者」
という層をイメージすべきだと書いています。
つまり、
総表現社会は、3層(エリート、総表現社会参加者、大衆)構造
として考えるべきだと主張しているのです。
主としてブログを駆使して情報発信を行う「総表現社会参加者」
の一人ひとりは、マスメディアを駆使できるエリート層ほどの
情報伝達力を持ちえませんが、SNSやトラックバックなどで
つながるネットワークを通じて、マスメディアと同等の、
あるいはそれ以上のパワーを持ち始めています。
ホテル・ルワンダの公開に至る経緯、また公開後のヒットは、
「総表現社会参加者」の台頭を裏付けていると言えるのでは
ないでしょうか。
*『ホテル・ルワンダ』日本公開を求める会は、
現在、『ホテル・ルワンダ』日本公開を応援する会に
改称されています。
投稿者 松尾 順 : 12:48 | コメント (0) | トラックバック
口コミパワーと正直戦略
商品比較サイト、カカクコムの業績が急回復していますね。
(日経産業新聞、2005/11/18)
今年5月、不正アクセスで一時閉鎖を余儀なくされたものの、
直近の四半期(7-9月期)は売上高前年同期比5割増、
経常利益は同4割増。
サイト利用者数も、サイト閉鎖前を上回る勢い。
不正アクセス発生時の対応はやや手際が悪く、
顧客離れが懸念されましたけど、杞憂に終わったようです。
カカクコムは、同じ製品なら安く買いたいという消費者ニーズ
に応えることができるのが強みですが、同時に製品に対する
購入者やその道のプロ(オタク)による評価、つまり口コミ
情報の豊富さが魅力です。
多種多様な商品があふれる今、どの商品を買うべきかという
比較検討は素人にはとても難しい。
なぜなら、目に見える機能・性能面での違いは
ごくわずかになってしまっているからです。
ところが、このごくわずかの違いが、
使い勝手に大きな差を生んでいたりします。
たとえば、デジタル商品の場合、プログラムのちょっとしたバグが
とんでもない問題を引き起こします。
ですから、ユーザーは口コミ情報を大いに参考にしますし、
また頼らざるを得ない。
さて以前なら、商品の不具合があると、それがよほどのトラブル
を引き起すものでない限り、メーカーはこっそり個別対応して、
マスコミに騒がれることから逃れようにしてました。
しかし、現在は素人ユーザーがカカクコムやブログなどを通じて、
たちまち不具合を白日の下にさらしてしまいます。
したがって、これまでのように、
メーカーが密かに穏便に事を済ませることは無理になりました。
今、メーカーがやるべき行動は、ユーザーの利益を最優先に、
正直にすべてを公開することでしょう。
「嘘つき」は最も嫌われるからです。(当たり前すぎますね)
つまり、口コミパワーに対抗できるのは、
「正直戦略」しかありません。
でも、社内事情が優先してしまって
なかなか正直になれないのが現実のようですけどね。