「たった1人」を確実に振り向かせると、100万人に届く。

気鋭のマーケティング・コンサルタント、
阪本啓一氏の最新著作、

『「たった1人」を確実に振り向かせると、100万人に届く。』

では、現在のビジネス環境は非連続に変化しており、
それは、「革命」とも呼べるほどの大きな変化である
ことから、マーケティングで成果を出すためには、

「新しいアプローチ」

が必要だと提唱しています。

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本書で展開されている「新しいアプローチ」、
すなわち「新しいマーケティング」において、
最も重要な点は、

「顧客のこころとの感情的絆づくり」

です。


今、私たちは、
生活者・顧客がパワーを持つ

「第4の革命」

のまっただなかにいます。

一方、企業が生活者・顧客に対して
発信する情報量はあまりに多過ぎるため、

「うるさすぎて、届かない、伝わらない」

という状況。

「アテンション(注目)」は、
もはや希少資源なのです。


したがって、マス広告主体の伝統的な
マーケティングを通じて、

「アテンション(注目)」

をばくち的に得ようとするのではなく、
ゆっくり、じっくり、顧客との関係性を育む

「顧客エンゲージメント」

に取り組むしかないというのが
阪本氏の基本的な考えです。


そこで、まず集中しなければならないのは、
顧客セグメントでも、架空の人物に過ぎない
「ペルソナ」でもなく、今、目の前にいる人、
あるいは、PCやスマートフォンの画面の向こう側
にいる生身の人間、すなわち、

「たった1人」

の興味関心、すなわち

「インタレスト」

です。

マーケターは、たった1人のインタレストを
満たすことをまず考えなければならない。

なぜなら、顧客は、製品・サービス自体を
購入しているのではなく、自分の

インタレスト(興味・関心)

を満たしてくれる、

アイデア(製品やサービスがしてくれること)

にお金を支払っているからです。

そして、その人は自分が持つインタレストが
何らかの製品・サービスで満たされると、
思わず誰かに伝え、シェアしたくなるもの。

私たちはそれぞれ複数の様々なインタレストを
持っていますが、同じインタレストを持つ人々と

「コミュニティ」

を形成しています。

したがって、

「たった1人」

のインタレストを満たせる優れた製品・サービスを
開発し、‘情熱と手間をかけた’対話を行なうことで、
自社製品はクチコミを通じてコミュニティに拡がって
いくのです。


阪本氏は、

「コミュニティは最強のマーケティング・メディア」

であり、新しいマーケティングとは、
自社製品・サービスの独自の価値を形成する

「コア・アイデア」

を顧客から顧客へと感染させることが
核になると主張しています。


また、このためには、
製品・サービスを

「ブランド」

としてつくることも、
阪本氏は重視しています。

ブランドとは、他社にはない価値(とんがり)を
提供することであり、「らしさ」を感じさせること。

ブランドをつくることで、
「売る」のではなく、

「顧客に選ばれる」

という状況を生み出すことができるのです。


阪本氏は、新しいマーケティングの目的について、
シンプルに以下の3つにまとめています。

・「伝えたい」=提供価値(コア・アイデア)を伝えられるのか?
・「また来てほしい」=リピート客になってくれるのか?
・「広めたい」=感染(うつ)すことに役立つか?

自社のマーケティングのあり方、今後の展開について
この3つの目的に照らしてその妥当性を検証してみること
が有益かもしれません。


生活者・顧客とどのように関わっていくべきか、
悩んでいる方、また顧客エンゲージメントに
取り組みたい方には、本書の熟読をオススメします。


『「たった1人」を確実に振り向かせると、100万人に届く。』
(阪本啓一著、日本実業出版社)

投稿者 松尾 順 : 09:54 | コメント (0) | トラックバック

サブカテゴリー創造によるオンリーワン戦略

東洋アルミエコープロダクツ(株)の

「石焼きいも黒ホイル」

は2009年の発売から累計販売本数が

100万本

を超えるヒット商品です。

石焼きいも専用というサブカテゴリーを
創造したことで同製品のオンリーワン化を達成し、
製品価値を高めることに成功しています。

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石焼きいもが美味しい季節になってきましたね。

さて、アルミ箔の片面を特殊印刷で黒くしてある

「石焼きいも黒ホイル」(以下、黒ホイル)

は熱吸収が良いため、
食材にすばやく火が通ります。

したがって、通常のアルミホイルに比べて
焼きいもが短時間で出来ます。

また、さつまいもの麦芽糖が増えて、
やはり通常のアルミホイルを使用した場合
よりも甘みが増すのだそうです。

黒ホイルを使えば、すばやく
おいしい焼いもができることから、
主婦層に受け、通常のアルミホイルの
約8倍も高い店頭価格でありながら、
好調に売れているのです。


東洋アルミの最初の黒ホイル製品は
07年に発売されています。

その製品名は

「ホイルブラック」

でした。

しかし、あまり売れませんでした。

同製品の価値(強み)として、

・「熱吸収が良い」(機能価値)
・「短時間で調理ができる」(便益価値)

といったことは訴求していたようですが、
消費者にはピンと来なかったからでしょう。

実際、ありふれた日用品、すなわち

「コモディティ」

とみなされているアルミホイル製品で、

・機能価値
・便益価値

を訴求されても心には響かないものです。

「どうせ、既存製品とたいして変わらないだろう」

という固定観念が先に立つでしょうし、
わざわざ割高な製品に手を伸ばす気にはならない。


しかし、09年に用途を

「石焼きいも」

に絞って明確化した製品を発売したところ、
一転、ヒットにつながったのです。


さて、マーケティング戦略的に見ると、

「石焼きいも黒ホイル」

というネーミングは、
汎用的な用途に使われる既存の

「アルミホイルカテゴリー」

において、新たに

「石焼きいも(専用)」

というサブ(下位)カテゴリーを
創造したことを意味します。

既存のアルミホイルカテゴリーは、
コモディティ化が進んでおり、
競合が多いため価格競争に陥っています。

しかし、製品名称を通じて

「石焼きいも用ホイル」

と呼べるサブカテゴリーを生み出すことで、
実質的に競争のない

「オンリーワン」

な存在を確立。

このサブカテゴリーにおいては、
同製品の代替品がない、すなわちコモディティ
ではないため、高価格でも売れるというわけです。


サブカテゴリー創造はわかりやすく言い換えると

「土俵を別のところにつくる戦略」

です。

・熱効率が良い(機能価値)
・短時間で調理ができる(便益価値)

といった価値を打ち出すことは、
競合他社と同じ土俵での「規格競争」を
しているにすぎません。

黒ホイルの場合、

「石焼きいも」

という用途に絞ることによって、
既存製品とは別の土俵に競争の場をつくった。

そして、少なくとも現時点では

競争しないで勝つ状況

を創造することに成功したというわけです。


多くのカテゴリーにおいてコモディティ化が進む現在、
競争のいない土俵を新たに生み出す

「サブカテゴリー創造によるオンリーワン戦略」

はひとつの打開策として有効であることは
間違いないですね。

投稿者 松尾 順 : 11:38 | コメント (0) | トラックバック

マーケターは「感情」の研究に取り組め!

マーケティングで高い成果を出すためには、
マーケターは、人の「感情」をより深く
理解しなければならない!

私は最近、ますますこのことを
強く感じるようになってきました。


私が、マーケターは人の「感情」を
より深く理解すべきと感じる理由は2つあります。

ただ、この2つの理由に入る前に、
そもそも「感情」とは何かについて、
ごく簡単に説明しておきたいと思います。


「感情」とは、

「人、物、できごと、環境などに対する評価的な反応」

と考えられています。

ここで、‘評価’とは、

・危険(恐怖)⇔安全(安心)
・快⇔不快
・好き⇔嫌い

といった軸で、対象を位置づけ認識することです。

例えば、街中でナイフを持った人に出会ったら、

「怖い」(危険だ)

といった感情が湧き起こりますよね。

そして、あれこれ考える前に、
とっさに「身構える」、あるいは「逃げる」と
いった行動をすばやく取ることができます。

このように、「感情」は、
私たちが変化する状況に‘迅速に’適切に対応する
ための行動を引き出す役割を果たしていると言えます。


では、マーケターが「感情」を
より深く理解すべき理由に移りましょう。


ひとつには、「感情」は商品選択の拠り所と
して用いられるからです。

人はしばしば、ものごとを判断するとき、

「それについて自分はどのように感じるか」

自問自答することがあります。
(これを無意識で高速に行なっている場合もある)

そして、対象に対して

「良い感情」

が得られるなら選択します。

逆に、

「好ましくない感情」

が湧いたらそれを選択しない。

これは、

「アフェクト・アズ・インフォメーション仮説」
(「情報」としての感情仮説)

と呼ばれているものです。


この仮説に基づけば、私たちは、
複数の競合商品から選択しようとするとき、
それぞれの商品の特徴やメリット・デメリット、
口コミなど多様な「情報」を収集し、検討する
ものですが、

「感情」

もまた判断のためのひとつの情報として
用いていると考えられます。

多くの場合、現実にもそうでしょう。
例えば、極端な例ですが、

・「好き」だから買う。
・「好きじゃない」から買わない。

というのは、まさに感情のみを判断のための
情報として用いている場合です。


ですから、マーケターとして消費者に働きかけ、
自社ブランドを選択してもらうためには、

「商品情報」や「クチコミ情報」

を提供をするだけでなく、

「好ましい感情」

を消費者に生成させる必要がある。

そして、このためには、

「好ましい感情を生成させるためには
 なにが有効なのか」

を把握しなければなりません。

となれば、「感情」そのものに対する
より深い理解が必要となってくるのでは
ないでしょうか。


さて、「感情」をより深く理解すべき
もう一つの理由。

それは、現在の環境においては、
私たちの商品選択が以前よりもますます

「感情優位」

になってきている可能性が高いからです。

私たちは何を買うにしても、
多数の競合商品の中から選択しなければ
なりません。

商品情報、関連情報も巷にあふれており、
ネットを使えばいくらでも簡単に大量に
入手できます。

しかし、私たちはもはや大量の情報を
‘論理的’‘合理的’に処理できません。

複雑すぎて手に負えないのです。
大量の情報を時間をかけて処理する余裕もない。

私たちは、選択肢が多すぎると、
処理しなければならない情報も増えて
どれを選んでいいかわからなくなり、

「どれも選択しない」

という「選択のパラドックス」に
陥ってしまうことがわかっています。

それでも、どれかを選択しなければならないとき、
私たちはもはや、もっとも手近でわかりやすい情報、
すなわち

「感情」

に大きく依存せざるを得なくなる。

したがって、マーケターとしては、
より一層「感情」に着目する必要が高まっている
と言えます。


まとめましょう。

そもそも、感情が商品選択のための判断材料の
ひとつとして利用されていること。

加えて、現在の情報過多な環境が、
感情以外の情報処理を困難にし、
結果として「感情」がより重要な情報となって
しまっていること。(だからといって感情以外の
情報が不要ということにはなりませんが)

これが、マーケターが、
「感情」をより深く理解すべき理由です。


一時期、

「エモーショナル・マーケティング」
(感情マーケティング)

という概念が流行ったことがありますが、
その内容は、

「小手先のテクニック」

的なものが多かったように思います。

しかし、これからは、
人の「感情」についての深い理解に基づく

「ニュー・エモーショナル・マーケティング」

が必要とされていると思います。

投稿者 松尾 順 : 11:17 | コメント (0) | トラックバック

『マーケティング・メトリクス』

『マーケティング・メトリクス』

は、マーケティング活動を

‘定量的’

に、すなわち、‘数字’で
評価・検証するために有効な
様々な指標(●●率みたいなもの)
を解説した本です。


いわゆる

「財務諸表データ」
(損益計算書、貸借対照表など)

を使った経営分析の本は、
多数出版されていますよね。


本書は、こうした経営分析の

「マーケティング活動特化版」

といった内容になるかと思います。


マーケティング活動は、
収益を得るためのメイン業務ですから、
当然ながら、その最終成果となる収益に
関わる指標が必要です。

例えば、次のような指標です。

・事業資産営業利益率
・粗利益率
・売上販管費率


ただし、経営分析では主に、

ミクロな企業活動

にフォーカスするのに対し、
マーケティングメトリクスでは、

対象市場の規模やシェア

といった、マクロ・社外的要素も
分析対象に含めます。

具体的には、以下のような指標も
算出し、活用することになります。

・市場成長率
・市場集中度
・市場シェア


本書の著者、田村氏は、

“メトリクスとは数量化された
 判断指標のことである”

と説明されていますが、

「判断指標」

というのは、
重要な意味を含んだ良い表現ですね。


というのも、メトリクスは、

・対象市場を決めたり、
・商品のポートフォリオを考えたり、
・広告出稿先メディアを絞り込む

といった判断のために役立つ
客観的な数値として使えるからです。
(客観的であるが故に社内説得もしやすいわけで)


また、田村氏は、

“どのようなメトリクスを使えるかによって、
 マーケターの能力は大きく変る”

と書いています。


マーケティング活動は、
きわめて複雑で多様な形を
取って展開されています。

したがって、
マーケティング活動全体を
常時把握することは困難です。

ネット(デジタル)革命以降、
その複雑さ、多様さは増大しました。


ですから、
マーケティング担当者がやるべきことは、
マーケティング活動の良し悪しを
判断するために使える指標(→「KPI」)は
何かを見極め、その指標を活用することです。

ここで、どんな指標を活用できるかによって、
コントロールできるマーケティング活動も
決まってきますから、まさにマーケターの能力
にも直結するというわけです。


本書は、財務諸表や経営分析の知識が
若干ないと難しい内容も含んでいますが、
マーケティング担当者としては、
ぜひ繰り返し読み、「知識」としてではなく、

「使える」レベル

を目指して欲しいと思います。


『マーケティング・メトリクス』
(田村正紀著、日本経済新聞出版社)


本書の構成(「章」レベル)

序章:マーケティング・メトリクスがなぜ必要なのか
1章:魅力的な対象市場を選ぶ
2章:市場シェアを確保する
3章:売上の収益性を高める
4章:顧客創造で売上を積み上げる
5章:バリュー顧客を狙う
6章:ブランド化で競争力を持続させる
7章:広告で市場普及を加速する
8章:強い販路を構築する
9章:営業力を強化する
終章:組織型ダッシュボード

投稿者 松尾 順 : 11:08 | コメント (0) | トラックバック

寄付マーケティング

通信販売各社が、

「寄付付き商品」

に力を入れ始めています。


日経MJ(2009/10/26)の記事によれば、
通販大手「ディノス」は11月1日、
全商品に寄付をつけたカタログを発行予定です。

50代女性向けをメインターゲットにした
同カタログには、衣料品から化粧品、
アクセサリーまで約160点の多様な商品が
掲載されます。


ディノスでは、
同カタログ掲載の1商品が売れるごとに、
小児マヒのワクチン1人分相当の金額を

NPO法人「世界の子どもにワクチンを 日本委員会」

に寄付するとのこと。


また、食品通販の「オイシックス」では、
今年9月、売上げの10%をアフリカの貧困救済活動に
寄付するお菓子の販売を開始しています。

このお菓子の売上げは好調で、
10月中旬には商品の種類を増やしています。


オイシックスでは、上記企画の以外に
08年7月から約30点の食料品を対象に
売上の3%を寄付する企画を展開してきており、
これまで約4万点を販売。


同社によれば、

「同じ価格なら、寄付付きの商品のほうが
 4倍以上売れている」

とのことです。
(同じく日経MJ、2009/10/26)


最近ご紹介した、

『幸福の方程式 新しい消費のカタチを探る』
(山田昌弘+電通チームハピネス著、
 ディスカバートゥエンティワン)

『「ワタシが主役」が消費を動かす』
(日野佳恵子著、ダイヤモンド社)

といった文献では、

・社会とつながっていたい
・社会に対してなんらかの貢献をしたい

という消費者意識の高まりを背景として、
社会貢献に結びつく消費行動が顕著になってきていると
強調されていました。


通販各社もこうした消費行動の変化への対応に
積極的に対応しようとしているわけです。

もちろん、通販業界に限らず、
あらゆる業界の企業が、社会貢献に関連した
様々な企画を展開しつつありますね。


さて、商品購入に付随したオファー、
あるいは、蓄積したポイントの交換対象などに

「寄付」

を提示する施策をとりあえず、

「寄付マーケティング」

と呼んでみたいと思います。


それで、この寄付マーケティングの

「効果」

についてですが、
大きくは以下の2点があると言えます。


1 販売促進効果
 
  オイシックスの例でわかるように、
  消費者の購買意欲を後押しすることができる

2 ブランディング効果

  社会貢献意識の高い企業であるという
  好ましいブランドイメージ形成に役立つ


従来、商品購入に付随するオファーとしては、
消費者になんらかの景品を直接提供する

「クローズド懸賞」

が主流でしたが、今どき、
オマケ的な安物の景品をもらっても、
たいしてうれしくありません。

しかも、ブランディング効果は、
ほとんどないでしょう。


ですから今後は、
奇をてらったクローズド懸賞よりも、
販売促進とブランディングの一石二鳥が
期待できる

「社会貢献に関連したオファー」

がますます増えていくのではないでしょうか?


もちろん、

「寄付」

を販売促進のための小手先の手段として、
安易に採用するのは止めるべきでしょう。

そもそも、企業活動全体との

整合性や一貫性

に留意する必要があります。


社員に対して、

「ブラック企業」

などと言われてしまうような劣悪な
処遇をしている企業が、偉そうに

「寄付マーケティング」

に取り組んでも、消費者は、
その企業の浅はかさを
すぐに感じ取ることでしょう。


また、早速始めたはいいが、

・さほどの効果がなかったから
・あるいは企業収益が低下してきたから

といった理由であっさり止めてしまうと、
かえって消費者の不信を買い、

ブランドイメージの低下

につながること必至でしょうね。


(参考文献)

『幸福の方程式 新しい消費のカタチを探る』
(山田昌弘+電通チームハピネス著、
 ディスカバー・トゥエンティワン)

『「ワタシが主役」が消費を動かす-
  お客様の“成功”をイメージできますか?』
(日野佳恵子著、ダイヤモンド社)

『ソーシャル消費の時代 2015年のビジネス・パラダイム』
 (上條典夫著、講談社)

投稿者 松尾 順 : 14:51 | コメント (2) | トラックバック

オリビア・ニュートン=ジョン

先日、オリビア・ニュートン=ジョンが、
乳がん撲滅運動キャンペーンのため来日してましたね。


中学生時代、大好きでした。

当時彼女は20代後半で、
私にはずいぶんお姉さんでしたけど。


彼女もすでに60歳・・・

彼女自身も罹った乳がんも
すっかり克服されたようですし、
長生きしてほしいです。

投稿者 松尾 順 : 09:10 | コメント (2) | トラックバック

ねじの穴・・・セオドア・レビットの慧眼

マーケティングを勉強している人なら、

「ねじの穴」

というフレーズにはピンとくる方が多いでしょう。


マーケティング界のドラッカーと称された、

故セオドア・レビット氏(元ハーバードビジネススクール教授)

は、1960年代に発表した論文

『マーケティング発想法』

において「顧客志向」の重要性を認識させる

“顧客は、「ドリル」が欲しいのではなく、
 「ねじの穴」が欲しいのだ”

という名文句を残しています。


すなわち、顧客が買いたいのは、

「製品」

そのものではなく、その製品が与えてくれる

「便益」

であるということですね。


さて、セオドア・レビット氏は、

「マーケティングの神様」
(私に言わせると、「マーケティングテキストの神様」)

と呼ばれるフィリップ・コトラー教授ほどは
日本では知られていませんよね。


しかし、レビット氏の慧眼、
そして、ねじの穴の名文句でわかるように、
ものごとの本質を付くわかりやすい説明力には
驚くべきものがあります。


このことを再認識させられたのが、
2001年6月に行われた彼のインタビューです。

同インタビューの内容は、

『マーケティングの針路』

というタイトルで、

DIAMONDハーバードビジネスレビュー最新号
(November 2008)

に収録されています。


インタビューの中から、
いくつかレビット氏の言葉を引用してみましょう。


“ビジネスを突き詰めれば、たった二つの要素、
 つまり「金」と「顧客」をめぐるものです。
 立ち上げるために金が必要で、続けるために顧客が必要で、
 既存顧客を維持し新規顧客を獲得するために、
 またお金が必要となる。

 したがって、どのようなタイプのビジネスであろうと、
 「財務」と「マーケティング」が二大活動なのです。”

“そして、マーケティングとは(中略)、
 顧客を獲得し、維持する活動すべてを意味しています。
 さまざまなニューコンセプトが提唱されてきましたが、
 そのいずれもが必然的かつ本質的には

 「顧客の獲得と維持」

 へと行き着くのです。”


“私が以前から主張していたことの一つですが、
 「変化と適応こそ生存する唯一の方法」なのです。

 これはインターネットが登場する以前からの真理ですから、
 「何をすべきか」の答えは、マネージャーの頭の中や社内に
 存在するのではなく、外部環境によって決まるのです。”

“商品やサービスのライフサイクルの短縮化、消費者の
 ハイブリッド化など、不断に変化し続けるニーズや嗜好、
 これらに合わせて「バリュープロポジション(提供価値)
 の中身を変えていかなければなりません。(中略)

 ただし、常に兆候があります。
 「自然は飛躍しない」。ミクロ経済学の父、アルフレッド・
 マーシャルはこのように述べています。
 「変化することも多いが、変わらないことはもっと多い」と。

 物事の変化は速いが、瞬時に変わることはめったにないのです。”


そういえば、田坂広志氏は、

“未来を「予測」することはできないが、「予見」はできる”

と述べていますね。


ビジネスを持続するためには、
変化の兆候をかぎとり、その変化の方向に合わせて、
自社の製品や組織、人材を柔軟に作り変えていくことが
必要なのです。

このことは、言われて見れば当たり前のことですが、
今売れている製品、できあがった体制を創造的に破壊し、
将来の変化に備えるのは実際は簡単ではありません・・・


レビット氏の含蓄のある言葉に、
私たちはしばしば立ち戻ったほうがよさそうです。


『ハーバードビジネスレビュー 2008年11月号』
(ダイヤモンド社)


『T.レビット マーケティング論』
(セオドア・レビット著、有賀裕子訳、ダイヤモンド社)

投稿者 松尾 順 : 08:46 | コメント (3) | トラックバック

本場の味かローカライズか

居酒屋の「権八」(ごんぱち)といえば、
来日した米国ブッシュ大統領を小泉首相がもてなした
西麻布のお店が有名ですよね。

権八西麻布店での日米トップによる夕食会が開かれたのは、
2002年2月18日のことでした。


あれからもう6年以上経過したわけですが、
六本木に近いこともあり、権八西麻布店は外国人客が多く、
大いに繁盛しています。


さて、権八を運営する

「グローバルダイニング」

では、

「権八が、これだけ外国人に受けているなら・・・」

と考えて昨年(07年)3月、
権八ロサンゼルス店を開店しました。


ところが、期待に反して客足は低迷。

店長や売り場チーフの入れ替えを含む、
抜本的なてこ入れに乗り出したそうです。
(日経MJ、08/08/25)


客が入らなかった理由としては、

来日中の旅行客と、
現地の米国人では求めるものが違ったから

という判断を同社ではしています。

したがって今後は、
米国人好みの味付けや内容量に変更する予定とのこと。


各国の料理には、その国々の食文化や食習慣が
色濃く反映されていますよね。

ですから、旅行客は外国では

「異国情緒」

を文字通り味わいたので、

「本場の味」

を期待するもの。

この場合、本場の味をそれほどおいしく
感じなかったとしても、だからこそ外国に来た甲斐が
あったと思える。


しかし自国に戻り、普段の生活の中で
たまに外国料理を楽しむのは、異国情緒というよりも、
食生活に変化をつけるため。

やはり味付けは自分好みにしてあったほうが、
繰り返し来ようという気になりますし、
内容量も満足できるものであってほしい。


米国に行かれた方はおわかりになると思いますが、
現地のレストランの料理はレギュラーサイズでも、
日本人から見れば大盛り、いや特盛りサイズといえる
ほどのボリュームがありますよね。

日本食の上品でかわいらしい盛り付けは、
外国人、とくに米国人にはものたりないでしょう。


実はここ数年、
ヘルシーな日本食は全世界的なブームです。

しかし、外国にある日本料理レストランでは、
多くの場合、日本本場の味ではなく、現地の人々の嗜好に
合わせたローカライズが行われています。


食文化の点から批判も多い、
和食の無節操なローカライズの是非はさておき、
国や地域によって異なるターゲット顧客の好みを理解し、
微調整を図ることは、どんな業種・業態においても
不可欠なことですよね。


そういえば、先月7月10日、
アメリカで鉄板焼きレストラン、

「ベニハナ」(Benihana)

を成功させた青木廣彰氏(通称、ロッキー青木)が
亡くなっています。

彼の展開したベニハナは、
従来の日本の鉄板焼きから見れば
常識破りの内装やショー仕立てのサービスなど、
米国人好みのローカライズをしたのが成功の要因だと
言われていますね。

投稿者 松尾 順 : 16:16 | コメント (0) | トラックバック

価値は客が決めるもの・・・裏向きに写るテレビ

どん底のホームレス生活から成功を収めた

堀之内九一郎氏

のことはご存知でしょうか?


堀之内氏が設立したリサイクルショップチェーン、

「生活創庫」

は、他の古物商と異なり、
あらゆるガラクタをほとんど選別することなく、
一切合財引き取ります。

そして実際、

「こんなものが売れるはずがない」

と思えるようなものが、
生活創庫の店頭には並んでいます。
しかもちゃんと売れていく・・・


たとえば、

・ウイスキーの空き瓶・・・1個1000円
・薬用の小さい空き瓶・・・1個300円

(もちろん、どちらもきれいに洗浄済み)

どのような用途に使われるのでしょう・・・
にわかにはわかりませんね。

趣味のボトルシップ用かもしれません。


欠けたり、ひびが入っている瀬戸物の茶わんなども、
一山いくら(数十円)で売られています。

これは、細かく割ることで、
「タイル」のように用いることができます。

瀬戸物には様々な絵柄が入ってますから、
センスよく組み合わせれば、
なかなかおしゃれな装飾品に仕立てることができます。

こんな趣味のために、
実用にならなくなった食器を買う人が
全国にはたくさんいるのだそうです。


こうした話を聞くと、
モノの「価値」というのは結局のところ、
お客様が決めるのだということが実感として
わかりますよね。

逆に言えば、
様々なニーズを持つ顧客が「価値」を感じるような
工夫をすれば売れるということです。

堀之内氏は、自社の事業は「中古品の流通業」ではなく、
中古品に新たな価値を与える「付加価値業」であると
言っています。


10年前ほどに数万円で販売されていた石油ストーブ。

円柱の上に半球状のドームが乗った発熱部分があり、
その後ろに反射板がついている昔ながらのストーブです。

そのままでは古臭いだけのストーブでまず買う人はいません。

でも、鮮やかなパステルカラーに塗り直すだけで、
レトロでおしゃれなストーブに変身。

数千円程度の値付けで難なく売れます。


また、14型程度の中古テレビ。
回路をちょっといじって裏向きに写るようにする。

これは、理髪店が買っていきます。

鏡に写った状態では正常に見えるので、
散髪中の客向けサービスになるわけです。


まあ、実にいろんな付加価値の生み出し方が
あるものですね。


もちろん、まず、

「こうした簡単には拾えない潜在ニーズをどうやって発見するか」

が大事なのですけど!

投稿者 松尾 順 : 12:55 | コメント (0) | トラックバック

非効率を追求する!

ダントツ製品、すなわち
「突き抜けたオリジナリティ」を持つ製品づくりは、
当然ながら一朝一夕でできるものではないですよね・・・


ザ・リッツ・カールトン東京のスイートルームに
設置されるほどの圧倒的に魅力的な音を放つエムズシステムの

「波動スピーカー」

にしろ、一口食べただけで違いがわかる「男前豆腐店」の
豆腐にしろ、酒販店の店主に「今までで一番感動した」と
言わせた濃醇旨口の日本酒「十四代」にしろ、

「突き抜けたオリジナリティ」

を実現するためにとことん手間をかけています。


つまり、ダントツ商品の根底には「効率」とは真逆の

「非効率」

の追求があります。
(標準化可能なプロセスでの効率は追求するにしても)


人が面倒臭いと、あまり考えようとしないこと、
やろうとしないことをあえてやる。

手間を抜けば楽なところを
あえてとことんやりぬく。

こんな非効率なこだわりから、
自社製品のみがオンリーワンで存在する
独自のカテゴリーが生み出されるのだと思います。


もうひとつ具体例を紹介しましょう。

日本人の国民食である「お米」。

ありふれた食材ながら、

「全国 米・食味分析鑑定コンクール」

で4年連続最高得点、つまり
「日本一おいしい」と認められた米があります。

山形県高畠町、上和田有機米生産者組合の
遠藤五一さんがつくる「完全無農薬米」です。


稲作りで一番やっかいなのは雑草。
農薬を使えば楽に雑草が除去できます。

でも、遠藤さんは、人の体が蝕まれ、また
自然の生態系を破壊する農薬を使わない米作りに
取り組んできました。

田植え後の約3ヶ月もの間、
遠藤さんは毎日腰をかがめながら手作業で
雑草を取り除く日々だそうです。

しかし、これだけの手間と愛情を注ぐ

「遠藤さんの完全無農薬米」

は、一般に販売されているお米の4-5倍で飛ぶように売れる。

非効率を追求しているからこそ、
これだけの高い価値が生まれるわけですよね。


さて、こうした非効率を追求することによって
成功している企業事例が豊富に掲載されている本が
あります。

『非効率な会社がうまくいく理由』
(中島セイジ著、フォレスト出版)


同書には、無添加せっけんの「しゃぼん玉せっけん」や、
マルセイバターサンドの「六花亭」、イエローハットなど、
比較的よく知られてる事例も出てきますが、
私が特に「面白い」、というか「すごい」と思ったのが、
東京・江東区にある「丸山工務店」です。


例えば、建て替えをする場合、
施主は数ヶ月は仮住まいをしなければなりませんよね。

丸山工務店に頼むと、自社所有のマンションや住宅を
無料で提供してくれるのです。

維持費などを考えると、
多少とも賃貸費をいただいてもよさそうなものですが、

“施主に余分な出費を抑えていただき、
 その分をよりよい家づくりのために回してもらいたい”

という丸山社長の思いがあって無料にしているのだそうです。


また、住宅建築後のアフターケアは、
通常10年保証ですよね。

ところが、丸山工務店では、定期点検を始めた20年前から、
手がけた住宅すべてを欠かさず訪問し続けています。

毎年80棟ほど新築物件があるため、
年を重ねるほど大変になっていくわけですが、
現在は3日間かけて、約1,400件の家を訪問する
一大イベントとして実施しています。


丸山社長は当初、大変なことを始めてしまったと
後悔しました。

訪問するたびにあちこち不具合を訴えられる。
ところが、5年目を越えたあたりから、
ほとんどクレームが出なくなったそうです。

丸山社長はこんなことを語っています。

“大工をはじめ職人も一緒に行くので、不具合やクレームの
 ポイントがだんだん分かってくるんですね。これは、目先の
 利益計算をしていたら絶対に気づかないことですよ。
 手間をかけて初めて気づけることなんですね。”

なお、この定期点検、
ある意味格好の営業機会ともなっています。

年二回の定期点検を通じて、
リフォーム依頼や新築物件の紹介の受注が
得られることが多くなり、現在は年間受注の約半分が
定期点検をきっかけに生まれているのだそうです。


価格競争で生き残れるのは、
どの業界もせいぜい1-3社くらいです。

価格で勝負しないためには、
他の会社がやろうとしない非効率を追求して
ダントツ製品を作りだすしかないのでは?


『非効率な会社がうまくいく理由』
(中島セイジ著、フォレスト出版)

投稿者 松尾 順 : 12:38 | コメント (8) | トラックバック

ダントツ製品

「波動スピーカー」

というものがあるんですね。

他のスピーカーにはない、
素晴らしいサウンドを生み出す円筒形のスピーカー。

先日、ショールームで波動スピーカーの音を
体験してきた友人が、その感動をありありと伝えてくれました。


このスピーカーは、

ザ・リッツ・カールトン東京のスイートルーム36室全て

に設置されています。

ザ・リッツ・カールトン支社長の高野登さんをはじめ、
ザ・リッツ・カールトン東京の客室支配人のジェニーさん、
総支配人のリコ・ドゥブランクさんといった人々誰もが、
試聴した瞬間にそのスピーカーの音に魅了されたのです。

その結果、まだ無名のメーカーのスピーカーが
最高級ホテルのスイートルームの音響に採用されることに
なったというわけです。


「波動スピーカー」は、
従来のスピーカーの「常識」を完全に覆すものだそうです。

技術的なことは私にはよくわかりませんが、
従来のように2本は不要。

1本のスピーカーだけで、
リスナーは部屋のどこに居てもOK。
体全体が音で包み込まれるような感覚がある。

音楽療法にも採用されているそうです。

私も早速、波動スピーカーの試聴に行ってみようと
思っています。


さて、このような突き抜けたダントツの製品は、
もはや比較対象を持ちません。

「波動スピーカー」という新たな独自の商品カテゴリーを
創出することに成功しているわけです。

「波動スピーカー」という新カテゴリーの中に
存在しているのはこのスピーカーだけ。

すなわち「オンリーワン」

オンリーワンを生み出すというのは、
従来のカテゴリーを超え、新たなカテゴリーを作ることに
よって可能になるということなんですよね。


同様の事例は山ほどありますが、例えば、

「男前豆腐店」http://otokomae.jp/

の豆腐たち。


男前豆腐店と聞くと、

「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」「厚揚番長」

などのユニークな商品名や、
にぎやかなWebサイトを連想しますよね。


でも、そもそも同豆腐店の人気を支えているのは、
原材料にもこだわった、他の豆腐にない独特の味だ
ということは愛好者の方なら言うまでもないことでしょう。

社長の伊藤信吾氏は、次のように語っています。
(日経ビジネスアソシエ、2008.01.01)

“うちの豆腐は、今までと違う製法で、いかに豆乳濃度を濃く、
 大豆のうまみをきちっと抽出するかにポイントを絞っています。
 いろいろと商品の種類はありますが、基本的にはどの商品も、
 「濃い」「濃厚」という点で統一されています。”


星の数ほどある豆腐メーカーの中で、
後発の豆腐メーカーがオリジナリティを確立するには、
従来製品とは比較できない、突き抜けたダントツ製品を
開発するしかないと、伊藤社長は考えていたのです。


また、高木酒造の「十四代」。

今最も入手困難な日本酒のひとつである
「十四代」が目指した味は、従来の

「淡麗辛口」

ではなく、その対極にあるような

「濃醇旨口」

でした。
(日経ビジネス、2007年12月10日)

酒造りを手がけた高木顕統(あきつな)氏が、
「十四代」を持って東京の名だたる酒販店を直接訪ね、
味にうるさい店主に試飲してもらった時の感想がすごいです。

“今まで飲んだ酒で一番感動した。こういう酒を待っていたんだ”
“寒気がするほどうまい。おまえは天才だ”

高木氏は、

「自分が飲みたかった味にしただけ」

ということだそうですが、
ともあれ、結果的にはやはり比較対象を持たない、

「十四代」という新たな日本酒のカテゴリー

を生み出したと言えます。


熱烈な愛好者を獲得し、価格競争とも無縁でいるためには、

ダントツ=突き抜けたオリジナリティ

を持つ製品を開発するしかないということですよね。


*M's system(波動スピーカー開発企業)
http://www.mssystem.co.jp/top.html

投稿者 松尾 順 : 12:35 | コメント (2) | トラックバック

生の声マーケティング:ヒット商品のなぜ解き!・・・キリン・ザ・ゴールド

「キリンラガー」「一番搾り」

に続く3番目の定番商品としてキリンが17年ぶりに投入した

「キリン・ザ・ゴールド」(以下、「ゴールド」)。


「ゴールド」は、今年(07年)3月の発売当初こそ順調でしたが、
その後の売上の伸びは鈍く、8月に年間販売目標を800万ケース
から600万ケースへと下方修正。

現在もそこそこコンスタントに売れてはいるようですが、
関係者が期待したほどの売れ行きとはなっていません。


しかし、ゴールドの特性を考えると、
例えば、アサヒのスーパードライを打倒できるような
一般大衆向けの商品ではありません。

つまり、期待が過剰だったというのが現実でしょう。


ゴールドの特徴を簡単に挙げると次の3点です。

・苦味の少ないまろやかな味わい
・アルコール度数低め(4.5%)
・高級感と洗練さを感じさせる落ち着いたデザイン


こうした特徴に魅力を感じるのは、
ビールより焼酎系、カクテル系に流れがちな若年層
(特に女性)ですよね。

つまり、ビールをガブガブ飲む私のようなヘビーユーザー
ではなく、ライトユーザーが中心顧客層になる。

当然ながら、販売数量的には、
それほど大きく伸びるはずもない。

ですから、ゴールドの場合、
販売数量の極大化を狙うのではなく、従来のビールでは
苦味が強すぎたり、アルコール度数が高くて1缶(350ml)は
飲みきれないといった理由でビールを敬遠していた層を
がっちり掴むことのできる定番ビールとして育てられるべき
じゃないでしょうか。


さて、以上のようなことを考えるために役立つ、
ゴールドに対する消費者の生の声を教えてくれたのが、
先日発売されたばかりのこの本です。


『なぜ、キリン・ザ・ゴールドは求められるのか』
(喜山荘一編著、ドゥ・ハウス


同書では、ゴールドを飲用している消費者300人を対象とした
自由記述主体のアンケート調査によって、ゴールドに対する

「生の声」

が豊富に掲載されています。


こうした生の声を元に、

ヒット商品の「なぜ」
(なぜ売れているのか、求められるのか)

を読み解くのが、編著者の喜山氏の言う

「なぜ解き」。


興味のある方は、
ぜひこの本を読んでみてもらいたいのですが、
アンケートに回答した消費者は、
ゴールドの特徴やベネフィットをきっちり
理解・把握できているんですよね。


本来のターゲットに該当するユーザーには、

「ゴールド」がなぜ高く評価されるのか?

がよくわかります。

私も、ゴールドを久しぶりに飲んでみて、
確かにバランスの取れた本格派ビールだということ
を再認識しました。ただし、やはり物足りないので
常飲はしませんが。


やはり現状では、
ゴールドのターゲットイメージが拡散気味で、

「誰のためのビールか?」

が不明確になっているのが問題だと思いました。

この点を改善すれば、商品力は高いだけに、
定番ビールの一角を占めるブランドとして安定軌道に
乗れるんじゃないでしょうか?


(関連記事)

*キリン・ザ・ゴールドは定番化するか?

*(続編)キリン・ザ・ゴールドは定番化するか

*キリン・ザ・ゴールドの不発

*キリン・ザ・ゴールドの誤算

投稿者 松尾 順 : 12:48 | コメント (2) | トラックバック

購買代理店「ミスミ」のコア・コンピタンス修正

B2Bの通信販売事業の先駆者、

「ミスミ」

はご存知でしょうか?

*株式会社ミスミグループ本社


ミスミは、主にメーカー向けに、
中間財である各種部品をカタログを通じて販売する
営業マンのいない専門商社として急成長を果たしてきました。


この成長の鍵となったのが、

「マーケットアウト」や「購買代理店」

といった発想に基づく事業展開です。


「マーケットアウト」

は、自社が開発したいもの、開発可能なものを作るという

「プロダクトアウト」

と対極にある考え方です。


すなわち、「マーケットアウト」とは、
マーケット(市場=顧客)の声を聞き、
顧客が求めているものを部品メーカーに開発してもらい、
販売するという「御用聞き」に近いビジネスモデル。

単純に、既存の部品を仕入れて販売するだけ
ということはしていませんでした。

したがって、同社は「商社」ではありますが、
製品企画を自社で行い、生産を外部に委託する
ファブレス企業のはしりと言っても良いかもしれません。


また、

「購買代理店」

とは、

部品メーカーの代理として部品を売るという
「販売サイド」寄りの意識の強い

「販売代理店」

と異なり、「購買サイド」に立って、
部品の品揃えやサービスを充実させるという考え方。

すなわち、「マーケットアウト」を実践する企業のあり方を
端的に示しているのが「購買代理店」というコンセプトです。


これは、インターネット時代における、

「エージェントサービス」
(販売サイドではなく、利用者サイドの代理人として振舞うモデル)

を先取りしたものだったと言えます。


さて、ミスミは、ビジネスモデル自体も革新的でしたが、
組織づくり、組織運営においてもさまざまな先進的・実験的な
取り組みをしてきていますね。


いわゆる

「持たざる経営」

を標榜して、

IT部門を丸ごとアウトソース。コールセンターもアウトソース。
人事部門も廃止して、人事考課を外部のコンサルに依頼、
市場価値(マーケットバリュー)で社員を評価するという試みも
やってきました。

また、事業分別のチーム制を導入し、
毎年ゼロベースで各事業のリーダーを選び、
所属メンバーも再編成するということをやってきました。

つまり、変化に即応しやすい柔軟な組織づくりを目指したわけです。


ミスミが上記のような先進的な組織づくりに取り組んだのは
主に90年代前半のことでしたが、同社の事業自体は順調に発展し、
90年代前半の年商約200億円に対し、現在は同1100億円を
超えています。

現社長は、創業者の田口弘前社長から強く請われて引き受けた
経営コンサルタントとして著名な三枝匡氏です。


三枝氏は、2002年に代表取締役社長・CEOに就任後、
同社の行き過ぎた「持たざる経営」の修正を行ってきました。


まず、営業マンによる訪問セールスを導入。

コールセンター、配送センターなどのアウトソースの
見直しにも着手しています。

IT部門も社内体制を強化したばかり。


三枝氏は、こうした見直しについて次のように語っています。
(日経情報ストラテジー、December 2007)


“持たざる経営という発想の下に、間違えた施策も
 あったと思います。”

“うちにとって最大の営業部隊はコールセンターなんですけど、
 それを外注業者にやらせちゃうと、お客さんから怒られる、
 怒鳴られたりする痛みを感じるべき社員がそこにいません。”

“流通センターが1つは自前ですが、もう1つが建物丸ごと
 外注業者です。ではどちらが仕事の質が高いか、もう歴然と
 自社倉庫の方が高いんですよ。”

“ものづくりをしていない商社が、配送するとか、
 受注するとか、商社という業態における最も重要な機能を
 全部外に出しちゃって、いったい何をやるのと。
 ですから、 自社の倉庫や配送センターへの切り替えも
 今やっている最中です”

メーカー(販売者)と購入者をつなぐ「商社」である
ミスミが核とすべき強み、すなわち

「コア・コンピタンス」

についての見極めが不十分であったことを三枝氏は
率直に指摘していますね。

確かに、「購買代理店」を標榜し、
顧客密着型のビジネスモデルであったにもかかわらず、

「顧客接点」

の多くを外部に任せてしまったのは
不適切な戦略だったと言えます。


また、三枝氏は、

“コンピュータに関しても、外注任せで担当組織が
 あまりに弱くなっちゃって、IT(情報技術)活用に対して
 ミスミは完全に出遅れました。IT関係も組織を再構築して、
 今年の4月にはEC事業部を発足させました”

と述べています。


同社が、基幹情報システムを丸ごとアウトソースしたのは
93年のことでした。

当時は「インターネット以前」でしたし、
ITは同社のコアコンピタンスではないと考えたのも無理は
ありません。

しかしその後のネット革命の進展によって、
「IT」は、通販会社のミスミにとって極めて重要な

「コアコンピタンス」

であると考えざるを得なくなったのです。

コアコンピタンスも、
時代の変化に応じて変えなければならないと言うこと
でしょう。

投稿者 松尾 順 : 11:34 | コメント (0) | トラックバック

「業界基準」がユーザーを失望させている事実を認識せよ!

創刊号から愛読している有料メルマガ

『ビジネス知識源プレミアム』

の最新号(07/10/10)で読み流せないことが書いてありました。


同メルマガ作者の吉田繁治さんは、
先日5代目となるノートPCを買ったそうです。

散々迷った末に選んだのは、

東芝ダイナブック(RX1/T8A:07年秋・冬モデル)。

もちろんVista搭載、メインメモリは1.5ギガに増設。
もろもろ含んで出費は約30万円。


同機種選定の理由は、

(1)11時間もつ電池
(2)軽さ(1090g)
(3)薄さ(19.5mm)

でした。


実際に購入してみて、吉田さんは

「軽さ」と「薄さ」

には満足されているようです。

しかし、

「電池の持ち時間」(バッテリー駆動時間)

に問題がありました。


カタログ(広告)では、
同機種は「11時間駆動」とうたわれているにも関わらず、
フル充電後に電源プロパティを見ても、

「残り3時間30分(100%充電)」

としか出ないのだそうです。


変だと思った吉田さんは、購入したヨドバシカメラ梅田店を
通じてメーカーに問い合わせてもらったところ、

「規定の測定法で計ったもので、変ではないそうです」

という答えが返ってきました。


それにしても、

「11時間」と「3時間半」

ではあまりにも違いすぎですね。

吉田さんだけでなく、私もおかしいと思います。
また、同様のことを言ってきたお客さんが他にもいたようです。


「11時間駆動」が購入の決め手だったのに、
吉田さんはがっかりされています。

そして、東芝さんに対して、次のように訴えています。

“ダイナブックさん、ノートブックのイノベーターとして
 「他に先駆けて」カタログ・インフレーションを
 消すため頑張ってください。簡単なことです。”


おそらく、吉田さんは、6代目のノートPCとして
ダイナブックを再び選択する可能性はほとんどないでしょう。

しかも、吉田さん自身のメルマガや、
それを読んだ私がこうして記事に書いているように、
ネガティブな口コミを招く結果となっています。


さて、東芝さんからの回答にあった

「規定の測定法」

というのは、

「JEITAバッテリー動作時間測定法(Ver.1.0)」

のことです。


「JEITA」は、

(社)電子情報技術産業協会

という電子機器・電子部品の業界団体です。


この業界団体が定めた「業界標準の測定法」
に準拠したものですから、11時間駆動は、

「虚偽表示」

ではもちろんありません。


東芝さんとしては、

「当社は何も悪くありません」

と言いたいところでしょう。


しかし、「業界基準」に忠実に従うことで、
ユーザーの失望を招いてしまうケースがあること、
それが結果的に

「顧客流出」

につながるという事実は認識されているのでしょうか。


東芝さんに限りませんが、
企業は、もっと顧客に誠実に相対し、

「顧客の実感」

を大切にすべきでしょう。


蛇足ながら、現在私が使用しているノートPCは

「パナソニック・レッツノート」

です。購入したのは9カ月ほど前。

バッテリーの駆動時間(カタログ記載値)は、
フル充電で「7時間」ほどだったと記憶しています。

私は、バッテリーの寿命を延ばすため、
80%の充電しかしないエコノミーモードにしていて、
残り時間は「4時間強」と電源プロパティに表示されます。

まあ、このぐらいのズレなら許容範囲ですね。

しかし、同じ業界標準の測定法を採用しているのに、
メーカーによって測定値と実測値のズレが大きく異なる
のも変な話です。


また、レッツノートの前は、
ダイナブックの軽量・薄型初代機をずっと愛用していました。
(今でも自宅で現役です)

この機種は6年ほど前に鳴り物入りで登場したんですが、
当時から、最新機種とほぼ変わらぬ軽さと薄さを実現しており、
私も迷わず飛びついたのです。

過去1度も故障することもありませんでしたし、
信頼できるマシンではありました。

ただ、バッテリ-が持たないのがさすがにつらかった。
(せいぜい3時間程度・・・)


そこで、レッツノートに買い換えたというわけです。
(その時点では、まだダイナブックのバッテリー駆動時間は
 レッツノートには勝てませんでした)


さて、よく考えてみると、
吉田さんが購入したダイナブック最新機種の
バッテリー駆動時間の実測値は、
マシンの性能が違うとはいえ、
6年前の私のマシンとあまり変わらないわけです。


やはり、

「いったいどうなってるんだ?」

と、声を上げざるを得ませんね。

投稿者 松尾 順 : 10:53 | コメント (2) | トラックバック

10年商品を作る「BMR」(3)

「BMR」(Basic Marketing Relations)は、日本語では

「基盤マーケティングリレーション」

と銘打たれています。


この言葉には、

「マーケティングの押さえるべき要素とその関係」

をモデル化したという意味が含まれているそうです。


なお、

BMRの全体像 > http://www.dohouse.co.jp/word/bmr.html

をご覧になると、ITに強い方なら、
なんだか見覚えのある表現様式だなあと思われるでしょう。

というのも、このモデルの表記は、
データベースの設計法で利用される

「E-Rモデル」

の考え方を踏襲しているからです。
(E-R図の詳細に立ち入るのは、やめときますね)


さて、では、BMRを実際どのように活用するのか、
具体例も交えてご紹介してみましょう。
(詳細は末尾の本をご参照ください)


◆「製品領域」を発想(構想)する

製品(P)は、
どのようなウォンツ(W)を対象にし、
そのウォンツはどのような人(T)が、
どのような時・場面(O)に
抱くものか

をイメージしたものをBMRでは

「製品領域」

と呼び、「(T、O、W)-P」と表現します。

(注)
P:Product
W:Want
T:Target Consumer
O:Occasion


本では、次のような例が示されています。

-製品領域------------

T:働き盛りの30-40代のビジネスマンが、
O:夜、あまり食事を取らずに飲んで帰った時に
W:さっぱり気分を落ち着かせるものがほしい。

P:お茶漬け

---------------------


◆「製品コンセプト」を創出する

「製品領域」を発想することで、製品(P)のカテゴリー
(例示では「お茶漬け」)が決まったら、つぎに
その「製品コンセプト」を創出します。


製品コンセプトは、

どのような製品分野(P)で、
顧客に提供するベネフィット(B)は何であり、
それはどのような製品属性(A)で実現するか

を規定したものです。

「B、A、P」と表現します。


本には「お茶漬け」の製品領域に対応する具体例が
挙げてありませんので、私がひとつ示させてもらうと、
次のようなものがあるでしょうか。

-製品コンセプト------

B:脳天を直撃する刺激で爽快な食後感
A:原材料として、ハバネロをたっぷり配合
P:暴君ハバネロ茶漬け
 *東ハトさんとのコラボ?

---------------------


なお、上記の製品コンセプトを具体的に説明する際には、

「ハバネロをたっぷり入れること(属性:A)により、
 脳天を直撃する刺激が爽快な食後感(ベネフィット:B)を
 与える暴君ハバネロ茶漬け(製品:P)です」

という言い方をします。
 

もうひとつ別の例。
これは、「なぜ売れないのか」(稲垣佳伸著、日本経済新聞社)
に紹介されていたものです。


-製品領域------------

T:一人住まいの若者が
O:時間のない朝食時に
W:手っ取り早くスープを飲みたい

P:インスタントスープ

---------------------

-製品コンセプト------

B:3分で手早く飲める
A:ドライ・パッケージ&一人用小袋
P:インスタントスープ

---------------------

わかりやすいですよね?


「BMR」を利用すると、

ターゲット消費者の「ウォンツ」と製品の「ベネフィット」

を結びつける製品をきっちり構想することができる点が
おわかりでしょうか。


BMRを使い慣れるためには、さまざまな既存商品をネタに、
「BMR」に基づいて製品領域、および製品コンセプトを
記述するとしたらどうなるかなと実際やってみることを
オススメします。


今回でBMRのご紹介は終わりです。

蛇足ながら、BMRに基づいて構想された商品は、

「10年持つ」

ロングセラーになるというのが、BMRの

「ベネフィット」

ということなんでしょうね。


*「10年商品を作るBMR」
(山中正彦監修、ドゥ・ハウス編、ドゥ・ハウス)

*残念ながら、一般書店では入手できません。
 アマゾンの「e託」を利用して販売されています。

投稿者 松尾 順 : 11:55 | コメント (0) | トラックバック

10年商品を作る「BMR」(2)

「BMR」(Basic Marketing Relations)は、
新製品を発想し、開発を進めていく上で有用な切り口を
示してくれる優れたフレームワーク。

*製品単体だけでなく、新規事業全体にも応用可能です。


BMRの全体像はこちらで見ることができます。


この図を見ると、「消費者」と「製品」が左右にドンと
置かれていることがわかりますね。

この2つの要素がマーケティングの「主役」だからです。


さて、消費者の枠で重要なのは、次の3つの視点です。

(T) 特にどういう人達に対してか(Who→Target Consumer)
(O) どこで、いつ(Where、When→Occasion)
(W) 何を欲しているか(What→Wants)


一般消費者全体(General Consumer)の中から、
開発しようとしている製品のターゲットを明確化し、
彼らの製品を使用するシチュエーションや欲求を検討するという
ことです。


一方、製品の枠で重要なのは、次の2つの視点。

(B) 消費者になぜ購入してもらうのか(Why→Benefit)
(A) それをいかに具体化するかの製品属性(How→Attribute)

物理的な存在としての製品(Product)を発想する時、
ユーザーにとってどんな価値、便益を提供するかという視点と、
大きさや形状、重さ、機能、性能といった具体的な製品仕様と
して落とし込む視点の2つが必要だということですね。


そして、このBMRの全体像の中央では、消費者と製品が

(W)Wants:欲求と、(B)Benefit:便益

で結びつけられています。


これは、前回ご紹介したマーケティングの定義そのものです。

「消費者のウォンツと製品のベネフィットを結びつけること」


BMRの中心は、消費者のT、O、W、製品のB、Aですが、
これらと関連する要素がいくつかあります。

まず、消費者の行動に影響を与えるものとしての「環境」
(Environment)があります。

たとえば、景気後退期には購買意欲が減退しますよね。
あるいは、災害が頻発していると防災系製品に対する欲求が
高まったりします。

消費者に製品を届けるためには、「流通チャネル」
(Distributer)の整備や活用が欠かせません。

また、どんな製品を開発できるかには、企業の「研究開発」
(R&D:Research&Development)が大きくかかわっています。

そして、製品にはおおむね「競合」(Competitor)が
存在します。


では、改めてBMRの全要素を列記します。

-------------------------------------------

E(Environment):環境
G(General Consumer):生活者(一般消費者)
T(Target Consumer):ターゲット
O(Occasion):オケージョン
W(Wants):ウォンツ(欲求)
B(Benefit):ベネフィット(便益、価値)
A(Attribute):製品属性
P(Product):製品
R(R&D):技術(研究開発)
D(Distributor):流通チャネル
C(Competitor):競争企業

-------------------------------------------


BMRは、製品開発の企画や、調査企画の仮説立案などに
実際に利用してみると実感されると思いますが、
実に使いやすいツールなのです。

前回も申し上げましたが、検討すべき要素が
網羅されていますし、要素間の関係性が明示されているからです。


(注記)
上記BMRの解説には、私の解釈も若干入っています。
下記解説本の内容通りではない点、あらかじめご了承ください。


「10年商品を作るBMR」
(山中正彦監修、ドゥ・ハウス編、ドゥ・ハウス)

*残念ながら、一般書店では入手できません。
 アマゾンの「e託」を利用して販売されています。

投稿者 松尾 順 : 09:38 | コメント (3) | トラックバック

10年商品を作る「BMR」(1)

「BMR」とは、

Basic Marketing Relations

の略です。


「BMR」は、味の素に在籍されていた山中正彦氏
(現法政大学キャリアデザイン学部教授)によって生み出された
オリジナルな枠組み。

新製品を発想し、開発を進めていく上で有用な切り口を
示してくれる優れたフレームワークです。

私は、数年前に、「BMR」の存在をあるマーケティングの本で知りました。

以来、私は、商品開発だけでなく、マーケティング調査を行う際の
「仮説づくり」「設問出し」にも使える枠組みとして「BMR」を
活用させてもらってきてました。


実は、「BMR」の詳細はこれまで公表されていなかったのですが、
本日(07/05/14)、入門書が発刊されています。

「10年商品を作るBMR」
(山中正彦監修、ドゥ・ハウス編、ドゥ・ハウス)

*残念ながら、一般書店では入手できません。
 アマゾンの「e託」を利用して販売されています。

私は、上記本の出版に当たり、ゲラ原稿のレビューに
参加していたこともあり、完成版をいち早くいただきました。


そこで、本日から何回かに分けて、本書を元に、

「BMR」

のポイントをご紹介したいと思います。

まず、「BMR」の出発点となる

「マーケティング」

の定義ですが、次のとおりです。


「消費者のウォンツと製品のベネフィットを結びつけること」


ここで、‘ベネフィット’は製品の‘価値’のことですので、
言い換えると、

「消費者の欲求と製品価値を結びつける」

のがマーケティングであると言えます。


そして、「消費者の欲求」と「製品の価値」を

「どうやって結びつけるか」

についての切り口を提供しているのが

「BMR」(Basic Marketing Relations)

なんですね。


さて、新商品開発のためのプランニングに使える枠組み
としては、次のようなものがよく知られていますよね。

・3C(Customer、Company、Competitor)
・4P(Product、Price、Place、Promotion)
・5フォーシズ(詳細略)
・バリューチェーン(詳細略)

上記はどれも有効なツールではありますが、
商品開発に重要な要素が‘漏れなく’カバーされている
わけではありません。


その点、「BMR」は、
メーカーの商品開発現場で実践的に生み出された枠組みですので、
商品開発に欠かせない要素が網羅されています。

このため、主に消費者を対象とする商品評価のための
アンケート調査等における「仮説立案」や「設問出し」にも、
大変便利な枠組みにもなるわけです。


えーと、今回は前振りだけですいません。
次回からBMRの具体的な内容について解説します。


お楽しみに!

投稿者 松尾 順 : 13:46 | コメント (0) | トラックバック

「オフィスグリコ」・・・3年かけた仕組みづくり

私事で恐縮ですが、私の事務所に本心では置きたいが、
絶対に置かないことにしようと固く心に決めているのが、

「オフィスグリコ」(富山の置き薬的お菓子販売システム)

です。


というのも、私は、

「(酒を)飲むこと」「(なんにせよ)食べること」

については、抑制ができない性質(たち)なもので・・・(^^ゞ


もし本能の誘惑に負け、うっかり置いてしまったら、
お菓子箱1ケース分のお菓子(1ケースに24個入ってます)
を一人で数日中に食べ尽くしてしまうこと必至!

ですから、継続的ダイエット中の私としては、
以前2度ほどグリコさんの営業訪問を受けましたが、
ぐっとこらえて思いとどまったのです。


さて、私事はさておき、「オフィスグリコ」はすばらしい!

2007年3月末現在で、東京や大阪のオフィス8万5千箇所に
菓子箱を設置。単価100円の小銭商売ながら年商は

「26億円」

を達成してます。(日経情報ストラテジー、JUNE 2007)


しかも、全体ではまだ赤字ですが、
全国50箇所の販売拠点のうち、開設から3年以上を経過した
拠点の多くが、営業利益ベースでは黒字化を果たしています。


私がなにより「すばらしい」と思うのは、
事業の立ち上げ・展開に当たってじっくり腰をすえて
取り組んだという点です。

オフィスグリコの構想検討開始は97年頃でした。
そして、99年2月に大阪に第1号販売センターを設置。

その後、本格展開を開始したのは2002年の3月ですから、
実に3年間もの間、薄利商売で利益をだす「仕組みづくり」
に取り組んだのです。

さすが、1粒で300メートルのグリコです。実に粘り強い。

性急に結果を求めるあまり、有望な事業の芽をつぶして
しまいがちな昨今の企業とは違いますね。


さて、この3年間の仕組みづくりの中で、
オフィスグリコでは、多くのものを捨ててきました。
利益を確保するために。


たとえば、代金回収方法。

社員が自由に飲めるオフィスコーヒーシステムは、
企業の総務部門に対して一括請求することができます。
(福利厚生費扱いにできますし)

しかし、お菓子はそうもいかない。
企業から代金をまとめて回収することは困難でした。


そこで、野菜の無人路上販売方式を参考にして、
菓子箱についた貯金箱に、
ユーザー自身で代金を入れてもらうことにしました。

買い手の善意に頼るやり方ですね。

しかし、うっかり入れ忘れたり、ずるして払わない人も
いるのでしょう、回収率は95%だそうです。
(つまり、5%の売り上げロス、しかし意外に回収率は
 高いですね)

でも、確実に回収しようとするための手間が発生しません。

電気代がかかる自動販売機にする必要もなくなったため、
お菓子箱には、普通のプラスチックケースが使えて、
結果的に効率的でした。


また、「単品管理」も捨てました。

単品情報の入力の手間をかけていると
採算が合わないことがわかったからでした。


また、そもそも「単品管理」をする必要性も
低かったのです。

というのも、単品管理の主たる目的は、

売れ筋・死に筋

を把握して在庫の適正化を図ることですが、
お菓子は飽きられやすい商品であるため、単純に、
売れ筋・死に筋という判断はできないからです。


そこで、オフィスグリコでは年間52週分の商品配置計画を
作成し、3回の巡回訪問(商品補充と代金回収のため)で
すべての商品が入れ替わるようにしています。

ただ、単品管理をせず、在庫と販売の効率を最大化を
目指しつつ、商品を頻繁に入れ替えるという「方程式」を
解くのは相当の難題だったようです。

実際、この方程式を解くために発見した一定の「法則」に
ついては、特許申請も行っているそうです。

オフィスグリコでは、上記以外にも、
捨てるべきものはいさぎよくどんどん捨てていきました。


「この事業は一筋縄では行かない」

とわかっていたからこそ、同事業を担当された方々は
とことん頭を絞り、試行錯誤を通じて

「必勝パターン」

を生み出していったのでしょうね。


オフィスグリコのような地に足についた仕事のやり方が、
私は本当に大好きです。


でも、ごめんなさい、
オフィスグリコは、置きたいけれど置けないの。

体重があと10キロ減らせたら考えてもいいんですけど。(笑)

投稿者 松尾 順 : 02:10 | コメント (2) | トラックバック

マイヌードルカップの深慮遠謀

3月末に関東地方1都9県で新発売された
日清食品のカップヌードル詰め替えセットを購入してみました。


正式な商品名は、

「カップヌードル リフィル スターターパック」

です。


内訳は、

・プラスチック製のマイヌードルカップ
・カップヌードル リフィル(詰め替え用)
・シーフードヌードル リフィル(〃)

の3点セット。


アピールポイントは、

・マイヌードルカップは繰り返し洗って使える。
・リフィル(詰め替え)は、食べた後のゴミの量が4割減る。

だから、環境に優しい。

また、マイヌードルカップは二重構造になっていて、
商品名が印刷されたデザイン紙を好きなもの
(お気に入りの絵とか)に差し替えることが可能。

だから、自分だけのオリジナル「マイカップ」が楽しめる。


キャッチコピーは、

-楽しく食べてエコスタイル-

です。わかりやすいコンセプトですね。


スターターパックの販売価格は570円程度。

リフィルが1個100円強ですから、
プラスチック製マイヌードルカップは、300円強もするんですね。

ちょっと高いかなという印象を受けます。


でも、プラスチック製なのでしっかり持つことができます。
既存の発泡スチロール容器のようにふにゃふにゃしないため、
安心感があります。

既存のパッケージより一回り大きいので、
女性の小さい手ではやや持ちにくいかもしれません・・・


さて、この新商品、エコロジーの流れにうまく乗った商品では
あるのですが、表だって語られない深慮遠謀があるのは
マーケターの方なら、おわかりですよね。


そう、「マイカップ」を持つことによる

「ブランドロイヤルティ向上」

です。

これは、ベタに言えば、マイカップ保有者の場合、
一人当たりのカップヌードル消費量が増えるということです。

マイカップがあると、いつもカップヌードルを
思い出してしまって、すぐに食べたくなってしまうから。


また、マイヌードルカップに、別のメーカーのカップ麺、
「マルちゃん」とかを入れて食べる人は少ないでしょう。
(気分的な問題もありますが、ゴミの量が減らず、
 エコに寄与しないからです)

つまり、ブランドスイッチも防げる。

こうした商品は、爆発的に売れるものではありませんが、
ヘビーユーザーをさらにロイヤル顧客に育成していく
ひとつの手段として有効でしょう。

私もその一人・・・(苦笑)


ついでながら、上記の類似サービスとして、

「マイマグカップ」

を預かるサービスをスターバックスの井の頭公園店が
実施していますね。

顧客としては、マイカップを持ち歩く手間が省けるし、
容器持参者に適用される20円の割引も受けられる。

自分専用なので気分的にも安心ですし。


一方、スタバの深慮遠謀としては、顧客のマイマグカップは、
いわば「人質」(あまりいい表現ではないですね・・・)。

来店頻度が増えるでしょうし、他店への浮気も阻止できる。

スタバ井の頭店がこのサービスを開始したのは2003年でしたが、
口コミで広がり、現在の利用者は約300人だそうです。

投稿者 松尾 順 : 10:21 | コメント (0) | トラックバック

(続編)「キリン・ザ・ゴールド」は定番化するか?

今日は、「キリン・ザ・ゴールド」の続編です。


3月20日発売の「キリン・ザ・ゴールド」は、
キリンが出すビールカテゴリーアイテムとしては実に
17年ぶりの主力商品です。

*「キリン・ザ・ゴールド」ブランドサイト


すでに、発泡酒カテゴリーで、

「淡麗<生>」

をまた、第三のビールカテゴリーで、

「のどごし<生>」

という定番パワーブランドを育て上げることに成功したキリン。


「ゴールド」についても、じっくりと育てていく意向のようです。

そのためなのか、初年度の出荷目標は800万ケース。
かなり控えめな数字です。


では、発売後10日間の出荷実績はどうだったか。

年間目標の20%に当たる160万ケースでした。
好調な滑り出しですね・・・


そして、3月末(29-30日)には、
JMR生活総合研究所によるアンケート調査も行われていました。
(インターネットリサーチ、回収サンプル数:634件)

→2007年春のビール商戦 -ビール・発泡酒・第三のビール
 (JMR生活総合研究所)


この調査結果によると、

・ゴールドの認知率(「知っている」消費者の割合)は約63%。
・3ヶ月以内での自宅でのゴールド飲用経験は2割弱

です。発売早々としては悪くない数字と言えるでしょうか。


気になるのは「リピート意向」です。

上記調査によれば、ゴールドを飲んだ人のうち、
今後も飲みたいと回答した消費者は、62.8%でした。

60%台のリピート率のビールを見ると、

「サントリー・モルツ」(69.0%)
「サントリー・プレミアムモルツ」(68.4%)
「アサヒ・プライムタイム」(63.4%)
「サッポロ・黒ラベル」(63.2%)

などが並んでいます。
こうしてみると、新製品とはいえ(新製品なのに・・・)
ゴールドのリピート意向はあまり高いとは言えませんよね。


ちなみに、リピート率が高いビールは、
次のようなブランド。

「キリン・一番搾り」(81.2%)
「キリン・ラガー」(80.3%)
「アサヒ・スーパードライ」(75.7%)
「サッポロ・エビス」(74.4%)

これらは、固定ファンがしっかり支えているブランドであること
がうかがえますね。


さて、「ゴールドのリピート意向」に戻りますが、
やはり懸念した通り、「また買いたい」と思わせるだけの商品力
(端的には「味」)は持ち合わせていないように思います。


とすれば、ゴールドの成否は、マーケティングコミュニケーション
の展開次第ということになりますよね。

ご存知かと思いますが、ゴールドの広告のタレントには
「オダギリ・ジョー」を起用してます。

メインターゲットが20-30代ということも踏まえての選定。


肝心のコミュニケーションの内容としては、

「いつ、誰と、どんな状況で飲むのがGOODか」

という提案がどこまでできるかですよね。


そうそう、日経デザインの記事によれば、

「ボサノバに合うビール」

というイメージが、現在のパッケージデザインには
反映されているんでした。


うーん、どうですかねぇ・・・
ボサノバっぽいデザインには見えませんが。


あくまで個人的意見ですが、パッケージデザインについては、
やはりもっと力強いものにした方がいいんじゃないかと
感じるんですけど。

投稿者 松尾 順 : 07:49 | コメント (2) | トラックバック

「百年、幸福でした」

「百年、幸福でした」


サントリーの「赤玉ポートワイン」が誕生したのは1907年。

冒頭のコピーは、

「以来100年の間、皆様に愛されて幸せでした」

ということらしいんですが。


しかし、大変失礼ながら、ホームランバーと同様、
まだ販売していたんですね・・・

いったい、どこで買えるんでしょうか?


「幸福でした」といいつつ、本心としては、
POSデータ活用で、マイナー商品はさっさと店頭から排除する、
冷酷なコンビニやスーパー等からは見離されて寂しかったのでは?


しかし、「100周年」の節目ということで、
「赤玉ポートワイン」も復活ののろしを上げてます。

最近、なんだかノスタルジーですね。

→赤玉ポートワイン ブランドサイト


ちなみに、「サントリー」の社名の由来は、
このワインにあるのはご存知ですか?

赤玉=太陽、だから「サン」、「トリー」は、
創業者の「鳥井信次郎」の姓を組み合わせた造語。

サントリーの旧社名は「寿屋」でしたが、
63年「サントリービール」の発売に合わせて、
「サントリー」に変更しています。


サントリーのコールセンターには、

「サントリーの社名の由来を教えてください」

という問い合わせが、年に何本かあるそうです。

投稿者 松尾 順 : 06:58 | コメント (0) | トラックバック

ホームランバー 生涯現役宣言

「ホームランバー」

当たるともう一本もらえる!


懐かしさを感じるのは30代以上ですかね・・・


直方体のアイスに、そっけない銀紙を巻いただけのアイス
でしたが、安かったし、当たるし、結構おいしいし、
と3拍子揃ってました。

もうとっくに製造中止かと思ってたら、いまだ健在なんですね。
今年47歳です。


昨日気づいたのですが、プロ野球開幕に合わせたのか、
地下鉄内のポスター広告にホームランバーがスポーツ新聞風
で登場。その名も「メイトー新聞」。

『ホームランバー 生涯現役宣言』

というコピーが泣かせます。


通勤快足と同様、知名度は高いけれど、すっかり記憶のかなたに
追いやられたブランドの再生に取り組むことにしたんでしょうか。

そもそも、コンビニとかスーパーに置いてあれば、
もっと買うんですけど・・・(^_^;

まずは広告を先行させないと、お店は置いてくれないですけどね。

投稿者 松尾 順 : 10:29 | コメント (0) | トラックバック

通勤快足の原点回帰(2)

今年(07年)に発売20周年を迎える

「通勤快足」。


ターゲットの男性ビジネスパーソンにおける知名度は、
ほぼ100%でしょうね。

しかし、失われた時代と言われた1990年代以降、
競合他社製品や、安い製品の登場で長期低落傾向に陥りました。

売上で見ると、89年に年商45億円だったのが、
05年には同3億円という惨状です。


「通勤快足」は、誰でも知ってる超有名ブランドですから、
もっと売れているかと思いませんでしたか・・・?

(PCで「かいそく」と入力すると、ちゃんと「快足」と
 漢字変換されるほどスタンダードなんです!)


では、なぜ、こうなっちゃったのか?

をプロダクトコーン理論に基づいて
考えてみたいと思います。


念のため、プロダクトコーン理論を簡単に説明しておくと、
商品を次の3つの要素で定義するものです。

-------------------------------------------

・規格=企業側の商品定義(ハードな定義)
・ベネフィット=生活者の得するコト、モノ(ソフトな定義)
・エッセンス=商品が持つ性格(擬人化)

-------------------------------------------


では、「通勤快足」のプロダクトコーンです。
(松尾の独自の判断によるものです)

-------------------------------------------

・規格=抗菌・防臭効果のある靴下
・ベネフィット=(女性に)臭いと言われない
・エッセンス=男としての自信

-------------------------------------------


さて、プロダクトコーンに基づく、
マーケティングコミュニケーションは、

規格→ベネフィット→エッセンス

と進んでいくことが望ましいとされています。
(その理由は、末尾のマインドリーディング記事や、
 森行生さんの「シンプルマーケティング」をお読みください。)


「通勤快足」の場合、当初「抗菌・防臭効果」を謳って
大ヒットしました。

「規格」を訴求するという定石通りのアプローチで
成功したわけです。

さらに、きちんとデータや資料を振り返ったわけではないのですが、
通勤快足のベネフィットである、

「周囲の人(特に女性)に臭いと言われないですむ」

ということを訴えるコミュニケーションまでは、
行っていたように記憶しています。

つい最近、某調査で知ったんですが、男性にとっては、
「嫌い」と言われるよりも「臭い」と言われる方が
よりショックが大きいそうです。(実感としてわかります)


したがって、この「ベネフィット訴求」も、
「通勤快足」のヒットに大いに貢献したんでしょう。


問題は、この先にあったと思います。


通勤快足の持つ「エッセンス」、つまり、
通勤快足を履いていれば、

「男としての自信」が持てる

という点まで、訴求ポイントを移行することはしていなかった。


もし、うまくエッセンスを訴求できていたなら、

「できる男、自信にあふれた男は、みな通勤快足を履いている」
(それが常識・・・)

といったイメージを形成できたかもしれない。

これは、いわゆる高い顧客ロイヤルティを獲得できる「ブランド」
を確立することであり、価格の高さが、逆に高く評価されることに
つながったはずです。

そして、相応の売上げを維持できたかも知れません。


ところが、現実の戦略は、前回紹介したように、
足を温める効果のある「カプサイシン加工」などのような
新たな機能を毎年のように追加していった。

これは、エッセンスに進むのではなく、
むしろ規格に後戻りし、ベネフィットで足踏みしていることです。

規格やベネフィットは、他社もすぐに追随できることですから、
差異化は長続きしない。

その結果、長期低落傾向に歯止めをかけることができなかったと、
分析できるんじゃないでしょうか。


さて、20周年を迎えて、再び、

「抗菌・防臭効果」

という原点に立ち戻った通勤快足ですが、
この戦略は正しいと思います。

というのも、現時点では、「通勤快足」は知名度だけが高くて、
買う人が少ない、形骸化したブランドになっていたからです。

ですから、ゼロベースで「再生」するのがベスト。


ただし、今後、

[規格→ベネフィット→エッセンス]

の訴求の順番に沿ったコミュニケーションを着実に実行しないと、
再浮上は難しいかもしれません。


「シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番


◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 11:58 | コメント (0) | トラックバック

通勤快足の原点回帰(1)

足元から漂ってくる臭いニオイを抑えることのできる、
高い抗菌効果を持つ靴下は当初、

「フレッシュライフ」

という商品名で売り出された。

しかし、初年度こそ3億円を売り上げたものの、
翌年以降はあえなく失速。


そこで、

「通勤快足」

と軽妙な名称に変更したところ、CMの投入も奏功して大ヒット!


この超有名な事例を知らないマーケターはいませんよね。


さて、通勤快足は今年(07年)に発売20周年を迎えるそうです。
(日経産業新聞、2007/03/30)

記事によると、「通勤快足」と改称して再スタートを
切った87年の売り上げは、一気に13億円に到達。

89年には、45億円も売り切ってます。
当時は、予約券を配る売り場もあったとか。

「そうそう、こんな靴下欲しかったんだよね・・・」

それほどまでにも、お父さんたちの足のニオイの悩みは
大きかったということでしょうか。


しかし、その後は競合品の登場、低価格販売店の登場などで
「通勤快足」も苦戦を強いられます。

抗菌機能を維持しつつ、足を温める「カプサイシン加工」
などの機能を追加して差別化を図ったものの、
直近05年の売り上げは、わずか3億円にまで縮小しています。


そこで、通勤快足の開発・製造・販売元、レナウンインクスでは、
この20周年を機に、再び「原点回帰」を図ることにしました。

つまり、改めて当商品のわかりやすい特色である、

「抗菌防臭効果」

を前面に打ち出すことに。


ロゴマークも変更し、これまでは「通勤快足」だけだった
ものに、「抗菌防臭ソックス」とタグラインが追加されてます。
つまり、この靴下の持つ「機能」を明示したわけですね。

また、「吸水速乾機能」を持つ新製品もラインアップに追加。
もろもろ機能性を向上させてます。


このリニューアル製品は、今年2月頃から店頭に並んでますが、
百貨店の仕入れ担当者などからは、

「機能がわかりやすくなった」

と評価されています。


今のところ、出荷ベースでは前年実績15%アップ、
07年度の目標の20%アップは達成可能と見込んでいるそうです。


さて、この通勤快足の取り組み、私の導師、森行生さんの
「プロダクトコーン」をベースに考えてみましょう!


*プロダクトコーンについては下記記事参照のこと。

「シンプルマーケティング(8)プロダクトコーン理論

「シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番

「シンプルマーケティング(10)プロダクトコーン修正モデル

「シンプルマーケティング(11)「R25」のプロダクトコーン修正モデル」


おっと、よく見るとすでにずいぶん長くなってますので、
続きは明日にします!


この「通勤快足」のマーケティング事例ですが、
あなたならどう読み解きますか?

投稿者 松尾 順 : 22:25 | コメント (0) | トラックバック

ログ分析で売れる商品開発:カカクコムの事例

私が講師を務めているシナプス・マーケティング・カレッジの
「Webマーケティング」(全3回)は、先週土曜日に3回目が
終わったばかりです。

実は、前期までは全2回だったのですが、
今期から、「Webサイトの効果検証ノウハウ」を
お伝えする回を加えて全3回としました。


この3回目の講義では、

・アクセスログ分析
・ユーザビリティ調査
・顧客満足度調査

などのポイントを3時間でお話しています。

まあ、本来、上記それぞれの項目について各3時間くらい時間が
欲しいところです。でも、あまり講義内容を細分化してしまうと、
受講したい潜在受講者がどうしても減りますから、
開講できるだけの人数を集めるのが難しくなります。

悩ましいところです。


おっと、前振りはこのくらいにして、
商品開発にアクセスログ分析を活かした事例をご紹介します。
(日経情報ストラテジー、April 2007)

実は、こうした事例はなかなか表に出ることがありませんから
貴重ですよ。


薄型テレビの企画・開発を手がけるバイ・デザインは、
32型の薄型テレビ(商品名:dxk:32.com)300台を
カカクコムと共同で開発、ほとんど宣伝費をかけず、
カカクコムだけで売り出した結果、2週間で完売したそうです。


この商品を開発するに当たって、両社は、
カカクコムユーザーのサイト上の行動履歴と言える
「アクセスログ」を細かく分析しました。


カカクコムの場合、とりわけ有益なアクセスログが取れるのは、

「スペック検索」

のところ。

潜在顧客が、検索画面で、メーカー名、画面サイズ、機能
などの条件を指定して検索をかけた記録が残っていますから、
潜在顧客の求めているスペックが手に取るようにわかるんですね。


実際、分析をかけてみると、潜在顧客の8割が「画面サイズ」を
指定して検索していたことがわかりました。

こう聞くと、「なるほどやっぱりなあ」と思うかもしれませんが、
数字の裏づけが取れることに意義があります。


さて、潜在顧客は、「画面サイズ」をまず優先しますが、
画面サイズが大きくなると価格も高くなりますから、
「画面サイズ」と「価格」の適切なバランスを検討しているはず。

そこで、ログ分析でも、「画面サイズと価格の組み合わせ」を
深く見ていったところ、「高価格」か「低価格か」の2極分化の
傾向があることがわかったそうです。


こうした分析を経て、新商品、dxk:32.comのサイズは、
32インチ、値段は、11万4800円(税込み)と決定。

これを前提としてバイデザインでは商品設計を進めていきました。


実は、この商品には地上デジタル放送を受信できる
「デジタルチューナー」の搭載も検討していたそうですが、
今回は見送ったそうです。

というのも、スペック検索のログ分析の結果、
デジタルチューナーが必要だとした人の平均検索価格が
18万6266円に対し、指定しない人のそれは15万4894円。

この価格差3万円強は、潜在顧客がデジタルチューナーに
払ってもよいと考えている金額だといえます。

しかし、当時の製造コストを考慮すると、
3万円程度ではデジタルチューナーを搭載する分のコスト増を
吸収できないため、搭載しなかったというわけです。


また、カカクコムのようなオンライン販売では、
アクセスログからかなり正確な需要予測ができます。


上記製品の販売当時、

・バナー広告の平均クリック率は、0.4%程度
・販売ページで購入に至るコンバージョン率は、0.2%程度

だったため、新商品の告知のためにバナー広告を何回表示させるか
によって、最終的に売れる商品数が読めるというわけです。

実際、dxk:32.comはほぼ想定どおりの売れ行きを示したそうです。


アクセスログ分析は、ツールを使うと、基本的な分析結果は
クリックだけで簡単にできてしまうものです。

しかし、今回ご紹介したような分析は、結構手作業で
シコシコやらなければいけない部分が多かったんだろうなと
思います。


膨大なデータの山の中から宝を掘り出すには、
やはり、それなりに手間をかけないとだめだなんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 12:18 | コメント (0) | トラックバック

なかなか公表されない真のマーケティング成功事例

マーケティングの成功事例って、
「なるほどそうか!」と叫んじゃうような詳しい内容のものは、
実はなかなか公表されません。


まあ、極めて重要な企業秘密ですから。

企業の担当者も、サポートした広告会社や調査会社等の担当者
も、もしばらしたら大変なことになります。


でも、ちょっと古い話ではありますが、とても興味深い事例が
販促会議最新号(2007.3)の

「SPよもやま話」
(執筆者:大槻博氏、多摩大学名誉教授)

に掲載されてました。

今回は、その記事の中から「おいしいところ」をご紹介。


育児用粉ミルク(以下、「育粉」)のマーケティングの話です。

当時(おそらく数十年前)の「育粉」の業界シェアは、

A社 35%
B社 30%
Y社 20%


そして、大槻博氏は当時、
Y社のリサーチャー(市場調査課)でした。


さて、「育粉」は、母乳の代わりに、
あるいは同時に乳児に与えるものですよね。

つまり、今で言う「機能性食品」であり、
当時の広告代理店は、

「情緒型広告」ではなく「説得型広告」が有効

と説明していたそうです。


このため、

「強い子よい子(免疫要素添加)」

といったキャッチフレーズを使った新聞の全面広告が
主流となっていました。

もちろん、マーケターの議論の中心は、
こうしたコピーとしてどんなものが優れているかということ。


つまり、当時の「育粉」業界は、
マス広告主体のマーケティングが行われていたわけです。

業界下位のY社は、上位メーカーより広告予算も小さいため、
このままでは半永久的に上位に上がることはできないと、
皆あきらめムードだったそうです。


ところがある日、病産院を巡回訪問しているセールス担当者から、
次のような情報がもたらされました

「赤ん坊の母親が退院後に採用する育粉の銘柄は、どうやら
 入院していたその病院が使用していた銘柄と同じらしい」


Y社市場調査課ではこの情報を検証すべく、
早速、母親たちを対象とした調査を実施。

すると、病産院で利用していた銘柄を退院後も利用していた
母親は、実質9割に達していたということがわかりました。
(9割のうち、1割は勘違いで別の銘柄を使用していた)


Y社ではこの結果を受け、それまで広告費用の60%を占めていた
マス広告を6分の1まで大幅削減。その分浮いた原資数十億円を
すべて、病産院向けのプロモーションに振り替えました。


大槻氏によれば、ここまではマーケティングにおける

「戦略決定」(戦略転換)

の話です。


次に現場での「販促戦術」ですが、

まず、病院で利用される育粉をY社に切り替えてもらうための
活動です。大病院は困難なので、中小病院に戦力を集中して
大きな成果を上げました。


次に、母親たちに対して、

「この病院ではY社の粉ミルクを使っています」

というメッセージを伝えるため、

上記の文言を刷り込んだ哺乳瓶を病院に大量に無料配布。


また、それまでは普通の白衣を着ただけだった
調乳指導の販促員の胸にY社のマークをつけるよう指示しました。


これら一連の取り組みの結果、18ヵ月後の成果は、

シェア:20%から30%へと10%アップ
売り上げ:1.5倍増

と大成功を収めます。


この事例では、

ターゲットを母親ではなく、病産院に切り替える

という「マーケティング戦略」が的を得ていた
ということになりますよね。
(現在の医薬品・健康関連のマーケティングでは、
 すでに常套手段ではありますが)


当時、マス広告費用を大幅削減することにためらっていた
Y社営業トップに対して、大槻氏らは次のように説得
したそうです。

「赤ん坊のいる世帯は全戸のうちのわずか1%です。
 新聞広告枚数の99%は、育粉を使ってくれる可能性が
 まったくゼロの、無関係な人たちに配布されています。
 これは、ドブ川に金を捨ているようなものです。」


さて、「SPよもやま話」の最後に、大槻氏は、

“この話は、マーケティングを感性中心に説くのは
 誤りであり、主として論理を大切にしなければ
 ならないと教える際の好い事例とされている”

と書かれていますが、これは違うと私は思います。


感性中心に説いた結果が、
「マス広告への依存」になったという意味だと思いますが、
感性というよりは、他社横並び意識や惰性でマス広告を
打っていただけじゃなんでしょうか。


また、論理を大切にすること以前に、そもそも
消費者が特定の銘柄(ブランド)を選好するプロセスやきっかけ、
つまりは「消費者心理・消費者行動」を十分に理解できて
いなかったことが問題だったのではないでしょうか。


消費者心理・行動がちゃんと把握できれば、
おのずと利用すべきメディア・ツール、
発信すべきメッセージについては、
論理的に導き出さされる部分が多いと思います。

投稿者 松尾 順 : 12:38 | コメント (3) | トラックバック

情緒価値重視の製品開発:花王のケーススタディ

優れた製品開発力に基づく高い機能性と品質が強みの「花王」は、
日用品メーカーの中ではダントツの競争力を有し、
24期にわたって増益を続けてきました。
(増益記録は、2006年3月期で途切れましたが)


ただ、消費者から高い信頼を得てはいるものの、
「花王」というブランドには野暮ったいイメージが
つきまとってますよね。面白みがないというか。

このため、イメージが重要な化粧品事業(ソフィーナ)では、
十分な成功を収めることができていません。
(だからこそ、「カネボウ」の化粧品事業を手に入れたかった)


しかし、近年の消費者心理の変化を
花王さんも見逃していたわけではありません。

今の消費者は、毎日の暮らしに密着した「実用品」にさえ、
美しさや心地よさ、楽しさといった感性を刺激する要素を
求めるようになってます。

花王さんでも、数年前から、
社長自ら「情緒性」が重要だと強調してきてました。


この花王の新たな方向性が、
現場レベルで実を結んできたようです。
(日経ビジネス、2007年1月8日号)


たとえば、2006年11月に発売されたハンディタイプのモップ、
クイックルワイパーハンディ」。

従来の商品は、清潔感を出すためにパッケージは緑色。
白いシートをモップの柄にかぶせて使うやり方でした。

しかし、新商品のパッケージは鮮やかなピンク。
モップ部分はオレンジ、猫じゃらしのような
ふわふわした形。見た目がかわいらしく、
思わずなでてみたくなります。


モップ部分をふわふわにしたのは、
その方が、ごみをからめとりやすくなるという「機能性」
の高さもありました。

しかし、それ以上に重視したのは楽しいイメージを
かもし出すこと。

使ってると楽しい、掃除が楽しくなる、
そんな情緒的価値を付加することを狙いました。


このため、おそらく性能の向上とはあまり関係のない

「理想のふわふわ感」

を出すために100回以上も試作しています。


ハンディタイプのモップ市場は、
これまでユニ・チャームのほぼ独壇場だったそうですが、
この新商品投入後、花王のシェアは、最初の1週間で
ユニ・チャームを抜いたようです。
(もちろん、製品自体の魅力だけでなく、
花王の流通力の強さも忘れちゃいけませんが)


日用品メーカーの雄、花王も、
これまでの花王の勝ちパターンとなっていた
「常識の返上」「発想の逆転」に本腰を入れていることが
わかりますね。


ちなみに、製品の価値は、
次の4つの階層で構成されるという考え方があります。
(ピラミッドをイメージすると、
 最下層が「基本価値」、最上層が「観念価値」です。)

・基本価値
 当該製品が有する基本的な品質や機能

・便益価値
 当該製品の使用や消費によって得られる便益

・感覚価値
 当該製品を使用・消費するに当たっての感覚的な楽しさ、
 形態的な魅力

・観念価値
 製品コンセプトそのものが生み出す価値


花王さんの場合、従来の企業文化に根付いた製品開発戦略は、
基本価値と便益価値に最大の力を注ぐものだったんでしょうね。

しかし、近年は、「感覚価値」(=情緒価値)の創造に
より大きな力を入れているというわけです。

投稿者 松尾 順 : 10:56 | コメント (0) | トラックバック

10円まんじゅうのマーケティング戦略

これから全国にお店が増えそうなのが

「10円まんじゅう」

かもしれません・・・

日本人なら、ドーナツもいいけど、やはり「まんじゅう」。


さて、千葉・市川に本社を構える「ジャパンフードシステム」が
運営する

‘蒸したてまんじゅう 「和ふ庵」’

は、現在、東京・千葉に16店舗ほど展開しています。


1個10円で買える1口サイズのまんじゅう、実にお手軽ですね。

私は、松戸店で10個セット(110円)を試してみましたが、
一瞬で食べてしまいました。(笑)


たかが1個10円じゃ、とても儲かりそうにないように思えます。

しかし、実は大違い。


「和ふ庵」では、20個、30個セットを主体に販売しています。
(10個セットは、小さく目立たないように表示してあって、
 注文するのに気が引けます。いちおう、1個からも買える
 らしいのですが)

その結果、客単価は600円程度、一人当たり60個も買っていく。
おみやげや、子供のおやつなどにちょうどいいからでしょうか。
(安いわりにボリューム感ありますし・・・)


1店舗の1日当たりの来店客数は400人以上。
つまり、まんじゅうは1日2万個以上売れるんですね。

売り上げベースでは、日商20-30万円、月商700万円くらい。

一方、店舗の平均面積は15坪、一般的なコンビニの半分くらい
の大きさです。

コンビニの日商はおおむね40-60万円ですから、
10円まんじゅう店は、コンビニ並みの販売効率を持っています。


このあたりの「売れる仕組み」は、
100円ショップのダイソーと同じですね。

単価を安く見せることで、実質的な客単価を引き上げる。
全体としては、しっかり売り上げ・利益を確保する。


10円まんじゅう恐るべし。
味も結構うまいが、マーケティング戦略はもっとうまい。

投稿者 松尾 順 : 11:40 | コメント (3) | トラックバック

新型プレステ(PS3)は、キャズム(断層)を超えられない?

ソニーが昨日(19日)、今期の業績下方修正を発表しました。

例のパソコン用リチウム電池のトラブルや、
来月発売される新型プレイステーション(PS3)の戦略変更
(値下げ)が影響しているようですが、
発売中プレイステーションポータブル(PSP)の
このところの販売不振も見逃すことはできませんね。
(日経産業新聞、20006/10/20)


PSP不振の理由は、魅力あるソフトが揃わなかったこと。

PSPのソフトで100万本超を売り上げるミリオンセラーが1本も
出ていないのに対して、任天堂の「ニンテンドーDS」は、

「脳を鍛える大人のDSトレーニング」

を始めとして、10本がミリオンセラーを達成しています。


11月発売のPS3はPSPとの連携ができ、
過去のPSのソフトがPSPでも遊べるようになるそうですので、
ソニーでは、これまでの劣勢も挽回できるだろうと期待している
そうです。


しかし現実には、そもそも「PS3」がヒットする可能性自体が
かなり低いかも知れません。


大前研一氏も指摘しているように、

「ソニーのゲーム機は突き抜けすぎてしまった」

ためです。

つまり、技術志向が行き過ぎて
ゲーム機としては品質過剰、機能過剰なのです。


このため、PS3を購入するのは、いわゆる

「イノベーター層」

に限定されてしまい、アーリーアダプターにさえ
受け入れられないかも知れないわけです。

当然、大ヒットにつながる「フォロワー」への波及も
ありません。

すなわち、PS3はイノベーター、アーリーアダプターと、
フォロワーとの間にある大きな断層、すなわち

「キャズム」

を超えることはできず、結果として
深刻な業績不振を招く可能性が非常に高いように思います。


ゲームが好きな方に聞いてみましょう。

あなたは、

ゲームを楽しみたいのですか?

それとも、

高機能なゲーム機を持ちたいのですか?

どちらがより重要ですか?


エレキ屋らしく、とことん技術を追求するソニーと
花札から始まった元祖エンタテイメント屋の任天堂の
「ゲーム機戦略」の違いは、昔からかなり明確でしたね。

これまでは勝ったり負けたりのいい勝負をしてきました。


でも、今度のPS3の発売は、どちらの戦略が正しいのか、
はっきりとした決着がつくことになる契機になるかも
しれません・・・


ソニー内には友人が多いので、
こうしたことを書くのは気が引けましたが・・・(^_^;


実際、ソニー関係の人たちはどう感じているのかなあ?

投稿者 松尾 順 : 17:57 | コメント (3) | トラックバック

ウィスパーに、羽根の生えた日

きちんとスーツを着た成人男性が、
ダイエーのような量販店やスーパー、ドラッグストアの
生理用品売り場をうろうろする。

私は若い頃、こんな毎日を送る時期がありました。


「なるほど、あんたは昔は(も)変態だったんだな」

と思わないでくださいね。(笑)

市場調査の調査員として、店頭在庫を調べていたんです。

もちろん、普通は女性しか立ち入らない売り場に入るのは、
とても居心地が悪いものでしたし、
むさくるしい男がうろうろしているのは、買物に来た女性に
とってもいやなものだったでしょう。

おかげで、生理用品の名称や売れ行きには大変詳しくなりました。
もちろん、自分で使用したことはありませんが、
こうして生理用品の話も堂々とできる免疫がついてしまいました。


さて、当時、生理用品市場で高いシェアを誇っていたのがP&Gの

「ウィスパー」

でした。「ドライメッシュシート」だとか、「羽根つき」だとか、
革新的な技術はみなウィスパーが先んじたものだそうです。


「ウィスパー」の日本導入は1986年です。
ウィスパーの初代ブランドマネージャーだった和田浩子氏の本、

「すべては消費者のために P&Gのマーケティングで学んだこと」
(和田浩子著、トランスワールドジャパン)

では、同ブランド立ち上げの経緯が詳しく紹介されています。

この本は、ブランドづくりの赤裸々な現場の様子がよくわかって
とても面白いですよ。


和田氏によれば、
当初設定されたウィスパーのポジショニングは、

「ズレない」

ことでした。

競合他社は、「モレない」ことを謳っていたので、
異なるポジショニングで勝負する必要があったのです。

ところが、テスト結果はさんざんでした。
消費者の購買意欲を喚起できなかったのです。

つまり、このポジショニングは誤りだったわけです。


そこで、ウィスパーのグローバルなポジショニングである、

・クリーナー(より優れた清潔感)
・ドライヤー(より優れたドライ感)
・フィーリング・オブ・プロテクション(安心感)

を見直しました。
日本導入に当たっては、このグローバルポジショニングを
避けていたからです。

また、消費者ニーズを調べると、生理用ナプキンに一番
求められているものは「モレない」ことでした。
一方「ドライ感」は10位程度。特別強いニーズではありません。

しかし、消費者のウィスパーに対する評価を確認し直すと、
「ドライ感」はほかの項目よりも断トツの評価を得ていたのです。

つまり、データは、最初からウィスパーの「ドライ感」に
驚いたという消費者の感想を示していたのに、
消費者のニーズとしてはそれほど重要ではないと判断されていた
ので、ポジショニングを決定する際に見落としていたのです。


こうしたことから、和田氏は、

「ドライ感」に対して消費者に潜在的なニーズがあっても、
これまで問題点を解決した製品を見たことがなかったために、
最初からあきらめていた。だから、
消費者ニーズとして上位に上がってこなかった。

という知見を得ました。

そして、新しく

「ドライでクリーンなプロテクション」

というポジショニングでマーケティングを展開し、
成功を収めたそうです。


以前から何度か書いていますが、このケースもまた、
消費者調査結果から有効な知見を得ることの難しさを
教えてくれる開発秘話ですよね。


なお、和田氏はウィスパーに限らず、
ブランドを育成するためには、担当のチームは男女のバランスが
取れていて、外国人もいた方がベストと考えています。

女性のことを理解しにくい男性や、日本の文化を把握していない
外国人がチームに加わることで、目線が変わり、潜在的にある
需要や、突拍子もないアイディアが生まれるからです。

なるほど。


「ズレない」「モレない」

といったことは私にはさっぱりわかりませんが、
そんな男性でも別の視点から女性用品を考えることができる
という点で役に立つんですね!

投稿者 松尾 順 : 09:26 | コメント (3) | トラックバック

マーケットドライビング戦略~アジエンス、ツバキ、ラックス

シャンプーカテゴリーでこれまで圧倒的なブランド力で
トップシェアを維持してきたユニリーバの「LUX(ラックス)」。

7月に新しく投入した「スーパーダメージリペア」シリーズは、
従来のブランド戦略とは全く異なっていることにお気づきですよね。

同シリーズは、モデルとして初めて東洋人の富永愛を起用し、
黒髪、ストレートロングヘアを強調したコミュニケーションを採用。

これは、従来のハリウッドスターを起用して、
ゴージャスで輝くブロンドの髪を「憧れ」として演出してきたのとは
180度の戦略転換と言えるほどです。
(従来の路線は「スーパーリッチシャイン」シリーズで
 維持されてはいますが)


なぜ、ラックスはこのような戦略を取らざるを得なかったのか。


「黒髪」でピンとくる方が多いでしょう。

まず、花王のアジエンスの登場(2003年)が発端です。

アジエンスでは、中国人の人気女優、チャン・ツィイーを起用、
「アジアンビューティ」というコンセプトを打ち出しました。
キャッチコピーでは、

“アジアンビューティ それは、世界の新しい美の基準”

と言い切っています。

そして、ラックスが選ばれる理由となっていた従来の美の基準
「金髪」を「黒髪」にシフトすることに成功しました。


さらに、今年3月には、資生堂が「TSUBAKI」を投入。

「TSUBAKI」は、

“日本の女性は美しい”

と日本女性を賞賛しつつ、人気タレントを同時に起用することで、
黒髪をベースとしつつも、多様な髪型やカラーリングでも、
美しさが際立つことを強調しています。

この結果、「TSUBAKI」は、あっという間にラックス、アジエンスを
抜いてカテゴリートップになりました。


花王、そして資生堂が取ったブランド戦略は、
ヘアケアカテゴリーの価値基準・評価基準をずらすことが
狙いでした。

これは、競争のルール自体を変えてしまうことであり、
専門的には「マーケット・ドライビング戦略」と呼びます。

これまで王者ラックスが作ったルールの枠組みの中で
戦ってきていたのを止め、自ら新たなルールを生み出し、
古いルールを書き換えることに成功したわけですね。


このため現時点では、
ラックスは、花王、資生堂の作り出したルールの枠組みで
戦うことを余儀なくされた。

富永愛の起用と黒髪、ストレートロングヘアの強調は
同じ土俵で勝負するためのやむを得ない選択だったのです。


なぜなら、新しいルールの下では、ハリウッドスター、
ブロンドの髪は、逆にマイナス評価になってしまうから。

これまでは高い価値を持っていたブランド資産が、
新ルールの下では「負債化」してしまったんですね。


ただ、今のところ、ラックスの「スーパーダメージリペア」
の売れ行きははかばかしくないようです。

果たして、ラックスの巻き返しはうまくいくのか、
ブランド戦略の生々しい事例として今後の展開も興味深いものが
ありますね。


*マーケット・ドライビング戦略については、
 下記書籍を参照ください。

「マーケティング戦略論」
(ドーン・イアコブッチ編著、ダイヤモンド社)

投稿者 松尾 順 : 14:43 | コメント (0) | トラックバック

戦う前から負けている

今日は、ちょっと日本のPCメーカーに苦言を呈します。
(一部外資メーカーも含まれますが・・・)


昨年くらいからでしょうか、パソコンの通信販売を
新聞の全15段広告で行うPCメーカーが増えてきましたよね。


その中でも、一番目立つのが「デルコンピュータ」でしょう。
日経新聞や日経産業新聞に、週1くらいの頻度で出稿している
んじゃないでしょうか。
(私は、一般紙は読んでいないのですが、朝日、読売、毎日
 あたりにも出してるんでしょうか?)

全15段となると、1回の出稿費は数百万円以上になりますが、
とても出稿費を上回る売上・利益を確保できるだけの台数、
売れるとは思えません。

おそらく、収益を上げるだけじゃなくて、認知度向上という目的
も同時に追ってるんでしょうね。


そして、デルコンピュータの広告攻勢に刺激されたのか、
日本の大手PCメーカー、および外資のPCメーカー、
そして独立系の格安PCメーカーなども負けじと全15段広告を
打ってきていますね。

しかし、広告の内容を見る限り、
デルコンピュータ以外のPCメーカーは
戦う前から負けているように感じます。

逆に言うと、勝つ気があるのか疑問ということです。


デルコンピュータと他のメーカーの広告で決定的に違う点
があるのですが、それは何かおわかりですか。


それは、メインメモリの容量です。

デルコンピュータでは、デスクトップ、ノートPCとも、
標準で「512M」の製品を掲載しています。

一方、他のメーカーの大半の機種は、標準「256M」です。


パソコンにはあまり詳しくなくても、
PCを選ぶ上で最も重要な比較ポイントであり、
知っておいた方がいいのは、このメインメモリーの容量です。


Windows XP、そしてオフィスソフトを快適に動かすには、
ミニマムでメモリーは「512M」じゃないとつらいというのが
真実。

理想を言えば「1G」ですけど、通常の業務なら512Mで十分。
しかし、「256M」だと、メールチェックくらいなら
まあなんとかOKだけれど、ワードやエクセルを使った業務と
なると動作がのろく、ストレスいっぱいになります。
(私のノートPCが256Mなんです。
 メインじゃないからこれで我慢してますが)


このことをPCメーカーならわかっているはずですが、
デル・コンピュータと価格帯を合わせるためでしょうか、
また少しでも安く見せるためでしょうか、標準256Mの
機種を掲載している会社がほとんどです。


これは、PCの全くの素人ならだませるかも知れません。
でも、いくら素人でも、機種を比較検討するときには、
詳しい人の意見は聞きますよね。

おそらく、詳しい人は、

「メモリー256Mは非力だから、メモリー増設した方がいい」

とアドバイスしてくれるでしょう。


そこで、デルコンピュータの広告を見ると、
標準512Mなので広告記載の価格で買えます。

わかりやすい。

ところが、他のメーカーは、広告記載の価格に、
メモリー増設分の費用を上乗せしないと実際の購入価格が
見えません。

わかりにくい。

見込み客は、結局どちらを選ぶ確率が高いでしょうか?

まるで、他のメーカーは、
最初からデルコンピュータに負け戦を挑んでいるように
感じてしまいます。


デルコンピュータの圧倒的なコストパフォーマンスに
対抗するのは一筋縄ではいかないのはわかりますが、
もっと広告を出す前に勝てる「戦略」を立案しないと、
広告費が無駄じゃないでしょうか。


デルコンピュータは私も事務所で使ってますし、
いい製品を出してることは認めざるを得ませんが、
日本のメーカーにも、ぜひもっとがんばって欲しいですよね。

投稿者 松尾 順 : 13:45 | コメント (2) | トラックバック

時計業界における「見える次元」と「見えない次元」の競争

最近、腕時計してますか?

私は、事務所にいる時は壁時計があるし、
腕に付けているとわずらわしく感じるので普段は外しています。

しかし最近は、出かけるときでさえ、
腕時計を事務所に置いたままにすることが多くなりました。

時間の確認ならケータイで十分だからです。


どうやら、私と同じように考える人が多くなっているようです。

腕時計を単に時間を知るためと割り切っている人には、
もはや「不要」なのかもしれません。

実際、ケータイの普及が最大の原因とは断言できませんが、
世界のウオッチ(腕時計など、携帯を目的とする時計)の
生産数量は、2005年には減少(前年比7%減)してるんですね。

さらに、機種別でみると面白いことがわかります。

「クオーツ」(水晶振動式)のデジタル時計の減少度合いが、
前年比19%減と大きいのです。

次いで、クオーツアナログ時計もわずかながら減少。
(前年比5%減)

一方、精度の高いクオーツに一時期駆逐されかけた「機械式」
が、前年比11%増と巻き返し傾向にあります。


さて、日本は、名だたる時計の生産国ですよね。

日本製の時計の世界シェアは、数量ベースでは約6割を
おさえています。ところが、
販売金額ベースのシェアは1割台に過ぎません。


これは、日本の時計メーカーが、
大量生産によるコストダウンが可能で、
販売価格の安いクオーツ時計に強みを発揮してきたこと、

逆に、

日本の時計メーカーは、職人芸的でデザイン性が高く、
高額な「高級時計」には、弱いことを意味しているわけです。
(もちろん、高級時計で強いのはスイス。
 販売金額ベースで7割のシェアを持っています。)


そして今、正確無比で安い時計の市場は縮小し、
ファッション性の高い高級腕時計の市場が拡大しつつある。

要するに、時計の分野では、
「見える次元」での競争は限界に到達してしまったわけです。

「精度」(実時間との誤差の発生度合い)といった、
時計の「良し悪し」がわかりやすい性能の軸では、
電波時計のように、誤差=0の時計が登場してますから。


このため、現代の消費者は、

デザイン性やファッション性、ブランドイメージ

をより重視して腕時計を選ぶようになってきました。

しかも、ケータイのおかげで、極論、精度はあまり高くなくても
良くなった。


日本のメーカーが得意な「見える次元」での競争はもはや終結し、
デザイン性などの、良し悪しを一概に決めることのできない
「見えない次元」への競争へと戦場が移ってしまったんですね。


さて、時計業界のこの象徴的的な現象は、他の様々な産業分野でも
起こりつつあるわけですが、では、企業がこうした環境変化に
生き残っていくために重要なことはなんでしょうか?

コンセプト的に言い切ればこうなります。


「プロダクティビティ」(生産性)

から

「クリエイティビティ」(創造性)

へと舵を切れ!

投稿者 松尾 順 : 12:04 | コメント (0) | トラックバック

資生堂のメガブランド戦略:ブランドではなく意味を多様化せよ

マキアージュの初年度の年間マーケティング予算はおよそ40億円。
また、ツバキのそれは50億円だと言われています。

さすが、メガブランドにふさわしい超大型予算。
ただ、そのかなりの部分がタレント契約料に費やされてますよね。


ご存知かとは思いますが、いちおう、
2つのブランドの起用タレントを並べてみましょう。

<マキアージュ(メーキャップ化粧品)>
伊東美咲、蛯原友里、栗山千明、篠原涼子

<ツバキ(ヘアケア分野)>
仲間由紀恵、田中麗奈、上原多香子、広末涼子、観月ありさ、
竹内結子

一つのブランドの顔として、これだけの大物タレントを同時期に
起用するのは他に類を見ません!


ちなみに、ターゲットが性別、幅広い年代にわたる場合、
例えば、通信教育の「ユーキャン」のように、
あらゆる性別・年代をカバーする各種講座を提供している
企業では、いくつかの主要ターゲット・セグメントを意識した
複数タレントを起用していますね。
(現在は、織田裕二、小西真奈美、野際陽子の3人)


しかし、マキアージュやツバキのメインターゲットは
「20-30代の女性」というかなり限定的なセグメント。

多人数のタレントを同時起用する意義はなんでしょうか?


マキアージュの場合、上記ターゲットセグメントに属する
1760万人ユーザーの60%、すなわち、約1千万人をカバーすること
を目標にしています。

限定的な市場セグメントとはいえ、巨大なマス市場。
その過半数をおさえてしまおうとしているわけです。

リーダー企業としてふさわしい王者の戦略ですね。


ただ、やはり資生堂として気がかりだったのは

「消費者ニーズ・嗜好の多様化」

への対応でしょう。

多数のブランドを統廃合して、
いくつかのメガブランドに絞り込んだ場合、

・もしそのブランドが最初からこけたら?
・導入はうまくいっても、そのブランドの陳腐化が進んだら?

というリスクもまた大きくなりますね。


そもそも、以前の「多ブランド化戦略」は、
様々な消費者ニーズに基づく市場細分化を行い、
それぞれに適合していると考えられたブランドを投入することで、
失敗するリスクを低減する狙いがあったはずです。

ただ、前日に書いたように、そもそも予算が分散化したために
各ブランドを十分に育てることができないというジレンマに
陥ってしまい、ことごとく失敗したわけですが。


一方、メガブランド戦略は、
競馬で言えば本命の馬だけに全部のお金をつぎこむようなもの。
当たれば大きいが、外せば損失も莫大。


そこで、資生堂が考えたのが、ブランドの意味(解釈)を
多様化させることだったんだろうと考えています。

ブランディングの定石では、
特定のタレント(普通は1人、せいぜい2人まで)を起用して、
ブランド連想を強化しようとします。

花王のアジエンスがそうでした。

「アジアン・ビューティ」のコンセプトをひっさげて登場した
チャン・ ツィイーの一連の広告の印象は強烈でしたよね。

しかし、資生堂のマーケティング担当の方も指摘されてましたが、
チャン・ ツィイーのイメージがあまりに強かったために、
最近はそろそろ旬を過ぎた感があります。陳腐化が始まりつつある。

そこで、おそらく資生堂では、
マキアージュ、ツバキ、そして52人のお笑いタレントを起用した
ウーノ(男性化粧品)でも、

あえてたくさんのタレントとの連想を同時多発的に形成することによって、
「意味の多様化」を図ったと言えるんじゃないでしょうか。


20-30代の女性というターゲットセグメント。こんなデモグラフィックな
属性で本来は人くくりにはできません。

例えば、同じ28歳の女性でも、ライフスタイルも価値観も様々なはず。
共感するタレントもずいぶん違う。

そんな多様性を持つ現代女性に対しては、異なるタレントを同時に起用して


どうぞお好きなタレントをお選びください!
あなたの好きな解釈で、ブランドを意味づけてください!

という「意味の多様化」がベストのアプローチになるんだと思います。


余談ですが、「ツバキ」のポジショニングについて。

ユニリーバの「ラックス」は、ハリウッド女優を起用することで
「輝くブロンドの髪」を打ち出していますね。

これに対して、花王の「アジエンス」は、
アジア女性の「つややかな黒髪」の魅力を強調することによって、
ラックスのもつブロンドのイメージを「負債化」することに
成功しました。

さらに、「ツバキ」は、日本人女性の髪の美しさ」を強調する
ことで、ポジションをずらしています。

特に大きな違いは、アジエンスにおける「アジアンビューティ」では、
黒髪は黒髪でもストレートヘア。しかし、「ツバキ」の場合は、
ウェーブのかかったボリューム感のあるヘアをイメージさせています。
(これは、日本の女性は、ストレートよりもちょっとウェーブの
 かかったヘアスタイルをより好むという調査結果から導かれた
 ポジショニングのようです)


さて、「ツバキ」では、アイススケート金メダリスト
荒川静香さんを含む6人の女性タレントを新たに起用して
第3弾のブランディングを展開中。

ブランドは絞り込んで、意味(解釈)を多様化する
ブランディング手法はこれからも続けられるようです。

投稿者 松尾 順 : 14:03 | コメント (4) | トラックバック

機能性と使い勝手

製品ができること、つまり「機能」が増えると、それだけ便利
になりますけど、同時に、操作が複雑になって使い勝手が悪く
なりますよね。

ケータイはその典型的な例でしょう。
実際、私が持ってる多機能携帯、操作を覚えるのが大変で
ほとんど使いこなせてません(⌒o⌒;

正直、こんなに機能がなくても間に合ってるので、
もっとシンプルな機種でいいと思っているんですが。

かといってシニア向けに発売されている電話機能だけのケータイ
では逆に機能が不足します。

つまり、今は、機能が多すぎるか、少なすぎるかの両極端の機種
しかなく、私のニーズぴったりくるものはなかなかありません。
困ったものです。


さて、「機能性」と「使い勝手」についての消費者心理がわかる
面白い調査結果があります。
(ダイヤモンド ハーバードビジネスレビュー June 2006、
 ‘便利で不愉快な機能過多を排す’より)

上記記事によると、3つの調査をやってるんですが、
ポイントだけ書くと次のようになります。
(この記事では、機能と性能がほぼ同じ意味で使われています)

・購入前の消費者は、機能が多くなると使いにくくなると
 わかっていても、使い勝手より「機能(性能)」を重視する

・自分で製品をカスタマイズできる場合、使い慣れるのが大変
 だとわかっていても、たくさんの「機能」を盛りこもうとする

・実際に製品を利用しだすと、消費者は、機能より「使い勝手」
 を重視するようになる!


要するに、私たちが体感的にわかっていることですけど、

買う時は、あれやこれや機能が多いほうがよさげに見えるけれど、
買った後では、やっぱりシンプルで使いやすいものが良かったな
と後悔する。

この普遍的な消費者心理を見事に実証してくれてるわけです。


となると、企業の製品やサービス開発担当者は
どうしたらいいんでしょうね?

購入に踏み切らせるためには、多機能がよさそうだ、
しかし、実際の利用満足度は多機能がゆえに低下する。
これはリピート率の低下につながるだろう。

1回売り切りの商品ならさておき、継続的に購入してもらおうと
するとジレンマに陥りますよね。


私も、これだという「答え」は今のところ持っていません。

ぜひ、ブログのコメント欄にあなたの考えを!

投稿者 松尾 順 : 11:19 | コメント (4) | トラックバック

フリスク vs ミンティア

「フリスク」(カネボウフーズ)というと、
あの「ニヤリ」とさせるTVコマーシャルを思い出しますよね。

フリスクを口に入れたとたん、うるさく飛び回っていた蚊を
一発でやっつけたり、念力でどうしても曲がらなかったスプーン
の替わりに、自分のメガネの柄がグニャリと曲がっていたり・・・

息をさわやかに保つ錠剤状として、
「フリスク」のブランドはしっかり確立してますよね。

TVコマーシャルのトーンを見ればわかるようにターゲットは
ビジネスパーソン。30―40歳代の男性がユーザーの6割を
占めています。

一方、「ミンティア」(アサヒフードアンドヘルスケア)は、
どうでしょうか、ビジネスパーソンの方々にとっては、
ブランドイメージはかなり薄いんじゃないでしょうか。

実際、当初ミンティアは、
フリスクと同じターゲットを狙って投入された後発商品
でしたが、やはりフリスクには勝てなかったそうです。


しかし、現在、ミンティアの売上げはフリスクを追い抜き、
その差を広げています。(日経MJ、2006/06/05、日経POS
情報サービスのデータの分析に基づいています)

この「ミンティア」の逆転劇は2005年に起きたんですが、
成功要因は、ターゲットを若年層にずらしたことにありました。

2005年、アサヒフードアンドヘルスケア(以下アサヒフード)
は、「ミンティアガール」を結成し、若者向けに徹底した
プロモーションを展開、フリスクがカバーできていなかった
若年層の取り込みに成功したというわけです。

「ミンティアガール」の結成は、昨年の販促会議の記事で
掲載されていたのを覚えています。
(実物を拝んだことはありません(⌒o⌒;)

ミンティアガールとは、まあずいぶんベタなプロモーションだな
と感じたものですが、ちゃんと成果につながったんですね。


それにしても、疑問を感じるのは、当初、ミンティアは、
すでに強力なブランドだったフリスクと同じ市場を狙った点です。

後発商品は、よほど、先発商品を上回る優れた特徴がない限り、
先発商品とは異なるターゲット、市場を狙うべきですよね。

ポジショニング分析とかやったら、競合製品のない空白地帯に
向けた商品の開発、またコミュニケーション戦略を立案する
というのが一応定石のはずですが。

ただ、現実には、「柳の下のどじょう商品」はあちこちに
氾濫しているところを見ると、
空白地帯を狙うのは定石ではないようです。


まあ、実はメーカーの内部事情を覗いてみると、
営業サイドからは、

「あのヒットしている商品みたいな(売れる)ものを作ってくれ」

とプレッシャーがかかるし、

上層部からは、

「この新商品が売れる確証を見せろ」(前例はあるのか?)

と言われている可能性が高いですよね。


となると、ヒット商品のマネをするのが無難なわけです。
(勝てなくてもそこそこ売れますから)

ミンティアの場合、内部事情が上記のようなものだったのかは
わかりませんが、ともあれ、一度失敗したおかげで、
思い切ったマーケティング戦略の転換ができたわけです。

マーケティングも、現実の企業内では
そうそう教科書どおりには実行できないものなんですよね・・

投稿者 松尾 順 : 18:21 | コメント (5) | トラックバック

消費財メーカーのロングテール

「大好きだったあのお菓子、
 なんでもうどこに行っても手に入らないの?」

こう叫んで悲嘆にくれたことありませんか・・・


流通小売業における「IT化進展」の最大の功罪のひとつは、
市場に出回る新商品数を大幅に促進させたことにありますね。

商品アイテム(単品)レベルでどの位売れているか
即座に把握できるPOSシステムのおかげで、
売れ筋、死に筋がすぐにわかってしまう。

鳴り物入りで登場した、あるいは社運をかけた新商品でさえ
最初の1-2週間の売れ行きが悪いと即座に棚から撤去。

売れ残った在庫はディスカウントストアなどに流され、
最後は生産中止に追い込まれます。


大金かけて消費者調査を行い、
頭を絞って商品コンセプトを生み出し、
必死の形相で各部署を駆けずり回って段取りをつけ、
ようやく上市できたと思ったらあっという間に生産中止。

それでも、売上げを維持するためには、
次々と新商品を投入し続けなければならない。

振り返ってみれば、育たなかった新商品の死屍累々。

こんな悲惨な経験を味わされている消費財メーカー各社の
マーケターの皆さんの思いはいかほどでしょう・・・


これってどうにかならないものでしょうか。


消費者としては、いろいろと目新しい商品が出てくるのは
うれしいことではありますよね。

ただ、大半があっというまに消え、定番として残る商品は
数えるほど。自分は好きだったあの商品も総売り上げが
良くなければ、二度と手に入れることができなくなります。

しかも、冷静に考えてみれば、
生まれてすぐに消されてしまったかわいそうな新商品の数々の
ために投下された費用は、生き残った商品の価格にも
反映されているのです。

つまり、ITの進展によって引き起こされた過剰な
新商品ラッシュは、消費者にとっては割高な価格という
結果になっているわけです。


でも良い方法がありました。
やはり「インターネット活用」です。

田坂広志さんの「事物の螺旋的発展」に照らして考えれば、
作ったものを自ら消費者に売る「豆腐屋さん」的商売への
「復古」とネット活用の「革新」の組み合わせといえる
でしょうか。

要するに、消費財メーカー自らネット通販に
もっと力を入れればいいんです。

消費財はおおむね単価が安く、
配送コストが割高になるという問題があります。

ですが、いわゆる「ロングテール」の考え方からいけば、
今よりも多くの新商品が一定以上の売上げを確保し、
生き残ることができるようになるかもしれない。

あるいは、逆にまずネットで一定の固定客を確保しておいてから、
リアルな店舗に流すという、従来とは逆のやりかたを取れば、
無駄死にする新商品を減らせる可能性がありますよね。


「江崎グリコ」さんも、最近、ネット販売を強化し、
最寄の店で手に入らなくなった商品を消費者が直接メーカーから
購入することができる仕組みを充実させました。

取り扱い商品数も、従来の2倍の150種類に増やす計画です。

同社が毎年出す新商品は200点前後で、これまでは
やはり大半が消え行く運命にありました。


しかし、これからは、こうした新商品をネットチャネルを
通じて販売することで、消費財メーカーの商品開発の
あり方も大きく変わっていくかもしれません・・・

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

黒みそラーメン

「黒みそ」というのがあるんですね。

「赤みそ」は知ってたけれど、「黒みそ」があるなんて
知らなかった。

で、「黒みそラーメン」というのを昨日初めて食べてみました。
東大赤門の近くにあるラーメン屋です。
店に行ったのも初めてでした。

食事をした時間は午後3時過ぎ。
カウンター10席ほどの店ながら、ほぼ満席でした。

値段同じで麺大盛り可、しかも、
ご飯もサービスで付いてくるので、特に学生には魅力でしょうね。

私が食べている間も次々とお客さんが来たので
けっこう人気の店なんだと思います。


「黒みそラーメン」

が出てきました。

うっ・・・

見た目はどす黒い泥水の中に麺が沈んでいるイメージ。
真っ黒ではなく、やや灰色が混じったあまり食欲をそそらない
カラーリング。

思い切って食べてみました。(笑)
ふむ、味は悪くない。でもちょっと油が強いかな。


ところで、「黒みそ」というのは、
竹炭を混ぜ込んで煮込んでから熟成させたみそのことだそうです。

竹炭の特徴は、店内にあったカードによると、

・優れた吸着力体内の解毒・成長をし、体調を整えると言われています。
・不足しがちなカルシウムなど、必須ミネラルの補給源になると言われています
・マイナスイオンを供給し、活性酸素をできにくくすると言われています

というわけで、今はやりのデトックス(解毒)対応の大変健康的なラーメン
というわけですね。

私はあまり味がスキではなかったので、たぶん今後行かないと思いますが。(^-^)


それはそうと「黒みそ」のルーツはどこなんでしょうか。
ご存知の方、教えてください!!

投稿者 松尾 順 : 11:43 | コメント (0) | トラックバック

卵と油抜きのマヨネーズ

マヨネーズは何で出来てるかご存知ですよね。
学校の家庭科の時間に確か習ったかな・・・

メインの材料は、卵(卵黄)とサラダ油です。


でも、卵と油を使わないマヨネーズがあったらどうします?
というか、信じられますか?

正確に言うと「マヨネーズ風」ですが、
先月発売された、

「リケン ノンオイル(マヨネーズタイプ)」

は、卵も油も使っていないので、
脂質、コレステロールがゼロの画期的なマヨネーズタイプ
調味料。カロリーは通常のマヨネーズの八分の一です。

この商品、最初は「油抜きのマヨネーズ」を作ろうとしていて、
いっそのこと「卵」も抜いてしまえということで
出来た商品だそうです。

この商品、病気などの理由でマヨネーズを食べられなかった人、
またダイエット中の方などに歓迎されそうですね。


しかし、最近こうした「もどき商品」が、
ますます増えているんじゃないでしょうか。

第三のビール(ビール風アルコール飲料)も考えたらそうです。
原材料が、「エンドウ豆」とか「大豆」ですから。

また、私も好きでよく行く低価格ステーキ屋「ペッパーランチ」
のステーキは一枚もののじゃなくて、何枚かの肉を圧着させた
成型肉です。同店では、「やわらか加工」と称しています。
(ちょっと誤魔化してますね・・・)


それから、ずいぶん前からありますが、
喫茶店などでコーヒーと一緒に出される「ポーションミルク」は
植物油脂が主原料です。
いわゆる本物のミルク(牛乳)はほとんど入ってません。


カラダの中に入る食物のことですから、
食品メーカーとしては、原材料や製法には
十分な注意を払っているはず。(とある程度は信じたい・・・)

ただ、同時に使われることの多い「食品添加物」については
結構大丈夫かなと心配になりますよね。

食品業界の内部事情を赤裸々にしたこんな本も出版されてますし。

・食品の裏側-みんな大好きな食品添加物(安部司著、東洋経済新報社)


「もどき商品」を十把一絡げに非難するつもりはありませんが、
メーカーさんには十分な情報公開をお願いしたいところです。


今の消費者が持ってる情報・知識量と口コミネットワーク力には
もはや勝てません。

公明正大、包み隠さずぜんぶ公開してしまうという覚悟で
お願いします。

投稿者 松尾 順 : 13:05 | コメント (0) | トラックバック

地球儀の未来

小さい頃、ライトが内蔵されている地球儀が実家にありました。
たしか、訪問販売の人にうまく言いくるめられて買ったものです。

暗いところでライトをつけると、
ポッと地球儀全体が白く浮かび上がる機能です。
結構値が張ったんじゃないかと思います。

しかし、あまり勉強に役立てた記憶はありません。
親には申し訳ないことをしました。(笑)


少子化が進む今、子供向け学習教材としての「地球儀」市場に
未来はないですよね。
地球儀=学習教材という固定観念にこだわっている限りは・・・

しかし、地球儀をさまざまな意味に言い換えてみると
様々な未来の可能性が開けてきます。

・立体の地図(これが基本ですかね)
・地球の地理を学ぶもの
・飾るもの
・遊ぶもの
・丸いもの
・ぐるぐる回せるもの
・地球という星について知るもの
・中が空洞になっているもの
・世界の国がかかれたもの
・世界の海が描かれたもの

などなど・・・

こうした、言葉の言い換え、意味の拡張は発想法のトレーニング
のひとつです。(以前もご紹介しましたね)


さて、地球儀の製造・販売メーカーの「渡辺教具製作所」の方が
上記のような発想法をやったかどうかはわかりませんが、
同社では、これまでの地球儀らしくない新商品を
次々と生み出しています。

地球という「星」の立体地図を作っているのなら、
他の星のものも作れば面白いよねということでしょうか、

・月球儀(アポロ宇宙船の着陸地を記載してあります)
・火星儀

を日本では初めて製作。
火星儀は、2003年の火星の大接近の際には大ヒットしたそうです。


あるいはインテリアとしての地球儀を追求して「夜の地球儀」
を開発。これは単にライトが内蔵してあるだけではなくて、
海の部分は真っ暗、都市の部分だけが光を放つようになって
います。その幻想的な雰囲気が、インテリアとして受けている
ようです。

また、「緑の地球儀」は、飢餓、エネルギー問題、武力紛争
などが起きている地域を地球儀に記載。
地理だけでなく、国際問題を学ぶことができます。

他にも、国境のない地球儀や、海の深さが記された地球儀
なども開発しています。

渡辺教具製作所は、こうし新たな地球儀を開発することによって、
市場が縮小する中、売り上げを伸ばしているのです。

これは、私からの同社への提案ですが、
ゴム製の地球儀バスケットボールとかどうでしょうね。
地球儀サッカーボールでもいいのですが。(笑)

遊びと学びの一石二鳥の教材になると思うんですが。

えーと、このアイディアは平凡ですよね。(⌒o⌒;

でも、モノゴトについての固定観念、先入観をなくし、
既存の思考の枠からいったん外にでると
新商品のネタはいくらでもころがっていると思いませんか。

*渡辺教具製作所については、日経ビジネス(2006年1月9日号)
の記事を元にしました。

投稿者 松尾 順 : 10:03 | コメント (2) | トラックバック

何となくアマダナ

家電品の正式名称は「家庭電化製品」。
なんか正式名称って古臭いイメージありますね・・・

家電品は、要するに「電力」を使って家庭生活を便利にする
機械ですが、もちろんまず重要なのは、機能や使い勝手です。

でも、実際には機能や使い勝手で大きな差が出せないので
価格の安さで勝負しているのが現状。

ただ、市場で売れる価格、つまり「マーケットプライス」
(市場競争価格)で利益が出ることを前提に設計を行うと、
どうしても平凡な商品になりますね。

量販店の家電品コーナーを回ってもあまり楽しくないのは、
どれも似たようなものが並んでいるせいでしょう。


さて、

「美しいカデンを世の中に出す」

をコンセプトとする新しい家電品ブランド

「amadama(アマダナ)」

はご存知でしょうか。

ディスカウントストアでは2-3千円で買える
オーブントースターは、アマダナ製になると1万5千円。

熱を出す家電品ではご法度の天然木を使った取っ手が
特長的な家具のようなデザイン。

インナーイヤー型のヘッドホンは、本体のところに
天然の竹を使っています。使い込むと本体があめ色に
なじんでくるんでしょうか。1万2千円です。

LOHASに代表されるナチュラル志向のおしゃれな生活に
しっくりなじむアマダナブランドは、じわじわと人気を
広げているようです。


先週書いた「大衆化に逆戻りする消費者行動」では、
機能、性能などで差がよくわからないから、
他人の意見や行動に「右にならえ」してしまうトレンドを
指摘しました。

しかし、アマダナのような「美しさ」を
売りにするブランドの場合、
他人の意見や行動はあまり重要ではありません。

「美しい」と感じるかどうか、は各自の主観的評価。
美しさを測る尺度はあまり明確でないだけに、

「私がいいと思ったらいい」
「好きだから好き」

といった根拠なき理由を押し通すことができます。

したがって、実用面ではほとんど価値のない、
製品の「美的要素」ににおいて、自分らしさを表現する余地が
残されているアマダナのようなブランドこそが、
これからの市場を引っ張っていく存在になるように思います。
(アップルの製品もまた、その典型的・古典的例で、
いまさら引き合いに出すのははばかられますが)


ところで、「アマダナ」は、2003年に設立された家電メーカー、
「リアルフリート」社の基幹ブランドですが、
同社内で交わされる、アマダナを展開するに当たってのキーワード
が面白いのです。

それは、

「何となくアマダナ」


客に「何となく買ってしまった」と言わせたい。
商品の魅力が明確にわからないようにして「何となく」
のオーラを出す。

ブランド選択時に、
頭で考えてロジカルな比較検討を行うのではなく、
無意識にわかってしまう、
感覚的・情緒的価値を高めようとしているのが
「アマダナ」なんですね。

投稿者 松尾 順 : 12:16 | コメント (4)

大衆化に逆戻りする消費者行動

日経MJの最新の消費者調査の分析結果では、
消費者を次の4つのタイプにセグメントしています。
(カッコ内は構成比)

・先端自称層(31.1%)
 情報収集に積極的。消費活動はライフスタイルやブランドにも
 自覚的。消費金額が比較的高い

・勝ち馬乗り層(31.3%)
 消費では自身のライフスタイルより流行やトレンドに反応。
 流行を追い、消費自体を楽しむ。消費金額は高め

・こだわり層(23.0%)
 流行には左右されず自分の価値観に合ったモノ・コトだけに
 お金を使う。消費金額は平均的

・無関心層(14.6%)
 こだわりがなく、流行やトレンド情報にうとい
 買い物に対してめんどう感が強く、消費金額も低い。
 価格重視

世の中の流行を追う「先端自称層」と「勝ち馬乗り層」の合計で、
全体の60%を超えている点が注目すべき点でしょう。


消費者の商品購入に対する態度の違いによるセグメントとしては、
60年代に提唱されたロジャースの「イノベーター理論」と
いうものがありますが、上記「先端自称層」と「勝ち馬乗り層」
に相当するセグメントは、

・イノベーター(2.5%)
・オピニオンリーダー(13.5%)
・アーリーマジョリティ(34%)

で合計50%となります。
(実際には、「イノベーター」は、流行の源となる人たちで、
流行を追う人々ではありません。したがって、厳密には
「先端自称層」「勝ち馬乗り層」とは異なると考えるべき
でしょうけど)

日経MJのセグメントと単純比較するのは安易かもしれませんが、
イノベーター理論が提唱された数十年前よりも、近年は流行に
どんどん乗っていこうとする人々が増加しているということが
明確になったと言えるんじゃないでしょうか。


この流行に乗る人たちの増加の背景には、ITの普及によって
情報の入手が容易になり、多様な商品の比較検討が可能に
なったこと、

しかし、

比較検討の評価方法(軸)が、機能や性能といった目に見える、
わかりやすいものではなく、イメージやデザインのような、
良し悪しが即座に判断できない、わかりにくいものになっている
こと

があるでしょう。

したがって、的確な評価が自分では下せず、識者の意見や
よく売れている商品を受動的に受け入れてしまうということ
でしょうね。


また、世代的に、和田秀樹氏のいう「シゾフレ人間」が
消費の主力層になってきたこともあると思います。

シゾフレ人間は、1955年頃以降に生まれた人々から
増加し始め、65年以降になると主流になってきた人々。
すなわち、現在50歳以下の人たちです。

シゾフレ人間は、テレビやマスコミ、周囲の意見に簡単に
染まってしまい、自分の意見や趣向を持たない。
つまり、主体性やアイデンティティ意識が弱い傾向があります。

また、シゾフレ人間は「今」がすべてです。

過去がどうであったかにこだわらない。
現時点で周囲と調和がとれていることが重要。
つまり、変わり行く「今」に自分を合わせ続けることを
選択する人です。

消費の多様化傾向が、過去数十年間言われてきましたが、
実は、むしろ消費行動は、再び大衆化が進んでいるのかも
知れません。

そして、消費者タイプとしては「こだわり層」に含まれる
「オタク」たちが、一種嘲笑を持って注目されるのは、
彼らの行動が反大衆的で際立って目立つからなのでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 10:59 | コメント (0) | トラックバック

味が塩っ辛くなってくると赤信号点滅?

日曜日は家族で「牛角」へ。

なんだかんだ言っても、
焼肉は結構高くつきますから、めったに行きません。(笑)
実際、牛角も数ヶ月ぶりです。

久々に食べてみて気づいたのが、肉のクオリティを若干
さげたのかなということ。
まあ、これについては焼肉業界はあいかわらず大変な時期なので
しょうがないかなと思います。

しかし、味付けが塩っ辛くなりすぎていたのにがっかり。
肉だけでなく、ユッケやサラダまでかなり味が濃くなっています。

我が家やどちらかというとうす味好みなので余計そう感じたのですが、
他のお客さんはどう感じているのか気になりました。

ともあれ、私はしばらく牛角はいいかなという気分です。

ところで、実は数年前、長崎ちゃんぽんのリンガーハットが
やはり味が塩っ辛くなってきたので行かなくなったことがありました。

当時、リンガーハットは業績不振になっていました。
私と同じように、味に疑問を感じたお客さんが増えたせいかなと
勝手に思い込んでいたんですよ。

現在は、味も元通りおいしくなりましたし、業績も回復しつつある
ようです。

牛角の今後の業績を見てみようかな。

投稿者 松尾 順 : 19:38 | コメント (0) | トラックバック

パソコンテレビは従来のテレビを超えるかも?

以前にもちょっと書きましたが、無料ブロードバンド放送、
通称‘パソコンテレビ’「GyaO(ギャオ)」は
もう体験されましたか?

昨日の日経産業新聞によると、その成長ぶりはすごいものが
あります。

登録会員数は380万人を突破。
平均年齢38歳、男女比は8対2です。

圧倒的に男性が多く、年齢も高めです。
これはなぜなんでしょうね?

番組内容は、ニュース、映画、ドラマ、音楽、スポーツ、
ビューティ&ヘルス、アニメなど、男女、あらゆる年齢層を
カバーするバラエティに富む内容なんですけどね。
決して、「色もの」に偏っているわけではありません。

さて、ギャオは、一般のテレビ番組と同様、広告収入によって
運営されるわけですが、画期的なのは登録者の属性別CMが
可能な点です。

例えば、コマーシャルの出稿を決めたライオンさんは、
来年初めから次のようなコマーシャルをギャオで流します。

20代前半~30代半ばの女性 → 髪のスタイリング剤
35歳以上の男性 → 育毛剤

一般のテレビ番組の場合、たまにアンケート調査をやるくらい
しか視聴者の属性を把握できませんでした。個別の番組の
視聴者の属性を知るのは実質不可能。

こんなタレントが出演するトレンディドラマだから、20代女性
が主体だろうといった推測がかなり入っています。

ところが、ギャオの場合、特定の番組を見ている人の属性が
確実にわかります。
(登録内容は自己申告ですから、100%事実ではないでしょうけど)

したがって、視聴者にとっても、自分にとってより関連性の
高いコマーシャルが流されるので、注目率も高くなりますね。

逆に言えば、関心の低い、見たくないコマーシャルが減ります。
コマーシャルの情報価値、有用性が高まるということです。

しかも、番組をビデオにとって、コマーシャルをスキップする
ということもできませんので、コマーシャルがほぼ確実に
見られることになる。(コマーシャル中は、別ウインドウで
他のサイトを見たり、メールチェックなど可能ですけどね)

ただ現状では、把握できる属性が、いわゆるデモグラフィック
属性、つまり性別、年齢などの基本属性にとどまっています。
コマーシャル内容と視聴者との関連性が、
従来よりもかなり改善されるとは言え、まだまだ不十分でしょう。

35歳以上の男性が全員、育毛剤に関心を持つことは
ないですからね。(笑)

ギャオとしては、今後、サイコグラフィック属性
(興味、関心、性格、価値観)などにも踏み込んでいくことを
当然考えているでしょう。

ちなみに現在、ギャオを視聴するために登録を求められる内容は
次のとおりです。

・性別
・郵便番号(居住地域がわかる)
・生年月日(年齢がわかる)
・Eメールアドレス
・職業
・世帯構成(未既婚、子供の有無など)

さてさて、こうしたギャオの成長ぶりを見て
既存のテレビ局は、戦々恐々としているでしょうね。

カニバリ(共食い)を恐れることなく、自らパソコンテレビ
に積極展開するしかありません。

また、これまで放送枠を握ってきた大手広告代理店さんも
利権が失われます。

対策を打つ余裕はまだまだあるとは思いますが、のんびりとは
していられなくなってきていることは間違いありません。

「人の行動と心理」に興味のある私としては、
パソコンテレビの視聴行動や心理変化に注目していきたいと
思っています。

投稿者 松尾 順 : 12:08 | コメント (0) | トラックバック

スープか、ラーメンか

九州福岡生まれの私にとって、ラーメン(当然、とんこつ味)は、食べ物の中でも永遠の愛を捧げている対象です。とんこつ味だけじゃなく、あっさりした中華そばや辛い坦々麺も好きですが。

ただ、ラーメンというとやはりカロリーが高い!中年太りを気にしているので、食べる回数をやむを得ず減らしています。カップ麺もあまり買わないようにしていました。

でも、いいものを見つけました。春雨や、ベトナムのフォーを使ったカップ麺です。カロリーはラーメン系の半分以下(一個あたり、だいたい200キロカロリー未満です)。味もなかなかいけますし、それなりに満腹感があります。最近の健康志向とマッチしていることもあり、市場は急成長。現在の3強は、エースコック、味の素、龍口食品です。

興味深いことに、各社は、「スープはるさめ」といった名称を使っていることです。つまり、麺が入ったスープだよ、という見せ方をしているわけです。(そういえば、海外では、カップヌードルは、麺が主役の「ヌードル」ではなく、「麺入りスープ」と認識されているそうですね。)これは、ラーメン=カロリー高い、しつこいといったイメージを持たせないためのネーミングです。

実は、カップヌードルで磐石の地位を誇る日清食品は、この市場参入に当たって、ネーミングに失敗しました。2005年5月、フォーを使った低カロリーカップ麺を「アジアンヌードル」という名称で売り出したのですが、売れませんでした。関係者によると、やはりラーメンと似たイメージを持たれてしまったことが原因でした。(実際食べてみると、味自体は決して悪くありません)

私たちは、ある名前を見たり聞いたりすると、それに結びついた記憶を呼び起こして「それはいったいどんなものか」という評価をしようとします。未体験の商品やサービスの場合、結びついた記憶が存在しませんから、できるだけ近い、類似の記憶と結びつけて「・・・みたいなもの」という形で理解するわけです。

「スープ」と聞けば、たとえそれが麺入りであっても栄養豊富、健康なイメージがだいたい浮かびますね。でもカロリーが高いというイメージは結びつきません。一方、「ヌードル」と聞けば、ラーメンが即座に連想され、「おいしいけれど、でも太りそう」という、購入を抑制するネガティブな意識が発生してしまいます。

ネーミングがいかに売上げを左右するか、という直近の事例でした。

投稿者 松尾 順 : 09:56 | コメント (0) | トラックバック

いいぞマック:どうしたマック

iPodの大ヒットで業績好調なアップル・コンピュータ。
アップルさんとしては、iPodユーザーが、今度はMAC OS Xを搭載したマックPC(MACINTOSH)を購入してくれる波及効果を期待しています。その目論見は当たったようで、日本市場で見ると、3ヶ月の出荷台数が以前は80万台、最近はこれが100万台を越える勢いだそうです。

購入者はおそらく、ほとんどがPCの新規購入者でしょう。銀座のアップルストアでは、iPodを買いにきたお客さんが、「えー、アップルってコンピューターも作ってるんだ!」みたいな声が上がるそうです。
もちろん、私のように、WINDOWSのサブマシンとしてですが、再びマックを購入してしまった出戻り組も相当数いるんでしょうけど。

熱狂的なファンの多いアップルユーザーは、「いいぞ!マック」と歓声を上げているでしょう。

さてもう一方のマック、ハンバーガーの日本マクドナルド。アップルコンピュータの元社長さんが指揮を執っていますが、なかなか苦戦していますね。就任して1年そこらですから、早急な成果を求めるべきかどうか疑問です。

しかし、いったいどうしたんでしょう、マックは。

アップルもそうですが、マクドナルドも世界企業であり、日本市場でできる戦略上の打ち手はそれほどありません。マクドナルドの場合、特に価格戦略に偏っていますね。あまり頻繁に値段を下げたり上げたりするので、顧客の混乱と不信感を招いています。

‘I'm loving it’というキャッチのブランド広告は展開しましたが、日本の消費者の心を揺り動かすメッセージだったとは思えません。

私は、若い頃からジャンクフード好きを自認しており、マックも週1回ペースで利用するヘビーユーザーであるという立場で言わせていただくと、

「マックのハンバーガーは決して不健康ではない」

ということをうまく伝えてくれないかなと感じています。マックは時々、わけもなくムショウに食べたくなります。しかし、いつも、「体にあまりよくないことしてるな・・・」という軽い罪悪感を持ちながら店に向かいます。

以前、「スーパーサイズ・ミー」という、マックの不健康さを揶揄した映画が制作されましたが、ずいぶん以前から、マック=不健康というブランド連想が強いのです。マックが今後も、価格だけの勝負に陥るのを避けつつ、成長を目指すのなら、このネガティブなイメージをとことん変える必要があると思います。

最近の消費者は、不足、不満を解消したいという「ニーズ」から、あるものを失いたくないという「リスクコンサーン」へ関心が移っています。自分に無いものを充足したいということ以上に、消費によって大切な何かが失われる可能性を減らしたいという気持ちが強いのです。

つまり、消費に伴うリスクを回避、低減し、安全、安心、安定を維持したいということです。

そして、今の消費者は、関心が内向き、自分に向かっています。自分の肉体・精神の安全、安心、安定を強く希求しています。環境志向、健康志向、癒し、といったキーワードで語られるビジネスが伸びる時代です。

マクドナルドハンバーガーは、安い、早いが売りのファーストフードではありますが、これからは健康志向の消費者マインドに訴える必要がもっともっとあると思います。

投稿者 松尾 順 : 09:56 | コメント (0) | トラックバック