「調査・分析」のスキルがマーケターにも求められる時代がやってきた?
商品開発、広告・販促などを企画・実行するマーケターは、
「マーケティングリサーチ」を行なう必要がある場合、
一般的には、社内のリサーチ部門の専任者に依頼するか
(そうした部署がある場合)、あるいは外部の調査会社に
依頼しています。
しかし、これからのマーケターは、
自らもリサーチを企画・実行し、また分析ツールを用いて
データを分析する必要性にせまられています。
-------------------------------
私は、シナプス・マーケティング・カレッジの講師として、
「マーケティングリサーチ入門」
の講座を10年近く続けています。
受講者が所属されている業種・業態は様々です。
入門講座ですから、ほとんど、あるいは
まったくリサーチの経験のない方が、
「リサーチの概要を理解したい」
という「目的」で受講される点は共通しています。
しかし、受講の「動機(きっかけ)」が、
近年変わってきたように感じています。
以前は、マーケティング全般を学んでいる方が、
マーケティングリサーチについても理解しておきたいと
いった個人的な動機が多かったのです。
ところが、最近は、
・これまで営業やっていたけれど、
マーケティング関連部署に配置転換になって
自分でリサーチをやらなければならなくなった
・転職したら、業務経験のないマーケティング関連部署に
配属となったため、リサーチもやらなければならない
という方が増えています。
つまり、業務上の必要に強くせまられて
リサーチ入門講座を受けにこられているわけです。
そうした方の話を突っ込んでお聴きしてみると、
・調査・分析結果を踏まえた企画・提案が求められている
(また、より求められられるようになってきた)
・社内にリサーチのプロはいない、
かといって、リサーチ会社に外注する予算の確保が難しい
といった事情があるため、
自らリサーチを企画・実行せざるを得ない方が
ほとんどです。
この背景には、やはりインターネットを核とする
「デジタル革命」
の影響が大きいのでしょう。
社会のIT化=デジタル化が進み、
かつインターネット技術でデジタル機器類が
ネットワーク化された。
このため、あらゆる事象・消費行動などに
ついての豊富なデータが日々量産されており、
かつ、そうしたデータの入手が容易になりました。
(いわゆる「ビッグデータ」ですね)
また、インターネットを活用した調査
(ネットリサーチ)のおかげで、必要なデータを
低コスト・短期間で集めることができます。
一方、社会が高度化・複雑化したため、
従来のように、担当者の
「勘や経験、思い込み」
だけで物事を判断することはリスクが
高いという状況にある。
このため、可能なかぎりリサーチ・分析結果に
基づく意思決定が必要とされています。
このように、データの入手、リサーチの実行が
容易になり、またその重要性がますます高まっている
にも関わらず、日本企業の経営状況は全般的に厳しく、
調査のための外注予算が十分に割けないために、
マーケターがリサーチや、分析スキルを身につけなければ
ならなくなっているのです。
マーケターの皆さんにとっては難儀なことですね。
しかし、むしろ喜ばしいことかもしれません。
なぜなら、優れた商品企画、広告・販促企画は、
顧客・消費者を深く理解する中から生まれるからです。
そして、顧客・消費者を深く理解する一番の方法は、
自らがリサーチを企画・実行し、じっくりとデータを
分析することだと私は考えているからです。
幸い、使いやすい分析ツールがいろいろとありますし、
データをあれこれ眺めるのは実に楽しいものですよ。
リサーチやデータ分析を必要にせまられてやらなければ
ならなくなったマーケターの皆さん、楽しくがんばってください!
*シナプス・マーケティング・カレッジ
http://www.cyber-synapse.com/college/
投稿者 松尾 順 : 10:45 | コメント (1) | トラックバック
シングルソースデータから新たに見えてくること
ツイッターやフェイスブックなどSNSに
投稿される利用者の生の声。
この情報(以下「SNSデータ」)からは、
人々の
「●●に行った」「●●を買った」
といった「行動」が把握できることに加えて、
行動に伴う、
感情や思い、意見、評価
などの「心理」情報が含まれています。
したがって、購買履歴データやWebアクセスログデータ
などの行動データと、SNSデータの心理データを
ユーザー単位で結びつける、すなわち統合された
「シングルソースデータ」
を分析することによって新たに見えてくることがあります。
-----------------
今日は、昨日に引き続き、
「ビッグデータ時代を勝ち抜くための
データマイニング活用セミナー」
(IBM SPSS主催)
に登壇された、
清水聰氏(慶應義塾大学教授)
のお話の中から面白い事例をご紹介します。
(なお、事例の元となっている調査概要については
まだ公開できないものらしく、具体的な数値など
はお話されていません)
清水氏が実施した
消費者対象のビール系飲料の調査
によれば、
・アサヒ・スーパードライ
・キリン・淡麗(生)
は併飲している消費者が多いことがわかっています。
その理由としては、
「この2ブランドの味が似ているから」
ということのようです。
どのように併飲しているかというと、
平日は淡麗を飲み、週末はスーパードライを飲む
というパターン。
スーパードライ&淡麗の組み合わせだけでなく、
平日は価格の安い「発泡酒」や「新ジャンル」を飲み、
週末はレギュラービール、あるいはプレミアムビール
を「ごほうび」的に飲むという消費行動については、
以前から指摘されていたことではあります。
ビール系飲料にも人によって味の好みがありますから、
スーパードライが好きな人は淡麗も好きということに
なるのでしょう。
さて、こうした消費者の購買履歴データだけを
‘縦に’分析してしまうと、当然ながら
平日飲んでる淡麗の消費量のほうが、
スーパードライよりも多いという明白な結果に
なります。
したがって、「消費量」だけを見ると
この消費者は、
「淡麗のロイヤルユーザー」
と判定されてしまうわけです。
ところが、購買履歴データとWebアクセスログデータ、
SNSデータをユーザー単位で統合しシングルソースデータ
にして‘横’に分析すると別のことが見えてきます。
例えば、淡麗のロイヤルユーザーと判定された
消費者のサイト閲覧状況を見てみると、
アサヒのWebサイトにはしばしば訪問し、
キャンペーンにも応募している一方、
キリンのWebサイトにはまったく行っていない。
また、SNS投稿では、
「日曜夜にゆっくりスーパードライを楽しんだ」
などと、スーパードライには
よく言及しているけど、淡麗にはほとんど
書いていないということがわかったのだそうです。
このシングルソースデータの分析からは、
上記消費者が本当に好きなのはスーパードライであり、
淡麗は(おそらく、経済的な理由から)代替品として
平日に飲んでいるのだという(より確からしい)推測が
可能になりますね。
ロイヤルティは、
・行動的ロイヤルティ(消費量、購入金額に基づくもの)
・心理的ロイヤルティ(どの程度好きかに基づくもの)
の2区分で分析することもありますが、
この区分で見ると、上記消費者については
以下のような分析ができるわけです。
・淡麗に対しては行動的ロイヤルティは高いが、
心理的ロイヤルティは高くない。
・スーパードライに対する行動的ロイヤルティは
低いが心理的ロイヤルティは高い。
こうした深い分析は、購買履歴データだけでは困難であり、
WebアクセスログデータやSNSデータと統合するからこそ
可能になるのがおわかりになりますよね。
シングルソース化されたビッグデータの分析からは、
以前とは比較にならないほど多くのインサイト(洞察)
をもたらしてくれるのは間違いありません。
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●早わかり!『ブランディング戦略』エッセンス(12月13日)
投稿者 松尾 順 : 09:47 | コメント (0) | トラックバック
これからのデータマイニングに求められる「循環型マーケティング」の理論と戦略
従来から企業が蓄積してきた購買履歴データや、
Webサイトのアクセスログデータは、
「ビッグデータ」
と呼ぶにふさわしいボリュームがありました。
しかし、これまでとは異なる
「今」のビッグデータの特徴は、
消費者一人ひとりを識別できるIDキーによって、
・販売履歴
・アクセスログデータ
・コールセンターへの問合せ履歴
・SNSでのアクション履歴
などを統合して、
分析できる可能性が拓けたことでしょう。
つまり、消費者の商品情報の獲得から、
購入意思決定、商品の利用、感想・評価、その共有まで
一連の消費者行動のデータを「横」に眺めることが
可能になったのです。
こうした「今」のビッグデータに対して
「データマイニング」
を実行する際には、従来の「直線型」ではない、
「循環型マーケティング」の理論と戦略を
前提とする必要があります。
------------------------
今日は、2012年11月2日にIBM箱崎本社で
行なわれた、
「ビッグデータ時代を勝ち抜くための
データマイニング活用セミナー」
に登壇された、
清水聰氏(慶應義塾大学教授)
のお話のエッセンスを簡単にご紹介しましょう。
(私見も入っていますのでご了承ください)
今までのデータマイニングが対象としてきた
ビッグデータとしては、
・小売業の購買履歴データ(POS)
・Webのアクセスログデータ
などがありました。
これらは、基本的に「データフォーマット」が
決まっていて、基本的にコード化が可能なもの。
(商品分類コードとかが最初からあるわけです)
つまり同質で定量的なデータなものでした。
データは大量だけど、データとしては扱いやすい。
一方、今のビッグデータは上記の
「同質・定量的データ」
だけでなく、コールセンターに寄せられる
意見・苦情・要望等のデータ、
およびSNS上の投稿のデータといった、
データフォーマットが固定しにくく、
コード化も難しい、
「異質・定性的データ」
が加わり、しかも、ユーザーのID情報などによって
一人ひとりにすべてのデータが紐付けられたものです。
つまり、多様なデータが顧客単位で統合されている
のが今のビッグデータ。
(私自身も実際の業務で取り組んでいますが、
当然ながら、統合作業は簡単なものではありません。)
こうした、顧客単位でデータが統合されているものを
「シングルソース(のデータ)」
と専門的には呼びます。
顧客一人(シングル)ひとりが、
全ての情報・データの源(source)
となっているからですね。
さて、従来のビッグデータを対象とする
データマイニングでは、
・販売履歴データ
・Webアクセスログデータ
など、個別に存在している
ひとまとまりのデータをそれぞれ
別個に分析していました。
つまり、いわばデータを「縦」にだけ
眺めていたということになります。
このデータマイニングは主に、
新たな仮説発見を狙ったものであり、
ともかくデータを回すことで、
優良顧客(セグメント)
の発見(識別)などで、
成果を上げてきたわけです。
しかし、しょせん消費者行動の一部分を
切り取ってみているだけなので、
セグメンテーション
を行なうのがせいぜい。
・消費者は、ある状況において
どのような反応をするのか
・どのような働きかけをすれば、
こちらの期待する反応をしてくれるのか
といった消費者行動の深い理解や、
予測モデルの構築には限界があったのです。
しかし、
「シングルソースデータ」
として扱える「今」のビッグデータ対象の
データマイニングでは、
・消費者行動のより深い理解
・消費者の反応(購買や離脱など)予測モデル構築
が可能となります。
購買履歴データでは、
何をいつ、いくらで買ったか(行動)
を把握できるのみ。
しかし、その人のアクセスログデータから、
・その商品を購入する前にアクセスしたサイト・情報
が、さらに、その人のSNSの投稿データからは、
・なぜその商品を買ったのか(理由)
・商品を使ってみて満足してるか(感想・評価)
・商品について、他者にはどんなことを話したか(共有)
も併せて把握できるかもしれないからです。
すなわち、今のビッグデータ分析からは、
・購買にいたるまでの行動(商品認知から情報収集)
・購買の場での行動(商品の比較検討・購買決定)
・購買後の行動(商品利用評価・共有)
の一連の消費行動が全体として見えてくるのです。
ただ、今のビッグデータ対象のデータマイニングに
おいて留意しなければならないことがあります。
それは、上記の一連の消費行動はぐるぐると
循環している点です。
一人の消費者が、ある商品についての情報を集め、
比較検討し、購買・利用した後、その評価を他者とも
共有することを通じて、この消費者の再購入に向けて
の新たなサイクルが開始されるからです。
そこで、これまで提唱されてきた、
情報収集→比較検討→購買→消費(利用)→廃棄
という線的な消費行動モデルではなく、
以下のように、循環する消費行動モデルに基づく
分析を行なう必要があります。
情報収集→比較検討→購買→消費(利用)→共有→廃棄
(*共有後は、情報収集に戻る)
なぜなら、個別のデータを「縦」に眺める場合なら、
とりあえず分析してみるというアプローチでもなんとか
なりましたが、統合されたデータを「横」に眺める場合は、
一定の理論・モデルを分析の枠組みとして用いないと、
どこからどう分析していいか混乱するからです。
(これは実感値としてあります)
実のところ、こうした消費行動に立脚する
「循環型マーケティング」
の理論と戦略はまだまだ手探りの段階。
したがって、ともかくも
シングルソースのビッグデータ分析
に取り組みつつ、並行して
循環型マーケティングの理論・戦略
の構築を急ぐ必要があると思われます。
今回はちょっと難しい話になってしまいました。
明日は、清水先生が紹介してくださった面白い事例を
取り上げたいと思います。
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●早わかり!『ブランディング戦略』エッセンス(12月13日)
投稿者 松尾 順 : 10:51 | コメント (0) | トラックバック
商品(ブランド)に対する「直感的評価」を把握する方法
「プライミング効果」を活用した調査方法で、
商品(ブランド)に対する「直感的評価」が
より正確に把握可能になります。
「プライミング効果」は、最初に触れた情報などの
「刺激」(プライム=先行するという意味)
よって、その後に触れた情報などの解釈が
影響を受けてしまうこと。
例えば、人に
「自動車」「船」「電車」
といった「乗り物」に関する単語を見せた後に、
「空を飛ぶものは何ですか?」
と聞くとたいていの人が、
「飛行機」
と答えます。
通常、「空を飛ぶものは?」と聞いたら、
「鳥」
と答える人が多くなるはずです。
しかし、先行する刺激として提示された単語が
「乗り物」ばかりだったので、無意識に
「飛行機」
と答えてしまう人が多くなる。
これがプライミング効果です。
私たちの脳は、
基本的に様々な物事・情報を
‘連想づけて’
考える仕組みになっているため、
先行する刺激(プライム)の影響を
無意識に受けてしまうのですね。
さて、プライミング効果は、
消費者の購買意欲を高めるための
マーケティングやセールス施策においても
活用されていますが、
商品・ブランドに対する
「直感的評価」
を把握することにも利用可能です。
米国で行なわれた「香水瓶」のデザインに
ついてのある研究があります。
AとBの2つの香水瓶をパソコン画面で見せた後、
「魅力的な」
「洗練された」
といった形容詞をランダムに見せます。
すると、Aの香水瓶を見せた後で、
「魅力的な」
という単語をすばやく認識できたのです。
この実験においては、
「香水瓶のデザイン」
が先行する刺激(プライム)です。
そして、その後に示された刺激としての
形容詞は、香水瓶のデザインと同じか
類似すると感じたものが優先的に認識されるはず。
したがって、Aの香水瓶を見た人は、
直感的に「魅力的」と感じていたことから、
「魅力的」という言葉を認識することができた
ということが言えます。
この方法は、従来のアンケートやインタビュー
などによる商品・ブランド評価調査と比較して、
より直感的な評価、言い換えると
「無意識ですばやく下される感情的評価」
を把握できると考えられます。
従来のアンケートやインタビュー調査では、
商品(ブランド)を見せた後に、
「印象をお聞かせください」
と質問して答えてもらう方法になります。
この場合、思考する時間があるため、
様々な要素を考慮した上での
「理性的な評価」
の影響が出てしまう。
例えば、
「パッと見いいなと思ったけど、よく見ると、
ちょっと色が派手かもしれないな!」
(実は、その派手さが感覚的には好きだったの
かもしれません・・・)
などと、考え始めると、
あれこれ迷いが出てきてしまうものです。
つまり、従来の調査では、
直感的な評価にブレが生じやすくなるのです。
しかし、香水瓶の研究で採用された方法であれば、
直感的な評価をそのまま得ることができると
考えられます。
近年の消費者行動研究、脳科学などの研究から、
私たちの「購買意思決定」は、
「直感的な(感情的な)評価」
によって大きな影響を受けていることが
明らかになってきました。
したがって、直感的な評価が正確に把握できる、
プライミング効果を活用した調査方法は、
今後大いに普及していくのではないかと思います。
*香水瓶の研究については、
日経産業新聞(2012/09/06)のコラム、
「三浦俊彦の目」
から引用しました。
投稿者 松尾 順 : 09:38 | コメント (1) | トラックバック
「価値観」「性格」も浮き彫りになるビッグデータ分析
昨日(2012/08/28)、
秋葉原で開催された第29回JMRX勉強会、
「マーケティングアナリシス最前線」
に出席してきました。
とても充実した内容で、
今後のマーケティングリサーチや
ビッグデータ分析の方向性・可能性について、
多くのヒントを得ることができました。
以下、講演タイトル&講師をご紹介しておきます。
----------------------------------
<「マーケティングアナリシス最前線」講演タイトル&講師>
『データで予測する2012年第4回AKB選抜総選挙』
(株式会社ルグラン 代表取締役 共同CEO 泉 浩人氏)
『ビッグデータ時代に必要なアナリストのスキルと組織』
(株式会社マイクロアド 未来広告研究所 所長 中川 斉氏)
『次世代を見据えた統合マーケティングプラットフォーム』
(株式会社ボーダーズ クライアントサービスグループ
マネージャー 中島 慶久氏)
『Mobageの大規模データマイニング活用』
(株式会社ディー・エヌ・エー
ソーシャルプラットフォーム事業本部 濱田 晃一氏)
『データ分析をビジネスプロセスにどう組み込むか』
(トランスコスモス・アナリティクス株式会社
取締役副社長 萩原雅之氏)
-----------------------------------
さて、今日は、
マイクロアド、中川氏のご講演の一部を基に、
ビッグデータ分析で、
「価値観」や「性格」
さえも推測できるようになるかも・・・
という話をしたいと思います。
米心理学者、ヤンケロビッチ博士は、
消費者の心理・行動を理解することに役立つ
「価値観ヒエラルキー」
を生み出しています。
これは、「行動」とその背景にある
「心理の構造」
を概念化したものです。
具体的には、一番深いところにある「性格」から、
「行動」に直接結びつく「趣味・嗜好」を以下の
ように5段階で階層化しています。
-----------------------------------
<ヤンケロビッチの価値観ヒエラルキー>
(1)性 格
↓
(2)価値観
↓
(3)ライフスタイル
↓
(4)趣味嗜好
↓
(5)行動
-----------------------------------
中川氏は、この価値観ヒエラルキーの図を示しつつ、
「Web行動履歴」や「(SNSなどの)書き込みテキスト」
の分析によって、行動の背景にある
「心理」
がかなり深いところまで読める可能性を示しました。
まず、「Web行動履歴」の分析ですが、
これは文字通り、アクセスログデータ等を
分析することでインターネット上の「行動」を
把握するものです。
もちろん、「1セッション」だけの行動履歴では
どのページを回遊し、何を購入したかといった、
直近の行動しかわかりません。
しかし、同一人物の行動履歴を1週間ほど追っていると、
その人(基本的に人物は特定できません)の
「趣味・嗜好」
が見えてくるというのです。
実際、例えば訪問・閲覧頻度や滞在時間などを
分析すれば、
「どんなサイトやページを頻繁に訪れているのか」
がわかることから、その人の趣味・嗜好が
推測可能でしょう。
さらに、中川氏によれば、
引き続き1ヵ月ほどのデータを追いかけ
分析すると、その人の
「ライフスタイル」
がかなり浮き彫りになってくるとのこと。
確かに、例えば、ネット接続開始時間で
「起床時刻」
がおおよそわかりますね。
また、Web行動履歴ではありませんが、
GPSのデータが入手できれば、その人の行動範囲から、
・休日には外出することが好きなのか、
・逆に、まったり家にいることが好きなのか
といったこともわかるでしょう。
また、「SNSなどの書き込みテキスト」の分析も同様に、
「1投稿」
だけでは、投稿時点での、その人の意見や評価、感情等が
捕捉できるのみです。
しかし、1週間、1カ月分の投稿を分析すればやはり
「趣味・嗜好」
「ライフスタイル」
が浮き彫りになってくると中川氏は指摘します。
私は、「生の声」がわかる
「書き込みテキスト」
には、しばしば、「価値観」や「性格」が
明確に反映されている投稿も見られるため、
「Web行動履歴データ」と「書き込みテキスト」
を長期的にデータ蓄積し、
さらに両者を統合して適切な分析を行なえば、
「趣味・嗜好」、「ライフスタイル」に加えて、
「価値観」
「性格」
についても、かなり高い精度で推測できるように
なるのではないかと考えています。
従来、消費者の行動の背景にある「心理」は、
アンケートやインタビューを通じて直接聴くしか
ありませんでした。
そもそも、「行動」自体も、長期的に追いかける
のは手間・コスト的に困難でした。
しかし、今は、1日中身に着けているデジタル端末を
通じて、人々の詳細な行動履歴がデータとして
蓄積されています。
しかも、SNSやブログで消費者の生の声が簡単に手に入る。
時系列で蓄積された膨大なデータを分析するのは、
極めて高度なテクニックが要求されますが、
これまでは実現が難しかった
「サイコグラフィック・セグメンテーション」
「サイコグラフィック・ターゲティング」
*消費者の心理(性格、価値観、趣味嗜好)に
基づくセグメンテーションやターゲティング
が具現化する日も近いのではないでしょうか。
投稿者 松尾 順 : 09:29 | コメント (1) | トラックバック
誰でもわかるビッグデータ
今朝の日経産業新聞(2012/08/22)のコラム、
「Smart Times」では、ビッグデータの
「革新性」
について、石黒不二代氏(ネットイヤーグループ社長)
がとてもわかりやすい解説をしてくれていました。
石黒氏自身が心がけられたようですが、
まさに「誰でもわかるビッグデータ」という内容でした!
そこで、今日は当記事を紹介しつつ、
私なりの考えを付け加えたいと思います。
(もしわかりにくくなっていたら私の責任です・・・)
従来、企業が(比較的容易に)取得できるデータは
とても限られていました。
ユーザー関連データについて言えば、
実質的には営業パーソンや店頭の販売員の手入力で
収集される「顧客データ」、およびレジを通過することで
自動的に記録される
「販売データ」
のみだったのです。
レジのスキャナーで記録されるデータは
「POSデータ」
と呼ばれることはご存知ですよね。
企業では、社内にある商品属性データと、
販売時に取得した顧客データ、販売データを統合し、
・いつ(When)
・どこで(Where)
・誰が(who)
・何が(What)
・どれくらい(How many)
・いくらで(How much)
といった分析は当然行なってきました。
ただし、‘POS’が
‘Point of Purchase’(販売時点)
の略であることからおわかりのように、
販売データは、
「販売時点」
でのデータに過ぎないわけです。
したがって、ユーザーが購買に至るまでの
「情報収集から始まる意思決定のプロセス」
や、購買後の
「利用状況や廃棄状況」
は把握が困難でした。
そして、もし購買前、購買後のユーザー行動を
把握したければ、相応の予算をかけ、限られた
サンプルを対象としたマーケティングリサーチを
実施するしかなかった。
ところが現在は、
ユーザーがWebサイトや携帯・スマホなどの
デジタルデバイスを日常的に使用するように
なったことで、購買時点だけでなく、購買前、
そして購買後のユーザー行動のほとんどが、
データとして捕捉可能となっています。
おかげで、石黒氏曰く、
「企業活動はがぜんデータオリエンテッドになる。」
という状況を迎えました。
すなわち、これまでは
結果としての「販売データ」
しか入手できなかったので、
どのようなマーケティング施策を展開するかは、
「勘とセンス、経験」
にかなりの部分依存していた。
ところが、ユーザーの消費行動プロセスが、
あらゆる顧客接点からデータとして吸い上げられる
ようになった今、データの裏づけのある科学的な
アプローチによってマーケティングを展開できるよう
になったということなのです。
さて、石黒氏は、ビッグデータの意味(価値、意義)に
ついて以下の4つを示しています。
---------------------------------------
1.データ量が多いこと
アマゾンのレコメンデーションが高い効果を発揮しているのは、
顧客数が多くデータ量が豊富であり、「オススメ」の正確性が
高いから。
ビッグデータはサンプルデータではなく実質的にユーザーの
「全数データ」です。したがって、代表性やサンプル誤差の
問題はなく、データ量が多ければ多いほど分析精度が高まる。
例えば、レコメンデーション(これは、顧客が欲しいと考え
られる商品を予測し、提示する予測モデルのひとつ)の正確性
は増すのです。(松尾注)
2.購買以前のデータが取れるようになったこと
購買以前のユーザーの行動は以前は簡単に把握できなかった。
しかし、ソーシャルメディアの投稿や、自社サイトでのサイト
内行動分析などを通じて、購買前の
「潜在消費」(例えば、どんな商品に「関心」が集まっているか)
の動向が(容易に)わかるようになった。
3.コンテクストや文脈がわかること
要するに、ユーザーが
「なぜ(why)この商品を購買するに至ったのか」
が把握できるようになったということです。
石黒氏が挙げている例は以下のようなものです。
○○さんはスカートを購入した。
しかし、実は予算が限られていたので、
スカートではなくて本当はブラウスが欲しかった。
ところが、マーケターは従来、
「○○さんがスカートを買った」
という顧客・販売データだけに基づいて、
「○○さんにスカートのカタログを送る」
という施策を打つしかなかった。
これが的外れな施策であることは一目瞭然。
しかし今なら、
ソーシャルメディアで○○さんが
「今度はブラウスが買いたい」
という投稿を見て、
ブラウスのカタログを送ることができる。
今は、このように、
ユーザーについての多面的な情報をもとに、
「ユーザーの好き嫌い、購入理由」
についてのデータを収集・分析して、
より効果の高い施策を打てるわけです。
4.リアルタイムであること
人の気持ちは移ろいやすいものです。
日々データが更新されるソーシャルメディアの
コメントやサイト行動を分析することによって、
最新のユーザーニーズを把握し、
すばやく、営業や商品開発にフィードバック
できるようになっています。
-------------------------------------
石黒氏は、
“このどれもが企業にとって革新的なことなのだ。
もし革新的だと思わない人がいたとすれば、それは
日本企業が今まであまりにデータをおろそかにして
きた名残だろう。”
と述べています。
実際、欧米企業と比較して日本企業は、
「データ分析・活用」
に対して及び腰だったことは確かです。
しかし、データ分析を最大限駆使して、
勝負してくるグローバル企業に対抗するためにも、
日本企業も、
「ビッグデータの分析・活用」
に本腰を入れなければならないでしょう。
投稿者 松尾 順 : 10:37 | コメント (0) | トラックバック
暑い夏は整腸剤が売れる?
今朝の日経産業新聞(2012/08/20)に、
ちょっと面白い記事が掲載されていました。
記事の内容は、端的には
「暑くなるほど整腸剤がよく売れる」
という因果関係があるというもの。
大幸薬品の「セイロガン糖衣A」の過去12年間の
販売データを見ると、気温上昇に比例して売り上げ
が伸びています。
そして、4~11月の間では、摂氏23度を越えると、
温度が1度上がるごとに、売り上げが約5%増えること
がわかっているそうです。
もちろん、気温が上昇するとのどが渇きやすくなる、
だからミネラルウォーターの消費量が増えるといった
シンプルな因果関係ではありません。
整腸剤の利用が増える理由は、さらにその先にあります。
夏場になると水分を多くとる、また冷たいものを食べる
機会も増える、すると腸の働きが過剰になり腹を下す
可能性が高まる。
結果として、セイロガンが必要になってしまうという
わけですね。
言われてみればなるほど、私も小さいころは、
冷たいものの食べすぎ・飲みすぎでよくお腹を
壊していました(笑)
それで、去年(2011年)の夏は、
福島原発事故の影響を受け「節電」が奨励されたため、
水や冷たいものを食べて暑い夏を乗り切ろうとした
人が多かったため、整腸剤の売り上げが大きく伸びた
ようです。
今年も猛暑気味ですし、
「節電意識」
も依然として高いことから、
整腸剤の需要は伸びるだろうと予測されています。
さて、夏場に整腸剤の売り上げが伸びるということは
業界の方であれば経験則としてもわかっていたことでしょう。
ただ、近年は、POSデータを始め、いわゆる
「ビッグデータ」
の蓄積・活用が進んで、比較的精緻な
「予測モデル」
の構築が可能になってきています。
記事にも書かれていたように、
摂氏23度を越えると、1度の上昇で売り上げが5%伸びる、
といった
「法則性」
を‘定量的’に把握するのが予測モデルです。
予測モデルによって、気温などの変化に応じ、
商品の需要がどの程度増減するかを高い精度で
推定できれば、工場の生産量や市中在庫量の調整、
また販売促進施策の立案にも役立ちます。
最近注目を集めているビッグデータの活用において
最も期待されているのは、「未来予測」の分野。
・将来において、商品の需要がどのように増減するのか?
・ターゲット顧客は、販促施策に対してどのような反応を示すのか?
こうしたことが予測できれば、適切な事業計画、
マーケティング施策が立案・展開できるからです。
私自身、各種予測モデルの構築に携わってきていますが、
高い予測精度を達成するのは、なかなか難しいというのが
実感ではあります。
それでも、ものごとの「因果関係」を探るのは、
実に面白い作業です。
整腸剤以外に、気温変化によって需要が増減する、
考えもつかない商品がないか、あるとしたら、
その因果関係はどうなっているのかを考えてみるのは、
「論理思考力」
を養う良いトレーニングですよ!
投稿者 松尾 順 : 11:04 | コメント (0) | トラックバック
インサイト(洞察)は「データの中」にはない!
先日、「夕学五十講」に登壇された、
大阪ガス行動観察研究所所長、松波晴人氏のお話を
聴いて、改めて実感したことがありました。
(松波氏が行なっている「行動観察」では、
店舗などでの人の動きをひたすら観察して
事実データを集め、その事実データを分析・解釈
して様々な気づき=インサイトを得ています。)
それは、画期的な新製品や、
‘刺さる’広告コピーの開発につながるような
「インサイト」(洞察)
は、「データの中」にはないということです。
では、どこにあるのか?
それは、データを読もうとしている分析者の
「頭の中」
です。
データをいくら眺めても、データの中からは
インサイトは決して出てこない。
データを様々な視点から「分析」し「解釈」する。
その結果として、あなたの頭の中から出てくるのが
「インサイト」
です。
そして、インサイトを取り出すためには、
「統計解析」のようなテクニカルな分析ツールを
駆使することに加えて、マーケティングで言えば、
下記のような様々な学問・研究領域の知見を
「解釈ツール」
として用いなければならないのです。
・マーケティング理論
・消費者行動研究
・社会学
・人類学
・行動経済学
・人間工学
・環境心理学
・社会心理学
・エスノグラフィ
・表情分析
分析ツール活用のノウハウも、
上記のような解釈ツール(学問・研究領域の知見)
活用のノウハウも、すべて分析者の「頭の中」に
存在するもの。
分析・解釈ツールを用いてデータを分析し、
さまざまに解釈してみることで初めて、
分析者の頭の中に「インサイト」が生まれる。
繰り返しになりますが、
データの中にインサイトがあるわけではないのです。
したがって、インサイトを自分の頭の中から
取り出す力を高めるためには、多様な学問分野に
ついての体系的な学習が不可欠になってきます。
さらに言えば、分析者も、
一人の消費者・生活者として、
豊富な実体験を積み重ねていることも必要でしょう。
例えば、分析者自身は朝から晩まで仕事漬け、
人気スポットに行く時間も取れない、
テレビ、映画やスポーツもろくに観ない。
そんな分析者が、一般消費者の意識調査データを
いくら眺め、分析したところで、有効なインサイトは
出てこないと思いませんか・・・?
マーケティング業界ではこれまで、
統計解析のようなテクニカルな「分析力」を
高めることについての議論は盛んに行なわれて
きました。
しかし、「解釈力」の重要性、および、
解釈力を高めるための、学問・研究領域の知見の活用
についての議論はほとんどなされてこなかったように
思います。
しかし、あらゆるビジネス・マーケティング分野に
おいて、日々、膨大なデータが生み出され、
そうしたデータの有効活用が叫ばれている今、
インサイト導出に使える「解釈ツール」を習得すること
の重要性はますます高まっていくのではないでしょうか?
『ビジネスマンのための「行動観察」入門』
(松波晴人著、講談社現代新書)
投稿者 松尾 順 : 09:45 | コメント (0) | トラックバック
郵送アンケートの回収率がアップする簡単な方法
調査対象者から、「アンケート調査票」を
郵送で回収する場合、回答してくれた人に対して、
後日、500円~1,000円程度の謝礼(「QUOカード」など)
を郵送で送付することが一般的です。
私は以前、回答者に後日謝礼を送るのではなくて、
アンケート調査票を送付する際にあらかじめ謝礼を
同封しておくと、回収率がアップするということを知り、
実際に試したことがあります。
結果は期待どおり、回収率が数パーセントアップ
したことを覚えています。
ただ、謝礼を事前に同封するのは、
調査対象者「全員」に謝礼を渡すことになり、
「ベタ付け」
となるため、総コストが高くなってしまいます。
もちろん、そのおかげで回収率が向上すれば
「費用対効果」
という視点ではOKなのですが。
とはいえ、ベタ付け事前謝礼は、
コスト的な問題と、そもそも回答してくれない人
にまで謝礼をあげることについて感じる
「バカバカしさ(無意味さ)」
といった心理的抵抗もあり、
なかなか実行することはできないものです。
しかし、もっと手軽に、
簡単に回収率をアップする方法もあります。
これは、心理学の実験として行なわれたものです。
調査対象者に対し、アンケート調査を郵送で送付する際、
「調査協力依頼状」(印刷されたもの)
を以下のABCの3パターン作成し、
どのパターンが最も回収率が高いかを検証したのです。
--------------------
A なにも手を加えない調査協力依頼状
B 手書きの短いメッセージ(「協力お願いします」
といったもの)を依頼状の空白部分に記入したもの
C ポストイット(付箋紙)に手書きのメッセージを
書いて、協力依頼状に貼り付けたもの
---------------------
その結果は、
C>B>A
となりました。
すなわち、手書きメッセージの付箋紙が貼られた依頼状の送付者が、
最もアンケートの回収率が高く、次に手書きのメッセージが追記された
ものが高かったのです!
この結果は、説得に用いる様々テクニックを解説した
『影響力の武器』で示された、
「返報性の原理」
で説明することができます。
「返報性の原理」とは、端的に言えば、
「自分が受けた借り(恩)は、返したくなってしまう」
という、私たちがほぼ共通して持っている
「心理傾向」
のことです。
上記のアンケート実験について言えば、
・わざわざ「付箋紙」を貼ってくれたこと
・わざわざ「手書きのメッセージ」を記入してくれたこと
が、調査対象者の感じる「借り」です。
もちろん、調査対象者は調査協力を依頼される側であり、
手書きだろうが、付箋紙だろうが、「借り」と感じるほど
のこともないのですが、それでも、
「私のために手間をかけてくれたんだな」
と‘無意識に’感じてしまうのです。
このため、「アンケートに回答してあげないと悪いかな・・・」と
いう気持ちが高まり、アンケート回収率を引き上げること
になったのだと考えられます。
手書きのメッセージを書いた付箋紙を1枚1枚貼るのは、
手作業ですから、簡単とはいえ面倒で手間のかかること。
しかし、「手間をかけること」が相手に伝わるからこそ、
相手の「借りを返さなければ・・・」という気持ちを
高めることができるのです。
今回のお話は、アンケート調査への応用でしたが、
他のマーケティング施策にも使えることはおわかりでしょう。
例えば、某通販企業では、
購入者に対して手書きの礼状を書く
「手書き礼状書きチーム」
が存在しており、
リピート率を高めることに成功しているのです。
説得テクニックとして「返報性の原理」は、
非常にパワフルなもの。悪用厳禁でお願いします。
投稿者 松尾 順 : 10:33 | コメント (0) | トラックバック
「町の理容店」の徹底したデータ活用
日経ビジネス(2011.2.21号)に掲載されていた、
千葉市・稲毛区にある地場の理容店、「オオクシ」は
すごいです。
独自のIT技術を駆使し、顧客行動を分析することにより
リピート率84%を達成しています。
理容店業界では、リピート率70%を超えれば、
業界紙で特集が組まれる(参考事例として取り上げられる)
ということなので、オオクシがいかにすごいかわかりますね。
まだ42歳の現社長は、父親が経営していた理容店を
1990年代半ばに引き継ぎますが、当時は競争激化のため、
倒産寸前でした。
打開策に悩んだ末、現社長は19歳の頃アルバイトしていた
コンビニのPOSシステムを思い出し、病院のカルテを
参考に独自のITシステムを構築しました。
そのシステムは、どんな客が来て、誰が対応し、
どんなカットにしたのかといったデータが記録できるもの。
そして、システムに蓄積されたデータを分析すると、
ベテランの理容師が実はたいして稼いでいないといった
真実が如実に把握できた。
現在は、社員(理容師)の技術力、すなわち、
誰がどんなカットが得意か、不得意かということも、
ヘアスタイルを126通りに分類して分析しているそうです。
オオクシのお店で興味深いのは、
理容店でありながら、男女比率が5:5であることです。
つまり、ターゲット層を既存の利用店よりも、
大きく広げることができているわけです。
もちろん、当初は男性が大半だったわけですが、
女性も入りやすいお店作り(かつ男性にも抵抗のない)
に注力したおかげで、男性と女性の利用客数を同率に
することができた。
これは、個人客でなく、家族みんなで
来てくれる客を増やしたことも寄与しているようですが、
理容店としては斬新な発想ですよね。
そしてまた、オオクシが目指す最適なお店づくり
に活用しているのが顧客アンケートです。
40万件の顧客から約4000件のアンケートが、
集まるそうですが、その基本的な活用法は
「顧客の声をどれだけ無視できるか」
(全部聴いていたら破綻するから)
という視点に基づいて行なわれています。
これは記事を読むと、
どうやら次のようなことだと思われます。
・顧客の満足度、リピート率を本当に高めることに
つながる改善にはお金をかけるが、そうならない
ことに無駄なお金・努力をかけない。
要するに「過剰品質」にならないように、
顧客の声を上手に聴き、また上手に無視することで、
顧客満足度・リピート率を上げつつ利益を出せる
強靭な店作りをやっているようです。
実際、お客様の様々な要望に対して、
無差別にすべて対応していたら経費や手間が
かかりすぎて利益が飛んでしまうということがおきます。
しかも、その改善策のおかげで必ずしも顧客が増える、
リピート率が高まるとは限らないわけですし。
お客さまアンケートは基本的に、
・何を改善すべきか
を把握するために分析を行なうわけですが、
・何は改善しなくてよいか
という視点での解釈も必要なんですね。
投稿者 松尾 順 : 13:56 | コメント (0) | トラックバック
女性誌購読者は消費活発!
女性ファッション雑誌に対する消費者行動は、
1 自分で買って読む人
2 自分では買わず、美容院等で読む人、書店立ち読み人
3 そもそもまったく読まない人
に大きく分けることができますが、
・1の自分で買って読む人=購読者
・2と3の両方を含む人=非購読者
という購読者・非購読者に2分して、
それぞれの消費行動の特徴を見ると大きな違いが
あることが最新の調査でわかっています。
特に興味深いのは以下のような事実。
----------------------------------
・購読者は、非購読者よりも、ファッション・化粧品、
外食・グルメ、旅行、金融・保険商品、乗用車など多様な
商品・サービスに関心が高く、消費行動が活発である。
・購読者は、非購読者と比較して、1カ月に使う金額が、
ファッション、化粧品で約2倍、バッグ・靴、ジュエリー・
アクセサリーにおいては2倍以上。
・購読者は、非購読者よりインターネットの利用時間が短い、
しかし、ネットショッピングの金額は高い。
----------------------------------
わざわざ自腹でファッション誌を買うくらいですから、
「消費が活発なのは当たり前でしょ!」と言われれば、
確かにそうなのですが、調査結果としてきっちり数字で
示せたことが大きい。
インターネットメディアの隆盛によって、
相対的に紙メディアの価値低下が顕著ですが、
少なくとも、女性ファッション誌については、
その価値が見直されるべきなことは明らか。
なぜなら、女性誌読者、とりわけ購読者は、
自社商品をたくさん買ってくれる可能性が高い、
企業にとってはありがたいお客さんであり、
そしてまた、トレンドを牽引するトレンドセッター、
オピニオンリーダーです。
そうした方に効率的にリーチできるのが
女性ファンション誌と言えるからです。
さて、女性誌の購読者と非購読者に
これほどまでに大きな差が開いたのは、
おそらくこの10年ほどのことだと思います。
経年比較ができないので推測になりますが、
ひとつはネットの浸透が両者の差を広げたのでは
ないか、ということ。
ネットが「誰でもメディア」になることにより、
紙メディアをわざわざ買わなくても、
ネットで十分だと割り切る人が増えました。
(これは雑誌だけでなく、新聞含めあらゆる
紙メディアに起きていますが)
一方で、周囲に差をつけられる、価値のある編集
された情報はネットではなく、まだまだ紙でしか
得られないと考える、本当の意味で情報感度の高い人が
女性誌を購入し続けている。
(ですから、多面的な情報収集・消費活動で忙しい購読者は、
ネットばかりやってる時間はないため、非購読者よりネット
利用時間が短いのでしょう)
以上のことから、女性誌を買う人、買わない人で
その消費性向の格差が近年ますます広がっているのでは
ないかと思うのです。
もうひとつ、女性誌自体の変化もあります。
30年にわたって女性誌を研究している、
日本大学教授、仲川秀樹氏によれば、
“70年代から80年代にかけては、女性誌はファッションの
参考書のようあものでした。読者は女性誌が提案する
世界観に憧れを抱き、そのスタイルを日々のコーディネイト
の参考にしていました。”
(中略)
“しかし、95年以降、雑誌が細かく分化し、それぞれが独自の
スタイルを提案するようになっていきます。すると、読者は
自分の趣向と位置する雑誌に登場するモデルを理想として、
彼女たちが身につけている洋服を店頭で指名買いすることも
増えました。”
“女性誌が提案するファッションがよりリアルになったことで、
雑誌の講読と商品の購入がより直接的につながったといえます。”
実際、女性誌に限りませんが、
紙媒体がある種、「通販カタログ」化する傾向が見えていますね。
ですから、女性誌は、ますます「消費する気のある人」の
ためのメディアになっているわけです。
前述したように、最終的には自社製品を買ってもらいたい
広告主たる企業にとっては大変効率が良いメディアであると
言えるのではないでしょうか。
とはいえ、現実には女性誌の多くは、
広告収益の持続な低下に苦しんでいます。
この不振の原因は、ひとつには
ご紹介した調査のような形で女性誌の媒体価値を
明確に示せてこなかったことがあります。
もう一つは、広告主・広告会社としては、
さまざまな媒体の特性を比較検討して
メディアミックス、ビークルミックスを行ないたい
にも関わらず、個別媒体間の相対比較(実売部数とか
だけでなく、今回のような定性寄りのデータも含めた)
ができないことがあります。
実は、媒体側(出版社)としては、
こうした相対比較が行なわれることに対して
躊躇しているというか、抵抗があるのです。
「(うちはうち)他と比べられたくない」
という意識がある。
しかし、そのことが結局、
自分たちの首を絞ることにつながっているのです。
ファッションのネット販売の雄、「ZOZOTOWN」が
女性に大人気となり、急成長している背景には、
多様なファッションブランドの仕様や写真をそのまま
利用するのではなく、ZOZOTOWN独自の基準に基づいて、
データを整備し、横串で「比較検討」できるようにして
いる点にあることを、女性誌業界の人たちも学ぶべき
かもしれません。
本文中でご紹介した調査結果は、
エムズコミュニケイト、大日本印刷(DNP)、
主婦の友社が行なった共同調査に基づきます。
http://www.emscom.co.jp/media_detail_63.html
●エムズコミュニケイト
http://www.emscom.co.jp/index.html
日大教授、仲川秀樹氏のコメントの出所:
「研究室へようこそ」(宣伝会議2011.2.15)
投稿者 松尾 順 : 14:16 | コメント (0) | トラックバック
瞳孔と表情で読む好意度
以前から、心理学の実験などで、
「人は興味のあるものを見ると瞳孔が拡大する」
ということがわかっていました。
好みの男性を見ている女性の瞳が、
キラキラと輝いて見えるのは瞳孔が物理的に
拡大しているからなんですよ~
さて、昨日の日経新聞(2011/02/20)の記事によれば、
従来、測定が困難だった「瞳孔の拡大度合い」を
正確に測定できる装置が開発されたようです。
開発したのは、特殊映像を手がける
「ナックイメージテクノロジー」と、五感の研究を
行なっている「夏目総合研究所」の研究チームです。
この装置の面白いところは、
瞳孔の拡大度合いだけでなく、目、眉、口元など
顔の12カ所の動きをカメラで捉え、注視している
対象物への「好意度・非好意度」を測定できる点。
瞳孔は、好きなものだけでなく、
危険なものや、怖いもの、嫌いなものなど
を見た時も拡大します。
しっかり目を見開いて、
対象の動きを追い、ヤバイと感じたら、
すぐに逃げたりできるように。
ですから、瞳孔の拡大度合いと同時に、
顔の表情が、
・緩んでいるのか
・険しくなっているのか
を測定する必要があるというわけです。
例えば、お笑い番組が好きな人にビデオを見せて、
好きなタレントが出てくると、瞳孔が開くと共に、
表情が緩みました。(つまり微笑んだということでしょう)
一方、嫌いなものを見ると、
瞳孔は広がるけれど、表情は険しくなる。
ですから、瞳孔拡大度合いと表情の変化の両方を
把握することによって、人が見ているものに対する
「好意度・非好意度」
が直接聴かなくてもわかるというわけ。
研究チームはさらに踏み込んで、
・喜び
・悲しみ
・驚き
・恐れ
・怒り
・嫌悪
の6つの感情に分けて判定できる手法を
開発中とのこと。CMやパッケージ(包装デザイン)
に対する評価手法として将来の実用化が楽しみです。
「fMRI」を活用するニューロマーケティングほど
大掛かりにならなくて済みそうですし。
投稿者 松尾 順 : 13:11 | コメント (0) | トラックバック
知的かつ芸術的活動
現在取り組んでいる、
「英語で学ぶベーシック・マーケティングリサーチ」(2月27日)
の講義資料づくりの参考本のひとつとして、
『Marketing Research Kit for Dummies』
を採用しています。
本書によれば、
“マーケティングリサーチは、知的かつ、芸術的活動である。”
Marketing research is both an itellectual and Artistic activity.
とのこと。
マーケティングリサーチが、
「知的(Intellectual)」
であるのは当然として、
「芸術的(Artistic)」
でもある、と書いてある日本のリサーチ本は、
私の知る限りありません。
なぜ、知的かつ芸術的活動なのでしょうか?
前掲書では、次のように説明されています。
(英文は省略します)
“マーケティング上の問題を解くためには、
必要な情報を取得し、それを適切に解釈しなければ
ならない”
“それには、創造性、芸術性、そして注意深い思考が
必要とされるのだ”
マーケティングリサーチにおいて、
とりわけ「創造性」や「芸術性」が必要となるのは、
調査結果の「解釈」の段階においてです。
もちろん、どんなデータが必要なのか、そして、
そうしたデータを正確に取得するために、どんな調査方法が
適切かといった調査の「企画」段階においても、深い知識と
経験に基づく創造性や芸術性が役に立ちます。
しかし、分析結果の「解釈」ほど、
創造性、芸術性が必要とされる段階はありません。
なぜなら、ひとつの結果から多様な解釈ができるため、
ある意味曖昧で、解釈者の「主観」に大きく左右されるからです。
非常に単純な例ですが、
ある製品の認知率が35%という結果に対して、
「35%‘も’認知率があるのか」
「35%‘しか’認知率がないのか」
という真逆の2つの解釈が可能ですよね。
この場合に、‘も’なのか、‘しか’のどちらが
適切な解釈なのかは、データそのものでは判断できず、
市場環境や消費者意識など、データ以前の
「環境・背景情報」や「歴史」、さらには
分析者の「経験」など基づいて行なわれるものなのです。
ですから、論理的な推論に基づいて明快な「解」を
求めることのできる科学の枠を超え、芸術の領域に
踏み込まざるを得ないことがおわかりでしょう。
まあ、マーケティングそのもの、経営そのものが、
科学であり芸術です。
科学、芸術の両輪をうまく回す必要がある。
これは、人、人で構成されている社会を相手に
している以上、心得ておくべき要諦と言えます。
以上は、昨晩のFBページ・ノートに
書いた内容をもとに再考してみました。
*Marketinglishページ・ノート:
Marketing Researchはどんな活動か?
投稿者 松尾 順 : 12:20 | コメント (0) | トラックバック
探索的調査と検証的調査
「探索的調査」は、
新製品開発や既存商品の改善などを目的として、
消費者の消費実態やニーズを探るために行なう調査。
一方、「検証的調査」は、
新商品やリニューアル商品が上市されてから一定期間後、
販売状況や実際の購入者層などを把握し、新たな打ち手
(施策)を立案するために行なう調査です。
私はマーケティング・リサーチャーとして、
「探索的調査」、「検証的調査」のどちらもやらせて
いただく機会があります。
一般的に申し上げて、「探索的調査」は積極的に
行なうけれど、「検証的調査」は重要性が低く、
予算もあまり割かない企業さんが多いようです。
まあ、「検証的調査」は振り返り作業です。
「予習」には力を入れても、
「復習」にはあまり熱心になれない気持ちは
わかりますが・・・
しかし、「検証的調査」も、
実際、とても価値のある業務であることが
わかってもらえる事例がありました。
(「西川英彦の目」、日経産業新聞、2011/02/10)
ハウスウェルネスフーズが
昨年(2010年)5月に発売した新製品、
‘C1000 ビタミンレモンコラーゲン’
は、美肌を意識する女性の取り込みに成功。
「美容リフレッシュ飲料」と呼ばれる
新市場を開拓しました。
上記商品は、同社ロングセラー
‘C1000 ビタミンレモン’
のブランド拡張ですね。
同社は、近年販売が微減傾向にあった
既存商品‘ビタミンレモン’の状況を打破するため
探索的調査を行いました。
その結果、健康飲料市場において、
「女性美容」
の機能が重視されていることが
わかったのです。
そして、この機能を発揮できる成分として、
「ビタミンC」、そして次に「コラーゲン」が
あることから、コラーゲンを用いた
‘C1000 ビタミンレモンコラーゲン’
が開発されたというわけです。
興味深いのは、
発売後の「検証的調査」によって、
女性だけでなく、美肌を意識する男性層に
対しても、同製品に対する一定の需要が
生まれていることがわかった点です。
男性も以前と違って、若年層中心に
随分とおしゃれになり、「見た目」を
気にするようになってきています。
また、中年男性でも、
年を取ると肌のかさつきが気になりだし、
ほってはおけない気持ちになるとういうのは、
私自身が実感しています(笑)
さて、検証的調査によって、
ビタミンコラーゲンが男性にもよく売れていることが
わかったわけですが、購入される理由は、実は
容器の「色」にあったのです。
従来のコラーゲン飲料の容器は、
赤やピンク主体の色合いにしてあり、
明らかに女性だけを意識したものでした。
赤やピンクの飲料は、
人に見られるのがちょっと恥ずかしくて
男性は買いにくいもの。
しかし、ビタミンコラーゲンは、
薄い緑色をしています。
ですから、ビタミンコラーゲンなら
男性も‘恥ずかしくなく’購入できる。
これが男性にも売れている理由だったのです。
ひょっとしたら、「薄い緑」という寒色系の
容器にしたことで、主対象の女性層には、
ビタミンコラーゲンが多少とも敬遠されている
可能性もあるかも知れません。
でも、そもそも好調に売れ続けているわけですから、
容器の色はたいした障害にはなっていないことが
明らかです。
そして、検証的調査をしっかりやることによって、
今後、男性層も視野に入れた製品を開発するなら、
赤やピンクといった暖色ではなく、
寒色系を採用することが有効という知見が
得られたことは大きい。
企業の皆さん、ぜひ「探索的調査」だけでなく、
「検証的調査」にも力を入れてくださいね!
投稿者 松尾 順 : 12:53 | コメント (0) | トラックバック
心の満足度
あなたの会社では、
お客さまが自社の製品やサービスに、
どの程度満足してもらえているかを訊く
「顧客満足度調査」
を実施していますか?
顧客満足度調査の結果をうまく活用すれば、
製品・サービスの改善を効果的に行なうことができ、
顧客の定着率を高め、新規客の増加にもつなげる
ことができますね。
ただ、従来の顧客満足度調査の項目だけでは、
顧客との関係性を深めていくための施策改善には
不十分なものになりつつあります。
つまり、欠落しているものが
現状の満足度調査にはあるということです。
従来の満足度項目は、
典型的には以下のようなものです。
・この製品の品質には満足していますか?
・この製品の機能(それぞれについて)満足していますか?
・製品の使いやすさには満足していますか?
・製品の価格には満足していますか?
・店員(営業パーソン)の対応には満足していますか?
このような項目はもちろん必須なのですが、
これらは、基本的に理性的な満足度、
つまり、頭で考えて満足かどうかを判断して
もらう項目・訊き方になってしまっているのです。
すなわち、こうした項目は、
「頭の満足度」を訊いていると言えます。
そして、欠落しているのは、
「心の満足度」
とでも呼べる項目や訊き方です。
これは、
・この製品はあなたに癒しを与えてくれますか?
・この製品はあなたを楽しい気分にしてくれますか?
・この製品はあなたを元気にしてくれますか?
・この製品はあなたを誇らしい気持ちにしてくれますか?
といった、感情・情緒的な評価のことです。
前述した「頭の満足度」の対象は、
多くの場合、機能、品質、価格など客観的に
判断できる要素が中心になっています。
また、「満足したかどうか」という訊き方に
対する答えは、事前期待と比較しての、
あるいは購入価格と比較しての相対評価に
なります。
しかし、癒してくれる、楽しくなる、元気にしてくれる
とった製品の利用が喚起する感情は、何かと比較する
するものではなく、自然に生まれてくる絶対的な評価です。
しかも、頭の満足度よりもはるかに主観的なものです。
どの程度「癒し」になっているかを測定することは
簡単ではありません。
現代は、製品の品質、機能、価格などについては、
どの製品も大差がありませんから、そうしたものに
対する「頭の満足度」の有効性、利用価値は
低下しつつあるといえます。
一方、(再)購買の決定要因としての重要性が
増しているのが、「感情的・情緒的評価」なのです。
これは、パッケージデザインのような、
感性に訴える要素や、いわゆる「ブランディング」
によって形成・管理されるブランドイメージと強い
関連性があります。
ですから、これからの満足度調査のあるべき姿は、
・頭の満足度
・心の満足度
の両方をバランスよく聞くことが必要になってくると
言えるでしょう。
人は、理性的な評価と感情的な評価の両方で、
製品・サービスの購入・利用を決めているからです。
投稿者 松尾 順 : 12:39 | コメント (1) | トラックバック
Webアナリスト養成講座 - Web Analytics: An Hour a Day -
今日は、
「Webサイトの調査・分析」
について書かれた、
現時点では最強!と言える教科書(翻訳書)
をご紹介します。
この本のタイトルは、
『Webアナリスト養成講座』
(原題:Web Analytics: An Hour a Day)
アビナッシュ・コーシック著、
衣袋宏美監訳、内藤貴志訳、翔泳社
です。
なお、「Webサイトの調査・分析」は、
「Web Analytics」(ウェブ・アナリティックス)
と世界的には呼ばれています。
ここでは、シンプルに和訳して、
「ウェブ分析」
と呼ぶことにします。
さて、欧米、そして日本でも一般に、
「ウェブ分析」
と言うと、
「アクセスログデータ」
などを収集して集計・分析を行う、
「ページ遷移分析」(ページ閲覧状況の分析)
のことを指します。
しかし、同書の著者、コーシック氏によれば、
ページ遷移分析はウェブ分析の
“ほんの一部分”
にしか過ぎません。
逆にいえば、ページ遷移分析では、
不十分であるということです。
なぜ不十分なのでしょうか?
それは、ページ遷移データは、
・サイト訪問者がどのページを見たのか
・どのくらいの間滞在したのか
・どの商品を購入したのか
といったこと、すなわち
「WHAT(何が起こったのか)
しかわからないからです。
欠けているのは、
「What(何が起こったのか)」
の背景にある
「Why(なぜ起こったのか)」
のデータです。
具体的に言えば、
・サイト訪問者は、なぜそのページを見たのか
・なぜ、サイトにそれだけ長く(短く)留まったのか
・なぜその商品の購入に至ったのか
といった訪問者の意識、感情、欲求などの
「心理状態」
についての洞察が、
ページ遷移分析からでは
ほとんど得られないのです。
ですから、
ウェブ分析のためにはできれば、
「What」と「Why」
の両方のデータを揃えるべきです。
そうすれば、より望ましい結果
(リピート率や購買率の向上など)
を得るために、
Webサイトをどのように改良すべきか
という具体的なアイディアを生み出すこと
が可能になります。
以上のことは、
アクセスログ分析結果のレポートしか
見たことのない方には、実感として
ご理解いただけるのではないでしょうか?
“ログ分析で現状はわかった・・・
でも、実際にどうサイトを改善すればいいのか、
レポートの数字だけ眺めてもさっぱりわからん!”
こんな風に嘆いたことはありませんか?
もちろん、ログ分析の結果からだけでも、
サイト訪問者の心理をある程度推測は可能ですが、
その推測が果たして正しいものであるかどうかを
検証することができません。
ですから、コーシック氏は、
「What」に加えて「Why」に関わるデータの
収集・分析を重視しており、
・顧客満足度調査
・ユーザーテスト
・アンケート調査
など、サイト訪問者の生の声を集めることができる
各種定性調査・定量調査をページ遷移分析と組み合わせて
行うことを提唱しています。
つまり、コーシック氏の考える
「Web分析」(Web Analytics)
とは、ページ遷移分析にとどまらない、
様々な調査・分析法を組み合わせた
「包括的な仕組み」
なのです。
コーシック氏は、
この包括的な仕組みを詳述するに当たって、
「三位一体法」
という新たな枠組み・切り口を提示しています。
「三位一体法」の目的は、
具体的な行動(端的には「成果につながる顧客行動」)
に結びつく「洞察と指標」を得ることです。
ここで「洞察」とは、
改善のための具体的なアイディアのこと、
「指標」とは、行動を定量的に把握できる数値
のことだと理解してもらうといいでしょう。
そして、Webサイト担当者は、
三位一体法で得られた
「洞察と指標」
を活用することによって、
自社のWebサイトの
戦略的な差別化と永続的な競争優位性
が実現できるとコーシック氏は述べています。
さて、三位一体法とは、
以下の3つの要素のことです。
-------------------------------------------
1.行動分析
従来の「ページ遷移分析」を主体とする「What」の分析
2.成果分析
売上、リピート率、コンバージョン率など、いわゆる
「KPI(Key Performance Indicator:主要成果指標)」の分析
3.エクスペリエンス分析
「Why」のデータが得られる各種調査・分析
(前述した顧客満足度調査、ユーザーテストなど)
---------------------------------------------
コーシック氏は、上記3つの要素のうち、
・「成果分析」は義務的なもの
と述べています。
なぜなら、成果分析は、
なんのために(どんな成果を上げるために)
Webサイトが存在しているのか
ということに端的に答えるものだからです。
これに答えることができなければ、
Webサイトの存在を説明できませんよね。
だから義務的なものなのです。
一方で、
・エクスペリエンス分析は最も重要なもの
と指摘しています。
なぜなら、
“エクスペリエンス分析を使えば、
顧客の考えていることが手に取るようにわかり、
なぜそのような行動を取るのかについて
洞察とひらめきを得られるから”
です。
私自身、マーケティング・リサーチャーとして、
これまで、様々な業種・業態のWebサイトを
対象とするウェブ分析を多数行ってきました。
その中で、実際に適切なサイトの改善を行い、
狙い通りの成果を出すことに成功しているのは、
コーシック氏の言う
エクスペリエンス分析
を重視し、相応の予算を割いている企業です。
本書は、邦題が
「Webアナリスト養成講座」
とあるように、
「分析実務」に役立つ専門的な内容が
含まれています。
したがって、分析担当以外の方には、
ちょっと難しい箇所もあります。
それでも、「三位一体法」のような、
ウェブ分析における基本的な考え方は、
企業の役員クラスの方にもぜひ理解して
おいてもらいたいことです。
ですから、Webアナリストの方は本書を読むだけでなく、
ウェブ分析の意義や役割を社内、とりわけ上層部に
理解してもらえるよう、コーシック氏の説く、
「三位一体法」
の考え方をぜひなんらかの形で伝えていくことを
お勧めします。
『Webアナリスト養成講座』
(原題:Web Analytics: An Hour a Day)
アビナッシュ・コーシック著、
衣袋宏美監訳、内藤貴志訳、翔泳社
投稿者 松尾 順 : 16:40 | コメント (5) | トラックバック
アサヒビールの「目利き調査」
アサヒビールでは近年、
ビール系の新製品を出す際に、
「目利き調査」
を必ずやることになっているそうです。
「目利き調査」の協力者である一般消費者は、
新製品の「プレスリリースの内容」を見ただけで、
当該製品が売れるかどうか
を高い精度で判断できる人たち。
アサヒビールでは、こうした、いわゆる
「目利き」
の人たちをオンラインで組織化し、
新製品の早期の需要予測に活用しています。
例えば、「クリアアサヒ」は、
目利き調査の結果によれば、高い確度で、
ヒットすることが予測されていたそうです。
さて、当調査の、
実際の調査内容は以下の通りです。
--------------------------------
[発売前調査]
・当該商品が売れるかどうかの判断をしてもらう
・当該商品の評価ポイントや印象を聞く(自由回答)
[発売後調査]
・発売後の商品評価を同一人物に再度行ってもらう
---------------------------------
アサヒビールの委託を受けて、
目利き調査の研究を担当したのは、
慶応大学商学部教授、清水聰(あきら)氏。
清水氏によれば、
従来の新製品の需要予測調査には、
次のような問題がありました。
・発売後13-26週間の実売データからわかる
「トライアル率・リピート率」
に基づく予測精度は高いが、コンビニなどでは
売れ行きが良くないと4週間ほどで撤去されて
しまうため、発売早期での予測はできない。
(13週間以上も店頭に置かれている時点で既に
ヒット商品である・・・)
・そもそもどんな人が買っているのか、
またなぜ買っているのかがわからない。
しかし、目利き調査の場合、
プレスリリースの段階で新製品の売れ行きを
予測することができます。
目利きの人たちが「売れる」と判断した商品が、
発売後どの程度売れたかを検証した結果を見ると、
相関係数:0.91
という商品もあり、予測精度は極めて高いそうです。
したがって、発売初期における生産過剰や、
逆に品不足による機会損失のリスクを低下させる
ことが可能です。
また、競合他社の新製品の売れ行き予測だけでなく、
その商品のターゲット層や評価のポイントなども
把握できるため、競合対策を踏まえた自社新商品の
改良やコミュニケーション施策の修正にも十分間に
合う可能性があるのです。
ところで、目利きな人たちは、
商品カテゴリーに関わらず買い物好き、新製品好き。
つまり、豊富な消費経験を持っていることに加えて、
当該商品カテゴリー(例えばビール系飲料)に
詳しく、単に「自分なら買う」という主観的な判断だけでなく、
「自分は買わないけど、大衆には受け入れられるだろう」
といった客観的な判断ができる人たちだと、
清水氏は指摘しています。
なるほど・・・!
私に言わせると、目利きな人たちとは、
的確な批評眼を持つ
「プロの消費者」
とでも呼べる方々ですね。
考えてみれば、従来の新商品に対する消費者調査は、
基本的に、無作為抽出した消費者を対象として調査を
行ってきましたが、その予測精度や信頼性は必ずしも
高いものではありませんでした。
おそらく、こうした調査の予測精度や信頼性が
高くなかった理由としては、調査対象者に、
よく考えず、衝動的な理由で買ったり、漠然と購入
してしまう、
「アマチュアな消費者」
が多く含まれていたからではないかと、
私は考えています。
アマチュアな消費者は、十分な評価能力を持たないため、
たとえ新商品を見たり、また実際に試してみたとしても、
感覚的判断や思いつきだけで商品評価をしてしまうのです。
そして、「買いたい」と調査では答えておきながら、
発売後に購入することはほとんどしない・・・
ところが、プロの消費者は、
新商品のコンセプト、ネーミング、パッケージング
など様々な視点から的確に良し悪しを判断し、
大衆に受け入れられるかどうか
を総合的に評価できる力を持っている。
アサヒビールの「目利き調査」では、
こうしたプロの消費者に絞って組織化することで、
新製品需要調査の予測精度、信頼性を高めることに
成功したと言えますね。
さて、アサヒビールでは6月16日に第3のビール、
「アサヒ 麦搾り」
の9月15日発売が予告されたばかり。
当然、麦搾りも目利き調査をパスした商品で
しょうけど、果たして売れるでしょうか?
今回の記事は以下の講演内容を元に作成しました。
「[目利き][聞き耳][死神]の消費行動」
清水 聰、慶応大学商学部教授
投稿者 松尾 順 : 16:44 | コメント (4) | トラックバック
ちょっと気になった最近の喫煙行動の変化
最近、タバコを吸う人、
ほんと少なくなりましたよね・・・
10数人集まった飲み会で、
ふと気づくと、誰もタバコを手にしていない。
いたとしてもせいぜい1人。
なんだかとっても肩身が狭そうです。
まあ、周囲を気にせず、
泰然と吸ってる人もいますけどね。
ちょっと気になったので、
「平成20年JT全国喫煙者率調査」
の結果を見てみたら、平成20年(2008年)現在の
成人男性の平均喫煙率は39.5%、成人女性は同12.9%
ということでした。
成人男性の喫煙率のピークは、
昭和40年以降では83.7%(昭和41年、1966年)。
約40年前と比較すると、半減しているんですね。
それでも、現在でも喫煙率約40%ということは、
男性の2人に1人弱は吸っているわけです。
ちょっと実感と合わない感じ。
というのも、あまり吸わなさそうな若い人たち、
つまり20代男性の喫煙率は、むしろ全体平均より高く、
50%を超えているのですよ。
逆に印象より低いのは60代(30%強)、50代(50%弱)の男性。
健康を気にして止める人が増えているということですかね。
というわけで実感に合わないのは、
自宅などでは吸っているけど、それ以外では、
吸える場所がどんどんなくなってきたし、
周囲に遠慮して我慢している(あるいは隠している)人
が多いということでしょうか。
そういえば、
未成年の喫煙経験もやっぱり低下しているのだろうな・・・
と思って興味本位で調べてみましたが、
さすがに全国的な調査は見つかりませんでした。
ネットで検索してなんとか見つけた、
秋田市周辺の15の高校の生徒対象の調査をご紹介すると、
高校3年男子の喫煙経験率(1度でも吸ったことがある)は、
・1999年→50%
・2005年→21%
と半減以上。
*喫煙経験率は、タバコを吸ってみたことがあるという数字
であり、必ずしも喫煙を常用・継続しているわけではない点、
ご注意ください。
わずか10年前でも、
高校3年生ともなれば男子の2人に1人は
タバコを試したことがあったのに、最近は
5人に1人しか経験してないのですね。
女子の場合も、3年生の喫煙経験は、
約30%(1999年)から、10%強(2005年)とやはり半減。
おそらく、全国的にも同じような傾向でしょう。
未成年の喫煙経験が低下した理由ですが、
タバコの健康に対する悪影響についての心配以上に、
「大人の象徴」としてのタバコの価値・魅力が
低下したからでしょうね。
子どものころは、
ちょっと背伸びしたいという気持ちから、
大人の真似をしたくなるもの。
その一つとして、
こっそりタバコを吸ってみたくなったわけです。
(私もそうでした)
でも、もはや吸う大人をほとんど見かけないし、
あんまりカッコイイものでもなくなったので、
子供たちも真似をする気がしないんでしょうかね。
ところで、ご存知の方も多いと思いますが、
こうした全体的なタバコ喫煙率の低下傾向に反して、
上昇傾向にあるのが女性の喫煙率です。
特に増加傾向が顕著なのがが20代、30代の女性。
まだ20%を超えた程度ではありますが、
今後も増加し続けるのでしょうか?
また、なぜタバコを吸う女性が増えてるんでしょうね?
(ダイエット目的というのはよく聞きますけど・・・)
投稿者 松尾 順 : 11:30 | コメント (2) | トラックバック
高校1年生のメディア接触
宣伝会議最新号(2009.5.15)に、
高校1年生(16歳)のメディア接触状況の記事が
掲載されていました。
あくまで、1人の女子高生の1日を
追ったものにすぎませんが・・・
で、ある1日の主要メディアの接触時間は以下の通り。
・テレビ:54分
・ラジオ:0分
・新聞:2分
・雑誌:0分
・PC:2時間30分
・ケータイ:1時間30分
これを見て、「オオっ」と思いました。
我が家の高1の娘も、
ほぼ同じような状況だったからです。
もちろん、べったりと娘の行動を
追っているわけではありませんが・・・
イマドキのティーンズの主要メディアは、
ケータイとPC。もはやテレビではないのです。
わが娘の場合、
ケータイはメール主体での利用のようです。
一方、PCでは、
フリーメールでのやり取りに加えて、
ゲームやニコニコ動画等を楽しんでいます。
また、アマチュアが初音ミクで作曲した
音源をダウンロードしてiTunesに取り込み、
iPodで聞いていますね。
彼女のケータイの利用は主に外出時。
自宅では、家族共有のPCながら、
けっこう長時間利用しています。
同じ目的(調べものとか、動画試聴とか)なら、
画面も大きくて使いやすいPCを使っている。
目的・用途に応じてケータイとPCを
うまく使い分けていることがうかがえます。
テレビについては、
お笑い番組を主に観ているようですが、
私たちの頃のように、だらだらと
何時間も見るということはしませんね。
アルバイトで忙しいこともあり、
HDDプレーヤーでタイマー録画して、
本当に見たいものだけを厳選しています。
さてさて、こうしたケータイ/PCネイティブ世代が
大人になった時、メディアの価値とか存在感は
現在よりもさらに大きく変化しているのでしょうね!
投稿者 松尾 順 : 12:14 | コメント (0) | トラックバック
ニールセンのニューロマーケティング新手法
私がマーケティングの世界に踏み込むきっかけとなったのは、
24歳の時入社した世界最大の調査会社、
「ニールセン」(Nielsen)
の日本支社です。
当時、ニールセンの主力事業は、
全国の大手スーパーやコンビニエンスストア、
ドラッグストア、薬局・薬店、化粧品店、酒店、タバコ店
などの「小売店パネル」を使った
「消費財の販売動向調査」
と「テレビ視聴率調査」の2つ。
私は、消費財の販売動向調査の部門に属し、
フィールド調査員の仕事から始め、後に商品データベースの
運用・管理や、POSデータに基づく販売動向レポーティング
サービスの開発プロジェクトに関わったりしました。
さて、現在は、組織体制も事業内容も。
すっかり様変わりしたニールセンですが、最近、
「米ニューロフォーカス社」
を買収して、ニューロマーケティングの分野に
参入しています。
「ニューロマーケティング」とは、
簡単に言えば、脳内の変化を直接測定することで、
消費者の広告などへの反応をより正確に把握しようと
するもの。
ニューロフォーカス社の測定手法は、
一般に用いられている
「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)
ではありません。
「EEG」(エレクトロエンセファログラム)
という装置です。
「EEG」の場合、実験に協力する被験者は、
頭全体を覆うニット帽のような帽子をかぶります。
この帽子には、64個のセンサーがつけてあって、
脳内の64部位の「脳波」を1秒当たり
2,000回
測定できるのだそうです。
fMRIではなく、EEGを利用するメリットは、
ひとつは「脳波」を測定するため、
「脳内の血流」
の変化を測定するfMRIと違って、
広告などの外的刺激に対する反応における
時間的ずれ
が発生しにくいこと。
もう一つは、帽子をかぶるだけなので、
普段の生活に近い、自然な状態で測定テストを
受けることができる点です。
fMRIの場合、巨大な装置の中に、
横たわった形で入らなければならないため、
普段とは異なる不自然な環境での実験となります。
例えば、清涼飲料水を飲む時の脳の反応を探りたい場合、
横になっているので、ストローで飲んでもらうしかない
といったことになるのです。
さて、EEGで測定する指標は以下の3つです。
・注意力 Attention
・感情移入度/関与度 Emotional Engagement
・記憶保持度 Memory Retention
すなわち、広告などを見た時に、
・どれだけ注意を引かれたか
・どれだけ感情が動かされたか(関心や意欲が高まったか)
・どれだけ記憶に残ったか
の3つの視点で脳内の変化を見るということですね。
ちなみに、この3項目は、
ニューロマーケティングの手法以前から行われてきた
「消費者アンケート調査」
による広告評価でも当然ながら必須測定項目でした。
なぜなら、広告制作サイドとしては、
「AIDMA」
の考え方に基づいて表現を考えるからですね。
A → Attention(注意)
I → Interest(関心)
D → Desire(欲求)
M → Memory(記憶)
A → Action(行動)
以前の私のニューロマーケティングでも指摘しましたが、
調査票(質問紙)によるアンケートで、
・注意力 Attention
・感情移入度/関与度 Emotional Engagement
・記憶保持度 Memory Retention
といった項目を自分で判断して答えてもらうのは
限界がありました。
自分自身のこととはいえ、
反応の強さを正確に答えるのは難しいですからね。
末尾に示した日経ビジネスオンラインの記事では、
日経ビジネスの記者が被験者になってEEGによる実験を
受けてみた様子が動画で見ることができます。
実験を受けた記者自身は、
あまり自覚できていませんでしたが、
脳波の動きを示すグラフを見ると、
視聴した広告に対する反応の強弱の変化が
一目瞭然!
広告のどのあたりが改善すべき点であるかが
把握しやすい調査結果が得られることがわかります。
消費者の立場としては
ちょっと怖いというか、いやだなあという不安が
よぎりますが、マーケターとしては実に興味深い。
バナー広告のニューロマーケティングによる
評価などぜひやってみたいです。
(参考)
*特集「ニューロマーケティング」は万能か
(宣伝会議、2008.12.1)
*ニールセン・カンパニー
http://jp.nielsen.com/site/index.shtml
(過去関連記事)
投稿者 松尾 順 : 16:09 | コメント (1) | トラックバック
花粉症はガン予防に効果あり?ハァ?
年が明けて、
花粉症の季節も近づいてきましたねぇ・・・
私も以前より症状が軽くなったものの、
毎年、花粉症に悩まされるひとりなので戦々恐々です。
さて、以下は先日掲載された、
ダイヤモンドオンラインの記事タイトルです。
日本の国民病「花粉症」に、
“ガン予防の効果あり”という意外なメリット
このタイトル、素直に読むと、
「花粉症になれば、ガンが予防できる」
と「花粉症」と「ガン」の間に因果関係があるように
解釈できてしまいますよね。
記事の内容を読むと、
実際のところはそんなことではありません・・・!
花粉症のようなアレルギー疾患は、
通常は無害な物質や刺激に対して「免疫システム」
が過剰に反応するために発生するもの。
つまり、
免疫システムが敏感すぎる
ということです。
こうした敏感な免疫システムを持っている人
すなわち、「アレルギー症状を持つ人」は、
通常細胞が異常細胞化した
「ガン細胞」
を早めに察知して撃退する能力も高い。
このため、ガンになりにくいと考えられているそうです。
まあ、花粉症患者にとっては、
「症状」は軽くならないものの、
少なくとも「気分」は軽くしてもらえる記事です。
ただ、当該記事のタイトルは
なんともミスリーディングなものですよね。
上述したように、
「免疫システムが敏感である」
(=体内の異常物質に対する監視機能が強い)
という共通の「原因」によって
・花粉症になる(アレルギーが起きる)
・ガンになりにくい(ガンが予防できる)
という2つの「結果」がもたらされています。
したがって、
花粉症とガン予防の間には、
「相関関係」
(同時に発生や変化が観察される関係)
はあっても、
「因果関係」
(一方が原因で一方が結果の関係)
はないのです。
要するに、花粉症になれば、
ガン予防ができるということにはなりません。
もちろん、当該記事のタイトル、
日本の国民病「花粉症」に、
“ガン予防の効果あり”という意外なメリット
をそのまま素直に受け取った方は、
そう多くないでしょうけどね。
明らかに変ですからね。
しかし、世の中には、
単なる「相関関係」に過ぎない現象について
「因果関係」
があるかのように言われ、
人々がすっかり信じきっていることが
山ほどあります。
マスコミが掲載する記事の場合、
目を引くキャッチーなタイトルにするため、
当該記事タイトルのような、あたかも因果関係が
あるような表現を狙ってつけることが多いのです。
また記事の内容自体も、
明確な根拠もなく、因果関係があるような説明を
されているものをよく見かけます。
ネット記事の場合、特にこの傾向が顕著のようです。
ですから、各種記事のタイトルや内容に、
因果関係について書かれているものがあったら、
「それは本当に原因と結果の関係があるのかな?」
と確実に言えるのかどうか、疑いながら読んでくださいね。
論理的思考能力を鍛える、
よいトレーニングにもなりますよ。
*ダイヤモンドオンライン
知って得する! カラダとココロの「健康ナビ」
第6回(2009年01月14日)
日本の国民病「花粉症」に、
“ガン予防の効果あり”という意外なメリット
投稿者 松尾 順 : 14:43 | コメント (0) | トラックバック
マーケティングメトリックス:オフィスグリコの評価指標
着実にパイを広げているオフィスグリコ。
「オフィスグリコ」は、誰のハートをつかんだのでしょうか?
それは、甘いもの好きの男性会社員のハートでした。
利用者の約7割が男性なのだそうです。
OLの皆さんが、
フィスにあれやこれやとお菓子を持ち込んで食べるのは
以前からの見慣れた風景でしたよね。
でも、男性の場合、オフィスでお菓子を食べたくても、
そもそも近くのコンビなどでお菓子を買うことに対して、
ちょっと恥ずかしいという気持ちがあり、結局我慢してたのです。
(私は割合平気でしたが、やはり多少の抵抗ありました)
しかし、オフィス内にお菓子ボックスが置いてあれば、
気楽に手に取ることができますから!
オフィスグリコが登場した時、
すでに私は会社勤めではありませんでした。
でも、以前よく顔を出していたセミナー会場に1台置いてあり、
そこでは
「ビスコ」
を好んでよく食べてました。
ビスコは今でもやはりおいしい。
しかし、コンビニで買う勇気は今でもありません。(笑)
さて、「オフィスグリコ」という事業運営の評価指標について、
オフィスグリコ担当者は、
“回収率はすべてのバロメーターだ”
とおっしゃってるそうです。
(日経情報ストラテジー、JANUARY 2009)
オフィスグリコは、
お菓子が専用の収納ボックスに入っており、
利用者が好きなお菓子を取り出すことができます。
そして、その代金はボックス上部に突き出している
緑のカエルさんの口に投入する仕組み。
自動販売機ではない無人販売方式であるため、
お金を払わないですますことも可能ですね。
それでも、回収率は
約95%
と高く、お金を払わない人は、
それほど多くないことがわかっています。
面白いことに、
料金回収・商品補充をするスタッフと、
客先の担当者との間に信頼関係が築けているかどうかが、
回収率に影響を与えるそうです。
相互の信頼関係があれば、おそらく
客先担当者が社員に対して支払いを忘れないように
働きかけてくれるんでしょうね。
また、56ある拠点(販売センター)の中で、
回収率が低下しているセンターの現状を調べてみると、
スタッフ間の人間関係に問題があって士気が
下がっていることが多いのだそうです。
では、以上のことを
マーケティングメトリックス
の視点で整理してみましょう。
オフィスグリコ事業のゴール指標が
「回収率」
であることは言うまでもありません。
しかし、回収率はあくまで「結果」です。
回収率を最重要の「バロメター」として把握することは
できますが、コントロールすることはできません。
そこで、回収率に影響を与える要因(原因)として、
・スタッフと客先との信頼関係
がまずあります。
これは、現時点では数値化はされていないようですが、
「顧客満足度調査」(CS調査)
を実施すれば定量的に把握できますね。
そして、さらに遡って、
「スタッフと客先との信頼関係」
に影響を与える要因として
「社員の士気」
があります。
これは、
「社員のモチベーション度調査」
や
「社員満足度調査」(ES調査)
を実施することで定量化できることになります。
規模がまだそれほど大きくないうちは、
定量化しなくてもなんとか対応可能です。
しかし、今後はオフィスグリコでも
中間指標の定量把握が必要になってくるのかもしれませんね。
投稿者 松尾 順 : 12:01 | コメント (2) | トラックバック
数字の解釈:「達している」のか「過ぎない」のか
私はリサーチの仕事を通じて、過去20年間にわたり、
アンケート結果や各種統計データなどの様々な数字を
扱ってきました。
さて、リサーチにおける数字の取り扱いは、
一般には次の3段階で行います。(あえて単純化してます)
1.数字(データ)の収集
2.数字の整理・分析
3.分析結果の解釈(読み取り)
過去の記事でも何度か書いた覚えがありますが、
この3段階で最も難しいのが
3.分析結果の解釈(読み取り)
だと私は考えています。
というのも、
・分析結果からどんなことが言えるのか
・どんな仮説が立てられるのか
はデータ自体に内在しているのではなく、
データを解釈しようとする人(解釈者)の
「意図」や「力量」
によって異なってくるからです。
分析結果の解釈は、ある意味主観的な作業です。
同じ数字に対して与えられた様々な解釈のうち、
どの解釈が正しいのかをスパッと決められないことが
多いのです。
また、解釈者の意図、思惑が強く反映されてしまうと、
その解釈はしばしば誘導的なものになります。
先日の新聞記事(日経産業新聞、2008/12/01)
にもそんなケースを発見しました。
首都圏の地上デジタル放送の支柱となる
東京スカイツリーの完成は2011年。
あと3年あまりに迫ってきました。
当タワーの電波送出アンテナの高さは
550メートルであり、現在の東京タワーの
地上250メートルから300メートルも上昇します。
これにより、
東京メトロポリタンテレビジョン(以下東京MX)
は、東京都内の総世帯数の550万世帯に電波を届けられる
ようになるそうです。(現在は高層ビルなどの陰にあるため、
視聴できない場所があるとのこと)
ただ新たな別の問題が発生します。
それは、県境を越えた
電波の漏れ(スピルオーバー)
が発生してしまうことです。
全国局と違い、
視聴エリアを当該都道府県内に限定する
「県域局」
の場合、他局の放送が自局エリアでも見られるとなると、
自局の視聴率に影響を受けてしまうため、
「スピルオーバー」
にはシビアにならざるを得ません。
端的に言えば、
縄張りはお互い守ろうということですね。
東京スカイツリーでの放送開始を控え、
東京MXとテレビ神奈川(tvk)、千葉テレビ放送、
テレビ埼玉、群馬テレビ、とちぎテレビの県域放送局5局は、
このスピルオーバー問題について議論を重ねてきました。
しかし、なかなか合意に達しません。
5局は、東京MXに対して
「県域局としての放送エリアを逸脱しないようにしてほしい」
という要望書を何度も提示しています。
さて、5局の中でも、
特に受ける影響が大きいのが「tvk」だそうです。
現在の東京MXの計画によれば、
横浜市内の大半で視聴可能となり、
湘南、藤沢でも写ります。
神奈川県内総世帯の60%が
カバーされてしまう見込みです。
ただ実は、tvkを含む関東各県の放送局の電波も
東京都内に漏れており、各局とも自県に加えて都内も
「視聴可能世帯数」
にカウントしてきています。
tvkの場合、世田谷区や大田区を中心に
250万世帯が視聴可能であり、
「tvkは都民にも見られる(放送局)である」
というのは広告(コマーシャル)営業の前提になっています。
つまり、5局も東京MXと「同じ穴のムジナ」で
あるため、あまり強くは言えないわけです。
そこでtvkでは次のような説明をしています。
「先発局としてずっと(都内)で放送してきた。
我々の都内への飛び出しは40%にすぎない」
先発局という点はさておき、
この数字の解釈はかなり苦しいと感じますよね。
40%というカバー率は、
東京MXの現時点での案における、
神奈川県内総世帯数のカバー率60%と比べると、
確かに20ポイント低い。
しかし、果たして
「40%に過ぎない」
と言ってしまっていいものでしょうか。
東京都内の世帯の40%がtvkを視聴可能
という事実だけを見ると、
「tvkが見られる都内の世帯は全体の40%にも達するのか」
というのが正直な解釈ではないでしょうか。
これは利権争いを有利に展開したいという思惑が感じられる
誘導的な数字の解釈の例です。
こうした、当事者の意図が色濃く反映された数字の解釈は、
企業の業績報告や、首相の支持率のような世論調査の発表記事
などでもよく見かけますね。
ほぼ同じ数字であるにも関わらず、ある新聞は、
「・・・に過ぎない」
と書き、別の新聞は、
「・・・に達する」
と書いていることがあります。
この場合、読み手の受ける印象は全く逆になりますから、
やはり「誘導的」な解釈になってしまうわけです。
数字の解釈は多くの場合、
主観的、恣意的であることを頭の片隅に置いて
様々な数字を眺めるようにしましょう。
投稿者 松尾 順 : 14:16 | コメント (2) | トラックバック
マーケティングメトリックスとは?
「マーケティングメトリックス」
とは、マーケティング施策の
「効果」や「効率」
を定量的に、すなわち「数字」で測定する仕組みのことです。
「マーケティングメトリックス」の最大の意義は、
数字を活用してマーケティング施策という企業活動を
‘見える化’
することによって、
マーケティング施策の管理(コントロール)が
可能になる点にあります。
さて、このところ、一般ビジネスパーソン向けに、
・各種データの分析方法
・ビジネスにおけるデータ分析の活用例
などを解説した本が立て続けに出版されていますよね。
しかも、例えば
のような、かなり難しい本がベストセラーになってます。
以前では考えられないことです。
こうした現象は、各種データ、およびその分析に対する
ビジネスパーソンの関心が急速に高まっていることの反映でしょう。
この背景には次の2つの要因があると考えられます。
ひとつには、IT化が進んだおかげで、
ビジネス活動においてデータが次々に生成され、
また、データの入手が容易になったこと
もうひとつは、ビジネスが高度化・複雑化したため、
データを有効活用できない企業は生き残れなくなったことです。
では、ビジネスにおいて、
データの活用はどのように進めたらいいのでしょうか?
基本的には、次のような手順を踏みます。
1. 各種データを分析し、
各種企業活動の意思決定に役立つ知見
(潜在ニーズの発見など)を引き出す。
2.上記知見に基づく実際の企業活動
(製品開発、マーケティング施策等)を
立案し、実行する。
3.上記企業活動の結果をデータ分析を通じて
検証する。
4.検証結果に基づき、企業活動の改善を行う。
以上の手順は要するに、
マネジメントサイクル、すなわち
Plan(計画)- Do(実行)- Check(検証)- Action(改善)
の流れに沿ってデータを活用するということですね。
そして、この手順のうち、
特に「マーケティング施策」を対象として
データに基づく検証を行う仕組みが
「マーケティングメトリックス」
というわけです。
では、「マーケティングメトリックス」で何ができるのか?
それは、冒頭に述べたように、
「施策における各種目標の達成度合い」
を「数字ベース」で把握することです。
おそらく、マーケティング部門の方は、
なんらかの形で施策結果の検証をやられていると思います。
ただし、検証が不十分であったり、
そもそも検証方法がよくわからないため、
有効な検証が行えていないという企業が相当数見られます。
私は、マーケティング調査、データ分析を得意としているため、
クライアント企業のマーケティング施策の検証を数多く手がける
機会がありました。
したがって、
「マーケティングメトリックスの考え方や方法論」
についてある体系化した知識やノウハウを持っています。
今後、「マーケティングメトリックス」については、
このメルマガ&ブログで折に触れてご紹介していきたいと
思ってますのでご期待ください。
なお、ちょっと宣伝になってしまいますが、
にて今秋より、
の講座を開講しています。
年4回ほど開講予定ですので、
興味のある方はぜひご受講ください!
[マーケティングメトリックス参考文献]
・MEASURING MARKETING
103 KEY METRICS EVERY MARETER NEEDS
John Davis著
John Wiley & Sons
*「マーケティングメトリックス」を
メインテーマに据えた和書は今のところないようです。
投稿者 松尾 順 : 16:44 | コメント (0) | トラックバック
ネット視聴率白書2008-2009を読む(8)一般企業(メーカー) サイトのトレンド
『ネット視聴率白書2008-2009』
の内容(一部)をご紹介するのは今回が最後になります。
これまでは、検索エンジンなど、
主にネット上のサービスを展開しているWebサイトのトレンドを
ご紹介してきましたが、今回は、一般企業のWebサイトのデータを
を拾ってみます。
一般企業といっても多様な業種がありますので、
主に一般消費者を対象としているメーカー(車、家電、飲料、
食品・化粧品)に絞りますね。
まず自動車の3大メーカー、トヨタ、日産、ホンダのWebサイト
のアクセスを見ると、3社ともネットユーザーの拡大に伴い
順調に訪問者数を伸ばしてきています。
ただ、トヨタの場合、新車発表前後にはアクセスが
急増するものの、普段の月間訪問者数は150万人前後です。
一方、日産は同200万人前後、ホンダは120-200万人の間で横ばい。
なお、利用者の男女比率は、
上記3社とも男性が70%を超えています。
電機メーカーでは、ソニー(sony.co.jp、sony.jpの2サイト合計)
が、月間訪問者数200万人と最大規模です。
松下電器産業では、panasonic.jp、panasonic.co.jp、national.jp
の3つのサイトを運営してますがそれぞれ120-150万人前後で推移。
東芝は、一時期160万にまで月間訪問者数が伸びましたが、
最近は下降気味で120万人程度になっています。
男女比率についていえば、上記3社の電機メーカーも、
自動車メーカーと同様、男性比率が70%程度です。
飲料メーカーの中では、
サントリーが月間訪問者数200万人前後、
キリンビールは最近低下気味で同150万人程度、
アサヒビールが120万人程度です。
サッポロビールは、最近まで60万人程度で
推移していたのですが、2008年3月に突然倍増して
150万人に迫る伸びを示しています。
(この倍増の理由ははっきりしません。ご存知の方、
ぜひ教えてください!)
男女比率をみると、サントリーとアサヒビールは
全くの同率で男性52.6.6%、女性47.4%とほぼ男女半々です。
キリンビールは男性60%、女性40%と男性の利用者が
多くなっています。また、サッポロビールは、
男性54.2%、女性45.8%と飲料メーカーサイトの中では
中間的な割合です。
さて、ファーストフードで圧倒的なシェアを誇る
日本マクドナルドのWebサイトは、意外にも
月間訪問者数は80-100万人前後と思ったほど多くありません。
ユーザーが若年層に偏っており、
PCよりも携帯によるネットアクセスが多いためでしょう。
実際、日本マクドナルドの携帯サイトに登録して、
携帯クーポンを利用するユーザーは相当数に上り、
競合他社を圧倒しています。
化粧品の最大手、資生堂のWebサイトへの訪問者数も
自動車や飲料メーカーと比較すると意外に少なく、
40-60万人の間で推移しています。
また、当然ながら、資生堂サイトの女性比率は75.9%と、
圧倒的に女性優位です。
一方、日用品から化粧品まで、
多様な一般消費財を製造する花王のサイトは、
最近は80万人前後で推移しています。
女性の比率が66.1%と、
生活に根ざした商品が主体であるだけに
女性の訪問者が多くなっていますね。
では、このぐらいにしておきましょう。
『ネット視聴率白書2008-2009』では、
2ちゃんねるやライブドア・ブログ、mixiといった
CGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)
のサイトのトレンドや、
さらに性別、年齢別の利用比率の高いサイトのランキングなど、
興味深いデータが惜しげもなく公開されています。
インターネット市場のマクロトレンドを把握する上で
非常に価値のある資料だと思いますので、機会があれば
ぜひ本書をじっくり読んでみてくださいね!
『ネット視聴率白書2008-2009』
(衣袋宏美著、翔泳社)
投稿者 松尾 順 : 19:03 | コメント (0) | トラックバック
ネット視聴率白書2008-2009を読む(7)ECサイトのトレンド
『ネット視聴率白書2008-2009』から、
「オンラインショッピング」、すなわち「ECサイト」のトレンド
を拾ってみましょう。
先頭グループを走るのは、
「楽天市場」と「アマゾン」
です。
どちらもブロードバンド常時接続サービスの普及が進んだ
2003年以降に大きく成長しました。
2008年現在で、楽天市場の月間利用者数は、
2,000万人強
で推移。(利用者の伸びは落ち着いています)
一方、アマゾンの2008年3月時点の月間利用者数は
約1,500万人
程度です。
男女利用者比率を見ると、
*楽天市場 男性55.9%、女性44.1%
*アマゾン 男性59.2%、女性40.8%
となっています。
楽天市場の男女比率は、
インターネットユーザー全体の比率とほぼ同じ。
アマゾンは、男性が若干多くなっています。
楽天とアマゾンの利用者数の差、また男女比率の違いの背景には、
楽天市場では、アマゾンとは比較にならないほど多種多様な
カテゴリーの商品が販売されていることがあると思われます。
つまり、楽天はアマゾンよりも幅広い利用者層をターゲットに
できるだけの品揃えを実現しているということですね。
さて、ECサイトの2番手グループは、
「ベルメゾン」や「ニッセン」などの通販系サイト。
それぞれ月間利用者数は2008年では、
300万人前後の規模になってきています。
「TSUTAYA online」も同250万人程度まで伸び、
「ヨドバシカメラ」は、200万人前後で推移してます。
男女比率を見ると、
TSUTAYA onlineの男性比率が56.7%、
ヨドバシカメラが同76.8%と男性優位であるのに対し、
ベルメゾンでは女性が70.4%、ニッセンでも63.4%と、
女性向けサイトですから当然なのですが、女性利用者が
男性を上回っています。
また、購入者が増えると販売価格が下がる
「ギャザリング」
の仕組みを始めて導入した「ネットプライス」は、
このところ月間利用者数150万人程度で安定しています。
ECサイトとしては異質な、
主として個人間の不用品や稀少品の売買システム
(プラットフォーム)を提供しているネットオークションでは、
「ヤフーオークション」
が月間利用者数1,000万人を超えダントツ1位。
2位の「ビッダーズ」は、
一時期同500万人弱まで伸長したものの、
最近は300万人弱に落ちています。
蛇足ながら、
私はWebマーケティング講座の受講生の方に対して、
事例としてネットオークションの話をする際、
「ビッダーズって知ってますか?」
という質問を毎回必ず投げかけるんですが、
「知ってる」と答える人は毎回ほとんどいません。
ネットオークションの世界は、
ヤフーオークションが完全に支配していることを
実感させられる瞬間です。
とはいえ、ビッダーズ事業は黒字化していますし、
同サイトを運営しているDeNAさんは、モバイル分野では
「モバゲータウン」
で大成功を収めていますね。
『ネット視聴率白書2008-2009』
(衣袋宏美著、翔泳社)
投稿者 松尾 順 : 12:01 | コメント (0) | トラックバック
ネット視聴率白書2008-2009を読む(5)アクセス数上位サイトの変遷
今週も引き続き、
『ネット視聴率白書2008-2009』
の内容を抜粋的にご紹介したいと思います。
まず、家庭PCからのアクセス数の多いサイトの変遷を
全Webサイトベースで見てみます。
『ネット視聴率白書2008-2009』には、
2000年4月と2008年3月、それぞれ時期の
ドメイン別ランキングが20位まで示されています。
ここでは、そのうち10位までご紹介します。
(利用者数、リーチ率、1人当たり利用ページ数の
実際の数値は省略します)
------------------------------------
<ドメイン別利用者数ランキング(家庭からのアクセス)>
*2000年4月
1 yahoo.co.jp
2 msn.com
3 biglobe.ne.jp
4 geocities.co.jp
5 dti.ne.jp
6 nifty.com
7 so-net.ne.jp
8 infoweb.ne.jp
9 nifty.ne.jp
10 microsoft.com
*2008年3月
1 yahoo.co.jp
2 rakuten.co.jp
3 fc2.com
4 goo.ne.jp
5 google.co.jp
6 wikipedia.org
7 nifty.com
8 youtube.com
9 biglobe.ne.jp
10 amazon.co.jp
------------------------------------
ネット創成期から現在まで、
一貫して圧倒的な強さを誇る1位の
「ヤフー」(yahoo.co.jp)
は別格として、
2000年4月時点での上位のほとんどは、
インターネットプロバイダー(ISP)
が占めていますね。
これらは、インターネットにアクセスする際の
初期設定(デフォルト)ページとして閲覧されたこと、
また一方で、各種ECサイトやネットサービスがまだ未成熟
であったことが背景にあると思われます。
なお、4位のgeocities.co.jpは、
個人ホームページ開設サービスの草分け的存在ですし、
また、3位のbiglobe.ne.jpもプロバイダーのポータルへの
アクセスではなく、個人ホームページ開設サービスへのアクセス
が大半を占めていたことがわかっています。
これは、現在のブログ人気の源流とも言える傾向ですね。
さて、直近の2008年3月になると
「楽天市場」(rakuten.co.jp)
が2位に登場。
オンラインショッピングが日常になったことが
うかがえます。
fc2.com、goo.ne.jpの3位、4位はブログ閲覧のおかげで上位に。
個人ホームページのbiglobe、geocitiesの後を継いだ感じです。
googleが5位に顔を出しています。
しかし、リーチ率は37.8%にすぎません。
つまり1カ月の間に、ネットユーザーの3人に
1人しかgoogleにアクセスしていないということです。
一方、不動の1位を占めるヤフーのリーチ率は86.8%と、
ネットユーザーのほぼ全員が1カ月に1回以上ヤフーを
利用しており、まだまだgoogleとは大きな差をつけていること
がわかります。
オンライン百科事典の
「ウィキペディア(wikipedia.org)」
の記事は、サーチエンジンの検索結果画面では、
ほぼ常に上位に表示されますね。
そのためでしょうか、googleに次いで6位です。
リーチ率はgoogleとほぼ同じ。
また、過去数年で急激に利用者が増えた
「youtube」
が8位に登場してます。
このように、8年前と比べて、
現在は多様な特徴を持つWebサイトが上位に
ランクインしていることがわかります。
今後、どのような順位の入れ替わりが起きるのか、
とても楽しみですね。
『ネット視聴率白書2008-2009』
(衣袋宏美著、翔泳社)
投稿者 松尾 順 : 11:29 | コメント (0) | トラックバック
ネット視聴率白書2008-2009を読む(4)利用者属性とアクセスパターンの変化
今回は、『ネット視聴率白書2008-2009』から、
家庭のパソコンからの
ネット利用者の属性とアクセスパターンの変化
についてのデータを拾ってみます。
まず「男女比」。
2000年4月の男女比は約63:37でした。
インターネットユーザーの6割強が男性だったというわけです。
これが、2008年3月段階では同56:44となっており、
まだ若干男性の比率が高いものの、女性利用者が
着実に増えていることがうかがえますね。
ちなみに米国では、
男女比はほぼ5:5に近いそうです。
「年齢構成」について見ると、
2000年4月時点で最も構成比が高くなったのは、
30歳代で27.0%でした。次いで20歳代(23.6%)。
しかし、2008年3月時点では、
40歳代が24.8%と最も高くなっています。
30歳代は21.9%へ低下。
そして、20歳代はわずか
10.2%
となっており、8年前から半減しています。
20歳代以下は、
パソコンよりもケータイでネットにアクセスする方が
増えたことが背景にあると考えられます。
なお、上記はあくまでネット利用者全体における
各年代の「構成比」です。
前回ご紹介したように、ネット利用者全体は、
8年前の450万人から2008年3月現在では5,000万人へと、
10倍以上に増大しており、各年代とも
実質的な利用者は8年前よりも増えている
という点をご留意ください。
つまり、構成比が低下しているというのは、
その年代の利用者数の伸び率が他の年代よりも
低かったということです。
(年代別の総人口の大小も影響してますが)
次にアクセスパターンの変化。
時間帯別のアクセス状況を見ると、
2008年3月時点でのインターネット利用のピークは
夜9時台
です。
ブロードバンド常時接続サービス以前は、
一般電話回線を利用したモデム接続。
このため、夜11時以降に使い放題・定額料金となる
「テレホーダイ」
の利用者の影響を受けて
夜11時台
にアクセスのピークがありました。
しかし現在は、夜9時台という、
テレビのプライムタイムと重なっているわけです。
もちろん、お茶の間でテレビを見ながら、
手元でブラウザーをいじっている方も多いでしょう
(私もその一人)から、テレビとネットが完全に
バッティングしているというわけではないでしょう。
なお、職場からの利用時間のピークは、
午前10時から11時だそうです。
会社に着いたら、なにはさておき、
まず「eメール」をチェックし、ニュースサイト等を
閲覧するという方が多いということなんでしょうね。
*上記データの出典はすべて
「Nielsen Online(ネットレイティングス)」です。
『ネット視聴率白書2008-2009』
(衣袋宏美著、翔泳社)
投稿者 松尾 順 : 11:33 | コメント (3) | トラックバック
ネット視聴率白書2008-2009を読む(3)ネット利用行動基本トレンド
ネット視聴率調査の仕組みについての説明は
前回までで終わりにしておきましょう。
私も書いていてちょっと頭が痛くなってきました(笑)
さらに詳しく知りたい方は、
『ネット視聴率白書2008-2009』
をお読みくださいね。
とてもわかりやすく説明してありますよ。
今回は、ネット視聴率調査結果から、
ネット利用行動の大きなトレンドについて
簡単にご紹介します。
まず、Webサイトの利用者数ですが、
家庭のパソコンからのアクセスについて見ると、
2000年4月には約450万人
だったものが、
2008年3月には5,000万人弱
と8年の間に10倍以上にユーザー数が拡大しています。
過去8年間の中で特に成長が著しかったのが、
2001年から2002年にかけてです。
2001年4月は約1,500万人と、前年の3倍増。
2002年4月には、2,400万人を突破。
(翌2003年4月は2,700万人と前年からは
300万人増に止まってます)
2001年は、‘Yahoo! BB’を始めとする、
ブロードバンド常時接続で格安定額料金のADSLサービスが
開始されており、同年は
「ブロードバンド元年」
と呼ばれています。
格安定額のADSLサービスが、
ネットユーザーの急拡大において最大の貢献をしたことは
今さら言うまでもありませんね。
さて、「一人当たりの月間利用時間」を見てみましょう。
2000年4月では7時間弱だったものが、
2008年4月には、17時間を超えています。
常時接続定額料金のブロードバンドの普及によって、
接続時間を気にしなくてもよくなったこと、
ネット利用が生活の一部となっってきたこと、
また、動画を視聴する方が増えたことが背景にあると
思われます。
一方、「一人当たりの月間ページビュー数」は、
2006年以降、低下傾向にあります。
2006年4月に1,986ページであったものが、
2007年4月は、1,790ページへとダウン。
それ以降の数字は、
ネット視聴率白書には掲載されていませんので、
ネットレイティングス社のWebサイトで最新データを
探してみたところ、
2008年4月時点で1,667ページ
でした。やはり減少傾向にあることがわかります。
これは、動画(フラッシュやストリーミング)を
視聴するユーザーが増えたためであることは
間違いないでしょう。
これまで、サイトのパワーというか、
規模や影響力、価値を判断する尺度としては、
「ページビュー」
が重視されてきましたが、今後は、
「サイト訪問(滞在)時間」
も併せて評価する必要性がありますね。
*上記データの出典はすべて
「Nielsen Online(ネットレイティングス)」です。
『ネット視聴率白書2008-2009』
(衣袋宏美著、翔泳社)
ネット視聴率白書2008-2009を読む(2)ネット視聴率調査の4大指標
現在、「インターネット視聴率調査」の
商用サービスを提供している主要企業は以下の2社です。
・Nielsen Online(ネットレイティングス株式会社)
・株式会社ビデオリサーチインタラクティブ
前回触れたように、
上記2社の調査協力モニター(調査パネル)
は現在統合されています。
(つまり、元となるデータは同じもの)
したがって、両社のサービスの違いは、
収集されたデータの集計・分析方法や提供方法にあります。
(両社のサービスの違いについての説明は詳細になりすぎるため
割愛します)
さて、上記2社が提供しているインターネット視聴率調査の
サービスにおいて共通する
「4大指標」
と呼べるものがあります。
それは、現在公開されている各Webサイトに対する、
一定期間(週単位や月単位)における「拡大推計値」である
以下の指標です。
1.利用者数
2.利用回数(利用頻度)
3.閲覧ページ数
4.閲覧時間(滞在時間)
「拡大推計値」というのは、
約1万人の調査モニターのインターネット利用状況データに
基づき、
インターネットユーザー全体(母集団)
の利用状況を拡大推計(母集団推計)した
数値であるという意味です。
例えば、1の「利用者数」は、
日本のインターネット総人口に対して、
調査モニターの該当サイトの
「一定期間の利用割合」
を乗じたものになります。
具体数値を示すと、
ある月のYahoo.co.jpの「利用者数」は、
4,219人(単位:千人)
とネット視聴率調査のレポート上では示されています。
これは、1ヶ月の間にYahoo.co.jpを利用した人を
日本のインターネットユーザー全体で見たら全部で
約420万人
いたということです。
なお、該当サイトに対する
「一定期間の利用割合」
のことを
「リーチ」
と呼んでいます。
CMにおける「リーチ(累積到達率)」と同様、
インターネット人口のうちどれだけの人に到達(リーチ)
できたかという意味ですね。
先ほどの例では、Yahoo.co.jpのある1ヶ月間の「リーチ」は、
86.76%(アクティブユーザーに対して)
です。
これは、
当該月にインターネットにアクセスしたアクティブユーザー
のうち、9割近くの人がYahoo.co.jpを利用した
ということであり、要するに、日本のネットユーザーは、
ほとんどの人がYahooを使っているということがわかるわけです。
残りの4大指標、および派生する各種分析データについても同様に、
調査モニターの利用状況データに基づき、日本のネットユーザー全体
に拡大推計した数値がレポートとして提供されています。
*Nielsen Online(ネットレイティングス株式会社)
『ネット視聴率白書2008-2009』
(衣袋宏美著、翔泳社)
投稿者 松尾 順 : 10:44 | コメント (0) | トラックバック
ネット視聴率白書2008-2009を読む(1)インターネット視聴率の調査方法
「2007年日本の広告費」から、
既存マス媒体の広告費について見ると、
・テレビは約2兆円で横這い
・新聞は約1兆円で減少
・雑誌は約4千5百億円で微減
・ラジオは約1千7百億円で微減
であるのに対し、
「インターネット(広告)」
は急拡大中で約6千億円。
すでに雑誌を抜き、テレビ、雑誌に次ぐ3番目に大きな
メディアとなっています。
このように、インターネットが存在感のあるメディアとして
成長するに従って、
「メディアとしての広告効果検証」
の重要性も高まっています。
さて、
『ネット視聴率白書2008-2009』
では、新聞、ラジオ、雑誌の既存マス媒体別の調査方法を
説明した上で、インターネット視聴率調査の調査方法を
詳述してあり、調査方法の違いがよくわかります。
以下、簡単に既存マス媒体の調査方法のポイントを
ご紹介します。
[テレビ視聴率調査]
*ビデオリサーチの「ピープルメーターシステム」の場合
(対象エリア)
全国32の放送エリアのうち27エリア
(対象チャンネル)
地上波各局とその他(BS,CS,CATVなど)
(調査対象世帯数)
関東、関西、名古屋地区は各600世帯、その他24エリアは各200世帯
合計6,600世帯
(調査方法)
「ピープルメーター」と呼ばれる機械をテレビに接続し、
毎分毎にどの番組が見られているかを自動的に記録、送信する。
(個人視聴率は、家族のうち誰が見ているかを本人が入力、または
日記式で記録する仕組みでデータを取得する)
[ラジオの聴取率調査] *ビデオリサーチの自主調査の場合
(対象エリア)
首都圏、関西圏、中京圏の限定エリア
(対象者)
12~69歳の男女個人
(調査数)
3,000人
(調査方法)
日記式郵送留置調査
[新聞・雑誌等紙メディア調査]
発行・販売部数の把握については、第三者機関である、
新聞雑誌部数公査機関(社団法人ABC協会)
が、発行社における発行部数、注文部数、発送・返品部数、
および流通段階(新聞販売店など)における仕入れ部数、
返品部数の調査の結果をとりまとめて、各新聞・雑誌等の
部数を発表している。
また、
・閲読率(実際にどの程度読まれているか
・回覧率(会社などで購入した雑誌は何人で回し読みされているか)
など、実際の購読状況やどんな属性を持つ人たちがどんな雑誌を
購入しているのかについては、ビデオリサーチが毎年実施している
「MAGASCENE(マガシーン)」
と呼ぶ調査(訪問による質問紙留置法)で把握することができる。
既存の4大マス媒体についての調査は、
以上のような方法を用いて行われてきたわけですが、
媒体としてのインターネットを測定する
「インターネット視聴率調査」
は、現在以下のような方法で行われています。
(調査モニター(パネル)を共有(統合)している
‘Nilsen online’、および‘ビデオリサーチインタラクティブ’の場合)
*「RDD」(Random Digit Dialing)と呼ばれる、
電話番号をランダムに生成する方法で電話をかけ、
インターネット利用状況についての電話調査を行い、
インターネット利用世帯については、インターネット視聴率調査
へのモニター(調査パネル)協力依頼を行う。
*インターネット視聴率調査へのモニター協力が得られた世帯については、
インターネット利用状況を自動的に捕捉するトラッキングソフトを
PCにインストールしてもらい、利用状況データを収集する。
(世帯でインターネットを利用する全個人の属性を記録してもらう
ことで、個人別の利用状況を把握可能)
*モニター協力者(調査パネル)数は現在約13,000人
トラッキングソフトを利用する方法は、
テレビ視聴率調査において、
「ピープルメーター」
と呼ばれる機械を接続することでテレビの閲覧状況を
自動的に捕捉する方法と似ていますね。
なお、PCにインストールされたトラッキングソフトを通じて
自動的にインターネット利用状況を捕捉し、
「インターネット視聴率調査」
と類似のデータを提供するものに、
「Alexa」
というサービスがあります。
これは、無償で提供されている同社のブラウザー用ツールバーを
インストールした全世界のインターネットユーザーが調査対象と
なっています。
調査対象者数は非公開であり、同社ツールバーをインストール
した人だけの集計データのため、統計的な信頼性に欠けるものの、
全世界の国別の人気サイトランキング等が同社Webサイトで無料で
閲覧可能です。
*参考リンク
『2007年日本の広告費とMC戦略の課題』
『ネット視聴率白書2008-2009』
(衣袋宏美著、翔泳社)
投稿者 松尾 順 : 18:55 | コメント (4) | トラックバック
ネット視聴率白書2008-2009を読む(0)イントロダクション
今週は何回かに分けて、
今年(08年)7月に発刊されたばかりの
『ネット視聴率白書2008-2009』
の内容について詳しくご紹介したいと思います。
「インターネット視聴率調査」とは、
インターネットやWebサイトの利用行動調査
のことです。
この調査でわかること。
それは端的には、
・どんな人が、
・何人くらい
・どんなウェブサイトに訪問し、
・どのように利用しているか(ページビューや滞在時間など)
といったことになります。
そして、上記のようなデータを総称して俗に
「ネット視聴率」
と呼んでいます。
Webサイトにアクセスして閲覧する行動を
テレビ番組を見ることと同じような行動であるとみなして、
「視聴率」
という言葉を利用しているのです。
ただし、テレビの視聴率とネット視聴率では、
・調査方法
・取得されるデータ
・分析方法
などに大きな違いがあります。
さて、『ネット視聴率白書2008-2009』は、
「インターネット視聴率調査」
にテーマを絞った初めての白書です。
このため、
・テレビの視聴率調査
・ラジオの聴取率調査
・雑誌メディア調査
など、各種メディア調査の概要について触れて
ネット視聴率調査との比較を行いながら、
ネット視聴率調査の歴史や調査方法、分析方法、
提供会社のサービスメニューや特徴
などについて詳しい解説が掲載されています。
また、インターネット視聴率データに基づく、
2000年4月から2008年3月
までの過去8年間における
インターネット利用者数や利用時間
といった利用者ベースのトレンド分析、および
検索エンジン、オンラインショッピング
などの普及・発展の推移についての説明があります。
さらに、利用者属性別(性別、年齢)、
業界カテゴリー別の人気Webサイトのランキングも
掲載されており、ランキングをざっと眺めるだけでも
結構楽しいですよ。
私自身は、視聴率調査のデータを提供会社から入手して、
閲覧したり分析する業務を行う立場ですが、
そうでもなければ入手するのがあまり容易ではなかった
(相応の費用が必要なので)、
インターネットやWebサイトの利用行動
についての貴重なデータが公開されているので、
インターネット戦略立案等のための資料としての価値は
とても高いと思います。
では、明日以降は、
当白書の内容の紹介に入っていきたいと思います。
『ネット視聴率白書2008-2009』
(衣袋宏美著、翔泳社)
投稿者 松尾 順 : 11:36 | コメント (0) | トラックバック
顧客の声の掘り下げが使える情報を生む
カスタマーセンター(コールセンター)に
寄せられたお客様からの感謝や意見、要望、苦情等は、
活用する価値のある貴重な情報です。
だからこそ、コールセンターに蓄積された
「テキストデータ」(いわゆる生の会話、自然文のデータ)
から、サービス改善や新商品開発に使える新たな「知見」を
取り出すための
「テキストマイニング」
に対する注目も高まっているわけです。
ただ、カスタマーセンター内に
本当に使える顧客情報が豊富にあるのかというと、
必ずしもそうではありません。
単にお客さんが電話してきた用件を忠実に記録しただけでは、
価値ある情報とはなりえないことが多いのです。
例えば、カルビーのお客様相談室には、
「○○がおいしかった」
という「感想」を伝えるだけの電話が、
多数寄せられるそうです。
従来、同社のオペレーターは、
こうしたお客さんに対して感謝の言葉を述べるだけで
通話を終えていました。
しかし、
「○○がおいしかった」
といった表面的な気持ちを記録しただけのデータ
をいくら集めたところで、
「人気度ランキング」
には使えても、それ以上の活用が不可能です。
商品改良のヒントや新商品のアイディア創出には
まずほとんどつながりません。
そこでカルビーでは、
「なぜ、わざわざ電話をかけてくれたのか?」
といった理由をうまく聞き出すための対応表を作成し、
オペレーターが顧客の声を深堀りする対話を行うように
しました。
これには、トヨタ流改善活動にヒントを得た
「なぜなぜ5回」
の手法を応用しており、「なぜ」を繰り返しながら、
顧客の表面的な言葉の奥にある本質的な問題や原因を
あぶりだすことを狙ったのです。
具体的には、上述の
「○○がおいしかった」
というお客さんの声に対しては、
「何がお気に召しましたか?」
とオペレーターが突っ込んだ質問をすることで
「その商品のどんな点を評価したからおいしいと感じた」
という「原因と結果のセット」の情報を蓄積することが
可能になっています。
こうした深堀りする質問は、
マーケティングリサーチにおけるインタビュー技法や
コーチングなどでも重視されますが、
カスタマーセンターに勤務する多数のオペレーターが
マスターするのは簡単ではありません。
カルビーでは有志による勉強会を開催して、
顧客の声の掘り下げに有効な対応を工夫しているそうです。
コールセンターに限りませんが、
企業に対して最初に届くお客様の声の多くは、
「結果」「事実」「行動」
を述べているだけの場合が多いのです。
ですから、企業側からさらに深堀りする質問をして、
「原因」「感情」「背景」
などを上手に引き出していくことが必要なんですね。
*カルビーの事例は、
『日経情報ストラテジー』(SEPTEMBER 2008)
を元にしました。
郵送アンケート回収率向上のノウハウ
昨日、日本マーケティングリサーチ協会(JMRA)主催の
「JMRA調査研究セミナー」
に参加しました。
当セミナーでは、
「調査業界が置かれている現状」
などを含む合計5本の発表が行われましたが、
どれも大変興味深い内容でした。
今回は、これらの発表のうち、
とりわけ実践にすぐに応用できる部分が多いと感じた
「郵送アンケート調査における回収率向上のノウハウ」
を明かしてくれた朝日新聞 編集局 世論調査センターの
松田映二氏のご講演のポイントをご紹介したいと思います。
(講演のタイトルは、『郵送調査の効用と可能性』)
さて、近年、各種調査(面接法や郵送法など)の回収率は、
在宅率の低下やオートロックマンションの普及、あるいは、
個人情報保護意識の高まりなどによって大きく低下しています。
例えば、過去50年以上にわたって継続して行われてきた
「国民性意識調査」
は、1953年には80%を超える回収率でした。
ところが、1980年代以降、回収率はガクンと落ち込み、
直近の2003年のそれは、60%を大きく割り込んでいます。
年代別で見ると、特に「20代」の回収率の低下が激しく、
1953年には20代でもほぼ80%だった回収率が、
2003年には40%を切っています。
(他の年代はまだ50%以上です。)
このような厳しい調査環境にも関わらず、
今年(08年)1-3月に朝日新聞が実施した郵送調査は、
回収率78%という、近年では極めて高い数字を記録しています。
この結果は、そもそも「朝日新聞」という
全国紙の信頼がベースにあること、
また近年、食品偽装事件などの企業の不正行為が
次々と明るみになっている時代背景において、
人々の関心がとみに高まっている、
「信用」をテーマに世の中の「信」を問う
を調査目的とした調査であったことを割り引いてみる
必要があるでしょう。
とはいえ、全国20歳以上の有権者3,000人を対象とした
郵送調査で、80%に迫る回収率を達成したというのは、
驚異的な成果です。
松田氏によれば、
調査対象者に対して、次の通り最大4回接触しています。
第1便・・・予告状(ハガキ)
第2便・・・調査票(依頼状、返信用封筒、謝礼
第3便・・・催促状(1)
第4便・・・催促状(2)
まず第1便、予告状の効果としては、
・いきなり調査票を送らず予告することで信頼を得る
・内容が読めるハガキのため、家族にも周知されやすい
・調査票の到着を待たせることで、回答返送を早める
ことができる
といったことがあるそうです。
第2便の調査票や、その他の内容物にもあれこれと
細かい工夫がほどこされています。
例えば、調査票は、A4中綴じ、8ページの冊子に製本した
丁寧なものにすることで、信用を高めています。
依頼状は、一般にペラ1枚別に同封しますが、
1点でも同封物を減らすため、調査票と一体化。
調査の趣旨・目的や謝礼等について、
短い文章で簡潔に説明しています。
また、調査票の中身も、
レイアウトや段組みなどを工夫して、
できるだけページ数が増えないようにします。
ただしやみくもにページ数を減らすだけでなく、
回答しやすさ、回答ミスの起きにくさにも留意して
設問の文言や選択肢の並べ方を考えます。
送付用封筒としては、A4サイズの調査票を折り曲げず、
そのまま送れる大きさの角封筒を使うそうです。
折り曲げてあった調査票は回答しにく、
また、ページをめくりにくいからです。
料金別納郵便のスタンプは汎用的なものではなく、
「ASAHI SIMBUN」
の英文社名が記載され、犬のマスコットが新聞を
くわえているマークの特別製スタンプを利用します。
ここでも調査主体を明示して信用性を高める作戦です。
一方、返信用封筒には、
「郵便切手」
をちゃんと貼っておきます。(一般には料金別納)
回答しなければ切手代(今回の調査は120円)が
もったいないという心理的プレッシャーをかけるわけです。
さらに、先渡しの謝礼として「社名入りボールペン」を同封。
こうした立体的なものは、封筒に出っ張りができるため、
「何だろう?」
と受け取った方の関心をそそります。
つまり、「開封促進」の効果があります。
加えて、回答者には「図書カード」(1,000円分)を進呈する
ことを調査票冒頭の「依頼文」内で明記しました。
調査票返送の締切日は金曜日に設定します。
そして、催促状(1)のハガキは、締切日の2日前の夕方に投函。
催促状は、おおむね締切日当日に対象者に届きますが、
その週末の土日で回答してもらえることを狙っているのです。
ここまでやっても回答しない方には、催促状(2)を送ります。
ただ、催促のハガキだけを再度送っても効果は薄く、
また調査票は既に紛失している可能性が高いため、
改めて調査票と120円切手を貼った返信用封筒を送付することで
「回答しなけりゃ・・・」
という気持ちにさせるのです。
松田氏は、回収率を高めるために、
ことさら特別のことをやっているわけではないと、
強調していました。
回答者心理についての深い理解を踏まえて、
細かい気配りをほどこした調査設計・運用を行うことが重要であり、
それが結果として高い回収率につながるということなのです。
朝日新聞の郵送アンケート調査における地道な工夫は、
お客様へお送りするDMなどの各種マーケティング・
コミュニケーションの設計・運用にも、大いに参考になる
内容だと思います。
蛇足ながら、1本の郵送アンケート調査で、
最大4回接触できるだけの予算を確保するのは
そう簡単ではありません。
現実には、予算の制約のため、
予告状なし、催促状は1回だけということが
多いと思われます。
投稿者 松尾 順 : 13:00 | コメント (3) | トラックバック
2008年米国大統領予備選・民主党両候補のSWOT分析
「SWOT分析」は、
何らかの目標達成に向けての戦略立案に用いられる分析方法
です。
‘SWOT’は、
以下の4つの切り口の頭文字を取ったもの。
S:Strength(強み)
W:Weakness(弱み)
O:Opportunity(機会)
T:Threat(脅威)
SとW、すなわち「強み」と「弱み」は、
当事者(企業または個人)についての特質であり、
「内的要因」
と呼ばれます。
一方、OとT、すなわち「機会」と「脅威」は、
当事者を取り巻く外部環境についての特質です。
「外的要因」
と呼ばれます。
SWOT分析を行う意義は、
戦略立案において考慮すべき、
重要な内外の要因を明確化すること
にあります。
まあ、実際「SWOT分析」をやってみると、
当事者としては既に頭ではわかっていたことを
記述してあるに過ぎない
と感じることが多いのですが、
大事なのは、言語化しておくことで、
未来に向けての方向性を指し示す
「戦略」
の妥当性を検証しやすいこと、また
関係者の納得を引き出しやすいことにあります。
さて、宣伝会議最新号(2008.3.15)では、
2008米国大統領選挙予備選候補である、
民主党のクリントン、オバマ氏、共和党のマケイン氏を
対象としたSWOT分析が行われています。
なかなか面白い分析でしたので、
ここでは、注目度の高い、クリントン、オバマ氏の
SWOT分析の結果のみ引用させていただきたいと
思います。
------------------------------------
★S:強み
(クリントン氏)
・知名度、実績経験、政策通
・民主党基盤層
・党内エスタブリッシュメントとのパイプ
・資金力、組織網、ビル・クリントン
(オバマ氏)
・勢い、新鮮さ、率直、弁舌能力
●若年高学歴高所得層
●外交左派・内政中道
・マイノリティ民主党支持総
・資金力、ネット組織、支持者熱意
------------------------------------
------------------------------------
★W:弱み
(クリントン氏)
・分断政争政治の象徴
・世論の好悪感二分、計算高さ
○父権主義・恩寵主義
(オバマ氏)
・経験不足、政策能力未知数
・党内エスタブリッシュメントと疎遠
○●人種
------------------------------------
------------------------------------
★O:機会
(クリントン氏)
・共和党不人気、民主党に追い風
・世論の内政重視
(オバマ氏)
・共和党不人気、民主党に追い風
・既存政治への不信、変革志向
・無党派層の予備選挙大量参入
------------------------------------
------------------------------------
★T:脅威
(クリントン氏)
・既存政治への不信、変革思考
・無党派層の予備選挙大量参入
(オバマ氏)
・内政緊急課題の山積
------------------------------------
やはり、こうして列挙してみると
両候補者の内外の特質がすっきり理解できますね。
なお、上記の中で示されている
○は、本選挙で「有利」に転化しうる要因
●は、本選挙で「不利」に転化しうる要因
です。
クリントン、オバマ氏のSWOT分析結果を読むことで、
私たちのような傍観者としては、彼らがどのような戦略を
展開してきたのかを考える面白い材料になりますね。
このSWOT分析を行った平林氏の特別寄稿は、
米国予備選において、
「なぜ、オバマ氏は‘変革’という
ブランドイメージの構築に成功したのか」
という点をマーケティング視点で
的確に解説されています。
一読をお勧めします。
(上記SWOT分析の出所)
弱みを利点に変えたオバマ
米国大統領選挙 予備選挙のマーケティング
(平林紀子氏、埼玉大学 教養学部 教授)
宣伝会議、2008.3.15
投稿者 松尾 順 : 11:12 | コメント (0) | トラックバック
女性の髪形と景気の関係!?
花王が長期間、定期的に実施している
「女性のヘアスタイル調査」
を分析すると、
景気が良い・・・髪の毛が長くなる
景気が悪い・・・髪の毛が短くなる
という関係が見出せるそうです。
(日経産業新聞、2008/02/15)
花王では、1987年から
東京・銀座、大阪・梅田の2箇所の街頭で
女性千人を対象に上記調査を実施。
同調査では、
ヘアスタイルを以下の4種類に分類しています。
(1991年以降)
・ショート(髪の長さはアゴまで)
・ミディアム(肩の鎖骨まで)
・セミロング(わきの下まで)
・ロング(わきの下以下)
この4分類から、
ショート、ミディアムを「短い」、
セミロング、ロングを「長い」
と2分類に括ってみると、
「長短比率」(長い髪の人と短い髪の人の構成比)
が、1997年に初めて逆転したそうです。
つまり、短い髪の人の比率が、
長い髪の人のそれを上回ったということです。
この年の景気は下向き。
山一証券の破綻をはじめとする企業の大型倒産が
相次ぎ、翌98年はマイナス成長に陥ったのです。
バブル期に大流行した
「ワンレン」(ワンレングス・ロングヘア)
は、90年まで20代女性の6割以上を占めていたそうですが、
97年以降は10%に低迷しているそうです。
さて、短い髪に代わって、
長い髪が再び優勢になり始めた年は02年。
02年は、一般庶民にはあまり実感がありませんでしたが、
現在まで続く景気拡大局面が始まった年です。
さて、最近の景気は足踏み状態であり、
今後の景気悪化が懸念されていますよね。
そうすると、女性の髪は短くなるのでしょうか?
花王の担当者によれば、
後頭部で髪をまとめるヘアスタイル
「まとめ髪」
が増えているため、たとえ景気が後退したとしても、
“今後、短い髪が大勢を占めることはない”
と考えているそうですが。
それにしても、
なぜ景気と女性の髪は従来連動していたのでしょうか?
女性の方、どなたか説明してくれませんか?(笑)
まあ、景気と髪との関係には
複雑な要因が絡み合っていると思いますので
簡単に説明はできないでしょうね。
ただ、因果関係がはっきりしないとしても、
こうした物事と物事との間の
「相関関係」
を見い出すことによって未来の予測の精度が増し、
より的確な経営戦略の立案が可能になるのは確かですね。
投稿者 松尾 順 : 13:14 | コメント (4) | トラックバック
調査のウソを見抜くには?
今日も、昨日に続いて、
調査結果の解釈についての話です。
調査結果の解釈において、
留意しなければならないのは、
「アンケート」や「グループインタビュー」(グルイン)
などの一般的な調査手法は、
調査対象者の意識的・積極的な協力を得て
行われているという点です。
対象者の行動をありのまま把握する
「観察調査」
ならさほど問題はありません。
しかし、アンケートやグルインのような調査手法では、
調査結果が
「真実」
を必ずしも反映していない可能性があります。
以前ご紹介しましたが、
無料情報誌「R25」の開発に当たって、
若手ビジネスパーソン対象のグルインをやったら、
全員が「日経新聞」を読んでいると答えた。
そんなことがあるだろうかといぶかった藤井編集長が、
事前アンケートで「日経を読んでいない」と回答した層を
グルインに呼んで、
「日経読んでますよね?」
と聞いたら、やはり皆うなずいたそうなのです。
彼らは、意識的にウソをついたわけではないのでしょう。
そもそも、
「ビジネスパーソンなら日経くらい読んでいるべき」
という意識があった。
それで、他の調査協力者がいる前では、
「日経をちゃんと読みこなしてる理想の自分」
のつもりで、ついつい「読んでいる」と答えてしまった。
要するに「見栄を張った」ということですけど。
このように、調査結果には、真実とは異なる
「調査のウソ」
が隠れていることがあると言うわけです。
さて別の事例。
エステーのヒット商品「消臭ポット」
のテレビCM、
「支店長ズ」
はご存知ですよね。
本物の同社支店長が出演して
奇妙な振り付けの踊りを披露するこのCMは
ずいぶん話題を集めました。
実は、事前調査(クリエイティブテスト)では、
あのCMは一番人気ではなかったそうです。
(宣伝会議、2008.3.1)
しかし、エステーでは、
一番人気のCMを流すことをしませんでした。
エステーの宣伝部長、鹿毛康司氏によれば、
クリエイティブテストが行われている現場に足を運び、
調査協力者の様子を観察したところ、
8割の人は前のめりになり、緊張した面持ちで
CMが流される画面を凝視していたそうです。
そして、残りの2割の人は、
友達と一緒に談笑しながら画面を見ていました。
鹿毛氏が採用したCMは、
この残りの2割の人たちに評判が良かったものでした。
普段の生活で、
前のめりになってテレビを凝視する人は
まずいませんよね。
ゆったりとリラックスした姿勢で見る人が
ほとんどでしょう。
そんな自然な状況に近い2割の人に受けた
「支店長ズ」
のCMをエステーでは採用したというわけです。
鹿毛氏は、
「調査現場に来ない人は、
調査分析についての発言権なし」
というルールを決めているそうです。
上記のCMのクリエイティブテストの話は、
調査現場に立会い、調査協力者の様子を見たからこそ
的確な判断ができるということを示してますよね。
調査結果が記述されたレポートを見ただけでは
絶対にできない判断です。
調査のウソを見抜くコツは、
なによりもまず現場に立ち会うこと。
そして、回答内容だけでなく、
回答者の姿勢や表情も同時に情報として取り入れることが
調査結果の的確な解釈には不可欠だと言えます。
*関連記事
『人は無意識にウソをつく』
投稿者 松尾 順 : 09:24 | コメント (1) | トラックバック
調査の付加価値とリサーチャーに求められること
「分析」
という言葉に含まれる2つの漢字、
「分」
および
「析」
はどちらも、物事を分けるという意味があります。
したがって、
「物事を分析する」
と言う時、それは、
物事をさまざまな視点で切り、
2つ3つ、あるいはそれ以上に細かく分けていくことで、
物事の成り立ち(構成)や仕組みを知ろうとすることです。
「分析」をどうやるのかについては、
「顧客満足度アンケート」
などの調査結果がどのように集計・分析されるのかを
考えてもらえばわかりやすいでしょう。
たとえば、製品の機能についての満足度調査データは、
まず回答者全体で
・満足している-----68%
・満足していない---32%
といったように2つに‘分けて’みます。
すると、機能についてのユーザー評価が端的にわかりますね。
これは単純集計です。
(単純すぎるので「分析」とは通常呼びません)
次いで、この評価を
「男性・女性」
の性別で重ねて切ってみる。
こうして重ねて切っていく方法を
「クロス集計」(クロス分析)
と呼びます。
すると回答結果が4分割され、
男女別のより精緻な満足度の把握が可能になります。
さらに、
・年齢別で切ってみる
・職業別で切ってみる
など、さまざまな分析を行って、
満足度調査の結果データを多面的に分けていきます。
これが分析の実際。
(上記の説明は初歩的なものですが)
さて、私は以前から繰り返し書いてきていますが、
「分析結果」
を出しただけではあまり価値がありません。
もちろん、数字そのものが伝えてくれることに
大きな価値がある場合も、たまにあります。
ただ、長年調査の仕事をやってきた経験からは、
分析結果の数字を見るだけでは、
実務の役には立たないという実感を持っています。
多くの場合、
その数字の意味することは何なのか?という
「解釈」
まで深く踏み込んでいかないと駄目なんですよね。
そうでないと、
「使えない調査」
の烙印を押されてしまいます。
日産自動車の執行役員市場情報室長、
星野朝子氏もまた、単なる調査(分析)結果を示すだけでは
調査をやる価値・意義は高くないないと考えているようです。
星野氏率いる市場情報室では、
日産の様々な部署から依頼された調査案件に対し、
内部で実行した場合、あるいは調査会社に外注した場合の
どちらにおいても、
「調査結果には付加価値をつけて依頼主の部署に報告する」
のだそうです。
(日経情報ストラテジー、APRIL 2008)
ここでの「付加価値」とは、
統計学や心理学、マーケティング理論などを
駆使して提示する、調査結果の解釈の仕方のことです。
ということは、
調査結果に対して優れた付加価値を与えることが
できるために、
調査担当者(リサーチャー)に求められること
がはっきりします。
それは、調査に直接関係した知識やノウハウだけでなく、
人の心の基本的傾向やルールを理論化・体系化した
「心理学」
や、調査結果の応用先となるビジネス活動に関わる
基本ルールである
「マーケティング理論」
についての知識を深めていく必要があるということです。
ちなみに顧客・生活者についての調査結果を
深く解釈したものが、いわゆる
「カスタマーインサイト」(顧客洞察)
です。
調査の付加価値として、
「カスタマーインサイト」
を提示することができたら、
リサーチャーとしては最高ランクの腕を持っていると
評価されるでしょうね。
実は、調査における「解釈」の重要性は、
既存のリサーチ解説本ではあまり触れられていません。
(ノウハウとして伝えるのは難しいからでしょう・・・)
しかし、一流のリサーチャーを目指す方は、
ぜひ「解釈」の重要性を認識し、
心理学やマーケティング理論
など、リサーチに関連した周辺の知識を蓄えることを
お勧めします。
投稿者 松尾 順 : 11:31 | コメント (0) | トラックバック
アラン・グリーンスパンの「インテリジェンス」
現在、日経本紙の「私の履歴書」に、
元連邦準備制度理事会(FRB)の元議長、
アラン・グリーンスパン氏
が登場されてますね。
金融関連のエピソードは、
金融に疎い私にはちょっと難しいのですが!
さて、グリーンスパン氏が20代の頃に設立した経済金融調査会社、
「タウンゼント・グリーンスパン」
の話には「おっ」と思うところがありました。
同社のクライアント企業は一般の事業会社でしたが、
当時の米国産業化の中心だった大手鉄鋼会社の多くが顧客に
名を連ねており、経営は順調だったようです。
グリーンスパン氏は、
この会社の事業方針について次のように述べています。
“われわれの調査分析の売り物は、経済の動向が同顧客の
事業に影響するかをわかりやすく伝えることにあった。
つまりは、実際の経営判断に役立つ分析である”
“国民総生産(GNP)がこうなると言っても、
販売やエンジニア出身のトップは興味を持たない”
このグリンスパン氏のコメントから判断できるのは、
彼の会社が提供していたのは、
「インフォメーション」(情報)
ではなく、
「インテリジェンス」(情報に基づく、読みや仮説、予測)
であったということです。
当時の米産業界を牛耳っていた大手企業が、
グリーンスパン氏の会社を高く評価したのも当然ですね。
以前、
というテーマの記事の中で
「インテリジェンスとは何か」
についてご説明しました。
以下、その部分を再掲(一部修正)します。
---------------------------------------
インテリジェンスを作り出す情報士官の仕事とは、
・玉石混交の膨大な情報から、
ダイヤの原石と思われる情報を見極め、選び出すこと
・ダイヤの原石らしき情報に磨きをかけること、
すなわち、その情報の真偽、信憑性を確認するための裏を
取ること
・磨きをかけた情報をさまざまに組み合わせて、
将来の変化について、新たな発見や予測を行うこと
上記を読むとおわかりだと思いますが、
情報士官の仕事は、単に‘情報を収集して’
政府関係者に提供することではないことがわかります。
情報士官が提供する「インテリジェンス」は、
政府関係者(その頂点には、大統領や首相がいます)
の重大な意思決定に役立つ
「意味を持つ情報」
でなければならないのです。
ここで「意味を持つ情報」とは、将来についての
「一定の方向を指し示すもの」
(読み、仮説、予測などと言い換えられます)
です。
---------------------------------------
情報士官とは、米国ならCIAのような諜報機関に
勤める人間のことです。
そして、彼らが諜報活動の結果生み出すものを
「インテリジェンス」
と呼んでいるわけです。
しかし、単なるデータの寄せ集めに過ぎない
「情報」
ではなく、
「意味のある情報」
すなわち、意思決定に役立つ情報である、
「インテリジェンス」
は、一般企業も欲しがっています。
ただ、正直なところ、
私も含めてリサーチに従事する会社・人間は、
なかなか「インテリジェンス」と呼べる水準の
レポートを提供できないのが現実なんですよね。
たいていは調査結果を平板に報告するところまで。
踏み込んだ読みをするには、
クライアントの事業そのものに対する深い理解や、
周辺情報、過去の経緯といった情報まで加味する
必要があります。
しかし、なかなかそこまではできないわけです。
グリーンスパン氏は、
実際の経営判断に役立つ分析のためには、
“綿密な事実の発掘と分析が不可欠だ”
と指摘していますが、
私も改めてにこのことを肝に銘じなければと
思った次第です。
投稿者 松尾 順 : 11:25 | コメント (0) | トラックバック
サル仕事でヒトが奇声を発する瞬間
私は、調査の仕事から
マーケティングの世界に入りました。
したがって、独立した現在も、
「ユーザーアンケート調査」
などの調査業務が全体の3割程度を占めています。
調査の仕事も実質一人で仕事を回してますので、
調査企画や調査票の設計はもちろん、回収されたデータのチェック、
加工、集計、分析、報告書作成まで、一貫作業体制(笑)です。
こうした調査業務は職人芸的なことがあり、
作業工程の一部を外注することはあまり容易ではありません。
でも、報告書作成工程の一部である、
グラフや表の作成
は、エクセルやパワーポイントなど、
アプリケーションの操作ノウハウがあれば対応可能です。
わかりやすく、見栄えのいいグラフや表を作成するためには
ちょっとしたコツが必要ですが、コツさえ覚えてしまえば、
ある意味「単純作業」です。
したがって、作業量が多い場合には、
グラフ・表の作成を外部の方に依頼することもあります。
ただ、集計結果を見ながら、
自分でグラフや表を作成するという単純作業を繰り返す中で、
データの中から新たに見えてくるものがあります。
グラフ・表作成という作業だけを取り出してみると、
私の時間単価では割高なものなってしまうのですが、
こうした単純作業を通じてデータとガチンコ勝負することで、
新たな知見を得ることのできる工程と考えれば、まんざら
コスト的に無駄ではないと思っています。
さて、同じようなことが、
に書いてあります。
慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の
学生たちの話です。
デジタルデータベースが利用しにくかった数年前まで、
学生が研究テーマに関した資料・データを利用しようと
思ったら、新聞の縮刷版や雑誌のバックナンバーから
集めてきた記事などをコンピュータに手入力する必要が
ありました。
これは、紙に印刷された文字をデジタルデータ化するだけ
の単純作業。しかし、作業量は膨大。
SFCの学生たちは、
この非生産的・非頭脳労働的仕事を
「サル仕事」
と呼んでいたそうです。
「サルにでもできる仕事」
あるいは、
「サルにでもやらせたい仕事」
のどちらの意味にせよ、
この単純作業に学生たちは辟易していたのです。
ところが、この単純作業を続けていくと、
ある時点で、
「真実の瞬間」
を学生が体験するのだそうです。
その時、学生は
「あっ、読めた!」
「あっ、わかった!」
という奇声を発する。
これは、単純作業の繰り返しで、
頭が錯乱したというわけではありません。
膨大な紙の資料を
コンピュータに打ち込んでいく中で、
そのデータを貫いている
「ある軸」や「概念」(コンセプト)
を発見した瞬間でした。
なぜ、頭をまったく使わず、
ただキーボードで文章を打ち込むだけの作業を通じて
このような現象が起きるのか?
その理由については、
前掲書に詳しく書かれていますので
ここでは省略させていただきます。
ただ、私が思うに、
目だけで資料・データを眺めるだけでなく、
手を動かして脳に刻み込む(入力)することで、
脳内で勝手にデータの整理、分類、統合、混合作業が
自動的に行われてしまうといういことなのでしょう。
あらゆる分野のどんな仕事にも、
単純作業に思える工程が必ず存在しますが、
そうした単純作業の中に大事なものが隠れています。
単純作業を侮るなかれ!です。
投稿者 松尾 順 : 10:38 | コメント (3) | トラックバック
ブログの「気分」を分析
先日、ブログ上の文字情報(テキストデータ)の分析
(テキストマイニング)が、書き手の「性別」や「年齢」の推定
を行えるところまで来ていることをご紹介しましたよね。
この話を知人にしたら、
“それは「ネカマ」(ネットオカマ)との闘いだね・・・”
と切り返されたんですが!
まあ、文章では人格が変わるというか、
男性的な言葉遣いをあえてする女性がいます。
また、男性の中にも、
文章から受ける印象が女性的だと感じられる方がいますよね。
ですから、性別を見分けるのはそう簡単ではないはず。
とはいえ、ブログウォッチャーが行っている性別判定の予測精度は
90%以上ということですから、性別を的確に区別できる手がかりを
うまく組み込んだ分析に成功しているところもあるわけです。
さて、ブログ分析を専門とする「きざしカンパニー」では、
さらに踏み込んだことをやってますね。
最近、ブログの書き手の
「気分」(感情)
を推定する分析を試験サービスとして提供開始してます。
(日経産業新聞、207/12/20)
新サービスの名称は、
「My boo(マイブー)」http://myboo.kizasi.jp/
です。
メインとなる機能は、
上記サイトに解析したいブログのURLを入力すると、
対象としたブログ全体から感じられる
「トーン」(ブログににじみ出る気分・感情)
と、そのブログで取り上げられることの多い、
「テーマ」(話題)
を判定の参考となった文中のキーワードと共に
表示するというものです。
例えば、トーンとしては、
「清く、かしこまっている感じ」
「おいしい!と感じている」
など。
テーマとしては、
「釣り」
「グルメ」
などと表示されます。
早速私自身のブログや、
他の方のブログで試してみました。
私のブログは、
「解析できませんでした。」
というエラーが表示されてしまいました。残念。
他の方のブログでも、
うまく解析できないブログが結構たくさんありました。
うまく解析できた某ブログの場合、
トーンとしては
「感謝の気持ち」
がブログからにじみ出ており、
テーマとしては、
「本」
について多く書かれているという結果が出ました。
ブログ本文とつき合わせてみると、
確かにそんな印象を受けます。
なお、この解析結果にはさらに、
対象としたブログと類似したテーマで書いている
「著名人ブログ」
のリストが同時に表示されます。
きざしカンパニーでは、マイブーの分析を通じて、
「自分はこんな気分でブログを書いていたのか」
「こんなテーマを多く書いていたんだな」
といったことがわかるとしています。
なるほど。
自分の文章を分析することで、
あまり意識していない自分自身の特徴を発見し、
理解することができますね。
ただ、ひとつ気になったのは、
感情の起伏が激しい人のブログは果たして分析できるのか?
という点です。
現在のマイブーの分析対象はあくまでブログ全体です。
日によってコロコロと気分が変わるブロガーの文章からは
一定の気分傾向は取り出しにくいはずですよね・・・
まあ、マイブーはブログを楽しくするための無料の娯楽サービス
ですから、あまり厳密なことを言うのはやめときましょう。
それにしても、マーケティングリサーチャーとして、
また、人間心理に深い関心を持つものとして、私は、
「人が語る、書く生の言葉」
の裏側にある人の意識を深く探る技術にはとても惹かれます。
ですから、無料で収集できる豊富なブログデータを活用した、
テキストマイニングの今後の進展には大いに期待しています。
投稿者 松尾 順 : 15:17 | コメント (2) | トラックバック
「綾鷹」と「一(はじめ)茶織」のすみわけ
日本コカ・コーラが今年10月に発売した、
ペットボトル茶の新商品、
「綾鷹」
をあなたはもう飲んでみましたか?
「綾鷹」は、宇治の老舗茶舗と組んだ商品。
お茶本来の
「にごり」
を活かしているのが特徴ですね。
確かに、急須で入れたお茶にとても近い味わいだと、
私は感じました。
京都の茶舗とのタイアップという点は、
伊右衛門の二番煎じですが、「味」については、
しっかり差別化できているんじゃないでしょうか。
さて、日本コカ・コーラのペットボトル茶としては、
「一(はじめ)茶織(さおり)」
もありますね。
同じお茶カテゴリーなので
「カニバリ(共食い)」
しないのかと気になりますね。
もちろん、コカ・コーラとしては、
その点は考慮済み。
以前ご紹介した、同社の新しい分析手法、
「CBL」(Consumer Beverage Landscape)
に基づき、それぞれ消費者の異なる
「ニードステート」(欲求状態)
に対応し、うまくすみわけられるように
設計されているのです。
(日経情報ストラテジー、December 2007)
「CBL」は、数千人規模の消費者を
対象とするインターネット調査でデータを収集します。
具体的には、対象者が1週間に口にしたすべての飲料の名称や
サイズ、購入・飲用した場所、時間、その時の気分等を把握。
そしてこの調査結果の分析に基づいて、
「飲用機会」
を19種類のニードステートに分類するものです。
このニードステートは、具体的には
「食事との相性」
「気分一新」
「栄養補給」
「自分らしさ」
などの名称が与えられています。
「CBL」によれば、綾鷹が対応するのは、
「リラックス系」
のニードステート。
一方、「一(はじめ)茶織」が対応しているのは、
「リフレッシュメント系」
のニードステート。
端的に言えば、
・綾鷹は仕事の合間に飲みたくなるもの
・一(はじめ)は、休日に飲みたいもの
という違いになります。
コカ・コーラでは、綾鷹の発売に当たって、
30-50代の男性が働く職場に100万本以上の
無料サンプルを送るというキャンペーンを
行いました。
これは言うまでもなく、
「リラックス系」
のニードステートを意識したものですよね。
なお、同社の旧ダイエットコークを改称した、
「ノーカロリーコカコーラ」
と、今年7月発売の
「コカ・コーラ ゼロ」
も商品特性としてはほぼ同じですが、
やはり対応するニードステートが異なるように、
CBLに基づいて開発されています。
消費者の性別、年齢等の
「デモグラフィック属性」
だけでなく、飲むときの気分のような
「心理的(サイコグラフィック)属性」
を加えたセグメンテーション、ターゲティングを
行えば、商品開発の精度を高めることができると
いうわけです。
(参考記事)
*コカ・コーラの「CBL」:消費者調査の新手法
投稿者 松尾 順 : 09:12 | コメント (2) | トラックバック
花王の「快適感」定量分析
ちょっと前になりますが、数年前に花王に転職した、
前職の広告会社の元同僚(女性)と会う機会がありました。
花王は、さすがに日用品メーカーとして長年トップの座に
君臨してきただけあって、製品開発に対するこだわりは、
徹底しているようですね。
ひとつの新製品を出すのにも、
品質や耐久性、安全性などの維持、確保のための
実験や検証に、莫大な時間とお金をかけているそうです。
彼女も、広告会社から花王のようなトップメーカーに
移ってみて初めて、
「ものづくり」
の難しさや厳しさに驚いたようです。
ただ、いくら普段の生活で使う必需品とはいえ、
単に機能や品質が優れているだけでは売れなくなったのが
日本のマーケットですよね。
2004年に就任した尾崎元規社長は、
この点を強く認識しており、就任当初から
「高付加価値戦略」
を推進してきました。
具体的には、
・機能的価値
(きっちりとした技術に裏づけされた機能的なメリット、
効果を実感できる価値)
・情緒的価値
(その商品を使えばきれいになる、わくわくするという
快適さを与える価値)
の2つの価値の向上に力を入れてきています。
その実際の成果として、以前は、
「クイックルワイパーハンディ」
の事例をご紹介したことがありました。
また、2003年に発売したヘアケア製品、
「アジエンス」
も、東洋人に多い「黒髪」をより美しく見せるという点を
機能的価値、情緒的価値の両面で追求することによって、
ヒット商品へと育てることに成功してますね。
さて、花王では、こうした高付加価値戦略における
「情緒価値」
向上を支える調査・分析手法を編み出しています。
具体的には、
消費者が「快適感」を強く感じる商品作りを目的として、
日常生活の様々なシーンで感じる快適感を数値で測定する方法
だそうです。
ここで、同社が定義する快適感は次の16種類。
これらは「感情項目」と呼ばれています。
・熱中・興味
・対人的な好感情
・強さ
・やる気・前向き
・豪華さ
・ときめき
・自身
・感動
・安静・リラックス
・満足・幸福
・爽快・リフレッシュ
・親和・愛情
・活気・陽気
・気楽・気軽
・開放感
・達成感
実際の調査のやり方ですが、たとえば、
「バーゲンで買い物をする時の快適感」
や
「テーマパークで遊ぶ時の快適感」
など、さまざまな「生活シーン」において、
上述の16種類の感情項目のそれぞれについて
消費者に
「全く感じない」(0)
から、
「はっきり感じる」(4)
までの4段階で評価してもらいます。
花王が実施した調査(調査回答者数:3158人)
では、上記2つの生活シーンについては、
・ときめき
・満足・幸福
・活気・陽気
の項目の評価が高かったため、
同社は、これを「娯楽型」の快適感と
名づけています。
花王によれば、日常生活における快適感は、
16種類の感情項目の分布から判断して、
次の6パターンに大別できるという分析結果を
明らかにしています。
・娯楽型
・癒し型
・満足型
・愛情型
・達成型
・ときめき型
このところ、マーケティング研究の分野では、
「情緒価値」とほぼ同じ意味の
「感性価値」
に対する研究や実務への適用が進んでいますが、
花王が推進している
「情緒価値の定量分析に基づく商品開発」
の動向は、今後も要チェックです。
(参考記事)
*花王、商品の“情緒的価値”を数値化
(日経ビジネスオンライン 日経情報ストラテジーニュース)
投稿者 松尾 順 : 10:59 | コメント (0) | トラックバック
サイコグラフィック分析最前線
これまで、ターゲットユーザーの購買行動の予測や
セグメンテーションには、主に、
性別、年齢、居住地、職業などの
「基本属性」(デモグラフィック属性)
と呼ばれるものが主に使われてきました。
でも、たとえば、「28歳、都心に住む独身OL」と言っても、
好きなファッションも音楽も遊ぶ場所も人それぞれですよね。
したがって、ターゲットユーザーの行動行動の予測や
セグメンテーションの軸としてはさほど有効ではないのが現実!
それでも、他に有効なセグメント軸がなかったので
最善の策として採用していただけです。
しかしながら、最近の消費者は、
ますます理解しがたい存在になってきてます。
情報化の進展によって、
口コミによるブームが起きやすくなっている一方で、
いわゆる、「オタク」的な細分化されたマーケットも
次々と生まれているような状況です。
このため、以前から主張されてきた
「サイコグラフィック属性」(心理学的属性)
の活用がますます必要になってきていると思います。
すなわち、ターゲットユーザーの
価値観や動機、性格等、
を把握して、ユーザーの購買行動予測や
セグメンテーションの精度を高めていく動きが、
今後活発になってくるでしょう。
その最新事例のひとつが、
リンクアンドモチベーション社(以下、リ社)が提供する
「ライフスタイルデータ分析」
に基づく各種サービスです。
この分析では、調査協力者の性格や価値観の違いに基づき、
・消費に積極的な・・・「浪費快楽型」
・政治・社会参加に前向きな・・・「良識社会型」
・知識教養に関心の高い・・・「自立達成型」
など、消費者をライフスタイル別に
8つに分類(セグメント)しています。
そして、市場調査においてこの分類を活用します。
(日経産業新聞、07/09/26)
たとえば、30-40歳代の女性を対象にしたヨーロッパツアー
を企画する旅行会社からの依頼を受け、
上記8つの分類に属するそれぞれのターゲットユーザーに
「参加意欲があるか」
といった質問を投げかけます。
その結果、「良識社会型」の参加率が高そうであれば、
現地での観光内容を美術館や歴史的建造物めぐりなど、
ちょっと固めのものにします。
あるいは、「浪費快楽型」の参加が多いようであれば、
有名ブランド店でのショッピングの時間をたっぷり取る
旅程とします。
このように、ターゲットユーザーの価値観や消費スタイルに
沿った商品企画を行うことで、参加者の満足度を高め、
リピート率を向上させることが可能になるというわけです。
また、豊田通商でも、
リ社の上記「ライフスタイルデータ分析」を使って、
顧客の価値観や心理を分析できるシステム、
「CLAS」
(カスタマー・ライフスタイル・アナリシス・システム)
を開発しています。
(日経ストラテジー、NOVEMBER 2007)
たとえば、同社の自動車資材部では、
シートやカーペットの内装の企画や調達を
てがける際のヒントとしたそうです。
同システムを利用することで、
ターゲット層の価値観や好きなブランドを
より深く理解できるため、内装の素材等の選定が
容易になるとのこと。
*豊田通商の記事は、ITproのWebサイトにもアップされてます。
サイコグラフィック分析をやるには、
その元データの収集を対象者に対するアンケート調査に
頼らなければならないという問題が依然として残りますが、
今後実用レベルで使える方法がさまざま開発されていくことが
期待できますね。
なお、リ社の「ライフスタイルデータ分析」は、
ODS社の「ライフスタイルインディケータ」を継承したもの。
これについては、関連記事を以前書きました。
投稿者 松尾 順 : 13:11 | コメント (3) | トラックバック
ホームページのユーザーテスト結果をどう解釈するか?
星野リゾート代表取締役、星野佳路氏は、
「個人旅行の予約ツールはほとんどがネットになる」
と感じているそうです。
(「IT経営への提言[日経コンピュータ他特別編集版])」
収録の特別講演より)
同社が運営するリゾート、宿泊施設でも、
それぞれ独自のホームページを立ち上げ集客を図っています。
問題は、各ホームページのアクセス数には大きな差が
あったことです。また、ホームページ来訪後の予約件数にも
ばらつきがありました。
そこで、ホームページの「ユーザビリティ」を検証するため、
ホームページ上の消費者の行動調査に取り組んできています。
星野氏の言う「行動調査」とは、
消費者がホームページに期待していることを口頭で聞くだけでなく、
旅館やリゾートのホームページを見るときに行動の裏に潜む
原因、理由、心理を分析しながら行動を分析すること。
そして、具体的な調査方法としては、
アイトラッキング(視線追跡)システムを活用した
ユーザーテストを行っています。
ホームページ上をどのようにユーザーの視線が動いているのか
を記録し分析することによって、さまざまなことが見えてきます。
星野氏によれば、次のようなことがわかったそうです。
・想像以上に、写真のインパクトが大きいこと
・一生懸命書いた文章にはあまり目を向けてもらえないこと
・アクセスマップも非常に重要だということ
・デザイン的に素晴らしいホームページが予約獲得に直接
結びつかないケースがあるということ
さて、こうした結果をあなたはどのように「解釈」しますか?
星野氏の講演で話された内容に基づく限られた情報ですので、
あくまで推測に頼った解釈しかできませんが、
自分なりにいろいろと考えてみるのが「解釈力」を
高めるために有効だと思います。
私の場合、
・一生懸命書いた文章にはあまり目を向けてもらえないこと
という結果が気になりました。
これを短絡的に解釈すると、
「くだくだと長い文章は効果がない。短い簡潔な文章にすべし」
ということになりそうです。
私はそうは思いません。
やはり、伝えたい情報や思いは、
たとえ長くなってもたっぷりと掲載すべきだと思います。
(もちろん、専門用語を多用しないわかりやすい文章や、
適切な見出しなど、読みやすさへの配慮は必要です)
というのも、人は最終的にどのホームページで
購入をするかの判断材料の一つとして、
「情報の豊富さ」
を重視していると考えられるからです。
では、なぜ
・一生懸命書いた文章にはあまり目を向けてもらえないこと
という結果が出てしまうのでしょうか。
これはおそらく
「ユーザーテスト」
という特殊な環境だからだと私は考えています。
ユーザーテストの被験者(調査協力者)は、
「初見」としてホームページを見るという意識で
調査に臨むでしょう。
この場合、ユーザーが気になるのは、
全体的な漠然とした印象です。
つまりざっと見た第一印象で、
このページに有効な情報がありそうか、
使いやすそうかを判断しようとするでしょう。
この場合、どうしても視線は画像に行きやすく、
逆に、文章をじっくり見ることはしません。
おそらく、テストではなくリアルな状況で、
複数のホームページを見比べるとき、
あなたもこうするのではないでしょうか。
比較対象のホームページ全てを隅から隅まで、
なめるように見るのではなく、ざっとあたりをつけて
「このホームページがよさそうだ」
と1-2個に絞りこんでから、
じっくりと文章を読み込んでいきますよね。
ですから、初見の「ざっと見」の段階で、
情報量の多いホームページと少ないサイトがあった時、
多くの場合、情報量の少ないサイトは捨てられるでしょう。
(使いやすさは同じ水準だとしたら)
なぜなら、
「このホームページでは十分な情報が得られそうもない」
と最初の段階で判断されてしまうからです。
したがって、最初の時点で、
文章をちゃんと読んでもらえないことは、
けっして問題ではないのです。
以上は、あくまで私の「仮説」の域を出ませんが、
ユーザーテストの結果を安直に判断せず、
リアルなユーザー環境も考慮しながら、
さまざまな「解釈」の可能性を探ることが必要だと思います。
あなたの「解釈」もぜひ教えてくださいね!
投稿者 松尾 順 : 10:22 | コメント (8) | トラックバック
データの行間を読む力
大手スーパーも恐れをなす山梨県の地場スーパー、オギノ。
過去10年間も着実に売り上げを伸ばし、
直近総売上高ベースでの県内シェアは[25%]に達しています。
同スーパーの最大の強みは、
県内全世帯の9割に行き渡っているポイントカード、
約42万枚(人)を通じて得られる
「購買データ」
の徹底活用です。
先日の「ガイアの夜明け」では、
同スーパーのデータ分析について
かなり突っ込んだ内容が放送されていました。
ポイントをご紹介したいと思います。
まず「併売分析」です。
これは一般に
「バスケット(買い物カゴ)分析」
と呼ばれ、一度にどんな商品が同時に買われたかを
分析するものです。
オギノの分析担当者は、併売分析の結果から、
・ジャワカレー辛口(250G)
・バーモンドカレー甘口(125G)
が同時に買われているケースが多いことを発見。
このことから、
消費者が、お好みで異なる辛さのカレールーを
2:1の割合で混ぜ合わせて使っているのだろう
という仮説(推測)を立てました。
そこで、カレールーが置いてある棚の陳列を変更。
レギュラーサイズ(250G)のそばに、
辛さの異なるハーフサイズ(125G)の商品を増やして
置いたところ、売り上げが
「5倍」
に伸びたそうです。
同様に併売分析の結果に基づき、
トンカツのそばに、千切りキャベツのパックを
並べて置いた結果は、売り上げ3倍アップ。
これは、わかりやすい「関連陳列」の例ですね。
あるいは、パスタ製品と乳製品(牛乳やバター類)が
そばに置いてあると、34倍売り上げが伸びることから、
パスタ、乳製品に加えて、
サーモン、きのこといった食材も同時に並べ、
「鮭ときのこのクリームパスタ」
というメニューの提案と合わせた売り場作りを行い、
来店客の人気を集めることに成功しています。
さて、以上は、商品についての分析でしたが、
顧客のライフスタイルや購買傾向を浮き彫りにする分析
も行っています。
オギノでは購買パターンを基に、
購買層をさまざまな切り口(軸)でセグメント化。
・お酒もタバコもやめられない、健康も気になる中高年
・朝はパン食、ベーカリーのパン好き固定客
・健康維持は飲料から。惣菜好きな単身者
などといった表現で顧客が分類されているのです。
オギノでは、こうしたセグメントに基づき、
レシートに印刷される販促クーポンの内容を
カスタマイズしています。
ある客には「ウーロン茶」、別の客には「豆乳」を
お勧めするといった具合です。
顧客全員一律ではなく、あくまで顧客一人ひとりの
購買傾向に基づいた「お勧め」のため高い反応率を
得られているようです。
オギノの分析担当者のコメントが印象的でした。
“データそのものではなく、データとデータの間、
つまり「行間を読む力」が必要なのです。
データの間にある顧客の本当のニーズを想像する力が
なければなりません。”
“いわば、「現代版御用聞き」ですね。”
私も常日頃から、
リサーチやデータ分析においては、
「データをどう読むか、すなわちどう解釈するか」
が、リサーチ、およびデータ活用のカギだと
強調してきています。
データそのものには答えは書いてありません。
データから
「価値のある知見」
を取り出せるかどうかは、
あくまで分析者の力次第なのです。
投稿者 松尾 順 : 15:02 | コメント (2) | トラックバック
「ペルソナ」マーケティング(BtoB事例)
マーケティングの世界で「ペルソナ」とは、
「企業が提供する製品・サービスにとって
最も重要で象徴的な顧客モデル」
のことを意味するのでした。
ここで、「顧客モデル」とは、
「ターゲットユーザー像」
を具体的、詳細に説明(記述)したもの。
この「顧客モデル」ですが、「一般消費者」だけでなく、
「法人ユーザー」
についても応用可能です。
すなわち、「ペルソナ」は、
[BtoB](対法人ビジネス)
にも使えるというわけですね。
日経情報ストラテジー最新号(OCTOBER 2007)の特集
「ペルソナ」マーケティング
には、大和ハウス工業の「BtoC事例」だけでなく、
なかなか興味深い「BtoB事例」も掲載されていますので、
こちらも簡単にご紹介しておきます。
業務用エアコン市場でシェア3位の
「日立アプライアンス」
は、直接の販売対象ではない
「設備店の経営者」(要するに、設備工事のオヤジさん)
のペルソナを作成しました。
同社の直接の販売対象は、
「特約店」
です。
いわゆる「卸」的存在の「特約店」が、
中小規模の「設備店」に商品を流し、「設備店」が
事務所や店舗などのエンドユーザーに、
業務用エアコンを販売・設置するという
「多段階の流通構造」
になっているというわけです。
図的に示すとこうです。↓
[日立アプライアンス→特約店→設備店→エンドユーザー]
このため、日立アプライアンスでは、
直接接点のない設備店向けに、新製品情報を中心とした
情報提供を行うにあたり、次のような点をなかなか把握
できずに困っていました。
・設備店は、日々どのような課題を抱えているのか
・特約店や設備店にどのような情報を提供すれば、
同社製品のシェアアップにつながるのか
そこで、
「旭立(あさひだち)信彦」さん
というペルソナが生まれたのです。
このペルソナ作成を主導したのは、同社の
「リニューアル促進プロジェクト」
を担当した、
空調営業本部営業企画部空調宣伝グループ
の中畑真次氏です。
作成手順は次の通りです。
-----------------------------------------------
1.設備店1806社対象のアンケート調査を実施
回答率は6割程度。規模や取引内容など、
定量的な実態把握を行った
2.回答者の8割を占めた10人以下の設備店を
営業担当者とともに回り、インタビューを実施
「どういった人たちが、どのようなことを
考えて自分たちの製品を売ってくれているのか」
を詳細に聴き取ることを目的とした
3.インタビューで取得した定性的な情報を元に
「旭立(あさひだち)信彦」という顧客モデルを作成
-----------------------------------------------
そして、同社では、
「旭立さんはどういう情報が必要なのか」
という視点で、あらゆる販促ツールを見直しました。
04年5月には、旭立さんが登場するパンフレット、
「活動のてびき」
を特約店に配布。
また、05年11月には、
それまで発行してきた機関誌『ゆーとぴあ』を
『販促通信』
と名称を変えて刷新。
従来の新製品情報だけでなく、
旭立さんに似たプロフィールの設備店経営者が
誌面に登場し、日々の奮闘を熱く語る内容と
なっています。
こうした、設備店のペルソナに対象を絞り込んだ
「輪郭のはっきりしたコミュニケーション」
が功を奏したのか、同社の事務所、店舗向けの
シングルパッケージ型のエアコン市場のシェアは、
9.8%(2002年)→11.1%
と増加しています。
BtoBも、結局のところ、最後に意思決定するのは
「生身の人間」
であり、実体のない「法人」ではありません。
組織内のキーパーソンのペルソナを作成することを
通じて顧客の理解を深めていくことは非常に有効です。
<過去関連記事リンク一覧>
<関連書籍>
『ペルソナ戦略-マーケティング戦略、製品開発、デザインを
顧客志向にする』
(ジョン・s・ブルーイット著、秋本芳伸訳、ダイヤモンド社)
投稿者 松尾 順 : 10:21 | コメント (0) | トラックバック
「ペルソナ」マーケティング(BtoC事例)
「ペルソナ」とは、
文字通りの意味は「仮面」です。
マーケティングの世界では、
「企業が提供する製品・サービスにとって
最も重要で象徴的な顧客モデル」
のことを意味します。
ここで、
「顧客モデル」
とは、わかりやすく言えば、
「ターゲットユーザー像」
を具体的、詳細に説明(記述)したものです。
一般に、ある製品・サービスのターゲットユーザーを
設定する場合、その説明は、
「都心に住む女性F1層(20-24歳)」
といった、粗い漠然としたものにならざるを得ません。
(実際は、もう少し詳細ですが)
一方、「ペルソナ」は、架空の存在ではありますが、
・氏名
・年齢
・自宅住所
・職業
・勤務先
・年収
・家族構成
・趣味嗜好
・ライフスタイル
・身体的特徴
・性格的特徴
などが具体的に決められています。
私なりの理解を申し上げると、「ペルソナ」とは、
製品・サービス、Webサイト等の開発・改良のための
思考ツールです。
詳細に記述されたターゲットユーザー像を
用いることによって、ユーザーに対する理解が深まり、
結果的に、ユーザーニーズを的確に押さえた、
エッジの効いた魅力的な製品やサービス、Webサイトが
開発可能になります。
私自身、「ペルソナ」には10年ほど前から注目し、
実際の「Webサイト設計」において「ペルソナ」的な
アプローチを採用したことがありますし、また、
当メルマガ&ブログでも、さまざまな形で取り上げてきました。
(記事へのリンクは、末尾にまとめてご紹介してます)
とはいえ、最近まで「ペルソナ」は、
まだまだ「マイナーな手法」にとどまっていました。
しかし、今年(2007年)は
ペルソナの設計法についての本が初めて発売されましたし、
日経情報ストラテジー最新号(OCTOBER 2007)では、
「ペルソナ」マーケティング
というタイトルで特集が組まれています。
「ペルソナ」も、ようやくメジャーになる兆しがあります。
では、上記日経ストラテジーの特集から、
BtoCの具体事例をひとつご紹介しておきましょう。
大和ハウス工業が、2002年10月から発売している
「EDDI's House」
はデザイン性と材質にこだわった住宅です。
この「EDDI's House」の商品企画・マーケティング施策展開に
活躍しているのが、
「田崎ファミリー」
というペルソナ。同住宅商品のプロジェクトメンバーに
よって作成された架空の家族です。
「EDDI's House」のマーケティング担当者は、
常に「田崎ファミリー」の存在を念頭に置き、
「田崎夫妻ならこうしたものを喜ぶのではないか」
というコミュニケーション手段を模索しています。
すなわち、「EDDI's House」のWebサイト、メールマガジン、
雑誌広告、雑誌記事、展示会、専用のコールセンター、
さらに、「スタイルブック」と呼ばれるムック本まで、
あらゆる顧客接点でのコミュニケーションが、いわば
「田崎ファミリー仕様」
で組み立てられているというわけです。
ところで、
「田崎ファミリー」
を作り上げる手順は次のようなものでした。
-----------------------------------------------
1.「EDDI's House」の予告サイトに
プロフィルを登録していた106人にアンケートを実施
2.アンケートの設問で、購入検討中の住宅商品のうち、
「EDDI's House」が1番または2、3番目に好きと
答えた家族(65人)の中から、地域や年齢など
バランスを考慮して6家族を選定
3.上記6家族の自宅に、プロジェクトメンバーが
出向いて、2時間以上のインタビューを実施
4.インタビュー結果を分析しつつ、
6家族に共通する性格や嗜好を探り、
プロジェクトメンバー全員で協議しながら
「ペルソナファミリー」(=田崎家)を作成
-----------------------------------------------
こうして、最終的には、
詳細なプロフィールが記述された田崎ファミリーの
「EDDI's Houseペルソナシート」
が完成したというわけです。
日経情報ストラテジーには、
このペルソナシートの一部が掲載されています。
興味のある方は、同誌をご覧になってみてくださいね。
<過去関連記事リンク一覧>
<関連書籍>
『ペルソナ戦略-マーケティング戦略、製品開発、デザインを
顧客志向にする』
(ジョン・s・ブルーイット著、秋本芳伸訳、ダイヤモンド社)
投稿者 松尾 順 : 10:31 | コメント (1) | トラックバック
テキストマイニングの進化・・・感性表現の分類
「テキストマイニング」とは、企業ユースとしては、
主に、コールセンターやWebサイトなどに寄せられた
顧客の意見や感想、クレームなどの
「生の声」
を分析する方法です。
「生の声」は、「自然文」です。
すなわち、語られた言葉そのままの文章。
このため、そのままでは、
「満足という意見は、55%、不満足は45%」
といった数値で把握すること(定量化)が困難です。
ですから、こうした生の声は、
「定性情報(データ)」
と呼ばれています。
逆に、アンケート調査のように、
設問に対する答えが、
1.はい
2.いいえ
といった選択肢で示されていて、
数字(1or2)の数値データとして扱うことができ、
集計・分析が容易なものを
「定量情報(データ)」
と呼んでいます。
さて、「テキストマイニング」ですが、
その本質は、端的に言えば次のようになります。
「生の声」(自然文)という
「定性情報」を「定量情報」化すること
定性情報を定量化する具体的な手順は、
技術的・専門的になりすぎますので説明は省きます。
むしろ、実際にどんな分析結果が
テキストマイニングから得られるのかをご紹介します。
出典は、テキストマイニングの活用面に焦点を当てた新刊、
『顧客の声マネジメント テキストマイニングで本音を「見る」』
(三室克哉・鈴村賢治・神田晴彦共著、オーム社)
からです。(分析に詳しくない方にも理解しやすい良書ですよ。)
なお、以下の分析例は、化粧品クチコミ情報サイト
「@コスメ」のデータを利用したものです。
肌とか化粧関連の言葉が出てきてますね。
テキストマイニングでまず最初に行う分析は、
「単語分析」
です。
具体的には、生の声の中から、
「単語」を抽出し、その出現頻度をカウントします。
(単語出現件数ランキング例)
順位 / 単語 / 品詞の種類 / 頻度(件)
1位 / 使う / 動詞 / 2503
2位 / 良い / 形容詞 / 1300
3位 / 肌 / 名詞 / 992
これは、人々がどんな単語を多く口にしているかの
全体傾向をつかむための「定量化」(頻度のランキング)
ですね。
つぎに行うのが
「係り受け分析」
です。主語と述語の関係を取り出します。
これは、ユーザーが、何(主語)に対してどんなこと(述語)
を言っているかの「組み合わせ」を把握するということです。
(係り受けランキング例)
順位 / 係り受け / 頻度(件)
1位 / 香り・良い / 90
2位 / 香り・好きだ / 73
3位 / 香り・リラックスする / 10
上の分析例を見ると、特定の化粧品に対する声として、
「香りが良い」と書いている人がもっとも多く、
次に「香りが好きだ」という答えが続いているということが
わかります。
係り受け分析によって、顧客の意見や感想、評価などが
それぞれどの程度の多いかが数値で正確に把握できますね。
そして、さらに上記のような分析を
回答者の基本属性(性、年齢、職業など)で切る
「クロス分析」
を行い、性別、年齢別、職業別に
それぞれ生の声がどのように違っているかを深く探ります。
また、さらに高度な分析方法として、
似たような発言をしているユーザーをグループ化する分析
(クラスター分析)などを行います。
さて、ここまでは、
従来のテキストマイニングの典型的な分析方法です。
ただ、これらの分析だけでは、
知りたいけれど、実際の分析は困難なことが一つありました。
それは、
回答者の「感情(感性)」を定量化できない
ということです。
もちろん、たとえば「香りが良い」というのは
好意的な感情表現だから
「ポジティブ」
である。
逆に、「香りが好きじゃない」という発言が
あったとしたら、これは
「ネガティブ」
な感情表現であるという2分法の分類までは
おおむねやります。
すなわち、
ポジティブ(好意的)-ネガティブ(否定的)
という感情の両極で見て、
ある製品に対する評価を定量化するわけです。
しかし、この作業は基本的に手作業です。
ひとつひとつ生の発言を見ながら、これはポジティブ、
次のはネガティブと分類しなければなりません。
したがって、ポジティブ・ネガティブの2つに分けるので精一杯。
それ以上細かなニュアンスを分類するのは実質不可能でした。
ここで、細かなニュアンスというのは、
・意見
・願望
・不満
・後悔
・要望
といったことです。
さすがにこれだけ細かいニュアンスがわかるように、
生の声を分類するのは、手作業では実質不可能でした。
しかし、テキストマイニングの研究も日進月歩。
進化のスピードは速く、最近、
細かな感情表現の分類が可能なツールが登場しています。
それは、(株)NTTデータが開発・販売する
です。
「なずき」とは、“人の脳”の古称だそうです。
このツールを使うと、
最大「81種類」の感情表現別の回答件数を
把握することができます。
たとえば、顧客の生の声を分析して、
・好評 40件
・苦情 25件
・要望 18件
といった形で顧客の声の感情表現を把握することが可能です。
上記Webサイトを見ると、
日本語意味理解製品『なずき』
というタイトルが使われていますが、
文字通り、言葉の表面的なつながりだけでなく、
発言者の感情を抽出し、定量化することができる点で
画期的なツールだと思います。
私は、先日のSPSS Data Mining Dayにおける
『なずき』担当者によるご講演で初めて、
その先進性を理解することができました。
(感性表現の分類というのは説明が難しいんですよね。)
この拙文もちょっと難しくなっちゃいました。
説明に失敗していたらすいません。
ご興味のある方は、
上記講演のレポートをご覧になってみてください。↓
@IT Special PR:
SPSS Data Mining Day 2007 イベントレポート後編
「テキスト情報から『次の一手』を決めるマーケットの
本音を探索 ~ 『なずき』による感性分析を主軸と
した新たなテキストマイニング ~」
投稿者 松尾 順 : 13:17 | コメント (0) | トラックバック
アンケート調査は役に立たない?
以前の記事で、
・予算がないから
・時間がないから
・ほかの調査は面倒だから
といった本末転倒の理由で「アンケート調査」を安易に
やってしまうのは「手抜き」であるという極論を書きました。
もちろん、私は、
アンケート調査自体を否定しているわけではありません。
仮説を定量的に検証するためには最も有効な調査方法です。
ところが、旭川市旭山動物園の園長、小菅正夫氏は、
「アンケート調査はまったく役にたたない」
と断言しています。
なぜなら、調査票の作成は、
・きっとこう答えるだろうな
・こう答えてほしい
といった調査実施者側の「予想」や「期待」に基づいて
行われるため、得られた回答結果は自分の範疇を超える
ことができないからです。
小菅園長は、来園者対象のアンケート調査を2年続けて、
この問題に気づいたのだそうです。
上記調査の詳細は聞けていないのですが、
小菅園長のおっしゃる、
「自分の範疇を超えることができない」
というのは、
「すでに自分がわかっていたことを再確認できるに過ぎない」
という意味でしょう。
ただ、そうであるならば、そもそも
アンケート調査の使い道を間違っていた可能性があります。
(小菅園長を非難する意図はありません)
旭山動物園で行われたアンケート調査の目的は、
来園者の不満点、改善点を発見することにあったと
想定されます。
これは、要するに
「仮説発見(構築)」
を主目的とするものですから、
アンケート調査はあまり適した方法ではないのです。
というのも、アンケート調査では、
回答者は、あらかじめ設定された質問にしか答えませんから、
動物園側が思いもしない、新たな不満点や改善点が得られる
はずはないからです。
「アンケート調査は、役に立たない」
という小菅園長の判断は、正確には、
「来園者がどんな不満や改善要望を持っているかという
仮説発見・構築には、アンケート調査は役に立たない」
ということだと思います。
実際、アンケート調査の代わりに、
来園者への聴き取り調査(ヒアリング調査)を
行ったところ、たくさんの発見が得られています。
来園者に自由に語ってもらい、
それを素直に記録するやり方が効を奏したわけです。
聴き取り調査の結果を
まとめるのはとても手間がかかります。
しかし、冒頭に述べたように、手間がかかるからと
いって安易に「アンケート調査」に逃げてはいけないと
思います。
なお、上記聴き取り調査の結果は
まことに辛らつ、かつ率直なものでした。
そもそも、動物園に来ているにもかかわらず、
「動物園は面白くない!!」
と多くの人が語っていたのです。
その理由は、まず「動物たちが動かないから」
・クマは寝てるだけ
・キリンは立ってるだけ
・水鳥は浮かんでるだけ
ということでつまらない。
また、「見てるだけじゃつまらない」
・抱っこしたい
・えさをあげたい
・お世話したい
さらに、「いつ来ても同じ」
これは、GWの季節などの毎年同じ時期に、
他にいくところもないから、「動物園でもいくか」
といいった調子で来ていた人たちが多かったため、
変わり映えがしないと感じていたようです。
旭山動物園は今、
動物たちが本来持つ能力を発揮させ、
生き生きと活動する姿を見せる、
「行動展示」「能力展示」
の成功により、上野動物園に匹敵する来園者数を
集めています。(平成18年度は約304万人)
この展示スタイルの導入に、
少なからず、聴き取り調査の結果が活かされている
のは間違いないでしょう。
*小菅園長のお話は、
夕学五十講の講演(2007年7月26日)にて
お聞きしたものです。
投稿者 松尾 順 : 11:24 | コメント (4) | トラックバック
ミシュランガイドの評価方法
レストランの格付けで世界的に知られた
「ミシュランガイド」の「東京版」
が今年07年11月に発刊されますね。
マーケティングリサーチャーの私としては、
格付け、つまり「評価方法」が気になるところです。
先日、来日したミシュランガイド 6代目総責任者、
ジャン=リュック・ナレ氏のインタビュー記事
(日経ビジネスアソシエ、2007.07.17)では、
その評価方法がわかりやすく説明されていたので、
ポイントをご紹介します。
まず、ミシュランガイドの信頼性が高いことについて、
ナレ氏は、次の3つを挙げています。
・調査や制作の資金をすべて自社で負担しているという独立性
・世界各国で調査員が同じ基準で評価していること
・評価は1年ごとに更新されること
すなわち、偏りの少ない、
最新の評価を知ることができるということでしょうね。
次に調査方法。
ミシュランと契約したフルタイムの調査員が、
レストランで食事をした後、所定のフォームを使って
レポートにまとめます。
別の記事によれば、ミシュランガイド東京版の発行のため、
昨年5月から覆面調査員5人が、東京の1200店以上を対象に
調査を開始しています。
5人のうち2人は日本人、3人は欧州系だそうです。
おいしい料理を食べることが仕事だなんて、
私もぜひ覆面調査員やりたいです。
なんとかなりませんかね・・・?(笑)
なお、8年前から発行されている
「ザガットサーベイ東京版」
の場合、一般のレストラン利用者のアンケートによって
評価が行われています。
さて、ミシュランガイドの調査項目ですが、
所定のフォームの表には
・店の内装
・テーブルウェア
・快適さ
といった客観的な評価項目が並んでいます。
調査員は、該当する項目(選択肢形式でしょう)を
チェックすることで評価します。
そして、フォームの裏側は、「料理」の評価です。
これは調査員の主観を大切にするため、
あえて「自由記述」を採用しているそうです。
料理の評価の基準は、以下の5つ。
・食材
・火加減
・味
・シェフの個性
・安定性(どの料理もおいしいか、いつ行ってもおいしいか)
そして各店の星の数は、
上記調査結果に基づき、格付け会議を開いて決定されます。
この格付け会議にその国の調査員が一同に会し、
1店ずつ星の数を決めていくのです。
もし、調査員によって評価が分かれたら、
その店は日によってバラツキがある、つまり「安定性」に
難ありと判断されるようです。
星の数の意味は次のとおりです。
☆ :「そのカテゴリーで特に美味しい料理を提供するレストラン」
☆☆ :「遠回りしてでも訪れる価値がある素晴らしい料理」
☆☆☆:「わざわざ訪れる価値がある卓越した料理」
ちなみに、私もぜひやりたい
「覆面調査員」
になるための条件ですが、最も重視するのは、
「「食べることに情熱を持っているかどうか」
だそうです。
うん、これは私はクリアしてると思います。(^_^)
実際、私のメルマガ&ブログは、
「食」
のテーマが多いことには皆さんお気づきでしょう。
しかし、技術面の条件としては、
どれだけ細かく観察できるか、また料理については
繊細に評価できるかが問われます。
なるほど・・・
恥ずかしながら、私は味覚についてはかなり鈍感なので、
やはり調査員になるのは無理のようです。(+_+)
残念!
投稿者 松尾 順 : 09:54 | コメント (0) | トラックバック
「手抜き調査」の自覚
マーケティングリサーチャーの一人として、
自戒を込めて、やや極論を申し上げます。
「アンケート調査は、手抜きの調査方法です。」
こうした自覚が、マーケターには必要だと思います。
アンケート調査自体を否定しているわけではありません。
仮説を検証し、定量的な数字で物事を判断する場合に、
きわめて有効な手法です。
ただし、アンケート調査が、
「今回の調査目的を達成するために、最適の手法か?」
という吟味が十分になされた上で実施が決定されるべきでしょう。
なぜ、こんなことを書いているかというと、
アンケート調査を行う理由が、その「合目的性」ではなく、
・予算がないから
・時間がないから
・他の調査は手間がかかるし面倒だから
(あからさまにそう思ってはいないでしょうけど)
といった、率直に言ってしまえば、
マーケターの「手抜き」
的なものになりがちだからです。
最近はお手軽・安価なネットアンケートが普及したので、
猫も杓子もアンケート、アンケート。
安易にアンケートを実施して、
結局のところ、あまり役に立たないデータが量産されている
可能性があるんじゃないでしょうか?
「調査なんて役に立たない」
などと、調査の本質を理解しない発言をする人がいるのも、
アンケート調査の氾濫が背景にあるのかもしれません。
消費者対象の調査について言えば、
それは、消費者の心理や行動を的確に把握するもの。
そこから、売れる商品開発や、
効果的なコミュニケーション施策のためのヒント
(顧客洞察=インサイト)を得ることができなければ、
調査をやるだけ無駄です。
逆に言えば、売れる商品開発や、
効果的なコミュニケーションのためのヒント
(顧客洞察=インサイト)を得たかったら、
安易な「手抜き」をしてはいけません。
商品開発や、コミュニケーション施策には莫大なお金を
投じるにも関わらず、リサーチを軽視し、
十分な時間や予算、手間をかけないのはまさに本末転倒。
これは、先日書いた記事、
でも指摘した通りです。
調査手法にはさまざまなものがありますが、
最もリッチな情報、すなわち、
磨けば光るインサイトの原石が含まれているのは
「観察調査」
でしょう。
これは、要するに「現場」に行くということです。
顧客が対象商品を選んだり、利用している様子を
じっくり観察する。ビデオに撮って繰り返し見る。
観察調査は、大変に面倒で、お金も時間もかかります。
しかし、情報のリッチ度と調査の面倒度は
相反する関係にあります。
私の感覚的なランキングではありますが、
情報が最もリッチ(裏返すと調査の面倒度)が高いものから
主要な調査手法を並べると次のようになるでしょう。
1.観察調査
2.個別インタビュー調査(デプスインタビュー)
3.グループインタビュー調査
4.アンケート調査
5.マーケターの思い込み(これは調査ではないですが)
顧客の理解度の深さが、
新商品やマーケティング施策の成功の鍵を握っています。
だとするならば、顧客理解のための調査には、
必要十分な手間と面倒をかけていただきたいと願っています。
投稿者 松尾 順 : 08:51 | コメント (6) | トラックバック
マーケティング情報士官
先日、当メルマガ&ブログで書いた
や
では、
・企業によっては、商品開発担当者や上層部の
「調査」の役割や意義に対する理解があまり高くないこと。
・このため、「調査」が正しく実行されないこと。
(やらずに済ますことさえある。)
・このことが、優れた商品開発の障害となっていること。
等を指摘させていただきました。
上記記事で私が言いたかったことは、本音ベースでは、
“マーケティングにかかわる方は、
最低限のリサーチについての知識を持っておいてほしい”
という「ボヤキ」でもありました。(笑)
しかし、リサーチを発注する相手に文句を言う以上は、
調査を担当するマーケティング・リサーチャーとしての
「あるべき姿」
も再確認しておくべきですよね。
マーケティング・リサーチャーとしてのあるべき姿とは、
「リサーチャーは、本来どんな仕事をすべきなのか?」
という本質的な問いに答えることでわかります。
恥ずかしながら、私はこれまで、
この問いに対する明快な答えを持っていませんでした。
しかし、最近になって、
国家安全保障のための諜報活動の文脈で使われる
「インテリジェンス」
の考え方に大きな示唆を得ました。
「インテリジェンス」を扱う人のことを
情報士官(インテリジェント・オフィサー)と呼びます。
情報士官の仕事は、ベストセラー『ウルトラ・ダラー』の
著者であり、元NHKワシントン支局長として知られる手嶋龍一氏
によれば次のようなものです。(私の解釈が多少入っています)
---------------------------------------
・玉石混交の膨大な情報から、
ダイヤの原石と思われる情報を見極め、選び出すこと
・ダイヤの原石らしき情報に磨きをかけること、
すなわち、その情報の真偽、信憑性を確認するための裏を
取ること
・磨きをかけた情報をさまざまに組み合わせて、
将来の変化について、新たな発見や予測を行うこと
----------------------------------------
上記を読むとおわかりだと思いますが、
情報士官の仕事は、単に‘情報を収集して’
政府関係者に提供することではないことがわかります。
情報士官が提供する「インテリジェンス」は、
政府関係者(その頂点には、大統領や首相がいます)
の重大な意思決定に役立つ
「意味を持つ情報」
でなければならないのです。
ここで「意味を持つ情報」とは、将来についての
「一定の方向を指し示すもの」
(読み、仮説、予測などと言い換えられます)
です。
さて、マーケティング・リサーチャーがやるべき仕事も、
情報士官とまったく同じでしょう。
マーケティング・リサーチャーのあるべき姿は、
「マーケティング情報仕官」
とでも言えるのではないでしょうか。
マーケティングリサーチャーも、
ただ、データを集めて分析するだけでは
務めを果たしていない。
ダイヤの原石情報を選び出し、磨きをかけ、
複数のデータを統合して、「意味を持つ情報」に
仕立て上げなければなりません。
なお、このために特に必要とされる能力が、
「データの解釈力」
だと思います。
この「解釈力」は、
リサーチャーが持つ知識や思考能力に比例します。
調査対象の業界や商品、顧客に始まり、
社会、経済、技術、歴史、哲学、社会学、心理学、
人類学等々、広範囲の知識があればあるほど、また
こうした知識を柔軟に使いこなす思考能力が高ければ
高いほど、同じデータから導かれる「意味」の価値は
優れたものになるでしょう。
すなわち、マーケティング・リサーチャーとしての質は、
最終的には、「解釈力」によって評価されることに
なるんじゃないかと思います。
(調査企画・設計や統計解析など、
テクニカルなスキルは基本要件に過ぎません)
まあ、実際のところ、マーケティング・リサーチャーが、
「マーケティング情報士官」
を目指そうとすのは、めちゃくちゃ大変です・・・
私も、まだ道半ばにも来ていないと思います。
でも、やりがいたっぷりです。
投稿者 松尾 順 : 11:12 | コメント (8) | トラックバック
「思えばなる方式」からの脱却
昨日ちょこっとご紹介した、
「マーケティング・リテラシー」
(プレジデント最新号(2007.6.4)
「ビジネススクール流知的武装講座」)
について、ちょっと内容が難しくなるのですが、
記事全体のポイントをまとめておきます。
(私の方で、多少言い回しを変えたり補足説明してます)
なお、同記事は、
主にメーカーのリサーチ部門を念頭に書かれています。
執筆者の石井淳蔵氏(神戸大学大学院教授)は、
専門部署としての「リサーチ部門」を持たない企業の問題点
として、次の3点を挙げます。
-----------------------------------------
(1)やるべきリサーチをやらずにすます。
これは昨日引用した部分です。
コンセプト、パッケージ、試作品、広告コピー等々、
新製品が導入されるまでには、本来多くのリサーチが
行われるべきところ、リサーチ専門部署がないと、
「時間がない」「費用がない」
といった理由で、いくつかのリサーチをなしで済ますことが
起こります。
石井先生は、発売を急ぐあまり、「時間が惜しい」という理由で
リサーチをやらないのは「主客転倒」と指摘されていますが、
まったくおっしゃるとおりですね。
(2)不明確なリサーチ課題の下にリサーチが実施される。
独立したリサーチ部門があれば、
商品開発を担当するマーケターからの調査依頼を受ける際、
リサーチ課題が明確になっているかをまず確認するはずです。
すなわち、マーケターとリサーチ担当者のやり取りを通じて
仮説立案をしっかりやるという手順が踏まれることで、
リサーチがより価値あるものになります。
しかし、同一部署でリサーチも担当してしまうと、
馴れ合いが起こります。その結果、リサーチ課題があいまいな
まま、とりあえず調査を始めてしまったり、場合によっては、
企画を通すために都合の良いデータを集めるといった、
やはり主客転倒の調査が行われてしまう可能性があります。
(3)「リサーチ標準」を定着させることができない。
外資系のある企業では、「7:3」の原則があるそうです。
これは、発売したい新商品を消費者リサーチにかけた結果、
回答者の7割以上が「前の商品より優れている」と答えないと、
その新商品の導入は行わないという原則です。
独立したリサーチ部署であれば、こうした
「リサーチ標準」
を確立し、また維持できるのですが、そうでない場合、
結果をどのように判断するかの基準が調査のたびに変わってしまう
といったことが起き、調査をやる意義が低下してしまいます。
そうなると、調査担当者は、マーケターの意向に従って
数字を作るだけの単なる「便利屋」に成り下がってしまうのです。
-----------------------------------------
以上は、リサーチの専門部署を持たない企業が陥りやすい問題点
でしたが、逆に言えば、リサーチの専門部署を持つことのメリット
は次の3点です。
(1)仕組みとしてのリサーチ・プロセスの確立
(リサーチに基づいたマーケティング決定)
(2)マーケターとリサーチ担当との良い緊張関係
(3)リサーチ標準(手法、プロセス、基準)の維持
さて、石井先生は、日本企業では、ことのほか
「思えばなる方式」
が評価されると指摘しています。
「マーケターもデザイナーもクリエーターもリサーチャーも
侃侃諤諤議論しながら一緒にやれば何とかなる」
というやり方のことです。
しかし、良い商品を作りたいと思う人が集まって、
良くない商品が生まれているのが現実。
「これだけ複雑になった現代のマーケティング世界では、
思えばなる方式だけで渡っていけるほど簡単ではない」
と、石井先生はバッサリ。
売れる商品づくりに本当に役立つリサーチを行うためには、
「思えばなる方式」からの脱却が必要でしょう。
投稿者 松尾 順 : 08:03 | コメント (0) | トラックバック
リサーチ・リテラシー
先日、某外資系企業製品の日本市場開拓を支援されている方が、
ミクシィ内のマーケティング・コミュニティにヘルプを
求めてました。(差し障りがあるかも知れませんので、
詳細はあえてぼかします)
“日本に輸出したい製品について、日本市場の現状を
調べています。しかし、情報が少なくて困っています。
役立つ情報があれば教えてください”
そこで、私は、当該市場分野についての有料レポートを
発行している調査会社名を教えてあげました。
当該市場は、法人向けのニッチな分野でした。
したがって、一般に公開されている情報は限られていることが
わかっていたからです。
ところが、このヘルプを求めていた方のレスは、
“クライアントは、そうした調査レポートには、
お金を出してくれそうもないんですよ”
とのことでした。
要するに、この外資系企業としては、
インターネットなどで検索できる一般情報で
市場調査を間に合わせたいと考えているんでしょう。
そうお考えなら仕方がないです・・・
こうした会社は、決して少なくはありませんよね。
日本企業でも結構多いのが現状です。
しかし、正直に申し上げて、
私はこのような考えが全く理解できません。
(冒頭のヘルプを求めた方や、外資系企業を
非難しているわけではないですよ)
この外資系企業で言えば、いざ日本に輸出すると決断したら、
相応の投資を行うはずです。
もし、不十分な調査に基づいて日本進出を決め、
不幸にも失敗してしまえば、その投資は無駄に終わることに
なります。
それでいいんでしょうか?
調査をしたからといって100%の成功が約束されるわけでは
ありません。しかし、失敗の可能性を下げるためにやるのが、
調査です。
しかも、私がご紹介した有料レポートは、
何本か購入してもせいぜい数十万円程度で済む話。
本格展開で投じる数百万~数千万円をドブに捨ててしまう
ような結果をできるだけ避けたいなら、数十万円なんて
たいした金額ではないはずですけどねぇ・・・
さて、たまたまですが、プレジデント最新号(2007.6.4)の
「ビジネススクール流知的武装講座」は、
「マーケティング・リテラシー」
がテーマでした。
筆者の石井淳蔵氏(神戸大学大学院経営学研究科教授)は、
「マーケティング・リテラシー」
を次のように定義しています。
「マーケティングの知識を、
学び、増やし、使いこなす組織の能力」
そして、マーケティング・リテラシーが低い組織の問題点を
いくつか指摘されているのですが、その冒頭に挙げてあるのが、
・やるべきリサーチをやらずにすます
です。
石井先生は、
「組織にリサーチ専門部署がないと、
時間がないとか、費用がないといった理由で
やるべきリサーチをパスしてしまう」
ということが起きやすい点を指摘し、
“「リサーチの時間も費用もなく」
進めた新商品発売計画が失敗したら、
いったい誰が責任を取るのか?”
と疑問を呈しています。
“リサーチさえきちんとやっておけば、
計画が不成功に終わっても反省して次に生かせる。
リサーチの予測が間違っていたせいか、リサーチの
結果を無視してマーケターがその商品の市場導入を
行ったせいか。
そこを見極めて次に結びつければよい。”
というのが石井先生の考え。私ももちろん同意します。
ところで、石井先生が説く
「マーケティング・リテラシー」
は、特に「調査」の重要性を強調されています。
その意味では、私はむしろ
「リサーチ・リテラシー」
と呼ぶのが適切ではないかと感じました。
というのも、広告や販売促進といった
「マーケティング・コミュニケーション」
については、知識や経験が豊富なマーケターであっても、
意外と、「調査」についての知識が十分ではないからです。
そして、実は、しばしばリサーチ・リテラシーの低さが、
マーケティング企画の立案や実行上の障害となる場合が
ある点です。(私自身、過去なんども経験してきました・・・)
もちろん、すべてのマーケターが、
調査の具体的なノウハウ・テクニックを習得する必要は
ありません。
ただ、調査の意義や、基本的な調査・分析手法の考え方、
データの見方といった最小限のリサーチリテラシーを
持っておく必要性は高いんじゃないでしょうか?
(補足)
具体例として、マーケティング・コミュのトピックを引用してますけど、
トピを立てた方個人に対する非難・中傷の意図はまったくございません。
また、仮にそう受け取れる表現があったとしても、それは個人の人格に
対するものではなく、特定の行動についての指摘です。
記事で本当に伝えたいことは、記事中のような行動を取る企業が
過去に存在していたけれど、、今もやっぱりあるんだなあという
私自身の嘆きです。
投稿者 松尾 順 : 11:04 | コメント (6) | トラックバック
マーケターの環境モニタリング
ずいぶん前から気になってることなんですが・・・
私が講師を務めているマーケティング系の講座の受講生の方に、
以前、話の流れの中で、
“「R25」は読みますか?”
と質問した時に、手が一人くらいしか挙がらなくて愕然としたこと
があります。
受講生のほとんどは、30歳前後の男性でしたのに・・・
また、キャラクターの効果について話してる時に、
“「ぴちょんくん」、ご存知ですよね?”
と聞いた時も、やはり一人くらいしかうなずいてくれず、
やはり愕然としました。
マーケターは、移ろいやすくきまぐれな消費者の心理を
的確に読むことが最大の役割。
私はそう思っています。
ですから、少なくとも、最近消費者の心を掴んでるモノゴトに
ついてはもう少し敏感になっておくべきじゃないんですかね。
・話題になってる社会の出来事
・注目すべきビジネス上の出来事
・話題になってるネット上の出来事
・人気の雑誌・本、テレビ番組
・人気の映画・演劇・音楽、ファッション
・時の人(タレント、有名人、ビジネスパーソン)
最低限、上記のことについては、
個人的な興味の有り無しに関わらず、
変化をウオッチしておくという意味での
「環境モニタリング」
をマーケターの責務として実行しておくべきでは?
「マーケターの責務」と言うのは、
プロフェッショナルとしてのクオリティを高める・維持する
ための必須事項だという意味合いでも申し上げています。
「環境モニタリング」のやり方も、できれば自分で実体験し、
「一次情報」
として脳みその中に入れた方がいいのですが、
時間は有限ですよね。
だから、他の人の経験などがデータ化(文字、音声、画像など)
された「二次情報」を摂取するのでもいいと思います。
何も知らないよりは・・・
最近は、新聞・雑誌はほとんど読まない。
ネットで十分という方が多いですね。
そのこと自体は否定しません。
しかし、ネットを利用する時って、
以前のようなきままなネットサーフィンはあまりやらず、
自分の関心のあることを中心に検索して、直接見に行く
傾向が高まってますよね。
つまり、どうしても個人的な関心のあることだけに
情報が偏ってしまいがちです。
そうすると、マーケターに求められる深い洞察力や、
斬新な発想力が弱体化してしまうんじゃないでしょうか。
ちなみに、私は、新聞や雑誌をあえて隅々まで読むように
しています。シニア向けだろうが、女性向けだろうが、
子供向けだろうが、何であろうととにかく目を通します。
個人的には興味のない内容を読むのは苦痛で、
正直なところ、飛ばし読みしてしまうこともありますが、
たまに面白いことを発見するんですよね。
一見、無駄で非効率な行動を取るからこそ、たまに
財宝のありかが書かれた地図が発見できると思います。
だから、私はいつも時間が足りないとわめいているんですが!
投稿者 松尾 順 : 12:21 | コメント (0) | トラックバック
コカ・コーラの「CBL」:消費者調査の新手法
米コカコーラが2004年に開発した独自の消費者調査の新手法は
なかなか興味深いので、ポイントをご紹介します。
この新手法は、既に世界40カ国で実施されています。
日本のコカコーラグループでの採用は06年8月でした。
(日経MJ、2007/03/21、日経情報ストラテジー、MAY 2007)
さて、
「CBL」(Consumer Beverage Landscape)
と呼ばれるこの手法は、
市場を「商品カテゴリー」ではなく、
「消費者の動機や欲求の種類」
でセグメントするものです。
「商品カテゴリー」は、例えば「炭酸飲料」、
「スポーツ飲料」、「果汁飲料」などのカテゴリーがありますが、
・これらの商品はどんな成分で構成されているか
・どんな特徴があるか、
といったことが基準になっています。
いわゆる「規格」に基づく分類です。
通常、市場規模はこの商品カテゴリー毎に集計しますよね。
しかし、「CBL」では、消費者調査に基づいて
・食事との相性
・気分一新
・栄養補給
・自分らしさ
など、19個の消費者側の動機、欲求を抽出しています。
これらは、
「ニードステーツ」(「欲求の状態」とでも訳せますか)
と呼ばれていますが、「CBL」では、19個の
ニードステーツ毎の市場規模が算出できるようになっている
そうです。
つまり、「商品カテゴリー」による市場規模は、
「何を飲んだか」
という統計データ、
一方、「ニードステーツ」による市場規模は、
「なぜ飲んだのか」
の統計データになると言えます。
では、この「CBL」を活用することで、
どんなことがわかるんでしょうか?
例えば、スポーツ飲料の「アクエリアス」
の派生ブランドである機能性飲料「アクティブダイエット」
は、基幹商品の「アクエリアス」の販売数量を落とすことなく、
ヒットしました。
つまり、両ブランドは、規格面では似た存在なのに
食い合い(カニバリ)が発生しなかったのですが、
従来の調査では、なぜ食い合いが起きなかったのかの理由が
わかりませんでした。
しかし、「CBL」によれば、
・アクエリアス→「積極的な補充」
・アクティブダイエット→「体重管理」
とそれぞれ、異なるニードステートが大きいことが判明。
要するに、両ブランドの場合、消費者の飲む動機、欲求が
異なっていたので食い合わなかったということですね。
その他にも、「ニードステーツ」に基づく、競合他社商品
とのポジショニング分析を行い、弱いカテゴリーを
補強するためのマーケティング施策立案等に役立てることが
可能です。
「CBL」のような、市場規模を消費者の動機や欲求で区分する
方法は、ありそうであまりなかったアプローチですよね。
現時点ではまだ、「CBL」について詳細な資料を手に入れること
は難しいようですが、追加情報が手に入ったらまたご紹介します。
*なお、「CBL」のための調査方法について以下、
簡単に付記します。
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調査時期・実施回数:年に複数回
調査規模:数千人
調査方法:インターネット調査
調査内容:1週間、1日24時間当たりに飲んだ飲料をすべて把握。
それぞれの飲料について、飲用場所、購入場所、
購入動機、飲用時の気分など、約百項目の質問に回答
してもらう
分析方法:社会心理学の考え方である「コモン・モチベーショナル
・フレームワーク」に基づき、19のニードステーツに
アンケートデータを振り分ける
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投稿者 松尾 順 : 09:41 | コメント (6) | トラックバック
オンライン・コミュニティの効果検証:イーベイ
オンライン・コミュニティは、既存顧客との関係性強化に
効果が高い。結果として、リピートアクセス数の向上や
取引金額の増加につながる。
理屈では、この考え方(仮説)は限りなく正しいはずです。
でも、なかなか数値的に実証されたことはありません。
私自身も、オンライン・コミュニティの構築を提案する際に、
「実際、どの程度効果あるの?」
というクライアントからの質問に対して、
説得力のある事例をなかなか提示することができませんでした。
しかし、世界最大のネットオークション「イーベイ」で、
05年5月から1年間にわたって行われたフィールド実験の結果は
結構使えそうですよ。(PRESIDENT、2007.04.16)
イーベイは、日本からはさっさと撤退してしまいましたので、
その仕組みを理解されている方はあまり多くないと思いますが、
オークションだけでなく、会員掲示板やクラブ、チャットルーム
など、コミュニティ機能が充実しています。
ハーバード大学の研究者は、イーベイ・ドイツの協力を得て、
フィールド実験を行い、オンラインコミュニティの効果を
検証することにしました。
調査対象者は、3ヶ月以内にイーベイのオークションサイトで
品物を販売、または購入したことのあるユーザー約14万人。
ただし、彼らは、これまでコミュニティに参加したことの
なかった人たちです。
実験では、この14万の中から無作為抽出された約8万人の人に、
コミュニティへの参加を促すeメールを送信。
残り6万人はいわゆる「コントロールグループ」です。
eメールを送ったグループと比較できるよう、
イーベイからは何もアクションしません。
実験開始後3ヶ月。
eメール送信者8万人のうち、約1万4千人がコミュニティに
参加しました。
そして、この1万4千人の新規コミュニティ参加者を
・能動的参加者(掲示板に書き込んだり、議論に参加)
・受動的参加者(読むだけ、つまりROM)
に分けると、
・能動的参加者:約3千人
・受動的参加者:約1万1千人
となりました。
さて、それから1年間、このコミュニティ参加者と、
コントロールグループの6万人の行動を追跡、比較した
ところ、次のような結果が得られています。
◎能動的、受動的参加者の行動(入札面)
・入札回数: コントロールグループの2倍多い
・落札回数: 同25%高い
・落札金額: 同14%高い
・合計金額: 同54%高い
◎能動的参加者の行動(出品面)
・出品点数: コントロールグループの4倍多い
・月次売上: 同6倍
◎初めて出品した人の割合
・能動的参加者の場合:54.1%
・受動的参加者の場合:56.1%
*この数字は、コントロールグループの10倍近く。
(つまり、コミュニティに参加していない人が、
出品する割合は10%にも満たないということでしょう)
個人間のオークションの場合、
「入札・落札」(つまり購入)だけでなく、
さらに一歩進んで「出品」(つまり販売)をするようになると
さらに関与度が高まるわけですが、コミュニティが、
ユーザーをさらにアクティブにするということがわかりますね。
以上の数値は、あくまでネットオークションというビジネスに
おけるコミュニティ効果ですから、他のビジネスモデルに
そのまま当てはめるというわけには行きませんが、やはり
コミュニティは有効な仕組みであることをクライアントに
理解してもらうにはいい事例じゃないでしょうか。
ちなみに、この実験を行った年、イーベイ・ドイツでの
売上総額は前年度比58%増となりました。
そして、この実験結果からのイーベイの粗利益を計算すると、
およそ数百万ドルの利益を得たことになるそうです。
投稿者 松尾 順 : 07:25 | コメント (0) | トラックバック
企業とブロガーの関係
今年2月頭にPRマーケティング会社、ビルコム(株)が実施した
ブロガーに関する調査結果が、「宣伝会議」最新号(2007.3.15)
に掲載されていました。
ネット上ではいち早く公表されてましたが、宣伝会議で見て、
あらためて「なるほどねぇ・・・」と考えさせられるところが
ありました。
ポイントを拾っておきますね。
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<調査概要>
実 施 期 間:2007年2月5日~7日
調 査 対 象:日本全国の20代以上の男女
回収サンプル数:400人(男女それぞれ200人)
Q.1 企業がブロガーに、宣伝のためにお金を渡すことについて
どう思いますか?
☆賛成:55.5% ★反対:44.5%
~~~~~~~
Q.2 自社商品のオススメを書いてもらうため、企業がブロガーに
お金を払う場合があります。そのことを知っていましたか?
☆はい:41.3% ★いいえ:58.8%
~~~~~~~~
Q.3 企業からお金をもらって書いている友人・知人のオススメ
商品を信用しますか?
☆はい:37.0% ★いいえ:63.0%
~~~~~~~~
Q.4 企業からお金をもらって書いている知らない人のオススメ
商品を信用しますか?
☆はい:13.3% ★いいえ:86.7%
~~~~~~~~
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宣伝のために企業がブロガーにお金を渡す点について、
「広告であればいいだろう」と考える消費者が半数以上
いました。
私も、「広告」であることが明示されているブログ記事なら、
なんら(倫理上の)問題はないと考えています。
オススメ記事を書いてもらうために、企業がブロガーに
お金を渡す場合があるということを知らない人が、
6割近くいたというのはちょっと驚きですね。
一般消費者の多くは、やはり無知というか純粋です。
企業からお金をもらって書いているオススメ商品を
知らないブロガーなら、8割近くの人が信用しないのは
当然として、友人・知人なら4割近くの人が信用すると
いうのは意外でした。人のつながりの強さを感じます。
さて、こう書いて、似たようなことがあるなと思い出したのが
「パーティ商法」です。
友人・知人を自宅に招き、各種商品(調理器具など)の
実演販売を行う「パーティ商法」は、人間関係を
うまくビジネスに取り込んでいますよね。
同様に、ネット上の口コミは、仮にそれが「広告」と
認識されていたとしても、友人・知人間なら、
それなりに効果があると言えるとうことことでしょう。
もちろん、友人・知人を失うリスクをはらんでますけど。
ちなみに上記の調査結果の数字をどう解釈するかは、
人それぞれです。ネット上の記事では正反対の解釈が
なされているものがあります。
数字というのは、自分の読みたいように読める場合があるのが
怖いですね。
また、このことは、アルファブロガー、徳力さんの
「ネットコミュニケーションの視点 tokuriki.com」
でも既に指摘されています。
→記事のタイトルのつけ方一つで、印象が大きく変わるということ
投稿者 松尾 順 : 10:54 | コメント (0) | トラックバック
ログ分析で売れる商品開発:カカクコムの事例
私が講師を務めているシナプス・マーケティング・カレッジの
「Webマーケティング」(全3回)は、先週土曜日に3回目が
終わったばかりです。
実は、前期までは全2回だったのですが、
今期から、「Webサイトの効果検証ノウハウ」を
お伝えする回を加えて全3回としました。
この3回目の講義では、
・アクセスログ分析
・ユーザビリティ調査
・顧客満足度調査
などのポイントを3時間でお話しています。
まあ、本来、上記それぞれの項目について各3時間くらい時間が
欲しいところです。でも、あまり講義内容を細分化してしまうと、
受講したい潜在受講者がどうしても減りますから、
開講できるだけの人数を集めるのが難しくなります。
悩ましいところです。
おっと、前振りはこのくらいにして、
商品開発にアクセスログ分析を活かした事例をご紹介します。
(日経情報ストラテジー、April 2007)
実は、こうした事例はなかなか表に出ることがありませんから
貴重ですよ。
薄型テレビの企画・開発を手がけるバイ・デザインは、
32型の薄型テレビ(商品名:dxk:32.com)300台を
カカクコムと共同で開発、ほとんど宣伝費をかけず、
カカクコムだけで売り出した結果、2週間で完売したそうです。
この商品を開発するに当たって、両社は、
カカクコムユーザーのサイト上の行動履歴と言える
「アクセスログ」を細かく分析しました。
カカクコムの場合、とりわけ有益なアクセスログが取れるのは、
「スペック検索」
のところ。
潜在顧客が、検索画面で、メーカー名、画面サイズ、機能
などの条件を指定して検索をかけた記録が残っていますから、
潜在顧客の求めているスペックが手に取るようにわかるんですね。
実際、分析をかけてみると、潜在顧客の8割が「画面サイズ」を
指定して検索していたことがわかりました。
こう聞くと、「なるほどやっぱりなあ」と思うかもしれませんが、
数字の裏づけが取れることに意義があります。
さて、潜在顧客は、「画面サイズ」をまず優先しますが、
画面サイズが大きくなると価格も高くなりますから、
「画面サイズ」と「価格」の適切なバランスを検討しているはず。
そこで、ログ分析でも、「画面サイズと価格の組み合わせ」を
深く見ていったところ、「高価格」か「低価格か」の2極分化の
傾向があることがわかったそうです。
こうした分析を経て、新商品、dxk:32.comのサイズは、
32インチ、値段は、11万4800円(税込み)と決定。
これを前提としてバイデザインでは商品設計を進めていきました。
実は、この商品には地上デジタル放送を受信できる
「デジタルチューナー」の搭載も検討していたそうですが、
今回は見送ったそうです。
というのも、スペック検索のログ分析の結果、
デジタルチューナーが必要だとした人の平均検索価格が
18万6266円に対し、指定しない人のそれは15万4894円。
この価格差3万円強は、潜在顧客がデジタルチューナーに
払ってもよいと考えている金額だといえます。
しかし、当時の製造コストを考慮すると、
3万円程度ではデジタルチューナーを搭載する分のコスト増を
吸収できないため、搭載しなかったというわけです。
また、カカクコムのようなオンライン販売では、
アクセスログからかなり正確な需要予測ができます。
上記製品の販売当時、
・バナー広告の平均クリック率は、0.4%程度
・販売ページで購入に至るコンバージョン率は、0.2%程度
だったため、新商品の告知のためにバナー広告を何回表示させるか
によって、最終的に売れる商品数が読めるというわけです。
実際、dxk:32.comはほぼ想定どおりの売れ行きを示したそうです。
アクセスログ分析は、ツールを使うと、基本的な分析結果は
クリックだけで簡単にできてしまうものです。
しかし、今回ご紹介したような分析は、結構手作業で
シコシコやらなければいけない部分が多かったんだろうなと
思います。
膨大なデータの山の中から宝を掘り出すには、
やはり、それなりに手間をかけないとだめだなんでしょうね。
投稿者 松尾 順 : 12:18 | コメント (0) | トラックバック
推奨者、無関心者、刺客
顧客満足度調査を専門に行っているJ.D.パワー社では、
顧客を次の3タイプに分けています。
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1.推奨者
企業、サービス、商品の熱狂的な信者となった顧客
他者に対して積極的に、商品・サービスの使用を勧めます。
2.無関心者
最低限の期待しか満たされなかった、満足しているだけの顧客
ちょっとした刺激でブランドスイッチしてしまいます。
3.刺客
不快な体験をした商品・サービスをけなして
ダメージを与える顧客
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さて、顧客満足度調査の結果を見る時、以前は、
「とても満足」(20%)+「まあ満足」(60%)
で、「うちは顧客満足度80%だ!」と自己満足していました。
以前も書きましたが、こういうのを「自己満足度調査」と
私は呼んでいます。
でも、今では、
「とても満足している」
だけの数字を特に重視します。
なぜなら、顧客満足度調査の主な目的が、
顧客維持、つまりリピート購入率の向上であることを考えると、
「まあ満足している」と回答した顧客は、「無関心者」に
他ならず、彼らがリピートする可能性は決して高くないからです。
要するに、リピートしてくれる可能性の高い「推奨者」
(彼らは「とても満足」と答えることが多い)の数をどれだけ
増やすかが大事なんですよね。
一方、「刺客」をどうやって減らすかもきわめて重要。
自社商品・サービスの「悪口」をいいふらしてるわけですから。
J.D.パワーズの調査では、推奨者や刺客となるきっかけとなった
消費体験が明らかになっています。
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●推奨者の体験談トップ5
・期待を超えるサービス 47%
・長期的判断による対応 27%
(短期的損失)
・親切/親身 18%
・製品品質の高さ 11%
・価格の安さ 9%
*「長期的判断による対応」とは、購入商品の無条件の
返品受付のように、企業側に短期的な損失をもたらしてでも
顧客の利益を優先する対応のことです。
●刺客の体験談トップ5
・製品品質の悪さ 20%
・修理拒否 19%
・無愛想なサービス 17%
・失礼な対応 16%
・短期的な考え方 11%
*「短期的な考え方」とは、顧客の利益よりも、
企業の短期的な利益を優先する対応のことです。
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企業としては、ぜひ自社の宣伝をしてほしいし、
逆に、悪口を吹聴して回って欲しくはないですよね。
つまり、近年関心を集めている顧客の「口コミ」には、
好ましいものと好ましくないもの
があるわけで、上記の体験談は「口コミ」活用
(CGMマーケティング)にも、とても参考になります。
出典:J.D.パワー 顧客満足のすべて
J.D.パワー4世+クリス・ディノーヴィ著、ダイヤモンド社
投稿者 松尾 順 : 11:19 | コメント (0) | トラックバック
事前リサーチの効用
新規事業計画作成のためにさまざまなリサーチを行い、
入念なシミュレーションを繰り返す。
それでも、いざ実行に移してみると、
当初の事業計画通りに進むことはほとんどありません。
だから、事前のリサーチはやっても無駄だという極論を
言う人もいますね。
実際、実行段階を「テスト」とみなして、とにかく始めてみる。
そして、市場の反応を見ながらこまめにマネジメントサイクル
(Plan-Do-Check)を回し続けることができればリサーチは
それほど重要ではないかも知れません。
ただ、事前リサーチの意外な効用としては、
事業立ち上げの中で直面するであろう壁を乗り越える「勇気」を
与えてくれるというものがあります。
育児休業者や介護休業者の職場への復帰支援や、
保育所・託児所関連サービスなどの新規事業を手がける
(株)ワーク・ライフバランス。
同社社長、小室淑恵氏の日経新聞のコラム(私のビジネステク)
によれば、上記事業構想のため、100人以上の育児休業経験者
を探し出し、徹底的にヒアリングをしたそうです。
「職場復帰するつもりで育児休業を取ったのに、復帰後、
仕事についていけるか不安になり、離職を考えている」
「職場復帰できず会社を辞めてしまったが、その後悔があり
子育てを楽しめない」
小室氏は、こうしたさまざまな悩みや課題をしっかりと
リサーチした上で事業化を果たしました。
しかし、同社のサービスを企業に導入してもらおうと100社ほど
訪問しても、最初の1年間はまったく話を聞いてくれなかった
とのこと。
景気が悪かったこともあり、
「福利厚生を削減しているくらいなのに、
育児休業復帰支援なんて考える余裕がない」
という企業が大半でした。
さすがに100社に断られると、小室氏も
「もしかしてニーズがないのかな」と自信が揺らぎました。
そんな小室氏を支えたのが、
徹底した事前リサーチでした。
「あんなに悩んでいる人たちがいたのだから、
必ずニーズがあるはず」
と、自分の事業に対する自信を取り戻すことができたそうです。
現在、育児支援に対する企業の関心も高まり、
同社のサービスは企業に浸透しつつあるようですね。
投稿者 松尾 順 : 11:08 | コメント (2) | トラックバック
マンガ家のリサーチと分析
「まじかる☆タルるートくん」「東京大学物語」など
80年代にヒット作を連発。
一連の作品の累積印税は、なんと16億円!
マンガ家江川達也氏は、
上記のようなヒット作を生み出せた鍵は、
「リサーチと分析」
にあったと言います。
(「アイディアの鍵貸します」、フジテレビより)
週刊ジャンプに「まじかる☆タルるートくん」を連載中、
読者からの人気アンケートの結果を「横折れ線グラフ」化。
そして、グラフの下には各回の内容を記入して、
どんな内容を取り上げた時に読者の人気が高かったかを
分析したそうです。
たとえば、人気の高かった回の内容は次のようなもの
・ちょっとエッチ!
・ホームランを打った
・肝だめし
要するに、江川氏は、
どんな内容が読者に受けるかを客観的な数値(人気アンケート)
で確認した上で、
「このテーマだと読者が喜ぶだろう」
という仮説を立て、
次回以降のストーリーを組み立てていったわけです。
ちなみに、ジャンプの場合、同誌の基本コンセプトである、
「友情」「努力」「勝利」
を扱った内容の受けがよく、とりわけ、
これまで敵だったキャラクターが、何らかのきっかけで友に
変わるという展開が好まれるそうです。
江川氏のやった「リサーチと分析」は、
手法自体はとてもシンプルなものですよね。
でも、自分の描きたいものを描く
「作品」
ではなく、
読み手(書い手)が求める
「商品」
を生み出すために、読み手についての客観的データを
活用したというのが、なかなかすごいことだと思います。
実際、こんなシンプルな分析でさえ
日常業務の中では、案外実行しないですよね・・・(^o^)
そうそう、無理に宣伝につなげる気はありませんでしたが、
日常業務の範囲で手軽にできるリサーチと分析方法を
解説した記事が「@IT」に連載されています。
ぜひのぞいてみてください。
私も執筆者の一人です!
投稿者 松尾 順 : 18:22 | コメント (1) | トラックバック
コンテクスト・リーディング
私は、マーケター向けの各種講座を提供する
「シナプス・マーケティング・カレッジ」
の講師として、初心者を対象に、
マーケティングリサーチの基礎の基礎を学んでもらう
「マーケティング・リサーチ・エッセンス」
を担当しています。
それで、講師としての立場(責任)上、
マーケティングリサーチの教科書や関連本はかたっぱしから
買い揃え、しばしば読み直しているんですが、
どの本にもほとんど説明されていないテクニックがあります。
それは、
「コンテクスト・リーディング」
です。
「コンテクスト・リーディング」は、
アンケート調査結果を集計データとして分析するのではなく、
1枚1枚の調査票(「個票」と言います)に立ち戻り、
設問の頭から最後まで通して眺めるやり方です。
目的は、調査票を通じて、回答者一人ひとりの行動や心理を
深く理解しようとすることです。
このため、本来は「数字」(実数、%)で把握する定量的手法
であるアンケート調査を定性的に、つまり数字抜きで分析する
んですね。
「コンテクスト・リーディング」は、
リサーチの王道から見たら、イレギュラーな方法ですし、
確立された方法論があるわけではないため、
教科書にはほとんど登場しないんでしょう。
(もし詳しく書かれてある本があったらぜひ教えてください)
ただ、コンテクストリーディングからは、
集計結果という、「個」が埋没したデータからは見えてこない
知見が得られます。
ですから、必要に応じ、従来の集計に加えて、
コンテクストリーディングを併用した方がいいのです。
通常、アンケート調査はまず設問単位で集計します。
回答者の性別構成は男性70%、女性30%、
○○製品の保有率は28%、といったようにです。(単純集計)
ただ、これでは大枠しか把握できないので、
「男性、女性別の○○製品の保有率」といった2つ以上の設問の
組み合わせを見ていくわけです。(クロス集計)
このクロス集計、通常は2次元(2つの設問の組み合わせ)、
多くて3次元までです。
というのも、
サンプル数が小さく分割されすぎるのと、
人間の理解限界を超えるからです。
たとえば、仮にサンプル数が十分あったとしても
「地域別性別別年齢別職業別年収別○○製品の保有率」
なんて分析しようとしても、わけわからんですよね。
(もちろん、解決策として多変量解析を採用することもあります)
そこで、おおむね2次元クロスまでの分析で止めるわけですが、
正直なところ、これだとかなり薄っぺらい理解しかできないと
いうのが真実でしょう。
そこで、定量的な把握はできないけれども、より厚みのある
理解ができる「コンテクスト・リーディング」をお勧め
しているわけです。
ただ、問題だと思うのは、紙の調査票が主流だった頃と
比べて、インターネット調査をやることが多くなった昨今、
データはエクセルの表としてしか存在しないため、
「コンテクスト・リーディング」がやりにくくなっています。
インターネット調査でもコンテクストリーディングが
やりやすい仕組みがほしいなあと思います。
*今回は、メルマガ「週刊広報」(Vol.182 2006.11.16)
に掲載されていたコラム
「市場から発想するマーケティング」
(JMAマーケティングマスター、白土栄次氏)
に触発されて書きました。
上記コラムで、「コンテクストリーディング」について
詳しく解説されています。すばらしい内容ですよ。
なお、上記メルマガのバックナンバーはこちらから閲覧できます。
(まだVol.182はアップされていないようです)
投稿者 松尾 順 : 12:43 | コメント (4) | トラックバック
「隠す」のではなく、「さらす」開発
数日前に、「ロバストデザイン」という考え方をご紹介しました。
これは、新製品開発に当たっていいコンセプトが生まれたら、
ともかく早めに「形」にして、ユーザーに試してもらい、
問題点、不足点を聞きながら市場で、製品改良を進めていくという
やり方でした。
こうすることで、ターゲットユーザーの「最新」のニーズに
最も適応した製品、つまり、競合他社商品の挑戦にも強い
「ロバスト」(頑健)な仕様(デザイン)が実現できるという
わけです。
実は、スバル(富士重工業)が、
新型軽乗用車「ステラ」の開発に当たって採用した市場調査の
新手法が、かなりロバストデザイン的なアプローチを採用したもの
でした。(日経産業新聞、2006/09/26)
通常、新型車の開発は極秘裏に行われ、ユーザーに見せるのは
デザインが確定した時か、試作車完成時くらいです。
しかし、「ステラ」の場合、構想段階からユーザーへの聞き取り
調査を行い、また、初期のデザインや模型を見せて、
ターゲット層の反応を継続的に把握しました。
興味深いのは、この調査の過程で、
開発者の思い込みがユーザーの反応によって
しばしば覆されたことです。
たとえば、企画段階では、
「室内空間をいかに広くするか」
を議論のベースに検討を行っていました。
この考え方の前提には、
「室内空間は、広ければ広いほど良い」
という思い込みがありますよね。
しかし、調査した子育て中の女性などからは、
「後ろに乗せている子どもとの距離が遠すぎる」
「後部座席に置いている荷物が取りにくい」
という思わぬ回答が出てきました。
つまり、
「室内空間は、広ければ広いほど良いというわけではない」
ということがわかったわけです。
結局、ステラの場合、室内長を当初案よりも30ミリ短縮。
スライド式の後部座席を運転席から気軽に引き寄せられる
ことも可能にしました。
「ステラ」は、今年2006年6月発売ですが、
売れ行きはなかなか好調のようです。
さて、製品開発にしろ、
マーケティングコミュニケーションにしろ、
大事なのは「顧客視点」ですよね。
これは、
「お客様のためにどうしたらいいか?」
という発想ではなく、
「自分が顧客だったらどうして欲しいか?」
という顧客の立場で考えるということです。
でも、実際のところ、これはとても難しい!
自分が開発者、企画者の立場にいると、
不思議と顧客側に立つことがなかなかできない。
だとすれば、開発初期の段階からターゲットユーザーを
巻き込むのが得策ということになります。
ダイレクトに顧客の声を聞けば話は早いですから。
スバルでは、情報漏えいのリスクをあえて犯しても、
初期の段階からターゲットユーザーに情報を
「さらす」
開発手法を今回採用したわけです。
やや逆説的に聞こえるかもしれませんが、
「競争優位性」を長く維持できる、
ユーザーニーズに最適応した製品を世に送り出すためには、
「隠す」
のではなく、むしろ
「さらす」
ということが有効な時代になってきたと
言えるでしょうか。
投稿者 松尾 順 : 10:26 | コメント (0) | トラックバック
ヘビーユーザーに聴け!
洋菓子メーカーのモンテールが、昨年10月に自前で立ち上げた
SNS、「スイーツ探検隊」。
現在の会員はまだ1500人程度ですが、甘いもの好きが集まり
熱いコミュニケーションを交わしているようです。
(日経産業新聞、2006/09/12)
実際、毎日アクセスするアクティブユーザー比率は25%だそうで、
企業版SNSの平均的な比率(13-16%)と比較すると、
はるかに活発であることがわかりますね。
さて、モンテールが、自前のSNSを立ち上げた最大理由は、
消費者の変化し続けるニーズをよりスピーディに頻繁に
拾い上げること。
同社は、スーパー、コンビニの店頭で売る商品を
開発していますが、売れ筋のはやりすたりが激しく、
毎月何品もの新製品を投入しなければなりません。
このため、いちいち
「新製品開発のためのアンケート」
を時間かけてやってられないそうです。
その点、SNSなら、新製品の反応
(買ってみたけど、なかなかおいしかった、まずかった、とか)
が会員の日記を読めばすぐにわかります。
スイーツ探検隊には同社社員も積極的に参加・発言しています。
例えば開発の裏話を書いたり、掲示板に
「京都のおすすめスイーツは?」
といったお題を立てて、
会員とのざっくばらんな交流を行っています。
これは、モンテールからすれば、オンラインの
グループインタビューを気軽に実施しているようなものですね。
ただ、このスイーツ探検隊のケースにおいて重要なポイントの
ひとつは、消費者ニーズの吸い上げの対象を
「甘いもの好きで、スーパーやコンビニで購入する機会も
多い人」(私もそうですが・・・(^_^)!)
に絞っていることでしょう。
つまり、ヘビーユーザーの声だけを
積極的に集めようとしているわけです。
以前ご紹介した本、
では、
一般的な消費者を集めた従来のグループインタビューでは、
有益な情報は得られないと言い切っており、
むしろ開発している製品やサービスに「異様に熱中している人」
を集めて意見を聞く、
「非フォーカスグループインタビュー」
を提案しています。
なぜなら、「非フォーカスグループ」は、
革新的なデザインのテーマやコンセプトに関するひらめきを
与えてくれるからであり、また、どんなものが人を心から
興奮させ、かりたてるかを表情や身振りで具体的に示して
くれるからです。
「スイーツ探検隊」は、まさに非フォーカスグループの
オンライン版と言えますよね。もちろん、SNS上の文字情報
だけでは表情は身振りまでは伝わりませんが、言葉だけでも、
彼らの興奮度合いを読むことはできます。
また、P&Gの元バイスプレジデント、和田浩子氏によれば、
日本の消費者は、他国の消費者と比較して、
商品に対する要望や問題点を論理的、
かつ的確に言葉にする能力
が高いそうです。
ですから、ヘビーユーザーの的確な意見を集めるツールとして
の企業版SNSは、特に日本人消費者が対象の場合、
有効に機能しそうですよね。
投稿者 松尾 順 : 09:19 | コメント (2) | トラックバック
「分析力」より「解釈力」
先週は、あるサービスについての「ユーザーアンケート調査」の
報告書づくりにかなりの時間を費やしていました。
調査内容の詳細を公開することはできませんので、
抽象的な書き方になって恐縮ですが、
アンケート調査で聞けることは、現状や行動など、
現時点での「結果」についてが多くを占めます。
一方、「なぜそのような行動を取ったのか?」という、
理由や原因についてについてもある程度聞きますが、
アンケートでは聞けることに限界があります。
(だからこそ、対面でのグループインタビューや
個別インタビューを併用する意義があるんですが・・・)
つまり、アンケート調査の場合、
「結果についてのデータ」
は豊富に取れるが、
「原因についてのデータ」
は限られています。
ところが、調査報告書に求められるのは、
「結果がどうだった」とういうことだけでなく、
「原因がこうだから結果がこうなった」
という、原因と結果の結びつけなんですね。
ただ、前述したように原因についてのデータは限られていますから、
データをオモテ・ウラ・タテ・ヨコ・ナナメ、
あらゆる側面から眺め、設問同士の関係性をあれやこれや
見ながら、因果関係を発見しなければなりません。
もちろん、そうして発見した因果関係は、多くが「仮説」
(たぶんそうだろうという考え)です。
したがって、今後の調査や、具体的なマーケティング施策の実行に
よって、本当にそんな因果関係が存在しているのかを「検証」
する必要があります。
さて、こうした調査結果からの因果関係の発見は、
「分析力」というよりは、「解釈力」と呼べるものです。
(ビジネス一般でいえば、「洞察力」とほぼ同じ意味です。)
マーケティングリサーチの世界では、意外にも
「解釈力」の重要性があまり語られませんが、
調査結果が本当の意味で、実務に役立つためには
この「解釈力」による因果関係の発見が欠かせないと
私は思っています。
では、解釈力はどうやったら身につくのでしょうか?
基本は、調査テーマに対する深い知識と豊富な業務経験でしょう。
データを読みなれるという意味では、
リサーチ経験があったほうがいいのですが、
それはリサーチのテクニカルな面というよりは、
むしろ、データの組み合わせから大局を俯瞰できたり、
人間心理の機微の理解に基づく、「直感」や「洞察」を
働かせることのできる能力が重要です。
この「解釈力」の向上は、私も日々精進しているところですが、
本当に難しいですね。先週のレポート作成でも、
時につらくて床の上をゴロゴロ転げ回りたい気持ちになりながら、
必至の形相でデータに立ち向かっていました。
ただ、この「解釈力」こそが、
コンピュータがそうそう追いつけない人間固有の能力だと
思います。
ハードルは高いけれども、磨くだけの価値があります。
投稿者 松尾 順 : 10:52 | コメント (0) | トラックバック
新聞を毎日読んでいる人は、たった1人!
以前もご紹介しましたが、
25歳以上の男性対象のフリーペーパー「R25」を
リクルートさんが立ち上げるに当たって、
グループインタビュー調査をやったそうです。
それで、集まった人たちに「新聞読んでますか?」
と聞いたところ、みんな揃って「日経新聞を読んでいます」
と答えた。
「ホントかな?」といぶかしがったリクルート担当者は、
今度は、アンケート調査で「新聞を読んでいない」と回答した人
だけを集めて同じ質問をしてみた。
すると、やはり
「新聞?もちろん読んでいますよ!」
と答えた。(ウソついてるじゃん)
どうやら、本当の自分ではなく、理想の自分、ありたい自分
(経済紙をしっかり読んでるイケテルビジネスマン?)に
合わせて、思わず嘘の回答をしてしまうらしいんですね。
そこで、「R25」では、新聞が読めるようになるための入り口
(ポータル)的な、わかりやすい記事を掲載することを編集方針に
したそうです。
アンケートでは素直に答えられていても、
グルインのような対面式の調査だと、自分を良く見せたいという
意識どうしても強く働いてしまうんですよね・・・
ところで、マーケティングやコミュニケーションの
コンサルティングや講師をやっている知人の話です。
先日、マーケティングの社内研修(一部上場企業の社員さん)で、
「この中で新聞を毎日読んでいる人は?」
と聞いたところ、
なんと「1人」しか手が挙がらなかったそうです。
実に素直、正直でヨロシイのですが、ちょっと唖然としますよね。
知人は、どうりで「外部環境分析」がうまくできないはずだと
なげいていました。
私にも同様の経験があります。
あくまで一般的な傾向なんですが、安定した企業にいる人ほど、
世の中の変化に対する関心が低いようです。
情報収集のアンテナは、外向きには低く、
内向きには高く立っている感じ。(⌒o⌒;
つまり、自分の組織の内部事情にはやたら詳しい、でも
ビジネスパーソンなら最低限おさえておきたい4つの外部環境、
すなわち、
P:Political 政治環境
E:Economic 経済環境
S:Social 社会環境
T:Technological 技術環境
について、ちゃんとトレンドを把握しておこうという意欲があまり
感じられないんですよね。
昨今は、
「情報収集は、インターネットだけで十分」
と考えている方が多いのかもしれません。
しかし、インターネット上に流れているのは
断片的な情報がほとんどです。情報は、ソーメン流しのように
その場で拾っては消費してしまうばかり。
さまざまな情報間の関係性を見つけてつなぎ、「知識」「知恵」
としてストックするのが結構難しいんですよね。
(つまり、使える情報転化しにくい)
また、新聞や専門誌などを情報源とした2次加工の情報も多く、
その「情報価値」は、大もとの情報源よりも低い場合が多い。
(私のブログ、メルマガも、情報源は主に新聞や専門誌ですから、
情報価値はたいしたことないわけです)
もちろん、さまざまなメディアの強み、弱み、
得られる情報の偏りや信ぴょう性をしっかり見切った上で
「私はネットだけで十分」
と言い切ることができるのなら文句は言いません。
でも、そうした確信が持てないのであれば、
アンテナを「外向き」に高く立てて、
さまざまなメディアからの情報を積極的に収集、選別できる
意欲と能力を高めることが必要じゃないでしょうか。
これまた以前から申し上げてきたことの繰り返しになりますが、
斬新な発想を生み出す一番最初のステップは、
多種多様な情報を継続的に蓄積することにあるわけですから。
投稿者 松尾 順 : 14:56 | コメント (4) | トラックバック
購入重視点に対する調査回答の解釈は難しい!
「顧客満足度調査」では、しばしば、
「購入に当たって重視する点はなんですか?」
という設問を入れます。
そして、
・品質
・機能
・デザイン
・価格
・アフターサービス
・企業のイメージ
・営業パーソン
などの選択肢を提示し、
5段階スケール(とても重視する~まったく重視しない)、
あるいは、最も重視する項目を3つまで選択するなどの
回答方法を採用します。
さて、この設問、単純なものに見えますが、
回答結果の解釈には注意が必要です。
過去の経験から、回答結果で上位にランクされるのは、
一般に製品関連の品質、機能、価格などです。
一方、下位の項目としては、
企業イメージや営業パーソンがくることが多いです。
したがって、このような結果の順当な解釈は、
回答者は、購入に当たって、
製品そのものについての項目を重視し、
企業イメージや営業パーソンはあまり重視しない
となりますよね。
ところが、回帰分析などの統計的手法を用いて別の視点
から検証すると、実は回答者は、
「企業イメージや営業パーソンも相応に重視している」
(購入に対する影響力が大きい)
ことがわかることがあります。
なぜこうした回答のずれが発生するのでしょうか?
ひとつには回答者の自己正当化の心理が働いていると
言われています。
「私は良識を備えたしっかりした人間である。だから、
購入に当たっては、製品自体をしっかりと吟味し、
営業パーソンの口車に載せられたり、
企業イメージのようなあいまいなものに左右されることはない」
という自己を高く評価する意識が背景にあり、
重視する項目として、営業パーソンや企業イメージを選択する
のはこの意識と矛盾してしまうからです。
また、製品や価格が基本的に重視されるのは、
「当たり前品質」「魅力的品質」
という分類で説明できます。
(この分類は、東京理科大学の狩野教授が提唱する「狩野モデル」)
「当たり前品質」とは、要求が満たされて当然のもの。
品質、機能、価格などが該当しますね。
一方、「魅力的品質」は、商品の付加価値部分と言えるもので、
デザイン、企業イメージ、営業パーソンなどが該当するでしょう。
したがって、購入に当たって重視する点を聞かれたら、
当然のことながら、回答者は、まず「当たり前品質」を先に
答えますよね。このため、どうしても、魅力的品質に該当する
項目は下位になってしまうというわけです。
ついでながら、上記の「当たり前品質」「魅力的品質」は、
ハーズバーグの動機付け要因論の「衛生要因」「動機付け要因」
とも似ていますね。非常に重要な概念だと思います。
また、私は、満足度の要因論として
「不満足要因」(ないと不満、離反を招く)
「満足要因」(あると満足、リピートしてくれる)
「感動要因」(あると感動して口コミ誘発)
の3段階を提唱しております。
*上記内容は、
「お客様のホンネを見抜く ホントの!アンケート調査」
(浅野紀夫著、PHP出版)
を参考にしました。
投稿者 松尾 順 : 13:51 | コメント (0) | トラックバック
欲しいのはユーザーの主観的情報
今年の夏は、1-2泊の短期滞在型ながら、
国内のリゾート施設に何度か行きました。
海外だと地中海クラブ(クラブメッド)などに
行ったことがありますが、
我が家ではこうしたリゾート旅行が好みです。
1箇所でさまざまなアクティビティが楽しめるリゾート型旅行は、
あちこちの観光名所をみて回る周遊型旅行と違って、
あまり疲れずのんびりできますし、子供の面倒が大変な家族連れに
向いているんですよね。
さて、海外にしろ、国内にしろ、お楽しみどころ満載の
リゾートに行く前にはいろいろと情報収集しておきたいものです。
しかし、紙のパンフは言うまでもなく、
情報の制約がないはずのWebサイトでさえ、
そこで紹介されている情報量には物足りなさを感じます。
国内外のリゾート施設で、十分な情報を事前に提供できている
と言えるところは、一つもないんじゃないでしょうか。
(あったら、ぜひ教えてください!)
結局のところ、Webサイトなどで入手できる情報って、
「客観的な事実」を元にした内容が中心です。
ちょっと揶揄して言えば、運営企業側の検閲を通った
「大本営発表」のものだけ。
さすがに虚偽情報や誇張表現はないでしょうけど、
「リゾートに行ったら、何して遊ぼうかな!」
と期待しているユーザーをわくわくさせる情報に欠けています。
よく考えると、ユーザーがが期待するのは、
「このレストランのこのメニューがお気に入り」
とか、
「こんな意外な楽しみ方がある」
といった「主観的な情報」ですよね。
しかし、こうした内容は、
情報発信者が運営企業である限りは提供しにくい情報です。
やはり、実際のリゾート体験者、つまりユーザーが
情報発信者になる必要があります。
しかも、単なる「ユーザーの体験談」といった枠を超え、
ユーザーが「レポーター」となって、
リゾートの楽しみどころを豊富に紹介する記事を掲載
できる仕組みを組み込むのが理想形です。
彼らレポーターの主観的情報には、
当たりもはずれもあるでしょうけど、それはそれで良し。
なんにせよ一人のユーザーの個人的判断で書かれたもの
ですからね。
私は、こうしたユーザー参加型のWebサイトが、
特に観光・レジャー業界、飲食サービス業界において
増えて欲しいと思っています。
リゾート施設ではありませんが、
このユーザー参加型Webサイトの事例が「相鉄スタイル」
です。(日経MJ、2006/08/21)
「相鉄スタイル」は、
相模鉄道が運営する、相鉄沿線の住民が参加するブログ。
「タウンライター」として選抜された沿線住民が、
駅周辺のグルメやスポーツ施設などのお薦め情報を
自由に書き込みます。
現在タウンライターは約60人、1日平均3本のネタが
アップされ、累計2千本の記事が掲載されています。
その成果は、相鉄のWebサイトへの月間訪問者数が
2年前の約10倍の15万人へと増加。
また、「愛着を持てるようになった」という消費者の声が
聞かれるようになり、ブランドイメージの向上にも寄与して
いるそうです。
従来、企業とユーザー(顧客)との関係は、
こちら側(此方)とあちら側(彼方)という相対する立場で
とらえてきましたよね。
しかし、これからは、共に同じ場所に立ち、
企業にとっても顧客にとっても望ましい優れた商品づくりや、
サービス向上のために協働しあう関係を形成することが
時代の流れではないでしょうか。
投稿者 松尾 順 : 14:21 | コメント (0) | トラックバック
2種類の感想・・・ペプシ・チャレンジの教訓
マーケターの方であれば、「ニューコーク」の失敗事例は
よくご存知ですよね。
1985年4月、コカ・コーラ社は、
従来よりも甘い味付けをしたニューコークを市場に投入。
しかし、発売直後から旧コーラに愛着を感じていた消費者の
大反発を受け、わずか3ヵ月後の7月には、
従来製品を「コカ・コーラクラシック」として復活せざるを
得なくなりました。
ニューコークは、翌86年の春に生産を打ち切られています。
この失敗の理由はさまざま言われていますが、今回は、
ニューコーク開発の引き金を引くことになった
「ペプシ・チャレンジ」
のキャンペーンについて触れてみたいと思います。
「ペプシ・チャレンジ」は、一言でいえば「公開比較調査」です。
消費者に、二つのグラスにいれた飲み物を飲み比べてもらう
会場調査を全米各地で行いました。
この二つのグラスの片方にはコーク(コカ・コーラ)、
もう一方にはペプシ・コーラが入っていましたが、
もちろん、どちらがどちらなのかは事前に教えません。
そして、試飲した消費者にどちらが美味しいかを聞いたところ、
半数以上が「ペプシ」を選んだのです。
このキャンペーンは全米の話題をさらい、ペプシのシェア拡大に
貢献しました。
(ただし、コーク愛飲者の、ペプシへのブランドスイッチではなく、
コーラ飲料の非飲用者、つま新規カテゴリーユーザーの取り込みに
成功したのがシェア拡大の要因のようです。)
コカ・コーラ社が、ペプシ・チャレンジの結果に慌てたのは
言うまでもありません。
自社で行った試飲調査でも、やはりペプシの味が好きだという
消費者の数がコークのそれを上回りました。
そこで、「ニューコーク」の開発に着手したというわけです。
しかし、実は、この「ペプシ・チャレンジ」には、
昨日指摘した、会場での試飲調査の限界がありました。
ペプシの新製品開発部門に長年勤めていたキャロル・ダラードは、
「試飲では甘みの強い製品が好まれる傾向がある。
でも、一本飲み切ると、甘すぎて飽きてしまう」
と言っています。
ペプシは、コークよりも甘みが強い。
ですから、少量しか飲まない試飲では、コークよりも
ペプシが有利だったわけです。
また、コークにはレーズンとバニラの風味があるのに対して、
ペプシは柑橘系の風味が広がります。さわやかな風味ですね。
この点も、試飲調査でペプシが好まれる理由だったそうです。
しかし、この風味は1本飲む間に消えてしまいます。
したがって、もし自宅で継続的飲んでもらう
「ホームユーステスト」
を実施していたなら、ペプシ・コーラとコークの評価が
異なっていた可能性があります。やはり、消費者は同じ製品に
対して「2種類の感想」を持っていたかも知れないわけです。
当時、コカ・コーラ社では、
この試飲調査の限界をあまり認識していなかったようですね。
それが「ニューコーク」の盛大な失敗、
しかしまあ、彼らにとっては大きな教訓ともなった失敗に
つながったのです。
以上は、『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』
(マルコム・グラッドウェル著、光文社)
の内容を元にしました。
この本は、マーケター必読です!
投稿者 松尾 順 : 11:50 | コメント (0) | トラックバック
2種類の感想・・・プライムタイム
アサヒのプレミアムビール、
「プライムタイム」
に最近はまってます。(^-^)
最初飲んだ時の印象は、
「ちょっとユルすぎ、刺激が弱くてパッとしない」
だったんですが・・・
まとめて何本か買っていたのでしばらく飲み続けていたら、
プライムタイムのマイルドさがなんとも心地よくなってきました。
他のビールではまず味わえない「甘み」を感じます。
女性や、ビールの苦味に弱い方にも受け入れられそうです。
プライムタイムは、「ゆとりの時間」を演出するビールと
して開発されたものですが、
きめ細かな泡の上質感や、「高貴さ」を感じさせる藍色の
パッケージデザインが秀逸です。
今後、エビスビールと並んで、プレミアムビールの
トップブランドになる可能性があるように思います。
さて、味の話に戻ります。
特に、飲料のような味覚系商品の場合に多いのですが、
最初にちょこっと飲んだ時の感想(第一印象)と、
大量に飲んだ後では、感想が違ってくることがあります。
つまり、同じ商品なのに2種類の感想があるわけです。
したがって、商品開発においても、企業の開発担当者は、
2種類の試飲をやります。
まず、「官能試飲」と呼ばれるもので、
様々な味に調整したものを100ccずつくらいじっくりと
チェックして飲み比べをします。
次に、ユーザーと同じ状況、
お酒であれば夕方の時間に、つまみを食べながら大量試飲。
こうして、第一印象とたくさん飲んだ後での評価の変化を
見ながら最適な味を決めているんですね。
また、消費者が2種類の感想を持つという点は、
新商品テストのための「会場調査」の限界を示しています。
調査会場における少量の試飲だけで新商品の評価を
してもらうのでは、第一印象しかわからないからです。
したがって、例えば家庭での普段の生活の中で、
1週間ほど飲んでもらった後の評価も得る必要があります。
ユーザーの評価は時と共に変ることもある、
ということ、ぜひ覚えておきたいです。
ところで、この2種類の感想については、あの大失敗事例として
有名な「ニューコーク」の開発に関わる話がありますが、
それは明日のお楽しみということで!
そうそう、ついでながら試飲で思い出したのが、
金森マーケティング事務所の金森氏のブログに書かれていた
「軽んじられているエクスペリエンス」(July 15, 2006)
です。
近所のスーパーに行ったら手渡された、
新発売のビールのサンプル。
ブログの写真を見ていただくとわかりますが、
小さなカップの底の方にほんの少しだけ。
おそらく10ccくらいでしょうか・・・ほんとにケチ。
金森氏は、
“こんな分量で「試飲」の効果があると思っているのだろうか”
と憤慨していますが、ごもっとも!
こんなキャンペーンやるだけ無駄です。
投稿者 松尾 順 : 11:55 | コメント (2) | トラックバック
資生堂のメガブランド戦略:悪魔のスパイラルからの脱却
「新しい玉(商品)がないと売れない」
「新しいブランド(商品)が欲しい、早く作ってくれ!」
企業の商品開発担当者は、
いつもこんな販売の現場の突き上げをくらっています。
ライバル企業から、新商品が次々と登場してくるのを
目の当たりにしている販売の前線では、
自社でも、同じように新しいブランドを投入し続けないと
競争に負けてしまうという意識をもたざるを得ないのでしょう。
そして、数十年前から言われ続けてきて食傷気味ですが、
「消費の多様化への対応」という錦の御旗にも後押しされて、
多くの企業が多種多様なブランドを1社の中に抱えています。
「多ブランド化戦略」です。
資生堂もまた同様の状況に苦しんできました。
多ブランド化で、マーケットシェアが上がるならば結構なこと
でしたが、同社の場合、じりじりとシェアが下がり続けて
きていたんですよね。
結果から見れば、
「多ブランド化戦略」
は成功しなかったわけです。
なぜうまくいかなかったのでしょうか。
それは、ブランドを「生むこと」にばかり目がいき、
ちゃんと「育てること」ができない
「悪魔のサイクル」
に陥ったからです。
1 売れる商品がない。
2 現場の求めに応じて次々と新商品を開発、市場に投入する。
3 ところが、マーケティング予算の枠には制約がある。
このため、1ブランド当たりにかけられるマーケティング投資は
どうしても小粒なものになる。
実は販売の現場でも同様で、売るべきブランドがあまりに
多すぎてどれを売ったらいいか途方にくれる。
マーケティング投資も、そして販売パワーも多数のブランドに
分散し、希薄化した。
4 このため、基幹になるような「強いブランド」が喪失。
5 売れない商品はあまり置けないと小売店の店頭スペースが減少。
6 売上げ低迷
7 1に戻る
資生堂のようなリーダー企業は、ニッチ企業と違って、
出来るだけ大きな市場カバーしようとする「全方位戦略」を
取らざるをえません。
したがって、ある程度の「多ブランド化」は避けられないのですが、
一つ一つのブランドが発育不良のままで終わっていては意味が
ありませんよね。
そこで、資生堂は戦略の一大転換を図りました。
「メガブランド戦略」の採用です。
資生堂のメガブランドとしては、5本くらいあるようですが、
その中でも特に目立っているのは、
・マキアージュ(メーキャップ化粧品)
・ツバキ(ヘアケア)
・ウーノ(男性用化粧品)
の3ブランドでしょう。
どれも超有名なタレントを多数起用して世間を驚かせましたよね。
メガブランド戦略の基本方向は、
「太く強いブランド」を育成することを目指して、
様々な顧客接点でのブランド露出を高めることです。
これには巨額のマーケティング予算を集中的に投下することが
必要になります。ブランドを生むことではなく、手塩をかけて
ちゃんと育てることに力を入れるということを意味しますね。
結果は大成功でした。
昨年夏に投入された「マキアージュ」は、わずか半年で
認知率80%を達成。
この「80%」という数字は、
マキアージュに統合された旧ブランド「ピエヌ」「プラウディア」
の場合、5年かけてようやっとたどりついた水準だったそうです。
いかに、集中投資が高い効果を生むかわかりますよね。
販売量でも、マキアージュは既にカテゴリートップブランドに
なっています。
また、今年3月末に発売開始された
ヘアケアブランドの「ツバキ」は垂直立ち上げを果たし、
たちまち市場シェア12%を獲得。
ラックス、パンテーン、アジエンスといった強力他社ブランドを
追い抜いて、やはりシェアトップを獲得しています。
今回の内容は、資生堂の担当者の方のお話を元に書いていますが、
資生堂内部では、今回のメガブランド戦略が成功するかどうか、
あまり自信はなかったようです。
特にヘアケアカテゴリーでは、以前一世を風靡した
「スーパーマイルド」が低迷を続けており、
以降、新たに投入したブランドも失敗続きでした。
その失敗の原因は前述したとおり、
マーケティング予算の分散・希薄化にあったわけですが、
その真逆の戦略、すなわち「メガブランド戦略」の正しさが
今回、劇的な成果によって証明されたことになりますね。
ところで、多額な予算を特定ブランドに集中させることは、
「なるほどな」とうなずけるのですが、
なぜマキアージュも、ツバキもウーノも、
あんなにたくさんのタレントを一度に起用するんでしょうかね。
もちろん、「話題性」第一なんでしょうけど、
もっと深い意味がありそうです。
この点については明日書きます。
投稿者 松尾 順 : 13:55 | コメント (2) | トラックバック
ちょっとシモ系の話で失礼・・・
今日は、ちょっと配信時間を遅らせてシモ系の話を・・・
といってもエッチな話ではありません。(笑)
さて、皆さんのご自宅でもっとも水を使うのは
「トイレ」
だってご存知でしたか。
結構、「お風呂」や「洗濯」で使う水量の方が多いと
思い込んでるんじゃないでしょうか。
実際、INAXの調査によると、
一般消費者の「節水対策」で最も多かったのは、
お風呂(71%)、次いで洗濯、炊事の順だそうです。
トイレは4番目にようやく登場。
回答者のうち、トイレの節水対策を心がけているのは37%に
すぎません。
このことは、逆にいえば、トイレの水使用量はたいしたことないと
考えているからでしょう。
ところが、東京都水道局によると、一般家庭の使用量は
トイレが28%を占めて最も多く、次いで、
風呂、炊事、洗濯が続くそうです。
まあ、確かに見た目の水量が多い風呂や洗濯の方が、
トイレより多くの水を使っているように感じますよね。
しかし現実は違う。
なんとなくの感覚的な判断が、
しばしば間違っていることがあるという事例です。
場面変わって公衆トイレ。
トイレの節水サービスを手がける「木村技研」では、
女性用の個室トイレの利用実態を調べるための調査を
実施しました。(日経ビジネス、2006年6月26日号)
延べ100万人分ものデータから分かったことは、
・利用者が平均で1.5回水を流していること
・「大」「小」の洗浄ハンドルを使い分けられるトイレでも、
多くの利用者が「大」しか使っていないこと
・利用者の9割は、実際は「小」の利用で6リットルの水を流せば
十分なのに、大(20リットル)を利用していたこと
などです。
この記事を見てふと思い出したのが、身内の恥をちょっと
さらすようですが、うちのカミサンのこと。
我が家のトイレは「大」「小」が使い分けられるタイプなのに、
うちのカミサンは、住みはじめてから最初の2年間ほどは、
「大」「小」が使い分けられるというのを気づかなかったのです。
私は、当時、このことを聞いてあぜんとしました。
それで、このことは「個人的な資質」(笑)の問題だろうと
いままで思っていたのですが、木村技研の調査結果を見て、
ひょっとしたら、
「大」側にハンドルを回す人が多いのは、
「大」「小」の使い分けが可能なハンドルだということが
わかりにくいデザインだからではないだろうか?
という「仮説」を持つに至りました。(ちょっとオオゲサ?)
確かに洗浄ハンドルは横向きについている製品が多く、
表示も見えづらい。
このため、うちのカミサン同様、使い分けが可能で
あることを知らない、また気づいていない人が多数存在する
可能性が考えられます。
たかがトイレ、されどトイレ。
洗浄トイレを前向きにつけるなど、
ちょっとしたデザインの変更で水量が減少すれば、
公衆トイレなら数百万円の水道料金節約にまでつながるかも
しれません。
どんなこともきちんと調査をやると、
いろいろと見えてくるものがあるなと思うのです。
なお、私の仮説が違う場合、ぜひご指摘ください。
なにぶん、女性トイレのことは良くわかりませんもので。
月曜日からシモ系の話ですいませんでした・・・
明日は一転して、「資生堂のメガブランド戦略」を取り上げます。
投稿者 松尾 順 : 14:53 | コメント (0) | トラックバック
毎日がリサーチ
以前も書きましたが、
私は、社会人向けのマーケティング関連講座を主催する
「シナプス・マーケティング・カレッジ」で、
「マーケティングリサーチ・エッセンス」
という講座を担当させていただいています。
「エッセンス」というタイトル通り、
リサーチの基本中の基本をお伝えする初心者向けの内容です。
パンフレットにも「初心者向け」と記載してあるのですが、
意外に「応用的なこと」を期待して受講される方が多いのに
当惑しています。
でも、よく考えてみれば、マーケティングリサーチの講座で
一般マーケター向けの応用編的なコースって
ほとんどないんですよね。
仮にそんなコースがあったとしても、「統計解析ツール」
の使い方を覚えることもセットにしないと
なかなか実践的なノウハウは学べません。
これは、必ずしも自分で統計解析ツールを動かす必要のない
大多数のマーケターにとっては、ちょっと「違う」セミナーに
なりますよね。
ですので、一般マーケター向けの
「マーケティングリサーチ・アドバンス」
という応用編講座を
シナプス・マーケティング・カレッジで
開設させてもらえばいいのかもしれません。
ただ、講座を開設する立場としては、
マーケティングリサーチの応用編的セミナーに対する
十分な需要があるのか、悩ましいところですけど。
一方で、マーケティングリサーチと銘打った講座とは別に、
地味なタイトルですが、
「ビジネス情報の収集と整理、解釈のノウハウ」
といった講座も必要じゃないかと思ってます。
「マーケティングリサーチ」というと、どうしても、
アンケート調査やグループインタビュー調査といった、
大掛かりでそれなりにコストをかけるフォーマルな調査を
イメージしてしまいますよね。
逆に、こうしたイメージが固定観念になって、なにか知りたいことが
出てきたらすぐ「お金かけてちゃんとしたリサーチやらなきゃ
有益な情報は集まらない」という、短絡的な発想を招いてしまう
可能性があるかも知れません。
しかし、実のところ、私たちは普段の生活でもリサーチを行い、
その結果に基づいて判断し、行動してるということを
わかっておく必要があると思います。
例えば、あなたは、朝寝坊してしまい、
慌てて外に飛び出した。
でもふっと、天候のことが気になりました。
空の様子がおかしい。
「ひょっとして傘を持参すべきかな」という解決すべき課題が
発生しました。(おおげさですが(^-^))
そこで、「これからの天気を知りたい」というリサーチ目的が
出てきます。漠然とした感覚では、「雨になりそうだ」
という仮説が浮かんでいます。
まず、あなたはどうしますか。
自分の目で空を見上げて、雲の状態をしっかり観察しますね。
灰色の雲が覆っていました。
観察(調査)に基づく、イメージ情報の収集です。
また、肌で気温や湿度を感じてみます。
ジメジメして生暖かい感じでした。
肌感覚(調査)による、温度・湿度情報の収集です。
周りに歩く人たちに目を向けました。
傘を持っている人がいます。
やはり観察(調査)に基づく、イメージ情報の収集です。
あなたは、こうした徴候の時にはたいてい雨が降るという
経験に基づく因果関係と、学校の理科で学んだ天気についての
知識をベースに、
空の模様、気温湿度の状況、周りの人たちの行動など
収集した情報を総合的に整理・分析し、
「低気圧の接近による雨が近いようだ」
という解釈を与えます。
そして、「やっぱ家に戻って、傘とってこよう」
という意思決定を行うわけです。
以上のプロセスでは、アンケートもグルインもやりませんが、
調査の本質的な手順である、
調査課題の設定→調査目的の設定→仮説の設定→
情報の収集→情報の整理・分析→情報の解釈→(意思決定)
という流れに沿っています。
こうしたプロセスは、働く現場ではもっと日常的でしょう。
実際、私たちは四六時中リサーチやっているといっても過言では
ありません。
いわゆる「マーケティングリサーチ」はこの延長上にあります。
どうしても手間とお金と専門的なノウハウをかけないと収集・分析
できない情報がある時に必要となるのが、
いわゆる「マーケティングリサーチ」です。
ですから、「リサーチすること」をあまりオオゲサに捉えない方が
いいのです。
また、前述したように、「マーケティングリサーチ」に
安易に依存しすぎてはいけないと感じています。
ある意味、お金さえ払って専門家に任せておけば、
いくらでも情報が集まるので、
5感を研ぎ澄ませて、自ら情報を収集しようとする意欲が
低下してしまう危険性があるんじゃないでしょうか。
ま、こんなわけで、普段のビジネスシーンでの活用を目指した
「ビジネス情報の収集と整理、解釈のノウハウ」
という講座が有益じゃないかと考えている次第です。
このタイトルは、再考の余地オオアリですが。
投稿者 松尾 順 : 10:58 | コメント (0) | トラックバック
ホントは差がないんです
現在、「シナプス・マーケティング・カレッジ」の講師として
開講している科目に「マーケティング・リサーチ」があります。
マーケティング・リサーチの初心者(一般ビジネスパーソン)の方
を対象に、主にアンケート調査の企画、設計や分析方法を
できるだけわかりやすくお伝えしています。(つもりです・・・)
最近は、ネットリサーチシステムがずいぶん浸透してきたので、
基本的な知識があれば自前でやれてしまう環境が整ってきたので、
こうした講座にも結構なニーズがあります。
ネットリサーチ以前、私が調査会社にいた当時は、
一般ビジネスパーソン対象のマーケティングリサーチ講義は
ほとんどなく、調査会社社員向けのものしかなかったんです
けどね。
さて、マーケティング・リサーチを自前でやるためには、
ある程度の「統計知識」がないと、データの解釈を間違える
ことがあります。
ただ、統計知識は理系の話ですから、なかなか説明が難しい。
そこで、わかりやすい具体例として、
よくテレビの視聴率調査を取り上げます。
マーケティングの業界の方はご存知の方が多いと思いますが、
例えば、関東地区の調査家庭数(サンプル数)は[600]です。
関東地区の総世帯数は1,600万世帯弱ですが、
これをわずか[600]世帯の調査で代表しています。
*代表しているというのは、簡単に言えば、
600世帯の視聴率は、総世帯でもほぼ同じ数字だと推定できる
という意味です。
もちろん、上記に「ほぼ同じ数字」と書いたように、
サンプル世帯の視聴率と、実際の総世帯数の視聴率には
誤差があります。
そして、その誤差を考えると、
1%刻みの視聴率競争は、統計的には、
あまり意味がないということを受講生の方に説明するわけです。
それで、たまたま、先週の日経夕刊のラテ欄のコラムで、
「春の新ドラマ初回視聴率」について、
講義に使える格好のネタが掲載されていました。(^-^)
例えば、初回視聴率1位だった「トップキャスター」
の視聴率23.1%、一方、「クロサギ」は18.8%。
単純計算では、4.3%の差がありますから、
「クロサギ」より「トップキャスター」の人気が高かった、
と言いたくなるところです。
しかし、統計学的な検証(有意差の検定)をやると、
実はこの両者の視聴率は誤差の範囲がかぶっているので
実際には差がない可能性が高いと考えられるんですね。
実は「トップキャスター」と「クロサギ」を
見ている人の数は、ほぼ同じであった可能性だってある。
つまり、この視聴率の差では、番組の「勝ち・負け」は本来
判定できないのです。
なお、「アテンションプリーズ」は17.7%で、
「トップキャスター」とは、5.4%の差がありました。
この場合は、統計的にも、「トップキャスター」の方が
「アテンションプリーズ」よりも、視聴者が多かったという
ことができます。
シナプスの講義は初心者対象ですから、統計的な話に深く
立ち入ることはしませんが、経験則的には、
視聴率調査の結果と同様、2つの差が5%以上ないと、
実際に「差」があるとは言えないことが多いということは
お話しています。
週明け早々、ちょっと難しい話になりましたね・・・
投稿者 松尾 順 : 11:41 | コメント (2) | トラックバック
市場の声を聞く姿勢
3年ほど前、トイレ、バス、キッチンなど水回りを得意とする
住宅機器メーカー、TOTOさんをライターの仕事で取材した
ことがあります。
テキストマイニングの取り組み事例の紹介が目的でした。
その記事は、今でもこちらで閲覧することができます。
さて、当時テキストマイニング担当の小代氏の話の中で
特に印象に残った点は、テキストマイニングの2つの目的に
ついてでした。
(上記記事内でも小代氏の生の言葉を引用してあります)
ひとつは、テキストデータの中の「大きな声」を拾うこと。
つまり、多くの人が共通して言うことを全体的な傾向として
把握することです。
もうひとつは、「かぼそい声」を拾うこと。
これは、少数意見だけれども、新たな商品開発のヒントと
なるような重要な声を見逃さないということです。
マーケティングリサーチの基本的な分析目的は、
全体的な傾向の把握であり、そのための様々な分析手法が
「統計的処理」なんですが、
そういうアプローチをずっとやっていると、
少数意見は、単なる「誤差」にしか過ぎないものとして、
ろくに考えもなくさっさと除外してしまいがちです。
ですから、小代氏が、少数派の意見の方が、実は、多数派の
ものより高い価値があると指摘された時、
「なるほどそうだな」と感じたものです。
多数派の意見は、ぶっちゃけわざわざ調査・分析しなくても
わかることです。とすれば、競合他社にも簡単にわかること。
そんな意見を元にした新商品には、すぐに類似品が登場します。
競合優位性のない商品開発になってしまうというわけです。
さて、上記のような少数派意見を活かすために
まず必要なのは、市場の声を確実に収集することです。
岡崎太郎さんのメルマガ「売れるためのマーケ心得537」
(2006.04.12配信)では、TOTOさんのさすがの対応が
報告されています。
欧米の公衆トイレの中には、壁付けの便器がありますよね。
壁からニョキッと出っ張っているやつで、
床から浮いているので掃除がしやすいのです。
岡崎さんが調べたところ、日本には住宅用の壁付け便器が
販売されていないことがわかったので、
なぜなのか疑問に思い、
日本の2大メーカー(TOTO、INAX)に
電話してみたそうです。
TOTOさんには2コールでつながり、
対応したオペレーターは、日本に住宅用壁付け便器が
出回っていない理由を的確に説明してくれた上に、
技術部門にも照会を取り、翌日にはFAXで丁寧な回答が
届いたそうです。
岡崎さんは、
“こんな突拍子もない戯言に、ここまで親切に丁寧に
対応してくれるとは東陶機器株式会社グレイト!”
と大褒め。
ここまで消費者ときちんと対話する体制ができていれば、
商品開発に役立つ有益な声もたくさん集まるに違いありません。
一方、INAXさんは、4回コールしていずれも
「大変込み合っているのでおかけ直しください」
と一方的に切断する仕組みだったそうです。
残念ながら、企業のマーケティングマインドの差が
如実に現れていますね。
私のふるさと、福岡オリジンのTOTOさんは
やっぱりグレイト!
投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (2) | トラックバック
観察調査の最前線
20代前半、私はフィールド(現場)調査員として、
関東エリアの小売店を毎日ぐるぐる回っていました。
ダイエー、西友などのGMS、マルエツなどの生鮮スーパーや
コンビニ、ドラッグストア、化粧品店、タバコ屋、酒屋などを
訪問し、店頭を歩き倉庫にもぐりこみ、仕入れ伝票をチェック
して、日用品・雑貨、食料品、飲料、タバコなどの販売数を
調査してくるのです。
業種・業態の違いによる店舗レイアウトの違いや、
商品構成の違い、様々な店頭プロモーションの変化が面白く、
毎日楽しかったものです。
ただ、調査員としてもの足りなかったのは、
どの商品がどのくらい売れているかという「結果データ」は
集めていたのですが、
なぜその商品が売れているかという「理由データ」を
集めていなかったことです。
しばらくして、チラシに商品が掲載されていたかどうか、
また、店頭で「特売」(特別の陳列スペースを設置するなど)
されていたかどうか、といった情報を追加収集するように
なりましたが、それだけでは「理由データ」としては
十分ではありません。
店舗内での消費者の購買行動を把握できればよかったのですが、
そこまではやれなかったんですよね。
さて、この店舗内での消費行動を調べる方法としては、
主に「観察調査」が採用されます。
数年前にベストセラーになった
の著者、パコ・アンダーヒルさんの会社は、
調査員が買い物客の後ろをこっそり尾行したり、
ビデオで撮影して消費者の店舗での行動を記録・分析する
「観察調査」を専門としています。
確か日本でも、同社のノウハウを導入した調査会社が
あったと思います。ただ、年に数回程度やるならまだしも、
継続的にやるには、結構な費用がかかるでしょう。
しかし、ICタグの活用によって、観察調査の一部を
自動で代替できる時代がやってきました。
ICタグは、電子チップを組み込んだ小さな荷札です。
これを商品ひとつひとつに貼り付けておき、ICタグが
発する信号を受信できるアンテナを店頭に設置します。
こうすれば、商品を前にした消費者の行動が把握できる
ようになります。
日経ビジネス2006年2月27日号では、
ICタグ活用の観察調査について、
レコード販売大手の「新星堂」と、
ウォルト・ディズニーのDVD販売部門、
「ブエナビスタホームエンタテイメント」、
コンサルティング大手の「アクセンチュア」
の3社による実験結果が公表されています。
・実験店舗:新星堂赤羽ヨーカドー店。
・実験期間:2005年9月~2006年3月。
・対象商品:ディズニーの旧作DVD。
商品につけられたICタグの動きを棚のアンテナが
捉え、商品が手に取られた回数や時間が分かる仕組みです。
昨年12月までの3ヶ月のデータの分析結果によると、
次のようなことがわかっています。
(1)手に取られやすいのは全6段の棚の上の方から4段目
(2)陳列を頻繁に変更したほうが手に取られる回数が増加
(3)平均7.9回、手に取られれば商品は売れる
(4)複数のタイトルを手に取る客が商品を買う確率は
1タイトルしか触らない客の1.9倍
ただ、手に取られる回数と売れる回数は必ずしも比例せず、
あまり手に取られなくても売れる商品、逆に手に取られても
あまり売れない商品があるといったこともわかってきました。
この観察調査手法は、店舗のレイアウト、品揃え、商品配置
などに加えて、消費者の興味関心度合いを実際の行動から
推測できるので、「なぜ買うのか・買わないのか」という
理由データとして高い価値がありそうです。
ICタグの単価がまだまだ高いこと、また
商品に貼り付ける手間があるため、
この仕組みの実用化はまだ先になりそうです。
しかし、なんといっても情報収集が自動化できますし、
データも正確、継続的に調査可能ですので、
今後、普及しそうな有望な調査方法ですね。
投稿者 松尾 順 : 13:52 | コメント (0) | トラックバック
検索結果集合
私が参加している「おじさんバンド」で、
この春、音楽合宿をやることが決まりました。
旅行会社に勤めていた(といっても20年近く前のこと)から
というわけではありませんが、
私が合宿先を探す役目をおおせつかりました。
メンバーはみんな働いていますし、ドラマーは関西在住です。
そこで、集まりやすさなどを考慮して、
場所は「小田原周辺」にしようということになりました。
こういう時はネット検索が便利ですよね。
GoogleやYahooを利用して早速、小田原、音楽、合宿、練習
などいくつかのキーワードで探してみたのですが、
なかなか適当な宿がありません。
実は、ネット系の仕事をやっていながら、検索技術はあまり
高くないんですよね・・・お恥ずかしい。
しかし、このままでは合宿ができないぞと必死で探し回り、
ようやく見つけました。
小田原から近く、温泉もある宿。
私たちのバンドの音楽合宿にぴったりの条件です。
この宿がちゃんとSEO(サーチエンジン対策)を
やってくれていればすぐに探し出せたのにと、
ちょっと逆恨み。(⌒o⌒;
もしこの宿が見つからなかったら、
合宿取り止めか、妥協して不便な宿に決めていたところでした。
ネット検索以外にも探す方法はあったのかも知れませんが、
そこまでやる気力は残ってません。
こんな気持ちは、皆さん同じだと思います。
要するに、
「ネットで検索されない情報は、存在しない」
とみなすのが今の消費者でしょう。
だからこそ
「SEO対策」
がますます重要性を増してるわけですが。
さて、消費者が、なんらかの商品購入に当たって
購入対象と考える商品の集まりのことを
「想起集合」
と呼びますよね。
この「想起集合」の中から、
さらに購入の条件(予算とか、品質基準など)で
絞り込まれた商品の集まりが
「考慮集合」
です。
そして、最終的に購入される商品は「考慮集合」の中から
選ばれることになります。
したがって、売り手としては、自社商品がまず「想起集合」
に入ることが重要だと言われてきました。
ここで「想起集合」に入るのは、消費者が
思い出す、覚えている商品・ブランド名です。
ただ、ネットの登場によって、「想起集合」という
考え方があまり通用しなくなってきたように思います。
コンピュータやインターネットは、
人間の脳を補完してくれる強力な外部記憶装置です。
しかも、高い検索機能を持っています。
したがって、様々な情報を自分の脳で記憶する必要が
薄れてきました。なんたって、検索しさえすれば、
膨大な情報が端末からいくらでも出てきますから。
ですから、何か買おうと思った時に、
「どんな商品があったけな?」
とか考える前に、いきなり検索ボタンを叩く。
購入対象となるのは、検索結果のせいぜい1-2ページに
表示された商品だけでしょう。
つまり、ネット社会において、
消費者の購入対象となる商品の集まりは、
もはや「想起集合」ではなくて、
「検索結果集合」
になってしまっています。
この消費者行動の変化は、今後さらに加速するでしょうね。
投稿者 松尾 順 : 11:12 | コメント (6) | トラックバック
直感リサーチ
次の製品カテゴリーを聞いたとき、最初に思い浮かぶメーカーは
何ですか?
・薄型テレビ
・デジタルカメラ
・携帯用ゲーム機
・携帯オーディオプレーヤー
・携帯電話端末
インターネットコム(株)とGooリサーチが共同で行った
ハードウェアに関するイメージ調査(直感リサーチ)
の結果を見ると、上記製品カテゴリーのトップはそれぞれ
次の通りになっています。
(調査対象:全国の10~60代のインターネットユーザー1084人)
・薄型テレビ >シャープ(72.05%)
・デジタルカメラ >キャノン(55.17%)
・携帯用ゲーム機 >任天堂(58.30%)
・携帯オーディオプレーヤー >アップル(64.21%)
・携帯電話端末 >NEC(37.27%)
当然のことながら、この結果と各製品カテゴリー市場の
占有率(マーケットシェア)は相関が高くなります。
「○○○○○○と言えば、XXXXXXXXXXXだよね」
(カテゴリ名) (メーカー名/ブランド名)
というブランド連想が高ければ高いほど、
実際の購入につながる確率も高くなります。
実際、上記メーカーは、
それぞれのカテゴリーのシェア一位ですよね。
この最初に思い浮かぶメーカー/ブランド名のことを
専門的には、
「TOMA:Top of Mind Awareness」
日本語では、
「第一非助成想起」
という難しい表現で表します。
通常、メーカー/ブランド認知度の調査では、
・次のメーカーの中で知っているものに○をつけてください
とメーカー名を羅列して選ばせるやり方(助成想起)
と、上記「直感リサーチ」のように、
・製品カテゴリー名を示して、
頭に思い浮かんだメーカーを書かせるやり方(非助成想起)
の2つの方法を採用します。
で、
TOMA(第一非助成想起)
とは、要するに、メーカー/ブランド名があらかじめ
リストアップされていない状態、つまり
「助けを借りないで思い浮かぶ最初の名前」
ということです。
さて、いわゆる「ブランディング」(ブランド構築)の最大の目的は
この「TOMA」のポジションを獲得することだと言えます。
もちろん、あるメーカー名、ブランド名を聞いた時に
「好意的なイメージや感情」が伴うことが必要です。
悪名がとどろいていてもしょうがないですから。(^-^)
ただ、ブランディングに成功してTOMAのポジションを獲得すれば
自動的にマーケットシェアトップになるわけではないのが
難しいところです。
いわゆるマーケティングの
4P(Product、Price、Place、Promotion)
全般における総合力を高めないと駄目なんですね。
例えば、「風邪薬と言えば・・・」
風邪薬カテゴリーの認知率トップは実は、三共の「ルル」。
(最近の調査によると)
老若男女、誰でも知ってる、
‘くしゃみ3回、ルル3錠’
名キャッチコピーのおかげでしょう。
しかし、売上げベースのシェアトップは大正の「パブロン」。
認知率ではルルの後塵を拝しているにも関わらず、売上では
ルルの3倍の規模です。
これは、端的には「流通チャネル(Place)施策」の差が
大きいようです。
ドラッグストアの店員が、お客さんにどの風邪薬を推奨するか、
というのが売上げを左右する鍵だと以前聞いたことがあります。
さて、直感リサーチの結果に戻ると、ソニーさんの名前が
一位にあがっている製品カテゴリーにないのが気になりますね。
インターネットコムさんの元記事を見ていただくとわかりますが、
だいたい、ソニーさんは2位か3位あたりです。
製品カテゴリーのうち、どれかひとつでもダントツトップの市場が
あると、それだけでソニーブランドのイメージがぐっと回復すると
思うのですが。
投稿者 松尾 順 : 11:55 | コメント (0) | トラックバック
ブログで予測できるかもしれないあなたの寿命
以前読んだ心理学のテキストにこんな研究が紹介されていました。
珍しい研究なのでいまだに覚えています。
ただ、うろ覚えですので内容はざっくりです。ご容赦ください。
ヨーロッパで行われた研究でした。対象は修道女の方々。
修道女の方々は、日記をつけていることが多いようですね。
それで、この方々が天に召された後、日記を他人が閲覧してもよい
という許可を与えていた方のものを研究者が分析したのです。
研究者は、修道女の方々の日記の文章に、
・「うれしい」といった前向きな言葉、
・逆に「むなしい」といった後ろ向きの言葉
がどのくらい登場するかを調べました。
そして、彼らの寿命との関係を見たのです。
すると、明らかに、前向きな言葉を多く書いていた修道女の方が、
後ろ向きの言葉が多かった修道女より平均寿命が長いことが
わかりました。
この結果を端的に解釈すると、
「楽観的に生きてる人の方が長生きする」
ということが検証されたということです。
それで、この研究を見てすぐに連想したのが、ブログでした。
ブログで同じような研究ができるんじゃないか?
今、たくさんの個人の方が、毎日の出来事や気持ちを
ブログ日記に記していますよね。しかも公開されている。
そこで、一定の規模の調査対象者の日記をデータとして収集し、
テキストマイニングするのです。同時に、その方の寿命、
あるいはどの程度幸福になっているかを追跡します。
(長期にわたる研究になりますね)
そうすれば、日記の言葉がどれだけ、書いた人の
人生や寿命に影響を与えているのかがわかるかもしれません。
ある程度データがたまってくれば、ブログの内容で
あなたの寿命が予測できるようになるかも・・・
逆に、書く言葉を変えることで
寿命をどの程度伸ばせるかもわかるということにもなります。
「言霊」といいますが、言葉、特に書かれた言葉は
書いた当人を動かす力を持っているというのが、
成功哲学などでよく言われることです。
実現したい夢は、紙に書いていつも見るようにすれば
叶うと言いますよね。
ブログのテキストマイニングでこのことが
実証できるんじゃないでしょうか。
えー、今日は突拍子もない妄想でした。(⌒o⌒;
投稿者 松尾 順 : 14:56 | コメント (0) | トラックバック
顧客の心理特性別セグメント
以前から、性、年齢などの基本属性に基づいて顧客をセグメント
(グループ化)するだけでは、十分ではないと言われてきました。
そもそも、セグメント(グループ化)することの意義は、
・同一グループ内の人たちはできるだけ似た者同士であること
・他のグループとはできるだけ異なっていること
です。
これら2つの条件が満たされていればいるほど、
顧客セグメント別に効果的・効率的なコミュニケーションが
可能になってきます。
しかし、男性と女性という性別によるシンプルなセグメントを
考えてみるだけでもおわかりになるように、
性別で分けるだけで、上記2つの条件が満たされる商品・サービス
はそれほど多くありません。
ただ、最近になってようやく、基本属性だけでなく、
性格や価値観、ライフスタイルなどの「心理特性」を
元にしたセグメントが実用化されるようになってきました。
たとえば、ITベンチャーのゴールネットさんは、
不動産業界向けの会員組織運営システムにおいて、
顧客の心理特性に基づくコミュニケーションを可能にしています。
同システムでは、会員登録者に対してアンケートを行い、
「何に対して財布を開きやすいか」を分析して顧客を7つの
セグメントに分けます。
そして、
「家族が何より大事」という価値観を持つ顧客には家族団らんを
「自分への投資」という顧客には、物件の資産価値をうたう
案内メールを送るといったことが可能だそうです。
また、顧客心理を分析するものとしては、
「サイコメール」というサービスが今年の10月に登場しています。
これは、携帯メールなどの文章を「音相理論」なるものに
基づいて分析し、そのメールの送り手の気持ちや感情を
教えてくれるというものです。
ですので、この仕組みを使えば、顧客のメールから想定
できる心理属性別セグメントが可能になります。
また、サイコメールは、逆に利用すれば、
こちらの感情や気持ちを的確に伝えるメールの文章が作成できる
ということでもあるので、効果的な広告文の作成に使えそうです。
考えてみれば、従来の基本属性によるセグメントは、実は
男性だったら、あるいは女性だったらこんな価値観で購買を決定
するだろう、という心理特性と基本属性を関連付けることで
代替してきただけなんですね。
したがって、ある程度、直接顧客の心理を読むことが可能なら、
積極的に心理属性別セグメントを利用すべきでしょう。
投稿者 松尾 順 : 13:18 | コメント (0) | トラックバック
市場調査とマーケティングの違い
元リクルートの創刊男、くらたまなぶ氏は、市場調査とマーケティングの
2つの言葉を使い分けています。つまり、別の意味で使っているのです。
市場調査とは、昨日までの状況を把握することです。
市場シェアだとか、顧客数だとか、販売価格の推移だとかですね。
一方、マーケティングは、明日からのお客さんの気持ちを知ることです。
まさにマインドリーディングと同じですが、お客さんが今は満たされていない
何かを探ることです。
この何かを「ニーズ」といってしまえば簡単ですが、お客さんの口から、
「こんなのが欲しい」という答えを期待することはできませんね。
もし聞けたとしても、それはたいしたアイディアではありません。
なぜなら、お客さんは消費の専門家ではありますが、商品やサービス
の専門家ではないからです。
私たちマーケターは、商品・サービスの専門家であることに加えて、
お客さんの本音を引き出し、理解できる「顧客の専門家」であるべき
だと私が考えているのには、お客さんから直接、売れる商品開発の
アイディアは聞けないという大前提があるからなんです。
くらた氏の話に戻すと、市場調査では、数字で把握することが基本
です。つまり「算数」の世界。しかし、マーケティングでは、お客さん
の本音を「言葉」で捉えようとします。つまり「国語」の世界。
これまで、リサーチの世界は、数字での把握が中心になってきたわけ
ですが、当然ながら商品開発のヒントは得られない。
というわけで、テキストマイニングなどの、お客さんの生の言葉を
いかに収集し、分析するかというのが今の最大のテーマになって
きたのは必然的展開なのです。