ちぐはぐ販促

相応のコストをかけて、
販促テクニックを活用した販促施策を
展開する場合、見込み客の視点に立って、
実際に購買意欲が喚起されるかどうか、
しっかり考えないと残念なことになります。

--------------------

私は昨年から、マーケティング会社、

株式会社ジェネシス・コミュニケーション

に「エグゼクティブ・フェロー」というタイトルで
参画していまして、現在、麹町の同社事務所には
半常駐しているような状況です。

先日、その事務所に新しくできたばかりの

事務所向け宅配弁当サービス

の売り込みがあったらしく、
無料サンプル(試供品)のお弁当数個と
チラシが届いていました。

私も1つ頂いて食べて、
まあ味は悪くないとは思いましたが、
当宅配弁当サービスの販促施策には、

「突っ込みどころ」

がたくさんありました。


まず「チラシ」には、

・通常1,000円のところ600円。
・今なら限定150名様には、ずっと600円で提供

といったコピーが大きく配置されていました。

都心とはいえ、
毎日事務所で食べるお弁当として、

[1,000円]

の価格設定自体、
そもそも割高だと思うのですがどうでしょう?

チラシに掲載されている弁当の写真からは
感覚的には600円~800円程度にしか見えません。

値段相応なのでお得感がないのです。

おそらく、

・通常1,000円のところ600円

という表記は、いわゆる

「アンカリング効果」
(先に提示された情報が基準となって
 後の情報が評価されること)

を狙って、割安さを感じさせようとした
ものでしょう。

ところが、肝心の商品自体のクオリティが
十分でなければ無意味です。

今の消費者は、

こうした小手先のテクニック

は簡単に見破ってしまうからです。


さらに残念だったのはサンプルのお弁当です。

写真がなくて言葉だけの説明ですいませんが、
お弁当の中身は、

・さばの塩焼き2切れ
・卵焼き
・ひじき煮
・漬物
・ごはん

というもの。

味はまずまずながら、
街中のお弁当屋さんでは300円-400円で
買える程度のお弁当。

これで、定価1,000円は高いなあと思ったら、
実は、あくまで見本なので中身は簡素化して
あるとのこと。

確かに、チラシの弁当の写真と見比べて
みれば全然違うものでした。

しかし、これでサンプル=試供品の役割を
果たしているでしょうか?

実際に配達される弁当を試してこそ、

1,000円のところ600円

という値段相応あるいはそれ以上の価値が
あるかどうかを評価できるのではないでしょうか?


ヘアケア製品や化粧品であれば、

「効果・効能」

を実感してもらえればよいため、

小袋パッケージ(サンプル用)

の配布でも問題がありません。

しかし、お弁当は商品本体を試さないと
評価が難しいはずです。

ひょっとして味だけを試してもらいたかった?
それなら、よほど飛びぬけた味でないと
ダメですよね。

どうせなら無料ではなく、

特別お試し料金300円

といった価格で通常配達する弁当を
試してもらったほうがよほど効果がある
でしょう。


そして、さらに「空回り」してるなと思ったのが、
事前に頼んであった個数よりも多めにお弁当を
置いていったことです。

つまり、食べる人数よりも弁当が多く、
余ってしまう状況。

そのほうが喜んでもらえると
思ったのかもしれません。

しかし、生ものです。
当日中に食べる必要があるし、
いくら無料とは言え、廃棄するのは
なんとももったいない!

なんとか、家に持ち帰ってもらうなどして
さばいたのですが、

「なんだかなあ・・・」

というところ。

つまり、彼らが多めに弁当を配布したことで、
見込み客たる私たちは喜ぶどころか、

「いい迷惑」

とネガティブな感情を抱く結果となった。


いやあ、これほどチグハグな販促施策を
体験したのは初めてです。

見込み客がどんな気持ちになるか、
ほとんど考えていないのではないかと
思わせるものですよね。

しばしば、販促企画では、

売ること

にばかり意識が集中してしまい、

対象見込み客の心理(の変化)

を考えることがおそろかになりがちです。

この宅配弁当サービスの販促施策が、
顧客獲得にどの程度の効果を発揮できたのか、
気になるところですが、ともあれ

反面教師

として学ばせていただきます。


*ジェネシスコミュニケーション
http://www.genesiscom.jp/

投稿者 松尾 順 : 09:50 | コメント (0) | トラックバック

トップセールスパーソンは、第一印象に85%のエネルギーを注ぐ!

もう一つだけ、行動観察ネタ。

抜群の成果を残すトップセールスパーソンの秘密、
本人に聞いても、

「さあ、なぜか売れちゃうんだよね」

としか答えられないことが多いのです。

しかし、トップセールスパーソンの接客や商談の様子を
「行動観察」してみると、以下のような特徴が判明したそうです。

------------------

・ファーストコンタクト(第一印象)を大事にしている。

・お客様の話す時間が長い⇒セールスパーソンは、
 話すのではなく、カウンセラーのように客の話を上手に聞きだす。

・お客様の様子をよく観察して、個別のニーズを把握、
 適切な提案を行なう。

・お客さんに何か必ず、親切なことをする。

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上記の点は、当たり前のことばかりじゃないかと、
感じられるかもしれませんが、大事なのは「行動」として
やれているかどうかなんですよね。


さて、上記のような行動がなぜ成果につながるかについては、
行動経済学や、社会心理学の知見で理論的に説明できます。

例えば、最後の

「お客さんに親切にする」

は、影響力の武器』で解説された「カチッ・サー理論」のうち、

「返報性の原理」(人は借りができたと感じると、
返さなければならないと無意識にも感じてしまうこと)

を活用したもの。

また、一番最初の

「ファーストコンタクトを大事にする」

は行動経済学における「初頭効果」です。

最初の印象が、その後の評価に大きく
影響を与えてしまうということ。

例えば、第一印象で「いい人そう」と感じたら、
その後のやりとりも「やっぱりいい人だった」と
最初の印象を裏付けるように物事を解釈してしまう。

逆に、「なんかいやな人」と第一印象で思われたが最後、
その後も、「やっぱりいやな人だった」と最初の印象を
裏付ける証拠集めばかりをしてしまうのです。

こうした、最初の印象(先入観)に合致する情報だけに
着目してしまいがちな傾向のことは、

「確証バイアス」

と呼ばれています。


だから、あるセールスパーソンは、

「ファーストコンタクトに全エネルギーの85%を注ぎ込む」

と言っているほど。


セールスパーソンに限らず、
第一印象は大切にしたいものです。


『ビジネスマンのための「行動観察」入門』
(松波晴人著、講談社現代新書)

投稿者 松尾 順 : 15:05 | コメント (0) | トラックバック

信頼される営業パーソン vs 信頼されない営業パーソン

信頼される営業パーソンと、
信頼されない営業パーソンの違い。

もちろん、その答えは一つではなく、
様々な違いが挙げられます。

ただ、信頼される営業パーソンとなるために
第一に重要なのは、

「お客さまの視点から見て、扱い商品についての
 “専門家である”と感じてもらうこと」

です。


では、“専門家である”と感じてもらうには
どうしたらいいのでしょうか?

具体的には、商品についての詳細な情報や、
関連情報を暗記しており、「空(そら)」で
説明できることです。

また、お客さまからの様々な質問に「即答」
できることです。

専門家とは、専門分野についての知識が人よりも
豊富であり、空でも語れるくらい頭に入っている人。

だから、専門分野についての質問に的確、迅速に
答えられる。そうした人が専門家として認められ、
信頼されることになります。


ですから、逆に言えば、細かい数字を交えた商品情報や、
様々な関連情報が口からスラスラと出てきて、
質問にもその場ですばやく回答できるくらいになると、
お客さまに

「彼・彼女はよくわかっている」「専門性が高い」

と感じてもらえ、信頼性が高まるというわけ。

テレビショッピングでの、
ジャパネットたかたの高田社長のトークは、
商品の特徴やメリットを早口でマシンガンのように
語る独特のスタイルです。

基本的に、セールストークにおいて、
早口はあまり好ましくないとされています。

しかし、高田社長の場合、

「早口で、弁舌滑らかに語ること」

が、彼の専門性の高さ、つまり「専門家」という
イメージを与え、信頼性を高めることに成功しています。


一方、商品パンフをただ棒読みするだけ、
お客様からの質問に対しても、要領の得ない回答しか
できない営業パーソンは、まったく信頼されません。
(そんな営業パーソンは決して少なくないですね・・・)

ビジネスパーソンは、お客様の心を打つような

「熱意」

が大切だとも言われます。

確かに熱意も大切ですが、
第一に「信頼」されなければ意味がないのです。

「まだ(扱い商品について)よくわかってないようだけど、
 あなたの熱意に負けたよ」

などと言って、契約してくれる奇特な人はそうそういません。

営業パーソンは、まずしっかりとした専門知識を
身につけ、それを空で語れるくらいになる必要がある。
(必ずしも、弁舌滑らかでなくてもいいけれど)

もちろん、お客様の状況や抱えている問題・課題を
考慮しない、一方的なセールストークは逆効果になります。

自分が持つ専門知識と、製品・サービスを通じて、
相手の問題解決やニーズ充足に役立ちたいという姿勢を
示すことも重要です。


専門知識を自分への「利益誘導」のためではなく、
相手を利することのために役立てようとしている人の言葉には、
「信憑性(しんぴょうせい)」が感じられます。

専門家としての「信頼性」と、相手のお役に立ちたいという
「利他の心」の両方を兼ね備えている人こそ、
指名や紹介がガンガン入るトップ営業パーソンになれるのです。

投稿者 松尾 順 : 09:53 | コメント (0) | トラックバック

ちょいとセコくないかい、チーズ1枚トッピングクーポン

某プレミアム・ハンバーガーチェーンのお話。

同チェーンで提供しているアメリカンスタイル、
BBQ風ハンバーガーはなかなかおいしい。

なので、たまに東京駅近くのお店に行きます。

さて最近、本郷の事務所に、
近くの店舗のデリバリーサービスのチラシ
が入ります。

このチラシについている

「スペシャルクーポン」

は、ハンバーガー、サンドウィッチにもれなく、

「チェダーチーズ1枚」

を無料でトッピングするというもの。


うーん、なんか、
ちょっとセコいクーポンだと思いませんか?

こうしたクーポンは、
お客さんの購入の決断を
後押しすることが目的ですよね。

つまり、コストが多少増加しても、
それを上回る増収効果を狙うものです。

しかし、チーズ1枚で、

「じゃあ買おう!」

という気になる人はどのくらい
いるもんでしょう・・・?


おそらく、クーポンを利用する人は、
無料のチーズトッピングがあろうがなかろうが、
初めからハンバーガーを注文するつもりの人で、

「せっかくだからクーポン使うか・・・!」

という人がほとんどではないかな。

そうすると、クーポンによる増収効果は
実質ゼロに近く、単にコストが上がって
利益率が下がるだけの結果になりそう。

こうしたセコいクーポンを見ると、

「なんのための販促施策か、目的を意識しているか?」

を考える良い機会にはなりますね。

投稿者 松尾 順 : 15:47 | コメント (0) | トラックバック

体重計付バス待合所

あなたは、毎日自分の体重をチェックしてますか?

ここだけの話ですが、
私は5年くらい前から毎日自分の体重を記録しています。

最近、ダイエットもさぼり気味。

「やや肥満ぎみ」

のメタボ体質ではありますが、
なんとかギリギリ

「真性肥満」

にならず済んでいるのは、
自重をこまめに確認することで
自制ができているからだと思います。

実際、しばらく体重計に乗らないでいると
食生活が乱れますし、乗るのが怖くなりますね・・・


さて、オランダ・アムステルダムには、
野外広告(OOH:Out Of Home)として、
面白い、というか日本では物議を醸しそうな
バス停広告があります。

広告の掲示スペースに数字が表示される
電光掲示板があり、待合所のベンチに座ると、
その人の体重が計測されるようになっている
というものです。

さすがのアイディア!すばらしい!

体重を気にしている人は、
恥ずかしくて座れない。結果として座るよりも
カロリーを消費することになりますよね。

あるいは、勇気を出して毎日座る。
最初は人に笑われるかもしれませんけど、
ダイエットがんばって徐々に数字が小さくなって
いったら、毎日乗り合わせる人から喝采を受けるかも!

日本のバス停にも登場して欲しいOOH広告ですね。

youtubeに動画がありました。

bushokje met weegschaal van Fitness First

このきれいなお姉さんは、
厚着しているせいでしょうけど、
体重は私とほぼ同じです・・・

やっぱりごついなあ。ゲルマン系ビジョ。

投稿者 松尾 順 : 20:30 | コメント (0) | トラックバック

高橋がなり・国立ファームの今後の事業戦略

日本の農業を取り巻く問題には様々なものがありますが、
3年前、「国立ファーム」を設立し、日本の農業界に殴り込み
をかけた高橋がなりさんが解決しようとしている最大の問題は、

「優れた農産物を生産している農家が報われない」

ということだそうです。


あえてポイントを絞りますが、
上記の問題を生み出している最大の原因は以下の2点です。

・全ての農家に標準的で同質な農産物の生産を求めるJA(全農)

・バイイングパワーを駆使して、大量販売に適した納入形態を求め、
 また、仕入れ価格をとことん引き下げようとする大手小売店


要するに、農家と消費者の間に介在している

JAや小売店

の支配力が強すぎるのですね。

このため、農家の創意工夫によって、
他農家とは異なる品種を採用したり、独自の生産方法を開発して、
おいしいとか、栄養価が高いといった農産物を作り出しても、
市場に出すと、その他の農産物と同じ価格(=安値)でしか
売れないのです。


経営努力で、他者との「差別化」(差異化)を
いくら図っても、農家の経営努力に相応しい対価を
得にくいのが、日本の農業界なのですね。


ただし、近年、マーケティング力、販売力もある農家は
消費者との直接取引を開拓することで上記の問題を
解決しています。

また、「オイシックス」「大地を守る会」といった
有機の、あるいは安全な農産物を扱う通販会社の台頭によって、

「報われない農家」

という現状は一部改善されつつあります。


しかし、本来、職人的クリエーターである農家の多くは、
マーケティング力、販売力には長けていません。

農産物に強い通販会社も、
農家との緊密な関係を大切にしているとはいえ、
やはり軸足は消費者側にあるため、それほど高く売ること
ができません。


こうした現状を踏まえ、がなりさんは、
優れた農産物を作れる農家=篤農家の
マーケティングやセールスを支援するため、

「ブランド重視のコミュニケーション戦略」と
「自社独自の流通チャネル構築」

を通じて

「地位も名誉もお金もあるカリスマ農家」

を生み出そうとしています。


ブランド重視のコミュニケーション戦略と、
自社独自の流通チャネル構築は、
くしくも、AV業界で成功を収めた

ソフト・オン・デマンド(SOD)

のやり方でもありました。
(低価格を除いて)


SODでは、従来のAV商品とはまったく異なる、
斬新な企画の商品を開発、低価格で販売して、
ユーザーの支持を得ました。

そして、がなり氏自身がマスメディアに積極的に
登場することで高いブランドイメージを構築。

また、SODの主体は「販社(卸)」であり、
同社、および他社の商品を一括で扱うことによって、
小売店との交渉力を強化したのです。


SODのAV商品は当初、

「たくさん売ってるんだから、もっと仕入れ値を下げろ」

と小売店から言われたそうです。

しかし、お客さんがSOD扱いの商品が欲しいと店に
やってくるようになった今、SODの品揃えを失うわけに
いかない小売店は、もはや無理な取引は言ってきません。


同様に、消費者が、

・「国立ファーム」の野菜がほしい

また、例えば

・斉藤さんの作った「にんじん」がほしい

と指名買いしてくれるようになれば、
生産者と流通業者の立場が逆転します。

小売店としては、

売ってあげるのではなく、
ぜひとも商品を売らせてほしい

ということになるため、
それぞれの農産物の品質に相応しい価格設定が
可能になるというわけですね。


そこで、がなりさんは今後、
契約している篤農家をテレビなどのマスメディアに
今後積極的に登場させ、知名度、ブランドイメージ
の向上を図ります。

彼らの中には、早晩、「カリスマ農家」として
脚光を浴びる人も出てきそうです。


また、直営の野菜レストラン、

『農家の台所』

では、篤農家が作ったおいしい野菜を味わってもらい、
「ブランド体験」を提供すると同時に、野菜にもさまざまな
品種があり、それぞれ味が違うこと、また、どんな野菜が
おいしいのかといった、野菜についての知識を伝える、

「消費者教育」

の場としての活用を強化していくそうです。


『農家の台所』1号店の国立は、
いまだ赤字だそうですが、2号店の恵比寿店は
マスメディアで頻繁に取り上げられ、
たちまち人気店となっています。


今後、都内各地に出店が予定されている

『農家の台所』

は、「商品ブランド」として相応のブランド力を
形成しつつあるため、今後、レストランだけでなく、
食に関わる様々なパッケージ商品や惣菜販売などへの
横展開を考えているようです。


また、『国立ファーム』は、
ここに頼めば、篤農家、カリスマ農家のおいしい
農産物が手に入るというイメージ、すなわち

特選野菜の統一ブランド

となることを狙っているそうです。


がなりさんは、
街中のスーパーで安く手に入る野菜を
否定しているわけではありません。

数百円で食べられるファーストフードから、
数万円のカリスマシェフの店がある飲食業界のように、
農業界にも品質や価格、サービスに多様性が必要だと
考えているのです。


そして、がなりさんは、

「にんじん1本1,000円でも欲しい」

と消費者に思ってもらえるような篤農家を
生み出すことで、農業に対するネガティブな
イメージを払拭し、

「農業はかっこいい」

と人々が考えるようになる、すなわち、

農業を憧れの職業にすること

を国立ファームが目指すビジョンとして
掲げています。


3年前、10億円の資本を元手に
スタートした国立ファームの残金は
もはや9千万円足らず。

しかし、数多くの失敗を重ね、大金を失ったからこそ
はっきりと見えてきたのが以上ご紹介した、
国立ファームの今後の方向性です。


私の勝手な感想に過ぎませんが、
数年以内に、がなりさんは、ほぼ間違いなく、
農業界のスーパースターになっていそうです。


なお、国立ファームでは、
今後の同社の発展を担う人材を積極的に
募集しているそうです。


*以上は、2009年3月20日(金)に開催された
 高橋がなりさんの講演会(「私には夢がある」主催)
 を元にしました。

*がなりさんの話を私なりに咀嚼して書いています。
 したがって内容についての文責はすべて松尾にあります。


『国立ファーム』
http://www.kf831.com/

『農家の台所』(くにたちファーム本店)

『農家の台所』(恵比寿店)

*私には夢がある セミナー実施報告

投稿者 松尾 順 : 14:52 | コメント (1) | トラックバック

保険のない国から来た私がトップセールスになれた理由

この本を読んだ後、
私は思わず著者の周小異さんに最敬礼したくなりました。

『保険のない国から来た私がトップセールスになれた理由』
(周小異著、徳間書店)


著者の周さんは、お名前からわかるように中国人です。
1年間の留学のため25歳の時、日本にやってきました。

しかし、半年後に日本人男性(松尾哲郎氏)と結婚。
中国には戻らず、日本に留まることになります。


結婚当初は専業主婦。
夫との生活習慣の違いに戸惑いながらも、
平穏な日々を送っていました。

ただ、夫から毎月渡される給与明細を見て、
給与から天引きされる各種の保険に興味を持ち、
どんなものか知りたいと思うようになったそうです。

なぜなら、当時の中国では、

「保険」

というものが、
そもそも存在していなかったからです。

周さんの両親は公務員でしたが、
公務員の場合、病気になってもお金はかからず、
年金は終身年金。30年以上勤務していれば、
定年になった時の給料がそのままずっともらえたのです。


さて、子供ができて半年後、
周さんは台湾出身の保険の女性セールス担当者と出会い、
保険について話を聞き、また、保険のセールスを一緒に
やらないかと誘われました。

周さんは、この誘いに乗ることにしました。


すでに日本に来て4年目だったとはいえ、
まだまだ日本語は十分ではありません。

日本という異国の地で、
果たして保険のセールスとしてやっていけるのか
自信はありませんでした。


しかし、中国女性は、
結婚して子供ができても働くのが普通でした。

周さんも、お金のためではなく、
社会に出て働きたかったのだそうです。

また、保険についてもっと理解を深めるためには、
自分自身で保険のセールスをやるのがよいと考えたのです。


夫には反対されました。
しかし、次の3つの約束をすることで夫の承諾を得ます。

1.友人や家族に保険を絶対に勧めないこと
2.家のことは前と同じようにすること
3.息子を保育園に入れてはいけないこと


周さんは、日本生命の採用面接を受け、
いったんは「日本語が十分にしゃべれない」という問題で
不合格になりながらも、最チャレンジ。

2度目の面接で採用が決まります。

さらに販売資格取得のための研修を懸命の努力を重ねてパスし、
保険セールス部員としての第一歩を踏み出します。


ただ、3つの約束に加えて、なんのツテもない周さんには
飛びこみ営業しか顧客獲得の方法はありません。

最初はほとんど成果が上がりませんでした。


しかし、彼女には、個人としてのプライドだけでなく、
中国人としてのメンツがありました。

自分が成功できなければ、
中国人全体の沽券にかかわると考えていたのです。

そこで、他の人よりもハンディがある分、
人よりも何倍も多く働けばよいと、
最終的には1日500軒もの飛びこみ訪問を続けて
トップセールスの仲間入りをしたのです。

この周さんの超人的な行動力の背景には、
保険のセールスを始めて2年目の頃、
夫が設立した会社がバブル崩壊で莫大な借金を
抱えてしまい、自分の収入で家計を支えるしかない
という状況もありました。


それにしても、周さんは何年にもわたってトップセールス
を続けた陰で、実は働き過ぎによるストレスのため自律神経症
をわずらい、自殺衝動にも何度か見舞われています。

肉体的・精神的にボロボロな状況にありながら、
驚異的な販売記録を残し続けたという行動力は
とても常人には真似できませんよね・・・

私が、思わず最敬礼したくなったのは、
こうした周さんの強烈な生き様に対してです。


さて、周さんの本に書かれた営業テクニックは、
実体験に裏付けられた確かなノウハウです。

学ぶところがたくさんあります。

営業バイブル本として間違いなくトップクラスでしょう。
営業関連の方はぜひ一読をオススメします。

ここでは、第4章で紹介されている

「ワンランク上のセールスになるための15の技術」

について簡単にご紹介しておきます。


1.第一印象が決め手

  相手に好印象を持ってもらえるファッションがある。
  セールスの相手によってファッションを変えるくらいの
  意識が必要。

2.失礼にならない技術

  お客さまに安心感を持ってもらえる「位置」がある。
  仕事の話になったらなるべくお客さまの隣に座る。

3.決めるのはお客さま

  セールスに必要なのは説得ではなく、気づきを与えること。

4.次のアポはその日に決める

  どうすればもう一度会うことができるか、に智恵を絞る。

5.見えない努力を見せる

  誰も見ていないところでの行動が実はお客さまには
  伝わっていく。

6.合わない人は早めに撤収

  お客さまには選ぶ権利がある。実は私たちにもある。

7.法人、会社員向け営業術

  責任者に「なぜこの会社を訪問したのか」という理由を
  説明して好印象を与える。また責任者を安心させる。

8.経営者とのビジネス

  社長相手の商談では絶対に焦ってはいけない。

9.社長とだけビジネスをするな

  従業員の人たちを味方に付ければセールスの百人力になる。

10.紹介される人、されない人

  保険のプロであること、心から喜んでセールスしていること、
  本当にお客さまのことを考えていること、自分という人間を
  すべて出していること、こうしたことが見込み客を
  紹介してもらえるセールスの条件。

11.専門分野以外も勉強を

  まだあまり知られていない情報だから、価値を持つ。
  周さんは、保険商品の知識は当然のこと、テレビの
  経済番組、新聞、ビジネス誌、トレンド情報誌、経済誌、
  マネー誌などたくさんの種類の情報を収集して、
  世の中の動きに目を光らせていた。

12.成功したら初心に戻る

  一度の成功は成功ではない。成功し続けることこそ成功。

13.すぐに忘れる

  悪いことはすぐに忘れる。いいことも忘れてしまう。

14.不調時はセールスしない

  リフレッシュ上手であることも優秀なセールスの条件。

15.1人で成功しない

  組織で成功しよう、という思いを必ず持っておく。

『保険のない国から来た私がトップセールスになれた理由』
(周小異著、徳間書店)

投稿者 松尾 順 : 11:06 | コメント (2) | トラックバック

機内販売のプロが語るセールスの極意

あなたは、飛行機の機内販売で

「ブランド品」

とか買ったりしますか?


機内限定販売の商品がメインとはいえ、
あの狭い空間でわざわざバッグなどを購入したくなる気持ち、
正直よくわかりません。

おそらく、旅行中の高揚した気分が
財布の紐をゆるくしてしまうのでしょうね。


こんな私にとって、機内販売は、
客室乗務員の方が手に商品を持って
ゆっくりと通路を通過していくだけの他人事の風景です。

機内は、そもそも積極的に商品を販売できる

「売り場」

ではありませんし、

「売れても売れなくてもいい」

という程度のものなのかなと思っていました。


しかし、この世界にも、
やはりトップセールスはいるんですね。


わずか2時間程度の国内線のフライトで、
機内積み込みのブランドバッグを売り切ったこともある
全日本空輸(ANA)の別府奈津美さんのセールスの極意は、
第一に

「ターゲティング」

にあるようです。
(日経ビジネスアソシエ、2008.05.06)


すなわち、別府さんによれば、

「どのお客様が買う雰囲気を持っているか。
 それを搭乗時に見分けること」

が重要なのだそうです。

前述したように、
機内はそもそも「売り場」=店舗ではありません。

乗客全員が見込み客ではありません。

したがって、早い段階で

「見込み客」

を的確に発見し、
ターゲットを絞り込んで攻めることが
鍵になってくるわけです。


別府さんが特に注目するのは、
女性のグループ。

中でも、そのグループのリーダーが誰かを見定めます。


なぜなら、リーダーに売ることができれば、
周囲に、

「あなたも一つ、どう?」

と勧めてくれることが多いから。

機内販売においても、

「オピニオンリーダー」

をまずおさえることが有効なんですね。

機内の場合、仲の良い仲間が至近距離で
集まっているだけに、リーダーからの「口コミ」が
効きやすい状況にあると言えます。


また、機内販売のネクタイを着けている
ビジネスパーソンもねらい目。

彼らは、いわゆる

「既存客」

ですから、新規客開拓よりもはるかに楽に
販売できる可能性が高いですね。


さて、機内販売の時間が始まってから、
別府さんが会話のきっかけづくりに活用しているのが、

「目」

です。


通路を歩きながらくまなく目線を走らせる。

買う気がある人は、
気づいてもらおうと顔を別府さんに向けてきます。

しかし、ここですぐに近づくことはしません。
恥ずかしがって顔を背けてしまう人もいるからです。

別府さんは、顔を向けてきた人を心持ち長く見つめ、
さらに小首をかしげてかすかに微笑む。


これは

「ロングアイコンタクト」

と呼ばれるテクニックです。

この無言のメッセージを相手に送ると、
たいていの客は手を挙げたり、

「すいません」

と声をかけてくるそうです。


さらに、会話中には、
相手の感情を刺激するような言葉、

「ゴージャス」「キュート」「セクシィ」

などを織り交ぜることで気分を高揚させ、
決断を促します。

上記のような言葉(形容詞)は、

「エモーショナル・ワード」

と呼ぶようです。

単価数万円の高級ブランドを売るためには、
こうした歯の浮くような言葉の後押しが効くというのは
私でもわかる気がします。


以上ご紹介した別府さんの機内販売の極意は、
新幹線の車内販売のトップセールスの方と
共通点が多々あります。

新幹線の車内販売の場合もやはり、
買う気がある人を見極めるターゲティングと
目の使い方が鍵なのでした。


(関連記事)

「新幹線ガール」

「背中に刺さる弁当欲しい視線」

「カリスマ社内販売員の言葉のマジック」

投稿者 松尾 順 : 13:10 | コメント (0) | トラックバック

人見知りな営業でも大丈夫

以前もちょっと触れたことがありますが、

「営業(の仕事)とは何か?」

という問いに対する答えとして、私が一番いいなと思うのは、

「営業とは、お客様から‘課題’をもらうこと」(Task-getting)

というものです。


そこで、営業マンのことは、

「タスクゲッター(Task Getter)」(課題をもらう人)

と言い換えることができます。


ここで「課題」とは、

お客さんが抱えている、なんらか解決したい問題や、
充足してほしいニーズ(夢・願望など)

のことです。

営業の仕事における究極の目的は、
言うまでもなく自社商品を販売することですよね。

しかし、そのためには前段階として、

「顧客の求めているものが何か」

を確実に把握しなければならないということです。


この考え方は、セールストークを駆使して

「売り込む!」

という古いアプローチがもはやほとんど通用せず、

「買っていただく(選んでいただく)」

という姿勢で営業に臨まなければ売れない、
今の時代においてより強調されるべきかなと思います。


したがって、営業担当者の資質として

「社交的」「話し上手」

という点はあまり重要ではなくなってきています。


例えば、輸入車販売大手の「ヤナセ」で
昨年全国2位の成績を収めたトップセールス、
石原孝明セールスマネージャーは、

“今もそうだが学生時代からおとなしく、
 あまりしゃべらないタイプ。
 人と仲良くなるまでに時間がかかる”

と自己分析しています。
(日経産業新聞、2008/04/10)


そこで、営業担当としてはマイナスとなる「話ベタ」を
補うために、石原氏が留意しているのは大きくは次の3点です。

------------------------------------------------

1.聞き上手になる

 「どういう車の利用方法を想定しているか」
 「荷物は何を運ぶのか」

 といった具体的な質問を投げかけ、
 顧客の反応をすべて受け止めて対応する。


2.商品知識や関連知識に精通する

 顧客に対してパンフレットを見ないでも
 即座に的確に答えることができるくらいの知識を蓄える。

 「あの人に聞けば何でもわかる」

 と思われるくらいの“最高の御用聞き”になれば強い。


3.顧客に暗いというイメージを抱かせない

 話が苦手でも、挨拶は元気よく。
 服装もカラフルにして、外見で明るい雰囲気を作り出す。
 (やはり「暗い」というイメージを持たれてしまうのはだめ)

-------------------------------------------------

石原氏はもちろん、
顧客に対するフォローコミュニケーションも
きっちりやってます。

大きな顔写真入りの年賀状、暑中見舞いを送ることで、
少なくとも年2回は自分の顔を思い出してもらうのです。


「最初から焦らず、顧客とのコミュニケーションを
 上手に取れるようになれば、後から結果がついてくる」

と石原氏は述べていますが、

「顧客とのコミュニケーションを上手に取る」

というのはどういうことでしょうか?


もちろんもうお分かりでしょう。
顧客の話を丁寧に聞いて、相手を十分に理解することです。

営業担当者が、自社商品の説明を
一方的にまくし立てることではありません。


だから、人見知りで口下手な営業でも大丈夫なんですよ。


なお、聞き上手になること、また、
商品知識・関連知識をたくわえることは、

要するに

「情報収集力」

を高めることだと言えます。

営業担当者の必須能力として最も重要なのは

「情報収集力」

であるという点は、
トップセールスの方々が口を揃えて言うことです。


というわけで、

「営業活動における情報収集のノウハウ」

というコンセプトで書いた本がまもなく出ます。

単行本としては、私の初めての著作です。
ご興味のある方は、ぜひ読んでみてください!

投稿者 松尾 順 : 14:02 | コメント (4) | トラックバック

上海で人気のクーポン発行システム「VELO」

最近、上海に行くと、地下鉄各線の主要駅や、
ローソン、映画館、レストランなどに、

「VELO」(中国語名:維絡城)

という広告媒体端末が設置されているそうです。
(『ビジネスマンのための中国経済事情の読み方』
  DIAMOND ONLINE、2008年3月27日)


現在400台ほど設置されているこの端末からは、
端末設置地点周辺にある飲食店などの割引クーポンが
無料で発券できます。


当システムに加入している業者は、
飲食業、映画館、本屋、外国語学校など140社。

ケンタッキーフライドチキンやマクドナルドも、
加入しているそうです。


当端末の利用には

「VELO CARD」

という小さなカードが必要です。

このカードは、運営会社のWebサイトで請求できますし、
あるいは、街頭で配布されている未登録のカードを受け取り、
その場で携帯電話を利用して登録すればすぐに利用可能です。


現在の登録者数は約50万人。
毎日平均5千人のペースで新規登録者(カード保有者)が
増えているとのこと。


この「VELO」が人気を博している理由ですが、やはり、

「行った先で即座に様々なお店のクーポンが手に入る」

という便利さ・手軽さでしょう。


日本では(またおそらく中国でも)、
携帯端末を利用した「電子クーポン」の仕組みが
広がりつつありますよね。

でも、この仕組みは個店・チェーン単位での登録が必要ですし、
ダウンロードには結構手間がかかります。

私もマクドナルドの携帯電子クーポンをたまに利用しますが、
操作手順が面倒なので、新聞の折り込みチラシについてくる
紙のクーポンを使うことのほうが多いです。


また、中国にも無料クーポン誌の「ホットペッパー」が
あるそうですが、日本版は区別電話帳なみに分厚い。

情報量が多すぎますし、常に持ち歩くわけにはいきません。

ホットペッパーのようなクーポン誌は、
あらかじめ、どの町のどの店に行くかを決めて、
事前にクーポンを準備しなければならないという問題が
あります。


しかし、「VELO」の場合は、
その場でサクッと近くの店を選べますね。

クーポンがあるから「行ってみようか」となることも
多いんじゃないかと思います。

さて、日本ではまだ類似のシステムは普及していませんが、
先日(4月1日)、凸版印刷が非接触IC技術「フェリカ」
を搭載した携帯電話、

「おサイフケータイ」

と、電子POP(店頭販売促進物)を組み合わせた

「販促用端末システム」

を開発したと発表しています。


これは、店舗内における効果的な販促のためのもので、

「VELO」

とは、若干目的や利用方法が異なりますが、
販促端末に「おサイフケータイ」をかざすと、
割引クーポンや特典ポイントを発行できるそうです。


当端末は、5月中旬までKDDIの

「auショップ」

や、家電量販店など3店舗に設置して、
来店者のアクセス数などの利用状況調査をするとのこと。


なるほどね・・・

しかし、どうせなら、「VELO」のような
設置エリア単位の販売促進施策として活用したほうが
消費者の人気を集めるんじゃないかと私は思うのですが、
あなたはどう思いますか?

投稿者 松尾 順 : 13:58 | コメント (0) | トラックバック

マツムシソウ騒動・・・六合村の花つくり

料理を引き立てるために添えられる、
野山の花や枝葉のことを

「つまもの」

と呼びます。


徳島県・上勝町(かみかつちょう)では、
家の周辺でいくらでも見つかる、
ありふれた存在に過ぎない野山の花・枝葉を

「つまもの」

として商品化し、
高級料亭などに安定供給する仕組みづくりに成功。

これは、「葉っぱビジネス」と呼ばれ、
過疎化が進む地域活性化の好事例として
最近、よく紹介されます。


この例は、あまりにも身近な存在だからこそ、
その価値が当事者はなかなか見えないことが多い
ということを示唆していますよね。

また、たかが・・・と言いたくなる「葉っぱ」も、
用途によっては高い価値を生み出すことができる!

つまり、自分にとっては価値を感じないものでも、
世の中には、金を払ってでも欲しいと思う人が
いるかもしれないということも読み取れますよね。

実は、このような話は
他の地域でも起きていました。


群馬県の六合村(くにむら)は、
総面積の90%以上が山や原野という山間高冷地。

住民の多くは、
近隣の草津温泉への出稼ぎで
生計を立てています。

ただ、出稼ぎに行きたくともいけない
お年寄りもたくさんいました。


そこで、六合村では、
お年寄りが地元で働ける場所を提供すべく、
さまざまな

「地場産業起こし」
(主に、長イモ、キャベツなどの農産物生産)

に取り組みました。

しかし、

・村の耕地はほとんどが傾斜地であるため、
 機械が使えない

・お年寄りなので、手で重いものは運べない

・高冷地なので生産性が低い

・キャベツなら、嬬恋村のようにブランドが
 確立された生産地にはかなわない

といった制約・問題があり、
ことごとく失敗してしまいました。


ところが、ある部外者が、
村人にとってはありふれた存在のものに
隠れた価値を発見するのです。

その人は、
東京・自由が丘で花屋を営んでいた
フラワーデザイナーの中山昇さん。(故人)

中山さんは、
同村を訪れた時、路地などに咲き乱れる

マツムシソウ、ミズヒキソウ、レンゲショウマ

といった山野草に目を奪われました。

中山さんは、
こうした山野草を採取・栽培することが
ビジネスになると気づいたのです。

そこで、中山さんは住民に山野草の栽培を
勧めるのですが、当初、住民の反応は鈍いものでした。

マツムシソウやミズヒキソウは、
馬の餌置き場に咲いているような花。

これが売れると言われても
ピンとこなかったのです。


しかし、試しに

「マツムシソウ」

を東京の市場に出荷してみました。

すると、1本50円程度の相場のところ、
180円の高値で売れたのだそうです。


村では、

「マツムシソウ騒動」

として語り継がれているこの一件を契機に
六合村での山野草の採取・栽培が急速に
広まっていくことになります。

村に暮らす人なら誰でも、
集落から2時間ほど歩いた山中に、
マツムシソウを始めとする多くの草花が
咲いていることを知っていたからです。

花は、野菜と違って
片手で何十本も運べることから、
お年寄りにも最適の仕事でした。

現在、六合村の花つくりの年間売上は
1億5千万円超!

2億円まで伸ばすのが当面の目標です。


*以上は、編集会議(2008.04)に掲載されていた
 編集・ライター養成講座 東京教室 第15期
 卒業制作課題 優秀作品、

「平均年齢65歳で売り上げ1・5億円」
-過疎の山村で生まれた六合(くに)の花つくり
 (取材・文 小柳隼人氏)

を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 06:39 | コメント (0) | トラックバック

成約率9割のロー・プレッシャー営業

約1900人の顧客を抱える、
ソニー生命保険のファイナンシャルプランナー、松岡博巳氏。

「顧客に信頼される営業マン」
「愛され続けるサービス」

をモットーにする松岡さんは、
多くの場合、「紹介」を通じて新規見込客に会います。

その成約率はなんと9割!


しかし、この驚異的な成果は、私たちが思わずイメージする、

「能弁で押しの強い営業スタイル」

がもたらしたものではありません。


紹介を受けると松岡さんは事前に、

「○○様から紹介で、
 保険の相談や心配事をお聞きできればと思います」

といった内容のハガキを送ります。

次いで、顔写真と簡単な自己紹介文を封書で送っておく。

こうして、事前に松岡さんの情報を見込客に渡しておくことで、
初めて会った時に、すぐに打ち解けて話ができるのです。

もちろん、会った後の紹介者へのお礼も怠りません。


そして、見込客との会話の中では、なによりも、

「お客様の喜怒哀楽」

を感じ取ることを重視。

その感性を磨くために、松岡さんは、
年50回のセミナー参加や読書を行っているそうです。
また、人間関係を良くする

「選択理論心理学」

の勉強会の幹事をしています。


松岡氏は、自分の営業方法について次のように述べています。

“気持ちの理解・共感があって初めて、お客様とのあいだに
 信頼関係が芽生え始めるんです。十分な時間を必要としますが、
 私が保険の提案に入るのはその段階を経てから。最初は、
 イエス・ノーの簡単な質問をし、信頼の度合いが上がってきてから
 難しい質問に切り替えていきます。”

あくまで顧客主導で話を進め、
決して加入を強要しないのが松岡さんなのです。


松岡さんのこの営業スタイルは、

「ロー・プレッシャー営業」

と呼ぶことができます。


「ロー・プレッシャー営業」とは、端的に説明すれば、

顧客ににじり寄り、購入に追い込むのではなく、
顧客自身に自由に買うか買わないかを自由に判断させること

です。

ちなみに、この対極にある営業スタイルは、

「ハイ・プレッシャー営業」

これは文字通り、あの手この手を弄して
見込客を「買う」という意思決定に追い込みます。

日本語では、

「押し売り」

と言えば理解が早いでしょうね。


さて、商品の選択肢が豊富にあり、
情報収集能力が高い現代の「賢い顧客」に対しては、
もはや、「ハイ・プレッシャー営業」は効果が薄く、
むしろ、一見弱腰に思える

「ロー・プレッシャー営業」

の方が効果が高いケースが多いと思われます。


「ロー・プレッシャー営業」においては、
2つの原則があります。

ひとつは「誠実でなければならない」こと。

購入を強要しないのは、
あくまで見せかけの誠実さや親切さであって、
結局のところ、「なんとかして買わせたい」
というセールスパーソンの

「下心」(本心)

がわかった瞬間、見込客は離れていきます。

ですから、なかなか実践は難しいことですが、
商品のメリットも弱点も率直に説明し、
見込客が本当に必要、また欲しいと感じなければ
購入してくれなくてもかまわない、という気持ちを
もって営業に臨むことがロー・プレッシャー営業の
成功の鍵を握っています。


そしてもうひとつの原則は、

「顧客が抱えている問題を解決する」

ということ。


そもそも、商品は、
買い手の何らかのニーズを充足するように
設計・開発されているはずです。

ニーズとは、たとえば保険の場合、

「事故や病気時の生活の不安をなくしたい」

といった問題として表現できます。

そこで、セールスパーソンは、
商品の特徴ではなく、顧客の抱える問題に焦点を当てる。
そして、その問題を商品がどのように解決するかを説明する。


これは、要するに商品の

「便益」(ベネフィット)

を語ることですが、この時、セールスパーソンは、
売り手ではなく、「買い手」の立場で考えることができています。

こうした顧客の立場に立つという基本的な姿勢が、
見込客をして自ら購入を判断してもらうために必要なのです。


そもそも、人は、相手に自分の考えや行動を
強引にコントロールされるのが嫌いです。

説得が強引であればあるほど反発したくなる。
(これを心理学では、「心理的リアクタンス」と呼びます)


ですから、実は「強い説得」よりも
「弱い説得」のほうが効果的。

「ロー・プレッシャー営業」は、
人間心理の点からも、実に理にかなったスタイルだと言えます。


(参考文献)

『サービスを超える瞬間 実例・実践編』
(高野昇著・監修、かんき出版)

「ロー・プレッシャー営業」
(Diamond ハーバード・ビジネス・レビュー October 2007)

投稿者 松尾 順 : 08:36 | コメント (0) | トラックバック

音声で届ける特売情報

実は、私は電話がかなり苦手です。

受けるにしろ、こちらからかけるにしろ、
相手の状況を無視して強引に割り込むような感覚が
あるからです。


また、ミーティング中などに携帯電話を取るのは、
通話中待たせてしまう相手の時間を奪うことになるので、
私は原則出ません。

しかも、電車などでの移動中の携帯通話はマナー違反ですから、
外出している間は、ほとんど電話に出られるタイミングが
ないんですよね。(したがって、いつも留守電にしてあります)


ですから、今日今すぐ電話で話せないと問題が起こる場合を
除いて極力、メールでのやりとりにしています。

以前から、私は電話ではなかなかつかまらないと
言われておりますが、こんな事情があります。

ご理解いただければありがたいです。


さて、事務所にしょっちゅうかかってくる売込みの電話。

おおむね投資の話ですが、
仕事が中断されるので、ほんと頭に来ます。

電話が苦手かどうかに関わらず、
誰にとってもセールスコールはいやなものでしょう。


ただ、ちょっと不思議なことがあります。


生身の営業マンが、

「このたび、このエリアの担当となりまして、
 ご挨拶に回っているんですが・・・」

などといった、説得力ゼロの切り出し方で
なんとかして面会の約束を取り付けようとするよりも、

電話を取ると自動音声が流れて単刀直入、

「御社の業務効率改善に役立つ○○に興味がおありでしょうか、
 もしご興味がある場合は1を押してください・・・」

といった内容の電話を受ける方がまだ気が楽だということです。


相手がコンピュータだとわかっていれば、
途中でさっさと切ることに心理的抵抗を感じませんし、
用件をすぐに切り出すので、こちらもあまり時間を取られずに
済むからでしょう。


ですから、企業が

「アウトバウンドコール(お客様へにかける営業電話)」

をやるのなら、対象商品によって向き不向きはありますが、
生身の人間じゃなくて、自動音声にしたほうが効果が
ある場合も多いんじゃないかと思います。


えーと、ようやく本題に入ります。
前ふりが長くてすいません。

今日ご紹介したい事例は、
ドラッグストアの特売情報を会員カードを保有している
既存ユーザーに自動音声の電話で伝えたというものです。
(アイティセレクト、2007.07.08)


「ハックドラッグ」「ハックエクスプレス」といった名称で
展開するドラッグストアを運営するCFSコーポレーションでは、

「Voice Reach」(プレミアグローバルサービス社)

という音声の一斉配信を行うASPサービスを利用し、
「ハックドラッグ」会員に対して、特売情報をあらかじめ
録音された音声データで伝えることにしました。

ただし、いかに販促の対象者が「既存ユーザー」とは言え、
突然自宅や携帯に電話をかけ、音声データを流すという
販促方法に対する会員の反応が当初読めなかったため、
まずは限定された店舗でテストをやることにしたのです。


テストは06年の8月、10月、12月の3回にわたって行われ、
最初は1万人程度で試し、その後2万人へと対象者を増やして
いきました。

その結果は、音声配信をした顧客は、しない顧客よりも、

3%-8%

多く来店することが分かりました。
このコンバージョン率はなかなか悪くない数字ですね。

費用対効果がどうだったのかが気になります。
(記事には記載なし)


また、懸念された苦情はわずかだったようです。

ただし、表立っての苦情は少なかったかも知れませんが、
不快感を持った客はいたでしょうし、別途顧客の反応について
調べたほうがいいと感じました。


日本では、自動音声によるアウトバンドコールは
米国ほどには普及していません。

しかし、意外に、受ける側の抵抗感が少ないことが
上記事例からもうかがえますので、今後伸びる可能性が高いと
思います。

投稿者 松尾 順 : 12:03 | コメント (0) | トラックバック

売るのか、売れるのか

「デジタル化」の進展、それは、

何事も「数字」で把握する傾向

が強まることです。


確かに、「数字」という客観的な尺度で物事を見ることは、
企業運営を円滑に行う上で必要なことではあります。


しかし、この傾向が行き過ぎると

「数字至上主義」

になる危険性をはらんでますよね。


たとえば、伊勢丹の入社3-5年の若手バイヤーは、
売れ筋の品番を即座に、そらで言えます。
(日経MJ、2007/06/18)

品番はたぶん10桁とかの数字ですよね。
すごい記憶力。


ところが、店頭にいる時に、

「売れている商品はどれか」

と聞いても、バイヤーたちは商品自体は見ずに、
商品に付けられているタグの品番を探すんだそうです。

個々の商品の色や形ではなく、
数字でしか商品を識別できないわけです。


こうした傾向は、10年選手のバイヤーにもあるそうです。

1ヶ月に1枚も売れない衣料品のデータを見て、

「メーカーに返品していいですか」

と上司に聞きに来る。


上司は、「ちょっと待て」と言って、
この道30年のベテラン販売員を集めて、

「売れるものと売れないものを分けてくれ」

と頼む。すると、

「これはダメだけど、これはもっと前に出せば売れますよ」

などと分類してくれる。


そして、言われたように陳列をいじると、
1ヶ月に1枚も売れていなかった商品がいきなり

「ベストセラー」

に様変わりしたりすることがあるそうです。


単に、結果の数字だけを見て「売れない」と
短絡的に判断するのは必ずしも正しくない。

こちらに「売る気」があれば、
売れ始めることがあるということを忘れちゃいけません。


つまり、商品販売については、

・売るのか(積極的に・・・)
・売れるのか(商品力で黙ってても・・・)

の両側面があるわけですが、
どちらか一方ではなく、バランスが大事ですよね。


最後にもうひとつ、積極的に「売る」ことで成功した事例。
(Works 82号、2007/06/07)


京成成田駅徒歩数分のスーパー、「ヤオコー成田駅前店」

同スーパーで、調味料、お菓子、日用雑貨などを扱う
グロッサリー部門の責任者は、下澤洋子さん。

下澤さんは、ヤオコー92店のグロッサリー部門で
利益率トップの“スーパーパート社員”です。


さて、下澤さんが「売ろう」としたのは、長野県産のみそ。
1キロの定価が900円超。ずいぶん高いですね。

月1度の特売日は3割引になるものの、
同店の売れ筋みそは、200-300円程度でしたので、
特売日でさえ、価格差は2倍もあります。

したがって、このみそは、
特売日でも1日2個売れればいいほうでした。
(つまり、普段はほとんど動いていなかったということです)


このみそを売るため、下澤さんは、
まず味を知ってもらおうと、試食部門と組んで、

「みそをつけたきゅうり」

の試食を1年にわたり出し続けました。


もちろん、だからといってそう簡単には売れません。

試食部門の人からは、

「そろそろ他の商品をお客様に薦めたらどうか」

と言われたそうです。

しかし、下澤さんは譲らなかったのです。


また、陳列棚の端のエンド部分、
よく特売で商品が山積みにされているスペースにも、
このみそを置いて粘り強くアピールを続けました。

結局、下澤さんは、2年にわたってこのみそを
「売る」ことに賭けた結果、今では

1日80個

を売るヒット商品になっています。


商品や販売現場をろくに知らないまま、
数字だけを見つめ、しかも、短期的な結果を重視することで
失われてしまうチャンスがあるかもしれない。

この事例はそんなことを教えてくれます。

投稿者 松尾 順 : 10:50 | コメント (2) | トラックバック

新幹線ガール

あなたが、

「新幹線のパーサー」

として働いているとします。
パーサーの主な仕事は、車内でのワゴン販売です。


さて、いつものように商品を満載したワゴンを押していると
客さんから次のように聞かれました。


“玄米茶か麦茶はありますか。緑茶だけはだめなんです。”


しかし、玄米茶や麦茶は扱っていません。
どうお答えになりますか?


“すいません、緑茶しかお売りしていないんですよ”


と断るのは簡単ですが、これはロボットでもできる返事。


“緑茶だけはだめ”

という言葉の裏にあるお客様のニーズを想像(洞察)できるのが
人間ならではの能力です。(情報の深い解釈という意味では、
(昨日のインテリジェンスに通じるものがありますね!)


さて、平均の3倍を売り上げる東海道新幹線のパーサー、
新幹線ガールこと徳渕真利子さんは、

「緑茶にはカフェインが含まれている」

という知識を元に、このお客さんは、

「カフェインを取りたくないのではないか」

という予測(仮説)を立てました。そして、

「ミネラル・ウォーターならありますがいかがですか?」

という提案をしたそうです。


パーサーの仕事はアルバイトから始めた徳渕さん。
(現在は正社員)

いくら販売成績がよくても時給が上がるわけではありません
でしたが、パーサーのプロとしての矜持を持ち、努力を
欠かしませんでした。

その結果、まだ20歳そこそこで販売の本質を体得し、
高い成果につなげています。


そもそも、

「多く売ろう」

と心がけたわけではないと徳渕さんは言います。

乗客が快適に過ごせることを願い、
最大限、顧客の要望に応えることができるように、
努力しただけのようですね。


新幹線ガール(徳渕真利子著、メディアファクトリー)

には、徳渕さんが体得した接客のコツがいくつか公開されています。


・アイコンタクトを絶対する

 たとえ一期一会であっても、乗客ときちんとコミュニケーションを
 取ろうと心がけているそうです。
 
 徳渕さんは、

 「コミュニケーションが多いほど、
  お客さんはより多く買ってくれるようだ」
 
 というCRMの基本法則を既に気づいています。


・もう一品お勧めする

 いわゆる「クロスセル」(関連販売)を行うことで、
 客単価を高めているわけです。
 
 私が新幹線に乗った時のことを思い出してみると、
 クロスセルしてくるパーサーはほとんどいませんよね。
 ただ、乗客の注文した商品を渡すだけです。

 お客さんにクロスセルするためには、
 それが「販売実績をあげたいから」といった印象を与えないように、
 お客さんが納得できる適切なお勧めをする必要があります。

 徳渕さんは、そのあたりきちんと考えているということでしょう。


・お客様が出されている「買いますよ」のサインを見逃さない

 次の車両に入った時、チャリチャリと小銭を探す音がしたら、
 そのお客様を探します。男性客は小銭をポケットなどに直に
 入れていることが多いので、何か買うために小銭を出そうと
 すると音が聞こえるからですね。


・乗客の背面からワゴン販売を行う場合は、
 正面から進む場合よりもゆっくり進む。

 背面からだと、パーサーが通っていることに乗客が
 気づきにくいから。 ですから、意識的にワゴンを押す
 スピードを落とします。
 (実際、正面からと、背面からのワゴン販売では、
  売り上げが1.5倍も違うそうです)

・お客様の立場で考える

 これは、要するにお客様のニーズを読むということです。
 冒頭の緑茶はダメという言葉から、カフェインが入っていない
 飲料が欲しいという、言葉の裏にある欲求を想像すること。


こうした接客のコツ、知ってみればなんでもないことですが、
大事なことは、ちゃんと

「実行できるかどうか」

なんですよね。


なお、徳渕さんは、働き始めたばかりのころは、
乗車した新幹線で何が売れたのかをメモに記録していたそうです。
(ベテランになると、自然に頭に入るのでメモしなくても
 よくなるそうですが。)

徳渕さんは、次回乗車の際には、
このメモに基づいてワゴンに搭載する商品の種類、個数を
決めていたのです。

投稿者 松尾 順 : 09:25 | コメント (2) | トラックバック

提案、提案、提案!

来る4月27日にグランドオープンする「新丸の内ビルディング」、
通称「新丸ビル」に入居している飲食店のビールは、
キリンビールが独占しているんだそうですね。

新丸ビルのオーナーは三菱地所、そしてキリンも三菱グループ。
ですからそもそも有利な戦いではありましたが。


しかし、キリンは近年、小学生だってできる値引き主体の

「価格型営業」

から、飲食店の収益増につながる価値ある提案を行う

「価値型営業」

への転換を図ってきました。


ですから、キリンの営業さんは、このところ
「提案、提案、提案」としつこく言われるそうです。

新丸ビルの成果も、そうした価値型営業が認められた側面も
大きいんじゃないでしょうか。


なお、キリンの場合、価格型営業から価値型営業に切り替えて、
相応の成果が見え始めるまでに3年くらいかかったそうです。


当初、価格型営業をやめる、つまり値引きをしなくなるだけでは、
ライバルにどんどん負けてしまう。

結果として売り上げがどんどん下がっていくのですが、
このつらい時期をぐっとこらえ、価値型営業への転換に
成功したのは、トップのゆるがない信念のおかげでしょう。


ついでながら、2002年にグランドオープンした、
新しい「丸ビル」(新・丸ビルと呼ぶ人がいました)と、
今回の「新丸ビル」は、道路をはさんで向かい合う別々のビル。

旧・新丸ビルが建て替えに入る前、この2つのビルを
ごっちゃにする人が多かったそうです。

しかし、今回、「新・新丸ビル」のオープンで、
「新・丸ビル」と、「新・新丸ビル」を再び混同する人が
増えそうですね。


こうして書いてるだけでも混乱してきました・・・

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (1) | トラックバック

「販売促進」じゃなくて「購買促進」

なんでもネットで買える(売れる)時代とはいえ、
やはり高額商品、特に「住宅」は現物を見ないことには
検討ができないですよね。


でも、住宅の場合、分譲マンションであれ、戸建てであれ、
モデルルームや住宅展示場に行くのは結構気が重い・・・
(車のディーラーもまあ一緒か・・・)


そういうところに行くと、まず担当の人が出てきて、
たいていアンケートを書かされます。

そして、連絡先を書いてしまうと、
早速営業担当者から電話攻勢です。

こちらは、まだ「情報収集段階」でじっくり比較検討したいのに
営業担当者は無理やり「購買決定段階」に連れて行こうと
しますから、いやな気分になるものです。


まあ、以前よりもこうした強引な営業は減ったのは確かです。
(私も、イベント・アトラクションに釣られて、今でもたまに
 住宅展示場のフェアなどに行きます)


でも、モデルルームや住宅展示場は、
基本的に見込客情報を獲得できる貴重な場所です。

アンケートにはできるだけ応えさせたいと、
売り手は考えるのが普通です。


ところが、モデルルームでのアンケートを止めてしまった
マンション販売会社があります。(PRESIDENT、2007.3.5)

大阪市の「ピルプワーク」では、
親会社の不動産デベロッパー、日本レイトの開発物件だけでなく、
大京、オリックス・エステートなど他社物件の販売も
請け負っています。


同社が擁する「営業スタッフ」は70余名。女性が中心です。

同社取り扱いの某物件の場合、昨年8月の夏枯れの時期に
5名の営業スタッフで25件を成約させたそうですから、
なかなかのものですね。


さて、ピルプワークの販売における考え方は、
従来のマンションを売ろうとする

「販売促進」

ではなく、

客のほうからマンションを欲しいと思わせる

「購買促進」

です。


「販売促進」は売り手の立場で客にアプローチしますから、
客の方は「売りつけられた感」「買わされる恐怖感」がある。

これが、モデルルームに行くのをついためらってしまう
ことにつながるわけですね。


一方、購買促進はあくまで、客に‘自発的’に「欲しい」
と思わせる活動です。

客の自発性を尊重しますから、「売りつけられた感」
「買わされる恐怖」が生じない。

ですから、同社の販売する物件のモデルルームでは、
名前や住所を書かせるアンケートを行っていません。


また、客の対応をする営業担当者も、あくまで

「家の購入の相談に乗って欲しい」

と客に思わせる雰囲気づくりを心がけ、
客の方から連絡先を知らせたいと言われて初めて
住所などを聞くそうです。


まずなによりも、顧客との心理的距離感を縮めて、
信頼関係を作ることを優先するのが同社のやり方。

しかも、客が希望する間取りやライフスタイルなどを聞く時も、
物件のPRは積極的に行わない。

「買いたいという気持ちが強いお客様ほど、ご自身で
 住宅情報誌やインターネットを通じて物件研究を重ねて
 いらっしゃいます」(同社社長、石田明美氏)


今は、へたをすると客の方が詳しい。
べらべらと一方的に物件のPRをしたらかえって迷惑ですし、
営業スタッフの力量が見破られてしまうかもしれませんよね。

だから、客から尋ねられるまで、
同社営業スタッフは物件のアピールはしないのです。


また、モデルルームでの接客は、
テーマパークのアトラクションのように、
客に実際に体験してもらうことを重視しています。

お風呂なら浴槽の中にスタッフが入って見せたり、
お客さんに入ってもらって広さを実感してもらう。


ある一定以上のマンションになると、
床暖房、セキュリティーシステムなどのハード的設備は
実際とのところ大差ありません。

そこで、同社では、実体験させることによって
販売物件に「情緒的・感覚的価値」を付加しようと
してるんでしょう。


あえて積極的に売らない、買わせようとしないという
販売スタイルは、化粧品業界でも増えつつありますよね。

また、今回の事例は、金型の通信販売で成功した商社、
「ミスミ」の「販売代理」ではなく「購買代理」の思想
とも共通するものを感じました。

投稿者 松尾 順 : 09:12 | コメント (0) | トラックバック

カリスマ車内販売員の言葉のマジック

新幹線の車内販売のカリスマ、斉藤泉さんの話、
聞いたことありますか?

斉藤さんは、最近よくメディアに登場されているので、
ご存知の方も多いんじゃないかと思います。


私も、以前こんな話を書きました。

「背中に刺さる弁当欲しい視線」


斉藤さんは、JR山形新幹線「つばさ」の92年開業時から
乗車しているベテラン。

さすが、車内販売歴14年のカリスマだけあって、
お客さんの「気」を背中で感じることができるんですね。

しかも、買おうかどうしようかと迷っているお客さんを
「目」(視線)で落とすことさえできる。すごい!


さて、今回は続編。(笑)
斉藤さんが経験からつかんだ言葉のマジックについて。
(サービスの花道[セオリー]、講談社から)


斉藤さんは、商品を販売する時、
ちょっとしたひとことを付け加えます。

「つばさ限定です」

「全国駅弁コンクールで優勝しました」

など。

こうすることで、食べる前の客の期待感を高める。
赤福で言う「先味」を実践しているわけです。


また、こうしたひとことが周囲のお客さんの関心も引き、

「私もください!」

ということになります。


300円のホットコーヒーを販売する時も、

「淹れたてです」

と微笑みながらお客さんにカップを渡す。

この言葉がコーヒーをよりおいしく感じさせ、
お客さんの満足を高め、やや割高なコーヒーを
高いと思わせなくしています。


斉藤さんは、販売する側としては

「当たり前のこと」「わかりきったこと」

だけど、お客さんには

「言わなければなかなか伝わらないこと」

をちゃんと言葉に出すことで、
購買意欲を高めている。


私は、

「言葉のマジック」

なんて、オオゲサに表現してはいますが、実は、
斉藤さんはとてもシンプルなことをやっているだけ
なんですね。


でも、大事なことは、こうした「ちょっとしたひとこと」が
効くということを把握していること、そして実践することです。


余談ですが、斉藤さんは、乗車する車両の客層や当日の気候、
運行時間帯などを踏まえて何が売れるかを予測し、
ワゴンに乗せる商品内容や個数を決めます。

そして、目的地に到着した時、
売れ残ったり、足りなくなることなく、予測どおり
ぴったり売り切ると

「大きな達成感を感じます。」

と別のところで読んだ覚えがあります。


「勝負師」の気質を感じさせますね。

投稿者 松尾 順 : 09:19 | コメント (0) | トラックバック

40万円の化粧品を売る方法

以前、カネボウ化粧品が、40万円の化粧品(コンパクトと口紅)
を発売したことがありました。

漆塗りの贅をつくしたパッケージだったそうです。


中味も相応の品質のものだったんでしょうけれど、

「こんな高い化粧品、誰が買うんじゃい!」

と、さすがのスーパーカリスマ販売員、
長谷川桂子氏も思ったそうです。


ともあれ、長谷川氏は、まず地元の高額納税者番付リストを入手。
つまり、地元のお金持ちリストですね。

そして、トップの人から順番に回りました。
しかしまったく売れません・・・


長谷川氏は、40万円の化粧品と向かい合い対話をしたそうです。
(長谷川氏は、よくこうして商品と会話するそうです)

「あなたは、どうやって売って欲しいの?」

よく見ると、この化粧品の漆塗りのパッケージには、
平安絵巻が描かれていました。

そこで、長谷川氏はそれから4日間、図書館にこもり、
「漆」と「平安物語」の勉強をしました。


以来、セールストークの中では、漆のすばらしさを
伝えつつ、見込客を平安の世界へと誘ったのです。

その結果、単価40万円のこの化粧品を
周囲が驚くほど売りまくったそうです。


化粧品は、
コンビニで買える1000円前後の商品も、
丁寧なカウンセリングを受ける百貨店の高級ブランドも、

その実質的な「利用価値」は大差ないですよね・・・

両者の価格差が、仮に10倍あったからといって、
高級ブランドを使えば、コンビニブランドより
10倍きれいになれるということではないでしょう。(笑)


つまり、両者の価格差はデザインやサービスなどの
付加価値部分と、それをきちんと伝えた結果としての
「ブランドイメージ」の差です。

したがって、

「ブランドイメージ」

は、別の見方をすれば、
さまざまなコミュニケーションを通じて形成された

「情報価値」

であると言うことができます。


長谷川氏も、このことがわかっていたから、
40万円の化粧品の持つストーリー性(平安物語)を見込客に
訴求することによって「情報価値」を高め、
販売することに成功したわけです。

カネボウでは、昨年「12万6千円」の口紅を発売してますが、
この商品も、長谷川桂子氏率いる、岡山・新見の「安達太陽堂」
ではガンガン売りまくっているそうです。


機能、性能、品質において差別化の困難な今、
ブランディングやコミュニケーションの重要性を
再認識されられますね。

投稿者 松尾 順 : 10:57 | コメント (0) | トラックバック

世界ナンバーワン営業マンの極意

ギネスブックに

「世界一の営業マン」

として認定されているジョー・ジラート氏は、
15年間に13,001台の自動車を販売。

1973年には年1425台を売り、
1カ月で最高174台の販売記録を残しています。
(いまだこの記録は破られていません)


これほどの営業成績をあげられた秘訣を知りたいですよね?

営業に対するステレオタイプ(固定観念)で考えると、

相当押しが強かったんだろう

とか、

完璧なセールストークを身に着けていたんだろう

とかと思っちゃいますよね。


実際、トークのうまさや、
それなりに押しの強さというものを持っていたんだとは思います。


しかし、ジラート氏自身が語る営業の秘訣は、

「アフターサービスには骨身を惜しみませんでした。
 もう一台を売る暇があれば、アフターサービスに徹しました」

ということなのです。
(Diamond Harvard Business Review 2006 October)


その結果、営業マンになってから2、3年もすると
ジラート氏に会いたいという客が押し寄せ、予約制にしたほど。

つまり、客の方が、売り手のジラート氏の都合に合わせなければ
いけないということです。

売り手と買い手の力関係が完全に逆転してますよね。それでも
多くの客がジラート氏から車を買うことを望んだわけです。


なぜでしょうか?

ジラート氏が客に与えていた最大の価値は、
購入後の「利用価値」でした。

車が故障してジラート氏の店に来れば迅速に対応してくれる。
ジラート氏によれば、
25分以内に修理を完了するようにしていたそうです。


消費者にとっては、車を買うことが最大の目的ではなく、
快適に乗り続けられることがより重要ですよね。

しょっちゅう故障したり、故障したらなかなか修理が終わらずに
いつまでも乗れないという状態が一番困るわけです。

ジラート氏が自動車営業をやっていた頃は、今と違って
まだ自動車の故障も多かったでしょうし。


でも、売って終わりじゃないジラート氏なら、安心。
しかも、部品代をしばしば請求しませんでした。

「お金は結構ですよ。私はお客様のことが大好きなんです。
 またいらしてください」


こんな対応されたらどうです?
他の営業マンから買おうなんて絶対考えませんよね。

ジラート氏こそ、CRMの真髄、
わかりやすく言えば、

「釣った魚にえさを十分あげる」

ことでの「リターンの大きさ」を理解していた人でした。


ジラート氏は、顧客に毎月はがきを送って、

「いつもあなたのことを思っていますよ」

という気持ちを継続的に伝えていたことも有名です。


さて、世界ナンバーワン営業が言うんですから、

「アフターサービス」

こそが営業の極意であることは間違いないですよね。


ところが、今でも相変わらず常に新規顧客を追い続け、
既存客をないがしろにする

「自転車操業的営業スタイル」

で自らの首を絞めている営業マンが多いですね。
(ちょっと前にも指摘したばかりですが)


これは、営業マン本人の意識改革だけでなく、
会社としての営業方針や報酬制度の見直しも必要なんだろう
と思います。

また、アフターサービスを営業マン個々人に任せすぎると、
どうしてもムラが出ます。

したがって、会社全体の取り組みとして、
高いレベルのアフターサービスを安定的に提供できる
仕組みの構築が求められるわけです。

投稿者 松尾 順 : 09:27 | コメント (3) | トラックバック

背中に刺さる弁当欲しい視線

このところ出張続きで、新幹線によく乗りました。

以前の編集後記にも書きましたが、新幹線の最大の楽しみは
仕事が終わってほっとした車内で、ビールや弁当を食べること。
ですから、車内販売が早くこないかと心待ちにしているんです。

しかし、先日の京都からの帰りの車内販売の人はすごかった。
なにせ、つむじ風を巻き起こしつつ、足早に過ぎ去っていくので、
頼もうと思ったらもう視線から消えています。

「おねえちゃん、ちょっと!」

などと衆人環境で声を出すのは恥ずかしいですし、
次に回ってきた時でいいか、とか思ってしまいました。

この車内販売の人、まだ新人さんなのか、販売センスがないのか、
どちらにせよ販売機会をずいぶん失ってますよね。

でも、何事もプロになると全然違うんです。
まさに乗客との心理戦に勝負をかけています。気合が違う。

結構前の日経夕刊に取り上げられていたんですが、
社内販売のプロ、斉藤泉さん(31歳)の場合、
JR山形線の東京⇔新庄の往復約7時間で、30万円以上の売上げ。

24時間営業のコンビニの日商が、だいたい40-60万ですから、
この売上げが半端じゃないことがおわかりになると思います。

斉藤さんは、最初の一往復で乗客400人の視線に注意します。

少しでも斉藤さんの方を向けば、車内販売に関心があり、
購買意欲も高いと思われる「見込み客」と判別。

次に通りかかったときに、斉藤さんの方から、

「お飲み物はいかがですか」

とお勧めします。

これで王手、だいたい売れてしまう。
さらに、注文するかどうか迷っているお客さんには、
斉藤さんの視線で‘落とす’そうです。

なんだかすごいですね。

最近では、後ろにいるお客さんの、「弁当欲しい視線」が
背中に刺さるそうです。

どんな分野もプロの境地にまで達すると、五感の世界の勝負に
なってきますが、斉藤さんも、まさに「車内販売の神様」と
言えるところまできてますよね。

投稿者 松尾 順 : 12:47 | コメント (0) | トラックバック

心読みます

10月5日から始まった、日経新聞夕刊1面の連載記事のタイトルは「心読みます」となってます。

おおっ、これは、まさに「マインドリーディング」です。
まったくの偶然ですが、「商いの本質は相手の心を読むことにある」ということに世間の関心が集まりつつあることを意味してるんじゃないでしょうか。

マインドリーディング力、つまり心を読む力は、端的に言えば「共感力」です。相手と同じ感覚になれるかどうか、ということですね。

また、「ああ、その気持ちわかるよ」と思えるかどうか。

そして、大ヒット商品やサービスを生み出し、一代で財を成したようなカリスマ創業者が最も優れている点は、おそらく「共感力」です。その時代の大衆感覚を自然に共感できてしまう力があったから、消費者の心をつかむことができた。もちろん、事業を大きくしていくためには、決断力、構想力といった能力も必要だったのでしょうけど。逆に、必ずしも頭(理知的な)の良さや学歴は、あまり役に立たない。共感力は文字通り感性であって、理性ではないからです。

経営コンサルタントの泉田豊彦さんも、「ビジネスで成功した人は大衆と同じ波長の人が多い」とおっしゃってますが、特に飲食、小売店業界のカリスマリーダーに多いですね。ダイエー創業者の故中内功氏などは、「主婦の店ダイエー」というキャッチフレーズでわかるように、主婦の感覚を共感できたから小売業トップの座を射止めたわけです。

問題は、いかにカリスマであろうとも、年を重ねるとだんだんと共感力が衰えてくることでしょう。自分の感覚と時代がずれてしまっていることを直視できず、暴走してしまうのです。ダイエーの現状もそうなりました。(ただ、庶民感覚の持ち主の新たなリーダー、特にCEOの林文子さん)の登場によって再生する可能性が多いにあると思います。)

あるいは人によっては偉くなったことで現場を離れてしまい、現場で起きていることを自分の五感で体験しなくなる、その結果、自分では気づかないうちに共感力を失ってしまうこともありますね。

つい先日聞いた話ですが、ある大手家電メーカーの創業から参画し、役員まで上りつめて退職した方が、その後、一企業に入社しました。彼は非常に優れた人格者でして、本人が言うには、「私は30代から、おつきの運転手で送迎されるような毎日を送ってきたので、普通の生活が良くわからないのです、だから、リハビリが必要なんです。」ということで、一般社員と机を並べ、電車通勤を始めることにしたのです。しかし、隣に座った社員が驚いたことには、「電車の切符はどうやって買うんですか」と聞かれたこと。

この電機メーカーは若者向けの製品も出してますが、こうした庶民感覚からかけ離れた生活を送っている役員たちによって、新製品開発の是非が判断されているという現実を考えると、「なんだかなー」と思いますね。

投稿者 松尾 順 : 09:20 | コメント (0) | トラックバック