シンプルマーケティング(20)U&E
シンプルマーケティングのレビュー最終回です。
私が敬愛してやまないマーケティング・コンサルタント、
森行生さんの著書を20回にわたってご紹介してきました。
ロングランではありましたが、
「レーダー理論」
「購入基準ヒエラルキー」
など、ご紹介していない面白い理論や視点がまだ
いろいろと残っています。
元本はとてもわかりやすく書かれていますので、
まだ読んだことのない方は、ぜひお読みください。
ところで、「シンプルマーケティング」と
他のマーケ本・教科書との違いがおわかりになりますか?
これまでの内容を振り返ればおわかりになると思いますが、
「シンプルマーケティング」には、
・4P(Product, Price, Promotion, Place)や、
・STP(Segmenting, Targeting, Positioning)
・SWOT(Strength, Weakness, Opportunity, Threat)分析
など、定番の話がまったくと言っていいほど出てきません。
つまり、オリジナリティにあふれているわけです。
私が、同書を高く評価している最大の理由はこの点ですし、
また、マインドリーディングのブログ&メルマガで念入りに
ご紹介してきた理由でもあります。
では、最後の話に入りましょう。
標準的なマーケティングの教科書には、
なぜだかあまり登場しない言葉(専門語)に、
「U&E」
というのがあります。
実務(特に外資系企業)ではよく使われるんですけどね。
「U&E」は、
‘Usage & Establishment’
の略称、日本語に訳せば「使用実態」となります。
「U&E」はさまざまな指標によって構成されていますが、
森さんによれば、次の3つが最も重要だそうです。
・知名度
・トライアル
・レギュラー
「知名度」は、特定商品(ブランド)を知っているユーザー
の割合、「トライアル」は、一定期間に1回でも当該商品を
購入したユーザー(いわゆる「初回購入客」)の割合、
「レギュラー」は、2回以上当該商品を購入したユーザー
(いわゆる「固定客」)の割合です。
本ではグラフが示されているのですが、
広告・販売促進などマーケティング投資を増やしていくと、
言うまでもなく、「知名度」「トライアル」「レギュラー」の
割合は増加していきます。
消費者の購買行動としては、
「知名度」→「トライアル」→「レギュラー」
とハードルが高くなっていきますから、
ユーザーの割合も、知名度が最も高く、
トライアル、レギュラーと低下していきますよね。
ここで注意すべきなのは、
知名度はある一定の割合で、
ほぼ横ばい(高原状態)になってしまうことです。
そして、これ以上はいくらマーケティング投資をしても、
知名度の上昇率は極めて小さいため、投資効率が悪化します。
したがって、知名度が高原状態になる地点まできたら、
知名度を高めることを目的とするマーケティングはセーブして、
トライアルやレギュラーの割合を上昇させることに注力すべき
であるわけです。
森さんは、単に「知名度」が上がった、下がったと
一喜一憂するだけでなく、
マーケティング投資の重要な目安として「知名度」を
活用すべきだと指摘しています。
ちなみに、一般的な傾向としては、
知名度が40%を超えると、上昇カーブがいきなり急勾配となり、
60%を超えるとカーブが緩やかになって停滞し始めるため、
このあたりでムダな投資はセーブする必要があります。
なお、業種によるバラツキはあるものの、
低価格の商品なら、平均的には、知名度が60%になると、
トライアルは17%程度になるそうです。
さて、上記3つの指標から、
さらに次の2つの指標を導くことができます。
・コンバージョンレート
・リテンションレート
「コンバージョンレート」は、
「商品の名前は知っていて、購入したことがある人たち」
の割合ですね。
また、「リテンションレート」は、
「商品を一回は買って、レギュラーユーザーになった人たち」
の割合です。
これらの指標は、問題点や課題の抽出や改善策の立案・評価に
役立てることができます。
例えば、「コンバージョンレート」が業界平均よりも
低かったとします。商品名は知られているのに、トライアルする人が
少ないという状況です。
この場合、問題点としては次のようなことが
挙げられますね。
・店に商品が置いていない(流通に問題あり)
・購買意欲を刺激しないメッセージ(広告に問題あり)
こうした仮説に基づいてマネジメントサイクル(Plan-Do-Check)
を回すことで、コンバージョンレートを向上させるというわけです。
では、「リテンションレート」が低い場合の問題としては、
どんな仮説が立てられるでしょうか?
1回は買ったことはあるけど、2回以上買っている人、
つまり、固定客になる人が少ないという状況です。
食品であれば、「味がよくない」という可能性がありますね。
広告ではおいしそうに思えたので買っては見たものの、
実のところまずくて、「二度と食べたくない」と思う人が
多かったのかも知れません・・・
森さんは、
“「U&E」は、いわば戦略の羅針盤であり、
マーケティングの中枢をなす要素のひとつだ”
と述べています。
「U&E」のさまざまな指標を算出するのは、
とても地道な作業です。
しかし、こうした過程を飛ばして、
最初から商品のコンセプトをいじろうとするのは間違いです。
本当の問題は、別のところにあるかも知れないからです。
「大局から見て綿密な調査を重ね、少しずつ核心を絞り込む」
この方法論が、マーケティングの基本中の基本である。
森さんのこの主張に全面的に賛成します。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 11:18 | コメント (0) | トラックバック
シンプルマーケティング(19)DCCM理論
シンプルマーケティングでは、
「プロダクトコーン理論」
と並ぶ、重要なオリジナルの理論として、
「DCCM理論」
があります。
DCCMとは、コミュニケーションを効率的、効果的に
行うために必要な要素の総称です。
具体的には次のとおり。
D:Differenciating =差別性
C:Competitive =優位性
C:Convincing =説得性
M:Marketability =市場性
DCCM理論は、
商品コンセプト開発や広告メッセージ
を開発するにあたって考慮しなければならない
「基本価値基準」
だと、森さんは述べています。
では、上記で示したDCCMのそれぞれの要素について
簡単にご説明しましょう。
●D:Differenciating =差別性
生活者が自社商品に注目してくれるためには、
まず、他製品との「違い」、すなわち「差別性」が重要。
「差別性」がなければ、膨大な商品に埋没してしまい、
そもそも注意さえ引くことができないのが現状ですよね。
なぜなら、社会心理学者のミルグラムが言うように、
商品や広告がはんらんする現代消費社会において、
生活者は固有の情報(特定ブランドの情報)を収集する時間を
できる限り短縮しようとし、そのため重要でないと思われる
情報は、極力無視する傾向があるからです。
なお、「差別性」とは、他製品との純粋な違いであって、
良し悪しや、好き嫌いといった判断は含まれていない点
ご注意ください。
良し悪し、好き嫌いに関係するのは、
次に紹介する「優位性」です。
●C:Competitive =優位性
生活者をまず振り向かせるには、「差別性」がまず必要とは
言え、それだけで終わる商品は「キワモノ」です。
息の長い、売れ続ける商品を生み出すためには、
優れた機能、性能、品質、あるいは利便性、手に入れやすさ、
ステータスシンボル性など、「優位性」を備えていなければ
なりません。
●C:Convincing =説得性
生活者を購買行動に向かわせるためには、
「説得力」
を高める必要があるということです。
私なりに解釈すれば
「買うべき理由」
を適切に示すということでしょうか。
説得力は、まず、商品の素材や製法高めることができます。
たとえば、「カシミヤ100%」と言われれば、
それが真実であると信頼できる限りは、説得力ありますよね。
デザインも、説得性を高める要素になりえます。
優れたデザインは、それだけで高い価格設定が可能に
なったりしますよね。
また、すでに確立されたブランドは、
そのブランドが冠されているだけで「買うべき理由が明確」です。
すなわち「説得性」が高い。
だからこそ、「ブランド」には高い価値があるわけです。
さらに、「説得性」を別の視点で高める例として、
シンプルマーケティングでは、
「片面提示」「両面提示」
が紹介されています。
「片面提示」とは、商品のプラス面だけを伝えること。
「両面提示」は、商品のプラス面と同時に、マイナス面も
伝えることです。
「片面提示」は、比較的低学歴で他人に判断を依存する傾向が
ある人に効果的だと言われています。
一方、「両面提示」は、高学歴で自立心の高いタイプに効果が
あります。
ただ、現代の生活者の大半は、ネットの普及もあって
情報をしっかり集め、じっくり検討する購買行動を取るように
なってきてますから、自社の都合のいいことだけしか言わない
「片面提示」は、説得力が低く、また信頼を損ないかねない
やり方だと言えます。
基本は、良いことも悪いことも正直にありのままに伝えることで
かえって「説得性」が高まると考えるべきでしょうね。
●M:Marketability =市場性
「差別性」「優位性」「説得性」は、
商品や広告のメッセージが個人に効率的に到達するように
編み出された手法です。
しかし、商品も広告も同一のメッセージで大量の生活者に
訴求しなければならない以上、ターゲットとなる生活者が
十分な数存在しているかをチェックする必要があります。
すなわち「市場性」を見極めるということです。
どんなに「差別性」「優位性」「説得性」を兼ね備えた
すばらしい商品であっても、ユーザーがごく一握りに限定されて
しまうようなものなら、継続的な売り上げ確保ができない
ですからね。
このDCCM理論は、
企業や商品のチェック(評価)に応用できますし、
プロダクトコーン理論やプロダクトライフサイクルと
組み合わせながら、効果的なマーケティング戦略の立案に
活用できるツールです。
詳細はぜひ、シンプルマーケティングで!(^_^)
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 11:32 | コメント (0) | トラックバック
シンプルマーケティング(18)始めちょろちょろ、なかぱっぱ
シンプルマーケティングのレビューは、
今回も含めてあと3回で終了の予定です。
当初全10回の予定でしたが、思わずはまってしまいました。
結局倍の全20回シリーズとなりました。長引かせてすいません!
ひょっとして、本は買わなくてもいいんじゃないかと
感じてらっしゃるかもしれませんが、そんなことありませんよ。
肝心なことはあえて、隠してあります。(^^ゞ
ぜひ、元本「シンプルマーケティング」を読みましょう。
では本論。
まずは、前回ご紹介した2つの「売り方」の戦略、
・スキミング戦略
・ペネトレーション戦略
の簡単な復習です。
スキミング戦略は上澄みのイノベータに訴え、
次にアーリアダプタへ浸透させ、最後にターゲットにシフトする
アプローチ。
一方、ペネトレーション戦略は、
最初から、多数派のフォロワーを狙っていく売り方でした。
ペネトレーション戦略は莫大な資金力を必要とするため、
限られたごく一部の企業にしか採用できないアプローチです。
実質的には、各カテゴリーのトップ企業だけに許された戦略と
言えます。
しかし、森さんによれば、
日本の上場企業の大半はペネトレーション戦略を行っています。
トップ企業に太刀打ちできる流通力、資金がないのに
無理な物量戦略を推し進め、結果として低迷している企業が
実に多くなっています。
森さんはこうした企業を「ミニ大企業」と呼んでいます。
「ミニ大企業」の問題は、長期的な戦略にのっとって
ペネトレーション戦略を実施しているわけではない点です。
ただ単に「他社がやっているから遅れてはまずい」と
いたちごっこを繰り返した結果、
たまたま擬似ペネトレーション戦略になっている企業が大半。
では、トップ企業以外の下位企業は何をするべきなのか。
森さんの処方箋は次の3つです。
・商品開発力を高めて付加価値の高い商品を出すべきである。
・商品の数とターゲットを絞り込むべきである。
・流通の効率を上げるべきである。
*「商品開発力」は、技術力だけでなく、
ブランドマネジメント力を含みます。
したがって、基本的には大半の企業では、
イノベーターからフォロワーへと落とし込むスキミング戦略を
取るしかないということになります。
さて、森さんは、スキミング戦略の適切な方法を
日本伝統のごはん炊きにたとえています。
●始めちょろちょろ ・・・深く静かに
イノベータに対しては、テレビ広告などの派手な活動はせずに、
クチコミ誘発などの仕掛けを着々と進めておく。
この段階で派手にしかけると、イノベータがひそかに楽しむ
期間が短くなり、短命商品になる可能性あり
●中ぱっぱ じゅうじゅうふいたら ・・・派手に
商品がアーリアダプタに到達する直前直後から派手に
販売やマーケティング活動を実施します。
イノベータに受けた商品を「内輪受け」で失速させないために、
半ば強引にアーリアダプタにつなげていく時期です。
●火を引いて 赤子が泣いてもふたとるな ・・・おとなしく
この段階では、当該商品をキャッシュカウ(利潤を収穫する商品)
として扱います。
商品がすでにプロダクト・ライフサイクルの成熟期に入ったと
考えて、ここで得た利益を新製品の開発や他商品の
成長期マーケティング投資の原資にあてます。
したがって、広告投資の目的は、「知名度を上げる」
のではなく、「知名度が下がらないように維持する」
に変化します。
戦略も、「競合に勝つ」のではなく、
「競合に負けない」ようにし、この延長として、
ブランド拡張、既存ラインナップの統廃合を進めます。
投稿者 松尾 順 : 03:42 | コメント (2) | トラックバック
シンプルマーケティング(17)スキミング&ペネトレーション戦略
シンプルマーケティングでは、
生活者を次の3タイプに分けています。
・イノベーター(革新人間)
・アーリーアダプタ(先端人間)
・フォロワー(保守的な人々)
人口に占める割合としては、ざっくり言えば、
イノベーターが最も少なく、フォロワーが最も多い。
アーリアダプタはその中間です。
したがって、ピラミッドの三角形を横に3つ切りにしたイメージ
では、突端にイノベーター、真ん中にアーリアダプタ、
底辺にフォロワーが位置します。
さて、この生活者の3タイプのどこから攻めるか、すなわち
売り方には、2つのアプローチがあります。
・スキミング戦略
・ペネトレーション戦略
スキミング戦略は、「上澄み戦略」とも一般には言われますね。
三角形の突端から、底辺へと上から下へ落としていく売り方です。
つまり、上澄みのイノベータに訴え、次にアーリアダプタへ
浸透させ、最後にターゲットにシフトさせます。
このやり方で成功したのが「スウオッチ」でした。
日本市場に進出した85年当時は、
「安物の派手なプラスチック時計」
というネガティブなイメージを持たれていました。
主にフォロワーにしかリーチ(到達)しない一般紙に、
通常のブランド広告を出稿していたことがその理由です。
しかし、90年にヨーロッパで登場して爆発的に売れた
「スキューバ」「クロノ」といったモデルを『モノ・マガジン』
のようなマニア系(=イノベータ)雑誌が取り上げたことを
きっかけに、マーケティング戦略のターゲットを
イノベータに絞込みました。
その結果、ブランドイメージが改善し、
イノベータによるコレクションアイテム的な購入が増えました。
さらに、「実際に使って楽しむ時計」へとイメージの転換を
図ることでアーリアタダプターにターゲットをシフトし、
売上を伸ばしていったわけです。
一方、ペネトレーション戦略は、
最初から、多数派のフォロワーを狙っていく売り方です。
フォロワーの支持を得られれば、膨大な売上・利益が見込めます。
ですから、できれば、はじめからフォロワーを相手にしたいと
考えるのは道理でしょう。
ペネトレーション戦略では、
しばしば極端な低価格をつけ、大量の広告を露出します。
モノであれば、流通力を強化し、店に商品を大量に陳列して、
「売れている」イメージ(幻想といってもいいかな)を
生み出すことで、保守的なフォロワーの付和雷同的な性質を
うまく利用するわけです。
この戦略は、いわば「力のゴリ押し」であり、
莫大な資金力を必要とするため、限られたごく一部の企業に
しか採用できないアプローチです。
ちなみに、ペネトレーション戦略が伝統的にうまい企業は、
松下電器、コカコーラなど。
松下電器では、発売日前後にマーケティング活動を集中し、
発売直後に最大のシェアを獲得する「垂直立ち上げ」という手法を
このところ盛んに駆使してますよね。
では、この戦略が得意な新興企業はどこでしょうか?
答えは簡単ですよね。
「ソフトバンク」です。
同社は、ADSL市場(Yahoo BB!)では見事成功しましたが、
携帯市場では、出だしで大きくつまずいてしまいました・・・
まあ、Yahoo BB!も当初はいろいろとトラブルが起こりましたし、
それを克服してきたソフトバンクのことですから、
携帯市場でもしぶとく二の手、三の手を出してくると思いますが。
投稿者 松尾 順 : 10:29 | コメント (0) | トラックバック
シンプルマーケティング(16)意味性の純化と広告戦略
シンプルマーケティングで言う「意味性の純化」とは、
「記号」と「意味」の双方向一致を強化することでした。
これ、まだわかりにくい人もいらっしゃると思うので、
再度、具体的に説明します。
「吉野家」という店舗名(記号)を聞けば、
うまい、早い、安いの「牛丼」(意味)をイメージしますよね。
現在、吉野家には「豚丼」なども置いてありますが、
それらは連想されるイメージに上ってきません。
つまり、記号→意味の連想が強い。
一方、「牛丼」という商品カテゴリーやそのイメージ(意味)
を見たり聞いたりしたら、吉野家を連想する方が多いと思います。
つまり、意味→記号の連想も強い。
この双方向が強い、つまり「意味性の純化」に成功している
ブランドは、ほとんどの場合、その商品カテゴリーにおける
ナンバーワンブランドです。
吉野家が「牛丼」カテゴリーにおけるナンバーワンブランド
であることは異論はないですよね。(復活途上ですが)
さて、「意味性の純化」にいったん成功したとしても、
競合製品の登場や、節操のないブランド拡張、多角化などに
よって、記号と意味の双方向一致度合いが弱くなっていくと、
ナンバーワンブランドの座から落ちてしまう可能性が
出てきます。
前回(15)でご紹介したセイコーやカゴメの事例は、
ブランド拡張や多角化の失敗例でした。
ですから、企業としては「意味性の純化」を
弱体化させないようにしなければなりません。
ただ、現実はそうではないですね。
とりわけ、広告戦略において顕著です。
広告のキャラクターやメッセージが頻繁に変わる
一貫性のない広告が目に付きます。
その最大の失敗例として挙げられるのが、
90年代のキリンビールの「キリンラガー」でしょう。
キリンラガーの場合、熱処理された苦味のあるビールという
従来のイメージを「生ビール」化して、薄めてしまっただけでなく、
キャラクターを頻繁に変える広告を続けました。
こうした一貫性を欠くコミュニケーションが客離れを招き、
97年に、ついにアサヒの「スーパードライ」に首位の座を
奪われてしまうわけです。
私も以前、キリンラガーの過去の一連のTVコマーシャルを
見る機会がありましたが、「キリンラガー」の意味がぶれ続けて
いたため、
「これじゃあ、明確なブランドイメージが形成できないな・・・」
と感じたことを覚えています。
シンプルマーケティングの著者、森さんは
“ブランディングに成功するためにはブランドの意味性を明確にし、
それを極力反映させる広告をつくって「いける」と確信したら、
むやみにいじくりまわさないことが肝要なのである。”
と述べています。
なお、森さんによれば、広告戦略については
・記号性連続性
・意味性連続性
の2つの方向性があるそうです。
「記号性連続性」とは、
タバコの「マールボロ」の代名詞となっている「カウボーイ」
のように、時代を超えて「男っぽさ」という意味を保持できる
ビジュアル(キャラクター)を使用しつづけること。
一方、「意味性連続性」は、
コカコーラが、「若者の象徴」という意味を伝えるために、
その時代時代で異なるビジュアル(キャラクター)を採用する
ことです。
1940年代のコカコーラは、当時人気の若大将、加山雄三が
登場してたそうですが、今は、倖田來未ですよね。
そして、記号性連続性の場合、
いつの時代にも通用する不滅のビジュアルを
表現するのが難しいこと。
また、意味性連続性の場合は、
そのつど、時代にふさわしい素材を探すのが難しいことです。
どちらにせよ、広告戦略も一筋縄ではいかない。
口で言うよりもはるかに難しいことではあります。
投稿者 松尾 順 : 11:18 | コメント (0) | トラックバック
シンプルマーケティング(15)意味性純化の失敗例
昨日のメルマガ&ブログで、シンプルマーケティングでは、
「記号性」と「意味性」の双方向一致
を強化することを「意味性の純化」
と呼ぶことをご紹介しました。
そして、
「意味性の純化」が高ければ高いほど、
ブランド力が強く、生活者から最も選好される確率の高い、
成功しているブランドであること
したがって、ブランド戦略の究極の目的は、
「意味性の純化」を目指すことにあると言えると書きました。
「意味性の純化」の別の具体例を示すなら、
「マクドナルド」がわかりやすいでしょう。
「マクドナルド」(記号)といえば、「ハンバーガー」(意味)
「ハンバーガー」(意味)なら、「マクドナルド」(記号)
と[記号→意味]、[意味→記号]の双方向から強いリンクが
成立しています。
つまり、マクドナルドでは、「意味性の純化」に成功している。
トップブランドであることの要因であり、証明でもあります。
*ただし、ここでのハンバーガーの意味(ベネフィット)は、
「早くて、安くて、おなかいっぱいになる」
であって、これをポジティブに受け止める人でないと
ユーザーになってくれませんが・・・
ついでながら、マクドナルドを書いて思い出したのは「吉野家」。
「吉野家」といえば「牛丼」
「牛丼」なら「吉野家」
ですよねぇ・・・
不思議なのは、
狂牛病のために米国産牛肉が輸入できなくなり、
長いこと「牛丼」の提供を中止していたにもかかわらず、
ほとんど、「意味性の純化」が弱くなっていないことです。
これについて、私は次の2つの仮説を持っています。
1.つなぎとして投入された新メニューはどれも、
ぱっとしなかったこと(要するにおいしくなかった)
2.あえて牛丼を提供しなかったことで逆に、
ユーザーの頭の中での「吉野家」と「牛丼」のリンクが
固定化されたこと
あなたはどう思いますか?
さて、意味性の純化に失敗した例がシンプルマーケティング
では2つ紹介されています。
まず、「セイコー」です。
昔は、セイコー=高級な時計
というイメージが浸透していました。
値段は高めだが、品質は良いという評価を受けていたのです。
しかし、低価格ブランドの「アルバ」を始めとして、
気軽なファッション時計市場、低価格時計市場に進出。
一方で、「ドルチェ&エクセリーヌ」といった高級ブランドは
知名度を上げることができませんでしたし、
その意味(ベネフィット)を伝えることもできないまま放置。
このため、
「セイコー」=「高級でクオリティの高いブランド」
という図式が崩れ始めたわけです。
次に「カゴメ」の例です。
カゴメのブランド資産は、トマトジュース、野菜ジュース
などから連想される「健康感」ですよね。
しかし、同社はバブル時代、新規事業分野として缶コーヒーや
サイダーなどの炭酸飲料に手を出します。
この結果、カゴメ=健康感というリンクを弱くしてしまった。
ただ、幸いにも、新規事業はことごとく失敗。
カゴメは、原点に戻って、
「キャロット100」「野菜生活」シリーズなどを発売。
これらがヒットして、再び、
「意味性の純化」を取り戻すことに成功しました。
シンプルマーケティングの著者、森さんは、
セイコーの例を「乱発&ぼけ病」
カゴメの例を「形だけのお付き合い病」
と呼んでいます。
安易なブランド拡張や多角化は、
ブランド価値を低下させてしまうことがよくわかりますね。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 10:34 | コメント (0) | トラックバック
シンプルマーケティング(14)記号と意味
今回は、ブランド戦略成功の鍵を握る
「記号」と「意味」
を取り上げます。
学術的な定義は避け、
「記号」と「意味」を具体的に説明すると、
商品における「記号」とは、
名称(ネーミング)、ロゴマーク、パッケージデザイン
など、他の製品と区別するてがかりとなるものです。
一方、商品における「意味」とは、
生活者のベネフィット(その商品を購入して得するコト、モノ)
になります。
そして、ブランド戦略の成功度合いは、
この「記号」と「意味」の双方向のリンク
の度合いで判断することができます。
シンプルマーケティングで例示されているのは
「スニッカーズ」です。
「おなかがすいたらスニッカーズ」
「ピーナッツぎっしり、確かな満足」
といったコピーが印象に強く残ってますよね。
スニッカーズは、圧倒的な広告量と配荷量で、
「スニッカーズ」(記号)といえば
「空腹を解消してくれる」(意味)
という[記号→意味]のリンクと
「空腹感を解消したい」(意味)と思ったら
「スニッッカーズ」(記号)
という[意味→記号]のリンク
の「双方向リンク」を確立することに成功しています。
こうした状態を
「記号性と意味性の双方向一致」
と言います。
一方、リンクが弱いブランドの例としては、
「ボルボ」が挙げられています。
「ボルボ」(記号)といえば、「安全なクルマ」(意味)
という[記号→意味]リンクは強いのですが、
「安全」(意味)にリンクする「車種ブランド」(記号)
としては、ボルボだけでなく、ベンツやクラウンと
考えている生活者も多いため、[意味→記号]リンクは弱い。
すなわち、「意味性から記号性への一致」
が成立していません。
この状態を
「記号性からの一方向一致」
と言い、ブランドどしてはまだ未熟であることを
示しています。
なお、「記号性」と「意味性」の双方向一致を強化することを
「意味性の純化」
と言います。
「意味性の純化」が高ければ高いほど、
ブランド力が強く、生活者から最も選好される確率の高い、
成功しているブランドです。
したがって、ブランド戦略の究極の目的は、
「意味性の純化」を目指すことにあると言えるでしょうね。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 11:58 | コメント (1) | トラックバック
シンプルマーケティング(13)ケーススタディ:午後の紅茶リニューアル
プロダクトコーンは、基本的には
規格→ベネフィット→エッセンス
と訴求の対象が移行していきますが、
「エッセンス」まで到達した後は、再び「規格」に戻るという
サイクルになることが多いそうです。
この典型的なケースが「午後の紅茶」でしょう。
キリンの「午後の紅茶」が、世に出たのは1986年でした。
当時私は学生でしたが、甘さ控えめのさっぱりした味が好きで
よく飲んでいたのを覚えています。
さて、発売20周年に当たる今年の2月、
キリンビバレッジは、「午後の紅茶」のリニューアルを実施。
前年比20%増のという大幅な売り上げを記録しています。
(日経情報ストラテジー、JANUARY 2007)
NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも登場した
同社マーケティング部長、佐藤章氏によれば、
「20年続く食品ブランドが前年比で20%も伸びたのは過去に
例がないのでは・・・」
と大喜び。
今回のリニューアル成功の理由は、これまでの
「OL向けの上品な飲み物」というイメージ(エッセンス)を
訴求するのではなく、ターゲットを中高年層に置き、
「実はヘルシー」
という新たなコンセプトに基づいて、
午後の紅茶の「規格」を前面に打ち出したことにあります。
「午後の紅茶」は、元々
・低カロリー
・無着色
・低脂肪
という規格を有していました。
こうした「午後の紅茶」の特徴は、
近年の健康志向や、食品の安全性に対する意識の高まりに
合致する好ましい「規格」だったわけです。
ところが、長年イメージ重視のコミュニケーションを
続けてしまったために、消費者が持つ知覚品質はゆがんだもの
になっていました。
「カロリー高そう」
「着色料を使っているのでは?」
「甘すぎるのでは?」
そこで、今回のリニューアルでは、
「午後の紅茶」がヘルシーな飲み物であることを「規格」を
語ることで証明し、健康を気にする中高年層を取り込むことに
成功しました。
実は、リニューアルを行うに当たっては、
担当の藤川主任と佐藤部長が、方向性の違いで対立しています。
藤川主任は、当初、従来のイメージ路線を踏襲。
「最高大人品質」というキーワードで味を見直し、
「20年目の新発見」というキャッチコピーを付けた
広告・プロモーションを行う計画を立てていました。
これに佐藤部長が「ヘルシー路線」を打ち出して反対。
「何を新発見したんだ。ネタがないだろう。
大人のムードを出すだけで買ってもらえるほど甘くないぞ」
と藤川主任に再提案を指示しました。
そこで、藤川氏は、
お客様相談室(コールセンター)の顧客データベースから、
午後の紅茶についての「不満情報」の洗い出しを行いました。
興味深いことですが、これまで午後の紅茶は6回もリニューアル
しているにもかかわらず、上記顧客データベースに蓄積された
顧客の生の声を参考にしたことは、ほとんどなかったそうです。
藤川主任は、顧客の不満情報を分析した結果、
「顧客が飲むのをやめてしまったのは、20年の歳月の中で
午後の紅茶が不健康な飲み物であると思い込んでしまった
からではないか」
という仮説にたどりつきます。
この仮説は、合計18人の消費者対象グループインタビューで
間違っていないことが検証されました。
そして、今回のリニューアルの新コンセプト「実はヘルシー」
に結実したというわけです。
ヒット商品を生み出す達人、佐藤部長は、
ひょっとして「シンプルマーケティング」の愛読者かも
知れません。(^o^)
*佐藤部長の「プレゼン術」について以前、このメルマガ&
ブログでも書きましたね。
こちらです>「合脳的プレゼンテーション」
投稿者 松尾 順 : 10:35 | コメント (4) | トラックバック
シンプルマーケティング(12)生活者のイノベータ度とプロダクトコーン
さらにプロダクトコーンの話。
なんたって、シンプルマーケティングの中核理論ですから。
プロダクトコーンは、商品を3つの要素(切り口)、すなわち
・規格=企業側の商品定義(ハードな定義)
・ベネフィット=生活者の得するコト、モノ(ソフトな定義)
・エッセンス=商品が持つ性格(擬人化)
で見るものでした。
そして、このプロダクトコーンの3要素を
どのような順番で訴求するのが効果的なのか?
これについては、既に
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番
でご紹介してますね。
商品の特性や市場環境(プロダクト・ライフサイクル)
を考慮しなければなりませんが、基本的には、
「規格」→「ベネフィット」→「エッセンス」
と移行していきます。
シンプルマーケティングでの森さんの説明によれば、
新技術を応用した商品や新規産業の場合、
「規格」を優先的に訴求して商品の説明をし、
生活者が安心して商品を買えるような基盤を作る
ことが重要です。
そして、産業が成長期にさしかかり、
技術に格差がなくなった時点で「ベネフィット」を訴求し、
さらに「ベネフィット」が普及した時点で
「エッセンス」を訴求していくのが効果的だそうです。
ただ、一方で対象となる
「生活者のイノベータ度」
も理解し、考慮しておく必要があります。
いわゆる「イノベータ理論」、
これは、簡単に言えば、
生活者の新技術や新商品に対する購買行動の差を
示したものですが、シンプルマーケティングでは次の
3つのタイプにシンプル化されています。
・イノベータ
・アーリ・アダプタ
・フォロワー
新商品が出ると、真っ先に飛びつくのがイノベーター。
「PS3」をゲットするために、
寒い中徹夜して量販店に並ぶような人たちのことです。(笑)
イノベータに続いて、「アーリ・アダプタ」が買い、
フォロワーは周囲の評判を確かめた上で、
おっとり刀でそろそろと買い始める。
イノベータは、対象商品に詳しく、関心の高い人たちです。
購入判断は自分で行うことができます。
一方、フォロワーは、対象商品の知識をあまり持っておらず、
購入に当たって、他人の意見・推薦に頼りがちです。
ですから、訴求対象が「イノベータ」なら、
商品の
「規格」
を説明してあげればいい。
彼らは、「規格」を見て、
その商品がいいか悪いか判断できるからです。
一方、「フォロワー」が訴求対象なら、
「エッセンス」
を説明しなければなりません。
フォロワーは「規格」だけで商品を判断しません。(できません)
したがって、企業が、規格からベネフィットを翻訳し、
さらにベネフィットからエッセンスを導き、
商品にどんな「イメージ」があるのかまで伝える。
こうやって初めて、フォロワーは購入に動いてくれます。
森さんによれば、
プロダクトコーンの訴求のサイクルと、
生活者のイノベータ度の3タイプは表裏一体であり、
この流れをいかにつかむかが、
ヒット商品をつくり、育てるためのキーポイントの一つ
だそうです。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 13:41 | コメント (4) | トラックバック
シンプルマーケティング(11)「R25」のプロダクトコーン修正モデル
前回、シンプルマーケティングにおける
プロダクトコーンの修正モデルをご紹介しました。
修正モデルでは、商品を4つの要素(切り口)、すなわち
・規格=企業側の商品定義
・機能的ベネフィット
・心理的ベネフィット
・エッセンス=商品が持つ性格
で見るんでした。
ベネフィットが、機能的、心理的の2つに分離されて、
より商品開発などに応用しやすくなっているモデルです。
で、実は、リクルートの無料情報誌「R25」の企画に当たって、
プロダクトコーンの修正モデルが採用されていたんですよ。
「R25]という斬新で、
そして成功した新媒体の特性をプロダクトコーンで見ると
くっきり見えてくるのでご紹介します。
まず、「R25」について最新の基本情報を整理します。
-------------------------------------------------
創刊:2004年7月
発行部数:60万部
配布エリア:首都圏(1都3県)
ただし、東京都23区で全体の65%を配布
対象読者層:M1層(20-34歳の男性)
コンセプト:紙媒体である新聞や雑誌の橋渡しとなる
ペーパーポータル
-------------------------------------------------
そして、
「R25」のプロダクトコーン修正モデル
は次の通り。
-------------------------------------------------
[規格]
木曜日夕方、駅近辺で配布する無料で読める
クオリティの高い情報誌
[機能的ベネフィット]
昼休みや電車の中など、すきま時間に暇つぶしで
読める情報誌
[心理的ベネフィット]
幅広い情報が手軽に得られて役に立つ、
得した気分になれる情報誌
[エッセンス]
勇気づけられ、応援してくれて、
自分が変わるきっかけをくれる情報誌
(自分になくてはならないもの・・・)
-------------------------------------------------
「R25」は、単なる暇つぶしという機能だけでなく、
お役立ち感や得した気分といった心理的ベネフィットを
与えることを目指したわけです。
また、ターゲットの「M1層」は、ほんとは
新聞くらい読んでないとかっこ悪いと思っている。
ところが、現実には、基本知識がなかったり、
専門用語が難しすぎて理解できず、なかなか読めない。
「R25」は、そんな基本的なところを
わかりやすく解説してあげることで
新聞や雑誌を読めるようになる。
つまり、
新聞だってちゃんと読んでる、
いけてるビジネスパーソン!
に変われるきっかけをあげるという「エッセンス」を
踏まえた誌面づくりをしているんですね。
M1層のまさに琴線に触れるプロダクトコーンだと
思います。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 17:03 | コメント (2) | トラックバック
シンプルマーケティング(10)プロダクトコーン修正モデル
商品を3つの要素(切り口)、すなわち
・規格=企業側の商品定義(ハードな定義)
・ベネフィット=生活者の得するコト、モノ(ソフトな定義)
・エッセンス=商品が持つ性格(擬人化)
で考える「プロダクトコーン」ですが、
実際の商品に応用しやすいよう、若干の補足が加えられた
「プロダクトコーン修正モデル」
が、シンプルマーケティング著者の森さん自身から
提案されています。
修正モデルでは、ベネフィットをさらに2つの要素に分けます。
具体的に言うと、
・機能的ベネフィット
・心理的ベネフィット
です。
「機能的ベネフィット」とは、規格から直接もたらされる
ベネフィットのこと。「どんな商品なのか」ということに
ついての描写が、客観的・直接的に伝わります。
しかし、同じような機能からは同じようなベネフィットしか
謳えないので、競合製品との違いを明確化しにくいという問題が
起こります。
また、生活者側が規格を十分に理解していないと、
それが心理的にどんな満足を与えてくれるのかを翻訳することが
できず、よくわからない製品という印象を与えてしまいます。
たとえば、
「(DOHCのツインターボだから)加速がつきます」
という機能的ベネフィットは、車好きの人にはともかく、
「DOHCのツインターボ」
という規格が理解できない人にとっては、
あまり意味のない情報です。
しかし、ここで一歩踏み込んで、
「(加速がつくから、スピード感が味わえて)
いやなことを忘れてスッキリする」
と心理的ベネフィットを打ち出せば、
説得力が増すというわけです。
さて、考えてみれば、パソコンの広告コピーって、
大半が機能的ベネフィットですね。
最近だと
「デュアルコアのパワーで・・・パフォーマンスを
向上し、より多くのタスクの処理を可能にします」
といった表現が目につきますが、
「ソフトがさくさく動いて、気持ちよく仕事が進みます」
くらい言ったらどうでしょうか。
なお、機能的ベネフィットから心理的ベネフィットに踏み込んで
成功した事例としては、「LEON」が面白いんじゃないでしょうか。
「LEON」以前の男性雑誌は、
「クラシコイタリアをおしゃれに着る」
みたいな、そんな機能的ベネフィットの訴求どまりでした。
しかし、「LEON」は、要するに、
「オヤジもモテたいんだ!!」
という本音を見抜き、
「ちょいモテオヤジ」「ちょいワルオヤジ」
で心理的ベネフィットを訴求したわけです。
そうですよね、森さん?
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 18:24 | コメント (1) | トラックバック
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番
取り上げる間隔が空いてますが、
「シンプルマーケティング」
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
の内容紹介を続けます!
シンプルマーケティングの中核と言える、
「プロダクトコーン理論」
は、シンプルでわかりやすい
「総合的な商品定義」
であるということを前回書きました。
前回はこちらを参照ください。
再度ポイントをおさえておきましょう。
プロダクトコーンは、次の3つの要素で構成されています。
・規格=企業側の商品定義(ハードな定義)
・ベネフィット=生活者の得するコト、モノ(ソフトな定義)
・エッセンス=商品が持つ性格(擬人化)
実際の商品(サービス)への適用方法の例としては、
シンプルマーケティングに掲載されている
「レストランヒルトップ」
(高層ビルの50階にある架空の店)
の場合、次のような定義になります。
-----------------------------------
規格:50階建てのビルの最上階にあり、一流のシェフと一流の素材、
美しい夜景が楽しめる
ベネフィット:ねらった女性をおとせる
エッセンス:誘惑
-----------------------------------
なるほど・・・ですね。
森さんをご存知の方ならおわかりですが、
実に森さんらしいスマートな定義です。(笑)
さて、(潜在)顧客とのコミュニケーションにおいては、
プロダクトコーンの3要素をどのように訴求していったらよい
のでしょうか。
同書によれば、
「規格→ベネフィット→エッセンス」
の順番で訴求するメインの対象を移行させるのが基本です。
(もちろん、当該商品の市場や成長、競合状況によって、
メインとすべき訴求対象が変わってきますが)
たとえば、カロリーメイトの場合、
発売当初(82年~)は、
「バランス栄養食」
という「規格」を訴求してましたよね。
しかし、92年には広告コピーを
「朝カロリーメイト、昼カロリーメイト、夜は友人と会食。
新しいダイエットの提案です」
と変えて、メインの訴求対象を
「ベネフィット」
に移行しています。
同書では、カロリーメイトの訴求対象が「エッセンス」に
移ったかどうかについては触れられていませんので、
私が勝手に追加説明してみます。
近年の広告コピーを振り返ってみると、2000年から、
「食べるケイタイ」「モバイル」
といった表現が使われていましたので、
「手軽な」
というエッセンスが訴求されてきたと思われます。
ともあれ、適切なコミュニケーション戦略が功を奏して、
カロリーメイトは、現在、売上200億円超のロングセラー商品
となっていますよね。
さて、森さんによれば、大半の企業は、
「規格」からいきなり「エッセンス」に移行しがちだそうです。
「ベネフィット」訴求を飛ばして、
イメージ訴求に走ってしまうわけです。
結果として、有名タレント、モデルがにっこり微笑むだけの
コミュニケーションになってしまいます。
これは、「感性マーケティング」の罠にはまっているのだと
同書では指摘されています。
また、イメージ(エッセンス)中心の戦略を実施している業界
では、ベネフィットよりも、むしろ「規格」を訴求の核に
戻した方が効果的だそうです。
たとえば、ビール業界では
「どういうわけかキリンです」
という言葉で代表される、
「イメージによるコミュニケーション戦略」
の時代が長期間続いていました。
しかし、この流れをアサヒビールは、
「コクがあるのにキレがある」
という「辛口、生」のコピーにより断ち切りました。
そして、規格を前面に押し出したスーパードライの大ヒットで
キリンを抜き、トップメーカーへと成長することができたのです。
なぜ、規格を訴求するアサヒビールのコミュニケーションは
成功したのでしょうか?
イメージ(エッセンス)は、「慣習」に似ていると森さんは
説明しています。
当時、「ビールといえばキリン」というイメージ、
言い換えると「常識」に疑問をはさむ人はいませんでした。
まさに、慣習のように、
キリンを選ぶべき理由・根拠を深く考えることもなく、
ビール=キリンと思い込んでいたわけです。
しかし、アサヒは、そこに、明確な味の違い(規格)という
「事実」を提示した。
事実をつきつけることによって、これまでの
「慣習」(ビールといえばキリンという常識)
について、消費者に再考する機会を与えたということでしょうね。
コミュニケーション戦略を分析、また立案するに当たって、
プロダクトコーンの3要素の切り口はかなり使えます!
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 12:12 | コメント (3) | トラックバック
シンプルマーケティング(8)プロダクトコーン理論
シンプルマーケティングの内容紹介、まだまだ続けます。
まだたくさん面白い話が山積み状態で残ってますから。
さて、今回取り上げる「プロダクトコーン理論」は、
シンプルマーケティングのハイライトとも言える理論です。
実にシンプルで、わかりやすい「総合的な商品定義」です。
プロダクトコーンは、次の3つの要素で構成されています。
・規格=企業側の商品定義(ハードな定義)
・ベネフィット=生活者の得するコト、モノ(ソフトな定義)
・エッセンス=商品が持つ性格(擬人化)
「規格」とは、商品の大きさ、薄さ、重さ、機能、性能など、
いわゆる測定可能な特徴のことです。
しかし、規格だけでは、
その商品を購入すべき理由が明確にはなりません。
昔からよく知られた言葉ですが、
人は、「ドリル」自体が欲しいのではなく、
ドリルを使うことで得られる「穴」が必要だからですね。
したがって、その商品を買うとどんないいことがあるのか、
すなわち「ベネフィット」を潜在顧客に伝える必要があります。
また、商品をあたかも「人」であるかのように形容し、
性格づくりを行うことは、当該商品を他社商品と差異化し、
記憶を強化するとても効果的な方法です。
これが「エッセンス」です。
具体例だと、たとえば、
花王の「ヘルシア緑茶」のプロダクトコーンは、
規格=厚生労働省の特定保健用食品の認可を受けた、
急須で入れたお茶の約2倍のカテキンを含むお茶
ベネフィット=飲むだけで楽に、体脂肪を低減する
エッセンス=権威
となります。
ここで、エッセンスが「権威」となっているのは、
当時、緑茶飲料では初めてという「特定保健用食品」認可
という「お上のお墨付き」が、ヘルシアの性格づけに、
高い差別優位性を与えていたからです。
ヘルシアは出始めのころ、私もずいぶん飲んでましたが、
カテキンが多いという規格は、むしろ「苦い」という
マイナス要素であったにもかかわらず、
「やせる」というベネフィットに加えて、
特定保健用食品という「権威」のエッセンスがあったことが、
購入していた最大の理由だと思います。
ところで、プロダクトコーンを適用すると面白い
最新の事例としては、キーコーヒーのレギュラーコーヒー
「ご褒美コーヒー」(2006年9月発売)
があります。
ターゲットは20-30代の女性。
当商品は、
「和風スウィーツと愉しみたい」
「洋風スウィーツと愉しみたい」
の2種類。
キーコーヒーの女性社員の意見に基づき、
和風、洋風のそれぞれに合う味になるように
ブレンドしてあるそうです。
また、なぜ「ご褒美コーヒー」かというと、
日々がんばっている女性が、
自分にプレゼントする「スウィーツ」に合うコーヒーは、
「ご褒美」にふさわしい洗練された香りと深い味わいが
求められているという考えのもとに開発された商品だからです。
この商品のプロダクトコーンで見ると、
規格:和風・・・上品でやさしい甘みに調和する、豊かなコクを
持った苦み系の味わい
洋風・・・濃厚でまろやかな甘みに調和する、豊かな香りを
持った酸味系の味わい
ベネフィット:スウィーツのおいしさがより引き立つ
エッセンス:ちょっとした贅沢
となるでしょうか。
レギュラーコーヒーは、
豆の種類とブレンド、煎り方以上の加工ができない素材型商品
ですから、なかなか性格づけの難しい商品です。
しかし、スウィーツとうまくカップリングすることによって、
「エッセンス」を上手に訴求することに成功していますよね。
「ご褒美コーヒー」の売れ行き、好調のようです。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 15:41 | コメント (1) | トラックバック
シンプルマーケティング(7)ソフトウエア的市場細分化
マーケットシェアを考えるとき、
市場全体(100%)をどこまでとみなすか
という点が重要になってきますよね。
たとえば、現在、ビール風アルコール飲料は、
・ビール(従来の)
・発泡酒
・第三のビール
と3つのサブカテゴリー(市場)に分けられていますね。
でも、おそらく消費者はこの3つのカテゴリーを
明確には区別していません。
もちろん、原材料が違うことくらいは理解してますが、
価格が安いか高いかだけで、要するにみんなひとくくりに
「ビール」です。
実際、平日は安いビール(第三のビール)を飲み、
週末は、ゆったりと高いビール(ビール、特にプレミアムタイプ)
を飲む、といったように飲み分けてたりします。
ですから、たとえ発泡酒のサブカテゴリーでトップシェアを
持っているからといって、油断することはできませんよね。
実際には、発泡酒カテゴリーだけではなく、
従来のビール、第三のビールカテゴリーの他のブランドとも
競合関係にあるからです。
つまり、こうした市場の切り方を間違ってしまうと、
「クープマンの目標値」を適用することも無効となりますし、
誤った市場分析に基づくマーケティング戦略は失敗に終わる
ことになります。
さて、市場をとらえる上で重要な市場の切り方、
いわゆる「市場細分化」は、
従来はハードウェア的なものが主流でした。
たとえば、「地域」や「規格」などで分けるやり方です。
上記ビール風飲料も、まさに
「原材料の種類や配合比率」
で分けたハードウェア的な市場細分化です。
しかし、消費者は、
発泡酒が飲みたい、
第三のビールが飲みたい
というハードウェア的な理由でブランドを選択しませんよね。
むしろ、
「喉の渇きを潤したい」
「手ごろに酔いたい」
といった、森さんによれば
「ソフトウェア的」
発想がまず先にあり、次にそのソフトウェアに最適な
「ハードウェア」(ブランドの種類)
を選択するという流れで購買行動が起きるのです。
したがって、市場細分化は、ハードウェア(規格)に
こだわりすぎず、もっとソフトウェア的なアプローチを
取り入れていく必要があります。
具体的に例示すると、清涼飲料カテゴリーでの
ハードウェア的市場細分化は、
炭酸飲料、果汁飲料、無果汁飲料、コーヒー系飲料、
新分野飲料(スポーツ飲料、ミネラルウォーターなど)
といったものです。
一方、ソフトウェア的市場細分化だと、
・「身体にいい市場」(機能性飲料や、100%野菜飲料など)
・「体に悪くない市場」(ミネラルウォーターなど)
・「適度に甘い市場」(カルピスウォーターなど)
・「甘くない市場」(ウーロン茶、お茶など)
となります。
ソフトウェア的市場細分化の方が、
より消費者のヴァリュー(価値観)やクライテリア(生活基準)
を反映したものになることがわかりますね。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 12:42 | コメント (1) | トラックバック
シンプルマーケティング(6) 「クープマンの目標値」の意外な適用例
マーケットシェアの持つ「意味」を説明した
「クープマンの目標値」
の考え方は非常に面白いものですが、実は、
ランチェスター戦略の中ではちょっとしか触れられて
いないそうです。
(だから、ランチェスター戦略の「基本理論」の
ひとつとは言えない)
また、「クープマンの目標値」について詳細な解説が
あるのは「シンプルマーケティング」だけなんだそうです。
以上、シンプルマーケティングの著者、
森さんから教えていただきました。
ありがとうございました。
さて、「クープマンの目標値」は具体的には次のとおりでした。
(1)独占的市場シェア ・・・73.9%
(2)相対的安定シェア ・・・41.7%
(3)市場影響シェア ・・・26.1%
(4)並列的上位シェア ・・・19.3%
(5)市場的認知シェア ・・・10.9%
(6)市場的存在シェア ・・・ 6.8%
このクープマン、マーケットシェアの解読だけでなく、
ほかにも意外な方面への適用が可能なことが
シンプルマーケティングに紹介されています。
たとえば、チラシやポスター。
チラシの中にさまざまな商品(情報)を掲載しようとする時、
各商品に割り当てるスペースをほぼ同じ大きさにレイアウト
してしまうデザイナーがいますよね。
具体的には、5つの商品にそれぞれ5分の1ずつのスペース
を割り当てるといったやり方です。
これは、クープマンに照らせば間違い。
なぜなら、チラシの全面積に占める各商品のスペースが
小さすぎて、閲覧者の十分な注目を獲得できないからです。
5分の1のスペースということは、紙面シェアで20%。
クープマンで言う
「市場的認知シェア(10.9%)」
の水準は超えていますが、「市場影響シェア(26.1%)」
までは達しておらず、注目度が不十分です。
そこで、クープマンをポスターのレイアウトに適用すると、
・「最も言いたいこと(売りたい商品)」に紙面の約半分を割く
→相対的安定シェア(41.7%)の水準
・「次に言いたいこと」に、紙面の約4分の1を割く
→市場影響シェア(26.1%)水準
・「最後に言いたいこと」を残り10%に当てる
→市場的認知シェア(10.9%)の水準
というのが理想的な紙面シェアの配分となります。
端的に言えば、レイアウトにメリハリをつけるということです。
ただ、クープマンの目標値というガイドラインを
使ってデザインすれば、仮に素人がやったとしても
ある程度効果のあるチラシが作成できるというわけです。
クープマンはチラシのような平面だけでなく、店頭ディスプレイ
などの立体のデザイン適用可能だそうです。
ただ、クープマンをデザインに適用する場合の留意事項があります。
それは、面積だけでなく、消費者が目に止める印象度を加味しないと
正確なシェアを算出できないという点です。
たとえば、同じ面積であったとしても色の使い方、組み合わせ方で
それを見た人に与える印象度が違ってくるからです。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 13:15 | コメント (4) | トラックバック
シンプルマーケティング(5)市場をとらえる・・・クープマンの目標値
市場を把握する上で重要な指標のひとつは、
「マーケットシェア」(市場占有率)
ですよね。
でも、自社と競合他社の数値を並べて、
単純にうちが大きいとか、小さいとか言ってるだけじゃ、
マーケティングの意思決定の役には立ちません。
シンプルマーケティングでは、マーケットシェアの持つ「意味」
を「クープマンの目標値」で説明してあります。
米国の数学者、クープマンは、シェアと市場推移の関連性を
分析し、シェアをみきわめるポイントとして6つの数字を
上げています。これが「クープマンの目標値」です。
具体的には次のとおり。
(1)独占的市場シェア ・・・73.9%
(2)相対的安定シェア ・・・41.7%
(3)市場影響シェア ・・・26.1%
(4)並列的上位シェア ・・・19.3%
(5)市場的認知シェア ・・・10.9%
(6)市場的存在シェア ・・・ 6.8%
次に、それぞれのシェアの持つ意味を簡単に示します。
----------------------------------------------
(1)独占的市場シェア(73.9%)
要するに独占シェア、短期的にシェアがひっくり返る
可能性はほとんどない。
たとえば、ハンバーガー市場の日本マクドナルド。
(2)相対的安定シェア(41.7%)
市場で首位のブランドがこのシェアを占めている場合、
そのトップの地位は安定。不測の事態が生じない限り、
逆転されることはない。森さんは、このシェアを持つ
企業を「ガリバー」と呼ぶ。
たとえば、自動車市場の、トヨタ。
(3)市場影響シェア(26.1%)
この程度の数値で市場トップの企業は多いが、
逆転される可能性がある不安定なシェア。
ただ、このシェアを持っていると、競合他社が追随
せざるを得ないため、市場の主導権を握ることができる。
たとえば、広告市場の電通。
(4)並列的上位シェア(19.3%)
一位、あるいは二位に複数ブランドや企業が
ほぼ横並びに拮抗しているときに表れやすいシェア。
この位置にあるブランドや企業は互いにけん制しあって
混沌状態を抜け出し、市場影響シェア(261%)を目指す。
たとえば、テニスラケット市場のヨネックス、ダイワ精工。
(5)市場的認知シェア(10.9%)
市場において、ようやく存在が確認される水準。
生活者が、「こういうブランド(企業)もある」と
思い出してくれるレベル。
たとえば、デジタルカメラ市場の松下電器。
(6)市場的存在シェア(6.8%)
市場において、ようやく存在が許される水準。
これ以下のシェアなら、今後よほどの成長が見込めない限り
市場から撤退するのが賢明。
たとえば、ハンバーガー市場のロッテリア。
----------------------------------------------
ちなみに化粧品市場における花王は、
長年がんばってきたものの、「市場的存在シェア」を
わずかにクリアする程度でした。
カネボウ化粧品をなんとしても買収して。
シェアを上げる必要があったわけです。
現在、花王とカネボウのシェア合計は20%を超えますから、
「並列的上位シェア」のポジションにありますね。
このクープマンの目標値は、
ランチェスター戦略における基本理論なんですが、
不思議なことに、「ランチェスター戦略」は、
マーケティングの世界ではあまり知られていませんよね。
(営業の世界では結構知られていますが)
なぜでしょうねぇ・・・
さて、クープマンの目標値は市場をとらえる以外にも、
いろいろと適用可能な分野があります。
次回はそのあたりをご紹介します。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 13:11 | コメント (4) | トラックバック
シンプルマーケティング(4)ロングセラー商品の秘密
シンプルマーケティングの中から、
ライフスタイル論と密接に関連している、
「ロングセラー商品の秘密」
が明かされている箇所もご紹介しときます!
まず、答えからズバリ。
森さんによれば、ロングセラー商品は、
「ニーズ」と「ウォンツ」
のバランスが取れている商品です。
なお、森さんによる「ニーズ」と「ウォンツ」の定義は
一般のマーケティングテキストに書かれているものとは
若干違います。
「ニーズ」とは、商品に対する基本欲求のこと。
たとえば自動車に対するニーズは、走る、曲がる、止まる
といった基本機能です。
「ウォンツ」とは、基本的機能以外に対する欲求。
デザイン性の高さや、希少価値などのことです。
一通りの基本機能が備わっていて、消費者の「ニーズ」が
満たされるなら、いちおう「商品」としては成立します。
しかし、「ウォンツ」が欠けていれば魅力の乏しい商品に
なってしまいますね。
さて、「ニーズ」と「ウォンツ」によって、
時代の変遷の中で生まれては消えるブーム現象を
説明することができます。
「ニーズ」は、時代が変わってもほとんど変化しません。
横軸に時間、縦軸に変化の度合いをとったグラフを描くと、
まっすぐな横棒になります。
「ニーズ」は、昨日ご紹介した、
ヤンケロビッチ博士の「価値観ヒエラルキー」では、
「ソース」や「ヴァリュー」と近い関係にある欲求です。
潜在的で変化しにくい部分というわけです。
一方、「ウォンツ」は、グラフに描くと、
心電図のように波打つ起伏の激しい変化を見せます。
時代によって大きく変化するのが「ウォンツ」。
価値観ヒエラルキーでは、「マニフェステーション」(行動)や
「テイスト」に近い関係にあります。
顕在的で変化しやすい部分ですね。
ブーム商品、つまり一過性の人気を集めるだけで終わって
しまう商品は、要するに「ウォンツ」しかとらえていない
商品なのです。
味はたいしたことはないけれど、
ファッション性だけで人気を集める飲み物は、
ブーム商品です。
あるいは、人気絶頂のタレントがデザインをしたことが
売り、でも、よく見るとたいしたことのない商品も
そうでしょう。
タレントの賞味期限が尽きると同時に、関連商品の寿命も
終わりますからね。
森さんは、
ここ二十年ほどで一挙に注目を集めた「環境問題」も
まさにウォンツ商品だと考えているそうです。
「LOHAS」のような環境志向は、一見ニーズのようですが、
実は、一種の表層的なライフスタイルということでしょうか。
これについては議論が分かれるところかも知れません。
というか、私は反対の意見を持っています。
2000年くらいまでは、
環境問題も単なるウォンツだったと思います。
しかし、最近の行き過ぎた拝金主義や
全世界規模で起きている環境破壊の問題を見聞きするにつれ、
これまでのように、人類が好き勝手に地球をもてあそんでいると、
地球滅亡は間違いないと、私個人としては思っています。
実際のところ、本当の意味での「自然に帰る」ことは
できないにしろ、「ニーズ」のレベルで環境問題に取り組む
という風潮が高まっているのではないでしょうか。
おっと、話がそれましたが、冒頭に書いたように
「ロングセラー商品」
は、ウォンツしか満たしていないブーム商品と違って、
ニーズとウォンツの両方をバランスよく満たしている商品です。
シャネル、ルイ・ヴィトンなど、
一流のブランドは、おおむねロングセラー商品ですよね。
ルイ・ヴィトンの品質の高さやアフターサービスの充実ぶりは
皆さんご存知かと思います。
でも同時に、画家の村上隆氏とコラボして
アニメチックなモノグラムデザインを発表するなど、
時代の要請にも応えていますよね。
また、ロングセラーの食品もいつも変わらぬ味と思わせながら、
実は、時代によって変化していく人々の嗜好にあわせて微妙に
配合を変えていますよね。
逆に、変化を続けるウォンツに応えることができていないために、
かげりの見えるロングセラー商品も出てきます。
「コカ・コーラ」がそうですね。
微炭酸・非炭酸を求める時代の流れ、甘み離れに対応できて
いません。(もちろん、爽健美茶などの別ブランドで、
ウォンツをカバーしているわけですが、肝心の本丸での対応は
成功していない・・・)
「ニーズ」と「ウォンツ」の視点で新商品を分析すれば、
それがブームに終わるのか、息の長い商品に終わるのか、
かなり高い確率で予測できるように思います。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 08:02 | コメント (2) | トラックバック
シンプルマーケティング(3)ライフスタイル-2
森行生氏著の名作、「シンプルマーケティング」から
今日も「ライフスタイル」のテーマを取り上げます!
消費者(生活者)の心理・行動を理解するのに有効な考え方で、
マーケティングにも適用しやすい「ライフスタイル理論」の
ひとつが、米社会心理学者、ヤンケロビッチ博士が生み出した、
「価値観ヒエラルキー」
です。
価値観ヒエラルキーは、
三角形を5層に分割したイメージで表されます。
各層の概要は次の通りです。
(1)ソース(Source) =基本的意識、性格
人がもって生まれた先天的資質
外向的・内向的といった基本的な性格はかなりの部分
先天的ですよね。
(2)ヴァリュー(Value) =価値観
種々の物事に対する姿勢、社会との接点でもつ生活意識
たとえば「社会に溶け込んで生活すべき」といった、
いわゆる「信条」のこと
(3)クライテリア(Criteria) =生活基準
ある判断、選択を迫られた時に優先順位を決めるよりどころ
森さんによれば、
「理想とする自分と、それを取り巻く環境」
ということだそうです。この基準に基づいてある商品を
購入したり、しなかったりするというわけですね。
(4)テイスト(Taste) =生活の志向、好み、感性
「具体的な事象」に対する志向、好み、意見、考え方。
たとえば、クライテリア(生活基準)として
「知的なエリートビジネスマン」
を理想としているなら、テイストは、
「無線通信機能付ノートパソコンを持ち歩き、乗る車は
欧州車で・・・」
といった具体的なモノに対する好みのことです。
(5)マニフェステーション(Manifestation) =生活行動
実際の選択、行動。
たとえば上記の例で言えば、愛車「アウディ」に乗って、
「VAIO」でメールをチェックする、といったことです。
ヤンケロビッチ博士は、人間の意識は上から下、
つまり1から5への流れをたどると説いています。
消費者行動の基本は、まず意識があって、それが
最終的な行動に反映されるということでしょう。
しかし、森さんによれば
行動から意識へと逆流するケースも頻繁に見られるそうです。
たとえば、若い女性は、雑貨売り場で気に入ったモノを手に
取ったときに、その製品を使っている自分や、
自分の部屋にその製品が置いてあるさまを思い浮かべるそうです。
これは、具体的な行動(マニフェステーション)が、
逆に意識を刺激して、自分のテイストやクライテリアを認識
させてしまう例です。
確かに、若い女性だけに限らず、
私たちは、しばしば自分の行動を客観的に振り返ってみて
「自分が求めているテイストやクライテリアはこれだったんだ!」
と初めて気づくこともありますよね。
さて、この価値観ヒエラルキーをマーケティングに適用する際に
いろいろと留意すべき点があります。
シンプルマーケティングでは、「落とし穴」も含めて詳しく解説
されています。
ここではひとつだけご紹介しましょう。
それは、目に見える部分(マニフェステーションやテイスト)
だけを見て、人のライフスタイルを理解したつもりにならない
ことです。
過去、多くの企業が、ライフスタイルの表層的な現象面だけを
見てマーケティング活動を行い、失敗してきました。
人々のライフスタイルをより深く理解するためには
現象の背後にある、「ヴァリュー」や「クライテリア」
をしっかり見つめる必要があるのです。
現象面では、日々さまざまなヒット商品が生まれ、一方で
廃れていくことを繰り返しています。
表面的な変化は激しいわけです。
でも、商品選択の本質的な基準である
「ヴァリュー」や「クライテリア」
は5年や10年では変わりません。
ですから、
「マニフェステーション」や「テイスト」
ではなく、
「ヴァリュー」やクライテリア」
に焦点を当てれば、
マーケティングの企画・実行はずいぶん楽になりますよね。
中長期的な視点で、
一貫性のあるマーケティングに取り組めるからです。
逆に言えば、
表層的な変化だけを追いかけているために、
コロコロと猫の目のように方向性を変えるマーケティングは、
多くの場合失敗に終わります。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 12:38 | コメント (5) | トラックバック
シンプルマーケティング(2)ライフスタイル-1
今日は「ライフスタイル」のテーマを取り上げますね!
「シンプルマーケティング」で紹介されている
ODS社の消費者調査のデータベース、
「ODS-LSI」(ライフスタイル・インディケーター)
が明らかにした日本人の価値観の変遷が興味深いです。
ODS-LSIによれば、戦後の日本人の欲求は次のように
5段階に変化しています。
-------------------------------------------
第一段階(1940年代)・・・基本的欲求の時代
-------------------------------------------
敗戦直後。食べられればいい、住めればいいという基本的ニーズ
が充たされればOKでした。
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第二段階(1950年代)・・・雷同の欲求の時代
-------------------------------------------
基本的欲求は充たされ、隣もTVを買ったから我が家も・・・
という付和雷同型ニーズが主流。
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第三段階(1960年代)・・・優越の欲求の時代
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高度成長期。「隣のクルマが、小さく見えます」(日産サニー)
他人よりもっといいものを揃えたい。優越感を持ちたいという
ニーズが消費者を動かした。
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第四段階(1970年代)・・・差別化の欲求
-------------------------------------------
作れば売れる時代の終焉。好みの多様化。
他人と違うモノを持ちたいというニーズが高まった。
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第五段階(1980年代)・・・主観化の欲求
-------------------------------------------
成熟期。個人主義的傾向に拍車がかかる。
晩婚化、シングル化進展。他人を気にせず、
自分らしいモノに囲まれた暮らしを重視。
さらに、91年以降から始まる「第六段階」を
ODS-LSIでは、
「適正の時代」
と定義しています。
これは、人々の志向が、
「足元を見つめ直し、自分にふさわしい生活をする」
段階に移行したということだそうです。
この志向性、2000年以降もますます強まっていると
考えていいんでしょうね・・・
身のたけに合った暮らしをするというか、
無理をしない生き方を標榜する人たちが増えている。
「LOHAS」
(Lifestyle of Healthy and Sustainability)
のコンセプトもこの流れに沿ったものだと言えますし。
ただ、一方で、上昇志向、成り上がり意識が低下することで
経済・社会の活気は失われていってます。
要するにハングリーさが足りない。
日本の国際競争力低下は必至かなと思いますね。
森さんは、「適正の時代」に移行した結果として
“20-30代に「下流意識」が定着しつつあるのは皮肉
というべきだろう”
と指摘していますが、実際のところ、
日本は今、本格的な階級社会へと変化しつつあるんじゃ
ないでしょうか。(というか、戦前に回帰している?)
下流の対極にある「富裕層」、あるいは「新・富裕層」
といった言葉もまた、最近の流行語となっていますが、
これまでの日本社会ではあまり重要でなかった
社会階級別のマーケティング
が必要になってきているように思います。
明日も引き続きライフスタイルテーマで行きます。
投稿者 松尾 順 : 13:01 | コメント (0) | トラックバック
シンプルマーケティング(1)イノベータ理論
森行生氏著の名作、「シンプルマーケティング」から
まずは「イノベータ理論」をご紹介します。
森さんの考え方には、常に、
消費者(森さんは「生活者」と表現)を理解すること、愛すること
が根底に流れているように感じると前回書きました。
実際、この本の第1章はこんな書き出しです。
“マーケティングでは、「生活者」を把握することが非常に
重要だ。もちろん、関係者をそれを身にしみてわかっている”
ほんと、私も身にしみてわかっています!
だからこそ、生活者(消費者)理解を極めるための方法論を
「マインドリーディング」という言葉をキーワードに
ぐぐっと深めていこうとしてるわけなんですが。
では、「生活者」を把握するというのは、
マーケティング的にはどういうことでしょうか。
それは、生活者の特性を元に様々な角度から市場を細分化し、
自社商品を「誰に向けてつくるのか」というセグメントを
明確にすることです。
「マーケットセグメンテーション」
ですね。
マーケットセグメンテーションのやり方は、
いまだ、性・年齢といったデモグラフィック(人口統計学的)
要因が基本です。
最近は個人情報保護法の施行によって、こうしたデータでさえ
入手が難しくなってきましたが、それでも、いわゆる
「基本属性データ」として使いやすい要因です。
ただ、マーケターの方ならすでにわかっているように、
例えば「20代の女性」といったセグメントはもはやあまり有効で
はありませんよね。
性別・年齢が同じでも、趣味嗜好、購買行動は
天と地ほども違う場合がありますから。
そこで、ライフスタイルやパーソナリティなどの
サイコグラフィック(性格特性図)要因をセグメンテーションに
活用する必要があります。
森さんは、サイコグラフィック要因の中でも特に、
「価値観分析」
の手法を使う必要があると述べています。
(価値観分析については別途ご紹介します)
さて、サイコグラフィック要因は、
基本的に時代に応じて変化するものですが
時代を超えてセグメントに有効な切り口が、
「生活者の3タイプ」
具体的には、
・イノベータ
・アーリアダプター
・フォロワー
です。
これ、ロジャースの「イノベーター理論」に基づく3分類です。
イノベーター理論はもっと細かいタイプ分けがされていますが、
実務的にはこの3タイプで十分ですね。
「イノベーター」は、いつの世でも、ヒット商品をまっさきに
発掘する「革新人間」です。
したがって、「売れる商品」を生み出すためには、まず
イノベーターの目に留まる必要性があります。
しかし、イノベーターに受け入れさえすれば、
成功が約束されるわけではありません。
なぜなら、イノベーターは、
自分が優れた商品を発見する能力を持っていることに
自己満足してしまい、他人に話すことをしないからです。
要するに、口コミしてくれない人なんですね。
そこで、一過性のブームに終わらせず、息の長いヒット商品と
するためには、「アーリーアダプター」に受け入れられる必要が
あります。
森さんに言わせると「アーリーアダプター」は、
「ウケねらいの人々」
です。彼らがものを買う基準は、圧倒的多数のフォロワーに
「これ、知ってる?」
と自慢できるかどうかなんですね。
そして、フォロワーは、ある程度商品が定着してから、
ようやく自分も買う人たち。真っ先に買って馬鹿にされるのが
怖いからです。
したがって、アーリーアダプター層に自社商品が広がれば、
それがフォロワーへと広がり、「ヒット万歳!」という
わけです。
しかし、もしアーリーアダプターに受け入れられず、
イノベーターどまりになってしまったら・・・
それは
「一過性のブームに終わった商品」
ということになります。
ですから、ヒット商品を育てるという観点からは、
アーリーアダプターの目をひきつけること
が最重要課題と言えるわけです。
ところで、森さんの本には記述がありませんが、
イノベーター、アーリーアダプターと、
フォロワーとの間には大きな断層がある
という考え方がありますよね。
ジェフリームーアの「キャズム理論」です。
この考え方では、
アーリーアダプターからフォロワーへの伝播(ユーザー層拡大)
は簡単ではないよ
ということを主張しています。
キャズム理論は、
森さんの考え方と対立しているわけではありませんが、
強引にまとめてしまうと、
イノベーター、アーリーアダプター、フォロワー
の各セグメントの心をつかむためには、
それぞれ個別の工夫が必要であるということでしょうね。
(森さんに怒られたらどうしましょ・・・)
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 22:57 | コメント (0) | トラックバック
「シンプルマーケティング」改訂版を読む(0)
私が最も尊敬し、私淑するマーケティングのプロフェッショナルは、
(株)シストラットコーポレーション代表の森行生氏です。
森さんは、購読者1万人強の人気メルマガ、
「私はこう見る--コンサルタント生の本音情報」
の発行者ですので、
ご存知の方もいらっっしゃるんじゃないでしょうか。
ただ、上記メルマガは、このところ気まぐれにしか
発行されないので残念ですが・・・(+_+)
さて、森さんが書かれたマーケティングの教科書、
の改訂版が今年2月に発刊されています。
私は長らく積読状態でしたが、先日ようやく読了できました。
5年前の初版と比較すると、改訂版では最近の事例が追加され、
各種理論の説明もさらにわかりやすく書き直されていました。
文字通り、シンプルで本質を突いたマーケティング本です。
マーケティングの教科書というと、
フィリップ・コトラー先生の一連の著作が有名ですね。
そして、コトラー先生は、
「マーケティングの神様」
と呼ばれています。
ただ、ちょっと引っかかる。
確かに優れた教科書を書かれてはいますが、
コトラー先生は大学教授。実務家ではありません。
失礼ながら、コトラー先生は
「マーケティング教科書の神様」
と呼ぶのがより正確でしょう。
おっと話がそれました。
コトラー先生と違って、森さんは、バリバリの実務家。
長年に渡って成果を出し続け、
大手企業のクライアントから絶大な信頼を集めています。
「シンプルマーケティング」は、
そんな森さんが書いた教科書ですからバリバリ実用的。
なぜなら、理論自体をただ説明するだけでなく、
それを実務にどう適用するか、というところまで
踏み込んで書いてあるからです。
また、森さんの語り口には、常に
「消費者やユーザーの心理や行動に対する深い理解と愛情」
が感じられるんですよね。
というわけで、「イノベーションの達人」の時と同様、
全10回シリーズでこの本の内容をご紹介していきます。
ご紹介するテーマや理論は次のとおり。
1 イノベータ理論
2 ライフスタイル
3 クープマンの目標値
4 プロダクト・ライフサイクル
5 プロダクトコーン理論
6 ブランディング(意味性の純化)
7 スキミング&ペネトレーション戦略
8 DCCM理論
9 U&E
10 「選好」シェアと「実売シェア」
なお、私の内容紹介は断片的なものですし、
私個人の主観的な解釈なども加えていきます。
ですので、同書をまだ読んだことのない方はぜひ
読んでみてくださいね。