インバウンド・マーケティング-ハンターからハーヴェスターへ
「ad:tech tokyo 2012」@東京国際フォーラム
において行なわれた講演、
「インバウンドマーケティング~
従来型デジタルマーケティング脳を切り替えるためのレッスン」
(株式会社スケダチ 代表取締役 高広伯彦氏)
を聴いてきました。
今回は、高広氏の講演内容に、私の考えも踏まえ、
インバウンドマーケティングとは何かについて
まとめました。(したがって、内容に対する文責は
すべて私にあります)
----------------
「インバウンドマーケティング」の主な特徴は、
私の理解では以下の3点になります。
----------
1 対象顧客を探し出し、「ターゲティング」するのではなく、
消費者にとって有益なコンテンツを公開し、見つけてもらい
やすい工夫をして、関心のある消費者に見つけてもらう(get found)
2 近々購買したい人に今すぐの購買を促すだけでなく、
ちょっと関心がある、情報を集めているだけの人も含め、
見込み客(lead)との関係性を確立し、育成していく。
3 上記の目的達成のために、ブログ、動画、ソーシャルメディア、
e-newsletter(メルマガ)、SEM/SEOなど、様々なメディア、ツール
を整合性、一貫性のある形で統合的に活用する。
----------
高広氏も強調していましたが、
インバウンドマーケティングは、
「全く新しい方法」
というわけではありません。
インバウンドマーケティングの核にあるのは、
「ユーザー視点」
です。
そのルーツ(原点)は、
1999年発刊されベストセラーとなった、
セス・ゴーディンの
「パーミションマーケティング」
に遡ることができると高広氏は指摘します。
同書の中で、セス・ゴーディンは、
マスメディア広告は、
消費者(オーディエンス)の生活に
勝手に割り込んでくる
一方的なコミュニケーション
だから嫌われ、アテンション(注目)を
得られにくいと主張し、まず消費者の
「許可(パーミション)」
を得ることから始めるべきだと説いたのでした。
その後、検索エンジンが普及する中、
Googleのリスティング広告、
「AdWords」
では、サイト閲覧者のクリック率に応じて
表示順位が決定される仕組みが採用されましたが、
これは、消費者の当該広告に対する関心の強さ、
すなわち
「支持率」
によって広告の露出度合いが決定されるものであり、
広告が「企業視点」から「ユーザー視点」へと
移行しつつあることを表すものでした。
また、ブログやソーシャルメディアを通じて、
消費者自らが積極的に情報発信し、
消費者同士のつながりを通じて情報共有が
頻繁に行なわれるようになったことから、
マス広告の影響力は弱まっています。
消費者はもはや、
マス広告にあまり依存することなく、
検索エンジンを活用し能動的に情報収集する
と同時に、ソーシャルメディアでつながっている
友人・知人の情報を頼りに、
購買意思決定
を行なうようになっていますね。
このような歴史的背景を踏まえ、
消費者の購買意思決定の変化に対応する
解決策として提唱されたのが
インバウンドマーケティングです。
企業は、ターゲットオーディエンスに対し
マス広告を通じて一方的にメッセージを送る
「アウトバウンドマーケティング」
だけでなく、
「消費者に役に立つ、喜ばれる情報」
をその道のプロとしての企業が、
様々なメディア・ツール活用して公開し、
またその情報を見つかりやすくしておく。
そうすることで、消費者が、
その情報を必要としたときに
「見つけてもらう」
ようにすることが重要なのです。
このため、インバウンドマーケティングで
最も重視されるツールは、
「ブログ」
なのだそうです。
ブログは更新が容易なため、
最新の情報を手軽にアップできることに
加えて、検索エンジンに引っかかりやすく、
また、ソーシャルメディアなどでの共有も
しやすいというメリットがあるからです。
高広氏は、
「ブログなくしてインバウンドマーケティングなし」
と言い切っていました。
さて、インバウンドマーケティングの場合、
適切なコンテンツを提供する目的が
目先の販売(売上)
にだけ向いているのではないことに、
留意する必要があります。
近年のマーケティング、
特にネットマーケティングでは
ターゲットの絞込み(ターゲティング)
が技術的に容易になったため、
すぐに購入しそうな
「熱い見込み客」(hot prospect)
にばかり注力する傾向が強まっています。
一方で、ある製品・サービスに
ちょっと関心を持っただけ、あるいは
情報収集をしているだけの
「ぬるい見込み客」(warm prospect)
を実質的に切り捨てています。
というか、むしろ、
「ぬるい見込み客」
にまで強引に、
今すぐの購入を勧めてしまう
コミュニケーションをやってしまい、
そっぽを向かれることも起きています。
インバウンドマーケティングでは、
ぬるい見込み客も含め、検索エンジンでの検索結果や、
フェイスブック・ツイッターなどで目に留まった
他者の投稿を通じて、まず自社が提供する
「お役に立てるコンテンツ」
に触れてもらうことを目指します。
そして、さらに価値の高い
「プレミアムコンテンツ」
を提供することで、
見込み客のコンタクト情報(メールアドレス等)
を収集する。
その後は、e-newsletter(メルマガ)などを
活用しながら、見込み客との良好な関係を形成
していきます。
また、既存客をリピーター、ロイヤル顧客へと
育成していくのです。
実は、こうした見込み客からロイヤル顧客への
育成を目的とするアプローチは、
「CRM」(Customer Relationship Management)
と考え方が同じ。
この意味でも、インバウンドマーケティングが
全く新しい方法ではないことがおわかりでしょう。
インバウンドマーケティングは、
私に言わせると、
「検索エンジン、ソーシャルメディア時代のCRM」
とも言い換えることができるのではないかと
思っています。
なお、インバウンドマーケティングは、
「コンテンツマーケティング」
ともアプローチが似ていますね。
しかし、コンテンツマーケティングでは、
必ずしも、見込み客を育成することが目的には
なっていません。
この点が、決定的な違いだと言えます。
高広氏は2012年9月、
株式会社マーケティングエンジン
を設立、インバウンドマーケティングに
関するワンストップサービスの提供を開始しており、
その実行環境として、
「Hubspot」
というツールを取り扱っています。
Hubspotは、
・SEO
・ブログ、ソーシャルメディア
・eメールオートメーション
・マーケティング統合分析
など、インバウンドマーケティングを
統合的に実行できる機能を備えています。
消費者に役に立つ有益なコンテンツを提供し、
そのコンテンツを見つけられやすくする。
また、見込み客を育成するプロセスを
効果的・効率的に実行するためには、
多様なメディア・ツールの活用と施策検証の
ためのデータ分析を含む
PDCA(Plan-Do-Check-Action)
を統合的に行なわなければなりません。
Hubspotは、そうしたインバウンドマーケター
のニーズに応えることができる優れたツールと
いうことで、高広氏は日本市場への導入を
推進しているようです。
私自身、Hubspotはぜひとも使ってみたい
と感じました。
高広氏は、講演の最後に、
「ハンターからハーヴェスターへ」
(from Hunter to Harvester)
という言葉を示しました。
これは、従来のように、
顧客を「狩る」ために狙い撃ちする
(ターゲッティング)のではなく、
有益なコンテンツという土壌を整備し、
そこに見込み客の種をまき、
時間をかけて丹念に育てるアプローチへと
切り替えるべきということです。
私もこの主張には完全に同意します。
狩猟型、短期志向のマーケティングは
もう通用しない時代だからです。
多くの企業が今後、
インバウンドマーケティング
へと舵を切ることは間違いないでしょうし、
私もそうなることを望んでいます。
*株式会社マーケティングエンジン
http://mktgengine.jp/
(参考文献)
『インバウンド・マーケティング』
(ブライアン・ハリガン、ダーメッシュ・シャア著、すばる舎)
『パーミション・マーケティング』
(セス・ゴーディン著、阪本啓一訳)
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投稿者 松尾 順 : 2012年10月31日 10:13
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コメント
株式会社マーケティングエンジンの尾花と申します。
大変にわかりやすく、かつ、的確な記事をありがとうございます。
古くて新しいこのコンセプトが少しでも多くの方の手助けになれればと考えております。
世の中の人々の情報行動が変わったこと、これが特に意識すべきことだと感じています。日常の生活の中で如何に検索を多用することか、そして、ソーシャル経由で得る情報をどれだけ活かしていることか。
ただ、検索結果としてQAサイトや"セミプロ"が書いたブログが表示されることも多く、それは、真のプロたる企業が求められている情報を提供できていないことの裏返しとも言えるかもしれません。ここに大きな好機があるかと。
投稿者 尾花 淳 : 2012年10月31日 20:32
尾花さま、コメントありがとうございます!
まさに、真のプロたる企業が求められている情報を提供できるかどうかが一番の鍵であり、好機があると思います。
今後ともよろしくお願いいたします!
投稿者 松尾順 : 2012年11月01日 10:39
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