「発ガン物質」に過剰反応してしまうわけ
今年(2012年)4月の発売以来、
「特保」の認定を初めて受けたコーラ系飲料として、
好調な売れ行きを見せていた
「キリン メッツコーラ」
ですが、コーラの着色料として使われる
「カラメル色素」
の副産物として発生する
「4-MI」(4-メチルイミダゾール)
は、米・カリフォルニア州では
「発ガン物質」
として規制の対象となっていることが報道され、
消費者の不安をかきたてていますね。
この報道を受けて、
キリンでは以下のような公式発表を出しています。
(一部抜粋)
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カラメル色素はもとより、商品に含有される4-メチルイミダゾール
の安全性については、国内および海外における各種公的機関の食品中
の4-メチルイミダゾールに関する安全性評価に基づき評価しております。」
当社見解としては、
「体重50kgの大人で、1日約16L(480mlペットボトル30本以上)」
を毎日飲み続けなければ、安全性に問題がないと判断しております。
また、表題の商品は特定保健用食品であり、1日あたり480ml
ペットボトル1本を摂取目安量としていることから、上述の安全性を
確保できるものと判断しておりますのでご安心してお飲みいただけます。
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そして、もちろんメッツコーラは継続販売。
「明日のジョー」のコマーシャルも引き続き流れていますね。
実のところ、「4-MI」は、
コカ・コーラやペプシコーラを含む、
他のほとんどのコーラ系飲料にも含まれているもの。
メッツコーラだけが特別なわけではありません。
そもそも、私たちが普段口にしている天然の食物にも、
発ガン性が認められるものがいろいろとあります。
私たちが気にしなければならないのは、
「どの程度摂取するか・しないか」
ということです。
要するに‘食べ過ぎたら’危ないよということ。
適量であれば、発ガンリスクは極めて低いと
考えられるのです。
例えば、
「アルコール飲料」
もれっきとした「発ガン物質」として認定されている。
だからといって、好きなお酒を完全に止めてしまう人
は少ないでしょう。
多くの人は、過剰摂取しないように注意しながら、
引き続き楽しむのではないでしょうか。
(私もそうします。酒なくして何が人生か!)
しかし、これが理性的な判断・行動であるにも関わらず、
食品の安全性については、消費者が過剰反応してしまう
傾向がありますね。
なぜ、私たちは過剰反応してしまうのでしょうか?
ひとつには、マスメディアが、断片的、一面的な情報
しか伝えないため、いたずらに消費者の不安をあおり
がちであるということがあります。
もうひとつの理由は、古代の祖先にさかのぼります。
医学がまだ発達していない時代、
私たちは生き延びるため、「摂取量」に関わらず、
とにかく「毒」があると判断される食物は食べない
ほうが良い、ということを学んできた。
こうして、私たちは本能的に「毒」と感じられる
ものを避けるようになってしまったのです。
リスク研究で知られる心理学者、
ポール・スロヴィックは、人々の毒に対する
このような反応を
「直感的毒性学」
と呼んでいます。
理性的に考えれば、
「毒は投与量によって決まる」
ものであり、むしろ、
「適量の毒は、病気の治療にも使えるのだ」
といったことも理解・受容できるのですが、
感情的・直感的には、
「毒は少量でも回避したい」
という気持ちを抑えることは無理なのです。
また、私たちは基本的に
「損したくない」
という意識、すなわち「損失回避傾向」が
とても強いため、たとえ極めて低い確率であっても、
なるべくリスクを取らないことを好みます。
以上のような理由から、私たちは
「発ガン物質が含まれている」
と聴いただけで感情的にわさわさして
過剰反応してしまうのです。
したがって、身体の健康に直接影響がある
製品を作っているメーカーとしては、
消費者の反応は感情的・直感的なものであり、
「理屈」があまり通用しないこと
を踏まえて適切なコミュニケーションを
しなければならないということになります。
(難しい課題ですが・・・)
*「キリン メッツコーラ」に含まれるカラメル色素の安全性について
(キリンビバレッジ WEB品質保証室)
(参考文献)
『リスクにあなたは騙される-「恐怖」を操る論理』
(ダン・ガードナー著、田淵健太訳、早川書房)
投稿者 松尾 順 : 2012年09月04日 11:17
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