風評被害を生み出さないために心がけるべきこと

今回は、風評被害等は

「誤まった因果関係」

から生み出されているという話です。


私たちは、日々の現象の中に一定の

「特徴」や「パターン」
(いつ見てもあまり変わらないことや、
 同じような現象が繰り返し現れるものごと)

を見つけるのが得意ですね。

例えば、遠くからでも友人が見分けられるのは、
その友人の「体型」や「歩き方のクセ」などの特徴、
パターンを認識しているからです。


また、複数の現象が「前後して」起こる場合には、
それらの間になんらかの「関係性」を見出したくなる
ものです。

とりわけ、前に起こったできごとは、
その後に続いたできごとの

「原因」

に違いないと思い込む傾向が強いのです。

科学的に検証すれば、
それらにまったく関係がないとしても、
なんらかの「因果関係がある」と信じたいのが人間です。

このため、例えば、

「クロネコが目の前を横切るとろくでもないことが起こる」

といった類の迷信やデマがたくさん生まれてしまう。


では、なぜ私たちは、前後に起きた現象に

「原因・結果の関係」

を発見したいと思うのでしょうか。

それは、原因・結果がわかると未来が予測できるからです。

未来が予測できれば、
「えさ」にありつける可能性が高まったり、
あるいは、自分の身に迫る危険を回避することができる。

すなわち、生存能力がアップする。

ですから、周囲で起こる様々なできごとの中に、

「原因・結果関係」

を発見することは、私たちにとって
とても価値あることなのです。


ただ、この心理的な傾向には弊害があります。

前述したように、科学的にはなんの根拠もない、
つまり、ものごとが‘たまたま’前後して起きたに
過ぎない場合にも、非常にしばしば

「因果関係」

を仮定してしまうという問題です。

実際、世の中には、単なる偶然に過ぎないものに
無理やり因果関係を置いた

「誤った因果関係」

が数え切れないほど流布しており、
社会全体を巻き込むような大問題につながることも
少なくありません。


たとえば、欧米では、

「子供が受けるMMRワクチン(はしかなどの予防のための
 3種混合ワクチン)は、自閉症の原因になる」

という「誤った因果関係」を信じる人が相当数います。

これは、イギリスの著名な内科医、ウェークフィールド
博士が1998年に、ワクチンと自閉症の因果関係を発見したと
公表したことが発端です。

彼の報告は、MMRワクチン接種後に自閉症を発症したとされる
子供たち12人のうち、8人の子供の親たちから聞いた言葉に
基づいたものでした。

そもそもサンプルとしての代表性がなく、
かつわずか8人の症例だけで、

「ワクチンと自閉症に因果関係がある」

と言い切るのは、あきらかに間違っていることは
いうまでもないでしょう。

実際、数千~数万人の子供たちを対象とした疫学調査では、
ワクチンと自閉症との間にはなんら関係は見出されなかった
のです。

こうした因果関係が広く信じられてしまった背景には、
ウェークフィールド博士という「権威」が発信した情報と
いうこともあるかと思います。

そして、この誤った因果関係のために
ワクチン接種を拒否する親が増え、その結果、
はしかなどに罹ってしまう子供たちが増加する
事態を招いてしまったのです。


日本でも同じような話がたくさんありますね。

つい最近もネットで拡散されている話として、

「フクシマを食べて応援と言っていた女性が
 脳障害になり大変な事態に・・・」

というものがあります。

昨年の夏から福島産の食べものを積極的に買って
食べていた77歳の女性の脳に障害が見つかり、
「痴呆症」と断定された、という内容です。

つまり、

「放射能のせいで脳障害が起きた」

という因果関係をこの話では示しているのです。


実際に、そうなのかもしれません。
しかし、そうでない可能性も高い。

高齢者ですから、なにもしなくても、
痴呆症というか「認知症」になる確率は高い。

つまり、彼女は、フクシマを食べようが食べまいが、
認知症になっていたかもしれないわけです。

彼女が福島産の食品を食べたこと、
そして認知症になったことはそれぞれ「事実」、
しかし、この間に因果関係があるということは、
現時点では単なる

「仮説」(検証される前の「仮の説」)

に過ぎない。

これが事実かどうかは検証を待たなければ
ならないのです。決して、断定できることではない。


問題は、こうした具体的なできごとが、
厳密な統計分析に基づく科学的な研究論文よりも、
はるかに高い説得力を持つことです。

一般化された話よりも、
具体的なひとつの事例のほうが、
私たちの感情を揺さぶるからですね。

ですから、

・上記のような話は単なる「仮説」であると
 冷静に受け取ることができる人

・そして、もちろん用心にこしたことはないが、
 いたずらに風評被害等を生み出すことになるから、
 無条件に信じてしまうのはやめておこうと
 考えられる人

は決して多くないのではないでしょうか?


私たちは、風評被害等を起こさないため、

「人には、やたらと因果関係を見つけたいという欲求がある」

ことを理解し、
そしてまた「科学的思考法」を学んで、

「誤まった因果関係」

を自ら生み出さない、むやみに信じないという
姿勢を身につけなければなりません。


ワクチンの事例の出所:

『錯覚の科学』
(クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ著、
 木村博江訳、文芸春秋)

投稿者 松尾 順 : 2012年07月24日 10:03

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.mindreading.jp/mt/mt-tb.cgi/1261

このリストは、次のエントリーを参照しています: 風評被害を生み出さないために心がけるべきこと:

» http://www.rapid-ukloans-online.co.uk - payday loans franchise from http://www.rapid-ukloans-online.co.uk - payday loans franchise
デイリーブログ『マインドリーダーへの道』 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年06月08日 10:54

コメント

コメントしてください




保存しますか?