「自己実現的人間」とは?
マズローの欲求段階説において、
最高次に位置づけられるのは、
「自己実現の欲求」
でした。
そして、人の行動が主として「自己実現の欲求」
によって動機づけられている人、すなわち、
自己実現欲求に突き動かされて日々の生活を
送っている人々のことを
「自己実現人間」
と呼びます。
マズローの独断的な見立てによると、
自己実現の欲求に満足している度合いは
「10%程度」
ということですから、真の「自己実現人間」と
呼べる人は極めて少ないことがうかがえます。
さて、「自己実現人間」と呼べる人々の特徴は
どのようなものでしょうか?
マズローは、個人的な好奇心からこの研究に取り組みました。
有名人(晩年のリンカーンやトマス・ジェファーソン、
アインシュタイン、エリノア・ルーズベルトなど)、および、
個人的な知人・友人などを被験者として選び、
自己実現人間に見られる特徴を整理したのでした。
(なお、この研究手法に対して、彼自身、信頼性や妥当性など
に問題があることを認めています)
では、マズローの論考に基づいて、
「自己実現人間」の主要な特徴をまとめてみましょう。
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1.現実をありのままに見ることができる。
“子供が偏りや批判のない無邪気な目で世界を眺め、
事実をありのままに観察し、いたずらに論じたり、別のもので
あればと願ったりすることがないように、自己実現人間も、
自分自身や他の人々の人間性を、そのまま受け止めるのである。”
(『人間性の心理学』P232)
かれらは、病や死に直面した時でさえ、
それをいい意味の「諦め」で受容できます。
私たちは、大人になればなるほど先入観、固定観念の固まりとなり、
あらゆる物事を色眼鏡をかけて解釈するようになります。
ありのままの事実ではなく、自分が見たい、知りたい事実のみを
受け入れ、あるいは事実そのものをねじ曲げてしまう。
このような態度は、しばしば他者とのトラブルや、
未知や新奇なものに対する拒絶を生み出し、自己の成長の機会を
逃してしまうことにつながります。
しかし、自己実現人間は、自分にとって不快であったり、
異質なできごと、人間性を素直に受け入れることができる。
そして、「あるべき姿」(理想)とのギャップを認識しつつ、
しかるべき対応を行なうことで、よりよい方向へと状況を変える
ことができるのです。
自己実現人間は、「自然体」が身についた人と言えるでしょう。
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2.「成長」に動機づけられている。
“彼らにとって、動機づけとはまさに人格の成長であり、
性格の表現であり、成熟であり、発展である。”
(『人間性の心理学』P238)
自己実現は、最高次の欲求ですから、自己実現人間は、
基本的に、下位の欲求、すなわち、生理的欲求、安全欲求、
愛と所属の欲求、承認欲求などに対する満足度が高い人々。
これらは、「ないから満たされたい」という欠乏欲求であり、
自己実現欲求は、こうした欠乏がある程度満たされたからこそ
優勢になってくる「成長欲求」です。
端的にいえば、「よりよき人間になりたい」「自分の技など、
強みを極めたい」という内面的な欲求に突き動かされている
のです。
外部から満たしてもらえるようなものではない欲求であり、
また、限りのない欲求です。
メジャーリーガーのイチロー選手もまた、
自己実現欲求に動機づけられている「自己実現人間」で
あることは間違いないですね。
彼は、自分自身を極めようとしている。
安打を何本打つとか、打率4割を超えるといった数値や記録を
軽視しているわけではありませんが、そうした通過点に過ぎない
結果よりも、「成長させ続けたい」という欲求が根底にある。
だからこそ、どのようなときでもフラットな心境、
つまり「自然体」でいられるのでしょう。
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3.課題中心的である。
“彼ら(自己実現的人間)は、自己中心的というよりも、
課題中心的なのである。一般に、彼ら自身が彼らの問題と
なることはなく、自分のことで気をもんだりしない。”
(『人間性の心理学』P238)
“彼らはけっして木を見て、森を見失うということはないように
思われる。彼らは、広くてちっぽけでない、普遍的で偏狭でない、
また世紀単位であり、瞬間的でない価値の枠組みの中で仕事をする。”
(『人間性の心理学』P239)
自己実現的人間は、もちろん、「私利私欲」も多少はあると思いますが、
それ以上に、世界、社会といった、大きな枠組みの中での何らかの使命や
達成すべき義務のようなものを感じて、行動していると言えます。
自分のためではなく、自分の外にあるなんらかの「課題」
(おそらく様々な社会的問題)の解決に取り組むことを第一関心事
としているのが自己実現的人間です。
「貢献したい」という欲求が強いのが自己実現人間と言えるのかも
しれません。
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自己実現的人間の特徴をひとことでまとめるなら、
「純真・素直で、成長欲求が強く、使命感を持っている人」
となるでしょうか?
さて、先ほど、自己実現の欲求は最高次の欲求であり、
低次の欲求がある程度満たされてから出てくる欲求であると
申し上げました。
しかし、ひょっとしたら、上記の特徴のような行動を無意識に、
あるいは意識的に取れるような人間こそが、結果的に食料や安全、
愛、所属、尊敬、承認といった下位の欲求を満たすことができる
のではないかと、個人的には感じるのですがいかがでしょうか?
『人間性の心理学-モチベーションとパーソナリティ』
(A.H.マズロー著、小口忠彦訳、産能大出版部 改訂新版)
投稿者 松尾 順 : 2012年07月13日 11:47
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