高い成果をもたらすストーカーDM?
企業がターゲット顧客に送るDM(ダイレクトメール)は、
基本的に、その時々のキャンペーン施策に即した
「単発もの」
がほとんどです。
しかし、複数のDMを関連性を持たせて送ることで
反応率を改善することができます。
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仙台に本社を置くシステム開発会社、
東北オータス(株)では、
自動販売機のオペレーター向けの事業支援システム
「ベンディナ・ネクスト」
を販売しています。
同社では、販売チャネル拡大のため、
関西・中国・四国・九州の関係各社を
ターゲットに、新しい「ベンディナ・ネクスト」
を紹介するダイレクトメールを送付しました。
ダイレクトメールの目的は、各地域で開催する
ビジネスショーへの誘導でした。
なぜなら、話を聴いてもらえれば8割は成約に
至るという実績を持つ商品だったからです。
ですので、ダイレクトメールを開封し、
なんとか中身を見てもらうため、
同じ内容のダイレクトメールを連続で
3回送ることにしたのです。
ただし、同じ内容ですから、
なんの工夫もなく繰り出すだけでは、
逆効果でしょう。
そこで、2回目以降のDMでは、
再度送付した理由(=口実)を明記すること
にしたのです。
具体的には、1回目に「カセットコーヒー」を
同封したと記載しておいて、実際には同封しなかった。
そして、2回目のDMで
「ゴメンナサイ!私大切なものを入れ忘れていました・・・」
というお詫びとともに、
実際にカセットコーヒーを同封したのです。
さらに3回目のDMでは、
「コーヒーが飲めないというクレームがあったので」
という理由で、今度はティーバッグを同封。
(実際にそんなクレームがあったのかは不明)
この3回のDMの成果ですが、
ビジネスショーへの来場者は例年の2倍、
会場での商談件数は目標の3倍を上回ったとのこと。
同社では、このように
連続して立て続けにDMを送る方法を
「ストーカーDM」
と呼んでいます。
私としては、このネーミングはいかがなものかと
思いますが、その成果はめざましいものがありますね。
東北オータスの場合、B2Bであり、
限られた数のターゲットだから可能だったと
思うのですが、毎回単発のDMを送るよりは、
何らかの関連性を持たせることによって、
受け取る側の関心を引くことができ、
・開封率
・内容の閲覧率
を高めることが可能になります。
ただ、1回目のDMで「カセットコーヒー」を
わざと入れ忘れる、というのはちょっとトリッキーな手法。
まあ、「しゃれ」として済ませられる範囲ですかね。
さて、ダイレクトマーケティングの世界では、
関連性を持たせた複数のDMを同一ターゲットに
送る方法のことは、
「カリキュラム・マーケティング」
と呼んできました。
(ストーカーDMもこの枠組みに入ります)
カリキュラムマーケティングでは、
例えば1年間といった期間設定の中で、
複数回の連続したDMを送るための緻密な
計画を立てます。(こうした計画のことを
「カリキュラム」と呼ぶわけです)
例えば、1回目にアンケートを実施し、
回答データの集計結果を2回目のDMで報告。
そして、3回目のDMでは、アンケート結果
に対する意見を集約したものを報告する、と
いったように、
「擬似的な対話」
展開するのです。
あるいは、啓蒙的なコンテンツを含むDMであれば、
1回目は初歩的な内容、2回目は中級、3回目は
上級といったように、徐々に内容を高度化させていく。
受け取った側としては、
1回目を読んだら2回目の内容も読みたくなると
いうことで、結果的に自社商品に対する理解を
深めていってもらえることになるのです。
ターゲット規模が大きい場合、
カリキュラムマーケティングに基づく
郵送のDMは費用対効果的に実施が困難になる
場合が多いかと思いますが、現在であれば、
eメールやソーシャルメディアをうまく活用した
展開が可能かもしれません。
*東北オータスのDM事例については、
『販促会議』(2013年1月)の記事を
参考にしました。
投稿者 松尾 順 : 11:31 | コメント (0) | トラックバック
刑務所発ブランドに注目!
実刑判決を受けた刑事被告人が、
刑務所で従事するのが「刑務作業」です。
刑務作業では、家具、革靴をはじめ様々な
製品が作られています。
しかし、昨今の不景気やグローバル化等
により、刑務所発の製品である
「刑務作業品」
の売れ行きが低迷。
こうした状況を打破すべく、
人気キャラクターを採用したり、
ブランディングに取り組む刑務所が
登場しています。
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長野刑務所に収監されている堀江貴文氏も、
彼のメルマガを読むと、刑務作業にがんばって
いることがわかります。
刑務作業では、さまざまな製品づくりに携わって
いますが、例えば「手さげ紙袋」を作っているようです。
刑務作業に対する報酬は、熟練度によって
上がっていきますが、非常に安いものです。
刑務作業を始めたばかりの2011年7月の
ホリエモンの作業報酬は618円でした。
(同年9月は901円に増額してます!)
刑務作業は、職業訓練を通じ、
出所後の社会復帰の可能性を高めることが
目的ですので報酬が少ないのは仕方ないところです。
さて、このように人件費が極めて低いことから、
刑務所発の製品は、国内メーカーのブランド品よりも
半分程度の価格で販売可能。
デザイン的にはいまひとつで、
どうしてもネガティブなイメージがつきまとうものの、
品質、安全面では大手メーカーの製品と遜色ないため
一定の人気があったようです。
ところが、刑務作業の主要な発注先である、
民間の中小企業が長引く不況により倒産したり、
刑務所よりも人件費の安い東南アジアに発注を移す
などしたことから、刑務作業が激減。
このままでは、受刑者に技術を習得させる機会が
なくなってしまうと、新たな取り組みを始めた刑務所が
現れているようです。
日経ビジネス(2012.12.10)の記事によれば、
栃木県・黒羽刑務所では、
「ハローキティ」のダルマ
の製作に乗り出しています。
黒羽刑務所では、元々「黒羽だるま」を
製作していたそうですが、サンリオのライセンス
許可を得て
「はろうきてぃだるま」
の製作に着手。なかなかの人気のようです。
こちらに写真が掲載されていますが、
とてもかわいいですね。
↓
http://gotochikitty.com/goods/promotion/kurobanedaruma/index.html
黒羽刑務所では、人気キャラクターを
採用することで製品の魅力を高めることに
成功したというわけです。
一方、オリジナルブランドを開発して、
爆発的な売上を記録しているのが、
函館少年刑務所の
「マル獄シリーズ」
です。
チョイ不良(ワル)風」の布製品。
刑務作業品としては初めて
「登録商標」
を行なっています。
「マル獄シリーズ」が購入できる
ネットショップがありました!
↓
http://www.e-capic.com/SHOP/44106/44225/list.html
マル獄シリーズは毎年ラインアップを拡大、
現在は55品目に上っています。
さて、「マル獄シリーズ」成功のヒミツは、
刑務作業を担当する刑務官が、
従来の刑務作業品の概念を打ち砕いたことに
あったようです。
それは、刑務作業品のネガティブなイメージを
逆手にとったこと。
また、民間のデザイナーのアドバイスを受け、
時代のニーズを取り込んでいること。
若年層を意識することで、ネットでのクチコミも
生んでいること、などです。
前述したように、従来、刑務所は、
近辺の中小企業から仕事をもらっていたのです。
要するに、「下請け」の仕事をやっていた。
しかし、函館少年刑務所では、
仕事をもらうのではなく、自らオリジナルな
製品を開発し、
「マル獄シリーズ」
というブランドを育てることに取り組んだことで
新たな活路を見出したわけです。
今、多くの企業が製品の差別化に苦労し、
売上確保に汲々としていますが、刑務作業品に
おいてもブランド化が可能であるという事実は、
おおいに参考にすべきではないでしょうか。
*上記内容は、
日経ビジネス(2012.12.10)
の記事を参考にしました。
投稿者 松尾 順 : 11:16 | コメント (0) | トラックバック
「ドライゼロ」のヒットを導いた王道のマーケティングリサーチとは?
アサヒビールのノンアルコールビール、
「ドライゼロ」
のヒットの影には、オーソドックスな
マーケティングリサーチに基づく明快な
コンセプト開発がありました。
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ノンアルコールビールは、
ここ数年で急激に拡大した市場のひとつですね。
市場規模としては、ビールが年間4億ケースに対し、
ノンアルコールビールは2000万ケース程度のようです。
さて、アサヒビールが2010年に出した
「ダブルゼロ」
は、キリンビールの「キリンフリー」や、
サントリーの「オールフリー」に太刀打ちできず、
「一人負け」(シェアは2%と低迷)
の状態でした。
アサヒの「ドライゼロ」は、
ダブルゼロの屈辱を果たすために開発され、
2012年2月に発売。
2012年の売上は500万ケースの見込み。
ノンアルコール市場2位のキリンフリーを抜き、
シェア24%を上回ったと見られています。
このように、発売以来、好調に売れている
「ドライゼロ」
の開発に当たっては、
王道を行く、つまりオーソドックスな
マーケティングリサーチ
が行なわれています。
まず、ノンアルコールビールやビールを
飲む頻度や量についての「予備調査」が
実施されています。
これは、本調査を行なうにあたって、
調査の掘り下げの方向性を見極めるために
実行されたものでしょう。
次いで、本調査を2回実施。
延べ対象者数は1,000人という規模でした。
調査の目的としては以下の2点。
1.ノンアルコールビールを飲む頻度、量、状況
(シーン)などの飲用実態を把握すること
2.顧客が持つ競合ブランドに対するイメージを
把握すること
1番目のノンアルコールビールの飲用実態で、
アサヒの担当者が着目したのはビール愛飲者の
ノンアルコールビールを飲む状況です。
例えば、
「ビールをいつも飲んでいるが、
翌日仕事が忙しいときは控えたい」
「休肝日を作りたい」
といった理由でノンアルコールビールが
飲まれていたのです。
従来、ノンアルコールビールは、
妊婦さんや運転中など、アルコールが飲みたくても
飲めない状況が想定されていました。
しかし、ビール愛飲者が自らの意思であえて
「飲まない」
という選択をするときもあることが
明確になりました。
一方、ブランドイメージについては、
「ポジショニングマップ」
を作成したところ、オールフリーを
はじめとする競合製品は、
「健康」
「女性的」
といったイメージが強いものでした。
また、味については「フルーティ」という
評価で、ビールとはそもそも違うものという
認識が強かったようです。
一方、ポジショニングマップで空白地帯
(ホワイトスペース)となっていたのが、
「男性的」
「ビールに近い」
といったイメージ。
以上のような調査結果の分析を踏まえ、
アサヒのマーケティング担当者が
打ち出したコンセプトは
「ビールの代替品」
というもの。
(これは、本当の意味でビールの代わりになる
味やイメージということのようです)
ターゲットは、男性を中心とするビール愛飲者で、
何らかの事情でアルコールを飲めない、あるいは
飲まないときに選択してもらえるノンアルコール
ビール。男性的で飲み応えのあるもの。
こうして、できるだけビールに近い味わいを
実現したダブルゼロが開発されたというわけです。
スーパードライをほうふつさせる
シルバーのパッケージを採用したのも、
「ビールの代替品」
というコンセプトに沿ったものです。
さて、こうしてドライゼロの開発プロセス、
また、「ビールの代替品」というコンセプトを
後から振り返ってみると、実に平凡で当たり前だと
感じるかもしれません。
しかし、多くの消費者に受け入れられ、
ロングセラーになるような製品ほど、
コンセプトは単純でシンプルなものです。
そして、その製品は、
人々の単純な欲求を充たしているだけ、
あるいは単純な問題を解決しているだけなのです。
例えば「甘栗むいちゃいました」という製品は、
栗の皮をむく手間を省いただけですね。
「栗は食べたいけど皮をむくのが面倒」
という単純な問題を解決した
ありそうでなかった製品ですよね。
しかし、「甘栗むいちゃいました」や、
その類似製品は既に定番商品として、
コンビニ、スーパー等の棚に並んでいます。
おかげで、栗の消費量が
大きく拡大したのではないでしょうか。
ドライゼロも同じでしょう。
例えば、
「明日は定期健診だからアルコールは控えよう。
でも、大好きなビールは飲めないのは残念だ。
だから、ビールを飲んでる気分になれる
ノンアルコールビールが欲しい」
といった消費者の単純な欲求に
応えることができたからこそのヒットしたのでしょう。
なお、アサヒのマーケティング部では、
IBMの統計解析ツール
「SPSS Statistics」
を導入しています。
同社では、調査会社任せにすることなく、
担当者自らがデータと向かい合うため、
3年前からマーケターの分析能力強化に
取り組んでいるのです。
ドライゼロ開発のためのリサーチにおいても、
担当者自ら、調査データを徹底的に分析したおかげで、
シンプルながら明快なコンセプトを自信を持って
打ち出せたのでしょうね。
*上記内容は、
日経情報ストラテジー(January 2013)
の記事を参考にしました。
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