女性は「清潔さ」に敏感!
またまた「行動観察」に触発されたお話です。
以前、知人女性が、温泉などの脱衣場では、
「爪先立ちで歩くよ」(床が不潔だといやだから)
と言うのを聞いて、
「そこまで気にするのかあ、大げさだなあ・・・」
と思ったのですが、
同じようにしてる女性って多いんですね。
スーパー銭湯での行動観察結果によれば、
女性に特徴的に見られる行動として以下のような
ものがあったそうです。
・脱衣場の床を爪先立ちで歩く
・洗い場のイスやオケを石鹸をつけて洗う
・サウナ内では、自分で持参したマットをお尻の下に敷く
(マットがない場合に)
私が観察した限り、男性で上記のような行動を
取る人はめったに見たことがありません。
すなわち、男性と比較して、
女性は「清潔さ」に非常にこだわることが明らか。
なぜか?
女性は子を産む性だからですね。
免疫力の弱い赤ちゃんを産み、育てる女性は、
不潔さから来るさまざまな感染の脅威を避けるため、
本能的に清潔さを求めてしまうわけです。
どうりで、トイレがきれいな飲食店は女性に受けがよく、
逆に、厨房がちょっと不潔だったりすると、どうにも
許せないものを感じるんですね。
不潔な格好をした男子を嫌うのも当然。
服は別に新しくなくてもよくて、
きれいに洗ってあって清潔に見えるかどうかが
大事なのだそうです。
なにごとにつけ基本、アバウトな私としては、
「清潔さ」
に十分気をつけたいと思いました。
『ビジネスマンのための「行動観察」入門』
(松波晴人著、講談社現代新書)
投稿者 松尾 順 : 07:31 | コメント (0) | トラックバック
インサイト(洞察)は「データの中」にはない!
先日、「夕学五十講」に登壇された、
大阪ガス行動観察研究所所長、松波晴人氏のお話を
聴いて、改めて実感したことがありました。
(松波氏が行なっている「行動観察」では、
店舗などでの人の動きをひたすら観察して
事実データを集め、その事実データを分析・解釈
して様々な気づき=インサイトを得ています。)
それは、画期的な新製品や、
‘刺さる’広告コピーの開発につながるような
「インサイト」(洞察)
は、「データの中」にはないということです。
では、どこにあるのか?
それは、データを読もうとしている分析者の
「頭の中」
です。
データをいくら眺めても、データの中からは
インサイトは決して出てこない。
データを様々な視点から「分析」し「解釈」する。
その結果として、あなたの頭の中から出てくるのが
「インサイト」
です。
そして、インサイトを取り出すためには、
「統計解析」のようなテクニカルな分析ツールを
駆使することに加えて、マーケティングで言えば、
下記のような様々な学問・研究領域の知見を
「解釈ツール」
として用いなければならないのです。
・マーケティング理論
・消費者行動研究
・社会学
・人類学
・行動経済学
・人間工学
・環境心理学
・社会心理学
・エスノグラフィ
・表情分析
分析ツール活用のノウハウも、
上記のような解釈ツール(学問・研究領域の知見)
活用のノウハウも、すべて分析者の「頭の中」に
存在するもの。
分析・解釈ツールを用いてデータを分析し、
さまざまに解釈してみることで初めて、
分析者の頭の中に「インサイト」が生まれる。
繰り返しになりますが、
データの中にインサイトがあるわけではないのです。
したがって、インサイトを自分の頭の中から
取り出す力を高めるためには、多様な学問分野に
ついての体系的な学習が不可欠になってきます。
さらに言えば、分析者も、
一人の消費者・生活者として、
豊富な実体験を積み重ねていることも必要でしょう。
例えば、分析者自身は朝から晩まで仕事漬け、
人気スポットに行く時間も取れない、
テレビ、映画やスポーツもろくに観ない。
そんな分析者が、一般消費者の意識調査データを
いくら眺め、分析したところで、有効なインサイトは
出てこないと思いませんか・・・?
マーケティング業界ではこれまで、
統計解析のようなテクニカルな「分析力」を
高めることについての議論は盛んに行なわれて
きました。
しかし、「解釈力」の重要性、および、
解釈力を高めるための、学問・研究領域の知見の活用
についての議論はほとんどなされてこなかったように
思います。
しかし、あらゆるビジネス・マーケティング分野に
おいて、日々、膨大なデータが生み出され、
そうしたデータの有効活用が叫ばれている今、
インサイト導出に使える「解釈ツール」を習得すること
の重要性はますます高まっていくのではないでしょうか?
『ビジネスマンのための「行動観察」入門』
(松波晴人著、講談社現代新書)
投稿者 松尾 順 : 09:45 | コメント (0) | トラックバック
雨女、雨男は錯覚?
あなたは、「雨女」「雨男」という自覚がありますか?
(晴れ女、晴れ男を自認されている方もいらっしゃるでしょう!)
もちろん、本気でそう信じている人はいないと思いますが、
「自分が参加するイベント等の日はいつも雨が降っちゃう!」
などと感じる場合の‘いつも’という言葉には、
風評被害やデマが生まれる状況と同様、
「因果関係の錯覚」
が含まれています。
すなわち、
「自分は雨女・雨男だ」
という思い込みが一度生まれてしまうと、
雨が降った日のことだけが強く印象付けられ
記憶されるのです。
そして、実は晴れた日もあったにも関わらず、
雨女・雨男という認識に反する事実は都合よく無視し、
忘却の彼方に追いやってしまうわけ。
同様の例が他にもあります。
慢性の病気や古傷などが、
雨の日や寒い日になると痛くなる、
という話はよく聴きますよね。
いかにもありそうです。
真実の因果関係に感じられます。
しかし、15ヶ月にわたり、
18人の関節リウマチ患者を対象に、
毎月2回、痛みぐあいを報告してもらった調査では、
「天候」と「痛み」の間に相関は見られませんした。
それでも、患者のうち一人を除いて全員が、
天候変化が自分の痛みに関係していると感じて
いたのです。
そして、たとえ「天候と痛みには関係がない」と
説明されたとしても、患者さんとしては、
「やっぱり自分は、雨の日に痛くなるんだよ」
という思い込みを変えることはなかなか難しいようです。
このように、自分の信じたいことや、
思い込みに合致した事実やデータだけを取り込み、
そうでないものを無視してしまうことを
「選択的マッチング」
と呼びます。
プライベートだけでなく仕事や調査研究などでも、
しばしば、私たちは選択的マッチングによる
「因果関係の錯覚」
を起こし、誤まった判断・結論を導いている
可能性があります。
因果関係の錯覚を起こさないためには、
・先入観を捨てて事実やデータを見ること
・科学的なアプローチで検証すること
2点が必要ですが、少なくとも
「自分の思い込みは、100%正しいとは限らない」
という気持ちを常に持っておくべきでしょう。
*関節リウマチ患者の調査は『錯覚の科学』から
引用しました。
『錯覚の科学』
(クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ著、
木村博江訳、文芸春秋)
投稿者 松尾 順 : 09:10 | コメント (0) | トラックバック
お客様の「コントロール感」を奪ってはいけない!
販売や交渉などにおいて、こちらの要求
(商品を購入してほしい、当方の条件を認めてほしい等)
を相手に‘心地よく’受け入れてもらいたいなら、
言い換えると、上手に説得したいなら、
ぜひとも覚えておくべき点がひとつあります。
それは、相手の
「コントロール感」
を奪ってはいけないということです。
コントロール感とは、端的には、
「自分の判断でものごとを決めたい」
という欲求のこと。
人は誰しも、多かれ少なかれこの
「コントロール感」
を持っています。
したがって、相手に選択の余地を与えなかったり、
強制的な物言いをしてしまうと、
「心理的な抵抗(リアクタンス)」
が生まれ、要求が受け入れられなくなります。
さて、この
「相手のコントロール感を奪ってはいけない」
という、「説得における基本中の基本原則」は、
サービスの現場においても重要です。
大阪ガス行動観察研究所が、
某レストランチェーンのホールでの、
接客スタッフの様子を‘行動観察’し、
「優秀店」と「標準店(平均的な店)」との違いを
確認したところ、さまざまな違いが発見されたのですが、
その中には、「コントロール感」に関する違いもあったのです。
客のテーブルに空になったお皿が残っている時、
「お下げしてもよろしいでしょうか?」
と聴き、それに対してお客さまがうなずくなど、
ちゃんと相手の「許可」が得られたことを確認してから
下げるのが優秀店です。
ところが、標準店のホール係の場合、
「お下げしてもよろしいでしょうか?」
と言い終らないうちに、
皿に手がかかっていることがあるのだそうです。
つまり、実際には客の許可を得る前に、
強制的に皿をさげてしまう。
どうせ空の皿ですから、
どちらにせよ下げられても問題はないはず。
それでも、自分が許可を与える前に
勝手に下げられてしまうと、
心がわさわさしてしまうわけです。
というのも、「コントロール感」を
奪われたからなんですね。
上記の例は、たいしたことではない違いに
感じられるかもしれません。
しかし、こうした細かい気配りの有無が、
愛され、リピートされる店になるかどうかの
分かれ目になっているのです。
あなたも、様々な状況における、
お客様とのコミュニケーションにおいて、
相手の「コントロール感」をうっかり奪って
しまっていないか、検証してみたらどうでしょうか?
それにしても、まだビール一口分くらい
残ってるのに、新しいビールと交換に
黙って持っていってしまう店ありますよね。
しかも、「まだ残ってます」などとは、
「セコイ!」と思われるようで言いにくいので、
二重に不愉快です。
そんなお店には私は二度と行きません(笑)
<関連ブログ記事>
<参考文献>
『ビジネスマンのための「行動観察」入門』
(松波晴人著、講談社現代新書)
投稿者 松尾 順 : 09:43 | コメント (0) | トラックバック
風評被害を生み出さないために心がけるべきこと
今回は、風評被害等は
「誤まった因果関係」
から生み出されているという話です。
私たちは、日々の現象の中に一定の
「特徴」や「パターン」
(いつ見てもあまり変わらないことや、
同じような現象が繰り返し現れるものごと)
を見つけるのが得意ですね。
例えば、遠くからでも友人が見分けられるのは、
その友人の「体型」や「歩き方のクセ」などの特徴、
パターンを認識しているからです。
また、複数の現象が「前後して」起こる場合には、
それらの間になんらかの「関係性」を見出したくなる
ものです。
とりわけ、前に起こったできごとは、
その後に続いたできごとの
「原因」
に違いないと思い込む傾向が強いのです。
科学的に検証すれば、
それらにまったく関係がないとしても、
なんらかの「因果関係がある」と信じたいのが人間です。
このため、例えば、
「クロネコが目の前を横切るとろくでもないことが起こる」
といった類の迷信やデマがたくさん生まれてしまう。
では、なぜ私たちは、前後に起きた現象に
「原因・結果の関係」
を発見したいと思うのでしょうか。
それは、原因・結果がわかると未来が予測できるからです。
未来が予測できれば、
「えさ」にありつける可能性が高まったり、
あるいは、自分の身に迫る危険を回避することができる。
すなわち、生存能力がアップする。
ですから、周囲で起こる様々なできごとの中に、
「原因・結果関係」
を発見することは、私たちにとって
とても価値あることなのです。
ただ、この心理的な傾向には弊害があります。
前述したように、科学的にはなんの根拠もない、
つまり、ものごとが‘たまたま’前後して起きたに
過ぎない場合にも、非常にしばしば
「因果関係」
を仮定してしまうという問題です。
実際、世の中には、単なる偶然に過ぎないものに
無理やり因果関係を置いた
「誤った因果関係」
が数え切れないほど流布しており、
社会全体を巻き込むような大問題につながることも
少なくありません。
たとえば、欧米では、
「子供が受けるMMRワクチン(はしかなどの予防のための
3種混合ワクチン)は、自閉症の原因になる」
という「誤った因果関係」を信じる人が相当数います。
これは、イギリスの著名な内科医、ウェークフィールド
博士が1998年に、ワクチンと自閉症の因果関係を発見したと
公表したことが発端です。
彼の報告は、MMRワクチン接種後に自閉症を発症したとされる
子供たち12人のうち、8人の子供の親たちから聞いた言葉に
基づいたものでした。
そもそもサンプルとしての代表性がなく、
かつわずか8人の症例だけで、
「ワクチンと自閉症に因果関係がある」
と言い切るのは、あきらかに間違っていることは
いうまでもないでしょう。
実際、数千~数万人の子供たちを対象とした疫学調査では、
ワクチンと自閉症との間にはなんら関係は見出されなかった
のです。
こうした因果関係が広く信じられてしまった背景には、
ウェークフィールド博士という「権威」が発信した情報と
いうこともあるかと思います。
そして、この誤った因果関係のために
ワクチン接種を拒否する親が増え、その結果、
はしかなどに罹ってしまう子供たちが増加する
事態を招いてしまったのです。
日本でも同じような話がたくさんありますね。
つい最近もネットで拡散されている話として、
「フクシマを食べて応援と言っていた女性が
脳障害になり大変な事態に・・・」
というものがあります。
昨年の夏から福島産の食べものを積極的に買って
食べていた77歳の女性の脳に障害が見つかり、
「痴呆症」と断定された、という内容です。
つまり、
「放射能のせいで脳障害が起きた」
という因果関係をこの話では示しているのです。
実際に、そうなのかもしれません。
しかし、そうでない可能性も高い。
高齢者ですから、なにもしなくても、
痴呆症というか「認知症」になる確率は高い。
つまり、彼女は、フクシマを食べようが食べまいが、
認知症になっていたかもしれないわけです。
彼女が福島産の食品を食べたこと、
そして認知症になったことはそれぞれ「事実」、
しかし、この間に因果関係があるということは、
現時点では単なる
「仮説」(検証される前の「仮の説」)
に過ぎない。
これが事実かどうかは検証を待たなければ
ならないのです。決して、断定できることではない。
問題は、こうした具体的なできごとが、
厳密な統計分析に基づく科学的な研究論文よりも、
はるかに高い説得力を持つことです。
一般化された話よりも、
具体的なひとつの事例のほうが、
私たちの感情を揺さぶるからですね。
ですから、
・上記のような話は単なる「仮説」であると
冷静に受け取ることができる人
・そして、もちろん用心にこしたことはないが、
いたずらに風評被害等を生み出すことになるから、
無条件に信じてしまうのはやめておこうと
考えられる人
は決して多くないのではないでしょうか?
私たちは、風評被害等を起こさないため、
「人には、やたらと因果関係を見つけたいという欲求がある」
ことを理解し、
そしてまた「科学的思考法」を学んで、
「誤まった因果関係」
を自ら生み出さない、むやみに信じないという
姿勢を身につけなければなりません。
ワクチンの事例の出所:
『錯覚の科学』
(クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ著、
木村博江訳、文芸春秋)
投稿者 松尾 順 : 10:03 | コメント (0) | トラックバック
郵送アンケートの回収率がアップする簡単な方法
調査対象者から、「アンケート調査票」を
郵送で回収する場合、回答してくれた人に対して、
後日、500円~1,000円程度の謝礼(「QUOカード」など)
を郵送で送付することが一般的です。
私は以前、回答者に後日謝礼を送るのではなくて、
アンケート調査票を送付する際にあらかじめ謝礼を
同封しておくと、回収率がアップするということを知り、
実際に試したことがあります。
結果は期待どおり、回収率が数パーセントアップ
したことを覚えています。
ただ、謝礼を事前に同封するのは、
調査対象者「全員」に謝礼を渡すことになり、
「ベタ付け」
となるため、総コストが高くなってしまいます。
もちろん、そのおかげで回収率が向上すれば
「費用対効果」
という視点ではOKなのですが。
とはいえ、ベタ付け事前謝礼は、
コスト的な問題と、そもそも回答してくれない人
にまで謝礼をあげることについて感じる
「バカバカしさ(無意味さ)」
といった心理的抵抗もあり、
なかなか実行することはできないものです。
しかし、もっと手軽に、
簡単に回収率をアップする方法もあります。
これは、心理学の実験として行なわれたものです。
調査対象者に対し、アンケート調査を郵送で送付する際、
「調査協力依頼状」(印刷されたもの)
を以下のABCの3パターン作成し、
どのパターンが最も回収率が高いかを検証したのです。
--------------------
A なにも手を加えない調査協力依頼状
B 手書きの短いメッセージ(「協力お願いします」
といったもの)を依頼状の空白部分に記入したもの
C ポストイット(付箋紙)に手書きのメッセージを
書いて、協力依頼状に貼り付けたもの
---------------------
その結果は、
C>B>A
となりました。
すなわち、手書きメッセージの付箋紙が貼られた依頼状の送付者が、
最もアンケートの回収率が高く、次に手書きのメッセージが追記された
ものが高かったのです!
この結果は、説得に用いる様々テクニックを解説した
『影響力の武器』で示された、
「返報性の原理」
で説明することができます。
「返報性の原理」とは、端的に言えば、
「自分が受けた借り(恩)は、返したくなってしまう」
という、私たちがほぼ共通して持っている
「心理傾向」
のことです。
上記のアンケート実験について言えば、
・わざわざ「付箋紙」を貼ってくれたこと
・わざわざ「手書きのメッセージ」を記入してくれたこと
が、調査対象者の感じる「借り」です。
もちろん、調査対象者は調査協力を依頼される側であり、
手書きだろうが、付箋紙だろうが、「借り」と感じるほど
のこともないのですが、それでも、
「私のために手間をかけてくれたんだな」
と‘無意識に’感じてしまうのです。
このため、「アンケートに回答してあげないと悪いかな・・・」と
いう気持ちが高まり、アンケート回収率を引き上げること
になったのだと考えられます。
手書きのメッセージを書いた付箋紙を1枚1枚貼るのは、
手作業ですから、簡単とはいえ面倒で手間のかかること。
しかし、「手間をかけること」が相手に伝わるからこそ、
相手の「借りを返さなければ・・・」という気持ちを
高めることができるのです。
今回のお話は、アンケート調査への応用でしたが、
他のマーケティング施策にも使えることはおわかりでしょう。
例えば、某通販企業では、
購入者に対して手書きの礼状を書く
「手書き礼状書きチーム」
が存在しており、
リピート率を高めることに成功しているのです。
説得テクニックとして「返報性の原理」は、
非常にパワフルなもの。悪用厳禁でお願いします。
投稿者 松尾 順 : 10:33 | コメント (0) | トラックバック
「感情訴求」と「理性訴求」のベストバランス
『宣伝会議』の「座談会記事」において、
ミツカンの安田氏(広告、PR、商品ブランドサイト担当)
は次のように述べています。
“これまで小さな機能の差を訴求しすぎていたのではないかと
考えていました。(消費者は)なんとなく好きだとか
親近感があるといったシンプルな理由で購入を決めている
のではないか、と。”
“特に、食品の場合、競合商品との差は好みの問題になってくる
のに、企業側が理屈をこねくり回していたのではないかと。”
昨日のブログ記事(「感情」で決めて、「理屈」で言い訳)で
ご説明したように、単価が安い食品などでは、じっくりと
比較検討してブランドが選択されることは少ないのです。
多くは、「なんとなく好き」とか「馴染んでいるから」
といった「感情的な理由」で直感的に選択されています。
したがって、対消費者コミュニケーションにおいては、
まず、感情を揺さぶり、端的に言えば「いいな!」と
感じてもらえる「感情訴求」を重視する必要があります。
ところが、安田氏の発言を読むと、
日常生活で利用される食品を作っているメーカーでさえ、
機能や性能、品質などの「規格競争」に陥りがちであり、
対消費者コミュニケーションにおいても、
理性に訴える=「理性訴求」
に重点を置きすぎてしまう傾向があることがうかがえます。
実際、ロッテにおいても、
“最近の商品の傾向として、「お口のエチケット」や
「ミント味」など、商品の品質の良さや機能性価値を
追求するものが多く、自分の感性にあった商品を衝動的
に購入する傾向のある若年層には魅力的に映っていない
のではないか?”
(宮下慎氏、ロッテ・ブランド担当ガム企画室主査)
という仮説にたどり着いたとのこと。
そこで、刺激が強く、爽快感のあるガム、
「ZEUS」
の新発売キャンペーンでは、20代男性をターゲットに、
「感性的に買って体験するという消費行動」
を起こすことを狙った「感情訴求」が主体の
コミュニケーションが展開されたのです。
さて一方で、「スバル」の富士重工業、
岡田貴浩氏(広告担当)は、宣伝会議の座談会で
「ぶつからないクルマ?」
のキャッチフレーズで訴求した運転支援システム、
「アイサイト」について次のように述べています。
“このキャッチフレーズでは端的に機能を訴求しました。
実は最近、情緒価値だけではお客さまが動かなくなった
と感じているからです。例えば、キャンプに行くのも、
4WDではなく軽自動車でも構わないと思う方が増えて
いる時代、「この車に乗って、どこにいこう・・・」
という世界観で伝える表現は響かなくなっています。”
自動車は、高額の耐久消費財であり、
本来、十分に比較検討してブランドが選択される商材です。
しかし、とんがった特徴のあるクルマが少なく
(特に日本車は)、規格面での差異が小さいため、
情緒的価値を付加するしかない、すなわち、
「感情訴求」
をこれまでは重視するしかなかったということでしょうか。
ところが、「ステータス」、あるいは「横並び」といった
他者を意識した選択ではなく、自分なりの独自の価値観に
基づいてブランドを選択する人が増えてきた今、
企業が一方的に押し付ける
「世界観」
にはなかなか共感してくれなくなったものと考えられます。
幸い、アイサイトの場合、まだ競合他社が採用していない
最先端の技術であり、明確な差異を示すことができたため、
「購入すべき理由」
として、理性的な訴求が効果的でした。
しかし今後、競合他社が類似の技術で追いつき、
機能上においては差異がほとんどなくなった時には、
やはり
「感情訴求」
の重要性が増してくるでしょう。
(もちろん、どうやったら、感情レベルで消費者の心を
掴むかというのは難しい課題です。)
昨日の記事で示したとおり、
感情レベルで消費者の心をつかむことと同時に、
理性的なブランド選択に資する「購入すべき理由」
をも示すことが重要です。
したがって、対消費者コミュニケーションにいては、
状況に応じた最適な
「感情訴求」と「理性訴求」のベストバランス
を模索しなければならないと言えるでしょう。
引用文の出所:
『宣伝会議』(2012.7.15)
『販促会議』(July 2012)
投稿者 松尾 順 : 09:45 | コメント (0) | トラックバック
「感情」で決めて、「理性」で言い訳
嬉しい、悲しい、楽しい、むかつく、幸せ、好き・・・
こうした様々な感情は、何かを見たり聴いたり体験した際、
自然に湧き出てくるものです。
感情は「自然に湧き出てくる」、言い換えると
「無意識」に発生するため、感情の湧出自体を抑える
ことはできません。
というのも、「楽しいな!」などと、
自らの感情を知覚できた時には、当然ながら、
すでにその感情は生まれた後だからです。
(もちろん、湧いてしまった感情が高まり過ぎないように、
操作することは可能ですね。例えば、怒りの感情が湧いた時、
深呼吸するなどして、暴言を吐いたりしないように気をつける
とかです。)
すなわち、私たちはあらゆる状況において、
なんらかの「感情」が「理性(思考)」に先立って
発生しているのです。
消費行動においても同様です。
ある商品・ブランドを見たとき、私たちの心の中には、
「かわいい」とか、「きれい」とか、「ダサい」とか、
パッと無意識に何らかの感情が生まれています。
そして、ある脳科学の実験によれば、
脳の変化を測定し、様々な商品・ブランドを
見た際の感情を捉えることで、
「この商品を欲しい」
と実験協力者が意思表明する以前に、
その人が購入したいかどうかを予測できることが
わかっています。
すなわち、私たちは、無意識の領域で生まれる「感情」
に基づいて、商品・ブランドを購入したいかどうかを
直感的に決めていると言えるでしょう。
ただし、その後、詳細な仕様や価格、アフターサービス
の有無などを比較検討する「理性(思考)」のプロセスが
入りますので、必ず購入に至るわけではありません。
(ガム、スナック菓子など、単価が安く身近な商品では、
思考プロセスが省略され、多くは感情のみで購入されますが)
ですから、感情レベルで「とても欲しい!」と思っている
消費者は、「購入すべき理由」を無理やり見つけ出そうと
します。(笑)
あるいは、ともかく購入してしまった後で、
「後付けの理由」をもっともらしく語ることもあります。
アンケート調査のような、従来の消費者調査の有効性が
疑われてきた理由のひとつがここにあります。
アンケート調査では、回答者の「言語」によって、
購買理由等を聞きますが、言語化された時点で、
理性のフィルターを通ってくるため、回答者の
本当の感情(=本音)を知ることが難しいからです。
そこで、「直接脳に聴こう」、「感情を測定しよう」と
する試みが、脳科学の技術を利用した、近年注目を
集めている「ニューロマーケティング」です。
ニューロマーケティングについては、
今後、様々な切り口でご紹介していきたいと思っています。
今回、記憶にとどめて欲しいのは以下の点です。
・私たちは、自分の商品・ブランド選択において、
多くの場合、「感情」で決めて「理性」で言い訳している。
・したがって、マーケターは、まず感情レベルで
消費者の心を掴まなければならない。
・同時に、理性(思考)を納得させられる「購入すべき理由」
を提示しなければならない。
*ご参考:
ニューロマーケティング ~消費者は買わされている?~
(NHK BS世界のドキュメンタリー)
投稿者 松尾 順 : 11:27 | コメント (0) | トラックバック
信頼される営業パーソン vs 信頼されない営業パーソン
信頼される営業パーソンと、
信頼されない営業パーソンの違い。
もちろん、その答えは一つではなく、
様々な違いが挙げられます。
ただ、信頼される営業パーソンとなるために
第一に重要なのは、
「お客さまの視点から見て、扱い商品についての
“専門家である”と感じてもらうこと」
です。
では、“専門家である”と感じてもらうには
どうしたらいいのでしょうか?
具体的には、商品についての詳細な情報や、
関連情報を暗記しており、「空(そら)」で
説明できることです。
また、お客さまからの様々な質問に「即答」
できることです。
専門家とは、専門分野についての知識が人よりも
豊富であり、空でも語れるくらい頭に入っている人。
だから、専門分野についての質問に的確、迅速に
答えられる。そうした人が専門家として認められ、
信頼されることになります。
ですから、逆に言えば、細かい数字を交えた商品情報や、
様々な関連情報が口からスラスラと出てきて、
質問にもその場ですばやく回答できるくらいになると、
お客さまに
「彼・彼女はよくわかっている」「専門性が高い」
と感じてもらえ、信頼性が高まるというわけ。
テレビショッピングでの、
ジャパネットたかたの高田社長のトークは、
商品の特徴やメリットを早口でマシンガンのように
語る独特のスタイルです。
基本的に、セールストークにおいて、
早口はあまり好ましくないとされています。
しかし、高田社長の場合、
「早口で、弁舌滑らかに語ること」
が、彼の専門性の高さ、つまり「専門家」という
イメージを与え、信頼性を高めることに成功しています。
一方、商品パンフをただ棒読みするだけ、
お客様からの質問に対しても、要領の得ない回答しか
できない営業パーソンは、まったく信頼されません。
(そんな営業パーソンは決して少なくないですね・・・)
ビジネスパーソンは、お客様の心を打つような
「熱意」
が大切だとも言われます。
確かに熱意も大切ですが、
第一に「信頼」されなければ意味がないのです。
「まだ(扱い商品について)よくわかってないようだけど、
あなたの熱意に負けたよ」
などと言って、契約してくれる奇特な人はそうそういません。
営業パーソンは、まずしっかりとした専門知識を
身につけ、それを空で語れるくらいになる必要がある。
(必ずしも、弁舌滑らかでなくてもいいけれど)
もちろん、お客様の状況や抱えている問題・課題を
考慮しない、一方的なセールストークは逆効果になります。
自分が持つ専門知識と、製品・サービスを通じて、
相手の問題解決やニーズ充足に役立ちたいという姿勢を
示すことも重要です。
専門知識を自分への「利益誘導」のためではなく、
相手を利することのために役立てようとしている人の言葉には、
「信憑性(しんぴょうせい)」が感じられます。
専門家としての「信頼性」と、相手のお役に立ちたいという
「利他の心」の両方を兼ね備えている人こそ、
指名や紹介がガンガン入るトップ営業パーソンになれるのです。
投稿者 松尾 順 : 09:53 | コメント (0) | トラックバック
予期しないものは見えない(注意の錯覚)
私たちは、周囲の状況をすべて、
「ありのまま」に見ているわけではありません。
というのも、ありのままを情報として取り込むには、
情報量が多すぎて脳の処理能力を超えてしまうからです。
したがって、その時点で自分にとって
関心がある、重要な情報に「注意」を絞りこんで、
「なんらかの変化の発生」
を予期しながら、
脳内に取り込む情報を取捨選択しています。
このため、「選択的注意」の実験として有名な、
『見えないゴリラ』
のようなことが日常でもよく起きるのです。
このビデオをご存知ない方は、まずは素直に
「動画の指示」(白いシャツを着たチームが、
バスケットボールを何回パスしたかを数える)
に従ってみてください。
いかがでしたか?
すでにヒントが与えられているので、
ゴリラを見落とした方は少なかったかもしれません。
しかし、最初に行なわれた当実験では、
ビデオを見た人の半数近くが「ゴリラ」の登場を
見落としたのです。
「パスの回数を数える」という目的のため、
白シャツの人々の動きに「注意」を集めていると、
ゆっくりと横切る「ゴリラ」を見落とすというのは、
驚くべきことですよね。
おそらく、眼球では、ゴリラの存在を知覚していた
はずですが、脳内で情報処理(認知)されなかったので、
「見えなかった」ということになったのです。
ここで、「見えているはずのものを見落とす」
ということについては、
「他のことに注意を向けていたから」
という理由に加えて、もうひとつ
重要なポイントがあります。
それは、
「予期しないできごとは見落としやすい」
ということです。
先ほどの実験では、バスケをやっている人々の動画に
まさか「ゴリラ」が登場するとは予期していなかったことが、
見落とす割合を高めたのだと考えられています。
実は、
「予期していないできごとは見落としやすい」
という私たちの認知の限界(「注意の錯覚」)は、
私たちが遭遇する様々な事故の発生原因ともなって
いるのです。
例えばバイク事故では、自動車ドライバーが、
前方反対車線からバイクが直進してきていることを
見えているはずなのに、強引に左折(日本では右折)
しようとして起きる割合が高いそうです。
ところが、バイク事故を起こしたドライバーは、
「突然バイクが目の前に現れた」
などと証言するのです。
つまり、バイクが来ていることをわかっていながら、
強引に曲がろうとしてわけではないと。これは一見
「言い訳」にも聞こえますが、実際に見落としていた
可能性が高いのです。
なぜなら、自動車ドライバーにとって、
他の自動車に比べて、バイク(自転車等)は、
遭遇する回数がはるかに少ないため、
「予想外」
の存在になっているからです。
すなわち、自動車ドライバーにとって
予期しないバイクの登場は見落としやすいのですね。
ですから、バイクの数が増加すれば、
自動車ドライバーにとって彼らの登場は、
予想外のものではなくなり、事故が減少していく
可能性が考えられます。
近年、日本では趣味や通勤で自転車に乗る人が
増加しており、その結果として、自動車と自転車の
事故が増加傾向にありました。
しかし、最近の統計を見ると減少する傾向にあります。
自転車に乗っている人が、自動車事故に遇わないように
危険を避ける方法を学んだということもあるでしょうが、
むしろ、自動車ドライバーにとっては、自転車が道路上の
ありふれた存在となったため、
「予期できる存在」
になったことが大きいのではないでしょうか?
実際、カリフォルニア各都市と、ヨーロッパ数カ国に
を対象に、歩行者および自転車が遭遇する事故の割合を
調べた調査によれば、歩行者と自転車が事故に遭う件数は、
・自転車・歩行による移動が最も多い都市で最も少なく
・自転車・歩行による移動が少ない都市で最も多かった
であり、直感的な思い込み(自転車・歩行者が多いほど、
事故も多いだろう)と反した結果になっているのです。
さて、これまで述べてきた認知限界=注意の錯覚は、
裏返せば、「集中力」を発揮しているということであり、
それ自体がネガティブなものではありません。
そして、日常生活のほとんどの「見落とし」は、
トラブルになることもなく、取るに足らないものです。
しかし、自動車・自転車等の運転や、危険な工具類を
利用している時など、何らかのトラブルが大事故に
つながりねない状況では、私たちは誰もが、
「注意の錯覚」
を持っているのだ、という自覚が必要となるでしょう。
*以上の内容は、『錯覚の科学』を参考にしました。
『錯覚の科学』
(クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ著、
木村博江訳、文芸春秋)
投稿者 松尾 順 : 11:15 | コメント (0) | トラックバック
「自己実現的人間」とは?
マズローの欲求段階説において、
最高次に位置づけられるのは、
「自己実現の欲求」
でした。
そして、人の行動が主として「自己実現の欲求」
によって動機づけられている人、すなわち、
自己実現欲求に突き動かされて日々の生活を
送っている人々のことを
「自己実現人間」
と呼びます。
マズローの独断的な見立てによると、
自己実現の欲求に満足している度合いは
「10%程度」
ということですから、真の「自己実現人間」と
呼べる人は極めて少ないことがうかがえます。
さて、「自己実現人間」と呼べる人々の特徴は
どのようなものでしょうか?
マズローは、個人的な好奇心からこの研究に取り組みました。
有名人(晩年のリンカーンやトマス・ジェファーソン、
アインシュタイン、エリノア・ルーズベルトなど)、および、
個人的な知人・友人などを被験者として選び、
自己実現人間に見られる特徴を整理したのでした。
(なお、この研究手法に対して、彼自身、信頼性や妥当性など
に問題があることを認めています)
では、マズローの論考に基づいて、
「自己実現人間」の主要な特徴をまとめてみましょう。
------------------------------------
1.現実をありのままに見ることができる。
“子供が偏りや批判のない無邪気な目で世界を眺め、
事実をありのままに観察し、いたずらに論じたり、別のもので
あればと願ったりすることがないように、自己実現人間も、
自分自身や他の人々の人間性を、そのまま受け止めるのである。”
(『人間性の心理学』P232)
かれらは、病や死に直面した時でさえ、
それをいい意味の「諦め」で受容できます。
私たちは、大人になればなるほど先入観、固定観念の固まりとなり、
あらゆる物事を色眼鏡をかけて解釈するようになります。
ありのままの事実ではなく、自分が見たい、知りたい事実のみを
受け入れ、あるいは事実そのものをねじ曲げてしまう。
このような態度は、しばしば他者とのトラブルや、
未知や新奇なものに対する拒絶を生み出し、自己の成長の機会を
逃してしまうことにつながります。
しかし、自己実現人間は、自分にとって不快であったり、
異質なできごと、人間性を素直に受け入れることができる。
そして、「あるべき姿」(理想)とのギャップを認識しつつ、
しかるべき対応を行なうことで、よりよい方向へと状況を変える
ことができるのです。
自己実現人間は、「自然体」が身についた人と言えるでしょう。
------------------------------------
2.「成長」に動機づけられている。
“彼らにとって、動機づけとはまさに人格の成長であり、
性格の表現であり、成熟であり、発展である。”
(『人間性の心理学』P238)
自己実現は、最高次の欲求ですから、自己実現人間は、
基本的に、下位の欲求、すなわち、生理的欲求、安全欲求、
愛と所属の欲求、承認欲求などに対する満足度が高い人々。
これらは、「ないから満たされたい」という欠乏欲求であり、
自己実現欲求は、こうした欠乏がある程度満たされたからこそ
優勢になってくる「成長欲求」です。
端的にいえば、「よりよき人間になりたい」「自分の技など、
強みを極めたい」という内面的な欲求に突き動かされている
のです。
外部から満たしてもらえるようなものではない欲求であり、
また、限りのない欲求です。
メジャーリーガーのイチロー選手もまた、
自己実現欲求に動機づけられている「自己実現人間」で
あることは間違いないですね。
彼は、自分自身を極めようとしている。
安打を何本打つとか、打率4割を超えるといった数値や記録を
軽視しているわけではありませんが、そうした通過点に過ぎない
結果よりも、「成長させ続けたい」という欲求が根底にある。
だからこそ、どのようなときでもフラットな心境、
つまり「自然体」でいられるのでしょう。
------------------------------------
3.課題中心的である。
“彼ら(自己実現的人間)は、自己中心的というよりも、
課題中心的なのである。一般に、彼ら自身が彼らの問題と
なることはなく、自分のことで気をもんだりしない。”
(『人間性の心理学』P238)
“彼らはけっして木を見て、森を見失うということはないように
思われる。彼らは、広くてちっぽけでない、普遍的で偏狭でない、
また世紀単位であり、瞬間的でない価値の枠組みの中で仕事をする。”
(『人間性の心理学』P239)
自己実現的人間は、もちろん、「私利私欲」も多少はあると思いますが、
それ以上に、世界、社会といった、大きな枠組みの中での何らかの使命や
達成すべき義務のようなものを感じて、行動していると言えます。
自分のためではなく、自分の外にあるなんらかの「課題」
(おそらく様々な社会的問題)の解決に取り組むことを第一関心事
としているのが自己実現的人間です。
「貢献したい」という欲求が強いのが自己実現人間と言えるのかも
しれません。
------------------------------------
自己実現的人間の特徴をひとことでまとめるなら、
「純真・素直で、成長欲求が強く、使命感を持っている人」
となるでしょうか?
さて、先ほど、自己実現の欲求は最高次の欲求であり、
低次の欲求がある程度満たされてから出てくる欲求であると
申し上げました。
しかし、ひょっとしたら、上記の特徴のような行動を無意識に、
あるいは意識的に取れるような人間こそが、結果的に食料や安全、
愛、所属、尊敬、承認といった下位の欲求を満たすことができる
のではないかと、個人的には感じるのですがいかがでしょうか?
『人間性の心理学-モチベーションとパーソナリティ』
(A.H.マズロー著、小口忠彦訳、産能大出版部 改訂新版)
投稿者 松尾 順 : 11:47 | コメント (0) | トラックバック
マズローの「欲求‘7’段階説」(2)
マズローが人の行動を駆り立てる「基本的欲求」と
して示した7つの欲求は、以下の通りでした。
---(欲求7段階説)------------------
1 生理的欲求(食物、水、空気、性等)
2 安全の欲求(安定、保護、恐怖・不安からの自由等)
3 所属と愛の欲求(集団の一員であること、他者との愛情関係等)
4 承認(自尊心)の欲求(有能さ、自尊心、他者からの承認等)
5 認知の欲求(知ること、理解すること、探求すること)
6 審美的欲求(調和、秩序、美の追求)
7 自己実現の欲求(自分がなりうるものになること)
(『ヒルガードの心理学』)
------------------------------------
上記7つのうち、次の2つの欲求は、
これまでほとんど紹介されることはありませんでした。
・認知の欲求(知りたい、理解したいといった欲求)
・審美的欲求(調和、秩序、美を求めること)
前回は「認知の欲求」を取り上げました。
今回は「審美的欲求」について考えてみましょう。
マズローは、著作『人間性の心理学』において、
“壁に曲がってかかっている絵を見てまっすぐにしたいという
強い意識的衝動をもつ場合、それは何を意味するのであろうか?”
と述べています。
「強い」かどうかは個人差があると思いますが、
ほとんどの人が、まっすぐにしたいと思うのではないでしょうか。
おそらく、動物たちで「曲がっているとなんとなく気持ち悪い」と
感じるものはいません。
そういえば、自然界には「直線」は存在しないのです。
私たちが人口的に作る「直線」が日常にあふれているのは、
「秩序」を生み出しやすいからなのかもしれませんね。
興味深いことですが、私たちが調和が取れている、
美しいと感じる形状、音楽にはある程度共通性があります。
たとえば、長方形の形。縦と横の長さの比がある一定の数値の
ものに対して、私たちは無意識に「美」を感じ取ります。
同様に、人の顔が「美しいかどうか」について、
ある程度評価が一致します。よく「均整の取れた顔」と
言いますが、「左右対称性」(シンメトリ)が評価の
ポイントであることが各種研究からわかっています。
そして、そうした均整の取れた顔、また顔色を見て私たちが
感じるのは、肉体の健康さです。(もちろん、外見だけで、
正しい判断ができるとは限りませんが)
つまり、より好ましい伴侶を見つける「手がかり」として、
バランスや色合いといったものに対する、ある程度誰にでも
共通した美的感覚を発達させた可能性があります。
大自然の中に「美」を見出し、それらを愛でる心もまた、
環境変化に対する感受性を磨き、適応能力を高めることに
役立っていると思われます。
さて、なぜ、特に人間だけが、
「審美的な欲求」を持つのか(あるいは強いのか)について、
まだ私自身勉強不足です。
ただ、ひとつ考えられるのは、人間だけが自然に従うのみならず、
人工的な環境を生み出すことができる能力を持っていることが、
「審美的欲求」を発達させたのではないか、ということです。
私たちが生み出した人工的な環境、要するに「人間社会」で
追求するのは、できるだけ安定し、破綻のない構造であり仕組み
です。そのためには、秩序、調和といったものを形成したい、
保ちたいという欲求が必要になる、このことが「審美的欲求」を
私たち人間が持つようになった要因ではないかと考えています。
あなたの考えもぜひ聴かせてください!
『人間性の心理学-モチベーションとパーソナリティ』
(A.H.マズロー著、小口忠彦訳、産能大出版部 改訂新版)
『ヒルガードの心理学』
(スーザン・ノーレン・ホクセマ他著、内田一成訳、金剛出版)
投稿者 松尾 順 : 06:26 | コメント (0) | トラックバック
マズローの「欲求‘7’段階説」(1)
昨日取り上げた
「マズローの欲求段階説」
には「5つの欲求」が含まれている、
という解説が一般的です。
マズローは、これらの欲求は、
人をなんらかの行動に駆り立てる
「動機づけ」
として働く基本的な要因であるとして、
「基本的欲求」
と呼んでいます。
実は、彼の著作『人間性の心理学』では、
基本的欲求として、5つの欲求に加えて
以下の2つの欲求が解説されているのです。
・認知の欲求(知りたい、理解したいといった欲求)
・審美的欲求(調和、秩序、美を求めること)
同書では、他の5つの欲求との階層関係は、
明確には語られていません。
しかし、
・認知の欲求-知りたい、理解したいという欲求、
・審美的欲求-調和、秩序、美を追求したいという欲求
という欲求の性質を考慮すると、
低次の欲求がある程度満たされないと発現しない欲求
であることは明白かと思います。
米国で最も権威のある心理学テキストのひとつ、
『ヒルガードの心理学』
では、認知、審美的欲求を含めた「欲求7段階説」として
解説されており、以下のような順番に並べてあります。
---(欲求7段階説)------------------
1 生理的欲求(食物、水、空気、性等)
2 安全の欲求(安定、保護、恐怖・不安からの自由等)
3 所属と愛の欲求(集団の一員であること、他者との愛情関係等)
4 承認(自尊心)の欲求(有能さ、自尊心、他者からの承認等)
5 認知の欲求(知ること、理解すること、探求すること)
6 審美的欲求(調和、秩序、美の追求)
7 自己実現の欲求(自分がなりうるものになること)
------------------------------------
おそらく、ある程度生活の基盤が確立し、
自尊心や他者からの承認も得られている状況において、
ようやく精神的余裕ができてくるため、
「認知の欲求」や「審美的欲求」も優勢になってくる
ということでしょうか。
さて、欲求の順番はさておき、これまであまり意識されて
こなかったけれど、実のところ極めて重要だと思われる、
この「2つの欲求」について考えてみましょう。
今日はまず、「認知の欲求」について。
知りたい、理解したい、探求したいといった欲求は、
「好奇心」がベースにあるものと言え、人間だけでなく、
高等動物全般にも明確に見られるものです。
認知欲求は、自分の生活環境を正確に知り、
理解すること(=学習することによって、様々な危険を
うまく回避したり、食料や伴侶をより高い確率で手に
入れることに寄与します。
つまり、自らの「生き残り」や「種の保存」に
つながるわけですから、人間も含む動物に共通する、
かなり根源的な欲求と言えるのかもしれません。
マズローは、『知り、理解したいという欲求は、
幼児期・児童期に見られ、おそらく成人期よりも
強いのではないか』と述べています。
小さいうちは、世の中知らないことだらけですから、
強い好奇心を発揮するのも当然でしょう。
しかし、大人になるにつれ、好奇心は相対的に
弱くなりがちですし、社会的制約、現状に対する
あきらめなどから
「知的無気力」
が生まれるなど、「精神的病理」と深く関係している
ことをマズローは示唆しています。
現代の日本では、ある程度低次の欲求が
満たされているシニア層においては、とりわけ「認知的欲求」が
高まっている傾向がうかがえますよね。
つまり、自治体やカルチャーセンター、大学などが
主催する社会人向けの学校に積極的に出向き、
歴史、文化、芸術など、様々な分野の知識を貪欲に学ぶ
ことに大きな喜びを見出しています。
また、若年・中年層においても、
環境変化の激しい現在、文字通り
「生き残り」
のために、新たな知識を積極的に学ぶ人々が
増えていると考えられます。
(同時に、「あきらめか」らくる「知的無気力」に
陥る人も同時に増えているかもしれません)
ちなみに、茂木健一郎氏は、
「一大教養時代が来る」
と予言しています。
「知ること」は最大の快楽。
知識欲は満腹になることがない、
すなわち限りがないからです。
マーケターとしては、対象とする顧客の
「認知欲求」
を満たすために、どんなコンテンツや
コミュニケーションが有効なのかを考えて
みるべきではないでしょうか?
(A.H.マズロー著、小口忠彦訳、産能大出版部 改訂新版)『ヒルガードの心理学』
(スーザン・ノーレン・ホクセマ他著、内田一成訳、金剛出版)
投稿者 松尾 順 : 10:20 | コメント (0) | トラックバック
マズローの「欲求段階説」に対する誤解を解く
マーケターの皆さんが最もよく知っている心理学説は、
「マズローの欲求段階説」
でしょう。
さて、この欲求段階説に対する大きな誤解(間違った思い込み)
の一つは、
「下位の欲求が100%満たされないと上位の欲求は現れない」
というものではないでしょうか。
しかし、現実にはそうではないこと、マズロー自身も
上記のようには主張していないことを、マズローの著作
『人間性の心理学』に基づいて解説しましょう。
まず、欲求階層説とは何かについて復習です。
基本的に、以下の5段階が基本的欲求として示されています。
-------------------
1 生理的欲求(食物、水、空気、性等)
2 安全の欲求(安定、保護、恐怖・不安からの自由等)
3 所属と愛の欲求(集団の一員であること、他者との愛情関係等)
4 承認(自尊心)の欲求(有能さ、自尊心、他者からの承認等)
5 自己実現の欲求(自分がなりうるものになること)
-------------------
そして、一般的には、1番目の「生理的欲求」を最下層に、
5番目の「自己実現欲求」を最上層においた「ピラミッド図」
(もしくは「台形図」)で、階層(上下)関係が示されます。
こうした階層図を見ると確かに、5種類の欲求は
「下から順番に満たされていくもの」
という誤解をしてしまうのも無理はないかもしれません。
しかし、マズローは次のように説いているのです。
“我々の社会で正常な大部分の人々は、すべての基本的欲求に
ある程度満足しているが、同時にある程度満たされていない
のである。”
そして、平均的な人のそれぞれの満足度合いについて、
マズローは独断的と言いながら、以下の数字を示しています。
1 生理的欲求:85%
2 安全の欲求:70%
3 所属と愛の欲求:50%
4 承認の欲求:40%
5 自己実現の欲求:10%
社会としてある程度安定した状況にある国に住む人々、
私たち日本人もそんな幸運な状況にある人々だと思いますが、
上記はある程度納得感のある数字ではないでしょうか?
そもそも、マズローは5つの欲求について、
これらが欠乏したときに優先して満たされるべきもの
つまり「より優勢なもの」の順番を示したのです。
例えば、「食事」と「安定」が両方欠乏している状況では、
生理的欲求がまず優先されるでしょう。(だからといって、
食欲が100%満たされなければ、安定を求めないというわけ
ではないことはおわかりかと思います。)
また、「安定」と「愛情」が両方欠乏している状況では、
多くの場合、「安定」が優先されます。
(とはいえ、どんな状況であれ、安定だけでなく、
ある程度愛情も求めるものでしょう)
マズローは、5つの欲求の「より優勢かどうか」に基づく
上下関係は、決して不動のものではないとも主張していました。
個人や社会、状況によっては入れ替わることもある。
あるいは、しばしば見られることですが、愛・所属の欲求や
承認欲求が十分に満たされている人の場合、空腹や不安などの
下位の欲求が満たされない状況に‘耐える力’があります。
また、生まれながらにして、創造への動機(例えば、絵を描かない
といられないといった、天才芸術家に見られるような衝動)が強い人は、
生理的欲求や安全的欲求が満たされなくとも、ひたすら自己実現的な
欲求を満たそうとします。
さらにマズローは、人の様々な欲求充足行動に対して、
その要因をひとつの欲求から来るものと考えるべきではないとも
述べています。
個人のある行為を分析すると、その中には、その人の生理的欲求、
安全の欲求、愛の欲求、自尊心の欲求、自己実現の欲求の、
それぞれの表れを見い出すことが可能だと、マズローは指摘して
いたのです。
マズローの欲求階層説は、消費者心理・行動を理解する上で
有用な仮説のひとつであることは間違いありませんが、固定的な
枠組みとして把握しない、活用しないようにしたいものです。
『人間性の心理学-モチベーションとパーソナリティ』
(A.H.マズロー著、小口忠彦訳、産能大出版部 改訂新版)
投稿者 松尾 順 : 11:38 | コメント (0) | トラックバック
衝動買いをしなくなってる消費者
従来、主婦の皆さんが、
「今夜作るメニューを何にするか、どの食材を購入するか」
は、スーパーマーケットなどに買い物に出かけ、
店頭であれこれ食材、特売品を品定めしながら決めている
ということが言われてきました。
実際、事前に購入するものを決めていかない、いわゆる
「非計画購買」の割合は、およそ7割-8割とのいう調査結果が
これまでは得られていたのです。
ところが、近年は逆に、メニュー・購入品目を事前に
決めてからお店にやってくる「計画購買」をする主婦が
増加傾向にあるようです。
スーパーの販売促進支援の「アットテーブル」が、
毎年行なっている全国主婦1万人調査によれば、
「事前にメニューを決めている」
という主婦の割合は、全体で6割、
20代~30代だけでみると、7割に上るのだそうです。
なお、60代以上の主婦はあいかわらず、
店頭でメニューを決める割合が高くなっています。
このように、若い主婦を中心として、
店頭での衝動買いが減っているという現実は、
店舗での販売促進活動の効果の低下をもたらす可能性が
あり、マーケターとしては見逃せない消費行動の変化です。
では、なぜ計画購買が増えているのでしょうか?
手軽に迅速に情報収集できるネットの普及が、
この背景にあることはおそらく間違いありませんよね。
また、働く主婦が増え、日々忙しい中、
買い物に当てる時間が十分にないという社会環境の
変化もあるでしょう。
PC、あるいはスマホを使ってネットで検索すれば、
様々な店舗の品揃え、特売情報がすぐに比較できます。
また、どんな献立にするかも、「クックパッド」を
始めとして、様々なレシピサイトがあります。
つまり、事前に十分な情報が入手可能なので、
お店に行く前に購入品目を決めることが簡単にでき、
おかげで、店頭でどれを買うか迷わずに済むので、
買い物時間が短縮できるというわけです。
そもそも、主婦に限らず、ネットを活用している人は
「衝動買い」
をする割合が減っているのではないでしょうか?
テレビショッピングや、ECサイトで特売品を見つけて、
「欲しい」と思っても、すぐに購入ボタンをクリックせず、
「同じ製品でもっと安いサイトが他にあるかもしれない」
あるいは
「類似品でもっとコスパの高い製品があるかもしれない」
と思ってネット検索しませんか?
そして、いろいろ検索して情報を見ているうちに、
「本当にこれ必要かな?」
なんて冷静になって、結局購入しなかったり・・・
ネット普及による、消費者の情報収集力向上によって、
衝動買い、非計画購買が減少しつつあるとすると、
テレビショッピングでよく見られる、表層的な
「煽りテクニック」(限定xx個、タイムセールなど)
の効果も低下していくかもしれません。
*販促会議(2012 July)の記事を参考にしました。
投稿者 松尾 順 : 11:27 | コメント (0) | トラックバック
行動経済学と「精緻化見込みモデル」
行動経済学の権威、ダニエル・カーマンは、
私たちの「思考(判断や意思決定)方法」には
「2つのシステム」
があることを示しています。
2つのシステムとは以下の通り。
-------------------
・システム1
直感的な情報処理を行なうもの。
多くは過去の行動、経験や記憶、ちょっとした手がかり
に基づいて簡便に迅速に判断します。
消費行動であれば、「いつも購入しているから」と
いう理由で選択する場合は、システム1を採用しています。
「ちょっとした手がかり」というのは、単に、
「友人が持っているから」「好きなタレントが宣伝してるから」
といった、表面的な選択理由のことです。
・システム2
合理的・論理的情報処理を行なうもの。
様々な情報を多面的に評価・検討し、熟慮した上で
できるだけ合理的に判断する方法です。
-------------------
人は、時と状況に応じて「システム1」と「システム2」を
使い分けています。なぜなら、思考すると時間とエネルギーを
節約するためです。
例えば、「歯ブラシ」を買い換えるたびに、
「今回はどのブランドにしようかな?」
と熟考する人は少ないと思います。
ほとんど思考停止状態で、「いつものやつ」を
買い物カゴに入れるのではないでしょうか?
(システム1)
一方、「自動車」を購入するとなったら、
即金で買えるリッチマンを除き、どのメーカー・車種に
するか、じっくりと時間をかけて検討するはずです。
(システム2)
行動経済学では、直感に頼った簡便な意思決定方法である
「システム1」が、意思決定に対して様々なバイアスを
与えていることを指摘し、こうした様々なバイアスを
生み出すものを「ヒューリスティック」と呼んで研究対象と
しているわけです。
-------------------
さて、消費者行動研究でも類似の仮説がありました。
「精緻化見込みモデル」(Elabration Likelihood Model)
です。
これは、広告などのマーケティングコミュニケーションに
対する消費者の情報処理方法についての理論。
以下の通り、やはり「2つの方法」を
私たちは使い分けているという考え方です。
-------------------
・周辺的処理ルート
対象商品(カテゴリー)に対する関与度(関心やこだわりの
強さ)が低く、かつ(あるいは)情報処理能力があまり
高くない場合に採用されやすい。
直感的、経験的、表面的な手がかりに基づいたブランド選択。
システム1に対応
・中心的処理ルート
対象商品(カテゴリー)に対する関与度が高く、
かつ、情報を的確に評価できるだけの情報処理能力が
ある場合に採用されやすい。
合理的、論理的にブランドを選択する。
システム2に対応
--------------------
この「精緻化見込みモデル」は、
様々なカテゴリーの商品に対して意思決定プロセスが
異なることを説明するモデルとして有益でした。
ただ、実際に、マーケティングコミュニケーションを
組み立てることにはそれほど役立たなかったのが実情です。
しかし、前述したように、行動経済学では、
意思決定に影響を与える様々なヒューリスティックス、
バイアスについての豊富な知見があり、実は、
マーケティングコミュニケーションでは、行動経済学的
知見を意識的(あるいは無意識的)に活用してきたのです。
したがって、消費者行動の理解を深めるためには、
積極的に行動経済学を学ぶことをオススメしたいと思います。
*参考記事
『デュアルプロセッサ・ブレイン』
http://www.mindreading.jp/blog/archives/201207/2012-07-01T1325.html
投稿者 松尾 順 : 12:06 | コメント (0) | トラックバック
ピンクが好きですか?
今年5月、マイナーモデルチェンジした、
「大人かわいいクルマ」がコンセプトのクルマ、
ホンダのフィット「シーズ」(She's)。
ホンダ フィット「シーズ」
http://www.honda.co.jp/Fit/webcatalog/type/shes/
シーズ(彼女の)というネーミングでおわかりのように、
女性をターゲットとした特別仕様車です。
2010年に「シーズ」が初めて発売されたきっかけは、
2007年の「先進性」を強調したフルモデルチェンジによって、
「顔がきつい」
と女性の不評を買ってしまったことでした。
そこで、女性仕様の「シーズ」を開発したところ、
販売開始当時は、フィット全体の販売実績の1割を占め、
当初の期待を上回る結果となりました。
そこで、今回のマイナーチェンジでは、
さらに女性仕様を深化させるため、女性社員4人が
開発メンバーとなって主体的に開発を進めたとのこと。
さて、シーズの最大の特徴はボディカラー。
特に、「ピンクゴールド」はシーズ専用色です。
しかも、スマートキーの色は、ボディカラーに関わらずピンクのみ!
どうして、ピングがここまで重視されたかというと、
開発メンバーによるホンダ女性社員を対象とする
「色に関する意識調査」
で、多くの女性がピンクを好むことを突き止めたから。
実のところ、色についての心理学、
つまり、これまでの様々な調査・研究によれば、
「女性はピンクが大好き」
ということは実証されています。
女性は、幼児の頃から、
ピンクに対して明確な好みを示しますよね。
このため、女性によっては「子供っぽい」という
イメージを避けるため、ピンクの服や持ち物を
避ける人もいます。もちろん、ピンクが嫌いに
なったわけではない。
また、興味深いことですが、
「シニアの女性もピンクが大好き」
ということがわかっています。
なぜ女性はピンクが好きなのでしょうか?
ひとことで言えば、「赤ちゃん」をイメージさせるもの
だからですね。赤ちゃんのピンク色の肌。
母性本能をくすぐるだけでなく、おそらく、
赤ちゃんの張りのある、滑らかな肌に対する
「憧れ」もあるのかもしれません。
ですから、あらゆる女性向け製品においては、
ピンクの割合が相当高くなっています。
ただ、ピンクといっても、好まれる色味は微妙です。
男性にはなかなか判断できないもの。
色味の微妙な調整は女性担当者にまかせるべきでしょう。
「色」は、製品、サービス、あるいは
企業のブランドイメージを決める主要素の一つ。
新製品開発に当たっては、注意深く色を選定する
必要があるんですね。
*日経MJ(2012/07/04)の記事を参考にしました。
投稿者 松尾 順 : 12:50 | コメント (0) | トラックバック
黒目美人は魅力的?
黒目が大きく見える、チバビジョン社の
カラーコンタクトレンズ(通称:カラコン)、
のテレビコマーシャルが現在流れてますね。
↓
*TVCM:イルミネート 気づいてほしいの篇
http://www.freshlook.jp/cm/
チバビジョン社では、2010年にイルミネートの
「ジェットブラック」を発売。今年(2012年)1月には、
同「リッチブラウン」が新発売されています。
テレビコマーシャルは、この新製品を併せ、
「黒目拡大機能」
を持つカラーコンタクトレンズ市場を
さらに拡大させようという狙いでしょう。
黒目拡大機能を持つ「カラコン」は、
周縁部にのみ色がついているため「リングタイプ」
と呼ばれています。
チバビジョン社のニュースリリースを見ると、
コンタクトレンズ市場は、全体では前年対比3.8%減と
マイナス成長。
ところが、リングタイプは、
“瞳を大きく印象的に見せたい”女性の支持を得て、
全体対比13.7%と拡大の一途にあるとのこと。
競合商品として有名な、
ジョンソン・エンド・ジョンソン社の
はどうなんだろうとWebサイトに行ってみたら、この4月には
「欠品についてのお詫び」
「一部販売休止の知らせとお詫び」
というリリースが立て続けに流されてており、
リングタイプに対して世界的にも需要が急増していて、
生産が追いつかない状況があることがうかがえます。
さて、なぜ女性は「黒目美人」を目指すのでしょうか?
以前もブログでご紹介しましたが、女性が黒目を
大きく見せたいのは、無意識的に(あるいは意識的にも?)、
男性に対するアピール力を高めるためだと考えられています。
人は、好きなもの、関心があるものを見ると、
黒目が拡大する傾向があります。
また男性は、黒目の大きい女性をより好むことが
実験からわかっています。
したがって、黒目が大きい女性から見つめられると、
魅力的に感じられるだけでなく、
「オレに気があるのかも・・・」
とバカな勘違いをしやすくなるのです。
こうして寄ってきた男性の中から、
女性が意中の男性を選択するわけですよ。
つまり、つきあう男性の選択肢を増やすための
工夫のひとつが「黒目拡大」なんですね。
婚活ブームがまだまだ衰えぬきざしを見せない日本。
女性は、骨身を惜しまぬ努力を重ねてますます魅力的に
なっていくようですが、男性もがんばらないとですね!
ただ、ここまで黒目がちに見せるのはやりすぎ!
↓
*直径22ミリ!黒目がちすぎる黒目コンタクトレンズが呪怨レベル
(関連記事)ベラドンナ
http://www.mindreading.jp/blog/archives/200611/2006-11-13T2356.html
投稿者 松尾 順 : 09:41 | コメント (0) | トラックバック
眼前に姿を現した巨大な「鏡衆(きょうしゅう)」
電通消費者研究センターが2007年に実施した
「電通・新大衆調査」
の結果から浮かび上がってきた新たな消費者像は、
「鏡衆(きょうしゅう)」
と命名されていました。
「鏡衆」とは、
・人からの影響をうまく受け取りながら
・鏡のようにレスポンス&発信していく共振力を持つ人々
であり、「共振型消費者」とも表現されていました。
ここで「共振力」とは、「クチコミ発信力」とも
言い換えることができます。
すなわち、他者の情報に感心や感動、あるいは共感したら、
その情報を鏡のように自らも再発信し、他者にも伝えようと
する能力(意欲)が「共振力」です。
当調査によれば、鏡衆=鏡新型消費者が全体に占める割合は、
43%と、半数近くに達するボリューム層になっていました。
一方、「他者からの影響は受けないが、うまくレスポンス&
発信することはしている」という人々は36%でした。彼らは、
「私こだわり消費者」と表現されており、自分なりの選択眼
で判断することを大切にしている人々です。
この調査結果からわかるように、現代は、
「個性を活かす時代、自分らしさの時代」と言われながらも、
実際には、他者と共通点を探し、共有できる「モノ・コト」
を楽しみたいという欲求の高まりがうかがえます。
この「鏡衆」という言葉は、2007年当時もそれほど注目された
わけではなく、現時点ではほとんど忘れ去られた言葉に
なっています。
2007年当時は、ツイッター、フェイスブックの本格普及以前。
共振力を発揮していたのは一握りのブロガーであり、
レビューサイトで積極的に自らの評価を投稿する
やはり一握りのレビューワーに過ぎなかった。
また、当時ソーシャルメディアの雄として絶好調だった
mixiは、基本的にクローズドな仕組みであったため、
拡散力に欠けていました。
つまり、「鏡衆」という概念そのものに対しては納得できても、
その具体的な影響力を実感することは、当時はまだ困難だった
と思われます。
しかし、日本のフェイスブックユーザー、ツイッターユーザー
がどちらも1千万人を突破した今、多くの人々が「共振力」を
容易に行使できるようになっています。
とりわけ、フェイスブックの「いいね」ボタンは、共感という
レスポンスを、そして「シェア」ボタンは、「(再)発信」を
誰もが簡単に行なえる機能です。
フェイスブックユーザーの方には言うまでもないことですが、
日々、ウォールの投稿に対して、多くの「共振」を繰り返して
いますよね。
つまり、「共振型消費者」=鏡衆はついに眼前に
その巨大な姿を現したと言えます。
マーケターとしては、「共振型消費者」の特性を深く理解し、
彼らに対してどのような「ネタ(情報)」を提供すれば、
大きく共振してもらえるか、をとことん考える必要があるでしょう。
投稿者 松尾 順 : 10:32 | コメント (0) | トラックバック
デュアルプロセッサ・ブレイン
ご無沙汰しておりました。
1年数ヶ月ぶりのブログ更新となります。
(メルマガも明日2日より再開します)
マインドリーディング、すなわち「マーケティング心理学」に
ついての研究は続けておりますが、やはり継続的なアウトプット
をしたほうが、自分自身の理解や考えが深まりますね。
これから、継続する決意を改めて表明するとともに、
楽しくブログ&メルマガを書いていきたいと思っていますので
よろしくお願いします。
さて、最近の私の最大関心テーマは、
「デュアルプロセッサ・ブレイン」
です。
これは、人間の脳で行われる情報処理は、
近年のパソコンが2個(デュアル)のプロセッサーが
搭載されているように、2つの異なる処理プロセスがあり、
状況に応じて使い分けられているというもの。
ひとつの処理プロセスは、ひとことで言えば
「直感的な処理」
とでも呼べるもので、直感的で、連想を駆使し、
努力を要さず、無意識のうちに行われるもの。
もうひとつは、
「合理的な処理」
とでも呼べるものです。
合理性のある一定のルールや手順に従い、
熟慮と努力を要する処理です。
具体的な消費行動で説明しましょう。
毎朝通勤途中の駅の自販機で「缶コーヒー」
を選択し購入するプロセスはどちらでしょうか?
おそらく、この消費行動はすでに習慣化しており、
購入するブランドもほぼ固定されているでしょうから
「直感的な処理」
です。
では、最新のエコカーを購入する場合はどうでしょうか?
これはもちろん、
「合理的な処理」
が行われるでしょう。
すなわち、購入検討対象となる複数のエコカーの
スペック(仕様)や価格、アフターサービスなどを念入りに
比較検討して、慎重にブランド選択を行うはずです。
このデュアルプロセッサブレインという概念は、
近年注目されている「行動経済学」の基本となる枠組み
だといえます。
行動経済学の領域では、「直感的な処理」を
‘システム1’
と呼び、「合理的な処理」を
‘システム2’
と呼んでいます。
行動経済学では、人の思考や行動は完全に
合理的なものではなく、しばしば非合理な思考・行動を
行うことがあるとみなし、こうした非合理な思考・行動を
生み出す、脳の情報処理のゆがみ=バイアスについての
さまざまな研究が展開されています。
すでにおわかりかと思いますが、
「非合理な思考・行動」
につながるのが、脳が持つ2つの処理システムのうち、
「直感的な処理」(システム1)
なのです。
では、なぜ、私たちは2つの処理方法を持ち、
使い分けるようになったのでしょうか?
端的に説明すれば、できるだけ思考する時間、エネルギーを
減らしたいという本能的な動機があるからです。
(消費するエネルギーが少ないほど、その消費されたエネルギーを
補う新たな労力(お金)が少なくてすみますよね)
「デュアルプロセッサ・ブレイン」については、
さまざまな視点から、今後詳しく解説したいと思います。