マーケティング心理学2つの側面

昨日(1/30)午後は、

「マーケティング心理学セミナー(初級コース)」

を開催させていただきました。

これまで社内研修で行なってきたものを
個人のマーケターさんを主対象に
内容も大幅にバージョンアップしたものです。


マーケティング心理学は私のライフワークです。

今回も相当気合入れて、準備・講義に臨みましたが、
幸い、受講された方にはご満足いただけたようです。
(さらに良いものを目指して随時改訂していきますが!)


さて、セミナーの中でもお話しましたが、
私が考える「マーケティング心理学」には
大きくは2つの側面(狙い)があります。


ひとつ目は、消費者の行動の背景にある、
人間心理のメカニズム(構造)や典型的な
反応パターンを理解すること。

例えば、簡単な例を挙げると、

・「赤」のような暖色系の色を見ると気分が高揚し、
・逆に、「青」などの寒色系の色を見ると気分が沈静する

といった、人間には、ある程度共通した
心理の変化があることを理解するのが狙いです。


2つ目は、上記の人間心理のメカニズムや、
典型的な反応パターンについての理解を下敷きに、
対象消費者の心理や行動に働きかける方法を学ぶこと。

マーケティングの「究極的な目的」は、
自社製品・サービスを販売することですが、
それはマーケティングというよりも、
むしろ、経営的・財務的な目標です。

そして、上記の究極的な目的達成のために、
マーケティング(部門・担当者)として
達成すべき「直接的目的」とは、

「主に各種コミュニケーションを通じて、
 対象消費者に働きかけ、その消費者の心理や行動を
 変えること」

なのです。

例えば、

・自社製品・サービスの名称を知ってもらう
・関心を持ってもらう
・好きになってもらう
・欲しいと思ってもらう
・懸賞に応募してもらう
・資料を請求してもらう
・無料サンプルを試してもらう

といった心理変化・行動変化が起きるように
働きかけるということですね。

以上のことはいわば、

「消費者を説得する技術」

と言い換えてもいいかもしれません。


人を説得するに当たって、
まず、人間心理のメカニズムや典型的な反応パターン
を理解しておくことがどれほど高い成果につながるか、
は言うまでもないですよね。

また、説得する技術そのものも、
既に洗練されたテクニックが数多く開発されています。


「Mindreading」という名称で私が提供する
マーケティング心理学では、以上のことを体系化した
各種コンテンツを開発していきたいと考えております。

ご興味のある方は引き続き、よろしくお願いします。

投稿者 松尾 順 : 11:04 | コメント (0) | トラックバック

「哲学的発想法」再考

先日、ヘーゲルの哲学を元にブランディングを
考える機会があったのですが、改めて、ヘーゲルの

「弁証法」

は使える理論だなという理解を新たにしました。

特に、「新たなブランド(商品)開発」に使えるのが、
弁証法です。

実際、弁証法の考え方をマーケティングに当てはめて
見ましょう。

現在の主流の製品(正)に対して、その反動というか、
対極に近い製品(反)が登場する。

しかし、さらに時間が経過すると、「正」と「反」を
統合したような、革新的な製品(合)が登場してくる、
という製品・市場の変化のプロセスに一定の法則性を
見出すことができるのです。


弁証法的な変化を辿った典型的なブランド開発例は、
アサヒのスーパードライですね。

ビールの味わいとして、ヘビーな「コク」という方向性、
対極にライトで「キレ」という方向性で競っている時、

「コクがあるのにキレがある」

という両者を統合する全く新しい味わいの
スーパードライでビール市場を席巻することが
できたのです。


このように、成功する製品やサービスは、
しばしば、相互に矛盾した、対立的な特徴、
すなわち、「正」的な特徴と「反」的な特徴を
うまく統合・解決した場合に生まれます。

考えてみれば、ユニクロもそうですね。

「驚くほど安いのに品質が高い」

という、他社ではできなかった弁証法的解決を
実現したからこそ、現在の地位を確立したわけですよね。


弁証法的な変化のプロセスでは、
いったん製品が「合」の段階に達すると、
その合が主流の「正」となるため、再び、対立的な
「反」が生まれてくる。

その先には、新たな「合」が登場するというように、
ある意味、螺旋的に発展を続けていくのです。

弁証法が実務に役立つということについては、
田坂広志氏が数年前に出された『使える弁証法』で
詳しく解説されています。

まだ読んだことのない方はぜひ読んでみてください。

『使える弁証法』田坂広志著、東洋経済新報社

*「哲学的発想法」(マインドリーディングブログ2006/03/23)

投稿者 松尾 順 : 11:37 | コメント (0) | トラックバック

ブランド・コミュニティ

昨夜は、英語で学ぶマーケティグのセカンドシーズン、

『Philosphy of Branding』(ブランディングの哲学)

の最終回でした。

最終回で取り上げた哲学者は、ヘーゲル、そしてニーチェ!

ヘーゲルといえば、「正」「反」「合」の弁証法ですね。

弁証法は、ものごとの変化・発展のプロセスに
一定の構造、言い換えると「法則性」があると考えるもの。

ブランディングにおいても、
弁証法的な考え方を適用することで、
従来のブランドとは異なる価値を提示できる
新たなブランドが開発できる、といった話でした。


一方ニーチェは、簡単に言えば、
旧来の考え方や価値観に捉われることなく、
自分の潜在性をとことん発揮し生を謳歌せよ、
と説きました。

そこで、ニーチェの哲学をブランド論的に解釈すれば、
ブランドが、消費者に対して、新たな生き方や考え方、
といった、独自の「世界観」「価値観」を提示することで
競合と差別化でき、スーパーブランドにもなれるかもしれない
という展開になります。

ま、かなり大胆な解釈だとは思います(笑

ただ、ニーチェの哲学のブランド論への展開が
それなりに説得力があると思うのは、ブランドとは、

「同じ関心(価値観)を持つ人々の集まり」
 (Community of Interest)

についてのことだからです。

すなわち、あるブランドを利用している人は、
そのブランドが提示する世界観や価値観に
共感しているから利用しているのです。

ですから、同じブランドのユーザー(「愛好家」と
呼べばよりわかりやすいでしょうか?)は、まさに、
価値観を共有する人々が集まる「コミュニティ」だと
言えるのです。

こうしたコミュニティを近年は、

「ブランド・コミュニティ」

と呼ぶようになっていますね。


もちろん、すべてのブランドが、

「Community of Interest」

を形成しているとは言えませんが、
例えば、ハーレーダビッドソンは典型的な
ブランド・コミュニティですし、嗜好性の強い
製品カテゴリーにおいてとりわけえ、多種多様の
ブランド・コミュニティが成立しているといえるでしょう。


ブランド・コミュニティは従来、
ハーレーのような明示的な会員組織として
運営されているケースを除き、その存在は、
それほど明確なものではありませんでした。

ところが、ネットの普及、そしてSNSの浸透に
よって、さまざまなカテゴリー・製品において、
ブランド・コミュニティがはっきりとした姿を
表してきました。

しかも、ブランド・コミュニティが、
ブランドに関わる企業の意思決定に大きな影響力を
与えるようになってきましたね。

実際、自社製品のロゴマークでさえ、
うかつにいじることが自由にできなくなっているのは、
最近のスターバックスやGAPのロゴマーク変更に対する、
ブランドコミュニティの人々の強い反応を見れば
実感できますね。


ブランドはもはや消費者の所有物です。
とはいえ、実質的には企業の所有物(管理物)でもある。

ですから、ブランドに関連した意思決定において、
企業がいかにブランドコミュニティの人々とうまく
連携するか、協同していけるかが、ブランディングに
おける最大の課題になりつつあるのです。

投稿者 松尾 順 : 18:01 | コメント (0) | トラックバック

香りのマーケティング

ライオンによれば、
柔軟剤の市場における「香り付き商品」のシェアは、
前年09年の75%から、201年は78%と3%アップ。

衣類からほのかに匂う香りを好む人が
どんどん増加しているようです。
(日経新聞2011/01/26)

また、「ほのか」どころか、「強烈」な匂いを
振りまく、米国ブランド「ダウニー」の日本での
人気も急上昇中ですね。

ある意味、現代の生活の無臭化が進んだおかげで、
逆に自分の好みの香りに包まれていたいという
欲求が強くなったのでしょうか。


この香りに敏感な現代人を対象に、
独特の香りを設計し、ブランディングの
一環として展開する企業が増えています。

ブランド独自の香りのことは、

「ブランドセント(Brand Scent)」

と言います。まだ本当に新しい概念であり、
ブランディングの教科書にもほとんど記載が
ありません。(私の本には収録しましたけど!)


香りは、ダイレクトに脳を刺激します。

実際、匂いを感じる感覚器官は、
他の感覚器官と異なり、脳に直結しているのです。

そして、理屈を超えたさまざまな感情を
香りを通じて喚起することができるのです。

ですから、いわゆる

「エモーショナル・マーケティング」
 (感情マーケティング)

においても中心的な役割を果たすことができます。

さて、香りがエモーショナルマーケティングにおいて
極めて有効であることを示す実験結果があります。

私たちの5感が、感情面にどの程度訴える力があるかを
調べると次のようになったのです。

ここで、「感情面」とは、快・不快、興奮・鎮静、
喜怒哀楽といった、比較的短期しか持続しない感情
のことであり、心理学では「情動(emotion)」と
呼ばれるものです。

-------------------
感覚 | 感情面に
   |与える割合
-------------------
嗅覚 | 8割
味覚 | 6割
聴覚 | 4割
触覚 | 4割
視覚 | 2割
-------------------
(出所:『嗅脳』鳥居鎮夫著、イートハーヴフロンティア)

なんと、「嗅覚」は、
感情を揺り動かす影響力が
8割もあるのです。

一方、マーケティング・コミュニケーションで
主流を占めてきた「視覚」は意外にも2割しか、
感情に訴える力がありません。

現在、PCディスプレイ画面で展開される映像などと
リンクした匂いを自動的に流す仕組みなども研究されて
いますが、香りを活用したマーケティングはこれから、
ますます注目されていくことになりそうです。

投稿者 松尾 順 : 17:03 | コメント (0) | トラックバック

心の満足度

あなたの会社では、
お客さまが自社の製品やサービスに、
どの程度満足してもらえているかを訊く

「顧客満足度調査」

を実施していますか?

顧客満足度調査の結果をうまく活用すれば、
製品・サービスの改善を効果的に行なうことができ、
顧客の定着率を高め、新規客の増加にもつなげる
ことができますね。


ただ、従来の顧客満足度調査の項目だけでは、
顧客との関係性を深めていくための施策改善には
不十分なものになりつつあります。

つまり、欠落しているものが
現状の満足度調査にはあるということです。


従来の満足度項目は、
典型的には以下のようなものです。

・この製品の品質には満足していますか?
・この製品の機能(それぞれについて)満足していますか?
・製品の使いやすさには満足していますか?
・製品の価格には満足していますか?
・店員(営業パーソン)の対応には満足していますか?

このような項目はもちろん必須なのですが、
これらは、基本的に理性的な満足度、
つまり、頭で考えて満足かどうかを判断して
もらう項目・訊き方になってしまっているのです。

すなわち、こうした項目は、
「頭の満足度」を訊いていると言えます。


そして、欠落しているのは、

「心の満足度」

とでも呼べる項目や訊き方です。

これは、

・この製品はあなたに癒しを与えてくれますか?
・この製品はあなたを楽しい気分にしてくれますか?
・この製品はあなたを元気にしてくれますか?
・この製品はあなたを誇らしい気持ちにしてくれますか?

といった、感情・情緒的な評価のことです。


前述した「頭の満足度」の対象は、
多くの場合、機能、品質、価格など客観的に
判断できる要素が中心になっています。

また、「満足したかどうか」という訊き方に
対する答えは、事前期待と比較しての、
あるいは購入価格と比較しての相対評価に
なります。


しかし、癒してくれる、楽しくなる、元気にしてくれる
とった製品の利用が喚起する感情は、何かと比較する
するものではなく、自然に生まれてくる絶対的な評価です。

しかも、頭の満足度よりもはるかに主観的なものです。
どの程度「癒し」になっているかを測定することは
簡単ではありません。


現代は、製品の品質、機能、価格などについては、
どの製品も大差がありませんから、そうしたものに
対する「頭の満足度」の有効性、利用価値は
低下しつつあるといえます。

一方、(再)購買の決定要因としての重要性が
増しているのが、「感情的・情緒的評価」なのです。

これは、パッケージデザインのような、
感性に訴える要素や、いわゆる「ブランディング」
によって形成・管理されるブランドイメージと強い
関連性があります。


ですから、これからの満足度調査のあるべき姿は、

・頭の満足度
・心の満足度

の両方をバランスよく聞くことが必要になってくると
言えるでしょう。

人は、理性的な評価と感情的な評価の両方で、
製品・サービスの購入・利用を決めているからです。

投稿者 松尾 順 : 12:39 | コメント (1) | トラックバック

売れるデザインは現場から生まれる

日経デザイン最新号(February 2011)に掲載されていた、
プロダクトデザイナー、澄川伸一氏の講演記事の中に
面白い話がありました。

澄川氏は、
デザイナーとしてのキャリアをソニーで始めています。


彼がソニー・アメリカのデザインセンターにいた頃、
“スポーツウォークマン”の設計を任されたのだそうです。

当時の製品設計では、ウォークマンを身につけて
ジョギングしたい時には、ストラップで腰にぶら下げられる
ようになっていました。

ところが、実際に腰にぶら下げると、
製品の重みのためにジョギングパンツがずり落ちてしまう。


それで、アメリカ人が現実にはどうしているかを
調べてみたら、皆ウォークマンを手に持って走っていた。

腰につけている人は誰もいなかったのだそうです。

私も若い頃、スポーツウォークマンではありませんが、
ウォークマンで音楽を聴きながら走っていた時期があります。

やはり、走るときに、それなりに重みのある機器を
腰にぶらさげると、パンツがずり落ちるだけでなく、
ブラブラしてとても走れなかったことを思い出しました。


澄川氏は、リサーチというか現場で、
実際にアメリカ人が走っている姿をみて、

「ああそうか」

と腑に落ちたと述べています。

ストラップで腰につけるのは合理的なようですが、
実は自分では走ったことのないデザイナーが、
デスクの上で考えたものに過ぎなかったわけです。


そこで澄川氏は、片手でつかみ易い、
また簡単な操作が走りながらできるような
ウォークマンを設計したところ、
ユーザーの好評を博したのです。


ユーザーに喜ばれる、結果として
売れる製品デザインは、やはり現場(の観察)から
生まれるということなんですよね。

これは、言われてみれば当たり前のこと。
しかし、意外に実践されていないことなのかも
しれませんよね。

「なんでこんなに使いにくいんだ」

と日々の生活で感じる製品、結構多いですから。

投稿者 松尾 順 : 11:14 | コメント (0) | トラックバック

「文化理解力」の必要性

日本国内市場の成熟化、というより「縮小傾向」が
明確になる一方で、外国企業はますます日本市場攻略
に積極的ですね。

このような厳しい経営環境において、
もはや言うまでもないことですが、日本企業の多くは、
生き残りのために世界にうって出るしかない状況です。


ただ、これまで国内志向の強かった日本企業にとって、
外国企業と比較した場合の大きな弱みのひとつとして、
展開先の国の文化や風習などに対する理解力の低さが
あります。

従来から言われてきたことですが、
日本ほど民族的に均質な国はほとんどありません。
(もちろん、例外はあるにせよ)

一方、ほとんどの他の国は、
異なる文化や風習、価値観を持つ多種多様な民族で
形成されています。

このため、外国企業は、文化や価値観の多様性という現実、
そしてその対応に日本よりもはるかに慣れています。

しかし、均質な文化で育ってきた日本人は、
まだまだ文化の多様性には不慣れなのです。


人は、毎日の生活に根ざしている、
自分の国・社会の文化や風習はあまりにも
当たり前すぎて、普段はほとんど意識すること
がありません。

それが当然だと(無意識に)考えています。

ですから、他の国の人々にも、自分の国の考え方や
行動規範をベースに当てはめてしまうのです。

こうした自国基準の考え方による失敗は、
これまで外国企業もしばしば犯してきました。

しかし、彼らは過去にたくさん失敗を重ねることによって、
多様性を認め、受け入れ、合わせるノウハウを随分学び、
既に日本企業のかなり先を行っていると言えるわけです。

例えば、1980年代に、日本市場参入に失敗した
スウェーデンの家具店、IKEA(イケア)は、2006年の
再参入に当たって、日本人の住生活を十分に学び、
成功を収めていますね。


日本企業でも早くから海外に進出し、
現地に浸透している企業も決して少なくはありません。

しかし、これからは、海外進出など考えもしなかった
多くの日本企業が、文化の「多様性」に不慣れなまま、
海外での展開を図らねばならないという状況です。

だからこそ、今、コミュニケーションツールとしての
「英語力」(外国語力)の必要性が注目されていますが、
同じくらい重要だと認識すべきなのが、展開先の国の
「文化理解力」です。


実は、外国語を深く学んでいくと、

「現地の文化をより良く理解しなければ、
 本当の意味でコミュニケーションできるようにはならない」

ということに早晩気付きます。

しかし、展開先でのビジネス的成功をできるだけ早く
手にするためには、現地の「文化」の理解とそれに対する
適切な対応を最重要課題として取り組むべきことを当初から
強く認識しておくことをお勧めします。

投稿者 松尾 順 : 13:01 | コメント (0) | トラックバック

行列のできる銀行

昨日ご紹介した‘めんどうみ活動’の
「セブンプラザ」が掲載されていた日経ビジネス
(20111.1.10)の特集、

“非効率経営”の時代

には他にも興味深い事例が、
いろいろと取り上げられてます。


‘行列のできる銀行’と形容されていた、

「大垣共立銀行」

のケースもとても面白いので、
未読の方はぜひ読んでみてください。


岐阜県に本店を置く大垣共立銀行は、
地元では絶大な支持を集めているのでしょうか?
(どうですか、岐阜出身の方?)

とにかく、同行の取り組みは極めてユニークです。
従来の銀行の枠を飛び出ています。

例えば、特集記事に出ていた同行半田支店は、
2009年9月14日にオープンしたのですが、
開店当日は、1000人超の地域住民が押し寄せ、
まさに行列ができる銀行となったのだそうです。


同店は、コンビニエンスストアと見違えるような
外見であり、店内もまさにコンビニ風。

窓際にはずらりと並ぶ雑誌。
漫画、クルマ雑誌など100種類を超えるそうです。

コーヒーは無料提供。

ゆっくり読書を楽しむ人。
待ち合わせ場所に使う人。
編み物をする婦人。

銀行自体に用はなくても、
ふらりと立ち寄ることのできるつくりに
なっているというわけです。

このあたり、セブンプラザの‘めんどうみ活動’
に似た顧客サービスの姿勢が感じられますね。


こうしたつくりの支店は「コンビニ・プラザ」と
名づけられていますが、まさにコンビニエンスストア
をモデルにしたもの。

同行の異業種研修でコンビニの店長を経験した
行員の意見が取り入れられているそうです。


ATMもすごい。

「ドライブスルーATM」というものがあり、
自動車に乗ったままATMを操作できるのだそうです。

車での移動が主体の地方圏だからこそ、
必要とされ、また喜ばれるATMだと言えるでしょう。


ATM自体には、ルーレットゲームや
スロットゲームまでついています。

待ち時間にルーレットが回り、
当たると手数料がタダになる。

スロットゲームは絵柄が3つ揃うと、
現金1,000円が当たる。

ハズレのレシートも10枚集めると
「サンクスポイント」がもらえるなど
お客さんにとっては、おもわずATMを
使いたくなる仕掛け満載です。

そういえば同行は、
中日ドラゴンズとからめた、

「VIVA!ドラゴンズスーパー打率定期預金」

などもやってますね。


証券アナリストによっては以前、
こうした業界破りの斬新なサービスは

「収益にほとんど寄与しない」

と言った人もいたようですが、
近年の業績を見るとこれは間違った判断
だったことがわかります。

同行の個人預金残高は98年3月期1兆7731億円から、
2010年3月期は2兆6567億円へと伸びています。

また、経常収支(売上高)の当期利益率は10.6%であり、
ライバルの十六銀行の8.0%を凌駕。

一見、無駄で非効率に見えるサービスを
充実させつつ、売上・利益を伸ばしているのです。


大垣共立銀行の取り組みを見ると、
既存の枠に捉われず、異業界も参考にして、
柔軟にアイディアを取り入れることで、
大きな競合差別化を生み出せ、
業績向上につなげることができるという
事実を実感させられますね。

投稿者 松尾 順 : 09:49 | コメント (0) | トラックバック

‘めんどうみ活動’に見る関係づくりの目的化

「CRM(Customer Relathiship Management)」

については様々な定義がありますが、
顧客接点の現場においては、

「顧客との関係づくり」

をすることによって「販売」に結びつける、
という説明が一番、わかりやすいものでしょう。


従来のように、お客さんが誰であれ、

「自社が売りたいものを売りつける」

というのではなく、
顧客のニーズをしっかり聴き、
顧客にとって最善の提案をすることで
信頼を培いつつ、モノを売る。

上記の考え方では、当然ながら、
「関係づくり」が手段であり「販売」が目的です。


ところが、近年ではさらに‘進化’してというか、
「関係づくり」自体を目的とする企業が登場しています。

つまり、(営業)スタッフは、
お客さんが困っていること、役に立つことなら、
本業と関係のないことでも喜んでやってあげる。

こうしてお客さんとの関係を深めることで、
お客さんは進んでそのスタッフからモノを買う。

ここでは、

「販売」-むしろ「購入」と言ったほうがいい-

が手段化しています。


すなわち、お客さんはスタッフとの関係を
維持するために、他店より割高でも、喜んで
「購入」してくれるというわけです。


こんなお店の具体例として有名なのは、
東京・町田市の電器屋さん、「でんかのヤマグチ」です。

でんかのヤマグチは、

「遠くの親戚より近くのヤマグチ」

と言われるほど顧客から頼りにされており、
留守番や犬の散歩をお願いされることもあるとか。

結果として、カカクコムの最安値と比較したら
2倍近くにもなる家電製品が売れるのです。


実は、でんかのヤマグチのようなお店が
ほかにもあったんですね。

パナソニックの系列販売店チェーン

「セブンプラザ」

でも、スタッフは「売らなくていい」のです。

むしろ、顧客のために徹頭徹尾働くことを
重視しています。

家電製品の設置や操作方法の説明、
アフターサービスにきめ細かい対応を
するだけでなく、

「牛乳買って来て」
「ケガしたから代わりに料理して」

といった依頼にも対応する。


同店ではこうした顧客のための活動のことを

「めんどうみ活動」

と呼んでいます。

スタッフの評価も、売上ではなく、
「めんどうみ活動」をどのくらいきちんと
やったかで行なわれるのだそうです。

こうして、近くの大手量販店に行けば、
はるかに安く買える製品が売れていく。

お客さんが進んで購入してくれます。

そして、粗利益はでんかのヤマグチ並み
の30%後半を達成しているのです。


現在、セブンプラザの加盟店は50店舗ほど。

加盟前は赤字で苦しんでいたお店が8割を
占めていたそうですが、加盟後は9割が
黒字転換しているとのこと。


このような関係づくりに力を入れる、
言い換えるとサービスを最重視するお店が
成立する背景には、近年の製品の高度化・複雑化と、
高齢化が進んでいることがありそうです。

しかし、この環境変化は多くの業界に
共通していることですね。

とすれば、セブンプラザ、
またでんかのヤマグチのように、
「関係づくり」自体を目的化する取り組みは、
今後のマーケティング&セールスのあり方に
大きな示唆を与えているのかもしれません。


*セブンプラザについての出所:
日経ビジネス(2011.1.10)特集“非効率経営”の時代

投稿者 松尾 順 : 11:42 | コメント (0) | トラックバック

眞露(ジンロ)のブランド拡張

昨日は、富士フイルムの技術力をテコとした、
ヘルスケアカテゴリーへのブランド拡張を
取り上げました。

富士フイルムの場合は、
ブランド拡張という側面だけでなく、
多分野における新規事業立ち上げという
側面もありますが。


さて、今日は、別の興味深いブランド拡張事例です。

昨年(2010年)急に市場に出回るようになり、
注目を浴びたお酒が、韓国のお酒「マッコリ」ですね。

見た目はカルピスみたいな感じ。

甘くて、軽い酸味のあるマッコリは、
ヨーグルトドリンクのようでとても飲みやすい。

従来は店頭でほとんどみかけることがなく、
韓国料理店でしか飲めませんでしたよね。

今は手軽に買えるようになりましたので、
私も時々楽しんでいます。


日経ビジネス(2011.1.3)の記事によれば、
マッコリの市場規模はこれまで73万ケース
(1ケース=8.4リットル)だったそうです。

ところが、2009年12月に眞露ジャパンが、
新規に参入したことから、一気に市場規模は
2倍に膨らむ見込みです。

眞露(以下、「ジンロ」)と言えば、
韓国のお酒メーカーで「焼酎」が思い浮かびますね。

今回、マッコリ市場に「新規参入」したと聞いて逆に、

「ジンロではマッコリを取り扱ってなかったの?」

と驚いた人も多いんじゃないでしょうか?

実際、ジンロは本国韓国でも、
マッコリを製造・販売したことはなかったのです。

その理由は、韓国では、多くの中小メーカーが
マッコリを作っており、競合を避けていたからとのこと。


ところが、日本で「マッコリ」についての
消費者のイメージ調査をやってみたら、
なぜだか、「ジンロ」の名前が挙がった
のだそうです。

一般消費者は、それほど韓国のお酒や、
メーカーについて詳しい知識がありません。

ですから、[ジンロ→韓国→マッコリ]といった
イメージ連鎖から、ジンロとマッコリの擬似的な
結びつきが形成されていたのでしょう。

ジンロ社としては、このイメージを活かして、
これまで製造、販売したことのないマッコリを
日本で展開することにしたというわけです。

日本のマッコリ市場がまだ小さく、
有力なライバルが存在しないということも
考慮されたんでしょうね。


ジンロ社はお酒メーカーですから、
同じお酒のマッコリへのブランド拡張は、
同一カテゴリーの中での横展開です。

ですから、元来、成功しやすい取り組みでは
あるのですが、消費者が持っていた

「架空のブランドイメージ」

をうまく活用したという点が、
大変興味深いというか、珍しい事例だと
思います。

なお、マッコリは、韓国では男性労働者のお酒という
イメージが強いのだそうです。

しかし、日本におけるマッコリのイメージは、
管区のお酒ということ以外、ほぼ白紙。

そこでジンロでは、乳酸菌が入っていて健康的なイメージ、
口当たりもよく、カロリーも低い、アルコール度数も
6%程度という特徴が、女性に向いていることから、
女性ターゲットのコミュニケーションを展開しています。

このコミュニケーション戦略も、
マッコリ市場急拡大のポイントだったと言えそうです。


ジンロWebサイト
http://www.jinro.co.jp/index.html

投稿者 松尾 順 : 10:02 | コメント (0) | トラックバック

富士フイルムのブランド拡張

既存の企業、あるいは製品・サービスの持つブランド力を
「テコ」として活用し、同一カテゴリーのバリエーションを
増やしたり、隣接カテゴリー、あるいはほとんど関係のない
カテゴリーに進出する。


上記の企業活動は、いわゆる「ブランド拡張」と呼ばれます。

ブランド拡張の難度は当然ながら、
ほとんど関係のない分野に進出する場合に高くなりますね。

既存のブランドの強みが、進出先のカテゴリーでは
活かせなかったり、あるいは、既存のブランドの持つ
イメージが新カテゴリーのあるべき特徴とは違和感を
感じるリスクがあるからです。


過去の事例では、例えば1980年代に、
ハーレー・ダビッドソンが「タバコ」や「ワインクーラー」
などのカテゴリーにハーレーブランドの製品を展開しましたが、
あっけない失敗に終わっています。

タバコは、ハーレーのイメージと多少重なるところが
あるように思いますが、ワインクーラーになると、
かなり違和感を感じますよね。


さて、日本における近年のブランド拡張例として
興味深いのは、富士フイルムの化粧品「アスタリフト」や
サプリメントの「メタバリア」「オキシバリア」など、
「ヘルスケア」カテゴリーへの展開です。

これらの製品は、製品独自のブランド名だけでなく、
企業ブランドである「富士フイルム」も同時に強調した
コミュニケーションを展開していますね。


富士フイルムは、その社名通り、
「カメラ」や「フイルム」カテゴリーのトップブランドと
してのイメージが定着しています。

したがって、「富士フイルム」という企業ブランドを
「ヘルスケア」カテゴリーにおいて前面に出すのは、
ブランディングの定石からは外れています。


しかし、同社では「富士フイルムだからできること」
というWebサイトのページでも説明されているように、
同社の写真研究の歴史の中で培われた、コラーゲンや
活性酸素をコントロールする

「ナノテクノロジー技術」

が同社の強みだと伝えることで、
ヘルスケア製品の効果や信頼性・安全性に
「お墨付き」を与えることを狙ったようです。

広告展開もなかなか巧みだと思いますが、
直接肌に触れる化粧品や、体内に入れるサプリメント
だからこそ、「信頼できる」「安全できる」と
消費者に感じてもらう必要がある、そのためには
「富士フイルム」という企業ブランドを強調することが
得策と判断されたのでしょう。

結果として、この戦略は成功を収めつつあるようです。
(同社のブランドイメージ調査などの結果を見ていないので
 一消費者としての実感に過ぎませんが)


これはちょっと後付け的解釈ですが、
デジカメの急速な浸透により、一般の消費者における、
カメラやフイルムカテゴリー自体の存在感が急速に
薄れつつあります。

そして、こうしたカテゴリーの存在感の低下に伴い、
富士フイルムのブランドイメージもある種、希薄化
しつつあった。


だからこそ、カメラやフイルムとはほとんど関連のない
「ヘルスケア」カテゴリーでも、同社は、以前ほどの
違和感を与えることなく、スムーズに新たなブランド
イメージを再形成できているのかもしれません。

とはいえ、社名に‘フイルム’が入っているのは
やはりちょっとひっかかるものがあります。

「富士フイルム」という社名が、現在塗り替えられ
つつある新たなブランドイメージに合致したものに
変更される日も近いかもしれません。

投稿者 松尾 順 : 12:04 | コメント (0) | トラックバック

ブランド構築、製品が全てか?

「ダナ・キャラン」「ペプシ」などのブランディングを
手がけているデザイナー、ピーター・アーネル氏は、
日経産業新聞(2011/01/13)の記事の中で以下のように
答えています。

“私は32年間この業界に携わってきたが、広告や
 マーケティング、コミュニケーションはもう古い。”

“優れたブランディングとは、あらゆる戦略が製品に
 統合されている状態を指す。”

まあ、この意見は、アーネル氏が「デザイナー」と
いう立場だからこその極論ですね。

ただ、実際のところ、製品自体が競合製品とは
明確に異なる際立った機能や特徴を持っていれば、
以前ほどは広告費を投入しなくても、売れる可能性
が高くなったことは確かです。

というのも、消費者同士が横につながる
オンラインのソーシャルネットワークを通じた
伝播力(口コミパワー)が大幅に増加したからですね。

独自の機能やデザインを持つ製品は、
ユーザーが、友人・知人などに「いいよ!」と
積極的に勧めてくれるのです。

逆に、特徴のない平凡な製品は、
どんなに広告費を投じても、膨大な情報に埋もれてしまい、
消費者になかなか見つけてもらえず、日の目を見ないと
いう可能性も高まっていると言えます。


さて、アーネル氏は「広告は不要ということか?」
という質問を受けて、次のように述べています。

“製品が機能的でデザインに優れ、経済的な価格なら、
 広告費は要らない。消費者は競って買い、語り、もっと買う。”

“アップルの『iPhone』や『iPad』が好例だ。日本では
 ユニクロが際立っている。消費者が求める現実的な
 商品を信じられない高品質・低価格で実現している。”

この意見も確かにそうだなと同意できる点もあります。

そういえば、三洋電機のおコメからパンが作れる、
まさに画期的な新商品『ゴパン』は、
発売前から大変な人気となり、今のところ広告は
ほとんど不要という況になってますね。


しかし、製品担当の方なら、
次のように反論したくなるでしょう。

「言うは易し。独自性の高い、画期的な製品は、
 そう簡単には開発できないよ。」

実際、上述の『ゴパン』だって、
製品化までに何年もかかっているのです。


確かにゴパンのようにこれまでになかった、
新たな「機能的価値」を生み出すのは半端ではありません。


でも、主にデザインの改善・革新を通じた「情緒的価値」
を生み出すことは、技術的には比較的簡単です。

必要なのは、消費者の隠れたニーズを発見することです。

例えば、パナソニックの電動歯ブラシ、『ポケットドルツ』
マスカラのようなおしゃれな細身のデザイン、
携帯性に優れていることから、大ヒットしていますね。

これは、従来の電動歯ブラシのメインターゲットを
男性から女性にシフトし、女性のニーズを洞察したこと
によって高い「情緒的価値」を生み出したものです。
(もちろん、機能的にも優れている点もあるとは思いますが、
 利用者の立場からは実感できるほどの差ではないと思います)


また、昨年11月に発売され、女性中心に好調に売れている
サンスター文具のハサミ『スティッキールはさみ』
「ペンのように携帯するハサミ」というコンセプトに
基づくおしゃれなデザインが魅力的。

おそらく、「ものを切る」というハサミとしての
機能的価値の面では従来製品と大差ないでしょう。

やはり、これまでになかった独自の形状、
つまりデザイン面での革新がヒットの最大の要因に
なっているものと思われます。


デザインは、機能よりも比較的真似しやすいため、
どんなに独特のデザインであってもすぐに類似の競合品
が登場する現状にあっては、マーケティング・コミュニ
ケーションの必要性も十分にあると思います。
(とりわけ、「売れ続ける」ためには!)

ですから、「ブランディングは、製品が全て」とする
アーネル氏に、完全には同意することはできません。

しかし、製品開発における革新を簡単にあきらめ、
お金さえあれば実施できる広告や各種コミュニケーション
に過度に依存することは止めるべきでしょう。

投稿者 松尾 順 : 09:55 | コメント (2) | トラックバック

ビジネスパーソンの情報収集力

私はマーケティングリサーチを専門としており、
『営業はリサーチが9割!』なんて本も書いております。

それで、常日頃、リサーチの仕事をしていて
つくづく思うことがあります。

それは、必要な情報を効率的に収集することは当然。

もっと重要なことは、収集した情報をいかにうまく加工し、
価値ある情報に仕立て上げるか、という点です。

つまり、

「情報を集め、分析した結果はこの通りです」

というレベルで終わるのではだめなのです。

さらに踏み込んで、

・分析した結果がどんな深い意味を持ちえるのか

・また、その情報を元にして、今後の戦略展開においては、
 どんな意思決定の選択肢があるのか

を示せるのが理想であり、目標とすべきところでしょう。


ボストンコンサルティンググループの北沢真紀夫氏は、

「ビジネスパーソンに求められる情報収集力には2段階ある」

と述べています。(日経産業新聞2011/01/05)

すなわち、以下の2段階です。

1.目的に合致した情報を集めることができるかどうか
2.集めた情報に付加価値をつけられるかどうか

第1段階では、情報収集の「設計力」が重要ですね。
的確な仮説設定、そして仮説検証に必要な情報の見極め
が求められます。

一方、第2段階では、
収集した情報の「解釈力」が必要になってきます。


情報を解釈するというのは、
情報から多様な「意味」を抽出することと言えます。

そして、どんな意味が抽出できるかは、
解釈を行なう人の「脳力」次第です。

ここで「脳力」というちょっと広い表現を使ったのは、
以下のような複数の能力が含まれているからです。

・知識の深さ(当該分野について詳細な知識がある)
・知識の広さ(幅広い、異質な分野の知識がある)
・実体験の多さ(情報が生まれる現場を体験している数)
・多様な知識を柔軟に組み合わせる能力

情報を細かく分けていくこと(文字通り分析)や
また情報を整理・分類する作業はかなりの部分、
論理的思考で解決できますし、コンピュータが
支援してくれます。

分析者が変わることによって、
結果にそれほど大きな差はでません。


しかし、情報の「解釈」はより具体的に言えば、

・データの奥にあるものを透かしてみること
・情報の行間を読むこと
・複数の情報を適切に組み合わせて新たな情報を生み出すこと

なのです。

ですから、解釈者の「脳力」の高低によって、
同じ情報を元にしていても、その情報に与えられた
「付加価値の大きさ」が随分違ってくるということに
なります。


さて、北沢氏は、
情報に付加価値をつける力を高めるためには、

「思考を深めるための情報を積極的に集めること」

と指摘しています。

単に目先を流れていく雑多な情報を漠然と捉えるのではなく、

「なぜこうなっているのか、他の情報との関係は何か」
といった思考を働かせつつ、
必要な関連情報を集めていくということでしょう。


つまり、

「興味を持ったことを時間をかけて調べる」

と北沢氏も述べているのですが、ある意味、効率を無視し、
情報とじっくり向き合う時間を持つことによって、
「脳力」が向上し、情報の付加価値を高める力が付くのです。


成熟した情報化社会に生きる現代、
日々、膨大で雑多な情報が通りすぎていきます。

ビジネスパーソンとって、
2段階の情報収集力を高めることは最重要課題の
一つと言えますね。


*類似記事

・情報料理人(1)
・情報料理人(2)
・情報料理人(3)

投稿者 松尾 順 : 14:07 | コメント (0) | トラックバック

メンタルモデル革新

「メンタルモデル」は、自分が外部環境から仕入れる
情報(要するに経験) をどのように関係付け、整理して
解釈するかという一定の処理手順や価値体系のことです。

ひとことで言えば、思考方法のパターン、クセです。

例えば、空を見上げたり温度・湿度を肌感覚で感じて
仕入れた情報から、「午後から雨が降りそう」とった
判断を下す場合、そこにはなんらかのメンタルモデルが
頭の中で働いているわけです。
 

この天気についての予感が当たるかどうかは、
メンタルモデルの仕組みや精度によるわけですが。

さらに雨が降るという解釈の後に「濡れるといやだな」
といったネガティブな感情が自動的に湧きあがることも
あります。

これもメンタルモデルを通じて行なわれる人の情報処理
といえます。メンタルモデルは当然ながら個人差があり、
人によっては、「雨が降るとうれしい」という感情が
湧きあがるメンタルモデルを持つ人もいますね。
 

人は日常の多くの行動をそれぞれが持つ特定の
メンタルモデルに基づいて行なっています。

なぜなら、あんまり考えなくてすむから。
つまり、脳のエネルギー消費を抑えられるから。

ビジネスにおいても多くのメンタルモデルを元に、
さまざまな意思決定が行われています。

ビジネスモデルというのも一種のメンタルモデル。
現実の事象から、典型的な成功手順や組み合わせを
抽出したものであり、それは頭の中にだけ存在します。
(図形化などして、表現することは可能)


さて、固定化したメンタルモデルはまさに固定観念であり
先入観です。

メンタルモデルが強すぎると、活用すれば有益となりうる情報を
入手しても、メンタルモデルに、うまくはまらないため、無意識に
無視してしまうということが起きます。

たとえば、

「自社の競合は、同じカテゴリーの他社商品である」

という思考も固定化したメンタルモデル。

革新的な製品はしばしば、こうしたメンタルモデルから
外れたところで生まれます。

つまり、革新を起こすためには、自分のメンタルモデルを
客観視し、それから脱出する、あるいはいったん壊すことが
必要なのです。

投稿者 松尾 順 : 12:18 | コメント (0) | トラックバック

シャープの環境広告

昨年末、アサツー・ディケイの
シニア・クリエイティブディレクター、安井仁志氏
の講演を聴く機会がありました。

安井氏は、シャープ、ロッテ、ゆうちょ銀行などを
担当されていますが、お話の中で特に印象に残ったのが、
シャープの「環境広告」でした。


シャープが「環境広告」を開始したのは2003年。
「環境先進企業になりたい」が目的でした。

企業のイメージについての2003年当時の調査結果では、
「環境先進企業」のイメージを持つのは、トヨタが
ダントツの一番。

ハイブリッドカーの「プリウス」のおかげです。

次いで2位はホンダ、3位はイオングループといった
順位だったそうですが、家電業界の企業は10位にも
入っていない状況でした。

2003年はまだまだ「エコ」は特別なもので、
ようやくゴミの分別収集が始まったくらい。

よほど意識の高い人でないと関心をあまり持たないし、
生活の中で実践する人も多くはなかったのです。


そんな時期にいち早く「環境先進企業」という
企業イメージを確立しようと考えたシャープは、
さすがに「目のつけどころがシャープ」であったわけです。

さて、シャープでは、モノを売るための広告ではないので、
3年-4年かけてじっくりとそんなブランドイメージを
形成していくという基本姿勢を持っていました。

ですから、広告を担当した安井氏も、
イメージ(トーン&マナー)の一貫性を維持するため、
監督やナレーター(吉岡秀穂)は変えない、また
各種広告にはタレントではなく、猫のミーヤと
犬のジョージを起用し続けました。

「ネコです」

というイントロで始まるシャープのコマーシャル、
覚えてますか?


結局、この環境広告は4年間にわたって継続されたのですが、
4年後にどうなったかというと、「環境先進企業」という
イメージを持つ企業として、シャープは、トヨタ、ホンダ、
イオンに続く、第4位にエントリーするに至ったそうです。

家電業界だけで見ると、ダントツの1位になりました。


近年、広告も「売りにつながらなきゃしょうがない」
みたいな風潮が強くなってますけど、シャープのように、
ブランドイメージ向上のために「投資」的発想で広告に
取り組んでいる企業があることを忘れてはいけないですね。
(トヨタ、ホンダ初め、他の多くの大手企業もそうですよ)

投稿者 松尾 順 : 09:16 | コメント (0) | トラックバック

マーケティング3.0考

●最新マーケティングバイブル『Marketing3.0』

『Marketing3.0』は、これからのマーケティングのあるべき方向性を明確に
示 した良書です。マーケティングの「最新バイブル」とも呼べる内容であり、
マーケターの必読書となることは間違いありません。

『Marketing3.0』では、新しいことが説かれているわけではありません。
マー ケティングがこれからどうなっていくかについての「きざし」をうまく
整理し、概念化してある点に本書の良さがあります。

実は、『Marketing3.0』の核となるアイディアは、アジアで生まれています。
コトラー氏の共著者は、東南アジアに拠点を持つマーケティング会社の人です。
これからポイントを紹介していく中でなんとなくわかると思いますが、
東洋的な思想がマーケティングに取り入れられたのが『Marketing3.0』です。

ですから、日本人の私たちにも結構しっくりくることが書かれています。

●マーケティングの進化

過去数十年間、マーケティングは顧客や市場環境の変化に伴って進化を遂げて
きました。最初の「Marketing1.0の時代」は作れば売れる時代のマーケティング
でした。製品を売ることしか頭になかった「製品中心のマーケティング」。

そのうち、市場にモノがあふれ競争が激化し、消費者の嗜好が高度化・複雑化
したため、「Marketing2.0の時代」へと進化せざるを得なくなります。2.0の
時代は、「顧客中心のマーケティング」です。個々の消費者のニーズにきめ
細かく対応し、製品を売るのではなく、顧客を創造することがマーケティングの
最大目的となりました。

そして今、「Marketing3.0の時代」が到来しつつあります。3.0の時代を迎え
た背景には、地球温暖化などの地球環境や生物多様性に関する問題、
人口爆発、経済成長のひずみが生み出した貧困問題など、社会・地球規模
で取り組むべき課題が増えたことがあります。

現代の消費者は、ただ自分の欲求を充たすだけではなく、自分の購入する商品
が地球環境などに悪影響を及ぼさないかということを懸念するようになってい
ます。あるいは、身近な日本社会における問題、さらには発展途上国の諸問題
について憂慮し、「自分にできることが何かないか」と考えるようになってき
ました。

つまり、現代の消費者は、個人としてだけでなく日本社会というコミュニティ
の一員として、さらには、様々な生物と共に大きな一つの生態系を作りあげて
いる地球に住む人類の1人である、という意識で行動するようになっています。

こうした消費者に受け入れられるため、マーケティングは、消費者の個人的な
ニーズだけに着目するわけにはいかなくなりました。単に「商品を購入する人」
として見るのではなく、全人間的に消費者を把握し、彼らが抱えている社会・
世界レベルの懸念や関心事にも、ビジネスを通じて何らかの形で対応する必要
があります。

つまり、Marketing3.0は、「人類中心(human-centric)のマーケティング」
なのです。

個人的なニーズを超え、現代の消費者が抱える社会全体・地球全体に関わる
問題(=人類レベルの問題)の解決に、ビジネス、そしてマーケティングが
何らかの形で'意識的に'貢献することが必要になったということです。

●3つの力

まず、「Marketing3.0」という新たなマーケティングの概念が要求されるように
なった背景にある「3つの力」について解説しましょう。3つの力とは、
「参加の時代」「グロバールパラドックスの時代」「創造的社会の時代」です。

・参加の時代

「参加の時代」とは、企業の商品開発やマーケティングコミュニケーションに、
消費者が積極的に参加することができるようになったということです。
これを実現したのは言うまでもなくIT革命ですね。低価格のパソコンや携帯
電話、インターネット接続サービス、そして多くの場合、無料で手に入る優れた
オープンソースの各種ソフトウェア。

IT革命によって、企業と消費者は、簡単に双方向のやりとりができるようにな
りましたし、人々がつながりあうソーシャルメディアによって、消費者の集団
的なパワーが増大しました。

したがって、これからの企業は、事業活動に積極的に消費者を巻き込み、
彼らの意見や要望をリアルタイムに取り入れることが求められます。これは、
消費者が本当に求めている、有益な製品づくりに役立つだけでなく、顧客との
絆づくりにもつながるのです。

ブランド構築についても、マーケターは従来のようなコントロール力を持ち
得ず、消費者ネットワーク、消費者コミュニティの集団的パワーが、ブランドに
大きな影響を与えるようになっています。もはや、ブランド構築もある意味、
消費者に委ねる時代なのです。

・グローバルパラドックスの時代

次に「グローバルパラドックスの時代」について。IT革命と輸送技術の進展の
おかげで、世界の国々の間の情報・物資のやりとりは非常に早く簡単に
低コストになりました。いわば世界は一つの国のようにあらゆるものが自由に
流れつつある時代です。

ただ、グローバル化は、同時にいくつかの矛盾というか「パラドックス」を
生み出しています。ひとつは、グローバル化は誰にも平等の恩恵をもたらした
わけではないということです。低賃金労働問題のような形での所得格差を大きく
することにもつながっているのです。グローバル化によって生まれた様々な問
題に対する懸念が高まっているのです。

また、グローバル化によって、ファーストフードに代表される、画一的な商品
・サービスが世界の都市を席巻することで文化が世界的に均質化する傾向が
ある一方で、その反動としてのローカルな文化、伝統を守ろうとする動きが
強まっています。つまり、人々は以前よりもますます自分たちの文化・伝統に
対する関心を高めているのです。

こうしたグローバル化の矛盾によって、やはりビジネス、マーケティングは、
個人のニーズだけを考えるのではなく、社会・世界全体レベルでの視野を
持たなければならなくなっています。

・創造的社会の時代

最後の「創造的社会の時代」ですが、お金で買えないものに価値を見出す、
また精神的なものを大切にしたいとする人々が世界的に増加しているという
意味です。彼らの多くは創造性が要求される専門的な職業に従事している
ことから「クリエイティブ・クラス(階級)」と近年呼ばれるようになっています。

創造的社会では、ただ便利とか安いというだけでは商品は選択されません。
デザインの美しさなどの情緒的価値の高さに加えて、人々の奥深くにある魂を
揺り動かすことのできるような価値をも提供しなければならないのです。(これ
は、必ずしも、いわゆるスピリチュアル、宗教的なものというわけではありま
せん)

●価値駆動の時代

またちょっと別の視点でMarketing 3.0を考えてみます。

Marketing 3.0は、「価値駆動の時代(Value-driven era)」において、
求められるマーケティングの取り組み方法だと言えます。「価値駆動」とは、
人々は、自分が大切にしたいと考えること=価値観に基づいて消費を行うと
いう意味です。

従来のように、ただ充たされない欲求があるから製品やサービスを購入する
のではなく、地球全体、あるいは社会全体の問題に対して「どうにかしたい」
という思いを商品選択で重視するようになってきたということです。

ですから、Marketing 3.0では、従来のように、単に「消費者」として人々を
見るのではなく、知性(Mind)、感情(Heart)、そして人間性(Spirit)を
併せ持つ一人の「人間」として把握しようとします。

ここでちょっとわかりにくいのが「人間性」(Spirit)という言葉です。

人間性とは、人々が誰もが本来心の奥底に持っていると思われる、個人の欲求
を超えたところにある、社会的価値の追求、さらに言えば地球的価値の追求と
言えるでしょう。したがって、前述した「価値駆動の時代」に最も大きく
関わってくるのが、この人間性です。

要するに、自分個人よりも社会全体、地球全体の調和や幸福を願い、その実現
に対して、自分が何らかの形で貢献したいという思いのこと。一言で形容でき
るぴったりの言葉は今のところ発見できていませんが、いちおう、私は
「人類愛」と言い換えることにしています。

●水平的につながった消費者

Marketing 3.0では、今日の市場においては人々の企業に対する「信頼」が
劇的に低下していることを指摘しています。実際、日本においても偽装事件が
次々と明るみに出るなど、企業に対する信頼性は随分と失われました。

一方、信頼性が高まっているのが消費者お互い同士。SNSやツイッターなど
インターネット上で水平的に広がるネットワークを通じて頻繁に情報を交換
しあっています。

消費者の中にはもちろんガセネタを流す人もいます。しかし、ソーシャル
ネットワークは、友人同士がつながるところから始まっているだけに入手
できる情報は十分に信頼に足るものが多いのです。売上のためにしばしば、
ウソの情報を流してきた企業とは大違い。

従来、消費者の情報入手方法が実質マスメディアに限定されていた時には、
企業は、マスコミュニケーションを通じて消費者が得る情報内容をかなりの
程度自由にコントロールできました。

豊富な予算を持つ企業が、情報においては上位に立ち、孤立した消費者たちを
上から見下ろすかのように、垂直的な情報操作を行ってきたのです。しかし、
そんな時代はインターネット革命によって終焉を告げたのです。

消費者はもはや孤立しておらず、数億人、数十億人の規模で水平的に
つながりあい、巨大なグローバル企業でさえ凌駕するパワーを持つように
なってきました。

消費者がその気になれば、世界規模で特定企業の商品ボイコットや糾弾活動を
展開し、企業を事業停止に追い込むことさえ比較的簡単にできる可能性がある
のです。

今、企業人としての私たちは、ネットワークでつながった消費者が持つ
強大なパワーを決してみくびってはいけないのだと痛感しています。

●消費者の信頼を回復するMarketing 3.0

企業に対する消費者の信頼が大きく展開した今、信頼を回復するためには、
「新消費者信頼システム(the new consumer trust system)を構築する
必要があると『Marketing 3.0』では説いています。

「新消費者信頼システム」は、消費者間の横のつながりを尊重するものです。
従来のように、企業が上位に立ち垂直的にコミュニケーションを行い、消費者
を恣意的に操作することができなくなった現代における新たな取り組みです。

そして、この新消費者信頼システムの構築において主要な役割を果たすのが
「マーケティング部門」なのです。ここでマーケティング部門には、広報、
広告、販促、営業などが含まれます。

なぜ、マーケティング部門が主要な役割を果たすのでしょうか?

言うまでもありませんが、消費者と直接的な接点を持つのがマーケティング
部門だからです。消費者は、マーケティング部門と行うコミュニケーション、
また、当該部門の人々と直接触れ合うことによって、企業に対する信頼を
形成していくからです。

このことは、自社Webサイトや公式ツイッターなどを運営することによって、
マスメディアを媒介せず、ダイレクトに消費者とコミュニケーションを行う
ことができるようになった今、極めて重要なポイントだと言えます。

『Marketing 3.0』では次のように述べられています。

“マーケティングはもはや、単に売ることでもなく、需要を生みだすための
 道具を使うことでもない。マーケティングは今、消費者の信頼を回復する
 ための、企業にとっての大きな希望と考えるべきである。”

●共創、コミュニティ化、性格(キャラクター)形成

企業が、Marketing 3.0を実践して成功を収めるためには、消費者が近年、
ますます重視するようになってきた3つのことを深く理解する必要があります。
それは、「共創(Cocreation)」「コミュニティ化(Communitization)」
「性格形成(Character Building)」の3つです。

・共創(Cocreation)

共創とは、企業と消費者が共同、協力しあって、新たな価値を生みだすこと。
共創を実現するためには、企業は、消費者との共同・協力の場となる基盤=
プラットフォームを構築する必要があります。

この一例を挙げれば「クックパッド」。消費者が自分の得意な料理レシピを
投稿することにより成立している情報サイト。企業が構築した基盤の上で、
消費者がお互いにレシピを入手することを通じて、企業は、新商品開発に
つながる貴重なヒントや事業収益の機会を得ています。

・コミュニティ化(Communitization)

ここでのコミュニティ化というのは、SNSなどだけを指しているわけではあり
ません。従来の多くのコミュニティが地域などの地縁で成立していたのに対し、
特定の興味関心や共通するライフスタイルなどによって結びついた現代の
新たなコミュニティのことです。

企業として忘れてはいけない点は、コミュニティはそこに属するメンバーの
ために存在しているのであり、企業が勝手に操作しようとすべきでないこと、
むしろ、コミュニティに奉仕すべきであることです。

・性格形成(Character Building)

企業や製品を「人」だと考えてください。人はそれぞれユニークな性格や価値
観を持っていますね。企業は製品もまた、ユニークな性格を形成していく必要
があるのです。

もちろん、単にユニークであるということだけでなく、正直で真摯で信頼にた
る性格を形成することによって、消費者とのきずなを深めていくのです。

●マーケティングの進化

さて、『Marketing3.0』では、これまでのマーケティングの進化についても、
実に手際よく、わかりやすく説明されています。本書によれば、
マーケティングは大きく3つの基本的な考え方に基づいて進化してきています。

すなわち、「製品管理」「顧客管理」「ブランド管理」の3つです。

「製品管理」とは、製品の開発・生産・販売に重点を置いたもの。
作れば売れた時代のマーケティングですね。日本で言えば高度成長期。
冷蔵庫、エアコン、自動車など、生まれて初めて買うという消費者がほとんど。
いい製品を作ること、その存在を広告することだけを考えていれば十分でした。

しかし、市場が成熟し競合も激化。新規購入ではなく、買い替え、買い増しの
消費が主流となると、「どんな製品を買うか」ではなく、「どの企業から買う
かという判断が重要になってきます。このため、製品だけでなく、顧客対応や
サービスの充実が求められるようになってきた。

そこで「顧客管理」がマーケティングにおける中心課題となったのです。
私の専門としている「CRM(Customer Relationship Management)が、
当時の最新のマーケティングの考え方として大きな注目を浴びました。

そして、顧客管理に続く、マーケティングの進化として生まれてきたのが、
「ブランド管理」です。「ブランド」とは、消費者の頭の中にある、商品に
ついてのイメージや好き嫌いなどの評価や感情のこと。

マーケティングは、製品や顧客との関係性を管理するだけでなく、
消費者の頭の中にあるブランドを望ましい形で形成することに目を向ける
ようになったのです。

●マーケティング=経営

マーケティングの進化には、別の視点もあります。Marketing3.0で
説明されている内容を私なりに噛み砕けばやはり次の3段階になります。

「戦術的」→「戦略的」→「経営的」

前項の「製品管理」の初期の時代では、「戦術的」なマーケティングが
行われていました。要するに、基本的に作った製品を「売る手段」に
過ぎなかったわけです。小手先のテクニック開発がメインでした。

しかし、製品自体だけでなく、優れた顧客対応やサービスも要求されるように
なってくると、より高所的、全体的な視点でマーケティングを組み立てる必要
が出てきます。製品開発・生産・販売・サービスという価値連鎖を考慮した
「戦略的な」マーケティングが広まっていきます。

そして、近年はさらに経営全体の視点からマーケティングを考える必要が
出てきました。ある意味、マーケティング=経営という等式が成り立つほど
ビジネスにおけるマーケティングの存在が大きくなったのです。

「経営的」マーケティングが求められる理由。それは、消費者が社会、
また地球規模の影響を考慮して商品を選択するようになり、企業の社会に
おける存在意義を問うようになったからです。

したがって、マーケティングは、社会における企業の存在価値を証明する
活動として位置づけるべきであり、ここには経営レベルの視点が不可欠
なのです。

●まるごとの人間

マーケティング3.0では消費者を「まるごとの人間」(Whole Human beings)
として把握し、対応する必要があると説いています。本の中では、
『7つの習慣』のスティーヴン・コヴィーの説を引用していますが、まるごと
の人間は、以下の4つの基本的な要素を持っています。

・身体(physical body)
・知性(mind)
・心(heart)
・人間性(spirit)

すなわち、物質的な「身体」、独立した考えや分析を行うことのできる
「知性」(mind)、感情を司る「心」(heart)、そして、「人間性」(spirit)
です。

「人間性」(spirit)は以前もご説明しましたが、今回は別の説明を加えると
そもそも人間とは何か、なぜこの世に存在しているのかといった哲学的な
思いをはせる部分のことだと理解してください。

マーケティングは、当初、「知性」を対象にコミュニケーションをして
きました。つまりこの製品は役に立つ、といった論理的な判断を求める
方法です。製品が持つ「機能的価値」「便益的価値」を訴求するわけです。

しかし、同じような「機能的価値」「便益的価値」を持つ競合他社商品は
山ほどありますよね。そこで、消費者の「心」、言い換えると「感情」に
訴えようとするコミュニケーションが台頭してきたのです。

これは、例えば、「この商品を買うと、楽しい気分になりますよ、
心地よいですよ、誇らしいですよ」といった「情緒的価値」を伝えるという
ことです。このアプローチは、一般に「感情マーケティング」と呼ばれ
現在全盛期を迎えていると言えます。

●グローバル・ビッグ・イシュー

そして近年、増える兆しを見せてきたのが、「人間性」に訴えるアプローチ
です。これは、個人の欲求を超えたところにある、社会、あるいは地球規模の
課題や心配事、不安について、企業がどのように考えており、それらの解決に
どのような貢献ができるかを伝えることです。

人間性に訴えるマーケティングは、外国の大手グローバル企業は既に
積極的に取り組んでいます。たとえば、GEやネスレなどです。こうした企業
では、「グローバル・ビッグ・イシュー」を解決するということを事業の根幹に
据えて活動していることを対外的に公言しているのです。

「グローバル・ビッグ・イシュー」とは、文字通り「地球規模の大課題」と
いうこと。具体的には、貧困、伝染病、資源の枯渇、絶滅危惧種、地球温暖化
といった課題の解決を企業として目指す。

その一環として様々な商品を開発、提供するということです。 具体例として
は、GEの「ecoimagination」(エコ イマジネーション)があります。Web
サイトがありますので興味のあるかたはアクセスしてみてください。
この取り組みはGEが環境問題の解決のためのものであり、具体的には、
太陽光発電用のパネル、風力発電用タービンなどの 製品に結びつけています。
単にお題目としてではなく、実際に環境問題の解決に貢献していることを
伝えているのです。

「人間性」に訴えるマーケティングは、単に以前のメセナやフィランソロピー
のように、収益の一部を寄付するといった活動に限定しません。企業全体と
して取り組む、商品を通じて貢献するという点が従来と大きく異なります。
すなわち、「経営的」なマーケティングなのです。

●ブランドの所有者は消費者

2010年10月頭、米GAPが公式ベージ上のロゴマークを新しいマークに切り替え
たところ、ツイッターやフェイスブックなど、ソーシャルメディアで消費者
からの反対の声が上がり、わずか数日後には、元のロゴマークに戻すという
事件がありました。今月(2011年1月)にも、スターバックスのロゴマーク
変更に対して、利用者から賛否両論の意見が湧きあがっていますね。

ブランドは、いったん成立したら、もはや企業のものではなく消費者のもの
であると言われてきました。この言葉が単なるお題目ではなく現実にそうで
あることを「GAPロゴマーク事件」は実感させてくれました。

Marketing 3.0では、イケアのフォント事件が紹介されています。
イケアは、 2010年からカタログなどに利用している文字を従来の「FUTURA」
から「VERDANA」に変更しました。

「VERDANA」は、紙でもWEBでも使いやすいこと、また「FUTURA」は
有料でしたが「VERDANAは無料のため、コスト削減にもつながり、
それが顧客の利益にもなるという判断だったようです。

ところが、やはり消費者の反発を受け、元のフォントに戻すオンラインの
署名活動が行われたほどでした。新しいフォントは、イケアの持つ
スタイリッシュなブランドイメージにそぐわないということらしいのです。

イケアの場合、旧フォントに戻すまでには至っていませんが、ソーシャル
メディアによって消費者が横につながり、社会的な発言力を高めたおかげで
企業に対する賛成、あるいは反対の意向が即座にかつ明確に社会に広まる
ようになったこと。

これが、消費者を真の意味でブランドの所有者にしたのでしょう。

●望ましいブランドミッション

もはや企業はブランドを所有できない。そしてブランドのミッション(使命)
は、消費者のミッションと等しいのです。つまり消費者が日々の生活の中で
目指していること、望んでいることをブランドが体現しているということです。

Marketing 3.0では、このような現状において企業ができることは、ブランド
のミッションに沿って、自らの企業行動を行うことだと述べています。もし、
ブランドのミッションに反するような行動を取ったら、すぐにブランド所有者
である消費者から、強烈なパンチを食らうことになります。

では、よいブランドのミッションは何なのでしょうか?それは、消費者の生活
をより良い方向に変えることです。小手先の商品を出して束の間の満足を与え
ることにとどまらず、ライフスタイルを大きく変えてしまうくらいのインパクト
を持つもの。

そうした商品は必然的により大きな視点、すなわち社会や世界、地球全体と
いった視点で、より望ましいライフスタイル、生き方を捉え直すことから
始める必要があります。

そしてまた、わかりやすく、心に響く「ブランドのストーリー(物語)」が、
ブランドミッションと共に、人々の間で語り継がれていくことが望ましい。

目先の顧客ニーズだけを追っている場合ではない時代なのです。

●洞察力がブレークスルーにつながる

企業が持つべき、望ましいブランドミッション(使命)は、消費者の生活を
大きく変えることのできる(もちろん良い方向に)インパクトを持つことです。
これは、極めて強い競争優位性の確立につながります。

近年、これを実現しているブランドとしては、やはりiPod、iPhone、
iPadといった製品を世に出した「アップル」が一番わかりやすいでしょう。
アップル社の製品は、まさに私たちのライフスタイルを大きく変える力を
持っています。

では、こうした「ブレークスルー」(飛躍的な革新)とも言える製品を開発
するにはどうしたらいいのでしょうか。それは、消費者、というより、人間
そのものについての深い理解、そして、深い理解に基づく洞察力を持つこと。

洞察力とは、人がほとんど意識していない微かな欲求、あるいはすっかり
慣れてしまったために、普段は気付かない不平、不満、不便を感じ取る力
だと言えるでしょう。これらは、「インサイト」とも呼ばれます。

「インサイト」を感じ取る力が洞察力。もちろん、言うは易しで簡単に身に
つくものではありません。いわゆるカリスマリーダーと呼ばれる人たちの
多くは、洞察力を生まれながらに持ち合わせてるようですが。

大事なことは、中心部ではなく周辺に目を配ること。大勢ではなく少数派の
動きに注目すること。というのも、周辺部にいる少数派の人々は、いち早く
多数派がまだ気付いていないインサイトを顕在化させ、それを言葉に
出している可能性があるからです。

すなわち、企業は、外部で起きている小さな変化、兆しに敏感になる必要が
あるということです。私の専門分野である「マーケティング・リサーチ」
について考えると、基本的に多数派の意見を吸い上げることに向いている
アンケート調査だけでは不十分です。

サンプル数は数件でも、消費の現場に行き、現実の顧客とじっくり対話する。
あるいは、ありのままの消費行動を観察させていただく。そうすることで、
小さな変化、兆しを捉えることができます。また、こうした行動が、洞察力
を高めることにもつながります。

●ブランドストーリーも重要

さて、消費者の生活を大きく変えるようなブランドには、ブランドを支える
ストーリー(物語)がつきもの。ブランド・ストーリーを通じて、
人は感動し、共感・共鳴し、ブランドの熱烈な支持者となっていきます。

実は、ブランドストーリーも、やはり企業だけが作るものではありません。
基本のストーリーはもちろん、企業内で生まれます。しかし、昔ばなしが、
人から人へと伝えられる過程で少しずつ変貌していったように、ブランド
ストーリーも消費者との共同作業になります。

Marketing 3.0では、ブランドストーリーもまた、企業がコントロールしよう
とはすべきではなく、消費者に手渡すべきだというのが基本主張です。
企業がやるべきことは、真摯(Integrity)で真正(Authenticity)であること。
そうすれば、否定的なストーリーへと変容させられていくことはありません。

●グリーンマーケティング

「石」からできている紙があるのはご存知でしょうか?石灰石の粉末に
ポリエチレン樹脂等と加えたもので、丈夫で防水性も高いそうです。
製品名は「リッチ・ミネラル・ペーパー(RMP)」です。

「石の紙」は値段的にはちょっと高めです。しかし、木材パルプを使用して
いないため、森林資源の保護につながる点がメリットです。個人的には、
こうした製品がもっと普及してくれればと願っています。

地球環境保護に役立つ製品は、おおむね割高なのが課題ですね。しかし、
普及すればするほど生産コストも低下して、手に入りやすい価格になる、
おかげでますます利用されるようになるという「善循環」を私は期待して
いるのです。

さて、地球環境保護につながる製品を開発したり、マーケティング施策を行う
ことを「グリーンマーケティング」と呼びます。「グリーン」とはもちろん、
緑豊かな自然を喩え、それを守ることを意図しています。

近年、地球環境の悪化が顕著になるに伴い、グリーンマーケティングに対する
消費者の関心が大きく高まっています。同時に、これまで述べてきたように、
企業の社会貢献意識も強まったことから、企業のグリーンマーケティングへの
取り組みもますます積極的になっています。

ただ、現実にはまだまだ普及途上であり、「エコに配慮した製品を開発した
ものの、消費者はなかなか買ってくれない」という企業側の嘆きを聞くことも
多いのです。

●グリーン市場4つのセグメント

グリーンマーケティングがなかなか浸透しない背景には、個々の消費者の心理
の違いがあります。端的に言ってしまうと、環境に配慮した製品に対して肯定
的で、積極的に購入する人は少数派であり、まだまだ慎重派、懐疑派が多数を
占めているということです。

Marketing3.0では、上記について「グリーン市場の4つのセグメント」という
視点を提示しています。すなわち、グリーン製品(環境保護に貢献する製品)
に対する消費者心理の違いから、「トレンドセッター」「バリューシーカー」
「スタンダード・マッチャー」「コーシャス・バイヤー」という4つのセグメ
ント(グループ)に分けているのです。

「トレンドセッター」は、自らも環境保護活動を行っているような、いわば
「環境マニア」です。彼らは、環境保護に役立つ革新的な製品を歓迎する
人たち。感情的・精神的動機からグリーン製品を購入します。ロジャースの
普及理論に当てはめれば「イノベーター(革新者)」や、「アーリー
アダプター(初期採用者)」です。

「バリューシーカー」は、合理的な動機、効率向上、コスト削減にも役立つと
いう理由でグリーン製品を購入する人たち。つまり、グリーンマーケティング
に積極的ではあるものの、ただ環境保護に役立つという理由だけでは買わない。
普及理論では「アーリィ・マジョリティ(前期追随者)」に該当するでしょう。

「スタンダード・マッチャー」は保守的で、グリーン製品が広く利用されるよ
うになるまで様子見を決め込む人たち。スタンダード=標準となるまではなか
なか購入しようとしない消費者です。普及理論では、「レイト・マジョリティ
(後期追随者)」のセグメントに入るでしょう。

「コーシャス・バイヤー」は、最も保守的で懐疑的な人たち。グリーン製品な
んて、企業が売るためのまやかしなどと思っている人たちもここに含まれます。
普及理論では、「ラガーズ(遅滞者)」です。

企業がグリーンマーケティングに取り組む際には、こうした消費者心理に
基づくセグメントを意識する必要があります。

●「ありがとう」こそ最高の言葉

ちょっとうろ覚えで申し訳けないのですが、歌手・俳優の加山雄三さんが以前
どこかでおっしゃっていたことで今でも強く印象に残っている話があります。

それは、お客さんから頂く言葉で一番うれしいのは「ありがとう」という感謝
の気持ちを表す言葉だということです。加山さんのようなエンタテイナーだけ
でなく、様々な製品やサービスを提供する側にとって最高のほめ言葉は
「ありがとう」でしょう。

ちなみに、一般的な顧客満足度調査では、「とても(大いに)満足した」と
いった選択肢が最高ですね。しかし、実は、満足の先に、「感激した」あるいは
「感動した」というより高次の表現があります。そして、究極の満足に達した
顧客が発する言葉が「感謝したい」という表現なのです。

従来、満足度調査において、「感動した」「感謝したい」という表現を使用
するのはちょっとオオゲサかなと感じていました。しかし、近年はむしろ
積極的に取り込んでいくべきではないかと考えるようになってきました。

というのも、地球環境や社会の様々な問題解決に対して、自社の各種製品や
サービスを通じて貢献することを強く意識し始めた企業が増えているからです。

こうした地球・社会問題解決型の企業は、実際のところ、顧客から
「ありがとう」という言葉をもらうことが多くなっています。本当に困って
いたことが解決したり、ずっと望んでいたことが実現できた顧客の口から
思わずこぼれ出るのは、感謝の言葉になるのです。

●感謝される企業

例えば、池などからくんできた汚れた水でも、特殊な粉末を入れてかき混ぜる
だけでたちまち浄化でき、漉しとればおいしい水が飲めるようになる製品を
開発・販売している日本企業があります。

こうした製品は、非常時用だけでなく、水道が普及していない発展途上国で
使ってもらえるようにすれば、おいしい水が飲めるようになった現地の人に
とっては、「ありがたい」という言葉しか出てこないでしょう。

あるいは、数千円台で購入できるパソコンが最近開発されています。こんな
パソコンは、従来は高価すぎて利用不可能だった途上国の子どもたちに
使ってもらうことで、識字率を低下させ、学力向上に役立てることができます。
子どもたちもまた、パソコンメーカーに対しては、単に満足するのではなく、
大いに感謝してくれることでしょう。

この連載記事では、過去半年ほど「Marketing3.0」の考え方をご紹介して
きましたが、結局のところ、これからの企業が目指すべき方向性、それは、
「感謝される企業を目指す」ということではないかと思っているのです。

「感謝される企業」を目指すことは、企業の私利・私欲を追わないということ
です。また、顧客のせつな的な欲求を充足することでもありません。むしろ、
「本当の意味での幸せ」を実現することに貢献することだと考えています。

「本当の意味での幸せ」は定義が難しいですが、あえて言い切ってしまうと、
自分ひとりがいい思いをすればいいのではなく、社会全体、また地球の
あらゆる生物を含めた全体が調和し、皆が活き活きとした「生」を謳歌できる
ことだろうと思います。

キレイゴトに聞こえますか?しかし、こんなキレイゴトに真剣に取り組む
企業しか、これからは生き残れないと私は確信しています。

投稿者 松尾 順 : 02:26 | コメント (0) | トラックバック

年越しそば vs 年明けうどん

大晦日に、「年越しそば」は食べましたか?

手作りであれ、カップめんであれ、
食べた人多いんじゃないでしょうか?


私が生まれ育った福岡・筑後地方には、
どういうわけだかラーメン屋とうどん屋しかありません。
(とういうのはウソですが実感として)

そばを食べるのは年1回、大晦日の夜だけでした。

実家で作っていたのは丼に入った温かいそばです。

ですので、18歳で上京して初めて、
「ざるそば」というものがあることを知りました。
(というのもウソですが実感として)

実際、上京するまで「そば屋」というものに
入った記憶がないのです。


では、「年明けうどん」は食べましたか?

聴いたことはあっても、
実際に食べる人はまだそれほど多くでしょう。

でも、年明けうどんは、
少しずつ定着しつつあるようです。


年明けうどんは、
「さぬきうどん新興協議会」が2008年に、

「新年に太くて長いうどんを食べて長寿を祈る」

と提唱したもの。

白いうどんに、梅干し、エビなどの赤い具材を乗せて、
紅白に彩ることでめでたさを演出します。


新聞記事や「年明けうどん」Webサイトの報道資料を
見ると、「年明けうどん」の商標登録使用申請は、
2010年11月25日時点で45都道府県、491業者。

前年度より200業者ほど増加したそうです。

また、スーパーやコンビニでもお正月セールの目玉と
して売るところが増えていますね。

おかげで消費者の認知も高まってきたというわけ。


それにしても、2008年からわずか3年でここまで
認知が高まったケースは珍しいほうでしょう。

ただ、これは単に「運が良かった」わけではないと
思います。「年明けうどん」のWebサイトを見ると
わかりますが、関係者の方が熱心に、また地道に
「年明けうどん」の浸透のための各種施策を続けて
きたことがわかります。


うどんはおいしいですよね。
でも、ただおいしいだけでは駄目なのです。

そのおいしさをさまざまな工夫をして演出し、
人々に効果的に伝えていくことが必要。

「富士宮やきそば」をB級グルメの頂点にまで
育て上げた、富士宮やきそば会長、渡辺英彦氏が
取り組んだこともまさに同じ。

「富士宮やきそば」のおいしさを人々に知らしめるために、
積極的にPRし、とりわけマスコミを巻き込むことに
努力したからこそ今の成功がある。

「年明けうどん」も、ひょっとして優れた
ブランドコンサルタントがフォローしているんでしょうか、
マスコミ対策がバツグンにうまい。

大晦日は「年越しそば」、年明けは「年明けうどん」、
が日本家庭の当たり前の風景になるのも、
そう遠くないかもしれません。

あ、年明けうどんは1月15日までに食べる決まり
だそうなので、まだ間に合いますよ。

私自身は筋金入りのうどんLOVERで、
そもそも週2-3回くらい食べてますので
あんまり関係ないですけど。


★年明けうどんWebサイト
http://www.toshiakeudon.jp/

★富士宮やきそば学会
http://www.umya-yakisoba.com/

投稿者 松尾 順 : 07:46 | コメント (0) | トラックバック

ハローキティ vs ミッキーマウス

世界で最も人気の高いキャラクターといえば、
昔から「ミッキーマウス」で決まりですよね。

ただ、ひょっとしたら現時点では、
ハローキティはミッキーマウスと互角の人気
にまで達しているかもしれません。

日本でもライセンス契約の下、
さまざまな商品がキティブランドとして
発売されていますが、世界中の様々な企業も、
次々とキティちゃんを採用しているのです。

調べてみたら、日本の化粧品メーカーも
いろいろとキティ化粧品を出してるんですが、
フランス最大の化粧品メーカー、セフォラでも、
キティちゃんの新化粧品ラインアップを近々、
発売予定です。

画像見つけました。


かわいいですね。

そういえば、日本語の「かわいい」の語感を
適切に表現できる英語がないため、外国人も、
「Kawaii」とそのまま使っています。

かわいさの度合いという意味の
「Kawaiiness」なんて名詞形もあるくらい。


さて、セフォラの担当者によれば、
キティちゃんは、「幅広い年代」に人気がある点を
評価しています。

ちゃんと調べてないので仮説になっちゃいますが、
ミッキーは基本子ども向けであり、大人になれば
卒業するキャラクターです。
(もちろん例外ありますが)

一方、ハローキティは何歳になっても、
愛し続ける人が多いようです。


昨日、このテーマについて、
ブランドコンサルタントの小出正三さんと
ツイッターで話したところ、小出さんによれば、

・ミッキーは、絶対にカタチを崩さないブランド

・キティは、何にでもあわせるブランド

であり、また、

・ミッキーを買うには、
 ミッキーの世界を受け入れなければならない

・キティは、「私世界」にキティを組み込める
ということだそうです。


なるほど。

だから、ミッキーの場合、成長するにつれ、
ミッキーの世界に居づらくなるけれど、
キティの場合は、自分の成長に伴って変化する
自分の世界に合うようにキティを自由にアレンジ
できるから卒業することがない。

キティが幅広い年代に受ける理由は
どうやらこの点にありそうです。


海外での稼ぎ頭として、
キティちゃんには世界でますます活躍して
欲しいですね。

*小出正三さんの会社:Brand Logistics Co.Ltd.
http://www.brand-ing.jp/

投稿者 松尾 順 : 10:15 | コメント (2) | トラックバック

福袋のリスク回避行動

今年のお正月、福袋は買いましたか?

私は最近は、「欲しいものだけ買いたい」
「あんまり冒険したくない」と考えるように
なったのでめったに買いません。


どうやら、同じような人が増えているようです。

・あらかじめ中身が書いてあるもの
・サンプルが展示してあるもの
・袋が透明になっていて中身が見える

といった福袋が主流になってきましたよね。

ECサイトで販売されてる福袋も、
冷静に考えれば、単なる「セット割引販売」です(笑)


まあ、年に1度のお楽しみにケチをつけるつもりはありません。

しかし、本来、何が入ってるかわからないという「サプライズ」
を買うという、福袋の価値がずいぶん変化してきたわけです。


そもそも、人間の購買行動には、何らかの「欲求」
を充足したいという「欲求充足行動」に加えて、
購買に伴う「リスク」を回避したいという、
「リスク回避行動」があります。

おそらく、中国やインドなど成長期にある国の人々では、
あまりリスクを恐れず、欲しいものをどんどん買うという
「欲求充足行動」が強くでます。

一方、ほとんどの欲求は一通り充たされており、
また個人所得が目減りしている日本の現状では、
「リスク回避行動」の方が、「欲求充足行動」よりも
強くなってしまうのは当然なのかもしれません。


ちなみに、「リスク回避行動」は非常に重要な概念だと
思うのですが、これに触れてある本が意外に少ないのです。

ほとんどのマーケティング本でも、
欲求、つまり「ニーズ」「ウオンツ」について
書いてないものはありませんが、
購買に伴うリスク回避を取り上げているものは
あまりないのです。

私のメルマガ&ブログ記事では折に触れ、
リスク回避行動についてご説明しますね。

最後に参考までに、リスク回避行動の6タイプ
について補記しておきます。

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(1)機能的リスク

   商品の品質や性能が期待通りでないかも
   しれない

(2)心理的リスク

   商品が、自分の価値観やライフスタイルと
   合わないかもしれない

(3)社会的リスク

   その商品の購入に対して、身内や仲間から
   反対、非難、嘲笑されるかもしれない

(4)経済的リスク

   金銭や資産の損失を被るかもしれない

(5)身体的リスク
   
   けがや病気など、自分の身体に悪影響を
   及ぼすかもしれない

(6)時間的リスク

   買い替えや修理などに伴う時間的損失が
   発生するかもしれない

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投稿者 松尾 順 : 08:57 | コメント (0) | トラックバック

新年のご挨拶&今年の取り組み

当マインドリーディング・ブログ(&メルマガ)は、
今年からちょっと仕立てを変更することに致しました。

平日発行については、
基本的に短め・軽めの内容にします。

これまでと違って、
さくっと気楽に読める感じになるかと思います。

そして、従来のような、まとまった長めの内容は、
週末や祝日に十分時間をかけて書き、皆さまに
お届けしたいと考えております。

ただし、基本コンセプトは変えません。

すなわち、「消費者・顧客心理」の解読に役立つ
ヒントやアイディア、情報の提供です。

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さて、今日は2011年の新たな取り組みについて
簡単にご案内させてください。

●「マーケティング心理学」のリアルセミナーを開始

2005年にマインドリーディングメルマガ&ブログを
開始した究極の目的は、マーケティングに役立つ心理学を
体系化した「マーケティング心理学」を確立し、
様々な学習コンテンツとして提供することでした。

過去5年間は、土壌作り・種まき段階という感じで
コツコツやってきましたが、昨年あたりから、
企業からの「マーケティング心理学」についての
問合せや引き合いが発生するようになりました。

これまで多くの企業は、消費者に対する理解を深めること
には関心が低く、相手が誰であれ、とにかく、効果のある
小手先のノウハウ、テクニックを求める傾向がありました。

しかし、万人に効く万能のノウハウ・テクニックなどは
存在しない、まずはターゲット消費者・顧客の理解を
深めなければ、費用対効果の高いマーケティング施策は
企画・運営できない、ということをようやく、多くの
マーケターが認識し始めたようです。


機は熟した、と私は感じています。そこで、今年から

「Mindreading - マーケティング心理学」

を本格展開します。

すでに、大手流通グループの社員研修の案件が
確定していますが、自社主催の一般マーケター向け
リアルセミナーも積極的に開催していきます。

第1弾は1月30日です。
ご興味のある方はぜひご参加ください!
 
 ⇒詳細・お申し込み

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●「英語で学ぶマーケティング」のコンテンツ拡充

2010年7月から開始した「英語で学ぶマーケティング」は、
毎月2回の定例セミナーをコンスタントに開催しました。

毎回、英語力をアップしたい、
意識の高いマーケターの方々が参加くださっています。


今年も、月2回の定例セミナーは続けますが、
単発の集中セミナーを開催していきます。

日本企業における、
英語の社内公用語化も増えつつありますし、
マーケターのグローバル対応も「待ったなし」です。

1月には集中セミナーを2回開催します。
こちらもご興味のある方はぜひご参加ください!

 ⇒詳細&お申込み

また、2月からは有料メルマガも開始する予定です。
詳細は改めてご案内いたします。

「英語で学ぶマーケティング」Webサイト
http://www.marketinglish.com

では、今年もよろしくお願いします!

投稿者 松尾 順 : 13:46 | コメント (0) | トラックバック

人間理解のための2方向のアプローチ

東洋経済(2011/01/08)に連載されている佐藤優氏の「知の技法出世の作法」に、
経済学者、中谷巌氏が佐藤氏に語った言葉が紹介されていました。

以下のようなものです。

"
経済学の基本的な知識は、頭の良い人ならば2~3年で習得することができる。ひとたび努力して知識を身に付けると、経済現象をすべて説明できると勘違いしてしまう。

近代経済学の前提となる、完全情報を持っている合理的人間というのは虚構だ。人間が合理性以外の理由で行動することはいくらでもある。

だから私は、各民族の文化とか伝統に目を向けるようになった。

マーケティングもまた、基本的には「合理的な人間」「合理的な判断・行動」を前提とする
アプローチが主流を占めてきました。しかし、現実にはそうではなく、従来の合理性偏重の
マーケティングにも限界があることが、近年はより明確になってきています。

そこで、「合理性」だけでなく、「非合理性」をも併せ持つ人間をよりよく理解するためには、
2方向からのアプローチが必要です。

ひとつは、人間の内面、すなわち心理の原理原則を掘り下げること。
それが人間行動にどのような影響を与えるのかを理解することです。

すなわち内側から外側へという方向。


もう一つは、中谷氏の指摘する、文化、伝統といった人間の外側にある
環境についての掘り下げであり、それらが人間の心理・行動にどのように
影響を与えるのかを理解すること。

外側から内側へのアプローチ。


2011年から本格展開する「マーケティング心理学」では、
「心理学」に軸足があるので、主には内側から外側へのアプローチになりますが、
人間をよりよく理解するためには、外側から内側へのアプローチも取り込みます。
学問分野でいえば、社会学や文化人類学、民俗学などもカバーするということです。


2方向のアプローチを融合することによって、
人間(の心理・行動)に対する理解は着実に深まるのだと、
私は考えています。

投稿者 松尾 順 : 14:08 | コメント (0) | トラックバック