『プラットフォーム戦略』

今日は、ブランド関連本ではありません。

ビジネスブックマラソンの土井英司さんも大絶賛している
最新刊をご紹介します。

『プラットフォーム戦略』
(平野敦士カール、アンドレイ・ハギウ著、東洋経済新報社)

「プラットフォーム」とは、具体例を挙げれば、

「楽天市場」

のように、多種多様なオンラインの店舗が集積し、
多くの消費者が集まる「場」を作り出すことです。


卑近な例ながら

「合コン」

もまた、プラットフォームだと、
著者は主張しています。


合コンをビジネスとして展開する

「お見合いクラブ」

では、合コンの「幹事役」として、
出会いを求める男女に魅力的な場を提供し、
双方からの参加を募ることで事業を回しています。

男性・女性という互いに引き合う2つのグループを
マッチングさせ、双方がお互いにやりとりすることを
促す合コンには、

「プラットフォームの基本構造」

があるのです。


さて、プラットフォームで面白いのは、

「自分(自社)」

にはとくに魅力的なサービスがなくても、
魅力的なメンバーを集めることができれば、
その会(場)もますます魅力的なものになっていく
という点です。

そしてまた、会(場)の主催者は、
個人情報や好みなどのメンバーの詳細情報を
手に入れることができ、その情報を活用して、
さらに新たな事業を展開することが可能なのです。


本書によれば、プラットフォームには、
大きくは以下5つの機能があります。

1.マッチング機能

2.コスト削減機能

3.検索コストの削減機能(ブランディング・集客機能)

4.コミュニティ形成による外部ネットワーク効果・機能

5.三角プリズム機能

各機能の詳細は本書を読んでいただきたいのですが、
これらは、役割・立場の異なる様々な事業者が、
ひとつの場(リアルorバーチャル)に一同に会すること
によって可能になる機能です。


また、本書では、

「勝てるプラットフォーム」

の特徴として次の3つを挙げています。


1.自らの存在価値を創出する

あなたが創りだすプラットフォームが、
ない場合と比較してなんらかのメリットを
与えることができるかどうか、すなわち、
そのプラットフォームには存在価値があるか
どうかが重要です。

例えば、「築地市場」は、
昔から存続してきたいリアルな
プラットフォームですが、

「鮮魚の卸売なら築地」

というブランドや市場の運営管理力が、
売り手、買い手双方にとって価値ある場
となっています。


2.対象となるグループ間の交流を刺激すること
  (情報と検索)

端的に言えば、場に参加しているメンバー間で、
情報が口コミとして広がっていくことが重要です。

情報がウィルスのように伝わることで、
プラットフォームは自然増殖し、拡大していきます。


3.統治すること(ルールと規範を作り、クオリティを
  コントロールすること)

ビジネスパーソンが集まる「勉強会」もまた、
プラットフォームと言えますが、例えば、参加者の誰かが、

「高額で怪しげな壺」

のセールスを受けたら、
会自体の信頼性も低下してしまいます。

ですから、プラットフォームの主宰者は、
ルールや規範を作り、プラットフォームの持つ特徴と
集まっているグループのクオリティを一定の水準に
維持することが必要なのです。


さらに本書では、プラットフォームを構築する手順を
9つのステップで説明しています。

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step1 事業ドメインを決定する-社会の変化、
   ライフスタイルの変化という大きな流れをとらえる

step2 ターゲットとなるグループを特定する

step3 プラットフォーム上のグループが活発に交流する
   仕組みを作る

step4 キラーコンテンツ、バンドリングサービスを用意する

step5 価格戦略、ビジネスモデルを構築する

step6 価格以外の魅力をグループに提供する

step7 プラットフォーム上のルールを制定し、管理する

step8 独占禁止法などの政府の規制・指導、特許侵害などに
   注意を払う

step9 つねに「進化」するための戦略を作る

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プラットフォームには負の側面もあります。

プラットフォームの主宰者(プラットフォーマー)は、
勝ち組になると次第に横暴になっていく傾向があるのです。

著者は、「プラットフォームの横暴」の
典型的なパターンとして以下を挙げています。

1.利用料の値上げリスク
2.プラットフォーマーによる垂直統合リスク
3.プラットフォーマーが顧客との関係を弱体化させるリスク


本書は、読書に慣れている方なら、
1時間足らずで読めるボリュームながら、
プラットフォーム戦略の理論と実践が
実にわかりやすく、凝縮されて語られています。


今後、多くの企業は、
自らがプラットフォーマーとなって、

「場づくり」

に取り組むか、
またはプラットフォームのメンバー
となるかのどちらかによって、
生き残りを模索していくことになるでしょう。

したがって、ビジネスパーソンには
見逃せない一冊と言えるのではないかと思います。


『プラットフォーム戦略』
(平野敦士カール、アンドレイ・ハギウ著、東洋経済新報社)

投稿者 松尾 順 : 18:39 | コメント (0) | トラックバック

ブランド本100選(No.4):ほんもの

今日ご紹介するのは以下の本。

『ほんもの』
(J.H.ギルモア、B.J.パイン著、林正翻訳、東洋経済新報社)


近々、紹介したいと思っている良書、

『marketing 3.0』(Philip Kotler他著、未翻訳)

では、消費者はますます企業を信頼しなくなっており、
一方で、オンラインネットワークで相互につながりあい、
情報を簡単に共有できるようになった他の消費者を
ますます信頼するようになってきていると主張しています。

この背景には、顧客第一主義を唱えながらも、
現実には、売上・利益拡大を重視しすぎたために、
たいして特徴のない製品、低品質の製品をオオゲサに
吹聴し、いわば騙すようにして売る企業が多かったこと
があります。


ですから、『ほんもの』では、
次のように直截な言葉が冒頭に出てくるのでしょう。

「消費者は、企業が提供するものについて、
 ますますほんものであるかどうかを重視するようになった。
 正直な人からほんものを買うことを望んでおり、
 いかさま師からにせものを買うことが望んでいない」


さて、本書の狙いは、

「消費者が持つほんもの、あるいはにせものの感覚を、
 企業がいかにうまくマネジメントできるか」

という点を説明することにあります。


では、消費者が製品やサービスを

「ほんもの」

とみなす場合のキーワードは何だかわかりますか?

それらは、

一貫性、正直、誠実、透明性、信頼

といったものです。


実は、こうしたキーワードは、

「優れたブランドづくり」

においても必須のキーワードです。

『ほんもの』をブランド関連本のひとつとして
紹介する理由がここにあります。

もっと言えば、本書は、
これからのブランディングにおいて、
最も重要なコンセプトを提示していると、
私は考えています。


本書では「消費者の感性の変遷」、
具体的には、どのような基準でモノを買うのかに
ついての変化を以下の4段階で説明しています。

1.入手可能性→確実な供給にもとづく購入

2.コスト→手ごろな価格で入手できることにもとづく購入

3.品質→製品の卓越した性能にもとづく購入

4.ほんもの→自分像に合致することにもとづく購入

この4段階をざっくり言うと、
最初はとにかく手に入りさえすれば、
どんな製品でも良かった。

そのうち、多種多様な製品があふれ、
競争が激しくなってくると、
より安いものが選ばれるようになった。

さらに成熟してくると、
安かろう悪かろうではなく、
優れた品質を持つ製品が選ばれることが
増えてくる。

最後の段階では、価格、品質ではなく、
自分の理想とする生き方、価値観に
ぴったりの製品であるかどうかが、
購買意思決定における重要な判断基準
になってきたというわけです。


一方、企業は、消費者に対してどんな経済価値
(通貨で交換される価値の意味)を提供してきたか、
また、これからどんな経済価値を提供すべきか
については、以下の5段階で説明されています。

1.コモディティ

2.製 品

3.サービス

4.経 験

5.変 革

この5段階の経済価値の進展において、
着目すべきはもちろん、5番目の「変革」です。

これは、消費者の「私を変えて」という願いに
応えるということです。


本書ではあまり触れられていませんが、
私が思うに、「変革」という経済価値を現在、
最も多く提供できているのは「アップル」だと
言えるでしょう。


iPhone発表時のプレゼンで、
スティーブ・ジョブスが述べていましたが、
古くは、Macintoshがパーソナルコンピュータ
の世界を大きく変えました。

近年は、iPodが人々の音楽ライフを変革。

iPhoneは、携帯電話の有り様を変えてしまい、
今また、iPadが消費者の生活に新たな革命を
もたらしつつあります。


変革をもたらすことができる企業こそが
これからの時代で繁栄するのだと本書の著者は
強調していますが、まさにアップルはそれに
該当する企業ですね。


本書ではさらに、スターバックス、
ディズニーなどの具体事例を出しながら、
どのようにして「ほんもの」を作っていくか
の手順を詳細に解説しています。


約400ページのボリュームがあり、
内容もそれなりに高度であるため、
じっくりと腰を据えてお読みください。

マーケター(および経営トップ)の
必読書中の必読書であることは間違いありません。


『ほんもの』
(J.H.ギルモア、B.J.パイン著、林正翻訳、東洋経済新報社)

投稿者 松尾 順 : 06:57 | コメント (0) | トラックバック

ブランド本100選(No.3):顧客が部族化する時代のブランディング

今日ご紹介するのは以下の本。

『顧客が部族化する時代のブランディング』
(原田保、片岡裕司著、芙蓉書房出版)

個人的な見解ですが、近年、

「ブランドとはコミュニティである」

という考え方が、
主流になりつつあるように思われます。


これは、端的に言えば、
製品やサービスを支えてくれている

「顧客の集合体」=「顧客コミュニティ」

との関係づくりこそが、

「ブランド構築(ブランディング)」

であるというものです。


mixi、gree、facebookといったSNSや、
ツイッターなどでお互いにつながりあい、
様々な情報を共有しあうことが簡単に
なったおかげで、消費者たちが、

ブランドイメージやブランド評価の形成

に大きな力を持つようになってきた今日、
ブランドづくりの主役は「消費者」に移っています。


従来のように、企業側が

マーコム(マーケティングコミュニケーション)

を通じて狙い通りのブランドづくりを
行うのは不可能です。

したがって、顧客コミュニティとの
良好な関係づくりに注力するしかない、
のだとも言えるでしょうね。


本書もまた、

「ブランドとはコミュニティである」

という考え方を基軸にして、
社会学において研究されてきた

「都市部族(トライブ)」

という概念、枠組みを元に、

ブランドコミュニティづくり

の4つのパターンを読み解く内容と
なっています。


なお、

「都市部族」

とは、

都市のサブカルチャーにおける小集団

を意味します。

すなわち、特定の趣味やライフスタイルに
基づいて、小さな集団、共同性を形成している
人々のことです。

例えば、mixiやgreeの中で数多く作られ、
運営されている

「コミュ」(コミュニティ)

もこの都市部族(ネット上の)と言えるでしょう。


さて、本書では

「部族性(部族的な特徴を示すもの)」

の形成に影響を与える要素を
以下の3つに絞っています。

・舞台装置
・演出
・行為


すなわち、

どのような舞台で、
どのような行為を
どんな演出で行うか

という切り口で、
ブランドコミュニティのパターンを
説明しているのです。

具体的には、
上記3つ要素の関係性のあり方から

・公共参画型
・都市没入型
・感覚共鳴型
・経験共同型

4つのパターンを提示しています。


それぞれのパターンがどのようなものか
についての理論的な説明はかなり複雑であるため、
本書を読んでいただくとして、
各パターンに該当するブランドには
どんなものがあるのか、以下に示しておきます。

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・公共参画型

-ザ・ボディショップ
-パタゴニア

・都市没入型

-ハーレー・ダビットソン・ジャパン
-アップル

・感覚共鳴型

-IKEA
-オバマ政権

・経験共同型

-アマゾン
-金沢21世紀美術館

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それぞれのパターンに分類されたブランドを
みるだけで、おおよそパターンがどんな部族性
を持つかがおおよそ推測できるかと思います。


前述したように、
部族性の説明はやや複雑であり、
理解するのが大変ではあるのですが、
ユニークな視点でブランドを読み解いた
本書も、ぜひ一読をオススメします。


『顧客が部族化する時代のブランディング』
(原田保、片岡裕司著、芙蓉書房出版)

投稿者 松尾 順 : 07:53 | コメント (0) | トラックバック