ブランド本100選(No.2):日本ブランドが世界を巡る

今日ご紹介するのは以下の本↓

『日本ブランドが世界を巡る』
(渡部千春著、日経BP社)

定期購読している月刊専門誌

『日経デザイン』

の連載の中で、
私が一番楽しみにしているのが、

「日本ブランドが世界を巡る」

です。


これは、主にスーパーなどで買える、

日本メーカーの日用品や食料品のパッケージ(外装)

について、国内で買える商品と、海外各国で買える商品の
デザインの「共通点」「相違点」を比較しているもの。


この連載は、私たちにもなじみのある
各種商品のデザイン画像が掲載されていて、
視覚的にとても楽しいです。

それに加えて、海外進出先における

「社会的・文化的環境」

に配慮した、
日本メーカーのグローバルな

「ブランド・デザイン戦略」

を知ることができる、
有益な情報を提供してくれていいます。


さて、この連載と同じ書名を冠した

『日本ブランドが世界を巡る』

は、過去21回分の連載を単行本に
まとめたものです。


同書で紹介されているブランド名を
いくつか示しましょう。

[食品編]

・日清食品:出前一丁
・エスビー食品:チューブ入りわさび
・サントリー:伊右衛門
・カルビー・かっぱえびせん
・大正製薬:リポビタンシリーズ

[日用品]

・花王:アタック
・久光製薬:サロンパス
・小林製薬:使い捨てカイロ
・大日本除虫菊:金鳥の蚊取り線香

チューブ入りわさびや、サロンパス、
使い捨てカイロは、海外でも人気あるんだ!
とちょっと驚きますよね。


それで、日本と海外での同一商品パッケージの

「共通点」

についてですが、商品名が日本語(漢字など)で
表記されている場合、特に東南アジアでは、


「日本語表記」

をそのまま残すケースが多いことがわかります。

これは、中国、香港、台湾などでは、
漢字の意味がわかるからというものありますが、
たとえ読めない国でも、

日本語→日本→高品質&クール(かっこいい)

といった好意的なブランド連想に、
つながるからなんですね。


相違点については、例えば、日本ではOKだけど、
進出先ではネガティブなイメージにつながる色を
使っていた場合、プラスイメージの色にデザインを
変えるといったことが行われます。


また「相違点」が際立っているケースとしては
金鳥の「蚊取り線香」が大変興味深いです。

日本で買える商品のデザインは、
「菊」と「金鳥」があしらってある、
伝統を感じさせる、落ち着いたデザインです。
(蚊は登場してません)

一方、タイで販売されている商品は、
どぎつい赤の下地に、例のコイル状の蚊取り線香
(緑色ですね)が大きく描かれ、さらに線香の煙で
落ちてきた数匹の蚊がリアルに配されているのです。

赤地に緑の蚊取り線香という「補色」を
活かしたデザインは、実に毒々しい感じです。


なぜ、これほどに派手でかつリアルなんでしょうか?

それは、まだまだ衛生状態がそれほど良くないタイでは、
蚊は、デング熱やマラリアを媒介するにっくき敵だから。

ですから、金鳥の蚊取り線香は効き目抜群ということを
訴求するためには、派手でリアルであったほうがいいのです。


同書ではこうした現地の社会・文化的背景なども
踏まえてわかりやすい解説があります。

ブランディングに興味のある方は、
ぜひ手にとってみてください。


『日本ブランドが世界を巡る』
(渡部千春著、日経BP社)

投稿者 松尾 順 : 17:07 | コメント (0) | トラックバック

ブランド本100選(No.1):エコブランディング

今日ご紹介するのは以下の本。

『エコブランディング』(中野博著、東洋経済新報社)

2010年7月1日発行の新刊です。


端的に言えば、

「エコブランド」

とはビジネスを通じて、
様々な地球環境問題の解決に取り組むことで、
人々の信頼を築き上げているブランドです。


いわゆる「エコビジネス」に対する日本の意識は、
欧米に比較するとまだまだ低いようですが、
エコビジネスを牽引する

「環境・エネルギー革命」

は、「IT革命」を凌ぐインパクトを持っています。


なぜなら、IT革命の恩恵を直接受ける人は、
先進国・新興国の一部にまだまだ限定されています。

しかし、地球環境問題は、
世界のあらゆる人々に関わりのある事項です。


ですから、著者の中野氏は、

“エコビジネスとは、この地球上に住む全員が
 お客様であるということです”

と述べています。

それだけ、ビジネスとしても
魅力的であるということですね。

ただし、単なる「金儲けの機会」と
考えるべきではありません。

「環境マーケティング」

という言葉があります。これは、

エコビジネスにおけるマーケティング

のことです。


環境マーケティングの基本視点は、

「生活者の満足やニーズを満たしつつ、
 企業のビジネスを成立させ、なおかつ
 環境保全をも実現する」

という高度なものであり、

「買い手よし、売り手よし、社会よし」

という近江商人の「三方よし」の精神とも
言えると中野氏は指摘しています。


環境マーケティングは、
これからの企業が顧客に受け入れられ、
社会の一員として存続していくために、
不可欠な取り組みなのです。


そして、エコブランディングとは、

「エコ」(=地球環境問題の解決)

を軸とする経営戦略を練り、

持続的なブランド力
築き上げることです。


本書では、エコブランディングを
創業当初から実践しているアウトドア用品
&アパレルメーカーの

「パタゴニア」

をはじめとする、様々な企業・製品の成功事例
の紹介と共に、エコブランド作りの現状分析、
およびブランド作りの実践方法が具体的に解説
されています。


「エコ」をメインテーマとするブランド本と
しては実質初めての本です。一読の価値があります。

投稿者 松尾 順 : 12:25 | コメント (0) | トラックバック