コカ・コーラのブランドマーケティング(3) 3日間の調査でヒットを確信した「爽健美茶」
私は80年代後半、市場調査会社で、
様々な消費財の小売店での販売動向を
調べる仕事をしていました。
調査対象には、
「清涼飲料市場」
も含まれていましたが、当時は、
炭酸の入っていない飲料、すなわち
「非炭酸飲料」
が急激に拡大し始めていた時期でした。
「缶コーヒー」もそのひとつですが、
低カロリーで健康的な
「茶系飲料」
の人気も高まっていました。
とりわけ、現在もトップブランドを
維持するサントリーを始め、伊藤園など
の飲料メーカーが注力した
「ウーロン茶」
が爆発的に伸びていたのです。
この勢いは90年代以降、
現在に至るまで続いていますね。
さて、ウーロン茶市場において、
当時の日本コカ・コーラ社は大きく
出遅れていました。
強力な自販機販売力のおかげで、
同社の
「茶流彩彩・烏龍茶」
もそれなりに売れていました。
しかし、ブランド力では、
サントリーと大きな差がついていたのです。
(今でも同じですけど)
フルラインメーカーとしては、
ウーロン茶でも強力なブランドを
確立したいところ。
しかし、既に当時
「ウーロン茶と言えば、サントリー」
と言われるほどのブランド力を保持していた
サントリーとガチンコ勝負をするのは得策ではないと、
94年に日本コカ・コーラに入社した魚谷雅彦氏は
考えたのです。
そんな時、魚谷氏は、
福岡で試験的に販売していた、
ブレンド系のお茶がいい動きを
しているという情報を入手します。
なんの宣伝もしないで、
ただ自販機に入れていただけなのに、
「茶流彩彩・烏龍茶」
と同じ水準で売れていたこのお茶こそ、
「爽健美茶」
だったのです。
商品名に
「美」
を入れたのは、登録商標の問題による、
偶然の産物だったそうですが、
当時としては、斬新なネーミングでした。
またパッケージもお茶らしくないデザイン
がほどこされていたのです。
しかし、そもそもなぜ売れているのか、
東京本社では詳しい購買動向がわかりません。
そこで、魚谷氏は、
若手社員2名を3日間、福岡に出張を命じ、
次のような現地調査を命じます。
“自動販売機の横に立ち、「爽健美茶」を
買ったお客様に 次の2つの質問をしなさい。
1.なぜ買うのか
2.どのくらいの頻度で買っているのか”
彼ら2人は、出張先の福岡で、
自動販売機の横に立つだけでなく、
グループインタビューも実施して
帰ってきました。
調査結果によれば、
・購買者のほとんどが女性
・1日3回飲む女性、これしか飲まないと
宣言した女性もいた
・購入理由は「キレイになれそうだから」
といったことが判明。
ネーミングとパッケージだけで、
若い女性の心に刺さる力を持っている、
大きな可能性を秘めた新商品であることが
確信できたのです。
調査結果を見た魚谷氏は、
爽健美茶の全国展開
を決断します。
当初、全国展開の提案は、
ボトラー各社の幹部会議では
反対されたそうです。
「福岡で売れているからといって、
全国で売れるとは限らない、それより
ウーロン茶をなんとかしてほしい」
というのが、販売の前線にいる
ボトラー社の願いだったのです。
しかし、魚谷氏はあきらめませんでした。
爽健美茶を軸に、
茶系市場でのシェア拡大を図る
マーケティングプランを練り、
消費者だけでなく、ボトラー社の
共感も得られるような広告づくりに
取り組んだのです。
そして、最終的に、
消費者やボトラー社の心を動かすこと
のできる
「EXtrinsic Value」(感性、情緒的価値)
として固まったコンセプトは、
「女性の美の究極であるミロのビーナス」
です。
これは、
「男性がうれしいことは何だ?」
という問いを行ったジョージアと同様、
「女性が最もうれしいことは何か?」
という究極の問いに対する答えでした。
あなたは、
爽健美茶の最初のコマーシャルを
覚えていますか?
健康的な美しさがあふれる
裸身の女性(こずえさん)が、
「はと麦、玄米、月見草、爽健美茶」
とアカペラで唄うやつです。
この広告は、ボトラー社はもちろん、
ターゲットの若い女性の心を捉え、
爽健美茶は発売当初から、
爆発的な売上げを記録したヒット商品と
なりました。
面白いのは、当初コンビニでは、
「こんな漢方薬みたいなお茶は売れない」
と言われて、
店頭での販売を断られたことです。
ウーロン茶がガンガン売れているのに、
よくわからない新商品を置くスペースはない
ということだったようです。
しかし、CMオンエアー後、
自販機では飛ぶように売れていきます。
そして、お客さんから、
コンビニにはなぜ置いてないのかという
問合せが増えたため、全国発売2カ月後に、
コンビニ側から同商品納入の依頼が来たの
だそうです。
さて、女性ターゲットで始まった
爽健美茶ですが、現在、利用者の半分は
男性だそうです。
男性も、健康的であること、
また外見の美しさに気を配る人が
増えたからでしょうね。
実際、現在の商品のバリエーション、
およびコマーシャルも、男性向け、女性向け
それぞれのバージョンが展開されていますよね。
『こころを動かすマーケティング
コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる』
(魚谷雅彦著、ダイヤモンド社)
投稿者 松尾 順 : 2009年12月11日 14:26
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