Webアナリスト養成講座 - Web Analytics: An Hour a Day -
今日は、
「Webサイトの調査・分析」
について書かれた、
現時点では最強!と言える教科書(翻訳書)
をご紹介します。
この本のタイトルは、
『Webアナリスト養成講座』
(原題:Web Analytics: An Hour a Day)
アビナッシュ・コーシック著、
衣袋宏美監訳、内藤貴志訳、翔泳社
です。
なお、「Webサイトの調査・分析」は、
「Web Analytics」(ウェブ・アナリティックス)
と世界的には呼ばれています。
ここでは、シンプルに和訳して、
「ウェブ分析」
と呼ぶことにします。
さて、欧米、そして日本でも一般に、
「ウェブ分析」
と言うと、
「アクセスログデータ」
などを収集して集計・分析を行う、
「ページ遷移分析」(ページ閲覧状況の分析)
のことを指します。
しかし、同書の著者、コーシック氏によれば、
ページ遷移分析はウェブ分析の
“ほんの一部分”
にしか過ぎません。
逆にいえば、ページ遷移分析では、
不十分であるということです。
なぜ不十分なのでしょうか?
それは、ページ遷移データは、
・サイト訪問者がどのページを見たのか
・どのくらいの間滞在したのか
・どの商品を購入したのか
といったこと、すなわち
「WHAT(何が起こったのか)
しかわからないからです。
欠けているのは、
「What(何が起こったのか)」
の背景にある
「Why(なぜ起こったのか)」
のデータです。
具体的に言えば、
・サイト訪問者は、なぜそのページを見たのか
・なぜ、サイトにそれだけ長く(短く)留まったのか
・なぜその商品の購入に至ったのか
といった訪問者の意識、感情、欲求などの
「心理状態」
についての洞察が、
ページ遷移分析からでは
ほとんど得られないのです。
ですから、
ウェブ分析のためにはできれば、
「What」と「Why」
の両方のデータを揃えるべきです。
そうすれば、より望ましい結果
(リピート率や購買率の向上など)
を得るために、
Webサイトをどのように改良すべきか
という具体的なアイディアを生み出すこと
が可能になります。
以上のことは、
アクセスログ分析結果のレポートしか
見たことのない方には、実感として
ご理解いただけるのではないでしょうか?
“ログ分析で現状はわかった・・・
でも、実際にどうサイトを改善すればいいのか、
レポートの数字だけ眺めてもさっぱりわからん!”
こんな風に嘆いたことはありませんか?
もちろん、ログ分析の結果からだけでも、
サイト訪問者の心理をある程度推測は可能ですが、
その推測が果たして正しいものであるかどうかを
検証することができません。
ですから、コーシック氏は、
「What」に加えて「Why」に関わるデータの
収集・分析を重視しており、
・顧客満足度調査
・ユーザーテスト
・アンケート調査
など、サイト訪問者の生の声を集めることができる
各種定性調査・定量調査をページ遷移分析と組み合わせて
行うことを提唱しています。
つまり、コーシック氏の考える
「Web分析」(Web Analytics)
とは、ページ遷移分析にとどまらない、
様々な調査・分析法を組み合わせた
「包括的な仕組み」
なのです。
コーシック氏は、
この包括的な仕組みを詳述するに当たって、
「三位一体法」
という新たな枠組み・切り口を提示しています。
「三位一体法」の目的は、
具体的な行動(端的には「成果につながる顧客行動」)
に結びつく「洞察と指標」を得ることです。
ここで「洞察」とは、
改善のための具体的なアイディアのこと、
「指標」とは、行動を定量的に把握できる数値
のことだと理解してもらうといいでしょう。
そして、Webサイト担当者は、
三位一体法で得られた
「洞察と指標」
を活用することによって、
自社のWebサイトの
戦略的な差別化と永続的な競争優位性
が実現できるとコーシック氏は述べています。
さて、三位一体法とは、
以下の3つの要素のことです。
-------------------------------------------
1.行動分析
従来の「ページ遷移分析」を主体とする「What」の分析
2.成果分析
売上、リピート率、コンバージョン率など、いわゆる
「KPI(Key Performance Indicator:主要成果指標)」の分析
3.エクスペリエンス分析
「Why」のデータが得られる各種調査・分析
(前述した顧客満足度調査、ユーザーテストなど)
---------------------------------------------
コーシック氏は、上記3つの要素のうち、
・「成果分析」は義務的なもの
と述べています。
なぜなら、成果分析は、
なんのために(どんな成果を上げるために)
Webサイトが存在しているのか
ということに端的に答えるものだからです。
これに答えることができなければ、
Webサイトの存在を説明できませんよね。
だから義務的なものなのです。
一方で、
・エクスペリエンス分析は最も重要なもの
と指摘しています。
なぜなら、
“エクスペリエンス分析を使えば、
顧客の考えていることが手に取るようにわかり、
なぜそのような行動を取るのかについて
洞察とひらめきを得られるから”
です。
私自身、マーケティング・リサーチャーとして、
これまで、様々な業種・業態のWebサイトを
対象とするウェブ分析を多数行ってきました。
その中で、実際に適切なサイトの改善を行い、
狙い通りの成果を出すことに成功しているのは、
コーシック氏の言う
エクスペリエンス分析
を重視し、相応の予算を割いている企業です。
本書は、邦題が
「Webアナリスト養成講座」
とあるように、
「分析実務」に役立つ専門的な内容が
含まれています。
したがって、分析担当以外の方には、
ちょっと難しい箇所もあります。
それでも、「三位一体法」のような、
ウェブ分析における基本的な考え方は、
企業の役員クラスの方にもぜひ理解して
おいてもらいたいことです。
ですから、Webアナリストの方は本書を読むだけでなく、
ウェブ分析の意義や役割を社内、とりわけ上層部に
理解してもらえるよう、コーシック氏の説く、
「三位一体法」
の考え方をぜひなんらかの形で伝えていくことを
お勧めします。
『Webアナリスト養成講座』
(原題:Web Analytics: An Hour a Day)
アビナッシュ・コーシック著、
衣袋宏美監訳、内藤貴志訳、翔泳社
投稿者 松尾 順 : 2009年08月25日 16:40
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トラックバック時刻: 2013年06月19日 04:26
コメント
松尾さん、詳しい書評ありがとうございます。
アクセス解析周辺がベースの方は、なかなか書評しにくいようですが、恐らく書いてあることが自身の経験の枠を超えていて実感できないのではないかと思います。
しかしリサーチ出身の松尾さんは多分ピンと来たことと思います。私もそうこれこれと思いました。リサーチを通してマーケティング全般を経験している人にはすんなりくる内容だと思いますね。
私がこれを2/3は自分自身で翻訳したのも、こういう考え方を日本でできるる人は少ないかなあと思い、もっと広めなければならないと思ったからです。
投稿者 衣袋 宏美 : 2009年08月25日 20:19
WEBディレクターとしてこういう知識がかけてしまってると先に進めなくなる時代だもんなぁ〜
勉強になります!
投稿者 conecone : 2009年08月26日 04:06
衣袋さん、コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、リサーチャー出身でアンケート調査なども経験していないと、本書の価値がわかりにくいかもしれませんね。
CONECONEさん、コメントありがとうございます。
がんばって勉強しましょう!
投稿者 松尾順 : 2009年08月26日 05:54
こんにちは。
アイトラッキングの記録でも同じですが、ログ統計を見ただけで、ユーザーの心理がわかると思ってしまうのは、よくありますよね。
ページ滞在時間が長いと、ユーザーは興味を持ってページを見てくれた、と解釈しがちですが、実際には、自分の欲しい情報がどこにあるかわからず探しまくっていた、などなど。
まぁアンケートでも難しいでしょう。観察とインタビューが一番効率的だと思います。
投稿者 菅原 : 2009年08月26日 09:06
菅原さん、まいど!
コメントありがとうございます。
そうですね。
ログデータだけ、つまりWhatだけだと、
自分の都合のいい解釈にしがちですよね。
おっしゃるとおり、whyを得るためには、
観察とインタビュー(ユーザーテストにしばしば含まれますが)が有効。
アンケートは、主にwhyについての仮説検証用ですね。
投稿者 松尾順 : 2009年08月26日 09:14
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