祝福を受けた不安
先日、長期宇宙滞在から帰還した若田光一さんは、
“人類は進化できる。1カ月も経過したら宇宙の過酷な
環境にも適応できた”
とコメントしていました。
若田さんは、人類が永遠に生存するために、
「宇宙開発」
はリスクはあっても取り組む価値のある
重要な仕事だと考えています。
私の個人的な解釈ですが、
人類を含む「地球」というひとつの生命体を
存続させるためには、
「人類の一部が宇宙に移住するしかない」
という考えが若田さんにもあるのではないでしょうか?
以前と違って、もはや地球は、
過剰に増加し、また資源をムダに消費するばかりの
人類を支えきれないからです。
地球をサスティナブル(持続可能)な状態にしておくためには、
生態系として完全に循環可能なレベルまで社会・経済活動を
抑える必要があります。
もし、それが難しければ、地球外の未開拓の資源を求めて、
私たちは宇宙に新たな生息地を見つけるしかないのかも
しれません。
とはいえ、まだ希望は残されています。
現在の地球が抱える様々な問題に立ち向かっている、
草の根的な活動が世界のあちこちで活発化しつつある
からです。
こうした活動は、生命体が備えている
「免疫システム」
のようなものだと指摘するのは、
環境活動家、起業家、ジャーナリストの
ポール・ホーケン氏
です。
ホーケン氏は、著書
『祝福を受けた不安』
の中で次のように書いています。
“数十万もの非営利組織で行われている活動は、
政治腐敗、経済的困窮、環境悪化という
「外部からやってくる毒」への免疫反応として
見ることが可能だ”
“免疫システムが組織の長年にわたる永続性を
保つために内的防御を行うのと同じく、サステナビリティ
(持続可能性)の思想は人間にとって長きにわたって
存在しつづけるための戦略なのである”
天然資源破壊や、ゴミ廃棄物の増加、文化の根絶、
労働者搾取といった私たちが抱える問題は、
人体にとっての肝炎やガンのようなものなのです。
病気に対して人体は、
体内のあちこちに分散している免疫システムが
ネットワークで連携しながら対抗します。
同様に、環境運動を始めとする世界各地の社会活動は、
インターネットや携帯電話など、デジタル革命のおかげで、
実に容易に連携可能になりました。
ひとつひとつの組織は多くは小規模で、
けっして強くありませんが、お互いに連携しあうことで、
地球・人類が苦しんでいる病気に立ち向かう力を得つつ
ある、と言えそうです。
先日、邦訳が出たばかりのホーケン氏の
『祝福を受けた不安』は、ひとことで言えば、
「着実に進行している各種社会活動の最新報告書」
です。
同書で取り上げられている様々な社会活動は、
もちろんメインストリームではなく、まだ周辺部で
うごめいているだけの目立たないものがほとんど。
しかし、じわじわとその勢力を強めていることが、
同書を読むと実感できます。
『祝福を受けた不安』は、
内容自体は確かに難しいのですが、
とても読みやすく書かれています。
あまり環境活動等に興味のなかった方も
面白く読めるのではないかと思います。
今後の社会の進化の方向性を「読む」上で、
アーヴィン・ラズロ氏の著作と並んで
必読書のひとつといえるかと思います。
『祝福を受けた不安』
(ポール・ホーケン著、阪本啓一訳、バジリコ)
投稿者 松尾 順 : 2009年08月06日 13:15
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