機能性の認知限界を考慮せよ!
新商品発売のニュースを見た時、
「そうそう、こんなの欲しかったんだよ・・・!」
と感じる商品がありますよね。
最近こんな声が多く聴かれた商品に、
キングジムの新商品、
デジタルメモ「ポメラ」
があります。
「ポメラ」は、
テキスト入力に機能に特化したデジタルなメモ帳。
スイッチを入れると2秒で起動し、
単4アルカリ電池で約20時間使用できる。
キーボードはノートPCとほぼ同じサイズで
キータイピングもストレスなし。
作成した文章はUSB接続でPCに転送可能。
キーボードをたためば、
文庫本ほどの大きさで370gの軽さ。
「気軽に持ち歩けて、必要な時、
パッと立ち上げてサクッとメモを取りたい」
「そのテキストデータはPCに移して仕上げたい」
というニーズにジャストフィットした商品だと思います。
私は以前、500gほどの携帯可能な小型ワープロを
利用していたことがあります。
そのワープロはやや大きく厚みがあったため、
バッグに入れると結構かさばりました。
500gでもやはり重く感じましたし、
なにより、キーピッチが小さくてタイピングに
ストレスを感じました。
また、電子手帳もあれこれ試しましたけど、
キータイプはまず無理ですし、手書き入力も面倒。
結局のところ、
外出先等で、デジタルにメモを取りたい、文章を作成したい
というニーズに応える商品は今までなかったんですよね。
私も普段は、ノートPCを我慢して持ち歩いていますが、
簡単な文章作成のためだけにノートPCをわざわざ取り出し、
立ち上げるのはなんともおっくうでした。
しかし、ポメラは、近年のIT技術の進展のおかげで、
上記のような問題点を解消することに成功していますね。
さて、ポメラは一見PCのようではあるけれども、
テキスト入力だけに絞った単機能マシン。
いわゆる「性能破壊型」商品です。
多機能化が進む一般的なPCに背を向け、
意図的に性能(機能)を低下させたアプローチを
採用しています。
こうした性能破壊型商品は、
既存市場のプレーヤーから生まれてくることは
まずありません。
「イノベーションのジレンマ」があるからです。
ポメラの場合も、案の定、
PCメーカーではなく、事務機器メーカーから
誕生してますね。
ポメラの開発に当たってキングジム社内では、
「やっぱりネット接続ができてメールは見れたほうがいい」
などと、既存のPCを前提とした、
「多機能化」
への要請が担当者に寄せられたようです。
新製品開発では、しばしば、
そもそものコンセプトを無視したアイディア、
言い換えると、
「思いつきのお節介な意見・要望」
がとりわけ企業上層部から多く投げられます。
この結果、革新的な商品になるはずだったものが、
平凡なものに落ち着いてしまうことが起きますよね。
しかし、キングジムの担当者は、
当初の商品コンセプトを大切に守り切ったようです。
おかげで、ターゲット顧客にとっても
ベネフィットの明快な商品として幸先の良いスタートを
切ることができたといえます。
新商品、特にパソコンや携帯電話などのIT系商品は、
「多機能化への誘惑」
が大きいですね。
しかし、あまりにも多くの機能を
一つの製品に組み込んでしまうと操作が
複雑になりがち。
そうすると、ユーザーの
「認知限界」
を超えてしまう。
つまり、理解、判断、学習能力をオーバーするため、
使い方を学んだり、覚えることが不可能となり、
結果的に利用しなくなってしまうのです。
以前の記事
『機能性と使い勝手』
でご紹介しましたが、ターゲットユーザーは、
使用前のテストでは多機能な商品ほどを高く評価します。
しかし、実際に利用するようになると、
「使い勝手」を高く評価することがわかっています。
私たちは、本来シンプルで使いやすい商品こそを
求めているということなのです。
人の「認知限界」は、
製品の形状、大きさ、重さ
といった目に見えるデザイン分野では
とても重視されています。
「軽薄短小」
が一般的なトレンドとはいえ、
何事も小さすぎればいい、軽すぎればいい
というものではないので、
ジャストサイズ、ジャストウエイト
を慎重に決めています。
ところが、目に見えない「機能性」については
認知限界
があまり考慮されていないようです。
機能てんこ盛りの携帯電話機を考えてみれば、
明白でしょう。
まあ、盛り込める新機能も一段落ついたので
ようやく単機能化へと転じつつありますけどね。
投稿者 松尾 順 : 2009年02月16日 09:22
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