カラオケの進化

先日、久しぶりに
「カラオケ」に行きました。


私がカラオケにいくのは、
年にせいぜい1-2回程度です。

たまにしか行かないので、
カラオケシステムの進化には
毎度驚かされます。


なんと今は、選曲用のリモコンで、
ドリンクとか料理の注文も
できるようになってるんですね!

いやあ、便利になったものです。


また、同じ曲でも、

「生音」

とか、

「リアル音」

とか

「スゴ音」

とか


「ママ音」

とか、様々なバージョンがあり、
これらの違いがさっぱりわかりません。


ともあれ、一番原曲に近いのは

「ママ音」

かなと思って、

「Your Song」

で選んでみたら、文字どおり原曲のママ、
エルトン・ジョンのボーカル入りライブ映像が
流れました。

カラオケじゃない!

おそらく、オリジナルと一緒に
唄うための練習用なんでしょうね・・・


ボーカル入りのオリジナルバージョンが
まさか、カラオケルームで聴けるなんて、
ちょっとびっくりしました。

投稿者 松尾 順 : 09:14 | コメント (4) | トラックバック

コカ・コーラのブランドマーケティング(3) 3日間の調査でヒットを確信した「爽健美茶」

私は80年代後半、市場調査会社で、
様々な消費財の小売店での販売動向を
調べる仕事をしていました。


調査対象には、

「清涼飲料市場」

も含まれていましたが、当時は、
炭酸の入っていない飲料、すなわち

「非炭酸飲料」

が急激に拡大し始めていた時期でした。


「缶コーヒー」もそのひとつですが、
低カロリーで健康的な

「茶系飲料」

の人気も高まっていました。


とりわけ、現在もトップブランドを
維持するサントリーを始め、伊藤園など
の飲料メーカーが注力した

「ウーロン茶」

が爆発的に伸びていたのです。

この勢いは90年代以降、
現在に至るまで続いていますね。


さて、ウーロン茶市場において、
当時の日本コカ・コーラ社は大きく
出遅れていました。


強力な自販機販売力のおかげで、
同社の

「茶流彩彩・烏龍茶」

もそれなりに売れていました。

しかし、ブランド力では、
サントリーと大きな差がついていたのです。
(今でも同じですけど)


フルラインメーカーとしては、
ウーロン茶でも強力なブランドを
確立したいところ。

しかし、既に当時

「ウーロン茶と言えば、サントリー」

と言われるほどのブランド力を保持していた
サントリーとガチンコ勝負をするのは得策ではないと、
94年に日本コカ・コーラに入社した魚谷雅彦氏は
考えたのです。


そんな時、魚谷氏は、
福岡で試験的に販売していた、
ブレンド系のお茶がいい動きを
しているという情報を入手します。


なんの宣伝もしないで、
ただ自販機に入れていただけなのに、

「茶流彩彩・烏龍茶」

と同じ水準で売れていたこのお茶こそ、

「爽健美茶」

だったのです。


商品名に

「美」

を入れたのは、登録商標の問題による、
偶然の産物だったそうですが、
当時としては、斬新なネーミングでした。

またパッケージもお茶らしくないデザイン
がほどこされていたのです。


しかし、そもそもなぜ売れているのか、
東京本社では詳しい購買動向がわかりません。


そこで、魚谷氏は、
若手社員2名を3日間、福岡に出張を命じ、
次のような現地調査を命じます。

“自動販売機の横に立ち、「爽健美茶」を
 買ったお客様に 次の2つの質問をしなさい。

 
 1.なぜ買うのか
 2.どのくらいの頻度で買っているのか”


彼ら2人は、出張先の福岡で、
自動販売機の横に立つだけでなく、
グループインタビューも実施して
帰ってきました。


調査結果によれば、

・購買者のほとんどが女性
・1日3回飲む女性、これしか飲まないと
 宣言した女性もいた
・購入理由は「キレイになれそうだから」

といったことが判明。

ネーミングとパッケージだけで、
若い女性の心に刺さる力を持っている、
大きな可能性を秘めた新商品であることが
確信できたのです。


調査結果を見た魚谷氏は、

爽健美茶の全国展開

を決断します。


当初、全国展開の提案は、
ボトラー各社の幹部会議では
反対されたそうです。

「福岡で売れているからといって、
 全国で売れるとは限らない、それより
 ウーロン茶をなんとかしてほしい」

というのが、販売の前線にいる
ボトラー社の願いだったのです。


しかし、魚谷氏はあきらめませんでした。

爽健美茶を軸に、
茶系市場でのシェア拡大を図る
マーケティングプランを練り、
消費者だけでなく、ボトラー社の
共感も得られるような広告づくりに
取り組んだのです。


そして、最終的に、
消費者やボトラー社の心を動かすこと
のできる

「EXtrinsic Value」(感性、情緒的価値)

として固まったコンセプトは、

「女性の美の究極であるミロのビーナス」

です。

これは、

「男性がうれしいことは何だ?」

という問いを行ったジョージアと同様、

「女性が最もうれしいことは何か?」

という究極の問いに対する答えでした。


あなたは、
爽健美茶の最初のコマーシャルを
覚えていますか?


健康的な美しさがあふれる
裸身の女性(こずえさん)が、

「はと麦、玄米、月見草、爽健美茶」

とアカペラで唄うやつです。

この広告は、ボトラー社はもちろん、
ターゲットの若い女性の心を捉え、
爽健美茶は発売当初から、
爆発的な売上げを記録したヒット商品と
なりました。


面白いのは、当初コンビニでは、

「こんな漢方薬みたいなお茶は売れない」

と言われて、
店頭での販売を断られたことです。

ウーロン茶がガンガン売れているのに、
よくわからない新商品を置くスペースはない
ということだったようです。


しかし、CMオンエアー後、
自販機では飛ぶように売れていきます。

そして、お客さんから、
コンビニにはなぜ置いてないのかという
問合せが増えたため、全国発売2カ月後に、
コンビニ側から同商品納入の依頼が来たの
だそうです。


さて、女性ターゲットで始まった
爽健美茶ですが、現在、利用者の半分は
男性だそうです。

男性も、健康的であること、
また外見の美しさに気を配る人が
増えたからでしょうね。


実際、現在の商品のバリエーション、
およびコマーシャルも、男性向け、女性向け
それぞれのバージョンが展開されていますよね。


『こころを動かすマーケティング
 コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる』
(魚谷雅彦著、ダイヤモンド社)

*関連記事『広告の役割再考「広告リレーション理論」』

投稿者 松尾 順 : 14:26 | コメント (0) | トラックバック

コカ・コーラのブランドマーケティング(2)90'sのジョージア復活

日本で消費される缶コーヒーは年間100億本。
金額ベースでは8,000億円に達します。


清涼飲料メーカーの間では、

“缶コーヒー市場を制するものが、清涼飲料市場を制する”

と言われるほど重要なカテゴリーです。


このため、

コカ・コーラ(ジョージア)
サントリー(BOSS)
キリン(FIRE)
アサヒ飲料(WONDA)

といったトップメーカーの新製品開発や、
広告・販促施策における競争は熾烈なものが
ありますよね。


さて、現日本コカ・コーラ会長の魚谷雅彦氏が
1994年に同社に入社した時、まず早急な建て直しを
求められたのが、

「ジョージア」

でした。


ジョージアは当時、
矢沢永吉さんをコマーシャルに起用した

サントリー「BOSS」

の人気に押されて、
じりじりと売上げを落としていたのです。


当時のジョージアの市場シェアは43%。
トップブランドの地位は保っていました。

また、ジョージアの

「認知率(助成認知率)」

は90%以上。

実質、日本人なら誰でも知っている
ブランドと言えますね。


ところが、

「缶コーヒーと言えば、どのブランド?」

という質問で確認する

「非助成認知率」

では、一位がBOSS、
ジョージアは二位だったのです。

当時のBOSSのシェアは
10%以下だったにも関わらず、
ブランド力では、BOSSに負けていた
というわけです。


当時、消費者の購買行動が
変わり始めていました。

缶飲料は、従来ほとんど自販機で
買われていました。

現在でも自販機の約半数はコカ・コーラが
展開していますが、自販機を通じた強力な
販売力が同社の強みの一つです。

ジョージアがトップブランドになれたのも、
同社製品しか買えない自販機のおかげ。


しかし、コンビニが普及したため、
缶飲料が自販機ではなく店舗で買われる
機会が増えてきたのです。

様々なブランドが並ぶコンビニの場合、
ブランド力が強いほうが勝ちます。

要するに、コンビニなどの小売店では、
ジョージアではなく、BOSSを選ぶ人が
増加した。

結果的に、ジョージアの全体的な売上げの低下に
つながっていたのが90年代中ごろの状況でした。


では、なぜブランド力が、
低下していたのでしょうか?

魚谷氏とジョージアのチームが
その原因を検討した結果、

広告に問題あり

という結論になったそうです。


当時、ジョージアの広告は、
アトランタ本社が主導していました。

アメリカでは、「ジョージア」は、
ブルーカラー(肉体労働者)の飲み物と
認識されていました。

このため、当時の広告では、

マッチョな体つきの港湾労働者が
汗だくになって働いた後にジョージアを
おいしそうに飲む

といったストーリーが展開されていたのです。
(ジョージアは日本発の飲料ですが、
やはり本国の意向に大きく左右されるんですね)


もちろん、日本でも、
ガテン系の労働者の缶コーヒーの消費量は
多いのは確かです。

しかし、たとえ工場などで働いていたとしても、
多くの日本人は、ブルーカラーとかホワイトカラーと
いった区別はほとんどしませんし、むしろ皆、
企業に勤める「サラリーマン」という意識が強い。

アメリカ的ブルーカラーに向けたマッチョな広告では、
日本のサラリーマンの共感をあまり得られなかった
のも当然かもしれません。


そこで、魚谷氏とジョージアチームは、
新しい広告施策のコンセプト作りに着手します。


1994年は、バブル崩壊後で企業のリストラも
本格化し始めた頃。サラリーマンは厳しい
現実に直面していました。

このような状況では、

「頑張れ、サラリーマン」

と鼓舞するのは空虚であり、むしろ、

「ちょっと一息ついて休みましょう」

というメッセージを発信するのが、
時代の空気に合っていると考えられました。


実際、缶コーヒーの利用実態調査でも、

「リラックスするために飲む」

という項目が、
缶コーヒーを飲用する目的の
第1位になっていました。


ただし、当初は、男性向けの商品だから、
男性目線で展開するクリエイティブを予定した
ところ、予期せぬトラブルによって練り直しを
余儀なくされた中から出てきたのが、

「女性が、男性に優しく“お疲れさま”と語りかける」

という切り口だったのです。

この語りかける女性役として、
20代、30代、40代のそれぞれの年代に
受ける女性タレントが3人選ばれましたが、
20代向けとして選ばれたのが、
当時はまだそれほど知名度のなかった

飯島直子さん

だったというわけです。


2004年、

「ジョージア 男のやすらぎキャンペーン」

と題して始まったキャンペーンは
大きな反響を呼び、特に飯島直子さんの
ポスターはすぐに剥がされてなくなってしまう
ほどの人気を集めます。

そして、翌年から始まった、
缶に張られたシールを集めて応募すれば、
パーカーなどがもらえるプレゼントキャンペーン
には、

初年度3,400万通
翌年は4,400万通

という驚異的な応募数を記録したのです。


以前書きましたが、
ちょうどこの最盛期のジョージアキャンペーン
の某プロジェクトに関わっていたので、
当事者に近い立場で、現場の熱気を感じることが
できたのはとてもいい経験だったなと思います。


さて、このキャンペーンの成功のおかげで、
ジョージアのシェアは3年後に53%と、
10%の伸長を果たします。

非助成想起率でも、BOSSを抜いて
1位に返り咲くことができたのです。


時代の空気を的確に読み、
ターゲットの心に刺さる、また共感させること
のできる広告・販促施策がどれほどの効果が
あるのか、このジョージアの90年代の復活劇は
とても参考になると思います。

なお、ジョージアはその後、
再び低迷期を迎えますが、
2000年から始まった

「明日があるさキャンペーン」

で再び勢いを取り戻したのは、
皆さんの記憶にも新しいでしょう。


実は、現在のジョージアの市場シェアは
30%強に落ち込んでおり、またまた厳しい
状況にあります。


90年代よりも現在は、
さらにコンビニの存在感が増していますし、
冒頭に述べたように、サントリー以外の
飲料メーカーもかなり力をつけてきて、

WONDA「金の微糖」

といったユニークな商品開発や、
広告展開に成功しているからでしょう。


ジョージアの3たびの復活はあるのか?

缶コーヒー市場を巡るトップメーカーの攻防は、
目が離せない感じですね。

『こころを動かすマーケティング
 コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる』
(魚谷雅彦著、ダイヤモンド社)

*関連記事『広告の役割再考「広告リレーション理論」』

投稿者 松尾 順 : 15:09 | コメント (2) | トラックバック