ダイレクトマーケティングの「リレーション理論」
先日の記事で、東海大学教授、
小泉眞人氏が提唱されている
「広告リレーション理論」
をご紹介しました。
当理論の核となる考え方、
それは、「広告」には
・プロモーション
・コミュニケーション
・リレーション
の3つの役割があるということでした。
実は、広告に上記のような
「3つの役割」
があるというのは、
マーケティングの本質(顧客の創造)
がわかっている人には、ある意味
「自明の理」
です。
しかし、なぜ改めて
「リレーション理論」
として明快に規定する意義があるのかというと、
近年は、広告の役割が短期的に売上げにつなげるための
「プロモーション」(=販売促進)
に偏りすぎているからだと言えます。
同様のことは、
「ダイレクトマーケティング」
についても言えるのではないでしょうか?
ダイレクトマーケティングとは、
文字通り、マスメディアを介在させず、
顧客・見込み客にダイレクトにアプローチ
する方法です。
具体的には、
・ダイレクトメール(郵便や宅配利用)
・ダイレクトeメール(PC、携帯)
・テレマーケティング
・Webサイト(主にログイン後のカスタマイズページ)
などがコミュニケーションツール
として用いられます。
さて、基本的には
「ブランディング」
を重視してきた「広告」と違って、
「ダイレクトマーケティング」は、
販売につなげること
が主目的であり、
「販売促進施策」
のひとつとして
位置づけられてきています。
ダイレクトマーケティングは、
マスメディアを用いるよりも高コストでもあり、
短期的な「刈り取り」(=販売)
を重視するのは当然のことではあります。
しかし、現実には、
ダイレクトマーケティングでも、
「ボールの壁投げ」
にたとえられるような、
一方的な情報提供のみに終始した場合、
短期的にはともかく長期的な視点では、
売上拡大・維持はできません。
簡単な話、毎回届くメールの内容が
「こんな商品でました」
「この商品買ってください」
ばかりだったら、
受け取る側としてはいやになりますよね。
初回購入時はともかく、
自社の売上のことしか考えていない
ことがバレバレのメールが続いたら、
郵便にしろeメールにしろ、
ゴミ箱
直行です。
一方、ダイレクトマーケティングを
活用して長期的な成功を収めている企業は、
ダイレクトマーケティングの役割を
「プロモーション」(認知・説得)
だけに限定せず、
「コミュニケーション」(理解・共感獲得)
「リレーション」(相互の信頼形成)
の役割も重視しつつ、
ダイレクトマーケティングを
展開しているのです。
今回は、3つの役割をうまく組み込むことで
成功しているダイレクトマーケティング
具体事例をひとつだけご紹介しましょう。
品質に定評のある革製品を製造・直販している
「土屋鞄製造所」
が発行している、
eメールマガジン(HTML)
をぜひご覧になってみてください。
(バックナンバーがWebサイトで閲覧可能)
同社のメールマガジンは毎回、
遊び心の感じられる、趣向を凝らした
コンテンツで楽しませてくれます。
例えば、8月7日配信号では、
おどろおどろしい体裁のデザイン。
特集納涼企画!
「ほんとにあった革(かわ)い話」
と題して、
オイルヌメ革
の特徴がわかる内容になっています。
怪談風のコピーで読者の興味をひきつつ、
「革」の魅力を伝えているわけです。
また、10月9日号では、
「それいけデッチ!」
というシリーズ特集の最新記事を配信。
これは、同社でプロの鞄職人を目指して
働く若者たちのドキュメンタリーです。
今回は、浅見弘美さんが紹介されてます。
さらに、しばしば読者アンケートを実施したり、
読者が撮影した旅写真の投稿を募るなど、
インタラクティブなコミュニケーションも
積極的に行っています。
土屋鞄製作所のメールマガジンには、
「商品紹介」
のコーナーが、もちろんあります。
ですから、
「プロモーション」(販売促進)
の役割も持っているわけですが、
読み応えのある記事と、
インタラクティブ性のある仕掛けを
組み込むことによって、
「コミュニケーション」
「リレーション」
の役割も果たしており、結果的に、
ロイヤル顧客の育成と収益増を
実現しているのです。
そもそも、
ダイレクトマーケティングにおいて、
目先の売上げしか考えない、
セールスレター、セールスメール
に偏るのはダメよ!ということは、
随分前から多くの先生やコンサルタント
諸氏もおっしゃってきたことではあります。
ところが、現実には
「買ってくれくれレター、メール」
があいかわらずあふれているのは、
なぜでしょうね?
なお、今回は私が勝手に、
小泉先生の「リレーション理論」を
ダイレクトマーケティングに適用してみました。
したがって、文責はすべて私、松尾にあります。
*土屋鞄製造所 トップページ
http://www.tsuchiya-kaban.jp/
投稿者 松尾 順 : 11:31 | コメント (0) | トラックバック
寄付マーケティング
通信販売各社が、
「寄付付き商品」
に力を入れ始めています。
日経MJ(2009/10/26)の記事によれば、
通販大手「ディノス」は11月1日、
全商品に寄付をつけたカタログを発行予定です。
50代女性向けをメインターゲットにした
同カタログには、衣料品から化粧品、
アクセサリーまで約160点の多様な商品が
掲載されます。
ディノスでは、
同カタログ掲載の1商品が売れるごとに、
小児マヒのワクチン1人分相当の金額を
NPO法人「世界の子どもにワクチンを 日本委員会」
に寄付するとのこと。
また、食品通販の「オイシックス」では、
今年9月、売上げの10%をアフリカの貧困救済活動に
寄付するお菓子の販売を開始しています。
このお菓子の売上げは好調で、
10月中旬には商品の種類を増やしています。
オイシックスでは、上記企画の以外に
08年7月から約30点の食料品を対象に
売上の3%を寄付する企画を展開してきており、
これまで約4万点を販売。
同社によれば、
「同じ価格なら、寄付付きの商品のほうが
4倍以上売れている」
とのことです。
(同じく日経MJ、2009/10/26)
最近ご紹介した、
『幸福の方程式 新しい消費のカタチを探る』
(山田昌弘+電通チームハピネス著、
ディスカバートゥエンティワン)
『「ワタシが主役」が消費を動かす』
(日野佳恵子著、ダイヤモンド社)
といった文献では、
・社会とつながっていたい
・社会に対してなんらかの貢献をしたい
という消費者意識の高まりを背景として、
社会貢献に結びつく消費行動が顕著になってきていると
強調されていました。
通販各社もこうした消費行動の変化への対応に
積極的に対応しようとしているわけです。
もちろん、通販業界に限らず、
あらゆる業界の企業が、社会貢献に関連した
様々な企画を展開しつつありますね。
さて、商品購入に付随したオファー、
あるいは、蓄積したポイントの交換対象などに
「寄付」
を提示する施策をとりあえず、
「寄付マーケティング」
と呼んでみたいと思います。
それで、この寄付マーケティングの
「効果」
についてですが、
大きくは以下の2点があると言えます。
1 販売促進効果
オイシックスの例でわかるように、
消費者の購買意欲を後押しすることができる
2 ブランディング効果
社会貢献意識の高い企業であるという
好ましいブランドイメージ形成に役立つ
従来、商品購入に付随するオファーとしては、
消費者になんらかの景品を直接提供する
「クローズド懸賞」
が主流でしたが、今どき、
オマケ的な安物の景品をもらっても、
たいしてうれしくありません。
しかも、ブランディング効果は、
ほとんどないでしょう。
ですから今後は、
奇をてらったクローズド懸賞よりも、
販売促進とブランディングの一石二鳥が
期待できる
「社会貢献に関連したオファー」
がますます増えていくのではないでしょうか?
もちろん、
「寄付」
を販売促進のための小手先の手段として、
安易に採用するのは止めるべきでしょう。
そもそも、企業活動全体との
整合性や一貫性
に留意する必要があります。
社員に対して、
「ブラック企業」
などと言われてしまうような劣悪な
処遇をしている企業が、偉そうに
「寄付マーケティング」
に取り組んでも、消費者は、
その企業の浅はかさを
すぐに感じ取ることでしょう。
また、早速始めたはいいが、
・さほどの効果がなかったから
・あるいは企業収益が低下してきたから
といった理由であっさり止めてしまうと、
かえって消費者の不信を買い、
ブランドイメージの低下
につながること必至でしょうね。
(参考文献)
『幸福の方程式 新しい消費のカタチを探る』
(山田昌弘+電通チームハピネス著、
ディスカバー・トゥエンティワン)
『「ワタシが主役」が消費を動かす-
お客様の“成功”をイメージできますか?』
(日野佳恵子著、ダイヤモンド社)
『ソーシャル消費の時代 2015年のビジネス・パラダイム』
(上條典夫著、講談社)
投稿者 松尾 順 : 14:51 | コメント (2) | トラックバック
「ロイヤル顧客(ファン顧客)」を増やす2つのポイント
CRM(Customer Relationship Management)とは、
端的には、
「非顧客(潜在顧客)」
から
「ロイヤル顧客」
へと変換していくプロセス(獲得⇒育成⇒維持)を
適切にコントロールすることだと言えます。
さて、CRMの直接かつ最大の目的は、
「ロイヤル顧客」
をいかに増やすかです。
(究極の目的はもちろん「収益確保」ですね)
この「ロイヤル顧客」とは、
継続的に繰り返し商品を購入してくれる
「優良顧客」
であるというだけでなく、
自社商品(あるいは店舗等)に対して、
「これじゃなきゃいやだ」
と強い思い入れを持ってくれ、また
「いい製品・サービスをありがとう」
と感謝の気持ちさえ持ってくれている
ようなお客さんのこと。
したがって、「ロイヤル顧客」とは、
好意的なブランドイメージを持っている
優良顧客であるという定義が可能でしょう。
こうしたお客さんは、
原材料の高騰等によるやむをえない値上げや、
トラブルや不祥事発生時にも、誠意を尽くして
説明・対応すれば、喜んで受け入れてくれ、
簡単に離れていくことはありません。
しかも、しばしば口コミで良質なお客さんを増やす、
優秀な営業パーソンの役割まで果たしてくれます。
ですから、CRMの直接かつ最大の目的が、
こうした「ロイヤル顧客」をいかに増やすか
ということになるというわけです。
では、実際どうやって
ロイヤル顧客を増やしたらいいのでしょうか?
「丸の内ブランドフォーラム」代表の片平秀貴氏
によれば、次の2つのポイントがあります。
1.驚き
2.アイコンタクト
以下それぞれについて詳述します。
------------------------
1.驚き
定番は押えつつも、ちょっとした
「驚き」
を継続的に提供することが
ロイヤル顧客増加に効果があります。
「驚き」は、他社がやっていないような
仕掛けや新しいことを行うことで生み出します。
例えば、ペプシコーラが時々発売する
「変な味のペプシ」
(「しそ味」や「あずき味」など)
は、始めから「キワモノ」で
終わることを前提で開発しています。
ですから、変り種コーラは、
「ペプシがまた新しいことを仕掛けてきたな!」
という
「驚き」
の創出だけが目的であり、
「短期的な収益」
にはマイナスながら、
長期的にはロイヤル顧客の増加に一役買っている
ブランディング施策として位置づけられるでしょう。
また、繁盛している飲食店では、
しばしば適切な減価率を無視した
「驚きのメニュー」
を提供して、
ロイヤル顧客を増やすことに
成功していることが多いですね。
例えば、札幌市の居酒屋「はちきょう」では、
自家製のイクラのしょうゆ漬けを丼から
あふれそうなくらい山盛りにした
「つっこ飯」
が大人気だそうです。
このメニューを客が注文すると、
「『つっこ飯』まいります!」
とスタッフが大声で宣言。
客の目の前で、
イクラを丼にどんどん盛っていく。
盛られるイクラの量は300グラム。
原価率は60%を超えるようです。
山盛りイクラの迫力に客は驚き、
周囲のお客さんも次々と注文して
しまうとのこと。
-----------------------------
2.アイコンタクト
アイコンタクトの核となるのは、
「おもてなしの心」
です。
まず大事なのは、
お客さんを「個」として認識すること。
常連さんなら、
ちゃんと名前で呼びかける。
「松尾さん、いつもありがとうございます!」
たったこれだけの言葉が、
客にとってどんなにうれしいか!
(逆だとガッカリ)
不思議なことに、常連でなくても
「いつもありがとうございます」
と言われると、
(いつもじゃないけど・・・)
と内心思いつつも、なぜか心地よいのです。
そして、もちろん実際の会話においては、
目線をきちんと合わせて、お客さんの話を
聴くことを大切にする。
これは当たり前のことのようですが、
現実には、決まり文句をロボットのように
繰り返すだけのスタッフ、目線を合わせず、
客の言葉をなにげに聞き流す無礼千万な
スタッフがあちこちのお店にいますよね。
この「アイコンタクト」の考え方は、
リアルな顧客接点においてのみの話では
ありません。
顔が見えない、電話でのやりとりを行う
コールセンターや、非同期のコミュニケーション
であるWebサイトやダイレクトメール(eメール)
においても重要です。
Webサイトやメールを通じても、
この企業には、おもてなしの心が感じられ、
個客(の違い)を識別しており、
カスタマイズされた適切なやりとりができる
という感覚をお客さんに与える必要があるのです。
--------------------------
片平氏によれば、
「驚き」と「アイコンタクト」
によって、
「ちょっとうれしい」
という感情がお客さんに湧きあがる。
その結果、当該製品・サービスに対する
好意的なブランドイメージが形成されます。
そして、この好意的な
ブランドイメージを持つことにより、
「優良顧客」
が
「ロイヤル顧客」
へと進化するというわけです。
なお、片平氏は、
「ロイヤル顧客」と同じ意味で
「ファン顧客」
という表現を用いています。
ブランドの視点を加味するなら、
「ファン顧客」
という表現のほうが、
わかりやすいかもしれませんね。
*片平氏の話は以下の基調講演を元にしています。
SPSS DIRECTIONS Japan 209
『巨大顧客データベースと絆づくり:顧客の心を読み、
ブランドの心を伝える』
丸の内ブランドフォーラム代表 片平秀貴氏
*札幌市の居酒屋「はちきょう」の事例は、
日経MJの記事(2009/10/23)が出所です。
投稿者 松尾 順 : 15:27 | コメント (0) | トラックバック
広告の役割再考「広告リレーション理論」
このところ、
「広告の役割がよくわからなくなってきた・・・」
と感じていらっしゃる方はいませんか?
私はそうです。
近年、広告の役割が曖昧模糊としてきた背景には、
おそらく、インターネットの登場があるのではないか
と思っています。
インターネットを活用すれば、
広告、広報、販売促進、販売、アフターサービス
など、ほぼあらゆる企業のマーケティング活動を
継ぎ目なく行うことができます。
このため、広告とそれ以外のマーケティング活動
との境目が不明確になってきたのです。
また、インターネットは、企業が
「見込客・顧客とのダイレクトなコミュニケーション」
を容易に行うことができるため、
「売ること」
に短絡的につなげようとする傾向が
強くなっています。
もちろん、「広告」も、
「販売(=収益)」が最終ゴールです。
しかし、従来、売りに直接つなげることを
狙いとしたマーケティング活動は
(狭義の)「販売促進」
と呼んできました。
広告の直接目的を「販売」だけと考えるのであれば、
従来の「販売促進」と言葉を使い分ける意味がありません。
このように、インターネット以降、
広告の役割がよくわからなくなってきている現状が、
企業の広告予算の削減にも影響を与えているのでは
ないでしょうか。
そこで、今回は広告の役割や機能をすっきりと
整理する上で役に立つ「枠組み」をご紹介したいと
思います。
この枠組みは、
「広告リレーション理論」
と呼ばれています。
東海大学文学部広報メディア学科教授の
小泉眞人氏が提唱されているものです。
さて当理論では、広告の主な役割として
以下の3つがあるとしています。
・プロモーション
・コミュニケーション
・リレーション
この3つの違いについては、
小泉氏も示している次のようなたとえを
用いた説明がわかりやすいでしょう。
---------------------------------------
・プロモーション
ボールの壁投げのようなもの
一方的に伝えること(情報提供)を通じて、
「認知・説得」
を行うことが目的
・コミュニケーション
キャッチボールのようなもの
主体は「相手」であり、
双方向に伝え合うこと(情報交換)を通じて
「理解・共感」
を得ることが目的
・リレーション
キャッチボールを継続することで、
「絆」を深めていくようなもの
主体は「両者」であり、
継続的な情報交換を通じて、
「相互の信頼」
を得ることが目的。
(一部、松尾が表現を変えています)
------------------------------------------
以上の3つの役割を踏まると、広告には
・プロモーションとしての広告
・コミュニケーションとしての広告
・リレーションとしての広告
の3種類があるということになります。
(もちろん、ひとつの広告が複数の機能を
果たす場合もあります)
では、それぞれの広告の特徴について
小泉氏による整理の一部をご紹介します。
-------------------------------------------
・プロモーションとしての広告
- 変化に富んだ対応・メッセージ
- 話題性重視
- 売るための広告
- 短期的・速効的効果
- 知名度・認知度向上⇒売上
・コミュニケーションとしての広告
- 一貫した対応・メッセージ
- 共感性重視
- ブランドのための広告
- 中・長期的、遅効的効果
- 理解度・好感度向上⇒ブランド
・リレーションとしての広告
- 継続した対応・メッセージ
- 関係性重視
- ロイヤルティのための広告
- 長期的、持続的効果
- 関係性・信頼性向上⇒ロイヤルティ
------------------------------------------
いかがでしょうか?
ネット広告どっぷりの方は、おそらく
「プロモーションとしての広告」
に偏重しすぎており、他の重要な役割を
忘れている可能性が高いのではないでしょうか。
(そのため、ブランドが構築できず、
安売りなどの販促策に走らざるをえない)
上記3種類の役割のどれに重点を置いた広告を
制作・出稿するのかは、各企業が直面している
競争環境や顧客特性、製品のライフサイクルなど
によって異なってくると思います。
「広告リレーション理論」に基づいて、
自社の広告のあり方を再考してみたらいかがでしょうか?
*東海大学Webサイト
文学部 広報メディア学科 小泉 眞人氏
http://www.hum.u-tokai.ac.jp/media/professor/prof-koizumi.html
投稿者 松尾 順 : 08:45 | コメント (0) | トラックバック
「人力車」のマーケティング!
先月(09年9月)、京都・嵐山に行った際、
生まれて初めて、
「人力車」
に乗ってみました!
それほど揺れることもなく、
とても快適な乗り心地なんですね。
人力車に乗ると目線がかなり高くなります。
ですから見通しがよく、また、
すれ違う人や車を見下ろす感じになり、
とってもいい気分!ちょっとした優越感。
人力車を引いてくれた車夫のお兄さんの
見どころ案内&逸話解説や、お気楽な会話も
楽しかったです。
<渡月橋を渡るところ、車夫は、奥田将哲さん>
ここというスポットでは車を止め、
私のデジカメを借りて、ちゃんと記念撮影も
してくれました。
<竹にデジカメをくっつけて見上げた構図、こんなマル秘技も教えてくれます>
さて、「人力車」と聴くと、
昔ながらの商売という印象を受けますよね。
「細々と地味にやっているのかな・・・」
と私は思ってました。
ところが現実は大違い!
よく考えられた、
「優れて戦略的なマーケティング施策」
を立案・実行している組織もあるのです。
Yahoo、Googleで
「人力車」
で検索するとトップに表示されるので、、
「SEO対策」
もきっちりやってると思われる、
「人力車のえびす屋」
は、京都・嵐山、東山をはじめ、
奈良、湯布院、鎌倉、浅草・雷門、
北海道・小樽など全国に展開しています。
そして、この「えびす屋」さんでは、
顧客満足度を高め、リピート客を育成するための
様々な仕掛けが用意されていました。
例えば、
2区間(所要時間:20分)以上
乗ると「特典」として
「オリジナルの絵ハガキセット(6枚入り)」
がもらえます。
水彩画風の素朴なタッチの絵ハガキです。
さらに、四季のステッカーを1枚。
ステッカーには、
・春(3-5月)
・夏(6-8月)
・秋(9-11月)
・冬(12-2月)
の4種類があります。
私は9月乗車ですから、
「秋バージョン」
をもらいました。
4種類あると、
残りの季節のステッカーも手に入れて、
コンプリート!
したくなりますよね。
しかも、春夏秋冬の4枚集めると、
オリジナルグッズがもらえるそうなので
なおさら集めたくなります。
その他にも特典がありますが、
単なるおまけやプレゼントではなく、
リピートしたくなるように設計されて
いる点が秀逸です。
下車時には上記特典だけでなく、
優待券付の領収書
が手渡されます。
優待券は、次回乗車時、
特別価格にしてもらえる「割引券」です。
有効期限は「3年間」もあるので、
とりあえず保管しとこうかなと思ってます。
アンケートもくっついてました。
顧客満足度調査です。
アンケートに回答して、
切り離せば返信用ハガキになり、
そのまま投函可能。
しかも、毎月のアンケート回答者の中から
抽選で「アンケート賞」をプレゼントしています。
09年10月~12月は、
無農薬米「えびす米」
がプレゼントされるようです。
また、アンケート回答内容は、
スキャンした形でWebサイトに公開され、
いわゆる
「お客様の声」
を知ることができるようになっています。
こうしたアンケート回答者に対して、
ダイレクトメール(DM)が
送られているのかどうかはまだわかりませんが、
全国主要観光地に展開しているからこそ、
「一見さん」
で終わらせない様々な工夫を
「えびす屋」
さんではきっちり構築してますよね。
現代の人力車は、
「観光サービス」
であり、正直なところ、
料金は決して安いものではありません。
しかし、だからこそ、
こうした地道なマーケティングを
きっちりやっているかどうかで差が
出てくるのは間違いありません。
余談ながら、
車夫には女性も若干名いました。
大変でしょうね・・・
ただ、えびす屋のWebサイトを見ると、
「電動アシスト付人力車」
の開発も進められているようですから、
今後、女性車夫も増えてくるかもしれませんよ。
人力車に乗るのは、
ちょっと気恥ずかしいかもしれません。
でも、ぜひトライしてみてください。
「乗ってよかった!また乗りたい!」
と思うこと間違いありません!
「エコ」ですしね。
*人力車のえびす屋
http://www.ebisuya.com/index.html
投稿者 松尾 順 : 03:19 | コメント (1) | トラックバック
『「ワタシが主役」が消費を動かす-お客様の“成功”をイメージできますか?』
女性マーケティングのプロが書いた本。
『幸福の方程式』で示されたような、
新しい「消費者心理・消費行動」について、
女性の視点から具体的に解説されてます。
やはり、マーケター必読書でしょう。
昨日ご紹介した『幸福の方程式』では、
「消費」は、
新しい幸福の物語を完成させるための‘道具’
=道具消費
に過ぎなくなりつつあるということでした。
『「ワタシが主役」が消費を動かす』の冒頭では、
まさに上記の「道具消費」の実例が紹介されています。
同書によれば、東京・表参道では、
「ゴミのポイ捨てはカッコ悪い」
という呼びかけに、学生やギャルたちが、
ボランティアでどんどん集まってくるとのこと。
そして、おそうじが終わった後、
周辺のカフェは、彼らで賑わっています。
彼らは口々に言うのだそうです。
「ここに参加すると、新しい友だちができるから」
「街をキレイにしながら、おしゃべりもできて、
終わってからみんなで、カフェでお茶するのが楽しい」
著者の日野氏は次のように付け加えています。
“
カフェがクーポンを配って、コーヒーやサンドウィッチを
買ってもらう宣伝にやっきになる一方で、早朝からカフェを
賑わしているその集団は、「ゴミを拾う」ことを目的に
集まった若者たちなのです。
”
『幸福の方程式』流に解説するなら、
「社会に貢献するという物語」
(街をキレイにすることで社会に役立っているという感覚)
および、
「人間関係のなかにある物語」
(志を同じくする仲間と集まり自分の居場所を確認する)
を生み出すことを通じて、
彼らは「幸福」を得ているということ、
そして、これを支援してくれる道具として
「カフェ」
が利用されているということになるでしょうね。
しかしながら、企業のマーケティング担当者は
この現実をあまり理解できません。
日野氏は、次のように愚痴っています(笑)
“
このような事例(表参道でゴミ拾い)があるにも
かかわらず、私たちのようなマーケティング会社が、
企業から集客企画を頼まれたときに、
「朝、街を掃除する活動をしましょうよ」
と提案しても、依頼者の頭の中は「?」マークで
いっぱいになります。
「なんで、それが販促になるんだ?」
「売上げ確保と掃除は、どんな関係があるのか?」
「コーヒーを売りたいのに、コーヒーを飲むかどうかも
わからない客たちを集めて、労力がかかる一方だ。
コーヒーを飲みたい、という見込み度のできるだけ
高い客集めの企画にしてくれよ」
と鼻で笑われてしまいます。
”
どうやら、消費者の意識変化に、
多くの企業のマーケティング担当者は
まったくついていけていないようですね。
さて同書では、現在の不況下での
「消費者の3大意識」
として、以下を指摘しています。
(1)「いいモノをいかに安く選ぶか」
(2)「持たない、買わない、物欲減退」
(3)「環境など社会的責任意識の高まり」
また、各種調査結果に基づき、
これからの消費者は、
「次の5つの基準すべてを満たしているかどうか」
という判断で買物を決めているという説を
提示しています。
---------------------------------------------------
(1)便宜的価値(価格)
お得、値ごろ間。この程度なら、この価格で十分。
(2)基本的価値(モノ)
製品の性能・機能そのもの。品質の良さ、信頼性。
(3)情緒的価値(五感)
見た目が素敵。香り、デザイン、色、肌触り、音など
五感を刺激。
(4)個人的価値(ワタシにとって)
自己実現ができる。ワタシにぴったり。ワタシらしい、
ワクワクする
(5)社会的価値(共感・つながり)
環境にも配慮したい。ワタシと誰かがつながる。
(憧れの人、友達、未来の子供や社会、世界の人々など)
地域活性に役立ちたい。
-----------------------------------------------------
本書は、事例も豊富です。
『幸福の方程式』と同じく、
これからの消費者心理・消費行動
を解読するための、
たくさんのヒントを与えてくれますよ。
『「ワタシが主役」が消費を動かす-
お客様の“成功”をイメージできますか?』
(日野佳恵子著、ダイヤモンド社)
投稿者 松尾 順 : 12:13 | コメント (0) | トラックバック
『幸福の方程式 新しい消費のカタチを探る』
『幸福の方程式 新しい消費のカタチを探る』
(山田昌弘+電通チームハピネス著、
ディスカバー・トゥエンティワン)
これからの消費者心理・消費行動を解読する上で
たくさんのヒントを与えてくれる本。
マーケター必読書です。
さて、本書に示されている、
消費者心理・消費行動の変化
における最も重要なポイントは、
「消費をすることが幸福を生み出す」
という従来の考え方から、
「幸福を得るために役立ちそうな消費を行う」
という考え方へのパラダイム・チェンジでしょう。
言わずもがなのことですが、
日本の高度成長期には、冷蔵庫、洗濯機、テレビ、
あるいは、自家用車、クーラーなどを買い揃えることで、
幸福を実感できたわけです。
これは、
「家族が幸福になるという物語」
でした。
その後に続いたのは、
さまざまな「ブランド」を消費することが、
幸福を生み出すという物語を追いかけた時代。
すなわち、
「ブランド消費の時代」
です。
ブランド消費の時代は、
家族ではなく「個人」が主役でした。
一定の幸せが得られるという
「保証」
のついたブランドを購入することで
個々人が幸福感を得てきたわけです。
そして現在。
モノを購入することを通じた家族の幸福物語や、
個人の幸せを保証したブランド消費はどちらも、
まったく消えてしまうことはないでしょう。
しかし、私たちは、
「新しい幸せの形、新しい幸福の物語」
をダイレクトに追求し始めています。
そして、「消費」は、
新しい幸福の物語を完成させるための‘道具’
に過ぎなくなりつつある、
というのが、
『幸福の方程式』
の基本主張です。
例えば、昔ながらの「旅行」は、
旅行そのものが目的であり楽しみでした。
しかし近年は、
東南アジアの某国にボランティアに行き、
社会貢献をすることが目的であり、そのための
ツアーに人が集まるという現象が増えてきています。
つまり、「社会貢献」をサポートするために、
「旅行」(というサービス)
が消費されているのです。
同書ではこのような、
幸福を得るのに役立ちそうだからと
何らかの商品を消費すること
を
「道具消費」
と呼んでいます。
さて、同書で仮説として示されている
「新しい幸福の物語」
は次の3つです。
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(1)自分を極めるという物語・・・個人-個人の内的感覚
端的にいえば、何かにはまって充実した時間を過ごすこと。
自分の内面に向かう。個人農園で野菜づくりに精を出すなど、
あえて不便を楽しむ。オタクな世界もこの典型。
(2)社会に貢献するという物語・・・個人-社会の関係
端的には、社会的な役割を見出し、
自分が社会に役立っているという納得感を得ること。
自分はそれなりに豊かな生活をしているがゆえに、
途上国の貧困や地球環境問題に対してなんらか良いことを
して、 罪悪感を多少とも軽減したいという
「ギルティ・フリー」な消費行動も含まれる。
(3)人間関係のなかにある物語・・・個人-個人の関係
端的には、自分を受け入れてくれる身近な人たちの中で、
自分の「居場所」を見出すこと。
従来の「家族」「会社」という、一定の役割が期待され、
縛りのきつい居場所ではなく、かといって完全に孤立して
生きるのでもなく、人との距離感を調整し、ちょうどいい
距離を買う、という選択をする人が多くなってきている。
考えてみれば、「ツイッター」は、
人とのちょうどいい距離を自己裁量で調整しやすい
「道具」ですね。
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なお、上記のような幸福の物語が成立する鍵として、
・時間密度
・手ごたえ実感
・自尊心
・承認
・裁量の自由
の5つがあると同書では解説してあります。
(詳細は、同書をお読みください!)
しかし、結局のところ、
幸福をもたらしてくれる究極のキーワードは
「つながり」
なのです。
実は、これまでの家族の幸福につながる消費、
個人の幸福につながるブランド消費の背景にも、
「つながり」が隠れていました。
しかし、いまはつながりをダイレクトに
実感するために消費を行うという現象が
起きているわけです。
これが冒頭に述べたパラダイムチェンジです。
山田昌弘氏は次のように書いています。
“自分の内側、社会、周りの人々との間につながりを
つけることが幸福を生み出すスタイルです。そして、
人々は、つながりを求め、それを維持することに
お金をかけ始めているのです。”
ですから、
売れる製品・サービスづくりのためには、
「新しい幸福の方程式」
を理解すること、そして人々が、
「つながり」
を生みだし、実感し、また維持することに
役立つためにはどんな製品・サービスが有効かを
考える必要があると言えますね。