大相撲の経済学(3)現役力士の報酬制度
大相撲界の報酬制度もまた、経済合理性の観点から見ると、
実に巧妙に練り上げられたものだと言えます。
現在の現役力士に対する報酬制度の特徴は、
「一定以上の実力を持つ力士が上位の座を目指すこと、
そして長く現役で活躍することを動機付けるもの」
です。
ここで、
「一定以上の実力」
と言うのは具体的には
「10両以上」
のランクのことです。
力士は、10両以上になると
「関取」
と言われるようになり、
給料がもらえるようになります。
逆に言えば、10両未満の力士は給料が出ません。
10両未満のランクは、
総称して「幕下」と呼ばれています。
幕下ランクにいる力士は、通称
「取的」
と言われますが、正確には
「力士養成員」
という名称の立場です。
彼らは、所属する相撲部屋の
住み込み賄い人
として、相撲部屋の炊事や掃除・洗濯、
10両以上の力士の世話などをして働きつつ、
一人前の力士になるべく日々稽古に励んでいるのです。
給料は出ませんが、
部屋住み込み、食事付きですから生活には困りません。
年6回開催される本場所ごとに、
彼らにもランクに応じて10万円前後の手当てがでますが、
2ヶ月に1回で10万円程度ですから「お小遣い」ですね。
要するに、幕下力士は
「見習い修行中」
なのです。花街で言えば、
舞妓さん
と同じ立場にあるわけです。
さて、10両以上になった力士がもらえる報酬は、
2段階構造になっています。
報酬のベースとなるのが、いわゆる「月給」。
これは、
・横綱:282万円
・大関:235万円
・関脇・小結:131万円
といったようにランクに応じて決まっています。
年収だと、横綱で3400万円程度ですね。
ランクに応じた固定報酬です。
もうひとつは「力士褒賞金」。
これは、上記月給に上乗せされる成果報酬となります。
「力士褒賞金」は、
・勝ち越しの数・・・0.5円(一つにつき)
・金星(平幕力士が横綱に勝った場合)の数・・・10円
・全勝した場合・・・50円
など、本場所での「成果」に応じて与えられます。
(実際の報奨金は、この金額を4,000倍した額)
興味深いのは、
10両以上に止まっている限り、
力士褒賞金はどんどん積みあがっていくだけで
減額されることがない点です。
ある場所で負け越したからといって、
褒賞金は増えないにせよ、減ることはありません。
また、たとえ幕下に陥落しても、
積み上げた褒賞金はキープされますが、
再び10両以上に上がらない限り、褒賞金はもらえません。
したがって、長く10両以上にとどまり、
現役を続けているほど褒賞金は多くなっていきます。
『大相撲の経済学』によれば、
昭和54年に初土俵を踏み、以来幕内に93場所在位し、
平成14年秋場所後に引退した「寺尾」の場合、
引退時の褒賞金は
230円
でした。
これは、現在の倍率(4,000倍)で換算すると
92万円
ですね。
長年幕内に在位していた寺尾は、
引退する頃には、本場所ごとに90万円程度の褒賞金
を月給にプラスしてもらっていたわけです。
一方、『大相撲の経済学』が出版された2003年の時点
での横綱「朝青龍」の褒賞金は、
180円
程度でした。
当時はまだ、角界入りしてから日が浅かったため、
褒賞金の積み立てが少なかったのですね。
これは、実質報酬額(x4,000)としては
72万円
であり、寺尾よりも20万円低い!
すなわち、朝青龍は当時、月給は横綱ですから当然トップ、
ところが、上乗せ分の「力士褒賞金」については、
長年現役を務めることで大相撲界に貢献してきた寺尾の方が
多かったのです。
このように、
「月額給与」
は、ランクに応じて増減しますので、
より上位のランクを目指すインセンティブとして
働いきますが、
「力士褒賞金」
は、10両以上の力士として現役に長くとどまることを
動機付けていると言えるわけです。
なお、上記の基本的な報酬以外に、
場所ごとの成果に応じてもらえる特別手当(優勝賞金など)や、
企業などが広告宣伝目的で出す「懸賞金」などの報酬もあります。
以上の仕組み、給料の出ない幕下以下の力士にとっては
厳しいものですが、10両以上になれる資質を持ち、かつ
不断の努力を続けることのできる力士にとっては、
とてもありがたいものです。
というのも、力士の多くは中卒で相撲部屋に入ります。
最近は高卒、大卒の力士の割合も増えてきているそうですが、
学歴というか基礎的な学力を考慮すると、相撲界から一般企業
に転進するのはなかなか大変です。
また、相撲部屋という特殊な環境の中で鍛えられ、
相撲という特殊なスポーツ競技で勝てるようになるために
一般人とはかけ離れた
「巨大な体躯」
を意図的に作り上げます。
この点でも、相撲界を離れた後の職業選択の幅が、
どうしても狭いものになってしまうわけです。
要するにつぶしがあまりきかない。
そこで、短期的な成果に基づく純粋な成果報酬ではなく、
一定以上の実力を保って現役を続けることがプラスになるような、
現在の年功的要素の強い報酬制度に落ち着いたと考えられます。
なお、現役時代に活躍し、相応の成績を収めた力士は、
引退後も「年寄」になることで安定した収入(1千万円以上!)
を65歳の定年まで得ることができます。
このあたりについては次回で!
『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)
(その他関連本)
投稿者 松尾 順 : 2008年09月25日 19:24
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