大相撲の経済学(2)競争制限的な仕組み

大相撲界は、一つの大きな会社組織のようなもの。
別の言い方をすれば、「運命共同体」です。


現役の力士たちは、
より高い番付や、場所優勝を目指して、
お互いに競い合っているものの、

「真の敵」

ではありません。

むしろ、大相撲という

「興行」(=娯楽サービス)

を共に盛り上げる仲間。だから、
同じ会社の「社員」という見方ができるわけですね。


さて、大相撲界では、力士や部屋単位ではなく、
全体の繁栄・存続を大前提とする

「巧妙な仕組み」

が長い年月を経てできあがっています。


この点は、同じ「興行」でありながら、
特定の球団の繁栄が優先され、業界全体の地盤沈下が著しい
プロ野球界がぜひ学んで欲しいところです・・・


おっと脱線しましたが、
前述の「巧妙な仕組み」に戻りましょう。

巧妙な仕組みの多くは、

‘競争制限的’

なものです。


例えば、相撲は「個人競技」ですが、
全力士が、他の全力士と戦うことができる

「個人総当り制」

ではありません。


同じ部屋に属する力士同士は、
本場所の土俵上では戦わない決まりです。
(優勝決定戦を除いて)

つまり、本場所の取組は、
他の部屋の力士の間でしか組まれないのです。

これは、

「部屋別総当り制」

と呼ばれ、昭和40年から続いているそうです。


当然ながら、

「部屋別総当り制」

だと、

「個人総当り制」

よりも「取組」の多様性が低くなります。


例えば、同じ高砂部屋の

‘朝青龍’(西横綱)と‘朝赤龍’(西小結)

の取組が見たいと願っても、

「優勝決定戦」

にならない限り実現することはありません。


ですから、以前より「個人総当り制」を
望むファンの根強い声があります。

しかし、今後も「個人総当り制」に
変更される可能性はほとんどないでしょう。


なぜなら、より多くの白星を取れたり、
優勝を狙える力士をたくさん抱えている部屋ほど、
相撲協会からの補助金がたくさんもらえるためです。


ですから、もし「個人総当り制」になってしまうと、
強い力士をたくさん育成することよりも、むしろ、
同じ部屋の力士同士の取組の場合に、どちらを勝たせるべきか
といった所属力士の白星・黒星の配分に気をつかうことになる
でしょう。

仮に、個人総当り制となったとして、
もし自分の部屋のある力士があと1勝で優勝するという取組で、
同じ部屋の他の力士と戦うことになったとします。

この場合、親方としては、当然ながら優勝しそうな力士を
勝たせたいでしょう。(そのほうが補助金が多くなる)

そうすると裏取引、
すなわち「八百長」が行われるかもしれませんよね。


結局のところ、大相撲は、
「個人別競技」でありながらその実体は、

「部屋同士の戦い」

なのです。


ですから、強い力士の数に応じて
相撲部屋にインセンティブが与えられる現状においては、

「部屋別総当り制」

が最も合理的な仕組みと言えるわけです。


なお、強い力士を育てることは相撲部屋の仕事であり、
相撲協会自体は育成にはかかわりません。

したがって、相撲協会が、
強い力士の数に応じて部屋にインセンティブを
与えることも経済合理性に適っています。


さて、もうひとつ競争制限的な仕組みを説明しましょう。

力士は、入門する相撲部屋は選べますが、
その後は自分の意思で他の部屋に移籍することはできません。

つまり、

「フリーエージェント」

の権利を現役力士は持っていないのです。


なぜ、移籍の自由が認められないのでしょうか。

それは、もし移籍が自由化されれば、
相撲部屋の親方は、有望な弟子を手間暇かけて
育てるよりも、番付の高い人気力士を金の力で
スカウトしようとする可能性が高いからです。

そうなると、資金力に勝る部屋にばかり強い力士が
偏ることになりますよね。
(現在も、現役時代に人気が高かった力士が親方と
 なっている部屋に有望な力士が集まる傾向はありますが)


前述したように強い力士がいる部屋ほど、
相撲協会から多くの補助金が入るため、
移籍自由の世界では、特定の部屋がますます
強大化していくことになります。

こうなると、1強○弱みたいになってしまい、

「部屋別総当り制」

における取組はまるで面白みのないものになるでしょう。
(強い力士同士の迫力ある取組が減少するから)


このあたりの弊害がもろに顕在化しているのが
現在のプロ野球ですよね。


以上述べたように、大相撲界の場合、
伝統文化の名の下に力士本人の自由度が
かなり限定されているのですが、

大相撲界全体

の繁栄・存続のためには、
実に合理的な仕組みではあるのです。


ただ、親方の性格や、
それぞれの相撲部屋が持つ固有のルールや社風(部屋風?)と、
所属する力士との間の「合う・合わない」、つまり

「相性」

の問題が、一般の会社と社員との間と同様、
発生するでしょう。

ですから、他の部屋に移籍できないことが、
有望な力士の成長をつぶしてしまったり、
不祥事の種になる可能性を秘めていますよね。


『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

→単行本
→文庫本

投稿者 松尾 順 : 2008年09月12日 14:21

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コメント

今の相撲について
伝統と改革は全然違うと思います。理事や親方の考えはもう古い
なぜ今のニーズに応えられないのか?。
 他のプロスポーツはどんどんルール等改革がされているのに
日本の国技程古臭いものは無い。

投稿者 斉藤健二 : 2011年06月17日 20:39

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