郵送アンケート回収率向上のノウハウ

昨日、日本マーケティングリサーチ協会(JMRA)主催の

「JMRA調査研究セミナー」

に参加しました。


当セミナーでは、

「調査業界が置かれている現状」

などを含む合計5本の発表が行われましたが、
どれも大変興味深い内容でした。


今回は、これらの発表のうち、
とりわけ実践にすぐに応用できる部分が多いと感じた

「郵送アンケート調査における回収率向上のノウハウ」

を明かしてくれた朝日新聞 編集局 世論調査センターの
松田映二氏のご講演のポイントをご紹介したいと思います。
(講演のタイトルは、『郵送調査の効用と可能性』)


さて、近年、各種調査(面接法や郵送法など)の回収率は、
在宅率の低下やオートロックマンションの普及、あるいは、
個人情報保護意識の高まりなどによって大きく低下しています。

例えば、過去50年以上にわたって継続して行われてきた

「国民性意識調査」

は、1953年には80%を超える回収率でした。

ところが、1980年代以降、回収率はガクンと落ち込み、
直近の2003年のそれは、60%を大きく割り込んでいます。

年代別で見ると、特に「20代」の回収率の低下が激しく、
1953年には20代でもほぼ80%だった回収率が、
2003年には40%を切っています。
(他の年代はまだ50%以上です。)


このような厳しい調査環境にも関わらず、
今年(08年)1-3月に朝日新聞が実施した郵送調査は、
回収率78%という、近年では極めて高い数字を記録しています。

この結果は、そもそも「朝日新聞」という
全国紙の信頼がベースにあること、
また近年、食品偽装事件などの企業の不正行為が
次々と明るみになっている時代背景において、
人々の関心がとみに高まっている、

「信用」をテーマに世の中の「信」を問う

を調査目的とした調査であったことを割り引いてみる
必要があるでしょう。

とはいえ、全国20歳以上の有権者3,000人を対象とした
郵送調査で、80%に迫る回収率を達成したというのは、
驚異的な成果です。


松田氏によれば、
調査対象者に対して、次の通り最大4回接触しています。

第1便・・・予告状(ハガキ)
第2便・・・調査票(依頼状、返信用封筒、謝礼
第3便・・・催促状(1)
第4便・・・催促状(2)


まず第1便、予告状の効果としては、

・いきなり調査票を送らず予告することで信頼を得る
・内容が読めるハガキのため、家族にも周知されやすい
・調査票の到着を待たせることで、回答返送を早める
 ことができる

といったことがあるそうです。


第2便の調査票や、その他の内容物にもあれこれと
細かい工夫がほどこされています。

例えば、調査票は、A4中綴じ、8ページの冊子に製本した
丁寧なものにすることで、信用を高めています。

依頼状は、一般にペラ1枚別に同封しますが、
1点でも同封物を減らすため、調査票と一体化。

調査の趣旨・目的や謝礼等について、
短い文章で簡潔に説明しています。


また、調査票の中身も、
レイアウトや段組みなどを工夫して、
できるだけページ数が増えないようにします。

ただしやみくもにページ数を減らすだけでなく、
回答しやすさ、回答ミスの起きにくさにも留意して
設問の文言や選択肢の並べ方を考えます。


送付用封筒としては、A4サイズの調査票を折り曲げず、
そのまま送れる大きさの角封筒を使うそうです。

折り曲げてあった調査票は回答しにく、
また、ページをめくりにくいからです。


料金別納郵便のスタンプは汎用的なものではなく、

「ASAHI SIMBUN」

の英文社名が記載され、犬のマスコットが新聞を
くわえているマークの特別製スタンプを利用します。

ここでも調査主体を明示して信用性を高める作戦です。


一方、返信用封筒には、

「郵便切手」

をちゃんと貼っておきます。(一般には料金別納)

回答しなければ切手代(今回の調査は120円)が
もったいないという心理的プレッシャーをかけるわけです。

さらに、先渡しの謝礼として「社名入りボールペン」を同封。
こうした立体的なものは、封筒に出っ張りができるため、

「何だろう?」

と受け取った方の関心をそそります。
つまり、「開封促進」の効果があります。

加えて、回答者には「図書カード」(1,000円分)を進呈する
ことを調査票冒頭の「依頼文」内で明記しました。


調査票返送の締切日は金曜日に設定します。
そして、催促状(1)のハガキは、締切日の2日前の夕方に投函。

催促状は、おおむね締切日当日に対象者に届きますが、
その週末の土日で回答してもらえることを狙っているのです。


ここまでやっても回答しない方には、催促状(2)を送ります。

ただ、催促のハガキだけを再度送っても効果は薄く、
また調査票は既に紛失している可能性が高いため、
改めて調査票と120円切手を貼った返信用封筒を送付することで

「回答しなけりゃ・・・」

という気持ちにさせるのです。


松田氏は、回収率を高めるために、
ことさら特別のことをやっているわけではないと、
強調していました。

回答者心理についての深い理解を踏まえて、
細かい気配りをほどこした調査設計・運用を行うことが重要であり、
それが結果として高い回収率につながるということなのです。


朝日新聞の郵送アンケート調査における地道な工夫は、
お客様へお送りするDMなどの各種マーケティング・
コミュニケーションの設計・運用にも、大いに参考になる
内容だと思います。


蛇足ながら、1本の郵送アンケート調査で、
最大4回接触できるだけの予算を確保するのは
そう簡単ではありません。

現実には、予算の制約のため、
予告状なし、催促状は1回だけということが
多いと思われます。

投稿者 松尾 順 : 2008年07月15日 13:00

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コメント

はじめまして、企画システムコンサルティングの石川朋雄と申します。

非常に具体例を書いていただき参考になります。
最近はネット調査が主流になりつつあるので
改めて郵送調査について考えさせられました。

郵送調査の回収は確かに難しいと思います。

私も考える回収率向上のノウハウとして
返信したくなる文面にするのが一つの
方法だと思います。

よろしくお願い申し上げます。

投稿者 石川朋雄 : 2008年07月16日 17:36

まつおっちさん
まいどっ!
我が社も加盟しておりますが、会合は行きそびれてしまいました!
ありがとうございました。
メモメモです。

投稿者 しがっち : 2008年07月16日 23:12

>石川様、コメントありがとうございました。
郵送調査は、手間とコストがかかるのが難点ですが、
ネット調査にはないメリットがありますよね。

>しがっちさん、まいど!
お役に立てて幸いです!

投稿者 松尾順 : 2008年07月17日 11:21

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