ピジンとクリオール

いつの時代も、奇妙な言葉や文字を次々と生み出して、
大人を困惑させるのは子供たちですよね。

「言語」もまた、他の様々なものごと同様、
過去から受け継いでいく部分と、現在の環境に応じて
変えていくべき部分があると思いますし、それはいわば

「言語の進化」

とでも呼べるものでしょう。

そうした進化を主導するのが、
次世代の子供たちであるのは当然かもしれません。


興味深いのは、子供たちは生まれつき

「体系的な言語」

を生み出す力を備えているという点です。


昔、ハワイや東南アジア諸国、アフリカ諸国などの
熱帯、亜熱帯地域において、砂糖きびやコーヒーなどを
広大な農地で栽培した

「プランテーション」

と呼ばれた大規模農園には、
世界各地から労働者が集められました。

彼らは、当然ながらそれぞれ自分の国の言葉しか
話せなかったため、仲間とコミュニケーションができません。

そこで、

「ピジン」

と呼ばれる独特の言語が生み出されます。

ピジンは、さまざまな国の言葉がごちゃ混ぜになったもので、
ほぼ単語を並べるだけに近い、簡潔化された言語です。

あまり英語ができない人が、
外国人相手に片言の英単語を並べて
なんとか意思疎通を図ろうとする場面が、
ピジンが生まれる状況に近いんじゃないかと思います。


したがって、ピジンは「文法」が確立していない、
とても不安定な言語なのです。


さて、こうした労働者たちから生まれた子供は、
親たちが話すピジンを聞いて育ちます。

つまり、「母語」として習得していくわけです。

ところが、驚くべきことに、
その過程でしっかりとした語彙の体系や文法体系を備えた
安定度の高い言語へと変化するのです。
(これを「言語の進化」と呼んでいいのかはわかりませんが)


こうして次世代の子供たちが作り上げた言語を

「クリオール」(「クレオール」と表記されることもあります)

と呼びます。

親世代が生み出した不安定な言語「ピジン」が、
次世代の子供たちによって、他の自然言語(英語、仏語など)に
ひけを取らない安定的な言語「クリオール」へと完成を遂げる。

これは世界各地の旧プランテーション地域で
等しく起こったことなのだそうです。

人間の生得的な言語能力の高さを感じさせますよね。


ちょっと強引な論理展開かもしれませんが、
若い人たちが生み出す奇妙で理解不能な新語は、
なんらかの時代の要請や必然性があると考えて、
あまり神経質にならないほうがいいんじゃないかと思います。


*以上は、NHKラジオ「徹底トレーニング英会話」テキスト
 の連載記事「心のサイエンス~ことばを知ろう」
(執筆:大津由紀雄慶應義塾大学言語文化研究所教授)を
 参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 2008年05月09日 10:16

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