ターゲティングのパラドックス
たくさんの人に買って欲しいと、
「幅広い顧客像」をイメージして作った商品が
まるで売れない。
逆に、たった「一人の顧客」のために作った商品が、
多くの人に支持されてヒット商品となる。
これは最近よく聞く話ですが、
「ターゲティングのパラドックス(矛盾)」
とでも呼べますかね。
さて、このパラドックスには、
優れた言語感覚を持つ歌手&作詞家の一青窈も
気づいているようです。
彼女は、
“よりたくさんの人に伝えようと思うと歌詞は狭くなる。
対象を絞ったほうが言葉は普遍化する”
と先日放映されたテレビ番組の中で言っていました。
ふーむ、ちょっと抽象的な物言いですが、
彼女の言わんとすることはわかりますよね。
歌詞とは、
基本的に聴き手に自分の思いを伝えるためのもの
です。
もし歌詞の内容が
「相手に対する愛」
を伝えるためのものだとしても、
それが「万人」に向けて書かれたものであったなら、
その歌詞は、好きな人の心だけでなく、
誰の心もつかむことができないというのは
直感的にわかりますよね。
商品開発についても同じことが言えるのでしょう。
その商品は
「誰のためのものなのか?」
という点を
・商品特性(ネーミング、スペック、パッケージデザイン等)、
および
・マーケティングコミュニケーション
において、相手に明確に伝えることができるかどうかが、
ヒットする商品を生み出せるかどうかの分かれ目なのでは
ないでしょうか。
実際、ターゲットとした顧客が特定の1人だったとしても、
その1人と近い好みや感性を持つ人は必ず一定数以上いるわけです。
つまり、1人にターゲットを絞ることによって、
結果的に極めて明確な顧客セグメンテーションを
同時に設定できているということになります。
だからこそ、
「これは私のための商品だ!」
とターゲット顧客は感じ、喜んで買ってくれるのでしょう。
(しばしば想定外のターゲットに売れることがありますけど)
問題は、ターゲットに定める
「1人」
を誰にするかということです。
やはりそこそこ売れて欲しいマス商品の場合、
セグメントを狭くしすぎるのは収益に限界があるため
できません。
したがって、ちょっと矛盾した言い方に聞こえるかも
知れませんが、より多くの人を包含したセグメントを
代表するような1人を選びたいところです。
残念ながら、この点について
明快な答えを今の私は持っていません。
ただ、明治学院大学教授、清水聰氏が取り組んでいる
「目利き」
の研究が参考になりそうです。
清水氏の研究によれば、
新商品がヒットするかどうかを高い確率で予測できる人たち、
すなわち「目利き」がいることがわかっています。
彼らは、一般大衆の潜在ニーズを嗅ぎ取ることのできる、
優れた感性の持ち主ということでしょう。
ということは、「目利き」の人を対象顧客にして
商品を開発すればいいのでは。
そして、彼らが
「これなら売れる、買いたいと思う」
と太鼓判を押してくれた商品を世に出せば、
ヒットする可能性が高くなるのではないでしょうか?
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投稿者 松尾 順 : 2008年04月23日 08:08
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