「タスポ」の導入がビジネスに与える影響と消費行動・心理

数年前、飲酒運転に対する罰則が強化された際、
その影響で業績が悪化した業界として

「居酒屋」

がありました。

とりわけ、郊外に展開する店舗の売り上げが落ちたんです。


街中で飲み、電車で帰宅することの多い方には
あまりピンと来ないと思いますが、東京近郊や地方に行くと、
駐車場付の居酒屋って結構多いんですよね。


こうした郊外型居酒屋は、
主にファミリー客をターゲットとしており、
近年その数が増加していた業態です。

しかし、業績が落ちたところを見ると、
以前から、運転手も酒を飲んでいたケースが多かったことが
うかがえますね。

実は白状すると、私もその一人でした。

まだ妻がペーパードライバーだった10年以上前のことですが、
家族で某郊外型居酒屋に立ち寄った際、我慢できずにビールを
1杯飲んでしまい、ほろ酔いで運転して帰ったことがあります。
(自宅まで3分ほどの道のりでしたが)


また、路上駐車に対する罰則が強化された際も、
道路に面した駐車場のない飲食店(ラーメン屋など)の
売り上げが低下しました。

まあ、飲酒運転も路上駐車も本来法律違反です。

違反者からの売上分が減ったとしても、
それはまっとうな水準に戻ったということではあるのですが。


さて、上記と似たような現象が今、

タバコ業界

でも起きています。


今年から、自動販売機では、

「タスポ(taspo)」

と呼ばれる、顔写真付きの

「成人識別カード」

を持っていないとタバコが購入できなくなりますよね。


上記制度の導入時期は地域によって異なるのですが、
いち早くこの3月から導入された鹿児島県や宮崎県では、
売り上げが導入前の3割、つまり

7割減

と大きく落ち込んでいるようです。
(日経ビジネス、2008年4月21日号)


現時点でのタスポの普及率は、

鹿児島県で26%(宮崎は同29%)

ですから、普及率に連動して売上げが低下しているのです。


このため、必要経費を賄えるだけの売上げが確保できなくなり、
廃業を決めたタバコ屋さんも出てきています。


私は以前、各種タバコ銘柄の販売動向調査で
タバコ屋さん巡りをしていた時期がありましたので、
比較的この業界には詳しいのですが、
たばこの販売手数料は10%に過ぎないため、
基本「薄利多売」、つまりたくさん売らないと
商売としては成立しないんですよね。

今回の「タスポ導入」という販売規制強化によって、
予想されたことではありましたが、自販機に依存してきた
タバコ販売店が苦境に立たされてしまったというわけです。


一方、タスポのおかげで特需に沸いているのがコンビニです。
対面販売のため、タスポの提示が不要だからです。

鹿児島のあるコンビニ店では、

“盆と正月が一緒にきた。
 タバコの売上げは以前の2倍以上。8万円になった。”

とのこと。


さて、以上のような状況は、

「タスポの普及が進めば平準化する」

と日本たばこ産業(JT)では考えているようです。

しかし、タスポカードの取得手続きはかなり面倒です。
そうそう進まないでしょうね。
(私は非喫煙者なので関係ありませんが・・・)


しかも、鹿児島の某たばこ店主によれば、
店頭での反応で、

想定していなかった喫煙者の層

が、2つあることが分かったのです。


ひとつは、隠れ喫煙者層、つまり、
家族に内緒でたばこを吸っている人たちです。

具体的には、主婦や、子供の誕生を機に
禁煙したことになっているはずの男性などが該当します。
(自宅外でこっそり吸ってるんですね)

彼らは、自宅にしか送ってもらうことのできない
タスポカードを申請するわけにはいかないのです。


もうひとつは、やめたいのにやめられない層。

彼らは、タスポカードを保有することは、
喫煙を続ける意思表示をしたことに等しいと感じるために、
タスポカードの入手をためらってしまうのです。


タバコに対する販売規制の強化が、
さまざまな形でたばこビジネスに影響を及ぼしている
だけでなく、消費者の意外な消費行動や心理が浮き彫り
になったんですね。

投稿者 松尾 順 : 2008年04月21日 11:54

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コメント

こんにちは。
Taspoについては、mixiのほうで友人と話したりしているんですが、
その友人はカードを作成、僕は未作成、そして共通している認識としては、「その有用性への疑問」です。

以下に、乱雑で申し訳ありませんが、いくつかコメントを記させていただきます。

---
Taspoはチャージできる型のカードを普及させて儲けようという意図も感じられる。
自販機でなくカートンで買い置きする人が増えて、潜在的に売れて儲かる。
世間に“いけないモノ的な風潮”を広められ「たばこ税」増税がスムーズになる。
→『煙草の売上本数は減らしつつ税収は確保する』という予定らしい。
現在のたばこの税/「国たばこ税」23.7% 「地方たばこ税」29.1% 「たばこ特別税」5.5% 「消費税」4.8% =たばこ代は63.1%が税金である。現在のやつら(笑)の儲けは“年間2兆円以上”

【予想されるちょっとした心配】
「カードの貸し借りでのトラブル」「外国人と思われるグループの売買や偽造騒ぎ」「たばこ欲しさの未成年に購入中の女性襲われ、Taspoカードを奪われる」など。

【ちょっと、え?という情報】
●Taspo導入されても23時以降の自動販売機での購入ができるようになるわけではない。(Taspoカードの立場がないのでは?(笑)

●有効期限があり、10年である。(まぁないとおかしいし、あってもおかしいのでは?)
●「氏名変更」「カード自体の故障」の場合以外の紛失や盗難にあっての『再発行』は、 手数料として1,000円かかる。10年間、絶対になくせない(笑)

投稿者 Chrosawa : 2008年04月21日 13:54

本旨については、同感です。
ここでは、ちょっとだけ補足を。
私もたばこ業界には詳しいので(笑)

> たばこの販売手数料は10%に過ぎないため、
> 基本「薄利多売」、つまりたくさん売らないと
> 商売としては成立しないんですよね。

10%という薄利ですが、それを成立させるために、2つの制度が支えています。

▼1つは一定面積はそのたばこ屋さんが独占できるという「小売り専売」です。
薄利だけど、競争がないから一定の売上が確保できるようにしてあげよう、というものですね。

▼もうひとつは、1坪でも商売できる販売形態です。
確かに10%という薄利ですが、実は単位面積あたりの利益は一般日用品の3~4倍あります。だから、30~40%の利益率の商品と同じくらいの儲けがあるんです。その分、小資本でも資金が回せる。
実際、回転率が2~3日/月と早いので、交差主義比率やROIは非常に高い。

当然、これは、上の小売り専売が支えているところが大きいので、それぞれは独立関係ではありません。
これらの制度は「できるだけ効率よく税金を取ろう」というもので、良くできている仕組みですね。

2つの制度をベースにして、たばこの小売りには付随メリットがあります。
「兼業商店にとっての大きなメリット」です。
たばこは、いくらROIが高くても、売上が保証されても、売上の絶対金額は一般的に120万円程度、多くても200万円しかありません(パチンコ屋や自販機網を展開している一部の業者は特殊なケースです)。
つまり、12~15万円しか儲けがない。
それだけではメシが食えないのです。

ただ、「面積が小さくても商売できる」「ROIや交差主義比率が高い」ことと、「地域では、そこしか買えない」という点で、
▼他商品の店でも「利益の底上げ」「客寄せ」になるのです。
だから、パン屋、薬屋などにたばこ店が多いし、スーパーやコンビニがたばこ店の免許を欲しがるという訳です。
「客寄せ」については塩専売、酒類専売など、専売につきもののメリットです。

ちなみに、私は1ヶ月に22カートン(8,800本)のたばこを吸うので、1ヶ月に1回、近くの酒屋さんに宅配してもらっています。
なので、タスポはいらないですが、ないと困るので取得予定です。

投稿者 森@シストラット : 2008年04月21日 15:37

>Chrosawaさん、まいど!
興味深い情報、ありがとうございます。
ユーザーの立場で考えるといろいろと
納得できないというか奇妙なことがあるんですね。

>森さん、コメントありがとうございます!
光栄です。さすが同業界出身だけに内情をよくご存知で!
薄利多売とは言え、販売効率は高いこと、また客寄せ、
利益の底上げ効果があると考えると、兼業であればそこそこ
売れればいいタバコ店も多いですね。

それにして1ヶ月に22カートンとは膨大な消費量・・・

投稿者 松尾順 : 2008年04月22日 13:00

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