ブレークスルーのためには「理論」に立ち戻れ!
今回は、新しい何かを開発したり、
創造することに行き詰まったら、
「理論」
に立ち戻ってみると、
「突破口」(ブレークスルー)
が見つかることがあるという話です。
先月(2月)に、山口栄一氏(同志社大学教授)の
著作や講演を元に、イノベーションに関連した記事を
何本か書きました。
その中のひとつ(「研究」と「開発」の違い)では、
タイトルの通り、
「研究」と「開発」
の違いについて解説したのですが、
覚えてらっしゃいますか?
「研究」と「開発」は、
それぞれ次のように言い換えることができます。
研究・・・「知の創造」
開発・・・「知の具現化」
研究、すなわち「知の創造」とは、
・誰も知らないこと
・誰も見たことがないこと
を発見することです。
そして、知の創造のための私たちの取り組み(行動)が
「科学」(科学する)
であり、「科学」によって発見されたことを
「科学的知見」
と呼びます。
一方、こうした科学的知見を集積・統合して、
なんらかの目的に寄与する「製品」を作ることが、
開発、すなわち「知の具現化」です。
そして、知の具現化のための私たちの取り組み(行動)を
「技術」
と呼びます。
実は、この記事について、
ある技術者の方からコメントをもらいました。
その方によれば、
実際の製品開発を進める際に壁にぶち当たったら、
理論的な研究に立ち戻って
「知の創造」
に取り組み、新たな「科学的知見」を得て、
その壁を乗り越えようとすることが多いのだそうです。
なるほど。
ただ、新たな開発のためには、
常に新たな科学的知見が必要とは限りません。
実は、過去に発表された論文の中に眠っている
「既存の知見」
が役に立つことも多いのです。
最新の具体例を示しましょう。
美しい機体を持つ超音速旅客機、
「コンコルド」
は、音速を超えるスピードで飛ぶ際に発生する衝撃波、
「ソニックブーム」
がもたらす問題を解決できなかったため、
結局、2003年に運航を終了することになりました。
ソニックブームがもたらす問題とは、大きくは
・大きな騒音(このため居住地区では超音速飛行ができない)
・大きな空気抵抗(このため燃費が悪い)
の2つでした。
しかし、近年、コンコルドに代わる
「新世代の超音速飛行機」
の研究・開発が進められています。
この飛行機は、上下2枚の翼を持つ複葉機です。
ライト兄弟が世界で最初に飛行に成功した
「ライトフライヤー号」
は複葉機でしたね。
あるいは、宮崎駿監督作品、
『紅の豚』
に登場した戦闘機が複葉機でした。
古臭いイメージのある複葉機と
超音速機の組み合わせはあまりピンときませんよね。
実は、上下2枚の翼があると、
お互いに干渉しあうために衝撃波を発生しないこと、
したがって、
「複葉超音速機」
が原理的、つまり「理論研究的」に可能であることが、
1930年代
に提唱されていたのだそうです。
ただし、この研究は、コンコルドも含めて
これまで実際の飛行機開発に採用されることは
ありませんでした。
しかし、近年、スーパーコンピュータによる
3次元シミュレーションや超音速風洞を使った研究が
進められた結果、
「複葉超音速機」
の有効性が検証されたのだそうです。
現在は、「複葉超音速機」の実用化に向けて
より具体的な問題解決のための研究が行われています。
複葉超音速旅客機が実用化されれば、
現在の旅客機の約半分の飛行時間で目的地に
到着できます。
日本からハワイまでだと、
3時間ちょっとで着いてしまうことになります!
およそ80年前に提唱されていた古い理論が、
最先端の飛行機の飛行原理として採用されるというのは
なんだか面白いですよね。
今回は、開発(実用化)の壁を打ち破るもの=ブレイクスルーは、
既出理論の中に発見できるという話でした。
これは、自然科学だけでなく、
経済、経営、マーケティングなどの社会科学においても
同様のことが言えるんじゃないでしょうか?
投稿者 松尾 順 : 2008年03月19日 13:49
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コメント
温故知新
ということだと思います。
投稿者 グリーンエム : 2008年03月20日 11:05
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