イノベーション成功・不成功の分かれ道

次世代DVDの規格争いは、
ブルーレイ・ディスクの圧勝で
幕を閉じようとしていますね。

次世代DVDは、
現行のDVDよりも記録容量が大きいのが特徴。

これを可能にしているキーデバイスが、

「青紫色半導体レーザー」

です。


現行DVDは、赤色半導体レーザーがキーデバイス。

赤色より青紫色の方が光の波長が短いのですが、
波長が短かいほど、DVDの記録容量を増やせるのだそうです。

ですから、

「青紫色半導体レーザー」

という部品があったからこそ開発可能となったのが、
次世代DVDというわけです。


さて、青色を出す発光デバイスが開発されたのは、
15年ほど前に過ぎません。

それまで、青色発光デバイスの開発は
電機業界の長年の課題となっていたのです。

ところが、NTT、東芝、NEC、ソニーなど
名だたる大企業が勢力的にその開発に取り組んできた
にもかかわらず、最初に開発に成功したのは、
「日亜化学工業」という徳島にある中小企業の開発者、
中村修二氏でした。


なぜ、膨大な資金を投じることのできた大企業ではなく、
限られた資金しか持たない地方の中小企業の開発者が、
青色発光デバイスの開発に成功したのでしょうか?

それは、開発者の「暗黙知」を経営者が理解・共感し、
リスクの大きい開発を後押しできたかどうかの違いでした。

ここで「暗黙知」というのは、
まだ検証できていないし、理論的な説明はできない。
しかし、この材料や技術を採用した方がきっと成功する
に違いないという「直観」(直感)のことです。


日亜化学工業の中村氏が、
青色発光デバイスの開発に当たって採用した材料は、

「窒化ガリウム」

というものでした。

一方、大手企業が採用していた材料は、

「セレン化亜鉛」

でした。


当時の科学的知見(=パラダイム)では、
色発光デバイスの開発には、

「セレン化亜鉛」

の採用がベターな選択であることが
理論的に説明可能でした。

逆に、「窒化ガリウム」を用いることは、
理論上は極めて困難だと考えられていたのです。

だからこそ、大手企業はこぞって
「セレン化亜鉛」を選んだわけです。


しかし、中村氏は大手と同じ材料を選んでも
勝ち目はないと考え、あえて難しい材料に
挑みました。

そして、日亜科学工業の経営者もまた、
中村氏のこの決断を支持し、同社としては多額の
開発費を投じる経営判断を行いました。


実は、中村氏も含め開発者の多くは、

「窒化ガリウム」の方が筋がいい

と「暗黙知」ではわかっていた(感じていた)
のだそうです。

それは、「窒化ガリウム」は、うまくいけば
良く光るということ、またもろい材料である
「セレン化亜鉛」よりも、固い「窒化ガリウム」
の方が実用に耐える可能性が高いということでした。


しかし、残念ながら大手企業のトップで、
この開発者の暗黙知を理解・共感できるところは
ありませんでした。

NTTでは、セレン化亜鉛、窒化ガリウムの両方を
使った研究が進められていたそうです。

しかし、研究開発予算の見直しに当たって、
理論的には開発可能性が高い「セレン化亜鉛」を
採用するのが妥当という判断になり、
「窒化ガリウム」による開発は中断されました。


従来のパラダイムを破壊するようなイノベーションの場合、
これまで存在していなかった

「新たな知」

がベースになっています。

ところが、新しい知の理論化・体系化には時間がかかるため、
最初はうまく説明できないことが多いものです。
あくまで、研究者、開発者の暗黙知に止まっています。

この段階で開発にGOが出せるか出せないかは
開発者の暗黙知を経営者が理解、
あるいは理解できないまでも共感できるかどうかに
かかっています。

業界構造を変えるような大きなイノベーションの
成功・不成功の分かれ道がここにあるのですね。


*参考文献

『イノベーション 破壊と共鳴』
(山口栄一著、NTT出版)

投稿者 松尾 順 : 2008年02月18日 09:30

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コメント

 青色レーザーダイオードの実用化について、中村修一氏の貢献度は実は、元名古屋大学赤崎教授に劣る。というより
中村氏は名古屋に足しげくかよって、教えをこうむったというふうに、名古屋では言われています。

投稿者 Anonymous : 2008年02月19日 23:18

中村氏は、赤崎氏を始めとする研究者が生み出した青色発光ダイオードの要素技術を元に実用化することに成功した。

つまり、中村氏はゼロレベルから青色発光ダイオードを開発したのではなく、先駆者の「知」の創造をうまく統合、進化させたわけです。

開発者としての中村氏の業績はすばらしいものですが、
先駆者の存在があればこその成功である点はもっと広く
知られてもいいですね。

投稿者 松尾順 : 2008年02月19日 23:31

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