技術イノベーションの4類型
イノベーションには、大きく分けると、
次の3つの軸があることを前回ご紹介しました。
・技術イノベーション
・経営イノベーション
・アイステシス・イノベーション
このうち、技術イノベーションにおける
4類型についてご紹介します。
技術イノベーションは、
次の2つの軸の組み合わせの枠組み
で考えると構造が把握しやすくなります。
・性能持続型-性能破壊型
・パラダイム持続型-パラダイム破壊型
では、まず
[性能持続型-性能破壊型]
の軸から説明します。
性能持続型は、
性能をより高めていく取り組みです。
これは、技術イノベーションの自然な方向性ですね。
一方、性能破壊型は、
逆に意図的に性能を引き下げることによって、
別のベネフィットを高めるアプローチです。
たとえば、ハードディスクドライブ(HDD)は、
「14インチ」
の大きさからその製品の歴史が始まっています。
しばらくして、より小型の
「8インチ・ドライブ」
が開発されましたが、小さい分記憶容量が少ない。
つまり、14インチよりも性能は低下しているわけです。
このため、当時14インチHDDを製造していたメーカーは
バカにしてどこも手を出さなかったのです。
ただし、8インチHDDは、
「小さい」というベネフィットを高めることが
できていますよね。(もちろん、8インチという規格の中で、
記憶容量を高める技術革新は続けられましたが)
その後も、
5.25インチ、3.5インチ
とさらに小型のHDDが開発され、
それぞれ、デスクトップ、ノートパソコンなど、
容量よりもサイズが小さいことが重要なコンピュータ向けに
普及が進んできました。
『イノベーションのジレンマ』で、
クレイトン・クリステンセン氏が検証しているように、
大きなサイズのハードディスクでトップシェアを取っていた
企業が、こうしたハードディスクの小型化の流れ、すなわち、
「性能破壊型イノベーション」
についていけずに、ほとんどが姿を消していきました。
一方、もうひとつの軸である
[パラダイム持続型-パラダイム破壊型]
ですが、これは、
その技術のよりどころとなる「科学原理」が同じか、異なるか
ということで分かれます。
例えば、「真空管」の性能を圧倒的に凌駕した
「トランジスタ」
の開発は、
「パラダイム破壊型イノベーション」
と呼べるものです。
なぜなら、真空管の動作の元になっている科学原理は
「古典電磁気学」
であるのに対し、トランジスタのそれは、
「量子力学」
だからです。
ですから逆に言えば、
古典電磁気学ベースでの
「真空管」
という規格上の技術革新は、
「パラダイム持続型イノベーション」
であるということがおわかりですよね。
さて、この技術イノベーションの2つの軸、
・性能持続型-性能破壊型
・パラダイム持続型-パラダイム破壊型
の組み合わせによって次の4つのセルができます。
1.パラダイム破壊型-性能破壊型
2.パラダイム持続型-性能破壊型
3.パラダイム持続型-性能持続型
4.パラダイム破壊型-性能持続型
このうち、
1.パラダイム破壊型-性能破壊型
のセルに該当する製品は実質的に存在しません。
なぜなら、パラダイム破壊型は、
通常大幅な性能向上を伴うべきものであり、
パラダイムを破壊しつつ、同時に性能を
引き下げるようなイノベーションを行うことは
矛盾するからです。
そして、この4類型でいくと、
「トランジスタ」
は、パラダイム破壊型、かつ真空管よりも
大幅な性能向上を果たしているという点から、
4.パラダイム破壊型-性能持続型
に分類できます。
また、ハードディスクドライブの小型化の歴史は、
同じパラダイム上にあって、
性能を引き下げていったわけですから、
2.パラダイム持続型-性能破壊型
に該当することになります。
最近のより身近な例を挙げるなら、
従来の銀塩フィルムを用いたカメラから
デジタルカメラへの移行は、
パラダイム破壊型、性能持続型の「4」になるでしょう。
銀塩フィルムの小型バージョンであった「APS」規格は、
パラダイム持続-性能持続型の「3」でしたが、
デジタルカメラが引き起こした「4」のイノベーションに
呑み込まれてしまって実質的に失敗に終わりましたね。
富士フィルムは、
一時期、デジタルカメラのパラダイム破壊を無視し、
従来のパラダイムの枠内にあった「APS」に
こだわったため苦しい思いをしたようです。
今回はとりわけ難しいテーマでしたね。
わかりにくかったらすいません。
なお、本来このメルマガ&ブログは、
主にマーケターの方を対象に書いていますので、
科学技術系のネタはちょっと場違いだと思われている
かと思います。
ただ、2軸でモノゴトを整理するような枠組みを
使いこなせる力、つまりフレームワーク思考力の
トレーニングとして読んでいただければ幸いです。
また、パラダイム破壊といった視点は、
マーケティングの世界で言えば、
生産者志向→消費者志向
販売志向→関係性志向
という変化として置き換えられるわけです。
マーケティングにおけるイノベーションを
考える上で参考になるんじゃないでしょうか?
投稿者 松尾 順 : 2008年02月15日 14:27
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コメント
「パラダイム破壊」のときには「性能持続」と「性能破壊」の両面があることが多そうです。
トランジスタは特に開発初期には高周波・大電力に対応できませんでしたし、デジタルカメラも初期には画質が非常に劣ってましたし。
「性能」ではなく「既存マーケット型」対「新規マーケット型」というのはどうですか?
新規マーケットでは重視される性能のポイントが違うので、既存マーケットで重視されていた性能項目を見ると「破壊」でも、その分、別な性能項目が高い商品が売れるわけで。
投稿者 開米瑞浩 : 2008年02月15日 16:05
開米さん、まいど!
パラダイム破壊型の技術の場合、
初期においては、既存技術よりも性能が低かったり、
歩留まりが悪かったり、安定性・信頼性に欠けるということが
確かに多いですね。
ただ、これは山口氏の説ですが、
製品化のための技術がある程度成熟したときに
既存技術を凌駕できる性能を発揮できるかがどうかが
ポイントなので、初期において既存技術より劣っている
からといって性能破壊とは一概にいえません。
(そもそも意図的に性能を低くしているわけではないですし)
また、パラダイム破壊型技術の初期の問題が、
その採用を企業が躊躇する原因にもなるというのが、
イノベーションを達成できる企業とそうでない企業の
違いとして現れますね。
また、技術と市場との関係でいくと、
クリステンセンも指摘していますが、パラダイム型技術は
新規マーケットで受け入れられることによって市場に浸透
していくので、パラダイム破壊=新規マーケットというのは
セットの関係と捉えることができますね。
投稿者 松尾順 : 2008年02月15日 17:40
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