プロに勝つクラウドソーシング

工業デザイナー、奥山清行氏は、
次のようなことをある講演でおっしゃっています。
 

“アマチュアのひとつのアイディアのひらめきには
 プロもかなわない。

 しかし、プロは1万倍の努力を1万回続けて、その中から
 たったひとつのベストを選ぶことができる。

 組織やチームといった仕組みを駆使して、
 アマチュアのひらめき以上のものを作り出すのがプロだ”


つまり、プロは圧倒的な努力(圧倒的なトライ&エラー回数)
によって成功確率を高め、常に一定以上の成果を維持している
ということなのだと思います。


そういえば、天才エジソンが数々の発明に成功したのも

“1%のひらめきと99%の汗(努力)”

でしたね。


エジソンや奥山氏のような天才には、
アマチュアが10人、いや100人束になっても
敵わないでしょう。

しかし、束になるアマチュアの数が、

千人、1万人、10万人・・・

となれば話が違ってきます。


1人ひとりのひらめきはポツポツとしか出なくても、
集団全体として見ると、相当数のひらめきが創出されている
状況となるからです。


実際、このような仕組みが
インターネットを活用して実現可能となっています。

「クラウドソーシング」

と呼ばれる仕組みです。

すなわち、「群集(クラウド)」のパワーを
活用するわけです。


さて、リクルートの研究機関、

メディアテクノロジーラボ(MTL)

では、今年(08年)8月から、
クラウドソーシングを応用した実験サイトを
立ち上げています。
(日経産業新聞、2008/10/29)


このウェブサイト、

「みんなのクリエーティブエージェンシー C-TEAM」

には、誰もがクリエーターとして登録可能。
バナー広告制作のコンペに参加できるというもの。

9月末時点のクリエーター登録者数は約1,200人だそうです。
(日経情報ストラテジー、DECEMBER 2008)

クリエーターとなった人たちは、
広告主(現在はリクルートの各媒体)の依頼に基づき、
バナー制作に必要なロゴ素材をダウンロードしたり、
自分でキャッチコピーを考えます。

バナーの対価は500ポイント。
また、クリック率上位のクリエーターには、
賞金ポイントが与えられます。
(現金に交換可能なポイントです!)


こうして、様々な人が制作したバナー作品は、
リクルートが購入したポータルサイト

「goo」

の広告枠に一定期間されます。

そして、クリック率の高い、つまり、
閲覧者の行動を引き出す効果の高いバナーは、
他のバナーよりも露出回数が増やされます。

また、飽きられたため、
クリック率が低下したバナーの露出回数は
減らされます。


すなわち、寄せられたバナー作品全体で
クリック率が最も高くなるような

「バナー掲載最適化」

が図られているというわけです。


その結果、あるテストケースでは、
バナー広告掲載の最適化前後でクリック率が

1.7倍

と改善。

また、クリックしてアクセスした広告主のサイトで、
実際にサービスを利用するなどの行動に結びついた率も、

3.7倍

へと向上しています。

しかも、アマチュアのバナーの中には、
プロが制作したバナーのクリック率を上回るものも
多かったようです。


リクルートでは、以上のような知見を活かし、
自社媒体ではなく、通販、不動産会社など幅広い企業に
この仕組みを使ったバナー広告制作を提案する事業化に
踏み切る予定とのこと。


クラウドソーシングが応用可能な分野は、
ある程度限られるとは思います。

しかし、

「C-TEAM」

のような仕組みが使える分野においては、

圧倒的な努力ができない、中途半端なプロ

は、群集のパワーによって淘汰されてしまうかもしれません。
(あー、他人事じゃないぞ・・・!)

投稿者 松尾 順 : 13:55 | コメント (0) | トラックバック

‘いつものところ’に行こうか?

あちこちの街を歩いていると、
変わった店名にたまに出会いますよね。


東京ドーム近くにある居酒屋の店名は、

「本日開店」

です。

いつ行っても「本日開店」。

事務所から近いのですが、
まだ入ったことはありません。


あと、中目黒で見かけたカレー屋の店名は、

「カラカッタ」

でした。

こちらもまだ行ったことはないのですが、
食べ終わったらやっぱり

「辛かった!」

という言葉が出てくるんでしょうか。


また、私が福岡・八女に生息していた10代の頃のことですが、
地元にあったラブホテルは、

「いつものところ」

という粋な名前で有名でした。


当時、彼女ができたら、

「‘いつものところ’に行こうか」

と誘ってみたいと願っていたものです・・・
(10代じゃまだ早いですね、すいません)


「いつものところ」は、今もあるのかなあ・・・?

投稿者 松尾 順 : 13:54 | コメント (0) | トラックバック

邪払(じゃばら)・・・ゲンかつぎ販促が展開可能?

和歌山の北山村から、
ダイレクトメールが届きました。


住民わずか500人の秘境の村、北山村の特産品は、

「じゃばら」

です。かんきつ類。ユズやスダチの仲間だそうです。


DMはもちろん、
この「じゃばら」の予約販売を目的としたものでした。

チラシのキャッチコピーは、


ゆずでもない
すだちでもない
とんでもない

紀州のへんなみかん
じゃばら


です。

「じゃばら」といっても、
まだ何のことかわからない人も多いでしょうから、
ゆずやすだちといった仲間とは一味違うことを主張する一方、

「へんなみかん」

とへりくだってみせてるこの表現は、
なかなかのスグレモノ。


さて、上記コピーの脇には、印鑑風のデザインで

「邪払」

とありました。

「邪悪を払う」と解釈できますね。

「エクソシスト」(祓魔師)を連想しました。


これまでは、

「じゃばら」

とひらがなでしか書いてなかったと思います。


私は、「じゃばら」と聞くと

「蛇腹」

という言葉がいつも頭に浮かび、現物の

「みかんのような、かわいらしい果物」

とのイメージの落差に違和感を覚えていたんですが、

「邪払」

という当て字はなんとも縁起がいいですよね。


従来、「じゃばら」には、
アレルギー抑制効果があることから、

「花粉症に効く」

ということで近年人気が集まりました。


ここで、さらに

「邪悪なものを払う力がある」(ありそう・・・)

という「ゲンかつぎ」イメージを形成できれば、
さらにじゃばらの人気は上がるに違いありません。


「ゲンかつぎ」

ができる商品は自分のためだけでなく、
贈答品としても喜ばれますからね。


ちなみに、花粉症対策のことは、

「春先対策」

と称しており、これもなかなか巧妙な表現です。


北山村のじゃばらの陰には、
優れたマーケター、コピーライターの存在を感じます・・・


さて、果たして今後、北山村は、

「ゲンかつぎ」

の販促を展開してくるでしょうか?


マーケターの皆さん、
どうやればうまく展開できると思いますか?


*北山じゃばら.com

投稿者 松尾 順 : 10:04 | コメント (1) | トラックバック

ハイブリッドの時代

香港で一番有名な日本語はなんだか知ってますか?


それは、ひらがなの

「の」

なんだそうです。


街中を歩くと、

「新の城」「優の良品」「日の船」

など、「の」を使った店名の看板があちこちにあります。


なぜ「の」が香港で好まれるかの理由について、
最も有力な説は、

「高品質な商品を提供できる日本を連想させるから

ということらしいです。

また、

「丸っこい形が、記号としてかわいらしいから」

ということもあるようですね。


すなわち、具体的な意味を伝えるのではなく、
高品質とか可愛いといった感覚的なイメージを伝える

「デザイン」

としてひらがなの「の」が使用されているというわけです。


類似の理由で、
ユニクロのニューヨークSOHO店のロゴは、
アルファベットの「UNIQLO」に加えて、

カタカナの「ユニクロ」

が採用されているのはご存知かと思います。


SOHO店を訪れる大半の外国人にとって、
店頭に掲げられた旗やショッピングバックなどに
印刷された

「ユニクロ」

というカタカナは意味不明の単なる記号にしか見えません。

しかし、見慣れない文字だけにインパクトがありますし、
少なくとも

「ユニクロは日本発のブランドである」

というアイデンティティを感じることができますね。


さて、日本人は、

漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベット

の4種類を駆使する世界でも稀な民族です。


ユニクロSOHO店のデザインを行った、
アートディレクターの佐藤可士和氏によれば、
外国人は、日本人デザイナーが取り組んでいるパンフレット
などの各種制作物の上に、上記の4つの異なるスタイルの文字
がバランスよく並んでいるのをみて驚くのだそうです。

基本的に「アルファベット」しか使わない外国人としては、

「なんと器用なことができるのだ」

という感嘆の声を上げるのです。


佐藤氏は、日本人は古来から、
外部から様々なものを取り込んで、
従来のものと上手に融合させる

「ハイブリッド」

が得意だと先日の講演で指摘していました。

確かに、私たちは、

「和洋折衷」

という言葉があるほど、
様々な分野でのハイブリッド化を実に
柔軟にやっていますよね。

そういえば、
世界的に評価の高いトヨタの

「プリウス」

も文字通りハイブリッド。


現代は、以前よりもさらに、
多種多様なモノの自由な組み合わせによって
イノベーションを起こすことが重要だと
考えられています。

佐藤氏も強調していましたが、

「ハイブリッド」

が現代のキーワードなのです。


日本人が様々な分野で世界をリードできる時代
なのかもしれませんね。

投稿者 松尾 順 : 12:07 | コメント (0) | トラックバック

一人用書斎

普段は2つ折りにしておいて、
部屋の片隅にコンパクトに収納可能。

高さ150センチ、幅は50センチほど。


ちょっと本を読んだり、仕事をしたい時、
左右に開くと、見開きの右側は照明付きのデスク。
椅子も収納されています。

左側は棚。本や書類等が入ります。


日経デザイン最新号(November 2008)で
知ったのですが、こんな製品が出てるんですね。

一人用書斎の

「Foldaway Office(フォールダウェイオフィス)」

です。

自分だけの書斎が持ちたいけれど、
専用の部屋を持てない方ならきっと欲しくなるのでは・・・?

これを開けばリビングの片隅が書斎になる!
完全な閉じた空間にはなりませんが・・・


当製品、アマゾンで購入できます。

1台80万円と、
販売価格があまりこなれていないのが残念ですね。

投稿者 松尾 順 : 09:01 | コメント (0) | トラックバック

「金」(Gold)が人気

このところの金融危機で、
実体のある保有資産として

「金」(Gold)

の人気が高まっているそうですね。

取引価格は、今年歴史的な最高値を記録しています。

でも実は、そもそも

「金」

の取引価格は、過去10数年にわたって
上昇傾向にありました。

これは、投資対象としてではなく、
むしろ携帯電話向けの電子部品・回路用など、
工業用品としてのニーズが高まったことが背景にあります。


80年代後半、竹下内閣の時に、
全国の市区町村に1億円をばらまく(交付)するという

「ふるさと創生1億円事業」

があり、「純金」を購入したところがありましたよね。


当時は、純金を購入するだけなんて、
住民の何の役にも立たないし、
バカげた使い方だと思ったものです。

しかし、当時1億円の純金は、
現在約2億円の価値があるそうです。


今となっては、
維持・運営費で赤字をダラダラと垂れ流して、
住民の税金を投入せざるを得なくなったハコモノを
作ったりした市区町村よりは、
よほどマシな使途だったと言えますかね。

投稿者 松尾 順 : 13:15 | コメント (0) | トラックバック

屋外広告の効果測定

マーケティング施策(広告・販売促進等)の効果を
正確に測定することは、マーケティング業界の長年の課題です。

効果がわからないと、
費用対効果(ROI)が判定できませんからね。

マーケティング施策において、
各種インターネットツール(Webサイト、eメール等)の導入が
急速に浸透した背景には、オンライン施策に対するターゲット
顧客の反応が、比較的正確、かつ容易に捕捉できるため、
効果測定がしやすいという点も挙げることができると思います。


さて、リアルの世界で最も効果測定が難しかったのが、

「屋外広告」

です。

つまり、置外看板や屋外ビジョンの場合、
効果測定用として入手可能なデータと言えば、
せいぜい、1日当たりの通行量くらい。

要するに、当該看板やビジョンの前を
どれだけの人が通過したかがわかるだけ。


でも、看板の前を通過する人のうち、
どのくらいの割合の人が実際に当該看板やビジョンを
見てくれたかというところまでは捕捉不可能でした。


テレビの視聴率でも、
基本的にはテレビがONになっていれば視聴率として
カウントされる仕組みですから、

「ネコが見てても視聴率」

と揶揄されてきました。

それでも、まだ「家庭」という限定された空間ですから、
テレビがONになっているけれど、まったく見られていない
ということはないでしょう。


しかし、屋外を歩く人々のほとんどは、
ヒマ人はさておき、おおむねどこかに向かう途中でしょうし、
わざわざ広告に目を向ける人がどの程度いるのか、
推定しようがありませんでした。


ところが、技術の進歩はすごいですね。

カメラ+画像認識システムを活用して、
屋外広告を観た人を自動的に捕捉できる仕組みが
登場しています。


既に、渋谷駅前の「QFRONT(キューフロント)」の
壁面にあるビジョンで実験が始まっているのだそうです。

(日経新聞夕刊、08/10/21)

記事によると、ビジョンに設置された2台のカメラが
渋谷駅前のスクランブル交差点の一角を撮影。

通行人の顔を自動的に認識し、
ビジョンの画面を数秒間見た人を

「視聴者」

とみなす仕組みです。


また、カメラに映った人の顔の特徴から、
性別や年齢を推定して、

「ビジョンの性別・年齢別の視聴者数」

を出すこともできるようです。

性別はともかく、
年齢推定の正確性には多少疑問符がつきますが、
それにしても画期的だと思います。


あなたは屋外広告を見るが、
屋外広告もあなたを見ている。

といったところでしょうか。


屋外広告の実質的な視聴数が明確になることは
ある意味、「両刃の剣」ではありますが、
屋外広告の費用対効果をより正確に把握したいと
願ってきた広告主としてはありがたい仕組みですね。


(関連記事)
*お客さんの顔識別システム

投稿者 松尾 順 : 11:58 | コメント (2) | トラックバック

性能破壊型ノートPCに日本メーカーはついていけるか?

日経産業地域研究所がまとめた

「2008年第三四半期の新製品ランキング」

で、台湾アスーステックコンピュータ

「EeePC(イーピーシー)」

が総合1位に選ばれていますね。
(日経産業新聞、2008/10/23)


「EeePC」はパソコンに求められる性能・機能を絞り込み、
小型化と低価格化を実現。

「5万円パソコン」

の新市場を開拓した製品です。


さて、この製品は、イノベーションのタイプとしては、

「パラダイム持続型―性能破壊型」

に分類できます。


「パラダイム持続型」というのは、
EeePCは、PCとしての基本的な枠組みは既存のものと
変わらないという意味です。

一方、「性能破壊型」というのは、
意図的に性能を引き下げることによって別のベネフィット
(EeePCの場合、「携帯性」と「安さ」)を高めたという
意味です。

「パラダイム持続型―性能破壊型」

に分類される他のIT関連製品としては、
以前紹介したように、

ハードディスクやフロッピーディスク

などがあります。

ハードディスクについて言えば、
14インチから始まり、8インチ、5インチ、3.5インチ
へと小型化が進みました。

こうした小型化は、当初は記憶容量が減るため、
実質的な性能低下になるわけです。


しかし、「記憶容量」ではなく「小サイズ」という
ベネフィットを評価するユーザーによって受け入れられ
普及が進んだ結果、旧製品を淘汰してしまいました。

注目すべきは、
上記のような性能破壊型イノベーションの場合、
従来製品でトップを走っていたメーカーの多くが、
小型化の流れについていけず、新興メーカーに道を
譲ったことです。


現在売れている製品を売れなくするような新製品を
出すことは社内的な抵抗が大きいからですね。

また、あえて性能を低下させるような製品を設計するのは
技術者としては面白みがないという点もあるでしょう。

いわゆる「イノベーションのジレンマ」です。


「EeePC」によって開拓された5万円パソコン市場の拡大に
よって、従来のノートPC市場はかなりの影響を受けています。

さすがに静観していられなくなった
日本の大手PCメーカーも追随しつつありますが、
おおむね価格設定が高めですよね。

同じ土俵で勝負できる製品をまだ出せていません。


やはり、

「イノベーションのジレンマ」

に直面しているのではないかと想定されます。


一方、PC最大手のHPは動きが速い。
イノベーションのジレンマを乗り越えることに
成功してます。

本日の日経本紙に15段全面広告で、
4万円台まで価格を引き下げたノートPCの発売を
告知していました。

これはかなり衝撃的・・・

デルなども近々、
同じ水準のノートPCを投入するのは
間違いないでしょうね。


ハードディスクドライブやフロッピーディスクのように
5万円パソコンが従来パソコンを完全に代替してしまう
ことはないと思われます。


しかし、既存ノートPC市場の縮小、
あるいは縮小はしないまでも成長が鈍化することは必至です。


「イノベーションのジレンマ」

を乗り越えて、低価格ノートPC市場で勝負できない
日本メーカーは、今後窮地に追い込まれることになるでしょうね。


*技術イノベーションの4類型

投稿者 松尾 順 : 17:38 | コメント (0) | トラックバック

ユーミン・サプライズ

先日の「劇的3時間SHOW」に登場した、
音楽プロデューサーの

松任谷正隆氏

は、奥さん、つまりユーミンのステージの構成・演出を
担当しているほどの方ですが、こうしたトークショーは
不慣れだとのこと。

そのため、事前に10回もミーティングを重ねたそうです。


ところが、実際聴衆として出席してどうだったかと言うと、
正直に申し上げて、ちょっと退屈でした。

正隆氏は、ちょっとシャイなのか、
あるいはプライドが高いのか、あまり本音を出さず、
奥歯にモノがはさまったような話し方をされたからです。

前日に登場しされたリリー・フランキー氏の

「本音丸出し過ぎトーク」

を聞いた後だけによけいにもの足りない感じ。


正隆氏自身も反応が気になっていたのか

「こんな話面白いですか?」「つまんなくないですか?」

と何度も聴衆の皆さんに確認取ってました。


実は私は、前半が終わって休憩時間に入った時、
途中だけど、もう帰ろうかと思ったんですね。

でも、たまたま最前列に座っていたし、
あまり広くない会場でしたから、もし私の座ってた席が
ポツンと空いてたら正隆氏がすぐに気づいて、

「あー、ボクの話がつまらないから途中で帰っちゃったんだ」
(ガーン)

と落ち込んでしまわれるのではないかと思い、
最後までいることにしたのです。
(優しいでしょ)


ところが、残ったおかげで最後にサプライズが!

ステージに置いてあったピアノを正隆氏が弾きだすと、
なんとユーミンが登場!

「Save Our Ship」

を旦那さんの弾き語りで熱唱してくれました。

彼女が歌ったのはこの1曲だけだったとは言え、
最前列だったので超ラッキー!


ユーミンが歌い終わると、
スタンディングオベーションです。

講演会でスタンディングオベーションは
初めて見ました。


でも、これって、今回の主役の正隆氏じゃなくて、
ユーミンに対して向けられたものなんですよね・・・

投稿者 松尾 順 : 18:04 | コメント (0) | トラックバック

観念価値の時代

「製品が提供できる価値にどのような種類があるのか」

については様々な考え方や理論があります。


私の場合、
最近は以下の3階層で製品価値の構造を捉えています。

(1)便益価値(最下層)
(2)感情価値(中階層)
(3)観念価値(最上層)


------------------------------

(1)便益価値

製品がどんな具体的な欲求を充足してくれるのか、
ということです。

「その製品は、どんな問題を解決してくれるのか」
「その製品は、どんな役に立つのか」

といった質問の答えが「便益価値」になります。


先日のドリルの話で言えば、

「ドリル」という製品は、

「ねじ穴」

を開けるのに役立つという

「便益価値」

を持っています。

-----------------------------

(2)感情価値

その製品を利用することによってユーザーが感じる

「心地よさ」「たのしさ」、「うれしさ」

など、感情に作用する価値のことです。
(「情緒価値」ということもあります)


これはブランドイメージとも強く結びついています。

たとえ割高(最近はそうでもありませんが)でも
アップル製品を積極的に購入したいと考えるユーザーが
いるのは、アップル製品を所有することの喜びや楽しさが、
他のメーカーよりも大きいからですね。 

また、以前ご紹介した、花王のハンディモップ、

「クイックルワイパーハンディ」

では、小さいほこりを除去して部屋がきれいになるという

「便益価値」

に加えて、思わずなでなでしたくなる、
ネコじゃらしのようなふわふわした形状にモップ部分を
したことで、「楽しい」「かわいい」といった

「感情的価値」

をユーザーに提供しています。

------------------------------

(3)観念価値

これは「コンセプト価値」と言うこともありますが、

「製品」

そのものが持つ価値というよりも、
むしろ、その製品を提供する企業が打ち出している

経営理念や方針、企業文化

などがもたらす価値です。


具体的には、

「誠実な経営に徹する」

といった経営自体についての方針や、

「原材料には天然ものしか利用しない」

といった品質についての考え方であったり、

「環境保護」「動物愛護」

といった、社会的な意義の高い問題に対する
貢献意識の強さです。(いわゆる「CSR」)

人々は、上記のような、
製品の背後にある企業のこだわりや考え方、
社会的な貢献意識の高さに共感して、
あえてその製品を選択するという行動を取ります。

------------------------------

さて、従来は「便益価値」の大きさが、
特定の製品が選ばれる最大の理由でした。

近年は、便益価値での差別化が困難になったため、

「感情的価値」

がより重視されるようになってきましたね。

しかし、これからは、なによりも

「観念価値」

が購入に当たってますます重視されるように
なってくるでしょう。

どんな製品かということ以上に、
どんな会社がそれを提供しているのか、
そしてその会社はどんな考え方を持っているのか
を知った上で購入を判断したいと考える消費者が
増えていきます。

これは、情報化が進んだことにより、
企業の実態が次々と明るみにでるようになった今、
公正で誠実な会社があまりに少ないことに消費者が
気付いたことの反映でもありますね。


*情緒価値重視の製品開発:花王のケーススタディ

投稿者 松尾 順 : 07:44 | コメント (1) | トラックバック

スーパーのレジに置いてある小さいスピーカーは何のため?

スーパーによく行かれる方、
最近、レジのところに小さいスピーカーが
置かれているのに気付いてませんか?
(設置してないスーパーもあります)

あれ、なんだかご存知?


私はとても気になって、夜も眠れなくなったので、
ある時、レジのおねえさんに、

「あれなあに?」

と聞いてみたんですね。


すると、

「このスピーカーからは、
 お酒やたばこなど未成年が購入できない商品をスキャンした時に、
 録音されたメッセージが流れるようになってるんですよ」

と教えてくれました。


そのメッセージを実際聞かせてくれたのですが、

「年齢のわかる身分証明書をご提示ください」

というもの。

なるほどね・・・!


「そんなこと、レジのおねえさんが直接言えばいいのに・・・」

と思うでしょう。

でも、未成年かどうか微妙な人がお酒やタバコを
購入しようとレジに並んだとき、

「身分証明書を見せてください」

とはなかなか言えません。

「なんだよ、俺は子供じゃないぜ!」

なんて逆切れされたら怖いですからね。


しかし、録音メッセージが一律に流れるようになっていれば、
お客さんもおとなしく従うしかないというわけです。


私のようなおっさんが酒などを購入する場合も
このメッセージが流れますけど、もちろん、
身分証明書を取り出す必要はなく、

「私は、おじさんってことが一目瞭然ですよね・・・」

とお互い微笑を交し合ってレジを通過します。

投稿者 松尾 順 : 01:09 | コメント (3) | トラックバック

カレーきしめん

私が大好きなカレーのCoCo壱番屋、秋の新作は、

「カレーきしめん」

です。


「カレーきしめん」なんてあるんですね。
知らなかった!

ひょっとして、
名古屋では普通においてあったりして・・・


とりあえず、モノは試しと注文してみました。
結構いけます。というか、かなりおいしい!

上にはらはらと乗っている「カツオブシ削り」が、
不思議とカレーにマッチしてました。


考えてみれば、「カレーうどん」がありますからね。
「カレーきしめん」があってもおかしくはない。

むしろ、平麺の「きしめん」の方が、
うどんよりもさらにカレーがよくなじんでくれます。


そういえば、「カレーパスタ」も聞かないですね。

きしめんと同じで、平べったいタイプのパスタなら、
カレーに合いそうですけど!

投稿者 松尾 順 : 09:24 | コメント (4) | トラックバック

ねじの穴・・・セオドア・レビットの慧眼

マーケティングを勉強している人なら、

「ねじの穴」

というフレーズにはピンとくる方が多いでしょう。


マーケティング界のドラッカーと称された、

故セオドア・レビット氏(元ハーバードビジネススクール教授)

は、1960年代に発表した論文

『マーケティング発想法』

において「顧客志向」の重要性を認識させる

“顧客は、「ドリル」が欲しいのではなく、
 「ねじの穴」が欲しいのだ”

という名文句を残しています。


すなわち、顧客が買いたいのは、

「製品」

そのものではなく、その製品が与えてくれる

「便益」

であるということですね。


さて、セオドア・レビット氏は、

「マーケティングの神様」
(私に言わせると、「マーケティングテキストの神様」)

と呼ばれるフィリップ・コトラー教授ほどは
日本では知られていませんよね。


しかし、レビット氏の慧眼、
そして、ねじの穴の名文句でわかるように、
ものごとの本質を付くわかりやすい説明力には
驚くべきものがあります。


このことを再認識させられたのが、
2001年6月に行われた彼のインタビューです。

同インタビューの内容は、

『マーケティングの針路』

というタイトルで、

DIAMONDハーバードビジネスレビュー最新号
(November 2008)

に収録されています。


インタビューの中から、
いくつかレビット氏の言葉を引用してみましょう。


“ビジネスを突き詰めれば、たった二つの要素、
 つまり「金」と「顧客」をめぐるものです。
 立ち上げるために金が必要で、続けるために顧客が必要で、
 既存顧客を維持し新規顧客を獲得するために、
 またお金が必要となる。

 したがって、どのようなタイプのビジネスであろうと、
 「財務」と「マーケティング」が二大活動なのです。”

“そして、マーケティングとは(中略)、
 顧客を獲得し、維持する活動すべてを意味しています。
 さまざまなニューコンセプトが提唱されてきましたが、
 そのいずれもが必然的かつ本質的には

 「顧客の獲得と維持」

 へと行き着くのです。”


“私が以前から主張していたことの一つですが、
 「変化と適応こそ生存する唯一の方法」なのです。

 これはインターネットが登場する以前からの真理ですから、
 「何をすべきか」の答えは、マネージャーの頭の中や社内に
 存在するのではなく、外部環境によって決まるのです。”

“商品やサービスのライフサイクルの短縮化、消費者の
 ハイブリッド化など、不断に変化し続けるニーズや嗜好、
 これらに合わせて「バリュープロポジション(提供価値)
 の中身を変えていかなければなりません。(中略)

 ただし、常に兆候があります。
 「自然は飛躍しない」。ミクロ経済学の父、アルフレッド・
 マーシャルはこのように述べています。
 「変化することも多いが、変わらないことはもっと多い」と。

 物事の変化は速いが、瞬時に変わることはめったにないのです。”


そういえば、田坂広志氏は、

“未来を「予測」することはできないが、「予見」はできる”

と述べていますね。


ビジネスを持続するためには、
変化の兆候をかぎとり、その変化の方向に合わせて、
自社の製品や組織、人材を柔軟に作り変えていくことが
必要なのです。

このことは、言われて見れば当たり前のことですが、
今売れている製品、できあがった体制を創造的に破壊し、
将来の変化に備えるのは実際は簡単ではありません・・・


レビット氏の含蓄のある言葉に、
私たちはしばしば立ち戻ったほうがよさそうです。


『ハーバードビジネスレビュー 2008年11月号』
(ダイヤモンド社)


『T.レビット マーケティング論』
(セオドア・レビット著、有賀裕子訳、ダイヤモンド社)

投稿者 松尾 順 : 08:46 | コメント (3) | トラックバック

■「ニュース価値」を客観的に評価すべし!

『ブランドは広告ではつくれない』

という極論を説く本がありますね。


企業がお金を出して媒体スペースを購入し、
自社の広告を掲載しても、自画自賛に過ぎない。

だから、消費者は広告を信用しないし、目もくれない。


むしろ、「パブリシティ(=広報)」、
つまり「プレスリリース」などを媒体に送付し、

「記事」

として記者に書いてもらい、
媒体に掲載されることに力を入れるべきだ
という趣旨の内容でした。


実際、「パブリシティ」は、

「広告費」

がかからないこともあって、
近年注目する企業が増えています。

もちろん、「記事」として取り上げてもらうためにも、
相応のコストが必要ですけど。


ただ、パブリシティには「落とし穴」があります。

それは、広告と違って、
記事として掲載されるかどうかは

「媒体側の裁量」

にかかっているという点です。

お金を出せば、原則として掲載してもらえる

「広告」

とは違います。


今、「媒体側の裁量」と書きましたが、
要するに、その媒体の読者に対して伝えるだけの

「ニュース価値」

があるかどうかで判断されるということです。


ただ、企業側としては、

「ニュース価値」

を客観的に判断するのはなかなか難しいようです。


「記事として取り上げて欲しい」

という独りよがりな思いが強くなりすぎて、
媒体、いや「読者」にとって知る価値があるかどうかを
考えられなくなりがちなんですよね。


ヴェルディ川崎の広報部長や、
プランタン銀座の広報担当取締役などを歴任された
尾関謙一郎氏は、読売新聞の駆け出しの記者だったころ
次のような経験をしています。
(PRIR、2008 November)


1987年末、おおみそかの日、
尾関氏は、大手百貨店のカリスマと呼ばれる
有名経営者とアポを取り会いました。

その経営者は、

“あす(つまり元旦)の一面トップを飾るネタを提供しましょう”

と尾関氏に切り出したそうです。


元旦一面トップを飾るとなると、

“大手百貨店との合併か、あるいは有名海外デパートとの提携か”

と尾関氏は期待しました。


ところが、そのネタというのは、
グループ内に「専門店チェーン」をつくるという話。

(なあんだ・・・)

当時の流通業界において、
百貨店が専門店チェーンの展開に乗り出すのは
画期的なことではありました。

しかし、一般読者にとってはその意義がよくわかりません。
つまり、ニュース価値はあまり高くないわけです。


どうやら、この経営者は、
自分が属する流通業界の枠の外に出て考えるということが
できなかったようですね。


結局、このネタは、元旦どころか、
3月になってやっと

「経済面3段」

に掲載されたそうです。


「パブリシティ」に力を入れるのは結構ですが、
自社のプレスリリースの内容の

「ニュース価値」

について、客観的な視点で厳しく評価すべきなのです。


『ブランドは広告ではつくれない』
(アル・ライズ、ローラ・ライズ、共同PR、翔泳社)

投稿者 松尾 順 : 12:13 | コメント (0) | トラックバック

検索されたら終わり・・・

先日、あるルートから
某DVD商品の特別頒布のチラシが回ってきました。

あ、エロ系DVDじゃなくて(笑)、
「日本の風景」みたいな企画ものDVDですよ。


パンフを見ると、
標準価格だとセットで30,000円くらいのところ、
今回の販売価格は10,000円ポッキリ。

「おっ、安いな!」

と思ったものの、
念のためにネットで検索。

すると、同一セットが普通に7,000円で買えました。

もし、このパンフしか見ないで購入した人は、
3,000円損したことになるわけですね。

しかし、購買検討プロセスに、
ネットでの「SEARCH」を必ずかませる人は、
このパンフは即ゴミ箱逝き!

商売する側としては、
ほんと厳しい時代になったものです。

投稿者 松尾 順 : 12:22 | コメント (1) | トラックバック

「坂井(さかい)」じゃなくて、「板井(いたい)」でした・・・

先日の記事、

大相撲の経済学(6)「八百長」の経済学


の冒頭で触れた「大相撲八百長訴訟」の弁論に登壇した

元小結板井(いたい)

の本名、

板井圭介氏

の苗字を間違えていました。


「板井」(いたい)

ではなく、

「坂井」(さかい)

だと読み違えていたのです。

ブログへのコメントでご指摘いただきました。
(現在は修正済み)


実は、20代以降はそれほど大相撲を熱心に
ウオッチしていなかったため、

「板井」

という力士の存在をすっかり忘れていたこともあり、
最近の新聞やネットの記事に出ていた名前を読み違いしたのです。

今思えば、板井が現役のころ、「板井」というのは、
「痛い」というコトバを連想させるから、あまり縁起の良い
四股名じゃないなあ・・・と感じていたのでした。


さて、ブログの記事に対しては、

(「坂井」と読み違えるなんて)

 “文字情報しかソースがないんですか?”

というコメントをいただいきました。

板井(いたい)の読み違いについて、
まさに「痛い」ところを突かれてしまったという感じです。


というのも、実際、私の日常の情報源は、

新聞、雑誌、インターネット

といった文字情報が主体でして、
テレビ・ラジオの視聴・聴取は最低限に
抑えるようにしているからです。

ラジオは「ながら」ができないこともないですが、
テレビはだらだら見てしまって他のことが手につかなく
なりますからね。
(とはいっても、テレビは週5時間くらい見てます)

なので、「板井」を「坂井」と勘違いするようなことや、
ちょっと特殊な名前や地名だと、
読み方を間違っていることがよくあります。


注意しなきゃ・・・!

投稿者 松尾 順 : 01:09 | コメント (4) | トラックバック

リリー・フランキーの悩み相談室

今日は、腰が抜けるほど楽しませてもらった

『劇的3時間SHOW』

リリー・フランキーの日(08/10/09)

をアバウトに振り返ってみます。


なお、私の大幅な編集と創作が入っておりますので、
現場で語られた「真実」とは必ずしもイコールではありません。

あらかじめご承知おきを!

-------------------

おや、開演時間6時半を過ぎても何も始まる気配ありません。
しかし、立ち見客もあふれる満席の会場は落ち着いた風情。

と、ウグイス嬢のアナウンス。

「ご来場の皆様にお知らせいたします。
 開演時間を過ぎておりますが、
 リリー・フランキーさんは現在こちらに
 向かっておられるとのことです。
 あとしばらくお待ちください。」


とたんに、会場は暖かな笑いで包まれました。

想定通り。
やはり「遅刻」してくれないとリリーさんじゃない。


午後7時。リリーさん登場。開口一番。

「いやあ、年末が近くなると道路が混んでますね・・・」
「さっきまで寝てたんですが・・・、二日酔いで・・・」

と悪びれることなく早速講演開始。

遅刻したけど、

「今日は12時までやります」

と、いちおうやるき満々。


さて、まずは「スペシャルゲスト」として、
旧知の仲の某エロ雑誌の編集長を呼びいれたのはいいが、
いきなり

エロ&スカトロ系

の話を展開。

会場を思いきりなごませすぎた後、
来場者が当日記入した様々な質問に答えていきます。

‘リリー・フランキーの悩み相談室’

といったところ。


「えーと、マサチューセッツくんの質問、
 ボクは21歳ですがまだ童貞です。
 どうしたらいいでしょうか?」

「なるほど。マサチューセッツくん、
 どこにいるの。ちょっとステージに出ておいでよ。
 出てこないと次に進めないよ」

と無理やり、某大学学生のマサチューセッツ君を
ステージに上げて童貞談義。


「あの社会派ジャーナリストの鳥越俊太郎さんだって、
 27歳まで童貞だったんだから。だいたい、男はね、
 女に弓を引いてる時間が長ければ長いほどいい仕事を
 するんだよ」

「まだ君は女の人のあそこを拝んだことがないんだろう」

「じゃあ、まずはハンバーガーを縦にして食べてみるとかして
その時に備えなさい。これはリリー式想像力の訓練だ」

(中略)


「次の人、私は大学3年生です。
 これから就職活動をする私に、何かアドバイスをください」

「ステージにいらっしゃい。えーと君はどんな仕事がしたいの」

ステージに上がった表参道に近い大学の女子学生
(とっても可愛い子でした!)は、

「やりたいことがない」

とのこと。


「好きなことは何?」とリリーさん。

「漫画を読むのが大好きです」

「漫画家になることは考えなかったの?」

「ええ、読むのは好きですが描くほうは・・・」

「君はなかなか面白い漫画を描きそうだから、
 漫画家になりなさい」

「えーと、予想外のアドバイスありがとうございます!」

「いや、アドバイスじゃなくて
 もう決まったことなんだよ。君は漫画家になる」


かなり、強引なキャリアカウンセリングですね。

(中略)


「70歳過ぎの男の人が好きなんです。
 昨年奥様がお亡くなりになったんですけど。
 たぶん、リリーさんもご存知かも・・・」

と23歳の独身女性。

「え、そうすると、俺の友達のお父さんが好きなの?」

「ええ、でもそばにいると、
 何を話したらいいかわからなくて・・・」

「何も話さなくてもいいんじゃないかなあ。
 添い寝してあげるとか・・・」

「食事をしたらお昼寝されてしまうんですよね」

「昼寝してて若い女性にほれられるなんていいよなあ、
 長生きはするもんだ!」

「君の方から、好きですと告白しなさい」

「そのほうがいいんでしょうか」

「もちろん、そのおじいさんは大喜びするよ」


とまあ、休憩時間も取らずノンストップで、
親身な悩み相談へのアドバイスが延々と続いて、
ふと時間を見ると10時。


リリーさん、時計を見ながら、

「まだあと2時間はありますね・・・」

と言うと、慌てて脇から顔を出した運営側のおじさん、

「すいません、そろそろお時間が・・・」

の言葉を軽く受け流してさらに話は続く。


10時半、運営側のおじさんの2度目の警告で
ようやく終わる気になったリリーさんは、
新曲の弾き語りで講演を締めくくりました。

リリーさんの歌、とても良かったです。
歌うまいんですね。


「じゃあ、会場の都合があるみたいだから、
 これで終わりますけど、これからみんなで

 ‘笑笑’(わらわら)

に移動しますか!」


私は帰りましたが、
実際、リリーさんと一緒に居酒屋に行った人が
いたかもしれません・・・

30分遅刻したけど、
休憩抜き、主催者側の意向を無視した
1時間の勝手延長で実質、

「3時間半SHOW」

となったリリーさんの講演でした。


*劇的3時間SHOW

投稿者 松尾 順 : 12:22 | コメント (0) | トラックバック

異端者の快楽

今週月曜日(08/10/06)から
青山・スパイラルホールで開催されている

「劇的3時間SHOW」

の2日目、つまり火曜日のゲストは、

幻冬舎社長の見城徹氏

でした。


この劇的3時間SHOWは、
ゲスト本人だけで3時間もたせるのはつらいと思われるのか、
おおむね、ゲストの親しい知人・友人を呼び、

対談(雑談?)形式

でやることが多いです。


見城氏も、講演の前半では、25年のつきあいだという

中森明夫氏

を壇上に呼び、中森氏が「インタビュアー」のような役割で
アレコレ突っ込んでもらっていました。

ちなみに、中森明夫氏は、

「おたく」

という言葉を生んだコラムニスト&編集者として有名ですね。


見城氏は、若い頃はずいぶんケンカ好きだったようです。
(実際に殴りあうケンカですよ)

当時、毎日2時間半もボディビルのトレーニングをやって
筋肉隆々の体を造り上げたのも、ケンカが強くなるためだったとか。


見城氏自身は、若い頃の逸話をあまり話したくなかったようですが、
見城氏をよく知る中森氏にうまく刺激されてしまっていました。

例えば・・・

見城氏と山田詠美がとあるバーで飲んでいたら、
写真家の加納典明が入ってきて山田詠美にからんできたので、
店の外でタイマン勝負することになったけど、2、3発パンチ入れて、
崩れ落ちるところをヒザ蹴りして、店の壁に2度ぶつけたらダウン
しちゃったとか、本筋とは関係のない話が実に楽しかったです。


なお、あくまで以上のような武勇伝は何十年も前の話であり、
加納氏は後日、悪かったのは自分の方だと見城氏に詫びられ、
その後、見城氏と加納氏は大の仲良しになったということを
付け加えておきます。


見城氏は上場企業の社長ですから、
ほんとはこんな話を公の場ではしてはいけないのでしょうけど、
せっかく来場してくれた方を楽しませなければ申し訳ないという

「サービス精神」

でついつい口を滑らしてしまっただけなのです。


さて、見城氏は、自著

『編集者という病』

でも、触れられていたと記憶していますが、
自分は他人とは違うという意識を小さい頃から持っていました。

つまり、一言でいえば「異端者」です。


見城氏は、異端者であるがゆえのせつなさ、つらさ、苦しみ、
悲しみをずっと抱き続けてきたとのことですが、そもそも、

「表現」(クリエイティブな表現という意味)

は、異端からしか生まれないと見城氏は考えています。

マジョリティからこぼれ落ちるものが表現であり、
すなわち「マイナー」なもの、また、中心部ではなく、
周辺部の「エッジ」からこそ独自性のある表現が生まれる。


だから、自分のような異端者にこそ、
優れた表現、また優れたクリエーターを発見できるのだと
いう自負をお持ちです。

若い頃、見城氏が「ケンカ」に向かったのも、
異端者であることの重圧を軽減するための

「ハケ口」

だったのかもしれません。


さて、見城氏は、講演の後半でも、
やはり付き合いの長い次の2人の方を呼んでいました。

・エイベックス・グループ・ホールディングス社長、
 松浦勝人氏

 (エイベックスについては補足説明不要ですね)

・オフィスオーガスタ社長、森川欣信氏
 (山崎まさよし、スガシカオ、元ちとせ、スキマスイッチ
  などの才能を発掘、育てた方です。)


エイベックスの松浦氏も、オーガスタの森川氏も、
売れるかどうかわからないクリエイターを発掘し育てる仕事を
やっているという点において見城氏と共通しているところが
あります。


オフィス・オーガスタの場合、

山崎まさよし、スガシカオ

などは当初、「絶対に売れない」と言われ、
ほとんどのレコード会社に断られてしまったことを
ご存知の方も多いでしょう。


しかし、3人とも、マジョリティが見向きもしない

「マイナーなもの」

をいち早く見つけ、
マジョリティが動く「ブーム」を巻き起こすのが
最高の喜びなのだそうです。


これが、見城氏の講演のメインテーマであった、

「異端者の快楽」

なのでしょう。


(参考書籍)
『編集者という病』
(見城徹著、太田出版)


*劇的3時間SHOW

投稿者 松尾 順 : 13:39 | コメント (2) | トラックバック

佐藤可士和氏の発想法

アートディレクター、佐藤可士和氏は、

クリエーターの仕事とはどんなものなのか

について次のように語っています。


“社会をキャンバスに、
 自分の作品を通じて新たな視点を提示すること”


そして、

「新たな視点」

を提示するための発想法のひとつとして、
佐藤氏は、

「枠の外に出ること」

を提唱しています。


例えば、佐藤氏が、
ネーミングからパッケージまでまるごと一任されたキリンの

「ちびレモン」

のプロジェクトでは、

・まず商品コンセプトがあって
・次にパッケージがあって
・メディアに載せる

という、

従来の商品開発・販売の型どおりの手順

という枠から出て考えたのだそうです。


佐藤氏によれば、
ちびレモンを発想するにあたっての
一番のポイントは、

「(コンビニなどの小売店の)棚こそ商品の価値を伝えるメディア」

と考えたことでした。

そして、棚をメディアと捉える前提から、
目立つためにどうしたらいいかを考えた結果、

「小さくてかわいい」

という商品コンセプトに至り、
500mlのボトルサイズながら棚に並ぶと、
一つだけぽこっと小さくて目立つパッケージが
開発されたというわけです。


小さくてかわいいパッケージですから、
「ちびレモン」と命名。

ロゴやキャラクター、CMなども、
手描きを採用した

「かわいい世界観」

で展開されました。


佐藤氏は、

“メディアが多様化している現在、
よっぽどおおげさなことをやらない限り、
人々がモノを買わない時代”

であるから、

“商品やサービスの中身を枠内で競うのではなく、
ある商品を枠の外全体から見ればどう見えるのか、
何に見えるのかという視点が大事なのです”

と述べています。


なお、昨日(08/10/06)から始まった

「劇的3時間SHOW」

のトップバッターとして登場した佐藤氏は、

「枠の外に出ること」

の意義について語る中で、
現代美術に大きく影響を与えたフランス人の美術家、
マルセル・デュシャンの問題作

「泉」

に触れました。


ご存知かと思いますが、
デュシャンは、なんの変哲もない男子用小便器に

「泉」

という作品名を与えて展示会に出展したのです。


これは、文字通り「枠」に囲まれた

キャンバス

の外に出ることで、
新たな美術の可能性を示したものだったわけです。


当記事は以下を元にしました。

・新聞記事
 
  「クリエーティブをひとつまみ」
   (日経産業新聞、2008/10/07)

・佐藤可士和氏講演
 
  「劇的3時間SHOW」(2008/10/06)
   (Cofesta Original Event、青山・スパイラルホール)

投稿者 松尾 順 : 13:03 | コメント (0) | トラックバック

スーパーの手引き車

大きめのスーパーマーケットやホームセンターなどに
置いてある「ショッピングカート」は基本的に

‘手で押す’

タイプですよね。つまり「手押し車」です。
あの鉄製のごついやつ。

カート前面に象さんの絵が貼ってあったり、
幼児が座れる小さい椅子が設置してあったりしますけど。


この「手押し車」のスタイル、
この何十年ほとんど変わっていませんでしたが、
ヨーロッパでは最近、

‘引く’タイプのカート

が登場しています。「手引き車」です。
(「とはずがたり」日経デザイン、October 2008)


このカートの見た目は、
プラスチック製の大きめの「買い物カゴ」。

取っ手がついてます。

ただし、カゴの一方の下に車輪もついてます。

また、車輪と反対側からは、
引き手がスルスルと引き出せるようになっています。


ですので、軽いうちは手で持って普通の買い物カゴの
ように使えますし、重くなってきたら、床に置いて
引き手を伸ばし、ちょっと傾けて歩けば、
コロコロと転がして引っ張ることができます。

日本では近年、
派手なデザインのカートを街中で転がして歩く
若い女性が目立ちますが、スーパーの引き車を
引っぱってる姿はあんな感じです。


実際の写真が以下のブログにありました。

*セタガヤーナ毎日(楽天日記)
 「ヨーロッパ旅行(17417)」(2008/05/03)

*これはイタリアのスーパーのもの


日経デザインの記事によれば、
大量の買い物、子供連れに便利だった

「手押し車」

は、都市型の狭いスーパーでは不便なことが多い。

だから、

「手提げカゴ」と「ショッピングカート」

の中間型デザインが登場したとありました。


さて、この「手引き車」ですが、
スーパーでよく買い物をされる方なら、

“そうそう、こんなカゴが欲しかったんだよ!”

と思わず叫びたくなったのではないでしょうか?


つまり、この道具は、スーパーの来店客の

潜在ニーズ(別の言い方をすれば、「顧客インサイト」)

を見事に押えた新商品だと言えますね。


私自身、しばしばスーパーに買い物に行きますが、
それほど大量に買うわけでもないのに、
あのでかい「手押し車」はオオゲサですし邪魔くさい。

とはいえ、手提げカゴだと、
知らず知らずのうちに放り込んだ商品で重くなり、
買い物が面倒になってきます。


でも、こんな手引き車があれば、
買い物がもっと便利で、かつ楽しくなりそうです。

おそらく、1来店あたりの総購買金額を
引き上げる効果もあるのではないでしょうか。

そのうち日本でも普及しそうですよね。


それにしても、この新しい「手引き車」は、
どんなことをきっかけに発想されたのでしょうか。

開発の経緯をぜひ知りたい!ご存知の方教えてください。
(もしわかったらご報告しますね!)

投稿者 松尾 順 : 12:58 | コメント (0) | トラックバック

おすもうさんの体脂肪率

見た目は、

「メタボ」

に見えるおすもうさんですが、
実際、力士の体脂肪率はどの程度かご存知でしょうか?

ちなみに成人男性の場合、
体脂肪率25%以上が「肥満」とされていますね。


『大相撲の経済学』

に紹介されているのですが、

序の口(26%)→ 序二段(30.5%)→ 三段目(34.5%

と番付が上がるにしたがって体脂肪率が増えていきます。


ところがそれより上位になると逆に下がり始めます。

幕下(29.5%)→ 十両(24.5%)→ 幕内(23.5%)

と、十両以上になると数値上は、

「肥満」

ではなくなるのです。


幕下以下は、「取的」と呼ばれ無給です。

しかし、十両に上がると、晴れて「関取」と
呼ばれるようになり、従者がつき、月給がいきなり

「100万超」

となります。

つまり、十両以上に上がってこそ、
力士として一人前だと認められるわけです。


体脂肪的視点で言えば、メタボ体質だと

一人前のすもうとり

にはなれないということでしょうか・・・

投稿者 松尾 順 : 10:51 | コメント (0) | トラックバック

大相撲の経済学(6)「八百長」の経済学

「週刊現代」の八百長疑惑を報じた記事を巡る

「大相撲八百長訴訟」

の弁論(08/10/03)において、
講談社側の証人として出廷した元小結の板井圭介氏は、
次のように証言しています。

『現役時代、八百長に関与した。横綱、大関なら当時で
 70~80万円を払って下位の力士に頼んでいた』

『下位の力士同士であれば、1回勝ったら、次は負ける。
 それが相撲界のルール』


板井氏の発言の真偽はさておき、

『大相撲の経済学』

では、八百長を行うインセンティブ(動機)、メリットが、
どのような場合において発生する可能性があるかを検討しています。
(八百長が実際に行われているどうかを検討したものではありません)


同書では、数式を用いて説明してあるのですが、
難しくなるので詳細は本を読んでいただくとして、
ここではポイントのみ紹介しておきます。


そもそも、「経済学の基本理論」にしたがえば、
八百長の取引が成立するためには、その取引によって

正味の利益増加分(純利益)

が発生しなければなりません。


八百長が生み出す利益とは、
ひとつには、負けることによって失うはずの地位や所得を
維持できることです。

また、勝ち負けを確実にすることで、
ガチンコ(真剣)勝負のリスクを回避できることです。


さて、八百長を実際に行うとしたら
取引の方法には坂井氏が証言したように次の2つの方法があります。

1.金銭の授受を行う
2.星を交換する(現在と将来の勝ち星を交換)


金銭の授受が行われる場合について詳しく説明しましょう。

『大相撲の経済学』では、
八百長をもちかけ、金銭を渡す力士を「渡川」、
もらう側を「受取山」と名づけて八百長の成立条件を
具体的に検討しています。

なお、前提として、渡川、受取山の両者は巡業などを通じて
お互いの実力を熟知していて、ガチンコ勝負した際にどの位の割合で
渡川が受取山に勝つかもわかっていることにします。


この前提において、渡川が受取山に八百長を持ちかけるためには、
ガチンコで勝った場合の利益よりも、八百長で確実な勝ち星を得る方
が利益が多くなければなりません。(まあ、当然のことですけど)

一方、受取山が八百長話をOKする条件は、
負けることによって失う損失よりも、
渡川からもらうお金が多くなければなりませんよね。


ですから、八百長が成立しやすくなるのは、
渡川にとってこの一番で勝つことの利益が十分に大きく、
一方、受取山にとって負けることの損失が小さい場合です。

例えば千秋楽において、十両最下位の渡川は、

7勝7敗

で勝ち越しがかかっているとします。


一方、十両十枚目の受取山は、

8勝6敗

で既に勝ち越しを決めています。


このような状況での渡川と受取山の一番で、
もし渡川が負けると幕下に転落。

約100万円の月給がゼロになります。


しかし、受取山の場合は、
勝ち越しているので、この一番に負けても、
それによって被る損失は、勝った場合に得られる勝ち点分
(1円分、実質1場所当たり4000円の力士褒賞金)だけです。


そこで、もし両者のリスク(勝敗率)評価や実力、交渉力が
ほぼ同じだと仮定すれば、この一番における渡川の勝ち星の
取引額はおよそ

25万円

当たりになるだろうと同書では推定しています。


「星の交換」による八百長の場合も、
基本的な成立条件は同じです。

つまり、

八百長の利得がガチンコの利得を上回る場合

に、八百長を行うインセンティブ、メリットが生まれてきます。


逆に、八百長が成立しにくい状況としては、
次のような点が挙げられます。

ひとつは、両者の実力が離れている場合です。

先ほどの例で言えば、渡川が受取山よりも圧倒的に強いと
わかっていれば、ガチンコでも勝てる可能性が高いわけですから、
渡川としては、金銭を渡してまで勝ちを確実にしようとは
思わないでしょう。


もう一つは、両者の現在の一番の重要度が近い場合です。

同じく先ほどの例で言えば、
受取山も、渡川と同様に十両最下位にいて7勝7敗、
千秋楽で負ければ幕下転落の崖っぷちにいるということであれば、
渡川も受取山もどちらも絶対に負けたくない状況です。

この場合、まずガチンコ勝負しかありえませんね。


相撲協会では、八百長を防ぐことを狙いとして、
一番の取組の重要性がほぼ同じ力士同士の取組を増やしています。

千秋楽で、共に7勝7敗の取組が多いのは、
八百長をしたくなるインセンティブを低下させるためなのです。


また、幕内力士と十両力士、
および、十両力士と幕下力士の対戦が多く組まれます。

下位に陥落して給料を減らしたくない力士と、
上位に這い上がって給料を増やしたい力士の対戦であれば、
お互いの損得の和が近いため、八百長をすることによる
純利益がほとんど発生しません。

ですから、やはり八百長をするインセンティブが低くなります。


なお、八百長が起きないようにするためには、
実力がかけ離れた力士同士を組ませるという方法もあります。

ガチンコ勝負でも、
どちらが勝つかお互いほぼわかっているため、
八百長する必要がないからです。


しかし、観客にとっては、
勝ち負けが明白な一番はまったく面白くありません。

(こんな取組ばかりだとファン離れが起きるでしょうね)

どっちが勝つかわからない実力伯仲の力士同士が
闘うからこそ面白いわけです。

したがって、大相撲という興行(娯楽スポーツ)の
運営主体である相撲協会としては、現実にはこのような
取組は避けなければなりません。


ところで、
冒頭の訴訟に出廷した板井氏の証言によると、
八百長をやる理由として、

『お金がほしいというよりも、いま自分がいる地位を保ちたいからだ』

と述べています。

八百長が行われる背景には、
単に経済的なメリットだけでなく、
プライドというか、見栄というか、心理的な要素も
絡んでくるようです。

板井氏のコメントは、
人間が100%合理的な判断に基づく行動するとは限らない点を
示していると言えますね。


今回で『大相撲の経済学』の内容紹介は終わりです。

一連の記事でご紹介できなかったテーマもまだたくさん
ありますので、興味のある方はぜひ本書読んでみてください!


八百長疑惑は残念なことですが、
大相撲界の今後のさらなる隆盛を1相撲ファンとして
応援したいと思っています。


『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

→単行本
→文庫本


(その他関連本)

『力士はなぜ四股を踏むのか』

『大相撲界の真相』

『力士の世界』

投稿者 松尾 順 : 15:29 | コメント (6) | トラックバック

親父さん、娘には避けられて正常です!

私は若い頃、

フィールド調査員

の仕事を2年ほどしていた時期があります。

関東の様々な小売店(GMS、スーパー、コンビニ、
ドラッグストア、化粧品店、タバコ店など)を訪問して
消費財の売れ行きを調べるのです。


この仕事をしているフィールド調査員は、
全国に配置されていましたが、私は

「リリーフ要員」

という役割。

つまり、人手が足りないところに派遣される
お助け部隊でした。


業務遂行には、
高度な調査技術や豊富な商品知識が必要で、
一人前にこなせるようになるまで結構大変でしたが、
ひとつ、おいしい点がありました。


それは、現場での作業時間はおおむね

朝9時過ぎから夕方4時くらい

まで。

残務処理があるとはいえ、
毎日ほとんど残業がなかったのです。

なぜ作業時間が短いのかというと、
お店のオープン前後から調査を開始して、
夕方、お客さんで混み始めるまえに終了する
必要があったからです。

しかも、毎日オフィスに行く義務がなく直行・直帰。
オフの時間がたっぷりありました。
(地方在住の調査員は、そもそも東京の事務所に
 通勤できませんから)


さて、以上は実は前振りです。
長くてすいません。


当時私は独身でしたが、
結婚されている調査員の方の中には、
毎日欠かさず夕食を家族で囲むという方がいました。

仕事が終わってまっすぐ帰れば、
5時、6時には自宅に戻れますからね。


そんなわけで、家族みんなと
とても仲が良かったその調査員のおじさんは、

中学生の娘といまだに一緒にお風呂に入っている

という話をしていたのを覚えています。

当時独身の私にはよくわかりませんでしたが、
現在中3の娘を持つ身となってみると、
一緒にお風呂に入るなんてとても考えられません。

年頃の娘は基本、親父を避けるものですからね。
ちょっと悲しいですが・・・


そもそも、年頃の娘は、
なぜ父親を避けるのでしょうか?

特に「親父のにおい」を毛嫌いしますよね。


次の実験にそのヒントがありそうです。

スイスのベルン大学、米国シカゴ大学などが
行った実験です。

まず何人もの男性に、
同じTシャツを数日間続けてもらいます。
(男性のにおいがたっぷり染み付きますね)

そして、そのTシャツを複数の女性にかいでもらい、
好ましいと感じたものを選んでもらうのです。
(被験者の女性にとっては、あまり楽しい実験では
 なさそう・・・)


個々人の体臭は、

「HLA遺伝子(MHC遺伝子)」

で決まることがわかっているそうですが、
実験結果によると、女性は、

自分と近い遺伝子を持つ男性のにおい

を避ける傾向にあることが確かめられたそうです。

これは、近親婚を回避し、
遺伝的多様性を保つための本能的な働きと
考えられています。


この実験を踏まえると、
血のつながった親父のにおいを娘が嫌い、
接触を避けようとするのは正常なことだと言えます。

中学生にもなった娘が、
親父のにおいを嫌わないのは逆に好ましくないわけです。

ちょっとほっとしました。


上記実験内容については以下の書籍を参考にしました。

『ここまで解明された最新の脳科学 脳のしくみ』
(ニュートンムック)

投稿者 松尾 順 : 10:24 | コメント (2) | トラックバック

大相撲の経済学(5)「一代年寄」を辞退する意義

『大相撲の経済学』では、

「年寄」(通称「年寄株」とも言われる。正確には「年寄名跡」)

について次のような説明があります。

-----------------------------------

「年寄名跡(みょうせき)」は、
力士が現役を引退した後、65歳の定年まで生活を
保障してくれる1種の年金証書のようなものである

------------------------------------


「年寄」を取得して、
相撲協会で定年の65歳まで勤め上げたとすると、
この「年金証書」の金銭的価値は

3億円

を超えます。

というのも、30歳ちょっとで引退してから、
定年するまでの30年間に渡って、

およそ1,500万円以上

の年収が毎年入るからです。


このため、輪島のように、
「年寄」を担保にして借金をすることさえできるわけです。

もちろん、年寄を借金の担保にするなぞ不届き千万、言語道断。
輪島は相撲協会から処分を受けましたけどね。


ただし、この年金証書は全部で

105

しかありません。

「年寄」とは、このわずか105の年金証書を
代々受け継いでいくものなのです。


ですから、先の記事で書いたように、
年寄を取得するだけの功績を納めながらも、

「空き」

がないため、定年などによって「年寄(株)」を
譲渡してくれる先輩親方を「ウェイティング」しなければならない
力士が出てきます。


さて、極めて大きな功績を残した力士には特例として

「一代年寄」

が与えられる制度があります。


「一代年寄」とは、文字通り一代限りの年寄。

正規の「年寄」のように、
代々受け継がれていくものではありません。


これまで一代年寄が与えられたのは、
以下のわずか4人です。

・大鵬
・北の湖
・千代の富士
・貴乃花


ところが、千代の富士だけは、
せっかくの名誉な「一代年寄」を辞退しました。


なぜでしょうか?

それは、相撲部屋の継続性が失われるために
優れた力士を確保しにくいからです。


相撲部屋は、
相撲協会から補助金を受けて運営される

「子会社」

のような存在ですが、あくまで独立採算の経営体です。


補助金は、部屋に所属する力士の優れた成果、
番付に応じて支払われるため、相撲部屋の拡大・維持は、

優れた力士を発掘し、育成する

ことにかかっています。


「一代年寄」の場合、現役時代に

「大横綱」

として人気を集めた力士ですから、
いわゆる「ブランドイメージ」が良く、
当初は優れた力士を集めやすいという
アドバンテージを持っています。

しかし、本人の引退が近くなってくると
状況が変わってきます。

なにしろ、一代限りですから、
本人が引退すれば部屋も実質無くなってしまうのです。

そして、所属する力士は、
その時点で別の部屋に移らなければなりません。


例えば、本人の引退に伴い、あと10年で無くなって
しまうことがわかっている部屋に有望な力士が入りたいと
思うでしょうか。

会社でも同じでしょう。

10年後に会社は解散することになっていますので、
その後は自分で次の会社を探してください、という会社に
入社したい人はたぶんあまりいませんよね。


実際、一代年寄の大鵬部屋は、
設立当初は、50人を超える弟子を抱えたことも
あったそうです。

しかし、その後、親方の病気もあって、
2003年(平成15年)の時点では

関取0、取的6人

の弱小部屋となり、
現在は、二子山親方(貴闘力)が引き継いで、

「大嶽部屋」

となり、実質的に「大鵬部屋」は消滅しました。

なお、大鵬は、2005年に定年退職し、
現在は、相撲博物館館長です。


千代の富士はこうしたことを考慮して、
一代年寄ではなく、正規の「年寄」を取得した
というわけです。


ちなみに、九重部屋を継いだ千代の富士、現九重親方は、

千代大海

を大関まで育てました。


一方、一代年寄となった北の湖親方が運営している

「北の湖部屋」

からは、まだ三役力士を1人も輩出していません。


『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

→単行本
→文庫本


(その他関連本)

『力士はなぜ四股を踏むのか』

『大相撲界の真相』

『力士の世界』

投稿者 松尾 順 : 13:37 | コメント (0) | トラックバック