ディズニーランドより楽しい?「キッザニア東京」

2006年10月に開業した

「キッザニア東京」(以下「キッザニア」)

に行かれたことありますか?


「キッザニア」は、
子供たちのための「職業体験型テーマパーク」です。

この施設では、

・働いてお金を稼ぐ
・稼いだお金を銀行に預ける
・稼いだお金を店で使う

といった、大人にとっては「日常的なこと」ですが、
子供たちにとっては「非日常なこと」を体験できます。


キッザニアでは、
楽しみながら社会勉強ができる(仮想の)街ということで、

「エデュテイメントタウン」

と自らを呼んでいます。


なお、「エデュテイメント(Edutainment)」は、

・エデュケーション(Education)
・エンターテイメント(Entertainment)

の2つの要素が融合しているという意味を持つ造語ですね。


キッザニアのメインターゲットは、
小学校低中学年、つまり7-9歳の子供たち。

ただ、実際には中高生の社会科見学や修学旅行先として
利用されることも多いため、7-9歳を頂点として
顧客層の裾野は意外に広いようです。


ご存知の方も多いと思いますが、
キッザニアが生まれたのはメキシコ。

メキシコの子供たちに大人気だったキッザニアを
日本に持ってくる際には、日本のスポンサー企業の理解・賛同
を得るのに苦労したとのこと。

従来にない施設だったからです。


また、果たして日本ではうまくいくかどうか、
懐疑的な人もいましたが、フタを開けてみれば大成功!

昨年07年度は、延べ97万人の来場者数を記録。

「ディズニーランドより楽しい!」

と繰り返しリピートする、
熱狂的な子供たちのファンも生まれています。

実は、私の長男(小6)も、
昨年初めてキッザニアを体験しましたが、
今もディズニーランドよりキッザニアに行きたい
と申しております・・・


さて、キッザニアとディズニーランドは、どちらも

「非日常」

を演出している点は同じながら、
それぞれのコンセプトや仕組みを比較してみると、
ある意味対極的な位置づけにあることがわかります。


それは、まず第1に

・ディズニーランド=ファンタジー
・キッザニア=リアリティ

という対比です。


ディズニーランドは、
来園者を夢の世界に連れて行くため、

「日常生活」

を思い出させないための細かい工夫がしてあります。

とことん

「ファンタジー」

を追求しているのがディズニーランドです。


一方、キッザニアは、
「リアリティ」にこだわっています。

子供たちはスポンサー企業のパビリオンで、
様々な仕事、職種を体験できます。

例えば、大和運輸のパビリオンでは宅急便で荷物を配達し、
ピザーラのそれでは、実際に食べられる本物のピザを焼き上げる。


キッザニアでは、スポンサー企業の出展に当たって、
自社事業に関連のある仕事であり、かつ各事業の独自ノウハウに
基づいた職業体験ができることを求めたそうです。

ですから、100%全く同じとはいかないまでにしても、
大人が実際に行っている宅急便やピザーラなどの仕事を
子供たちも同じ業務で行うことができるようになっています。


また、キッザニアでは、
様々な企画を立てるに当たって、

「子供だましはしない」

ということをいつも言っているそうです。

相手が子供だからといって、
リアリティに欠けた

「ままごと遊び」

に過ぎない内容にしてしまうと、
子供たちはすぐにふざけ始めてしまうからです。


さて、ディズニーランドとキッザニアの
もう1つの大きな違いは、

・ディズニー=受動的体験
・キッザニア=能動的体験

です。


ディズニーのアトラクションは
基本的に見て楽しんだり、決められたレールの上を走る
ライドに乗って楽しむ。

客側のアクションはほとんどありませんよね。


しかし、キッザニアでは、1部2部総入れ替え制、
1度に最大1500人の子供たちを入場させ、
5時間にわたって、70種類を超える職種の中から
好きな職種を選んで、子供自身が体験できる仕組み。
(1回の入場で体験できるのは、5職種前後だそうです)


例えば、テレビ局(BSフジ)のパビリオンでは、
子供たちが、アナウンサー、音響エンジニア、ディレクター、
スタイリストなどになりきって番組を作っていく。

運営方のスタッフは結構大変でしょうけど、
いろいろとハプニングも起きたりして、子供たちは
臨場感あふれるリアルな仕事現場の一員になれるわけです。

すなわち、キッザニアが提供しているのは、

能動的な娯楽

なのです。


同じテーマパークでも、ディズニーとキッザニアでは、
ずいぶんと楽しみ方が異なることがおわかりでしょうか。


なお、子供たちの中には

「キッザニアよりもやっぱりディズニーが好き!」

という子もいるでしょうし、
どちらがより優れているかという話をしたいわけではありません。


ただ、ハード面でも多大な投資が必要なディズニーランド型
のテーマパークと違い、「職業体験」というソフト面の充実
でリピート客を生み出しているキッザニアからは、
大人も学べる点が多いように思います。


当記事は、以下の講演の内容を参考にしました。

*日本マーケティング協会 月例会(2008/09/28)

「職業体験テーマパーク『キッザニア』の開発について

 講師:株式会社キッズシティージャパン
    マーケティング部部長 関口陽介氏


*キッザニア東京
http://www.kidzania.jp/index.html

投稿者 松尾 順 : 17:37 | コメント (0) | トラックバック

大相撲の経済学(4)相撲界の終身雇用制度

近年、力士の大型化が急速に進んだのは、
体の大きな外国人力士の影響だと言われています。

現在はタレントとして活躍しているKONISHIKI、
つまり、ハワイ出身の「小錦」は新入幕時から200キロを越す
体躯で活躍し、無差別級の相撲における

「体格」

の優位性をまざまざと見せつけましたよね。


しかし、最高体重283キロまで増えてしまった小錦は、
タクシーに乗ればタイヤがパンクし、飛行機のトイレには
体が大きすぎて入らないため用が足せないなど、日常生活
にはいろいろと不便があったそうです。


前回説明したように、
相撲という特殊なスポーツで上位を目指すために、
多くは中卒で相撲界に入り、「相撲部屋」という一般社会とは
全く環境の異なる世界で暮らして体を巨大化させる力士は、
引退後のキャリアチェンジが容易ではありません。

このため、一定以上の成績を上げ、
大相撲の隆盛に貢献した力士に対しては、
引退後も手厚い生活保障が提供される仕組みになっています。


それは

「年寄制度」

です。

これは、「年寄株」を取得することにより、
引退後も日本相撲協会に「親方」として残ることが
できる仕組みです。


「年寄株」は正確には、

「年寄名跡(みょうせき)」

と呼ばれています。定年は65歳です。

したがって、力士が30代前半で現役を引退して
年寄株を取得すれば、65歳の定年までの約30年間に
わたって給料をもらい続けることができます。
(幕内力士の平均引退年齢はおよそ32歳だそうです)


年寄にもランクがあります。

相撲協会内でがんばって働けば、

平年寄→主任→委員→監事→理事

と出世していくことができます。

年収は、平年寄では1千万円強ですが、
理事になると2千万円を超えます。


『大相撲の経済学』では、
上記の「役職」はおおむね年齢とリンクしていることが
指摘されており、出世の条件としては、

「年功」

の占める要素が大きいようです。


さて、年寄たちに与えられる十分な報酬は、
言うまでもなく、相撲興行から得られる収益から
分配されるもの。

つまり、大相撲界全体としてみれば、
現役力士たちが、引退した年寄たちの生活を支える
構図です。

「年金」を連想しますね。


もちろん、年寄たちは年金生活をしているわけではなく、
自分の相撲部屋を持って若い力士を育成するなど、
日本相撲協会の一員として様々な業務を遂行していますから、
いわば一般企業における

「終身雇用制度」

と同様の仕組みが確立されていると言えるわけです。
(終身雇用制度の枠組みには入れるのは、ごく一握りの
 力士に限られる点がプロスポーツの厳しい現実ですが)


一般企業における終身雇用制度は崩壊しつつありますよね。

しかし、キャリアチェンジが容易でない大相撲の世界では、
大相撲の隆盛に貢献できる有望な新力士を呼び入れるためにも、
生涯にわたる生活保障を維持する必要があります。


「年寄株」は105しかなく、
需要が供給を上回っているのが現状です。

つまり、引退して年寄株を取得できる資格があるにも関わらず、
空きがないため年寄になれない元力士もいます。
(ただし、四股名のまま相撲協会にしばらく残れる措置があります。
 いわゆるウエイティング状態ですね!)


年寄株の取引の実態は明らかではありません。

高値で取引されることもあるなど、さまざまな問題が
指摘されてきていますが、

「年寄制度」

もまた、大相撲界全体としての存続という目的に照らすと、
十分な経済合理性を持っていると考えられます。


『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

→単行本
→文庫本


(その他関連本)

『力士はなぜ四股を踏むのか』

『大相撲界の真相』

『力士の世界』

投稿者 松尾 順 : 09:42 | コメント (0) | トラックバック

大相撲の経済学(3)現役力士の報酬制度

大相撲界の報酬制度もまた、経済合理性の観点から見ると、
実に巧妙に練り上げられたものだと言えます。


現在の現役力士に対する報酬制度の特徴は、

「一定以上の実力を持つ力士が上位の座を目指すこと、
 そして長く現役で活躍することを動機付けるもの」

です。


ここで、

「一定以上の実力」

と言うのは具体的には

「10両以上」

のランクのことです。


力士は、10両以上になると

「関取」

と言われるようになり、
給料がもらえるようになります。


逆に言えば、10両未満の力士は給料が出ません。

10両未満のランクは、
総称して「幕下」と呼ばれています。

幕下ランクにいる力士は、通称

「取的」

と言われますが、正確には

「力士養成員」

という名称の立場です。

彼らは、所属する相撲部屋の

住み込み賄い人

として、相撲部屋の炊事や掃除・洗濯、
10両以上の力士の世話などをして働きつつ、
一人前の力士になるべく日々稽古に励んでいるのです。


給料は出ませんが、
部屋住み込み、食事付きですから生活には困りません。

年6回開催される本場所ごとに、
彼らにもランクに応じて10万円前後の手当てがでますが、
2ヶ月に1回で10万円程度ですから「お小遣い」ですね。


要するに、幕下力士は

「見習い修行中」

なのです。花街で言えば、

舞妓さん

と同じ立場にあるわけです。


さて、10両以上になった力士がもらえる報酬は、
2段階構造になっています。

報酬のベースとなるのが、いわゆる「月給」。

これは、

・横綱:282万円
・大関:235万円
・関脇・小結:131万円

といったようにランクに応じて決まっています。
年収だと、横綱で3400万円程度ですね。

ランクに応じた固定報酬です。


もうひとつは「力士褒賞金」。
これは、上記月給に上乗せされる成果報酬となります。

「力士褒賞金」は、

・勝ち越しの数・・・0.5円(一つにつき)
・金星(平幕力士が横綱に勝った場合)の数・・・10円
・全勝した場合・・・50円

など、本場所での「成果」に応じて与えられます。
(実際の報奨金は、この金額を4,000倍した額)


興味深いのは、
10両以上に止まっている限り、
力士褒賞金はどんどん積みあがっていくだけで
減額されることがない点です。

ある場所で負け越したからといって、
褒賞金は増えないにせよ、減ることはありません。

また、たとえ幕下に陥落しても、
積み上げた褒賞金はキープされますが、
再び10両以上に上がらない限り、褒賞金はもらえません。

したがって、長く10両以上にとどまり、
現役を続けているほど褒賞金は多くなっていきます。


『大相撲の経済学』によれば、
昭和54年に初土俵を踏み、以来幕内に93場所在位し、
平成14年秋場所後に引退した「寺尾」の場合、
引退時の褒賞金は

230円

でした。

これは、現在の倍率(4,000倍)で換算すると

92万円

ですね。

長年幕内に在位していた寺尾は、
引退する頃には、本場所ごとに90万円程度の褒賞金
を月給にプラスしてもらっていたわけです。


一方、『大相撲の経済学』が出版された2003年の時点
での横綱「朝青龍」の褒賞金は、

180円

程度でした。

当時はまだ、角界入りしてから日が浅かったため、
褒賞金の積み立てが少なかったのですね。


これは、実質報酬額(x4,000)としては

72万円

であり、寺尾よりも20万円低い!


すなわち、朝青龍は当時、月給は横綱ですから当然トップ、
ところが、上乗せ分の「力士褒賞金」については、
長年現役を務めることで大相撲界に貢献してきた寺尾の方が
多かったのです。


このように、

「月額給与」

は、ランクに応じて増減しますので、
より上位のランクを目指すインセンティブとして
働いきますが、

「力士褒賞金」

は、10両以上の力士として現役に長くとどまることを
動機付けていると言えるわけです。

なお、上記の基本的な報酬以外に、
場所ごとの成果に応じてもらえる特別手当(優勝賞金など)や、
企業などが広告宣伝目的で出す「懸賞金」などの報酬もあります。


以上の仕組み、給料の出ない幕下以下の力士にとっては
厳しいものですが、10両以上になれる資質を持ち、かつ
不断の努力を続けることのできる力士にとっては、
とてもありがたいものです。


というのも、力士の多くは中卒で相撲部屋に入ります。

最近は高卒、大卒の力士の割合も増えてきているそうですが、
学歴というか基礎的な学力を考慮すると、相撲界から一般企業
に転進するのはなかなか大変です。

また、相撲部屋という特殊な環境の中で鍛えられ、
相撲という特殊なスポーツ競技で勝てるようになるために
一般人とはかけ離れた

「巨大な体躯」

を意図的に作り上げます。

この点でも、相撲界を離れた後の職業選択の幅が、
どうしても狭いものになってしまうわけです。

要するにつぶしがあまりきかない。

そこで、短期的な成果に基づく純粋な成果報酬ではなく、
一定以上の実力を保って現役を続けることがプラスになるような、
現在の年功的要素の強い報酬制度に落ち着いたと考えられます。


なお、現役時代に活躍し、相応の成績を収めた力士は、
引退後も「年寄」になることで安定した収入(1千万円以上!)
を65歳の定年まで得ることができます。

このあたりについては次回で!


『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

→単行本
→文庫本


(その他関連本)

『力士はなぜ四股を踏むのか』

『大相撲界の真相』

『力士の世界』

投稿者 松尾 順 : 19:24 | コメント (0) | トラックバック

折り畳傘携帯派vs非携帯派

唐突な質問で恐縮ですが・・・

あなたは、

・折り畳み傘常時携帯派

ですか、それとも、

・傘は持ち歩かない派

ですか?

私は「折り畳み傘常時携帯派」です。

突然の雨で、やむを得ずしょぼいビニール傘を
買うのがどうもいやなもので。
(お金ももったいないし・・・)

最近はほんとに薄くて小さい商品がありますから、
持ち歩くのも苦にならなくなりました。


でも突然の雨で駅で足止めくってる人を見ると、
普段傘を持ち歩かない人って結構多いみたいですよね。

かさばるからとういうより、やっぱり面倒だからかな・・・


蛇足ながら、私が持ち歩くバッグ類は、
その時々の用途・目的によって6種類くらいを
使い分けてますが、いちいち入れ替えるのは面倒だし、
入れ忘れもあるので、全てのバッグに折り畳み傘が
1個ずつ入ったままになるようにしてあります。

というわけで、折り畳み傘は全部で7本位はあるかなあ・・・
(ちょっとやりすぎですかね?)

投稿者 松尾 順 : 06:53 | コメント (8) | トラックバック

高尾山山頂でビール、グイっといきたい!

昨年(2007年)のミシュランの旅行ガイドで、
東京・八王子にある

「高尾山」

が日本の観光地として、京都、富士山などと並び、
最高位の3つ星に選ばれたことはご存知でしょうか?


日経MJ(2008/09/10)によれば、
ミシュラン効果で、玄関駅の

「京王線・高尾山口駅」

の乗降客数が昨年過去最高を記録したそうです。


また、ケーブルカー終点駅近く、
標高500メートルの高さにあるビアガーデン

「高尾山ビアマウント」

が大人気。週末は2時間半待ちも珍しくないとか。


私は20台後半の3年ほど
高尾駅近くの団地に住んでいたので、
高尾山はほとんど

「裏山」

という感覚でした。


1度だけ高尾山に登ったことがあります。

標高599メートルですから、
ケーブルカーを使わず、麓からちゃんと歩いて
登っても、比較的楽に頂上まで行けるんですよね。


ビアガーデンには入りませんでしたが、
当時はそれほど魅力を感じなかったのです。


さて、高尾山にやってくる観光客のピークはこれから。
紅葉の季節。

ぜひ、もう一度行ってみたいです!

ただ、ビアガーデンに行くなら、
やはり気軽にケーブルカーを利用したいですけど・・・

投稿者 松尾 順 : 14:27 | コメント (2) | トラックバック

とんこつラーメン「一蘭」

以前記事にも書きましたが、店内はカウンター席のみの
ラーメン屋です。

1人ずつ仕切り板で左右が区切られています。

また、注文したラーメンがカウンターに置かれた後、
正面には「すだれ」が降ろされます。

このため、隣の客や店員を気にすることなく、
ラーメンを食べることに‘集中’できるようになっています。

これは、

「味集中システム」

と呼び、特許出願済!


「一蘭」は、東京ドームシティ・ラクーア(後楽園)
にも1店あるのですが、近くに行くとなぜかふらふらと
必ず立ち寄ってしまいます。
(実は、昨日夕方、仕事帰りに行ったばかり・・・)


福岡生まれ、本場とんこつラーメンで育った私から見て、
一蘭のラーメンはひとつの

「完成形」

に達していると思います。


コクがあるのにキレがある。

スーパードライみたいですが、
まさにそんな味です。

とんこつのくさみ全くなし、
また、油っぽくもないんですよ。


ぜひ機会があれば試してみてくださいね!


*『「味集中システム」とは?』

投稿者 松尾 順 : 09:51 | コメント (7) | トラックバック

大相撲の経済学(2)競争制限的な仕組み

大相撲界は、一つの大きな会社組織のようなもの。
別の言い方をすれば、「運命共同体」です。


現役の力士たちは、
より高い番付や、場所優勝を目指して、
お互いに競い合っているものの、

「真の敵」

ではありません。

むしろ、大相撲という

「興行」(=娯楽サービス)

を共に盛り上げる仲間。だから、
同じ会社の「社員」という見方ができるわけですね。


さて、大相撲界では、力士や部屋単位ではなく、
全体の繁栄・存続を大前提とする

「巧妙な仕組み」

が長い年月を経てできあがっています。


この点は、同じ「興行」でありながら、
特定の球団の繁栄が優先され、業界全体の地盤沈下が著しい
プロ野球界がぜひ学んで欲しいところです・・・


おっと脱線しましたが、
前述の「巧妙な仕組み」に戻りましょう。

巧妙な仕組みの多くは、

‘競争制限的’

なものです。


例えば、相撲は「個人競技」ですが、
全力士が、他の全力士と戦うことができる

「個人総当り制」

ではありません。


同じ部屋に属する力士同士は、
本場所の土俵上では戦わない決まりです。
(優勝決定戦を除いて)

つまり、本場所の取組は、
他の部屋の力士の間でしか組まれないのです。

これは、

「部屋別総当り制」

と呼ばれ、昭和40年から続いているそうです。


当然ながら、

「部屋別総当り制」

だと、

「個人総当り制」

よりも「取組」の多様性が低くなります。


例えば、同じ高砂部屋の

‘朝青龍’(西横綱)と‘朝赤龍’(西小結)

の取組が見たいと願っても、

「優勝決定戦」

にならない限り実現することはありません。


ですから、以前より「個人総当り制」を
望むファンの根強い声があります。

しかし、今後も「個人総当り制」に
変更される可能性はほとんどないでしょう。


なぜなら、より多くの白星を取れたり、
優勝を狙える力士をたくさん抱えている部屋ほど、
相撲協会からの補助金がたくさんもらえるためです。


ですから、もし「個人総当り制」になってしまうと、
強い力士をたくさん育成することよりも、むしろ、
同じ部屋の力士同士の取組の場合に、どちらを勝たせるべきか
といった所属力士の白星・黒星の配分に気をつかうことになる
でしょう。

仮に、個人総当り制となったとして、
もし自分の部屋のある力士があと1勝で優勝するという取組で、
同じ部屋の他の力士と戦うことになったとします。

この場合、親方としては、当然ながら優勝しそうな力士を
勝たせたいでしょう。(そのほうが補助金が多くなる)

そうすると裏取引、
すなわち「八百長」が行われるかもしれませんよね。


結局のところ、大相撲は、
「個人別競技」でありながらその実体は、

「部屋同士の戦い」

なのです。


ですから、強い力士の数に応じて
相撲部屋にインセンティブが与えられる現状においては、

「部屋別総当り制」

が最も合理的な仕組みと言えるわけです。


なお、強い力士を育てることは相撲部屋の仕事であり、
相撲協会自体は育成にはかかわりません。

したがって、相撲協会が、
強い力士の数に応じて部屋にインセンティブを
与えることも経済合理性に適っています。


さて、もうひとつ競争制限的な仕組みを説明しましょう。

力士は、入門する相撲部屋は選べますが、
その後は自分の意思で他の部屋に移籍することはできません。

つまり、

「フリーエージェント」

の権利を現役力士は持っていないのです。


なぜ、移籍の自由が認められないのでしょうか。

それは、もし移籍が自由化されれば、
相撲部屋の親方は、有望な弟子を手間暇かけて
育てるよりも、番付の高い人気力士を金の力で
スカウトしようとする可能性が高いからです。

そうなると、資金力に勝る部屋にばかり強い力士が
偏ることになりますよね。
(現在も、現役時代に人気が高かった力士が親方と
 なっている部屋に有望な力士が集まる傾向はありますが)


前述したように強い力士がいる部屋ほど、
相撲協会から多くの補助金が入るため、
移籍自由の世界では、特定の部屋がますます
強大化していくことになります。

こうなると、1強○弱みたいになってしまい、

「部屋別総当り制」

における取組はまるで面白みのないものになるでしょう。
(強い力士同士の迫力ある取組が減少するから)


このあたりの弊害がもろに顕在化しているのが
現在のプロ野球ですよね。


以上述べたように、大相撲界の場合、
伝統文化の名の下に力士本人の自由度が
かなり限定されているのですが、

大相撲界全体

の繁栄・存続のためには、
実に合理的な仕組みではあるのです。


ただ、親方の性格や、
それぞれの相撲部屋が持つ固有のルールや社風(部屋風?)と、
所属する力士との間の「合う・合わない」、つまり

「相性」

の問題が、一般の会社と社員との間と同様、
発生するでしょう。

ですから、他の部屋に移籍できないことが、
有望な力士の成長をつぶしてしまったり、
不祥事の種になる可能性を秘めていますよね。


『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

→単行本
→文庫本

投稿者 松尾 順 : 14:21 | コメント (1) | トラックバック

大相撲の経済学(1)大相撲界ってどんなところ?

さて今回から、

『大相撲の経済学』

の内容を私なりに咀嚼した上でご紹介していきます。


まずは、大枠を押えましょう!

すなわち、

「大相撲界ってどんなところなのか」

ということです。


ひとことで言えば、大相撲界とは、

「大相撲会社(グループ)」

とでも形容できる、
一般企業に似た大きなひとつの組織なのです。


なぜ、

「会社組織」

に類似していると言えるのでしょうか?


まず、力士を始め、各部屋の親方、行司、床山、世話人、
また日本相撲協会の理事、監事、役員など、関係者全員が

「日本相撲協会」

の構成員として属していることがひとつ。


次に、「番付」や「取組」は、
全て日本相撲協会の運営を行う

「年寄」

たちによって決められる点があります。
(「年寄」とは、相応の功績のあった力士が、
  現役引退後に取得できるポジション)


『大相撲の経済学』によれば、

「年寄」たちは‘(トップレベルの)管理者’

であり、

現役の力士たちは‘(一般)社員’

にあてはめると納得がいくと書いてあります。
(カッコ部分は松尾補記)


力士たちにとって、「番付」とは、
一般の会社が行う「人事」と等しいものです。

すべての番付は、
審判部に属する親方を中心に構成される

「番付編成会議」

によって決められ、
力士は人事に口をはさむことはできません。
(一般企業でも、基本的に「人事」に社員が
 異を唱えるのは難しいですよね)


また、各場所において、
どの力士とどの力士が対戦するかという、

「取組」

は、会社側が力士に下す「業務命令」と
みなせますね。


なお、力士、行司、床山など「(一般)社員」たちは、
日本相撲協会の構成員であると同時に、どこかの相撲部屋に
それぞれ所属しています。

そして、各相撲部屋に対しては、
弟子の数や弟子の活躍に応じて下記のような補助金、

・部屋維持費
・稽古場経費
・力士養成費

が日本相撲協会から支給されています。


先ほど、「大相撲会社(グループ)」と書きましたが、
日本相撲協会がいわば全体を束ねる

「持ち株会社」

のような形で存在しており、
各相撲部屋は、相撲協会からの出資を受けながら、
それぞれの部屋を運営している

「子会社」

のようなものだからです。

つまり、全体としては同じ「相撲事業」に関わっている
会社グループだとみなせるわけです。


さて、力士に払われる給与(基本給)ですが、
横綱、大関、関脇・小結など番付=職階に応じて
決まっています。

明快な賃金テーブルがあるわけです。


つまり、大相撲界では、
プロ野球やJリーグのように、
各スポーツ選手と球団側との個別交渉に基づく
契約ベースの報酬ではないのです。


このあたりの仕組みを見ても、大相撲界とは、

「大相撲会社(グループ)」

という大きな会社組織であり、
また、大相撲界にいる人々は、管理者、
あるいは社員であるという見方がしっくりきますよね。


『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

→単行本
→文庫本

投稿者 松尾 順 : 15:14 | コメント (2) | トラックバック

大相撲の経済学(0)イントロダクション

近年、大相撲界の不祥事が相次いでますね・・・

特に、このところの麻薬汚染問題は大相撲にとって
深刻なイメージダウンにつながっています。


実は、私事ながら9月14日から始まる

「大相撲九月場所」

の両国国技館のチケットを購入していたのです。
(イス席ですけどね・・・)


相撲好きだった祖父の影響で、
大相撲のテレビ中継は小さい頃から毎日のように
観ていた私ですが、生の大相撲を観るのは生まれて初めて!

もし万が一、同場所が中止にでもなったら
どうしようと心配してました。

さすがに中止はなさそうですが。


さて、大相撲は日本が誇る

「伝統文化」

のひとつであることは言うまでもありません。

ただ、その封建的、閉鎖的な制度が、
現代においてはややそぐわなくなっている点は
否めないでしょう。

とはいえ、大相撲界が、伝統文化であると同時に、
興行を始めとする経済活動を通じて存続してきた以上、
その仕組みには、確かな

「経済合理性」

があります。


こうした経済合理性の観点から、
大相撲界の仕組みを分析した本があります。

『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

です。

この本はとても面白い本で、
以前からご紹介したいと思っていたのですが、
ネガティブな意味で現在最も注目されている今こそが
ベストタイミングでしょう。


例によって何回かに分けたシリーズで、
内容をご紹介していきたいと思いますのでお楽しみに!


『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

→単行本
→文庫本

投稿者 松尾 順 : 11:31 | コメント (5) | トラックバック

臭いオトコはもてないよ!

先日参加したある懇親会で、
某ゲーム開発会社にお勤めの2人の女性と
話す機会がありました。


どんな流れでそんな話題になったのか、
酒の席だったのでよく覚えていないのですが、
彼女たちによれば、

「うちの会社は、くさいんですよ・・・」

とのこと。

エレベーターに会社の男性と乗り合わせると、
正直、息を止めたくなるほどいやな臭いを感じるのだそうです


開発担当の男性たちは、
連日会社に泊まりこんでゲーム開発に没頭しています。

風呂もろくに入らないし、
着替えもどのくらいマメにやっているのか不明。

会社の特性上、

「あまり好ましくないにおい」

が会社に充満しているのも、
やむを得ないのかなと思いました。


さて、近年、

「におい」

に対する関心が高まってますよね。


とりわけ、人が発する

「臭いにおい」

をどうやって抑えるかという

「防臭」

に対する関心が強まっています。


これは、高齢化社会の進展によって。
中高年特有の体臭、いわゆる

「加齢臭」

が注目されるようになったことも背景にあるでしょうね。


加齢臭は、男女問わず40歳代以降に増加するようですが、
自分のことは棚にあげて言うと、やはりオヤジのほうが臭い
わけです。

なぜなら、自分自身の臭いに鈍感であり、
そもそも気にしてもいない人が多いからでしょう。

前述したゲーム開発会社の若い男性たちも、
ゲームのことで頭が一杯、自分がどんなにひどい格好を
しているか、またどんなに臭いかなんて、まったく気に
していないそうです。


一方で、においを含む「外見」を磨くことの重要性に
目覚めた男性もいますし、体臭については、特に奥さんや彼女、
娘などから厳しい指摘を受けることから、なんらかの対策を
打つ必要性に迫られていますね。


こんな男性サイドの高まるニーズに応えたのが、
クラシエフーズ(旧カネボウフーズ)のガム、

『オトコ香る。』

です。

『オトコ香る。』は、食べて1-2時間すると、
体からほのかにバラの香りがするという画期的な商品。


香水などの強い香りで体臭をごまかすのは、
香水慣れしていない多くの男性にとって、
あまり気が進まないものです。

しかし、ガムを噛むだけで、
体の内側からよい香りがするようになるこの製品は、
とても魅力的だったのです。


『オトコ香る。』は、2006年7月の発売と同時に
爆発的に売れました。

店によっては、バラ1個売りではなく、

「ボックス売り」

するお店もあったとか。

このため、発売わずか2カ月ほどで出荷停止。

2007年3月に再発売されてからも、
コンスタントに売れ続け、現在はコンビニの定番商品
としての地位を確立していますね。


ご存知の方も多いと思いますが、
クラシエフーズでは、若い女性向けに同様の機能を持つ

『ふわりんか』

を2005年8月に発売。

この製品はヒットしただけでなく、
お客様センターに次のような声が寄せられたのだそうです。

「男性(夫)にプレゼントしたい」
「パッケージが女性ぽくって買いづらい」
「加齢臭に効きますか」


『ふわりんか』のような製品が、
中高年層、特に男性にも求められていたことに気付いた
同社商品開発部では、以前から

「男のモテガムを作りたい」

という発想があったことから、

ふわりんかの男性版の開発に着手したのだそうです。


興味深いのは、『ふわりんか』も『オトコ香る。』も、
経営陣の受けは悪く、当初の年間目標は4億円という
控えめなものにさせられたのだそうです。

しかし、フタを開けてみれば
どちらも年商10億円以上のヒット商品になりました。

現在、『オトコ香る。』の購入者の7割が男性、
一方、『ふわりんか』の場合、7割が女性ということで、
うまくすみわけもできています。


「体臭」は、目をそむければ済む見た目と違い、
鼻をずっとつまんでいない限り防ぐことができません・・・

しかも、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、肌感覚の5感のうち、
脳神経に直結していているのは嗅覚だけ。

それだけ、においは脳に直接的な刺激を与えるのです。


したがって、臭い男性(女性もですが)は、
それだけで異性の生理的不快感を与えてしまい、
引かれてしまう可能性が高いのです。

ですから、体臭を抑える機能を持つ商品に対するニーズは
今後もますます強まっていくのではないかと思います。


*『オトコ香る。』については、
 日経情報ストラテジー(OCTOBER 2008)の記事、
 『あのプロジェクトの舞台裏』を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 10:56 | コメント (0) | トラックバック

福田内閣メールマガジン

小泉首相の時に創刊された、

『○○内閣メールマガジン』

をずっと継続して読んでます。


『福田内閣メールマガジン』は、
福田首相の退陣に伴い第46号で休刊。

メルマガには、

“1年間のご愛読、本当にありがとうございました”

とあったのですが・・・


前任者の

『安倍内閣メールマガジン』

も実質第46号で終わっているんですね・・・
(第47号は、安倍首相のメッセージが含まれない
 無記名の挨拶文だけのものでした。)


お二人とも、首相在任期間がほぼ1年間なので、
メールマガジンの発行回数も同じになるのは当然ですけどね。


まもなく選ばれることになる新首相も、
やはりメールマガジンを発行するのでしょうか?


創刊時、メールマガジン配信システムに対して、
莫大な開発費を投じていますから、もし発行しないとなったら、

「開発費は回収できたのか?」

などという批判が寄せられそうですよね。

投稿者 松尾 順 : 07:01 | コメント (0) | トラックバック

「酎ハイ」の起源

「酎ハイ」の

‘ハイ’
ってどこから来た言葉かご存知でしたか?


甲類焼酎を割って「酎ハイ」を作るための

「ハイサワー」

という炭酸飲料のネーミングから来てるそうです。


このネーミングを考えたのは、
ハイサワーを製造する博水社の2代目社長、田中専一氏。

自分がこの商品を作ったからということで

‘我が輩のサワー’

の思いを込めて「ハイサワー」としたとのこと。

だから、本当は

「輩サワー」

なのです。


ハイサワーが発売開始されたのは1980年でした。

80年代に、甲類焼酎を炭酸で割る「酎ハイ」が、
たちまち庶民に浸透したことの出発点には、

「ハイサワー」

があったというわけです。


(参考記事)

*「跡取り娘」の経営戦略
 博水社3代目 代表取締役社長 田中秀子さん(NBonline)

投稿者 松尾 順 : 12:49 | コメント (4) | トラックバック

『おくりびと』・・・じわじわと心に沁み入る感動作

今年の第32回モントリオール世界音楽祭で、

「グランプリ」

を受賞した

『おくりびと』(9月13日封切)


遺体を棺(ひつぎ)に納める‘納棺師’の話です。

私は先日、試写会でいち早く観る機会がありました。
とても良かったです!


この作品、日本映画としては近年稀にみる

「大傑作」

だと思います。ロングランになりそう。

「死」を扱った内容ながら陰気さはなく、
むしろカラッとした明るさがあります。

そして、優しく穏やかな愛が、
通奏低音のように映画全編を通じて感じられるのです。


主役を演じる本木雅弘の演技はパーフェクト!
その所作の美しさに陶然。

脇を固める山崎努、余貴美子、吉行和子、笹野高史、
広末涼子らもいい味出してます。


まさに10回繰り返してみる価値のある映画ですよ!


『おくりびと』公式サイト
http://www.okuribito.jp/

投稿者 松尾 順 : 00:30 | コメント (0) | トラックバック

Webユーザビリティ失敗事例・・・新宿ピカデリー

今年(08年)7月19日にオープンしたばかりの映画館(シアターコンプレックス)、

「新宿ピカデリー」

に行かれた方います?


新宿・伊勢丹のすぐそばです。
丸の内線、副都心線、都営新宿線の

「新宿三丁目駅」

から徒歩1分。


私も今夏、新宿ピカデリーに何度か足を運びましたが、
最寄駅から近いのは便利です。
雨にもほとんど濡れなくてすみます。


複数のスクリーンを持つ

「シアターコンプレックス」

って、たいてい「ショッピングセンター」に
入居しているため駅からは結構離れていますよね。

昔ながらの映画館も、
駅からそこそこ離れていることが多い。

でも、新宿ピカデリーくらい駅から近いと、
やっぱり気軽に行きやすいです!


また、他の映画館とちゃんと比べたわけではありませんが、
シートとシートの間もゆったりしていて座り心地もグッド!

おそらく座席部分のせりあがり(傾斜)をかなり大きめに
取ってあるのだと思いますが、前の人の頭が全く邪魔に
ならないので快適に映画が楽しめます。

価格体系も斬新です。

マスメディアでも盛んに取り上げられていますが、
お金持ちをターゲットとした

「プレミアムルーム」

は、2名様でなんと3万円/1本・回。

「プレミアムルーム」は、専用エレベータで行く
個室仕様のバルコニー席です。

カッシーナのソファにゆったりともたれながら
映画が楽しめる空間になっているそうです。


また、メンバー(無料)になると、
平日A列の当日券が、先着5名/回まで1,000円で購入可能。

スクリーン最前列の席で首が多少痛くなっても、
安上がりに映画を観たいというお客さん向け。


とまあ、施設自体は言うことなしなんです。


ところが、新宿ピカデリーのWebサイトは、
残念ながらユーザビリティの設計に一部失敗しています。

けなしたり、茶化すつもりはありませんが、
わかりやすい「失敗事例」として皆さんの参考に
してもらうため、ここで取り上げてみたいと思います。


さて、何がいったい問題なのでしょうか。

それは、

「上映時間が確認しにくい(できない)」

という点です。

なぜ、こうなっちゃったのか。
その理由は次のようなものではないかと考えられます。

・映画館での映画視聴に関わる消費者行動シナリオを
 想定していない

・そのため、映画館サイトに消費者が訪問する目的と、
 その優先順位(重要度)を理解できていない


まず、消費者行動シナリオですが、個人差はあるとはいえ、
おおよそ次のような流れになるでしょう。


1.マスメディアや口コミを通じて新作映画のことを知る

2.興味を持ったので当該映画の公式サイトにアクセスして、
  詳細情報を得る

3.観たいと思ったので、上映している映画館を調べる

4.当該映画を観に行きたい映画館のサイトにアクセスして、
  上映時間と、行ける日時を確認する。

5.ネットでチケットを購入したり、街中のチケット屋で
  安い前売鑑賞券を購入、あるいは当日購入する

6.当該映画を観る

7.映画についての感想をブログに書いたり家族や知人に話す。


このシナリオに基づけば、
「映画館のサイト」に訪問する最大の目的は、

「上映時間を調べる」

ことです。

したがって、

サイト訪問者が、上映時間のページにすぐにたどり着ける

サイト設計が必須だと思われます。


ところが、新宿ピカデリーのサイトでは、
メインメニューにありませんし、作品一覧からも行けません。


→新宿ピカデリーのトップページスクリーンショット


上映時間のページは、画面左上部の

「チケット購入ボタン」

からしか行けないのです。


つまり、新宿ピカデリーの現状のサイトでは、

「上映スケジュール」

が、

「オンラインでのチケット購入プロセス」

のひとつとして組み込まれているわけです。


「チケット購入ボタン」の下には、

>>上映スケジュールもこちら

というテキストが小さく添えられてはいますが、
あまり目立ちません。


この「チケット購入ボタン」は、
全ページに常時表示されているものです。

しかし、いきなりチケット購入ではなく、
まずは上映時間を調べたい人にとっては無意識に
無視してしまうボタンです。

そんな方は、最初どこに上映時間が表示されているのか
わからず、探し回る羽目になるのではないかと思います。

(私もそんなひとりでした・・・)


また、上映時間表示が

「オンラインでのチケット購入プロセス」

に組み込まれていることで、
さらに大きな問題を生んでしまっています。


当サイトでのチケット購入は、
1週間先までしかできないことになっています。

例えば、今日(9月5日)時点で予約できるのは、
9月12日(金)までです。


チケット購入ボタンを押すと、
まずカレンダーが表示されるのですが、
日別の上映スケジュールが確認できるのは、
チケット予約が可能な9月12日までです。


→カレンダーのスクリーンショット(08/09/05現在)

→上映時間のスクリーンショット


したがって、9月13日(土)以降にここで映画を
観たいと思っても、13日以降の上映スケジュールは
確認することができないのです。

ご存知の通り、映画は封切り後の集客度合いによって、
上映回数、上映時間がたまに変更されますよね。

行きたい日の上映時間が確認できないと不安です。


ですから、現在のサイト設計だと、
1週間以上先に映画を観たいと思っている消費者を
最悪、取り逃がしてしまっている可能性がありますよね。


新宿ピカデリーさん、
早いとこ、この部分リニューアルお願いしますね!


*新宿ピカデリー
http://www.shinjukupiccadilly.com/index.html

投稿者 松尾 順 : 11:29 | コメント (4) | トラックバック

お客さんの顔識別システム

先日の記事『顧客情報記憶力』で、
お客さんと直接接する立場の人(CP:Contact Personnel)、
すなわち、

営業パーソンや店員、カスタマーサポート担当者など

が高い成果を出す要件として、

「優れた記憶力」

を挙げました。

その理由は、CPがお客さんに会った時、
その方の顔や名前、プロフィール、購入履歴を即座に
思い出すことができれば、個々の顧客にカスタマイズ
された適切な対応、提案が可能になるからです。


もちろん、対応しなければならないお客さんの数が
増えてくるとさすがに頭脳で記憶することが困難になります。

そこで、顧客台帳を作成したり、顧客データベースを構築して、
顧客情報を「外部記憶」として保管し、必要な時にすばやく
顧客情報を参照して、あたかもお客さんのことを覚えていたか
のように振舞うわけですね。


さて、リアル店舗でお客さんを出迎える店員さんの場合、
お客さんの顔を見ただけですぐに名前を思い出し、

「あら、松尾さん、いつもありがとうございます!」

などと呼びかけられるのがベストですよね。


ただ、「顔」というイメージ情報は
顧客台帳でも、また顧客データベースでも管理が難しく、
顔情報で検索して、お客さんの名前やその他の情報を
参照するのは簡単ではありません。


岡山県の化粧品店「安達太陽堂」を率いるカリスマ販売員、

長谷川桂子氏

は3千人のお客さんの顔と名前を覚えているそうですが、
それでもたまに名前がどうしても思い出せない時があります。

そのままでは、お客さんの名前で呼びかけられませんし、
顧客台帳を調べて、購入履歴などを把握することもできません。

そこで、まだ新人の店員に接客させて、
さりげなく名前を聞いてもらうのだそうです。

新人であれば、名前を聞いても仕方がないと
お客さんが思ってくれるからです。


でも、こうした長谷川氏の苦労も
テクノロジーの進化のおかげで不要になりそうです。


システム開発の芝電子システムズでは、

重要顧客の来店を店員が即座に認識できる
ビデオカメラシステム

を開発しています。
(日経産業新聞、2008/07/18)


この新システム「フェースマイスター」は、
店舗側があらかじめ、顧客の顔写真、属性、商品の好み、
注意点などを顧客データベースに登録しておきます。

このシステムには、店舗入り口に設置されたカメラが
接続されています。


そして、来店した顧客の顔をそのカメラが捉えると
画像認識機能が作動、店内のパソコン画面に、
その顧客の情報、例えば

「VIP客、A社社長、前回7月1日来店、○○を購入」

といったデータが表示されるのです。


店員はこの情報をまず頭に入れて顧客を出迎え、

「○○さん、いらっしゃいませ!」
「前回お買い上げいただいた○○の調子はいかがですか?」

などと、お客さんが喜ぶ、気の利いたコミュニケーションが、
記憶力に自信のない店員さんでも可能になるというわけです。


このシステム、リアル店舗における

「CRM(Customer Relationship Management)」

においておおいに役立つと私は感じているのですが、
あなたはどう思いますか?

*『顧客情報記憶力』

投稿者 松尾 順 : 14:59 | コメント (4) | トラックバック

「記憶術」とは何か?

先日、トップクラスの舞妓さん、芸妓さんが持つ、
驚異的な記憶力についてご紹介しました。


今回は、この記事に関連して

「記憶術とは何か?」

というテーマを取り上げたいと思います。


「記憶術」は、古代ギリシャの哲人、

シモニデス

が創始したと言われています。

シモニデスは、ソクラテスよりもさらに前の哲学者です。


さて、ISIS編集学校校長の松岡正剛氏によれば、
「記憶術」とは、

“さまざまな情報を「場」と「イメージ」に結びつけて
 おいて記憶し、それをあとで想起(思い出す)こと”

と定義することができます。


ポイントは、

「何かに結びづける」

つまり関連付けるという点です。

ここで、

「結びつける何か」

というのは、記憶したいことを思い出すための

「手がかり」

として利用します。

だから、覚えたり、思い出したりするのが簡単な

「場」や「イメージ」

と関連付けるのが最適なのです。


記憶のために利用する「場」は、
自分の部屋でも、よく行く公園でも、通勤ルートの街の風景
でもなんでもいいのですが、普段からよく見知っていて、
細部まで思い出せる必要があります。

というのも、その「場」の様々な構成要素(公園であれば、
すべり台、ブランコなどの各遊具)に記憶したいものごとを
結びつけて頭にしまい、思い出すときには、公園という

「場」

の構成要素のイメージを手がかりとして利用するからです。

例えば、円周率を何十万桁も暗記していたある男性は、
一定の散歩ルートを決めておき、そのルートで目に入る
様々な風景の一つひとつに数字を結びつけることで、
円周率を諳んじることに成功していました。

これは、典型的な「場所法」と呼ばれる記憶術です。


また、円周率暗唱の世界記録保持者である原口證さんは、
無意味にならんだ数字を語呂合わせで言葉に置き換えた上で、
ひとつの壮大な

「物語」

として覚えているそうです。

その物語とは、

松前藩(北海道)の侍が武者修行に出かける

というもの。

この記憶術は、

「物語法」

と呼ばれるものですが、原口さんは、
物語を通じて脳内に明瞭な「イメージ」を生み出し、
数字とイメージを結びつけて記憶しているのでしょう。

原口さんが持つ世界記録は4年前に達成したもので、
5万4,000ケタだそうですが、現在はなんと10万ケタを
暗唱できるとのこと。


なお、米山公啓氏(医師兼作家)は、
記憶力を高めるために知っておくべき原則として
以下の3つを挙げています。

1.覚えようとしなければ、決して覚えられない
2.興味のあることは覚えやすい
3.強い感情とともに入った情報は記憶に残る

記憶術以前に、まずは「覚えたい」という強い意思と、
覚えたいものごとに対する興味を持つことが不可欠だと
いうこと、そして、「感情」を記憶(想起)の手がかり
にすることも非常に有効だということですね。

そういえば、脳科学者の茂木健一郎氏も、
何かを覚えたい時にはあえて声を荒げたりして
感情を強く動かすことを提唱されていますね。


舞妓さん、芸妓さんはどのような記憶術を使って
お客さんの情報を記憶しているのか、機会があったら
ぜひ聞いてみたいものです。


*原口證氏、および米山公啓氏の話は、
 日経ビジネスアソシエ(2008.09.16)の特集
『ブレインパワー』を参考にしました。

*ISIS編集学校
 http://es.isis.ne.jp/

投稿者 松尾 順 : 11:34 | コメント (0) | トラックバック

顧客情報記憶力

先日、地上波で映画、

『舞妓Haaaan!!!』

が放送されましたね。

この作品は、劇場公開中の評判も良く、
結局、興行収入20億円を超えるヒット作となりましたが、
残念ながら私は見逃していました。

最近、京都花街の研究をちょっとだけしている私としては、
万難を排して視聴しました。


さすが宮藤官九郎のシナリオですね。
よく練られたストーリー。

主人公、鬼塚公彦を演じた
阿部サダヲの軽快な演技も良かった。


鬼塚は、高校生の頃、
修学旅行先の京都で道に迷っていたところ、
たまたま通りかかった舞妓の小梅さんに優しくされ、以来、

「京都・祇園の舞妓さんと野球拳をしたい」

という夢を追い求めることになります。

その後社会人となり、
鈴屋食品の東京本社に入社した鬼塚は、
舞妓さんを応援するWebサイトを運営しながら、
お座敷に上がることを夢見るのです。

数年後、幸運にも(会社的には左遷)、
京都の工場に異動が決まり、鬼塚は狂喜乱舞。

京都赴任後、早速、鬼塚はATMで現金をおろし、
勇躍、お茶屋に向かいます。

ところが、

「一見さんお断り」

の壁に阻まれてしまう。

お馴染みさんの信頼を得て、
その人に紹介してもらわなければ、
お座敷には上がれないのです。


そこで、鬼塚は、
体がぼろぼろになるほど仕事に打ち込みます。

そして、運よく新製品開発・販売に成功させることで、
既にお馴染みさんだった鈴屋食品、鈴木大海社長の信頼を
勝ち取り、とうとうお座敷に連れて行ってもらうことに
なるのです。


さて、初めてのお座敷で鬼塚は、
高校生時代に優しくしてもらった小梅さんに
再会します。

その時、小梅さんは、既に舞妓さんを卒業し、
売れっ子の芸妓さんになっていました。


えーと、長々とあらすじを説明してきましたが、
ようやく本題です。

小梅さんは、何年も前に1度だけ、
短い時間会っただけの修学旅行生のことを
ちゃんと覚えていました。

また、その後、鬼塚が入れあげることになる
舞妓の駒子さんも、舞妓さんデビューの日にカメラを
構えて追っかけしていた鬼塚のことをしっかり
覚えていました。


売れっ子の舞妓・芸妓になるための条件は、
「やる気」と「体力」を大前提として、
芸事に優れていること、そして高いコミュニケーション
能力が挙げられますが、そのベースには、強力な

「顧客情報記憶力」

が必要なのです。

上記に説明した通り、

『舞妓Haaaan!!!』

でもそのことが、きっちりストーリーに
織り込まれていたというわけです。


ちなみに、あるお茶屋のお馴染みさんである私の知人は、
半年振りに会ったある舞妓さんが自分の名前をちゃんと
覚えてくれていたことに感激してファンになったそうです。

この舞妓さんは、その後2年間、
年間売上げ(花代)トップとなって表彰されたとのこと。


数万、数十万人以上の顧客を相手にする商売では、
もはや頭脳の能力の限界を超えますので、
顧客データベースの活用が不可欠となってくるのは
言うまでもありません。

しかし、企業の個々のスタッフ(営業、サービスなど)と
個々の顧客が相対する場、すなわちコンタクトポイントでは、
その社員の

「顧客情報記憶力」

が極めて重要な働きになってきます。
顧客データベースに100%依存できるわけではないからです。


コンタクトポイントの担当スタッフ(Contact Personnel)
に対する研修・教育内容は現在、

外見や基本的な礼儀作法、商品知識、コミュニケーション

などが中心になってますけど、

「顧客情報をいかに早く、正確に記憶し、
 またすばやくに引き出せる(思い出せる)ようにするか」

という

「記憶術」

も必修科目にすべきではないでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 13:40 | コメント (0) | トラックバック

本場の味かローカライズか

居酒屋の「権八」(ごんぱち)といえば、
来日した米国ブッシュ大統領を小泉首相がもてなした
西麻布のお店が有名ですよね。

権八西麻布店での日米トップによる夕食会が開かれたのは、
2002年2月18日のことでした。


あれからもう6年以上経過したわけですが、
六本木に近いこともあり、権八西麻布店は外国人客が多く、
大いに繁盛しています。


さて、権八を運営する

「グローバルダイニング」

では、

「権八が、これだけ外国人に受けているなら・・・」

と考えて昨年(07年)3月、
権八ロサンゼルス店を開店しました。


ところが、期待に反して客足は低迷。

店長や売り場チーフの入れ替えを含む、
抜本的なてこ入れに乗り出したそうです。
(日経MJ、08/08/25)


客が入らなかった理由としては、

来日中の旅行客と、
現地の米国人では求めるものが違ったから

という判断を同社ではしています。

したがって今後は、
米国人好みの味付けや内容量に変更する予定とのこと。


各国の料理には、その国々の食文化や食習慣が
色濃く反映されていますよね。

ですから、旅行客は外国では

「異国情緒」

を文字通り味わいたので、

「本場の味」

を期待するもの。

この場合、本場の味をそれほどおいしく
感じなかったとしても、だからこそ外国に来た甲斐が
あったと思える。


しかし自国に戻り、普段の生活の中で
たまに外国料理を楽しむのは、異国情緒というよりも、
食生活に変化をつけるため。

やはり味付けは自分好みにしてあったほうが、
繰り返し来ようという気になりますし、
内容量も満足できるものであってほしい。


米国に行かれた方はおわかりになると思いますが、
現地のレストランの料理はレギュラーサイズでも、
日本人から見れば大盛り、いや特盛りサイズといえる
ほどのボリュームがありますよね。

日本食の上品でかわいらしい盛り付けは、
外国人、とくに米国人にはものたりないでしょう。


実はここ数年、
ヘルシーな日本食は全世界的なブームです。

しかし、外国にある日本料理レストランでは、
多くの場合、日本本場の味ではなく、現地の人々の嗜好に
合わせたローカライズが行われています。


食文化の点から批判も多い、
和食の無節操なローカライズの是非はさておき、
国や地域によって異なるターゲット顧客の好みを理解し、
微調整を図ることは、どんな業種・業態においても
不可欠なことですよね。


そういえば、先月7月10日、
アメリカで鉄板焼きレストラン、

「ベニハナ」(Benihana)

を成功させた青木廣彰氏(通称、ロッキー青木)が
亡くなっています。

彼の展開したベニハナは、
従来の日本の鉄板焼きから見れば
常識破りの内装やショー仕立てのサービスなど、
米国人好みのローカライズをしたのが成功の要因だと
言われていますね。

投稿者 松尾 順 : 16:16 | コメント (0) | トラックバック