京都花街の経営学(0)イントロダクション 

京都花街、そして芸妓さん、舞妓さんたちの世界は、
室町末期から現在に至るまで350年にわたって続いてきた
日本の伝統文化のひとつと言えますよね。

でも、花街について、
ほとんどの方は表面的なことしか
知らないと思います。

また、しばしば間違った理解や
偏見を持っていることもあるでしょう。

しかし、その独特の風習やしきたり(ルール)は、
長い歴史の中で培われたものであり、
一定の必然性があるのです。


経営学の視点でこの世界を徹底的に分析し、
わかりやすく説明してくれている本があります。
次の本です。

『京都花街の経営学』
(西尾久美子著、東洋経済新報社)

同書は、京都花街の仕組みや、
芸妓・舞妓さんたちのキャリアを実地体験も踏まえて
深く掘り下げて研究した博士論文を元に書かれたもの。

記述は平易ですからとても読みやすいですよ。

今週はこの本をじっくりご紹介していきます。
今日はイントロダクションです。


京都花街が提供しているのは、端的に言えば

「富裕層向けの高度なおもてなしのサービス」

と言えます。

このサービスのメインキャストはもちろん、

「もてなしのプロフェッショナル」

と呼べる

芸妓(げいこ)さん、舞妓(まいこ)さん

たちですね。


彼女たちは、単に舞いや小唄などの伝統芸能が
できるだけではダメなのです。

「お座敷全体の場の雰囲気を
 顧客にとって心地よいものにする」

空間プロデューサー的な役割も求められるのです。


また、お座敷を提供するのが、
いわゆる「お茶屋」ですね。

お茶屋もまた、高い顧客満足を目指し、
顧客に対する深い理解に基づいた、

「最適なサービスの組み合わせ」

を実現できるようベストを尽くしています。


企業が顧客に提供する「サービス」の質の重要性が
ますます注目されている昨今、京都花街のメカニズムや
芸妓・舞妓さんの提供するサービスの極意を学ぶことは
大きな意義があるのではないでしょうか。


さて、芸妓・舞妓を目指す女性の多くは、
中学卒業後15歳位で花街に入ります。

そして、約1年間の集中的な育成期間を経て

「舞妓さん」

としてデビューします。


舞妓さんとして働く間は、

「年季奉公」

の時期です。給料は支払われません。

舞妓さんを住み込みで受け入れ、育成し面倒を見る
「置屋」のお母さん(経営者)からお小遣いをもらいます。
(「置屋」は、芸人やタレントが所属する、現代のタレント
 事務所のような存在と考えてもらえばいいでしょう)


でも、年季奉公、つまり
デビューから22歳位までの通算6年ほどの期間を過ぎると、

「芸妓」

として独立することも可能になります。

独立した方は、「自前さん芸妓さん」といいます。

自前さん芸妓さんは、
「芸妓組合」といった組合員組織もある独立自営業者です。

自営業者ですから定年はありません。
90歳を過ぎた現役の方もいらっしゃるそうですよ。

「手に職を持つ」ことのできる芸妓は、
才覚によっては相応の高収入を稼げ、また「もてなしのプロ」
としての誇りを持てるやりがいのある職業のひとつだと言えます。


なお、「芸妓」は正式には‘げいぎ’と読みますが、
京都では通称‘げいこさん’と呼びます。一方、東京では
‘芸者さん’と呼びます。

また、芸妓さんを体を売る「娼妓」(しょうぎ)さんと
混同してはいけません。

前掲書によれば、売春防止法が施行された昭和30年以前の
公娼制度の枠組みの中では、花街には、芸妓さんと娼妓さんの
両方がいて、それぞれ別個の存在だったそうです。

「芸」は売っても「体」は売りませんという
気概を持ち、芸を磨き続けるのが芸妓さんなのです。


いわゆる「旦那」が
芸妓を「妾」的に囲うといった暗いイメージもある

「水揚げ」

も現在はまったく行われていないそうです。


では明日以降、じっくりと芸舞妓のキャリアや京都花街の
精緻なメカニズムについてポイントをご紹介していきますね。

お楽しみに!


夕学五十講 西尾久美子氏講演(08/06/16) 受講生レポート

京都花街の経営学』
(西尾久美子著、東洋経済新報社)

投稿者 松尾 順 : 11:44 | コメント (8) | トラックバック

魚も鳥も食べない

先日ご紹介した、世界各国における、
女性の実年齢と、精神年齢の意識の違いは
興味深い結果ですが、

「食文化」

の違いにもしばしば驚かされます。


例えば、
最近注目を集めているチベットの人々は、
魚は食べないそうですね。

知りませんでした。

鳥類も、ニワトリ含め一切食べません。

あちらでは「鳥葬」をやっていることもありますが、
魚や鳥類には先祖の魂が宿っていると信じられているため、
殺生が禁じられています。


このため彼らの食事は、
大麦の粉を塩・バター茶で練ったものが主食だそうです。

野菜や大豆も入手困難なため、
ビタミンやたんぱく質が不足している一方、
塩分摂取が過剰なため、高血圧の人が多いとのこと。


しきたりや宗教上の制約ですから、
どうしようもないとはいえ、アンバランスな食生活が
健康を害する結果を招いているのはねぇ・・・

投稿者 松尾 順 : 07:26 | コメント (2) | トラックバック

「スーパーカブ」ってどんな意味?

高校生の頃、
しばらく新聞配達をやっていました。

LPレコードを買うお金を稼ぎたかったからです。


新聞配達用に使っていたのはホンダのロングセラーバイク、

「スーパーカブ号」(なぜだか「号」をつけたくなる)

でした。

当時はまだ多感な10代の男子だった私としては、
あのレトロな(ダサい)デザインのバイクに乗るのは
あまり好きではありませんでしたけどね。


さて、つい最近まで疑問にも思わなかったのですが、

「スーパーカブ」

ってどういう意味かご存知ですか?

「カブ(cub)」は英語で、ライオンなどの

「野獣の子ども」

という意味です。

つまり、「小さくても力強い」というイメージを
与えたかったバイクだったんですね。


確かに、スーパーカブは、
高校通学に乗っていたラッタッタ(古い!)の原付バイク
よりもはるかにパワフルでした。

投稿者 松尾 順 : 11:53 | コメント (3) | トラックバック

買い物の陰にも女あり

“歴史の陰に女あり”“買い物の陰にも女あり”


これは、

『彼女があのテレビを買ったわけ』
(木田理恵著、エクスナレッジ)

に書かれていた言葉です。


同書でも述べられているのですが、
男性が買い物をする目的は、多くの場合、

「女性にもてたいから」

ですよね。

つまり、男性は、女性に評価されるようなモノ・コトを
購入しようとするわけですから、買い物の陰には確かに
「女性」がいます。


また、家族全般に関わる商品、
例えば、住居・家具関連、自家用車、家電製品などにおいて、
金を出すのはたいてい夫ですが、どの製品を買うかの選択に
最も大きい影響力を行使するのは妻(主婦)です。

したがって、やはり買い物の陰には女性がいますね。


以上は、指摘されてみれば素直にうなずけることです。

しかし、実際に製品設計や、
マーケティング・コミュニケーションにおいて
女性の心理傾向や嗜好が十分に考慮されているか
と言えば、必ずしもそうではありません。

男性目線でしか考えなかったために、
男性の心はつかめても、女性の心をつかむことに失敗し、
結果的に選択されない商品がたくさんあるのではないでしょうか?


さて、商品選択時において、
男性と女性で最も顕著な違いがあります。

それは木田氏の本によれば、

・男性は「スペック」にこだわる
・女性は「イメージ」にこだわる

ということです。


男性は、商品の細かい特性、つまり仕様を比較し、
客観的にみて正しい選択しようとします。

一方、女性は、全体的なイメージをとらえ、
主観的な判断で商品を選択する傾向が強いのです。


このことは、
つい最近私が関わった某商品カテゴリーについての
グループインタビューでも明確に現れていました。

男性グループでは、商品の構造や仕様にこだわり、
細かく比較検討するという声が聞かれました。

ところが、女性グループでは、
やはりイメージを気にする人が多かったのです。

また、昨日たまたま見る機会があった保険商品の
プロモーションビデオは、父親と息子が登場する
ヒューマンドラマ風の展開で、私を含む男性陣の涙腺を
ゆるませたのに、同席していた女性陣の中には、

「よく分からない」「演出が変で、笑ってしまった」

という人がいたんですよね。


単純に男性、女性に分けて考えるだけでは不十分ですが、

「買い物の陰にも女性がいる」

ことはマーケターは忘れてはいけません。


『彼女があのテレビを買ったワケ』
(木田理恵著、エクスナレッジ)

投稿者 松尾 順 : 13:25 | コメント (2) | トラックバック

小売店の競争マイオピア

小売店の「業態別」の成長(成熟)度合いを把握するため、

「製品ライフサイクル」

に当てはめてみます。


成長初期にあるのは「ネット通販」ですね。

一方、加速成長の時期にあるのが、
ユニクロ、無印良品、ヤマダ電機などの「大型専門店」です。

「コンビニエンスストア」は成熟期に入ってますね。


そして、成熟期から衰退期へと移りつつあるのが、

イトーヨーカー堂、ジャスコ、ダイエー

などの「総合量販店(総合スーパー」(GMS)。

「百貨店」や「中小商店」は衰退期です。


さて、今回は、「小売の雄」と言われたダイエーが
破綻したことに象徴されますが、消費者の支持が著しく低下し、
厳しい経営状況に追い込まれている

「総合量販店」

に焦点を当てます。


私自身、時々、自宅近くのダイエーやイトーヨーカー堂に
行きますが、テナントとして入っているファッションブランド
はさておき、品揃えにほとんど違いを感じません。

つまり、どの総合量販店も変わり映えがしないため、
あえて特定の店舗を選ぶ理由がほとんど見つからないですよね。
(距離的に近い以外は)

ただ、一時期、イトーヨーカ堂グループに在籍されていた
元伊勢丹バイヤーの藤巻幸夫氏によれば、同店の衣料品の品質
は価格的みて非常に優れているとおっしゃっていましたが。


総合量販店の品揃えが似通ってしまうのはなぜでしょうか?

それは、商圏内の競合他店との競争において、
違いを出そうとするのではなく、逆にお互いに模倣しあう結果
であるという研究があります。


なぜ模倣しあうのでしょうか?

それは、商圏内の消費者の衣食住にわたる幅広いニーズに、
大量仕入れで販売価格を引き下げ、大量販売を狙う総合量販店
としては、そうするしかないからです。


つまり、ひとりでも多くの消費者に商品を買っていただくためには、
あまりとんがった個性的な商品を並べるわけにはいきません。

どうしても、無難で平均的な品揃えになってしまうのです。

また、他店で売れ筋の商品があれば、
それを黙って指をくわえて見ているわけにはいきません。

消費者にも、

「あの店には置いてあったのに、
 どうしておたくには置いてないの?」

と言われてしまいますしね。

そこで、同じ、または類似商品を仕入れざるを得ない。


こうして、商圏内の同じ消費者を奪い合っているはずなのに、
競合店舗と差別化しようとするのではなく、逆にどんどん

「同質化」

していくということが起きるのですね。

田村正紀氏(同志社大学教授)は、この現象を

「競争マイオピア」

と読んでいます。
(マイオピアとは近視眼的行動の意味)


この同質化現象は「ゲーム理論」でも説明できるようです。

詳細な解説は末尾に示した参考記事をご覧いただきたいのですが、

「相手プレーヤーの戦略が変わらない時に、
 自分1人だけ戦略を変えても利得が増えないような状態」

と言える

「ナッシュ均衡」

をどの店舗も選んでしまうために同質化が起きるのです。


総合量販店は、前述したように、
基本的に商圏内の「最大公約数的ニーズ」に対応する
店づくりを目指しています。

端的に言えば、大量に売れそうな商品しか置かない。

ここで、ある店が差別化のために、
あえてユニークな商品を入れたらどうなるかというと、
好き嫌いが明確に分かれる商品ですから、
たくさんは売れませんし、競合店に客が流れてしまい、
売上が低下するのは明らかです。

したがって、お互いナッシュ均衡を選ぶしかないというわけ。


なお、このゲーム理論による説明は、
覇権を狙う大手政党(米国における共和党と民主党、
日本における自民党と民主党)の政策がどんどん
似通ってくることにも適用されています。


選挙で少しでも多くの支持者を得ようと思ったら、
過激な政策ではダメ。

むしろ、多くの支持者が拒否反応を示さないような、
中庸で無難な政策をお互い打ち出すしかないですし、
また競合政党の政策の中で支持率の高いものがあれば、
やはり競争上、類似の政策を掲げて支持率を高める行動を
取るしかないからですね。


*総合量販店の同質化についての研究

 「GMS激突競争における競争マイオピア」
  (田村正紀氏、同志社大学教授、)

*ゲーム理論による店舗同質化についての参考記事

 「経済学で斬るビジネス潮流 ゲーム理論」
 (文:広野彩子氏、監修:安田洋祐氏、政策研究大学院大学助教授)
  日経ビジネス マネジメント、Summer 2008

投稿者 松尾 順 : 12:48 | コメント (3) | トラックバック

アイディアは貯めておくこと

私は、マーケティングリサーチやコピーライティング、
Webサイト開発などの案件以外にも、純粋なプランナー(企画屋)
としての仕事もいろいろとやらせていただいています。

ですので、どうやったら

「斬新で魅力的なアイディア」

を生み出せるのかということに、
以前から強い関心を持ってきました。

ですから、発想法に関する新刊が出たら必ず読みますし、
発想力を高めるために役立つ実践的な各種講座等を
精力的に受講してきました。


こうした取り組みを通じて、私が実感していることがあります。
私だけでなく、優れたプランナーの方々が皆口を揃えて
言っていることでもありますが、次の2点です。

1 無からは何も生まれないこと

2 新たな切り口や、新たな組み合わせが、
  アイディアが生まれるきっかけとなること


ただ、もう一つ、重要なポイントがあったのです。
それは、

「アイディアは普段から貯めておくこと」

でした。


毎日100個のアイディアを書き出すことを課している、
世界的に有名な工業デザイナー、奥山清行氏は、

“新しい仕事の依頼があってから、
 やおら会議室にこもってアイディアを捻り出そうしても
 面白いものは出てこない”

と考えています。

アイディアは、街を歩いていたり、
お風呂に入ってリラックスしている時など、
ふとした瞬間に湧き上がってくることが多いですよね。

無理にひねり出すというよりも、
むしろ、無意識から浮かび上がってくる感じ。

ですから、忘れてしまう前に
急いでメモやデザインに落とし込んでおく。


こうしたアイディアは、
発想した時点では実際の仕事に使えるかどうかは
わかっていません。

しかし目先の案件に使えるかどうかは重要ではないのですね。

普段からたくさんのアイディアを蓄積しておくことで
将来やってくる未知の案件に備えていると考えるのです。

アイディアがたくさん蓄積されていればいるほど、
未知の案件への対応力も高まります。


奥山氏はまた、次のようなこともおっしゃっています。

“ある案件のために1万個のアイディアを出したとして
 採用されるのはそのうちの1個に過ぎない。
 でも採用されなかった残りのものも、次の案件の
 アイディアとして活かせる(可能性がある)”


実際の仕事に採用されるような優れたアイディアを
1本だけ決め打ちで出すことは、一握りの天才にしかできない
ことでしょう。

ですから、私も含め、天才ではないプランナーは、
奥山氏が言うように、とにもかくにも日々アイディアを
生み出し、蓄積し続けることが、優れたアイディアを
クライアントに提案できるために重要な作業なのです。


★奥山氏の話は「カンブリア宮殿」(テレビ東京)の
 08年6月23日放送回を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 10:55 | コメント (2) | トラックバック

エコロジー商品のワクワク

ちょっと季節外れの話でスイマセン!

今年の冬、暖房ガンガンで乾燥しがちな事務所を
潤してくれたのが、ミクニの卓上加湿器、

「ミスティガーデン」

でした。


この加湿器は、気化効率を高めた

「不織布」

に水を吸い上げさせ自然気化によって加湿する仕組みです。

つまり、電気を使いません。
当然ながら、動作音もなく実に静かです。

電気式と違って強制的に加湿しないので、
部屋が湿気すぎてしまうということもありませんでした。


デスクの脇に置いても邪魔にならない大きさなのですが、
この卓上加湿器の最大の魅力は、不織布の形状が、

「植物の葉っぱのようなデザイン」

になっていることです。

付属の長方形のトレイに水を入れ、
蛇腹状になっている不織布を広げると、
川に浮かぶ水草を連想してなんとなく心地いいのです。


トレイ一杯に入れた水は、
1日でほぼなくなってしまいます。

自然気化とは言え、6-8畳くらいまでの部屋なら
十分な加湿力があることが実感できます。


水の減り方が早いので、ほぼ毎日ジョウロを使って
水を追加していましたが、これを面倒と感じるどころか、
むしろ本物の草に水をあげているような楽しい気分を
味わっていました。

不織布の色は明るいベージュ色です。
本物の植物らしくグリーンの色にしてあったら
もっと雰囲気が出るのになと個人的には思います。
(意図的にそうしてないそうですが)


さて、このなかなかの優れもの商品「ミスティガーデン」
は07年10月の発売で、当初の年間販売目標は9,000個でした。
(日経デザイン、July 2008)

ところがふたを開けてみれば、発売後約半年で3万個を
売り上げるヒット商品となりました。


ミスティガーデンがヒットした理由、
それは、電気を使わないという点で環境に優しい

「エコロジー商品」

であることに加えて、
私も実感したデザインの魅力であることは
間違いありません。

実際、日経デザインの記事によれば、
折り紙アーティストの吉田美幸氏に強力を仰ぎ、
折り目や形の美しさを検討したのだそうです。


ターゲットとして想定したのは女性。

オフィスのデスクだけでなく、家庭の部屋に置くことを想定し、
インテリアに関心の高い女性にも違和感を感じさせない、
部屋の一部としてなじむデザインを考えたのだそうです。


ミスティーガーデンを利用してみると、

‘環境に優しい’

という「コンセプト価値」がメインのエコロジー商品で
あっても、やはりワクワクするとか、楽しいとか、
心地よいといった情緒を刺激する特性を持たせることの
必要性を感じますね。


別にミクニさんの回し者じゃありませんが、
ミスティガーデンはデザインの力を感じさせてくれる
ユニークな商品です。

機会があったら実物を見て、触れてみてください。
(冬場は無印良品にも置いてあったようです。私はアマゾンで購入しました。)


「ミスティガーデン」(ミクニのWebサイト)

「ミスティガーデン」(アマゾン)

(参考文献)
『日経デザイン July 2008』
特集1 サスティナブルデザイン そのエコにワクワクはありますか?

投稿者 松尾 順 : 11:46 | コメント (2) | トラックバック

30秒で出さないで・・・

先日の記事で書き忘れた

「なんとなくイヤ」

な具体例をひとつ追加します。


事務所の近くに、
マーボー豆腐を売りにしている中華料理の
チェーン店があります。

ここは注文すると、

30秒

でマーボー豆腐が出てくるんですよね。

つまり、あらかじめ作り置きしてあって、
注文が入るとすぐに温めて(チンしてる?)
出す仕組みのようです。


問題は値段です。700円くらいします。

もし700円出すのなら、
注文してから5分10分待ってもいい!

厨房から、ジューとかフライパンに油をひいて、
調理している音が聞こえてきて欲しいと思うのは
私だけでしょうか。

要するに、街中の普通の中華料理店で体験できる、
注文してから出てくるまでの間の食欲を高めてくれる

「シズル感」

が不足しているんですよ。

このお店のように、
わずか30秒で出すならファーストフードのイメージです。
価格は500円までが妥当じゃないでしょうか。


というわけで、結構おいしいのですが、
なぜだかあまり行く気になりません・・・
(私はマーボー豆腐は大好物ですが)

投稿者 松尾 順 : 10:28 | コメント (2) | トラックバック

「喫煙席」あります!

近年、今まで喫煙スペースだったところが、
次々と禁煙になっていってますね。

私自身は、タバコはずいぶん昔に止めたので
影響はないのですが、愛煙家の方はさぞかし悔しい思いを
されていることでしょう。


先日、表参道の骨董通りの近くを通ったら、
ピザ&パスタのレストラン、

「TO THE HERBS」

の入り口のところに、

「喫煙席あります!」

というチラシが貼ってあるのを見ました。


10年前であれば、

「禁煙席あります!」

というコピーで集客していたところでしょう。


「喫煙席があること」が、
ウリになる時代になっちゃったんですねぇ・・・

投稿者 松尾 順 : 10:31 | コメント (2) | トラックバック

拡大するリターン市場

リーダー(バンドマスター)曰く、

“俺たちはオヤジバンドじゃないから、
 オヤジバンドコンテストなんか出ないぜ!”


とは言え、傍目からはどう見ても

「オヤジバンド」

にしか見えないバンドのメンバーとして、
私はエレキベースを担当しております。

もちろん、メンバーは皆音楽が大好きで、
以前バンドをやっていたか、やりたかったかのどちらか。
(私がベースを再開したのは20年ぶりでした。)

ただ、ドラマーは関西在住ですし、
残りのメンバーは関東に住んでますが、
なかなか練習スケジュールが合わないのが悩みの種です。


さて、忙しいビジネスパーソンも、
30代後半から40代過ぎになると多少余裕がでてきますので、

「昔やっていたけど挫折してしまったこと」
「昔やりたかったけど、時間的・金銭的余裕がなくて
 やれなかったこと」

に向かう人が増えてきます。


私は、こうした中年以降の消費行動を

「肉体的・精神的な老化を防ぎたい」

という意識の反映だろうと解釈しており、

『アンチエイジング消費』

と呼んでいます。


一方、博報堂生活総合研究所エグゼグティブ・フェローの
関沢英彦氏は、上記のような消費行動の結果として、
拡大しつつある市場のことを

「リターン市場」

と呼んでいるようです。
(日経産業新聞、2008/06/13)


関沢氏は、「リターン」と、
類似した言葉である「リバイバル」の2つの言葉の違いを
上記記事の中で説明しています。


「リバイバル」とは、一度すたれた商品やトレンドが、
時代の一巡によって復活すること。

対して、「リターン」は、消費者が自分の意思で、

「昔やっていたこと」

に戻ることです。


例えば、最近、ハーレーを始めとする大形バイクが、
最近中高年に人気ですよね。

彼らは「リターンライダー」と呼ばれているそうですが、
おそらく、10代のころにナナハンに憧れていたり、
400ccくらいのバイクに乗っていた人たちが多いんじゃない
でしょうか。

若い頃は大型バイクは高くて、とても手が出せずにいた。

でも、子供たちも独立して家計に余裕ができた今なら、
買えないこともないといった人たちでしょう。


同様に、高級コンパクトデジタルカメラも、
以前一眼レフに凝っていた写真好きの中高年層が、
好んで買っているのだそうです。


また、私も子供のころ憧れたものの、
やっぱり高くて買えなかったNゲージ、HOゲージなどの

「鉄道模型」

も、今の中高年が、子供そっちのけで夢中に
なってるんですよね。


音楽系で言えば、ピアノやエレクトーンを始める中高年男性が
増えているようですが、最初からいきなり自分の好きな曲を弾く
練習ができるクラスが人気です。

プロを目指すわけじゃないので、
退屈な基礎練習をしてもつまらないし、続かないからですね。


さて、関沢氏によれば、リターン市場拡大の背景には、

「昔のことに再び取り組みたい」

という熱い思いがあるということですが、
市場活性化のための重要なポイントを示しています。


それは、新しい技術によって、

「ハードルを低くしてあげること」

だそうです。

大型バイクは今はマニュアルではなくオートマが主流。
つまり運転しやすくなっています。

このように、そんなに努力しなくても使いこなせる
操作性の高さや、それなりに楽しめる敷居の低さが
重要なのです。


ちなみに、40代以降の人生の後半生における、
人の心理的発達段階は、次の4つの段階に分かれることを
ジーン・コーエン氏(米ジョージワシントン大学の医学者)
が提唱しています。

-----------------------------------------------

1.再評価段階(40代前半から50代後半)

いつかは自分も死ぬという現実に初めて向き合う。

再評価、探求、移行が行動上の特徴で、探究心や危機感に
駆り立てられて計画を立てたり、行動を起こしたりする
傾向がしばしば見られる。


2.解放段階(50代後半~70代前半)

「いまやるしかない」という意識を持つことが多くなる。
これが、新たな「内なる解放」を呼び起こす。

「解放」「実験」「革新」が行動上の特徴で、
自分の要求に従い、自分の思いや個人の自由意識から
計画を立てたり、行動を起こしたりする傾向が
しばしば見られる。


3.まとめ段階(60代後半~80代)

自分の知恵をみんなと共有しようとする傾向が強まる。

「総括」「決意」「貢献」が行動上の特徴であり、
人生を振り返り、総括する中で、人生を意味を見つけたい
という欲求から計画を立てたり、行動を起こしたりすること
がしばしば見られる。

4.アンコール段階(70代後半~人生の最期)

「継続」「回想」「祝福」:が行動上の特徴である。

人生の大きなテーマについてもう一度、語りたい、
主張したいという思いや、そのテーマの変奏曲のように
新たな人生を探求したいという思いから、
計画を立てたり、行動を起こしたりする傾向が見られる。

*以上は『リタイア・モラトリアム』より一部引用。
---------------------------------------------------

これら4段階のうち、「リターン市場」は、
主に最初の2段階、すなわち

「再評価段階」と「解放段階」

にいる人たちがキープレーヤーだと考えられますね。


(参考文献)
『リタイア・モラトリアム』
(村田裕之著、日本経済出版社)

(関連記事)
『男のアンチエイジング消費』

投稿者 松尾 順 : 13:38 | コメント (3) | トラックバック

「お一人様」集客のポイント

現在、世帯全体の約3割を単身世帯が占めていることもあり、

「お一人様」

を対象とする市場が注目されていますよね。


結婚している人たちでも、
お互い共働きだったりすると時間がなかなか合わない。

したがって、少なくとも平日は一人で行動し、
食事も一人で取るしかない人が多いんじゃないでしょうか。
(飲み会などがある日は別として)

私のところは共働きではありませんが、
仕事を多少早めに切り上げたとしても自宅に帰り着くのは
9時、10時です。

夜遅く食べるのはあまり体に良くありませんし、
肥満の元ですから、20代の頃から6時前後にオフィスを
抜け出して外食を取る生活を続けてきています。
(外食ばかりで、どちらにせよあまり健康に良くないですが!)


男性の場合、一人でも気楽に入れるお店の選択肢が豊富ですよね。

「吉牛」(吉野家)を始めとして、
松屋、すき屋といった牛丼店、立ち食いのうどん・そば、
各種ラーメン店、カレーのココ壱番屋など、
私もこれらの店をローテーションを組んで通っています。(笑)


しかし、上記のような店には女性はほとんどいません。

一人暮らしで自炊をされる女性が多いのは、
生活費の節約もありますが、一人で気楽に入れる飲食店が
あまりないからということもあるようです。
(唯一の例外は「大戸屋」などの和食系定食屋くらいでしょうか)


さて、飲食店業界では、焼肉店や中華料理店などでも、
従来は客単価が低いため嫌っていた「お一人様」を受け入れるため
様々な取り組みを始めています。(日経MJ、2008/05/23)


吉野家のように、お一人様のためにカウンター席を
設置するのは大前提ですが、大事なのは

「お店のスタッフによるフレンドリーなサービス」

なのだそうです。

上記記事に掲載されている焼肉店、「焼肉どんどん」の場合、

「一人で焼き肉店に来店する客は、静かに食事をしたい
 というより、話し相手を求めていることが多い」

と判断しています。

そこで、初めての客には肉の焼き方をスタッフが
丁寧に教えたり、客の好みを覚えて、2回目以降の来店では、

「お客さん、カルビが好きでしたよね・・・」

といった声がけをするようにしたそうです。

この結果、上記のような人間的な触れ合いを求める
常連さんが増えてきたとのこと。


記事には書かれていませんでしたが、
常連さんの多くは女性でしょう。

男性の場合、人間的触れ合いを求める場所も
豊富ですから・・・


従来の牛丼店やファーストフード系のお店は、
スタッフとのコミュニケーションはほとんどしない
のが基本です。

だからこそお一人様でも気軽に利用できるのですが、
ただ、やっぱり客としては一人で黙々と食べるのは
ちょっと寂しいというのが本音。


ですから、飲食店がお一人様、とりわけ女性の一人客を
獲得したかったら、何気ない会話できるスタッフを
育成することがポイントになってくるんですね。


そういえば、サンドウィッチマンの持ちネタに、
ファミレスの店員の実地研修のコントがあります。

店長の伊達さんが、
お客に扮して来店した際の店員の対応方法を
教えているところ。

富澤さんは入社初日の変な外人さんアルバイトです。


「ムーン」(自動ドアの開く音)

「イラッシャイマセ。ナンメイサマデスカ?」

と富澤さん。伊達さんが、

「えーと、一人だよ!」

と答えると、

「ソレハ、サミシイデスネ・・・!」

と富澤さんが返す。そこで伊達さんが

「そんなこと、俺教えたか!」

と突っ込むというやり取り。


核心を突いています。

投稿者 松尾 順 : 13:06 | コメント (0) | トラックバック

「なんとなくスキ」「なんとなくイヤ」

私は、電子マネーのエディを普段の生活では多用しています。

ですので、コンビニも、エディが使える

サンクス、AM/PM、ローソン(ナチュラルローソン)

になるべく行くようにしてます。


幸い、事務所の近くに上記3店舗ともありますので、
その日の気分で行く店を決めてるんですが。

ただ、不思議なことに、
ナチュラルローソンに行くのだけは、
なんとなく気が進まないのです。
(駅前で一番便利なのですが)


どうしてなのか、その理由を考えてみました。

どうやら、他のコンビニと比べて、

「ちょっとだけエディでの決済時間が長いように感じるから」

ということに気付きました。

つまり、レジのカードリーダーに自分のカードを置いてから

「シャリーン」

となるまでの間の時間がコンマ何秒か遅いように感じるのですね。
それで、ちょっとだけイラっとする。


気のせいかもしれません。

でも、この実に些細なことがもたらす軽い不快感が
記憶に残っていて、ローソンに行きたいという気持ちを
邪魔しているようです。


私たちは、自分が購入・利用する商品や店舗を選択するに
当たって、常に明確な理由に基づいて決めるとは限りません。

しばしば漠然とした理由で、特定の商品や店を選んだり、
あるいは避けたりしていることも多いですよね。

これは、

「なんとなく好き」「なんとなくイヤ」

という状況です。


この「なんとなくスキ」「なんとなくイヤ」に
影響を与えているのは、実はかなり細かいレベルの要因です。

競合商品を見比べて、どちらを選んでも大差がない時、
つまり、明らかに優れたところ、劣ったところがない場合でも、
私たちはなんらかの基準で商品や店舗を選ばざるを得ない。

そんな時、私たちは「なんとなく」の感覚的判断を
優先してしまうのでしょう。


別のやはり些細なことですが、
「なんとなくイヤ」な例をご紹介しましょう。


房総半島の中ほどにある「養老渓谷」には、
ひなびた温泉郷があります。

我が家では、房総半島の太平洋側に面した勝浦、鴨川などに
よく旅行に行きますので、その行き帰りに養老渓谷に立ち寄る
ことがあります。


数年前、この温泉郷に総ヒノキ造りの立派な温泉ができました。

私はオープンしたばかりの頃行ったのですが、
建物から浴槽まですべて「天然木」でできているというのは、
なんとなく気分がいいものですね。

脱衣所から浴室までの廊下には、

「ヒノキを守るため通気をよくしてあります。
 お客さまには寒い思いをさせてしまいますが、
 ご了承ください」

なんてチラシが貼ってありましたが、
まあ、確かに寒いけれど仕方がないかと思いました。


さて、ヒノキ造りの贅沢な風呂でしばらく温まった後、
体を洗おうと洗い場に行って桶を持ったら、
なんとこれが、ヒノキを模したプラスチック製でした。

たいしたことじゃありませんが、

「なんだかなあ・・・」

ですよね。
ヒノキ風のデザインだけになおさらガッカリ。

プラスチック製にするなら、
いっそケロヨンの洗面器でも置いてあったほうが、
ノスタルジックで良かったと思いました。


結局、この温泉には2度と行っていません。
いいお風呂だったんですけどね。

「なんとなくイヤ」

なんですよね。


さて、企業側から見れば、この

「なんとなくイヤ」

というのはやっかいです。

といのも、顧客側としては、
不快な感情をあまり思い出したくないために、

「なぜ不快な感情を覚えるようになったのか」

という理由を封印してしまうからです。


ですから、例えばアンケートで不満や問題点を挙げて
もらおうとしても、なかなか真の原因が浮かび上がってこない。

このため、なぜ売れないかという原因がはっきりしないまま
どんどん顧客離れが進んでしまうのです。


「神は細部に宿る」

と言いますが、商品設計、店舗設計には、
些細な要素によって動く人間心理の機微をキャッチできる
優れた感受性が重要なのです。

投稿者 松尾 順 : 13:16 | コメント (3) | トラックバック

体験談は全てさらけ出せ!

以前、主婦の方を対象としたグループインタビューの中で、

「利用者の体験談」

を掲載しているパンフレットについての感想を聞いたところ、

・良いことだけを選んで掲載しているのではないのか?
・本当に利用者のコメントなのか(捏造ではないのか)?

といった疑念を持ちつつ読むというコメントを
多くの方が口にしていました。


まあ実際、新聞の折込や雑誌広告に掲載されている

「幸運の●●●」

といった怪しい系商品の体験談(大抵ぼやけた顔写真付)、
例えば、

・これを買ったら、翌日に彼女ができました!(25歳、男性)
・持ち歩いていたら、宝くじで1千万円当選!(40歳、主婦)

といった話は全て捏造だと言われていますね。

こうしたビジネスを「体験談商法」と言います。


また、通信販売事業で成功し、現在多数の著作を持つ某氏は、
自著の中で、売り出したばかりのダイエット食品の体験談を
初期のころは自分で創作したことを白状しています。


ただ、明らかに「この体験談はうそっぽい」と感じても、
信じたくなるのが人間心理の不思議。

「溺れるものは藁をもつかむ」

というところでしょうか。
つらい状況にいる人の弱みにつけこんでいるわけです。


最近は、ネット上でも、

「体験談商法」

が横行しているそうです。

真偽のほどが疑わしい体験談を前面に打ち出して、
商品の購入に誘う「体験談商法」は、特に健康食品関連に
多いですね。

なぜなら、効能をうたうことが薬事法で禁止されているため、
利用者の声を借りて効用を伝えるしかないからです。


もちろん、ありのままのユーザーの声を紹介するのなら
基本的に問題ありません。
(それでも、薬事法に抵触する可能性がゼロではない点ご注意)

しかし、企業側が販売促進を目的として
架空の体験談を捏造したら、当然ながらそれは「詐欺」ですね。


さて、こうした状況の中、
真っ当な商品を出している企業が考えるべきことは、
悪質な業者によって信頼性の低下してしまった

「体験談」

をどのように活用すればいいのかということです。


その答えは、明らかな誹謗中傷を除いて
全ての体験談を未編集状態で公開することでしょう。

良いこと、お褒めの言葉だけなく、
厳しい意見、批判、クレームも思い切ってさらけ出してしまう。


ネガティブな声を公開することは、
自社の評判を低下させることにもつながりかねないので
なかなか踏み切ることができません。

しかしながら、
ありのままを公開することによって

・この企業は正直である
・利用者に真摯に向き合おうとしている

というメッセージを一方で伝えることができます。


どちらにしても、インターネットのおかげで

「くさいものにフタをする」

ことがもはやできなくなった今、
いさぎよく全て公開してしまう以外の選択肢が
ないように私は思うのです。


ちなみに、ご存知の方も多いと思いますが、
売り手が見込み客に対して良いことだけを伝えることを

「片面提示」

と呼び、ネガティブなことも同時に伝えることを

「両面提示」

と呼びます。

心理学の実験では一般に

「両面提示」

の方が信頼されやすいということが
わかっています。

「両面提示」のテクニックは、
マーケティングやセールスの現場では、
長年実践されてきているんですよね。


(関連記事)
『両面提示広告:新生銀行のケース』

『シンプルマーケティング(19)DCCM理論』

投稿者 松尾 順 : 11:43 | コメント (4) | トラックバック

ホノルルマラソン参加者の日本人率

唐突な質問ですが、

「ハワイ」

には行ったことありますか?


ハワイに行ったことのない方がよく言うのが、

「日本人ばっかりでつまらないのでは・・・?」

という話です。


確かに日本人観光客が街中にあふれてます。

でも、あのカラッとした爽やかな気候を体験すると、
自分も日本人のくせに、日本人ばっかりなのはいやだとか
どうでもよくなって、また行きたいと思う人が多いんですよね。


しかしです。

かの有名な「ホノルルマラソン」も日本人が多いとは
聞いていましたが、参加者30,000人のうち、日本人が

18,000人

を占めるんですね!

いくらなんでも多過ぎでは・・・?

投稿者 松尾 順 : 20:53 | コメント (4) | トラックバック