購買代理店「ミスミ」のコア・コンピタンス修正

B2Bの通信販売事業の先駆者、

「ミスミ」

はご存知でしょうか?

*株式会社ミスミグループ本社


ミスミは、主にメーカー向けに、
中間財である各種部品をカタログを通じて販売する
営業マンのいない専門商社として急成長を果たしてきました。


この成長の鍵となったのが、

「マーケットアウト」や「購買代理店」

といった発想に基づく事業展開です。


「マーケットアウト」

は、自社が開発したいもの、開発可能なものを作るという

「プロダクトアウト」

と対極にある考え方です。


すなわち、「マーケットアウト」とは、
マーケット(市場=顧客)の声を聞き、
顧客が求めているものを部品メーカーに開発してもらい、
販売するという「御用聞き」に近いビジネスモデル。

単純に、既存の部品を仕入れて販売するだけ
ということはしていませんでした。

したがって、同社は「商社」ではありますが、
製品企画を自社で行い、生産を外部に委託する
ファブレス企業のはしりと言っても良いかもしれません。


また、

「購買代理店」

とは、

部品メーカーの代理として部品を売るという
「販売サイド」寄りの意識の強い

「販売代理店」

と異なり、「購買サイド」に立って、
部品の品揃えやサービスを充実させるという考え方。

すなわち、「マーケットアウト」を実践する企業のあり方を
端的に示しているのが「購買代理店」というコンセプトです。


これは、インターネット時代における、

「エージェントサービス」
(販売サイドではなく、利用者サイドの代理人として振舞うモデル)

を先取りしたものだったと言えます。


さて、ミスミは、ビジネスモデル自体も革新的でしたが、
組織づくり、組織運営においてもさまざまな先進的・実験的な
取り組みをしてきていますね。


いわゆる

「持たざる経営」

を標榜して、

IT部門を丸ごとアウトソース。コールセンターもアウトソース。
人事部門も廃止して、人事考課を外部のコンサルに依頼、
市場価値(マーケットバリュー)で社員を評価するという試みも
やってきました。

また、事業分別のチーム制を導入し、
毎年ゼロベースで各事業のリーダーを選び、
所属メンバーも再編成するということをやってきました。

つまり、変化に即応しやすい柔軟な組織づくりを目指したわけです。


ミスミが上記のような先進的な組織づくりに取り組んだのは
主に90年代前半のことでしたが、同社の事業自体は順調に発展し、
90年代前半の年商約200億円に対し、現在は同1100億円を
超えています。

現社長は、創業者の田口弘前社長から強く請われて引き受けた
経営コンサルタントとして著名な三枝匡氏です。


三枝氏は、2002年に代表取締役社長・CEOに就任後、
同社の行き過ぎた「持たざる経営」の修正を行ってきました。


まず、営業マンによる訪問セールスを導入。

コールセンター、配送センターなどのアウトソースの
見直しにも着手しています。

IT部門も社内体制を強化したばかり。


三枝氏は、こうした見直しについて次のように語っています。
(日経情報ストラテジー、December 2007)


“持たざる経営という発想の下に、間違えた施策も
 あったと思います。”

“うちにとって最大の営業部隊はコールセンターなんですけど、
 それを外注業者にやらせちゃうと、お客さんから怒られる、
 怒鳴られたりする痛みを感じるべき社員がそこにいません。”

“流通センターが1つは自前ですが、もう1つが建物丸ごと
 外注業者です。ではどちらが仕事の質が高いか、もう歴然と
 自社倉庫の方が高いんですよ。”

“ものづくりをしていない商社が、配送するとか、
 受注するとか、商社という業態における最も重要な機能を
 全部外に出しちゃって、いったい何をやるのと。
 ですから、 自社の倉庫や配送センターへの切り替えも
 今やっている最中です”

メーカー(販売者)と購入者をつなぐ「商社」である
ミスミが核とすべき強み、すなわち

「コア・コンピタンス」

についての見極めが不十分であったことを三枝氏は
率直に指摘していますね。

確かに、「購買代理店」を標榜し、
顧客密着型のビジネスモデルであったにもかかわらず、

「顧客接点」

の多くを外部に任せてしまったのは
不適切な戦略だったと言えます。


また、三枝氏は、

“コンピュータに関しても、外注任せで担当組織が
 あまりに弱くなっちゃって、IT(情報技術)活用に対して
 ミスミは完全に出遅れました。IT関係も組織を再構築して、
 今年の4月にはEC事業部を発足させました”

と述べています。


同社が、基幹情報システムを丸ごとアウトソースしたのは
93年のことでした。

当時は「インターネット以前」でしたし、
ITは同社のコアコンピタンスではないと考えたのも無理は
ありません。

しかしその後のネット革命の進展によって、
「IT」は、通販会社のミスミにとって極めて重要な

「コアコンピタンス」

であると考えざるを得なくなったのです。

コアコンピタンスも、
時代の変化に応じて変えなければならないと言うこと
でしょう。

投稿者 松尾 順 : 2007年10月31日 11:34

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