実感のない言葉
私は、マーケターとしてのキャリアを
「リサーチャー」
から始めました。
「リサーチャー」の仕事は、簡単に説明すると、
消費者対象のアンケート調査などの企画立案や調査票の設計、
データの集計・分析、報告書作成等を行うものです。
ところが、30代以降は、
企業の会社案内・製品パンフの文面や、
Webサイトのテキストベースのコンテンツ、
ユーザー導入事例記事の執筆など、
「コピーライティング」
の仕事が段々増えてきました。
これは、リサーチにつきものの「報告書作成」を通じて、
文章力がずいぶん鍛えられたことがベースにあると思います。
しかし、今でこそ白状できますが、
調査報告書を書き始めたばかりの頃の私の文章力は
「幼稚園児レベル」(いや本当に!)
私の支離滅裂な文章を見た上司には、
メタメタにけなされ、ずいぶん落ちこみました。
しかし、落ち込んでばかりではいられないと、
あわてて「文章作成入門」といった通信教育を受講し、
必死になってトレーニングしたものでした。
こんな私ですから、残念ながら、
文章作成や言葉に対して特段優れた感性を
持っているわけではありません。
だからこそ、プロとしてお金をいただいて文章を書く以上は、
言葉の使い方にできるだけ細心の注意を払うようにしています。
さて、前置きが長くてすいません。
最近、私がどうも気になってしょうがないのは、
「一見きれいに決まっているけれど、実感のない言葉」
の氾濫です。
例えば、あるダイレクトEメールのキャッチコピー。
「御社の提案書の説得力が10倍増します!」
一瞬、「おっ」と目に留まる一文ではあります。
しかし、なんか白々しいと思いませんか。
「10倍も増す」なんてどうやって調べたんだい?
と突っ込みたくなる。
伝わってこないですよね。
残念ながら、このコピーの「説得力」は低い。(笑)
なぜ、上記コピーは実感が感じられず、
相手に伝わらない結果に終わっているのでしょうか。
その答えはずばり「ウソ」をついているからです。
資生堂/TSUBAKI「日本の女性は、美しい」
新潮文庫「Yonda?」
などを手がけたコピーライターの谷山雅計氏は、著書の
『広告コピーってこう書くんだ!読本』(宣伝会議)
の中で、
“人はコピーでウソをつく”
と指摘しています。
そして、谷山氏は、その具体例として、
「古本屋に若者をもっと呼ぶためのコピーを作れ」
というお題に対する学生の答えを示してます。
「古本屋で本を買ったら、
あるページに前にもち主の涙の跡があって、
自分も同じところで感動した」
一見きれいに決まっている。
でも、実感が感じられないはずです。
本を読んでいるとき、
涙が本の上にぼろぼろ落ちるような人が
そもそもどれだけいるのか?
あるいは、
もし実際に涙がこぼれた跡だとしても、
後日、その本を開いた別の人が、
単なるしみにしかみえないであろうものを
果たして「涙」と認識できるのか?
こんな疑問があれこれわいてきて、
このコピーを信じる気にはなれないですよね。
また、以前、JR東日本のあるポスターには、
「アイラブ東日本」
というキャッチコピーが書かれていたそうです。
谷山氏は、このコピーについて次のように
斬り捨てています。
“「アイラブ東日本」のように、
日本の東側半分だけを愛している人など
ひとりもいないはずです。”
「アイラブ東京」「アイラブ大阪」
という人は確かにいますよね。
私はもちろん、
「アイラブ福岡」(ふるさとですから)
でも、
「日本アルプスから東側だけが私は好きなんだ」
というのは、人の感情としてまずありえないでしょう。
谷山氏は、前述した
「古本の涙の跡」
のようなウソはすぐに見抜けるけれど、
「アイラブ東日本」
のようなハイレベルのウソは
なかなか気づきにくいと述べています。
だから、JR東日本のポスターに堂々、
このへんてこりんなコピーが採用されてしまった。
そしてもちろん、このメッセージは
ターゲットユーザーには届かず、
「広告の無駄遣い」
という結果に終わっているわけです。
コピーに限らず、文章作成において、
「実感のない言葉」「伝わらない言葉」
をうっかり書いてないか、注意したいですね。
(自戒を込めて)
*『広告コピーってこう書くんだ!読本』
(谷山雅計著、宣伝会議)
投稿者 松尾 順 : 2007年10月18日 15:34
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コメント
今日「ピこん本」の紹介とはなんという偶然!
私はたまたま昨日読み終わったばかりなのですがいい本ですよね。私は「最初から企画書を上手く書こうとするな」のくだりがかなり思うところありでした。
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今日の話題に関しては、「なぜ若者は3年で辞めるのか」というベストセラーがありましたが、実はこの数字には全く根拠がなく、むしろ筆者の「最低でも3年は続けるべきだ」という主張をひっくり返したものだったことに閉口した覚えが。
しかも筆者が「こう書いたほうがインパクトがあると出版社が判断したから」と某誌のインタビューで答えていたことにショックを受けました。
最近はタイトルで売ってるビジネス書が多いのは知っていますが、こういう小手先のテクニックを「コピーライティング」とは呼ばないで欲しいなぁと思います。
投稿者 はぐれヲタ : 2007年10月18日 17:45
はぐれヲタさん、まいど!
はぐれヲタさんは、「ピこん本」も読むんですね。今の職場、というかキャリアの方向性、合ってますか?(笑)
ところで本題。
ある程度売るための表現を工夫するのは仕方がないと思いますが、引っかかった人が、やっぱり「だまされた」と思うようなものだと、リピートにつながらないですから、そこまではやるべきじゃないですよね。
投稿者 松尾順 : 2007年10月18日 22:59
>はぐれヲタさんは、「ピこん本」も読むんですね。今の職場、というかキャリアの方向性、合ってますか?(笑)
マジレス(笑)すると、私は社内での情報発信に関する仕事がメインなので、技銃やマーケティングのネタ集めの他、表現系の本が大好物だったりします。
「ピこん本」に関しては、広告コピーの「1対1」と「1対100万」の部分を読んだ時は、さすがに「自分の仕事は広告コピーとは違うな」と思いましたが、発想体質作りとして読むと、万人にオススメな本だと思います。
>「だまされた」と思うようなものだと
う~ん、ソレが理由で買ったわけではないので、だまされたわけではないのかな。あまり潔癖すぎて楽しさがないタイトルしか思いつかなくなるのもイヤなので、もう少し広い心で(笑)コピーを観察してみようと思います。
投稿者 はぐれヲタ : 2007年10月19日 15:29
>マジレス(笑)すると、私は社内での情報発信に関する仕事がメインなので、技銃やマーケティングのネタ集めの他、表現系の本が大好物だったりします。
なるほど。納得です。
いや、今やってる仕事の内容と、本当にやりたいことに大きなずれがあって、悶々とされてないかなと、キャリアドバイザー的心配をしたのでした。(笑)
本のタイトルのつけかたも、その理由を研究することが「発想体質」づくりに役立ちますね。
投稿者 松尾順 : 2007年10月19日 16:37
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