だまされない心
米国、および日本でロングセラーとなっている名著、
『影響力の武器』
の著者、ロバート・チャルディーニさんが、
日本心理学会の大会での招待講演のため9月に来日されていました。
私は残念ながら同講演を聞くことはできませんでしたが。
日経夕刊(07/10/11)にチャルディーニさんの
来日中に行われたインタビュー記事が掲載されていましたね。
そもそも、チャルディーニさんが、
「あの手この手で買わせようとするテクニック」
を研究することにしたのは、自分自身が
「だまされやすい人間だったから」
だそうです。
実は、私もかなりだまされやすい人間でした。
学生時代に「キャッチセールス」に引っかかったのを手始めとして、
あれこれと敵の術中にはまり、数十万円をどぶに捨てるような
経験を重ねてきたので、
「なんだ、チャルディーニさんも押しに弱い人だったか」
となんだかちょっとホッとしました。
もちろん、私も、人生経験を十分に積んだ今は、
そうそう簡単にだまされることはなくなってきました。
むしろ、たいして金のない若い頃に、
取り返しのつく範囲でだまされたのは、将来の大損を防ぐ
「免疫」
づくりになったと自分では思っています。
私よりも人生経験の長い中高年の方々が、
「出したお金が、半年で2倍になりますよ」
なんて、ありえない話にコロっとだまされ、
なけなしの老後資金等を巻き上げられる事件が
相変わらず頻発していることを考えると、若い頃に適度に
「だまされる経験」
も必要じゃないかと思いますが、どうでしょうか?
さて、チャルディーニさんが
『影響力の武器』
で研究の成果としてまとめている武器(原理)は次の6つです。
・返報性
・一貫性
・好意
・社会的証明
・希少性
それぞれの詳しい説明は、
「INSIGHT NOW」で泉本貴さんが書かれている
がわかりやすいですよ。
チャルディーニさんによれば、
社会の情報化、グローバル化が進む中で、
特に影響力を強めているのは
「社会的証明」
の原理だそうです。
ネット社会では、
情報が即時に広範囲に伝わるようになりました。
この結果、口コミの影響力の背景にある
「社会的証明」
のパワーが高まっているという主張にはうなずけます。
この「社会的証明」とは、
多くの人がやっていることに引きずられること、
いわゆる「付和雷同」のことです。
チャルディーニさんが取材の中で明らかにした
「社会的証明」の影響力の実験が興味深いです。
これは、ホテル側が、連泊する宿泊客に対して、
タオルを毎日替えないで、継続使用をお願いする際、
どんな文面を掲示するが効果的かを調べる実験でした。
文面は次の4パターン。
1「継続使用で節約したお金を環境保護団体に寄付する」
2「環境保護のためご協力を」
3「未来の世代のためにご協力を」
4「当方の大多数のお客さまに継続使用を
ご協力いただいています」
この実験では、前の3つに比べて、
「社会的証明」の原理を盛り込んだ4番目の文面が
[34%]
も多くの客がタオルの再利用に協力することが
分かったそうです。
「社会的証明」の実験は、
日本でやればもっと大きな差異が出そうですよね。
「空気を読む」ことが重視される日本では、
おそらく、他の国以上に「社会的証明」の影響力が強い
でしょうから。
では、インタビューの中でも、
また『影響力の武器』でも説明されているのですが、
「だまされない心」
を持つ人になるコツを最後にご紹介しましょう。
ひとつは上記6つの「影響力の武器」(原理)
を十分理解しておくこと。
売り込もうとしてくる敵が、
どんな武器で攻めてきているかがわかれば、
簡単に乗せられてしまうことはないですよね。
もうひとつは、購入を決める際に、
相手が使う影響力の武器を、
「自分とモノやサービスとの関係」から切り離すことです。
たとえば、テレビショッピングなどで
「本日限りの限定価格!」
「先着100名さま限り!」
といった「希少性」の武器で相手が攻めてきた時。
この口車に乗せられているだけだと、
「今買わないと後悔するかも・・・」
とつい考えてしまいますね。
しかし、
「ちょっと待てよ、そもそもこの商品は
自分にとって本当に必要だろうか?」
と
「自分とモノ・サービスの関係」
だけに焦点を当てるようにするのです。
こうすれば、勢いで買ってしまい、後になって
「後悔する」
ことが幾分か減らすことができるでしょう。
『影響力の武器-なぜ、人は動かされるのか』
(ロバート・B・チャルディーニ著、誠信書房)
投稿者 松尾 順 : 2007年10月15日 11:45
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.mindreading.jp/mt/mt-tb.cgi/657
コメント
コメントしてください