効率は、愛を育まない

母親やパートナーが作ってくれた

「手料理」

には、外で買ってきた出来合いの惣菜にはない深い愛情を
感じますよね。


なぜでしょうか。

それは、手間をかけているから。つまり、貴重な時間を
たっぷりとかけて作ってくれているからですよね。


以前も同じようなことを書きましたが、
「愛」を相手に伝える最も効果的な方法は、

「あなたのために、自分の時間をたくさん使っていますよ」

ということを何らかの形で示すことです。


ですから、思いを寄せる男性に手編みのセーターや
マフラーをプレゼントするという女性の古典的な告白手法は、
実際、高い効果があったわけです。(笑)


また、マーケティング的な例では、

・プリンターで作成された手紙よりも、
 手書きの手紙をもらった方がうれしいこと

・書店やスーパーなどのPOP広告は、
 手書きの方が効果が高いこと

・旭山動物園の説明パネルは、印刷された立派なものより、
 飼育係が書いた手作りのパネルのほうがよく読まれること

が挙げられます。

手書き文字の効果が高いのは、
それが書き手の個性を感じさせるからというだけでなく、
わざわざ手間(時間)をかけて自分で書いている事実が
相手の好感を引き出しているからだと思います。


さて、私の専門とする

「CRM」(Customer Relationship Management)

は、ベタな言い方をすると、

「お客様と相思相愛の関係になること」

です。


ただ、この点について、
大きな勘違いをしている企業(人)が多いように思います。

大きな勘違いとは、CRMを

「お客様が、自社(商品)を愛してくれるようにすること」

と、考えていることです。

つまり、企業側が一方的にお客様の愛を求めているわけです。
実に独りよがりな考えですよね。
(理念レベルではそうじゃなくても、現実のCRM施策立案段階
 ではどうしても、こうした考えに傾きがちなんですよ・・・)


しかし、お客様に愛してほしければ、お客様の愛を一方的に
求める前に、まず企業側がお客様を愛すべきでは?

そして、このためには、「愛していること」をお客様に
実感させることが必要です。


これは、理想論でもきれいごとでもありません。

感動を与える商品(サービス)を提供している、
顧客満足度の高い企業は実際、

「お客様への愛」

を効果的にお客様に伝えています。


リッツ・カールトンや加賀屋等の取り組みを
お読みになれば、よくおわかりになると思いますが、

「お客様への愛」

を伝えるために彼らがやっていることは、効率を度外視して、

「手間をかける」「時間をかける」

ことなんです。


今、「効率」という言葉を書きましたが、CRMの最大の壁は、

効率至上主義に傾いている現代の企業経営

との矛盾なんですね。


効率とは、端的にいえば、

「できるだけ手間や時間をかけないこと」
(結果的にコストを削減できるから)

です。

しかし、言うまでもないことですが、
効率重視のサービスは、「愛」が伝わりません。


すなわち、

「効率は愛を育まない」

のです。


したがって、

「お客様と相思相愛になる」

という本来のCRMの思想を実践しようとする企業は、
短期的な効率を捨てなければいけません。
(もちろん、「手間の使い方」にはメリハリが必要ですよ)


短期的な効率を捨てることで利益率は低下します。
個別案件だけで見ると、マイナスになることもあるでしょう。

しかし、長期的にはつじつまが合います。

手間をかけている企業が、
長きに渡り存続していることがその証です。
(逆に、短期的な効率を重視している企業ほど、
 意外に短命ではないでしょうか)


ところで、「長期的」というのはどのくらいの長さかなのか、
気になりますか?

経験則的に言えば、最低3年です。


「お客様と3年越しの愛を育む」

という心構えでいればきっと成功します。

投稿者 松尾 順 : 2007年05月10日 10:39

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.mindreading.jp/mt/mt-tb.cgi/496

このリストは、次のエントリーを参照しています: 効率は、愛を育まない:

» citynewstube.com from citynewstube.com
デイリーブログ『マインドリーダーへの道』 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年08月01日 20:06

» payday loans apr from payday loans apr
デイリーブログ『マインドリーダーへの道』 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年08月12日 15:38

» office removals dublin from office removals dublin
デイリーブログ『マインドリーダーへの道』 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年08月19日 11:56

コメント

「効率」という尺度で考えると、二つの指標が考えられます。
ROI(Return Of Investment=投資対効果)とKPI(Key Performance Indicator =効果指標設定)ですね。

最近、経営サイドはROIに取りざたされる様相があります。
なぜなら、特に上場企業において「もの言う株主」が増えてきているからです。

しかし、全ての物事においてROIが明確に算出できることは幻想に過ぎないと私は考えます。特にKM=Knowledg Managementなどに携わっているとよくあるケースです。「効果があるのはわかっている。しかし、その証明が出来ない」。その結果、プロジェクトの中断という悔しい思いを担当者がする例も多く見てきました。
さすがに「個々の顧客のLTV(Life Time Value)を算出する」ということが困難であることは認識されるようになって、CRMとLTVを切り離して考えるようになってきたように思います。

そこで、ROIではなく、何らかのKPIを設定し、一つ一つ設定したKPIのハードルを超えながら、どこかの時点でROIの算出が出来るようになってたら、その領域に踏み込むのです。

まずはKPIの設定から。特に松尾さんのおっしゃるような「3年」という期間で考えるなら、明確なROIにまで辿り着くのは困難な場合が多いです。
是非、「KPIから」をお勧めしたいと思います。(いや、最近ホント大変なんですよ。。)

投稿者 金森努 : 2007年05月11日 00:50

金森さん、まいど!

厳密な言葉の定義でいくと、

・効率=インプット(投入量:要するにコスト)とアウトプット(産出量:成果)の比

・効果=目標に対する実績(実際の成果)の達成度合い

なので、効率に該当するのは「ROI」ですね。
KPIは、文字通り‘効果’指標です!

ですから、3年越しの愛を願うCRMとROIが二律背反的になるけれど、CRMとKPIとはそれほど矛盾は生じないわけです。(目標の立て方しだいだから・・・)

どちらにせよ、本来3年単位くらいだったらCRMのROIもそこそこ正確な算出ができるはずですが、現実にはキャンペーン期間の3-6ヶ月とか、長くて1年でROIを出さなければならない事情を企業は抱えていることが多い。でも、1年程度でCRMのROIを測定するのは実質不可能です。

その意味では、私は、1年程度のROIでCRMを評価するくらいなら、CRMは最初からやらないでください

とはっきり申し上げています。

ただ、3年以上の単位でCRMを実践できるのは、おおむね、非上場の立派な、顧客のためという志向を心から持っているリーダーが率いる企業だけになっちゃいますけど。

投稿者 松尾順 : 2007年05月11日 01:01

コメントしてください




保存しますか?