記憶にあるデザイン

エレコムのUSBハブ、

「これハブ」

の売れ行きが好調なんだそうです。

年間150万個の市場で、昨年秋以来既に10万個を出荷しています。
(日経産業新聞、2007/04/06)


写真を見ていただくとわかりますが、
電器製品等のコンセントを増やすための「電源タップ」を
連想させる形状です。

もちろん、あえて似せて作ってあります。


エレコム社で同製品のデザインを担当した矢代昇吾氏によれば、


“USBハブはUSBポートにとって、いわば電源コンセントに
 とっての電源タップ。使い方も同じならば形状をそのまま
 似せてはと考えた”


だそうです。

ただし、実際の電源タップは野暮ったいデザインですから、
USBハブはより洗練されたデザインを目指したそうです。


「これハブ」の価格は、通常のものとほぼ同じ。
しかし、従来品と比べるとやや大きめなのがネックです。

PCに接続する際に「邪魔」と感じるユーザーがいるかもしれない
という不安があったようですが、ふたをあけてみたらヒット!


さて、この製品が売れている理由は、
「電源タップ」風の形状以外には考えられませんが、
そもそもユーザーは、なぜ購入したくなるんでしょうか?


この理由を考えている時に思い出したのが、
人工知能研究の第一人者、ロジャー・シャンク教授の言葉です。


“目の前のことを「理解する」ということは、過去の経験と
 なんらか結び付けることができたことを言う”


つまり、人は「新しいこと」に出会った時、
そのままでは「理解」できない。

当然ですね、それまでは未知のことだったわけですから。


そこで、過去の経験と照らし合わせて、

「これは、過去のあれと同じようなものとみなせばいいんだな」

と、既存の枠組みの中に置き換えることでようやく理解できる
というわけです。


「USBハブ」は、10年ほどに登場したばかりの新しい商品で、
いったいどういう機能をもつものなのか、なかなか理解しにくい。


しかし、エレコム社の「これハブ」は、

「以前の電源タップのようなもの」

私たちの過去の記憶にあるデザインを呼び起こし、
その機能が即座に理解できる分かりやすさを実現した。

結果として、購買意欲を刺激することができたのでしょう。


なお、人気ブログ「情報考学」の橋本大也さんは、

「デザインにひそむ<美しさ>の法則」のエントリー

で次のように書いています。

“まったく新しいものなのだけれども、どこかに過去の
イディオムを再利用していることが本物っぽさの正体なのかも
しれない。”

“伝統と断絶したデザインは、斬新だけれども使いづらく
感じることが多い。新しいイディオムは一度、ユーザに
受け入れられると、クラシックになり、次の世代のイディオム
の要素になるのだろう。”

“そう考えると、クリエイターの創造性の魔法のように思える
デザイン技術も、歴史学や社会心理学的な理論で検証できる
体系があるのかもしれないと思えてくる。”


「本物」というのは、要するに
「本家本元」であり、「源流」にあるもの。

つまり、一番最初から存在している物で、時間的には
古いものほど「本物」と感じやすいと言えそうです。


この考え方を敷衍すれば、USBハブにとっては、
同じような機能を持つ「電源タップ」の方が古い。

したがって、電源タップもどきのデザインを持つ

「これハブ」

は、より「本物っぽい」と感じさせることに成功したのかも
しれません。

投稿者 松尾 順 : 2007年04月10日 09:51

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コメント

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投稿者 erotik : 2009年03月11日 08:13

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