知識の呪縛

「知識の呪縛」と呼ばれる現象があります。

これは、

自分はよく知っていることを誰かに伝えようとする時、
自分にとっては既知のことだからこそ、
逆に相手にうまく意図が伝えられない現象のことです。
(President 2007.03.19)

その原因は、自分の持つ知識に囚われていて、
相手の心理状態を読みにくくなっているからです。


特に、

「顧客の喜びを実現」とか、「効率ナンバーワン企業に」

といった抽象的な短い表現が多い
企業スローガンやキャッコピーなどの場合に、
「知識の呪縛」は顕著になります。


上記のような言葉には、本来深い意味や思いが込められている
はずです。もちろん、創業社長などの当事者は十分に理解して
います。

しかし、ここで社員や顧客も、自分と同じように、

「理解してくれている」

という間違った思い込みをしてしまう傾向があるというわけです。


この心理的傾向は、次のような実験で検証されています。

スタンフォード大学心理学部の大学院生、
エリザベス・ニュートンは、まず被験者を

「タッパー(叩き手)」と「リスナー(聴き手)」

に分けました。


そして、一人ひとりのタッパーに対しては、
「ハッピーバースディ」のような有名な曲を選び、
テーブルを叩いてその曲のリズムを刻むように依頼しました。

一方、リスナーには、そのテーブルをタップする音を聴いて、
どんな曲なのかを当ててもらうという単純な実験です。


しかし、120曲のタップを聴かせる実験の結果、
正しく曲名を言い当てられたのはわずか3曲だけ。
正答率は2.5%でした。

実は、エリザベスは、この実験に先立ち、
タッパーたちに、リスナーはどのくらい曲を当てられるかを
予測してもらっていました。

その予測は、なんと50%。
2曲に1曲は当てられるだろうとタッパーたちは楽観視
していました。

これは明らかに「知識の呪縛」の存在を証明するものでした。

タッパーの頭の中では曲のメロディやリズムが
流れていて、それを忠実にタップで再現しているつもり。

だから、リスナーにしてみれば、
実際のところタップだけで曲名を当てるのは難しい

ということにまで、タッパーの考えが及ばなかったわけです。


さて、こうした「知識の呪縛」が起こるのは、端的には、
送り手と受け手の間に情報の大きな不均衡があるからです。


では、どうしたらこの情報の不均衡を補正できるのでしょうか。


ひとつは、抽象的な言葉を具体的な言葉に「翻訳」すること

「ターゲット顧客」の規定を例に取ると、

「40代の中年男性」という抽象的なものではなく、

「ずいぶん年季の入ったボルボに乗っている失業中の大学教授」

といったイメージがぱっと浮かぶようなものに落とし込む。
(「ペルソナ」のアプローチです・・・)


もうひとつは、「物語」、つまり
言葉の背景にある深い思いや意味を投影させたストーリーで、
相手に伝えることです。


たとえば、フェデックスには、

「絶対に、確実に、翌日にはお届けします」

というブランドプロミスがありますが、
これを次のような物語(逸話)で具体的に示しています。


舞台はニューヨーク。
フェデックスの配送トラックが故障。
代わりのトラックもなかなか到着しない。

ドライバーは最初、徒歩で荷物を届けた。
しかし、それでは今日中に届けられないと判断し、
ライバル会社のドライバーに頼み込んで荷物を配り終えた。


フェデックスでは、この物語を通じて、

同社が何を大切にしているのか

を対外的にも、また同社社員・関係者の胸にも
深く刻みこませているというわけです。


経営理念やビジョン、ブランドプロミスが
社員や顧客にきちんと浸透している企業には、
ほぼ間違いなく、お題目やきれいごとではなく、
具体的な現場の言葉で語れるトップが存在し、また
さまざまな感動的なストーリーがあふれているものですよね。

投稿者 松尾 順 : 2007年02月27日 14:17

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コメント

このテーマ、私も最近取り組んでます。
ある企業は本当に「ビジネスコミュニケーション不全症候群」(と命名しました)が蔓延して大変なことになっています。
実はその企業の全幹部職員に向けて、2年がかりで研修でたたき直すという荒療治を進行中。
そのうちまた、結果を発表しますね。
http://kmo.air-nifty.com/kanamori_marketing_office/2007/02/post_7821.html

投稿者 金森努 : 2007年02月27日 14:43

金森さんの記事はまさにそうですね。

根本のところには「知識の呪縛」がある。
お互い、トラバしましょう!

投稿者 松尾順 : 2007年02月27日 14:48

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