なかなか公表されない真のマーケティング成功事例

マーケティングの成功事例って、
「なるほどそうか!」と叫んじゃうような詳しい内容のものは、
実はなかなか公表されません。


まあ、極めて重要な企業秘密ですから。

企業の担当者も、サポートした広告会社や調査会社等の担当者
も、もしばらしたら大変なことになります。


でも、ちょっと古い話ではありますが、とても興味深い事例が
販促会議最新号(2007.3)の

「SPよもやま話」
(執筆者:大槻博氏、多摩大学名誉教授)

に掲載されてました。

今回は、その記事の中から「おいしいところ」をご紹介。


育児用粉ミルク(以下、「育粉」)のマーケティングの話です。

当時(おそらく数十年前)の「育粉」の業界シェアは、

A社 35%
B社 30%
Y社 20%


そして、大槻博氏は当時、
Y社のリサーチャー(市場調査課)でした。


さて、「育粉」は、母乳の代わりに、
あるいは同時に乳児に与えるものですよね。

つまり、今で言う「機能性食品」であり、
当時の広告代理店は、

「情緒型広告」ではなく「説得型広告」が有効

と説明していたそうです。


このため、

「強い子よい子(免疫要素添加)」

といったキャッチフレーズを使った新聞の全面広告が
主流となっていました。

もちろん、マーケターの議論の中心は、
こうしたコピーとしてどんなものが優れているかということ。


つまり、当時の「育粉」業界は、
マス広告主体のマーケティングが行われていたわけです。

業界下位のY社は、上位メーカーより広告予算も小さいため、
このままでは半永久的に上位に上がることはできないと、
皆あきらめムードだったそうです。


ところがある日、病産院を巡回訪問しているセールス担当者から、
次のような情報がもたらされました

「赤ん坊の母親が退院後に採用する育粉の銘柄は、どうやら
 入院していたその病院が使用していた銘柄と同じらしい」


Y社市場調査課ではこの情報を検証すべく、
早速、母親たちを対象とした調査を実施。

すると、病産院で利用していた銘柄を退院後も利用していた
母親は、実質9割に達していたということがわかりました。
(9割のうち、1割は勘違いで別の銘柄を使用していた)


Y社ではこの結果を受け、それまで広告費用の60%を占めていた
マス広告を6分の1まで大幅削減。その分浮いた原資数十億円を
すべて、病産院向けのプロモーションに振り替えました。


大槻氏によれば、ここまではマーケティングにおける

「戦略決定」(戦略転換)

の話です。


次に現場での「販促戦術」ですが、

まず、病院で利用される育粉をY社に切り替えてもらうための
活動です。大病院は困難なので、中小病院に戦力を集中して
大きな成果を上げました。


次に、母親たちに対して、

「この病院ではY社の粉ミルクを使っています」

というメッセージを伝えるため、

上記の文言を刷り込んだ哺乳瓶を病院に大量に無料配布。


また、それまでは普通の白衣を着ただけだった
調乳指導の販促員の胸にY社のマークをつけるよう指示しました。


これら一連の取り組みの結果、18ヵ月後の成果は、

シェア:20%から30%へと10%アップ
売り上げ:1.5倍増

と大成功を収めます。


この事例では、

ターゲットを母親ではなく、病産院に切り替える

という「マーケティング戦略」が的を得ていた
ということになりますよね。
(現在の医薬品・健康関連のマーケティングでは、
 すでに常套手段ではありますが)


当時、マス広告費用を大幅削減することにためらっていた
Y社営業トップに対して、大槻氏らは次のように説得
したそうです。

「赤ん坊のいる世帯は全戸のうちのわずか1%です。
 新聞広告枚数の99%は、育粉を使ってくれる可能性が
 まったくゼロの、無関係な人たちに配布されています。
 これは、ドブ川に金を捨ているようなものです。」


さて、「SPよもやま話」の最後に、大槻氏は、

“この話は、マーケティングを感性中心に説くのは
 誤りであり、主として論理を大切にしなければ
 ならないと教える際の好い事例とされている”

と書かれていますが、これは違うと私は思います。


感性中心に説いた結果が、
「マス広告への依存」になったという意味だと思いますが、
感性というよりは、他社横並び意識や惰性でマス広告を
打っていただけじゃなんでしょうか。


また、論理を大切にすること以前に、そもそも
消費者が特定の銘柄(ブランド)を選好するプロセスやきっかけ、
つまりは「消費者心理・消費者行動」を十分に理解できて
いなかったことが問題だったのではないでしょうか。


消費者心理・行動がちゃんと把握できれば、
おのずと利用すべきメディア・ツール、
発信すべきメッセージについては、
論理的に導き出さされる部分が多いと思います。

投稿者 松尾 順 : 2007年02月08日 12:38

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コメント

ちなみに第二子からは、ブランド固定度が、ちょっと低くなるんですよ。

投稿者 菅原 : 2007年02月09日 09:55

菅原さん、まいど!

おや、そうですか?
なぜでしょうね。

母親が学習するからでしょうかね。
第二子の時には、ブランド選択眼ができているから、
能動的に選択しようとするんでしょう・・・

投稿者 松尾 順 : 2007年02月09日 10:01

そうなんですが、

第一子のときのブランド選択理由は、実は、純粋に病院の推奨だけではないんです。
ブランドの基本的で隠れやすい効果が影響しているのですが...。

投稿者 菅原 : 2007年02月09日 17:10

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