両面提示広告:新生銀行のケース
「メリット」は、目立つように大きく派手に書く、声高に言う。
一方、
「デメリット」は、目立たないように小さく書く、小声で言う。
あるいは、そもそも「デメリット」を書かない、言わない)
売り手の気持ちとしては、こんなコミュニケーションを
したくなりますし、実際、どんな業界の広告宣伝でも、
こんな表現が一般的ですよね。
しかし、顧客(消費者)の立場に立てば、
「企業の都合の良いことだけ強調して、
都合の悪いことを隠そうとするのはずるい」
となるわけです。
企業の担当者も、一顧客(消費者)でもあるわけで、
この気持ちがわからないわけではない。
でも企業の立場に立つと、
なぜだか企業に都合のよい表現しかできなくなる。
「顧客中心主義」とか「CS第一」とかお題目は立派だが、
本当に顧客の立場に立ったコミュニケーションができている
企業は、まだまだ少ないのが現実でしょう。
とはいえ、最近は少しずつ変わってきましたね。
ネット革命のおかげでしょう。
田坂氏の言う、「ネット革命」によって、
「情報主権」が企業から消費者へと移行してしまったからです。
消費者は、ネットを通じて、多様なルートからさまざまな情報を
容易に収集することができる。そして、
十分に時間をかけてその情報を分析し、学習する。
しばしば、「多忙」という言い訳で勉強を怠っている
企業側担当者よりも、消費者の方が知識が豊富です。
したがって、もはや自社に都合のよい情報だけを見せる
というやり方は、通用しなくなっているといます。
さて、この「今の真実」を悟り、素直にコミュニケーションに
反映させている事例が、「新生銀行」の「仕組預金」です。
商品名は
正式名称は、
「仕組預金(デリバティブ預金)預入期間延長特約付円定期預金」
長い名前ですねぇ・・・
当金融商品の07年1月以降のチラシ、新聞広告を
目にされた方はお気づきでしょうし、Webサイトの紹介ページを
見てもわかりますが、
「メリット」と「デメリット」(注意点)
が、まったく同じ扱い、並列で記載されています。
これは、心理学で言う、
「両面提示」(メリット、デメリットの両方をきちんと伝える)
を忠実に実行している広告として、
大手企業にはきわめて珍しいことです。
従来の都合の良いことしか言わないコミュニケーションは、
「片面提示」と呼ばれていますが、「両面提示」は、
比較的学歴が高い消費者、そして、金融商品のように、
じっくり購買を検討する関与度の高い商品において
有効なコミュニケーションであることがわかっています。
ただ、これまで実践できる企業は少なかった。
新生銀行の「パワーステップアップ預金」の広告は、
賞賛に値するものだと私は思います。
新生銀行マーケティング部長、伊藤淳一氏は次のように
述べています。
「広告は、当然ながら消費者の皆さまに興味を持ってもらい、
ご購入いただくことが目的ですから、メリットを強く
打ち出したい。しかし、こうした金融商品の場合、
検討段階でリスクをしっかりと理解していただいた上で
店頭での販売などを行う方が、購入する際の納得度も
高いと考えました」
「・・・リスクをわかりやすく説明しようという姿勢を打ち出す
ことで預金者との信頼関係強化につながると考えています」
(PRIR、2007 March)
顧客の「納得度の高さ」を優先する。「信頼関係」を重視する。
これこそが、CRMであり、また顧客中心の考え方です。
投稿者 松尾 順 : 2007年02月05日 11:12
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