新幹線ガール

あなたが、

「新幹線のパーサー」

として働いているとします。
パーサーの主な仕事は、車内でのワゴン販売です。


さて、いつものように商品を満載したワゴンを押していると
客さんから次のように聞かれました。


“玄米茶か麦茶はありますか。緑茶だけはだめなんです。”


しかし、玄米茶や麦茶は扱っていません。
どうお答えになりますか?


“すいません、緑茶しかお売りしていないんですよ”


と断るのは簡単ですが、これはロボットでもできる返事。


“緑茶だけはだめ”

という言葉の裏にあるお客様のニーズを想像(洞察)できるのが
人間ならではの能力です。(情報の深い解釈という意味では、
(昨日のインテリジェンスに通じるものがありますね!)


さて、平均の3倍を売り上げる東海道新幹線のパーサー、
新幹線ガールこと徳渕真利子さんは、

「緑茶にはカフェインが含まれている」

という知識を元に、このお客さんは、

「カフェインを取りたくないのではないか」

という予測(仮説)を立てました。そして、

「ミネラル・ウォーターならありますがいかがですか?」

という提案をしたそうです。


パーサーの仕事はアルバイトから始めた徳渕さん。
(現在は正社員)

いくら販売成績がよくても時給が上がるわけではありません
でしたが、パーサーのプロとしての矜持を持ち、努力を
欠かしませんでした。

その結果、まだ20歳そこそこで販売の本質を体得し、
高い成果につなげています。


そもそも、

「多く売ろう」

と心がけたわけではないと徳渕さんは言います。

乗客が快適に過ごせることを願い、
最大限、顧客の要望に応えることができるように、
努力しただけのようですね。


新幹線ガール(徳渕真利子著、メディアファクトリー)

には、徳渕さんが体得した接客のコツがいくつか公開されています。


・アイコンタクトを絶対する

 たとえ一期一会であっても、乗客ときちんとコミュニケーションを
 取ろうと心がけているそうです。
 
 徳渕さんは、

 「コミュニケーションが多いほど、
  お客さんはより多く買ってくれるようだ」
 
 というCRMの基本法則を既に気づいています。


・もう一品お勧めする

 いわゆる「クロスセル」(関連販売)を行うことで、
 客単価を高めているわけです。
 
 私が新幹線に乗った時のことを思い出してみると、
 クロスセルしてくるパーサーはほとんどいませんよね。
 ただ、乗客の注文した商品を渡すだけです。

 お客さんにクロスセルするためには、
 それが「販売実績をあげたいから」といった印象を与えないように、
 お客さんが納得できる適切なお勧めをする必要があります。

 徳渕さんは、そのあたりきちんと考えているということでしょう。


・お客様が出されている「買いますよ」のサインを見逃さない

 次の車両に入った時、チャリチャリと小銭を探す音がしたら、
 そのお客様を探します。男性客は小銭をポケットなどに直に
 入れていることが多いので、何か買うために小銭を出そうと
 すると音が聞こえるからですね。


・乗客の背面からワゴン販売を行う場合は、
 正面から進む場合よりもゆっくり進む。

 背面からだと、パーサーが通っていることに乗客が
 気づきにくいから。 ですから、意識的にワゴンを押す
 スピードを落とします。
 (実際、正面からと、背面からのワゴン販売では、
  売り上げが1.5倍も違うそうです)

・お客様の立場で考える

 これは、要するにお客様のニーズを読むということです。
 冒頭の緑茶はダメという言葉から、カフェインが入っていない
 飲料が欲しいという、言葉の裏にある欲求を想像すること。


こうした接客のコツ、知ってみればなんでもないことですが、
大事なことは、ちゃんと

「実行できるかどうか」

なんですよね。


なお、徳渕さんは、働き始めたばかりのころは、
乗車した新幹線で何が売れたのかをメモに記録していたそうです。
(ベテランになると、自然に頭に入るのでメモしなくても
 よくなるそうですが。)

徳渕さんは、次回乗車の際には、
このメモに基づいてワゴンに搭載する商品の種類、個数を
決めていたのです。

投稿者 松尾 順 : 09:25 | コメント (2) | トラックバック

マーケティング情報士官

先日、当メルマガ&ブログで書いた

「リサーチリテラシー」


「思えばなる方式からの脱却」


では、


・企業によっては、商品開発担当者や上層部の
 「調査」の役割や意義に対する理解があまり高くないこと。

・このため、「調査」が正しく実行されないこと。
 (やらずに済ますことさえある。)

・このことが、優れた商品開発の障害となっていること。


等を指摘させていただきました。


上記記事で私が言いたかったことは、本音ベースでは、

“マーケティングにかかわる方は、
 最低限のリサーチについての知識を持っておいてほしい”

という「ボヤキ」でもありました。(笑)


しかし、リサーチを発注する相手に文句を言う以上は、
調査を担当するマーケティング・リサーチャーとしての

「あるべき姿」

も再確認しておくべきですよね。


マーケティング・リサーチャーとしてのあるべき姿とは、

「リサーチャーは、本来どんな仕事をすべきなのか?」

という本質的な問いに答えることでわかります。


恥ずかしながら、私はこれまで、
この問いに対する明快な答えを持っていませんでした。

しかし、最近になって、
国家安全保障のための諜報活動の文脈で使われる

「インテリジェンス」

の考え方に大きな示唆を得ました。


「インテリジェンス」を扱う人のことを
情報士官(インテリジェント・オフィサー)と呼びます。

情報士官の仕事は、ベストセラー『ウルトラ・ダラー』の
著者であり、元NHKワシントン支局長として知られる手嶋龍一氏
によれば次のようなものです。(私の解釈が多少入っています)


---------------------------------------

・玉石混交の膨大な情報から、
 ダイヤの原石と思われる情報を見極め、選び出すこと

・ダイヤの原石らしき情報に磨きをかけること、
 すなわち、その情報の真偽、信憑性を確認するための裏を
 取ること

・磨きをかけた情報をさまざまに組み合わせて、
 将来の変化について、新たな発見や予測を行うこと

----------------------------------------


上記を読むとおわかりだと思いますが、
情報士官の仕事は、単に‘情報を収集して’
政府関係者に提供することではないことがわかります。


情報士官が提供する「インテリジェンス」は、
政府関係者(その頂点には、大統領や首相がいます)
の重大な意思決定に役立つ

「意味を持つ情報」

でなければならないのです。

ここで「意味を持つ情報」とは、将来についての

「一定の方向を指し示すもの」
(読み、仮説、予測などと言い換えられます)

です。


さて、マーケティング・リサーチャーがやるべき仕事も、
情報士官とまったく同じでしょう。


マーケティング・リサーチャーのあるべき姿は、

「マーケティング情報仕官」

とでも言えるのではないでしょうか。


マーケティングリサーチャーも、
ただ、データを集めて分析するだけでは
務めを果たしていない。

ダイヤの原石情報を選び出し、磨きをかけ、
複数のデータを統合して、「意味を持つ情報」に
仕立て上げなければなりません。


なお、このために特に必要とされる能力が、

「データの解釈力」

だと思います。


この「解釈力」は、
リサーチャーが持つ知識や思考能力に比例します。


調査対象の業界や商品、顧客に始まり、
社会、経済、技術、歴史、哲学、社会学、心理学、
人類学等々、広範囲の知識があればあるほど、また
こうした知識を柔軟に使いこなす思考能力が高ければ
高いほど、同じデータから導かれる「意味」の価値は
優れたものになるでしょう。


すなわち、マーケティング・リサーチャーとしての質は、
最終的には、「解釈力」によって評価されることに
なるんじゃないかと思います。
(調査企画・設計や統計解析など、
 テクニカルなスキルは基本要件に過ぎません)


まあ、実際のところ、マーケティング・リサーチャーが、

「マーケティング情報士官」

を目指そうとすのは、めちゃくちゃ大変です・・・


私も、まだ道半ばにも来ていないと思います。
でも、やりがいたっぷりです。

投稿者 松尾 順 : 11:12 | コメント (8) | トラックバック

常識の壁を打ち破る(4)セザール・リッツのDNA

1997年の営業開始から、わずか6年で日本一の評価を獲得した
「ザ・リッツ・カールトン大阪」。

日本進出10年目の今年(2007年)春には、
東京ミッドタウン内に「ザ・リッツ・カールトン東京」を開業。

驚くほど短い月日で優れたサービスとブランドを確立した
リッツ・カールトンは、1室6万円強~の高級ホテルながら、
伝統や格式以上に、「革新」を重んじる企業カルチャーを
持っています。

そして、ホテル業界人からは、「邪道」と非難されるような
斬新なサービスを次々と打ち出してきています。

・20万円のオムレツ
・180万円のカクテル
・1億円の結婚式


いずれも、コンセプトとネーミングの妙ですね。

20万円のオムレツでは、バイオリンの生演奏をバックに、
料理長が作った3種類のオムレツを、ソムリエが選んだ
シャンパンと共に楽しむ。

そして、メートルディー(レストランを統括するヘッド
ウェイター)が、グラスの持ち方などテーブルマナーの
特別レクチャーをしてくれます。


また、180万円のカクテルの底には、
1.06カラットのダイヤモンドが沈んでいます。

この値段には、世界中のブルガリのどの店舗でも、
ダイヤを指輪にしてしてもらえる加工賃が含まれているそうです。


「金はあるから、ワクワクできる楽しい体験をさせて!」

と願う富裕層のニーズに見事に応えていると思います。


実は、リッツ・カールトンには、
こうした業界の常識を覆すサービスを生み出し続ける

「遺伝子」

が埋め込まれています。


その遺伝子の源は、ホテル王と呼ばれた

「セザール・リッツ」。

パリの「ホテル・リッツ」の創業者です。


セザール・リッツ氏こそ、
19世紀末当時の業界の常識に全く縛られることなく、
顧客の視点でホテルのサービスの革新を行った人でした。

たとえば、今から100年ほど前のホテルでは、
シャワールームは部屋と別のところに設置してありました。
つまり、他の宿泊客と共用だったわけです。
(日本の温泉旅館の大浴場とまあ同じ感じですかね)

しかし、リッツ氏は、宿泊客が部屋を出るときに
いちいち着替えるのは面倒だろうと、
全部屋にシャワールームを設置することにしました。


この設計だと、共用のシャワールームと比較して、
莫大な建設費用がかかります。

業界人の常識は、立派な造りの共用のシャワールームが
あれば十分じゃないか、というもの。

でも、リッツ氏はそんな業界人の声を無視して、
全室シャワーを備えたホテル・リッツを開業し、
人気を博すのです。


また、当時のホテル内レストランは、
お仕着せのコースメニューしかありませんでした。

コースメニューは、その日の食材に合わせて組み立てることが
できるので、ホテル側としては無駄が抑えられ効率的です。

しかし、宿泊客の中には、いつもいつも重いフルコースではなく、
時に、軽く済ませたいというニーズがあったはずです。

そこで、リッツ氏は、料理を個別に注文できる
アラカルト方式のメニューを採用しました。

これも、また当時の業界においては

「非常識」

なやり方だったそうです。


さらに、ホテルのパーティルームのシャンデリアの明るさを
時間帯などに応じて、柔軟に変えることを初めてやったのも
リッツ氏でした。

パーティは、女性の美しさを際立たせる機会と考え、
女性が最も美しく見える明るさを目指したのです。


こうして、常識の枠にとらわれず、自由な発想に基づく
新たなホテルの在り方を生み出したセザール・リッツ氏の
DNAが、現代のザ・リッツ・カールトンに脈々と
引き継がれてきているのだそうです。


*以上は、ザ・リッツ・カールトンホテル日本支社
 支社長、高野登氏のご講演からご紹介しました。

投稿者 松尾 順 : 13:11 | コメント (0) | トラックバック

常識の壁を打ち破る(3)ファンケルのケース

経験のない異業界・異業種に新規参入する。


これは、確かにリスクが高い事業ではありますが、
業界の常識に埋没していないだけに「常識破り」のアイディアを
生むことがあります。


その典型例のひとつが、
無添加化粧品としてのブランドを確立した

「(株)ファンケル」

ですね。

1980年創業の若い企業ながら、
年間売上高は、ついに1千億円を突破してます。
(連結売上、07年3月期)


ご存知の方も多いと思いますが、
無添加化粧品開発のきっかけは、創業者で現名誉会長の
池森賢二氏の奥さんの「化粧品アレルギー」でした。

当時、たまたま池森氏の知人に皮膚科のお医者さんと
化粧品メーカーの経営者がいました。

お医者さんによれば、皮膚科に駆け込む女性の7割は、
化粧品が原因の接触性皮膚炎だと言われたそうです。

一方、化粧品メーカーの知人に聞くと、
化粧品の品質を維持するため、防腐剤、殺菌剤、
酸化防止剤等を「必要悪」として入れているとのことでした。


そこで、池森氏は、化粧品大好きの奥さんが
アレルギーに悩まされずにすむ無添加の化粧品の開発に
乗り出したというわけです。


池森氏にとって、化粧品業界はまったくの未経験ゾーン。
徒手空拳で取り組んだ事業ながら、逆に常識に囚われることが
なかったのが奏功しました。


さて、防腐剤などを添加しない化粧品を開発するに当たって、
池森氏が考えたのは、1週間で使いきれる小さな小瓶として、

「アンプル瓶」

を採用することでした。


このアイディアは、化粧品業界の人間に大笑いされました。

“化粧品は、女性に「夢」を売っているのだ。
 素っ気ないアンプルなんかに入れたものが売れるはずがない”


しかし、実際に販売してみると、肌トラブルに悩む女性の
高い支持を受け、倍々ゲームで業績が伸びていったのです。


「売れない」と断言した業界人もまた、間違った思い込みに
縛られていたんですね。

人間の欲求の一側面しか見えていなかったということでしょう。


人の欲求は、大きくは2つに大別できます。

・ポジティブなニーズの充足
・リスクの回避


ポジティブなニーズの充足とは、「こうありたい」が叶うこと、
リスクの回避とは、「こうなってほしくない」を避けられること
(もしくは低減できること)です。

化粧品にとっては、「美しくありたい」という女性の欲求を
充足すると同時に、「肌荒れ等を起こしたくない」という
リスクを回避したいという欲求に応える必要がありますよね。

しかし、ファンケル登場以前には、
リスク回避という欲求の存在に対する認識が、
化粧品業界の人には弱かったということでしょう。


なお、私は野暮な男性でして、
化粧品のことを実体験としてはよくはわかっていません・・・

そこで、当ブログ&メルマガをお読みいただいている
知人女性(30代)から以前いただいた化粧品についての
メールの一部をご紹介します。(ご本人の許諾済み)


なお、以下の内容は、化粧品における

「ブランド(イメージ)」や「パッケージデザイン」

の重要性についての反論といったところです。


--(引用開始)--------------------------------------------

アットコスメが大成功していることもみても、化粧品は案外、
ブランド支持というよりは、その機能性が選択のポイントと
して重視されていると思います。

つまり、使い心地がいい、香りがいい、値段のわりにいいなど。

社会的ステータスを誇示する目的よりも、機能性や話題性
(限定品だとか季節ごとの新製品など)が重視されている気が
するのです、化粧品においては。

化粧水やマスカラならランコム、口紅やアイシャドウなどの
色物ならシャネル、サンローラン、ファンデーションは
ディオールと使い分けている人がほとんどだと思います。

特に化粧にはまればはまるほど、アイテムごとに、
得意不得意がブランドごとにけっこう明確なことが
分かってきますしね。

また、バッグや時計なら、どこのブランドか見て一発で
分かりますが、化粧品だと分かりませんよねー。
カバンから取り出して、パッケージを見せないことには・・・

そうなると、本来、ステータスを示したい相手に、パッケージを
見せる場面があるかというとまずないでしょう。

まあ、年齢的なこともあるのかもしれませんが、
ひと通りの海外ブランドも使ってきてたどり着いたのは、
機能性重視で、コストパフォーマンス重視という選択スタンス
でした。

--(引用終り)--------------------------------------------


ふむふむ、なるほど。
貴重な情報ありがとうございます。

あくまでお一人の意見ではありますが、
世の中の多くの女性の考え方を代弁していると見ても
いいんじゃないでしょうか。


ブランドやパッケージが最重要ではない。
まずは、製品自体が持つ機能性やコストパフォーマンス
ありきなんですよね。

また、大切な肌に直接触れるものですから、
「安全性」については言わずもがなということでしょう。


余談ですが、ファンケルは米国では苦戦しています。

そこで、売れない理由を調査してみたところ、
米国人女性は、肌につけてピリピリするくらいでないと
効果を実感できないんだそうです。

肌に優しいファンケルがなかなか受け入れられないのは
無理もないですね。


ところ変われば・・・といいますが、
人の心理はまことに面白いものですねぇ。

投稿者 松尾 順 : 11:38 | コメント (2) | トラックバック

これハブ

4月10日に書いたブログ記事、

「記憶にあるデザイン」

でご紹介したエレコムのUSBハブ、

「これハブ」

を私もちょっと前に購入し、利用しています。


「これハブ」は、電器製品等のコンセントを
増やすための「電源タップ」に似た形にしてあります。

既存製品とはまったく異なる構造であるため、
設計には手間がかかったそうです。

若干大きめの形状になりましたし、
競合製品よりも割高です。

ですので、開発担当者は、
果たして売れるかどうか不安を感じたようですが、
結果的には、とてもよく売れています。


私も実際購入してみて、なぜ売れるのかがわかりました。

理屈抜きに

「カワイイ!」

のです。(笑)


USBハブは、他にもいろいろな形状の製品を使ってますが、
いじっていて、「愛情」とか「愛着」といった感情が
湧き起るのは、

「これハブ」

だけなんですよね。


まさに、ダニエル・ピンクさんの言う、

「実用性」と「有意性」

をくしくも兼ね備えているのが、「これハブ」でした。

投稿者 松尾 順 : 00:36 | コメント (0) | トラックバック

靴磨き.com

検索エンジンで、

「靴磨き」

を入力して、キーワード検索してみてください。


Yahooでは表示順1位、Googleでは同2位に来るのが、

「靴磨き.com」

です。


代表者は、現在23歳の若き靴職人、長谷川裕也氏。

長谷川さんは、失業中の20歳の頃、
いよいよ生活費が底をつきかけてきたため、
すぐに始められて元手がいらず、日銭が稼げるからという理由で、
「靴磨き」を始めました。

靴磨きセットやタオルなどは、100円ストアで調達。
04年5月のことでした。

靴磨きを始めてすぐ、アパレルショップの正社員の仕事が
見つかるのですが、彼は靴磨きも並行して続けました。

奥深い「靴」の世界に、はまってしまっていたからです。


結局、06年8月に、長谷川さんは靴職人として独立を
果たします。すごいのは、活動開始わずか3年にして
ブランド構築に成功していることです。

5月2日付の日経MJにもでかでかと紹介されましたし、
ファッション誌『ゲーテ』(May 2007)では、
4ページの記事が掲載されました。

つい先日は、NHKの番組にも登場してます。


実は、この成功の裏には、カリスマ経営コンサルタント、
石原明氏(日本経営教育研究所)がアドバイスを
していたという秘密がありますけどね。


たかが靴磨き職人?

「靴磨き」だけに捉われてしまえばそうかも知れません。

でも、靴磨きを入り口として考え、
顧客との関係構築という視点で見つめなおすと、
その先に広がる世界は大きいんです。

なぜならば、磨くだけの価値のある靴を
持っている人たちの多くは富裕層ですから。

これ以上の説明は不要ですよね。


ところで、ホームページを見ると、
日本経営教育研究所以外に、マクロミルとも
提携されています。

どういう提携なんでしょうね?

投稿者 松尾 順 : 06:36 | コメント (0) | トラックバック

常識の壁を打ち破る(2)

2-3週間前ですが、「ガイアの夜明け」に、
ヨーロッパの携帯電話メーカーに対して、
日本で流行しているようなカラフルな塗料を採用してもらおうと
がんばっている日本の塗料会社が登場してましたね。


ヨーロッパでは、いまだビジネスツールとしてのイメージ(常識)
が強いせいか、携帯の色はほとんど黒だけというのが現状です。

このため、ヨーロッパ進出のために設立された上記塗料会社の
ヨーロッパ現地法人の担当者(日本人のようでした)は、
日本から持ち込んだパステル調の色見本を見て、

「子供っぽい。こんな色はヨーロッパでは受け入れられない」

と、ばっさり切り捨てていました。


ところが、日本側の担当者が、
道行く消費者に直接聞いてみると反応は悪くありません。

ヨーロッパの携帯電話ユーザーは、

「携帯電話は、黒でなければならない」

と、強く思い込んでいるわけではなさそうでした。


実際、ヨーロッパの携帯電話メーカーに提案したところ、
先方は、これまでにない明るい色に興味を示していました。

提案したカラフルな塗料の採用が本決まりになったかどうかは
番組では報道されませんでしたが、ひょっとしたら、
ヨーロッパの携帯電話も、これからさまざまな色の製品が増えて
くるかもしれませんね。


さて、このケース、現地法人の担当者は、明らかに、
今のヨーロッパ携帯電話業界の「常識」に縛られていますね。


ヨーロッパで黒のケータイしか売れないのは、
そもそも、それ以外の色の選択肢を提示されていないからです。

ユーザーも、黒以外の選択肢が示されていないために、
他のカラーバリエーションに対するニーズが顕在化していない。

だから

「黒以外の色のケータイが欲しい」

というニーズがメーカーに届くこともなく、これまでずっと
黒ばかりが作り続けられてきたのかも知れません。


新規市場開拓に取り組む現地法人の担当者が、
こうした可能性に目を向けることなく、

「今までがこうだったからも、これからも変わらない」

といった硬直的な思考しかできないのはまずいですよね。


常識の壁を打ち破るためには、まず

「過去」(の考え方、やり方、トレンド、パターン)

を意識的に消し去ることが必要です。

投稿者 松尾 順 : 10:37 | コメント (0) | トラックバック

常識の壁を打ち破る(1)

新たな発想や、斬新なアイディアの誕生を阻害するのは、
その業界の「常識」(=固定観念)である!

このことは、これまでも何度か取り上げてきたテーマですし、
アイディアをなにより大切にするマーケターの皆さんにとっては、

「常識」

ですよね。(^o^)


逆に言えば、
新たな発想、斬新なアイディアを生み出したかったら、
自分がどっぷりと浸かっている業界の「常識」を
打ち破る必要がある。

これは言うは易し。実行はそれほど簡単ではありませんよね。


「常識」や「固定観念」といったものは、
今のモノゴトのあり方に疑いを持つことなく、
ありのまま受け入れていることを意味します。

つまり、「思考停止」の状態です。

しかし、私たちにとって「常識」は、
いわば、人生を楽に生きるための必要悪。

毎日毎日、

「なぜ、こんなやり方をしているんだろう?」

あらゆることに疑問を投げかけていたら疲れてしまいますから。


でも、ビジネスとしての行き詰まりを打破するため、
あるいは新たな展開を図るための出発点となる

新たな発想、斬新なアイディア

を強制的に生み出す必要がある時、最も手軽な方法は

「他業界に学ぶこと」

でしょう。


経営コンサルタントの泉田豊彦先生は、

「泉田式(センダシキ)発想法」のひとつとして、

「補集合について考えよ」

ということをおっしゃってます。

補集合とは、自分が含まれる集合以外のこと、
つまり、自分とは関係ない分野のこと。

他の業界にも、やはり業界特有の常識が存在しています。
でも、まだその常識を獲得していない自分から見たら、
すべてが新鮮。

他の業界にとっての常識は自分にとってはネタだらけ。
ということも少なくありません。


この「他の業界に学ぶ」というのは、
欧米では意識的にやってきてますよね。

いわゆる「ベンチマーク」というやつです。
これは、他の会社の優れた取り組みを端的には「真似」すること。


もちろん、丸ごと取り入れるわけにはいきませんから、
自分の会社に適合するようにアレンジして取り込むことに
なります。

これを「創造的借用」と言います。


さて、しばらく「常識の壁を打ち破る」というテーマを
続けたいと思いますが、次回以降は具体例をご紹介していきます。

投稿者 松尾 順 : 09:38 | コメント (0) | トラックバック

右脳的思考が必要な理由 by ダニエル・ピンク

先日聞いたダニエル・ピンク氏の講演のポイントをご紹介します。


講演内容は、ダニエル・ピンク氏が執筆したベストセラー、

『ハイ・コンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代』
(ダニエル・ピンク著、大前研一訳、三笠書房)

のエッセンスでした。


ピンク氏の講演のキーメッセージ(結論)は、

「右脳的思考が、これからのビジネスの成功のために必要である」

ということです。


ただし、誤解してはいけない点は、

「左脳的思考」

も相変わらず重要であるということ。
(ピンク氏は、この点を繰り返し強調していました。)


現在のビジネスにおいて、

「左脳的思考」

だけでは不十分であり、

「右脳的思考」を

活用しなければ、あなたは代替されてしまいます。


「何(誰)」に代替されるのか?

コンピュータと賃金の安い外国の有能な人々にです。


なお、左脳的思考と右脳的思考の違いは次のとおり。

・左脳的思考・・・逐次的、論理的、分析的な見方・考え方
・右脳的思考・・・直観的、本能的、包括的、全体的な見方、考え方


ピンク氏は、右脳的思考が重要と考えるべき3つの理由(背景)を
挙げます。


・アジア(Asia)
・自動化(Automation)
・豊富さ(Abundance)


-------------------------------------------

(1)アジア(Asia)

アジアでも、特に中国、インド、マレーシアといった国々のこと
ですが、これらの国は、教育水準が高く英語が話せる人々が
絶対数としてたくさんいます。しかも賃金水準が欧米よりも
はるかに低い。

例えば、インドの人口は10億人ですが、その約15%、
1億5千万人は、教育水準が高く才能とやる気にあふれる人々。
(日本の人口を上回っていますね!)

2010年には、英語を話せる人が世界で最も多くなるのが
インドだそうです。


そして、インターネットの進展により物理的距離、時間の壁が
取り除かれ、こうしたアジアの人々が欧米の人たちに変わって
さまざまな仕事を引き受けるようになっています。

しかも、専門性が高く、安定した職業だと考えられていた
弁護士や会計士の仕事でさえ、アジアの人が格安で
代行しています。

仕上がりが同じなら、仕事は、より安いところに流れる。
シンプルな経済原理です。


(2)自動化(Automation)

これまで、機械が、人間の筋肉、つまり身体的機能を
代替してきましたが、現代はコンピュータが人間の知的作業を
代替するようになってきていますね。

ただし、代替できるのは、ルーティンワーク、すなわち
手順が決まっている定型的な仕事です。

逆に言えば、ルーティンワークしかできなければ、
そのうち仕事がなくなってしまうということです。


(3)豊富さ(Abundance)

世の中ものがあふれています。

ですから、人々は、もはや商品の「実用性」(Utility)
だけでは満足しません。

美しさ、ユニークさなどの「有意性」(Significance)を
付加しなければ売れない。

日本でも、家電や携帯でさまざまなカラーバリエーションを
持つ製品が増えてますが、まさにこの消費者のニーズの変化に
対応したものと言えますね。

-------------------------------------------


さて、(3)で示したような商品の「意味」を生み出すこと
ができるのが、まさに

「右脳的思考」

です。

優れたデザインは、論理的、分析的な「左脳的思考」からは
出てきません。手順を踏めばできるというものではないからです。


右脳的思考が重要な仕事は、
安ければいいといいものではないし、
当面、コンピュータでも代替することが難しい領域です。

したがって、アジアの有能な人々やコンピュータに
自分の仕事を取られてしまわないためには、
彼らに簡単に代替されないですむ、右脳的思考が必要な仕事に
取り組むことが必要なのです。


最後に・・・

『ハイ・コンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代』

にも書かれていましたが、
今回の講演でもダニエルは次の3つの質問を示しました。

(1)、(2)に「はい」、(3)に「いいえ」

と答えざるを得ないなら、あなたの仕事はかなりやばいです。
逆の答えになるのであれば、当面は安泰でしょう・・・


(1)この仕事は、他の国ならもっと安くやれるだろうか?
(2)この仕事は、コンピュータならもっと速くやれるだろうか?
(3)あなたの商品やサービスは、実用性に加えて、有意性を
   提供できているか?

投稿者 松尾 順 : 11:11 | コメント (2) | トラックバック

「思えばなる方式」からの脱却

昨日ちょこっとご紹介した、

「マーケティング・リテラシー」

(プレジデント最新号(2007.6.4)
 「ビジネススクール流知的武装講座」)

について、ちょっと内容が難しくなるのですが、
記事全体のポイントをまとめておきます。
(私の方で、多少言い回しを変えたり補足説明してます)

なお、同記事は、
主にメーカーのリサーチ部門を念頭に書かれています。


執筆者の石井淳蔵氏(神戸大学大学院教授)は、
専門部署としての「リサーチ部門」を持たない企業の問題点
として、次の3点を挙げます。

-----------------------------------------

(1)やるべきリサーチをやらずにすます。

これは昨日引用した部分です。

コンセプト、パッケージ、試作品、広告コピー等々、
新製品が導入されるまでには、本来多くのリサーチが
行われるべきところ、リサーチ専門部署がないと、

「時間がない」「費用がない」

といった理由で、いくつかのリサーチをなしで済ますことが
起こります。


石井先生は、発売を急ぐあまり、「時間が惜しい」という理由で
リサーチをやらないのは「主客転倒」と指摘されていますが、
まったくおっしゃるとおりですね。


(2)不明確なリサーチ課題の下にリサーチが実施される。

独立したリサーチ部門があれば、
商品開発を担当するマーケターからの調査依頼を受ける際、
リサーチ課題が明確になっているかをまず確認するはずです。

すなわち、マーケターとリサーチ担当者のやり取りを通じて
仮説立案をしっかりやるという手順が踏まれることで、
リサーチがより価値あるものになります。

しかし、同一部署でリサーチも担当してしまうと、
馴れ合いが起こります。その結果、リサーチ課題があいまいな
まま、とりあえず調査を始めてしまったり、場合によっては、
企画を通すために都合の良いデータを集めるといった、
やはり主客転倒の調査が行われてしまう可能性があります。


(3)「リサーチ標準」を定着させることができない。

外資系のある企業では、「7:3」の原則があるそうです。

これは、発売したい新商品を消費者リサーチにかけた結果、
回答者の7割以上が「前の商品より優れている」と答えないと、
その新商品の導入は行わないという原則です。

独立したリサーチ部署であれば、こうした

「リサーチ標準」

を確立し、また維持できるのですが、そうでない場合、
結果をどのように判断するかの基準が調査のたびに変わってしまう
といったことが起き、調査をやる意義が低下してしまいます。

そうなると、調査担当者は、マーケターの意向に従って
数字を作るだけの単なる「便利屋」に成り下がってしまうのです。

-----------------------------------------


以上は、リサーチの専門部署を持たない企業が陥りやすい問題点
でしたが、逆に言えば、リサーチの専門部署を持つことのメリット
は次の3点です。


(1)仕組みとしてのリサーチ・プロセスの確立
   (リサーチに基づいたマーケティング決定)

(2)マーケターとリサーチ担当との良い緊張関係

(3)リサーチ標準(手法、プロセス、基準)の維持


さて、石井先生は、日本企業では、ことのほか

「思えばなる方式」

が評価されると指摘しています。


「マーケターもデザイナーもクリエーターもリサーチャーも
侃侃諤諤議論しながら一緒にやれば何とかなる」

というやり方のことです。


しかし、良い商品を作りたいと思う人が集まって、
良くない商品が生まれているのが現実。

「これだけ複雑になった現代のマーケティング世界では、
 思えばなる方式だけで渡っていけるほど簡単ではない」

と、石井先生はバッサリ。


売れる商品づくりに本当に役立つリサーチを行うためには、
「思えばなる方式」からの脱却が必要でしょう。

投稿者 松尾 順 : 08:03 | コメント (0) | トラックバック

リサーチ・リテラシー

先日、某外資系企業製品の日本市場開拓を支援されている方が、
ミクシィ内のマーケティング・コミュニティにヘルプを
求めてました。(差し障りがあるかも知れませんので、
詳細はあえてぼかします)


“日本に輸出したい製品について、日本市場の現状を
 調べています。しかし、情報が少なくて困っています。
 役立つ情報があれば教えてください”


そこで、私は、当該市場分野についての有料レポートを
発行している調査会社名を教えてあげました。

当該市場は、法人向けのニッチな分野でした。
したがって、一般に公開されている情報は限られていることが
わかっていたからです。


ところが、このヘルプを求めていた方のレスは、

“クライアントは、そうした調査レポートには、
 お金を出してくれそうもないんですよ”

とのことでした。

要するに、この外資系企業としては、
インターネットなどで検索できる一般情報で
市場調査を間に合わせたいと考えているんでしょう。

そうお考えなら仕方がないです・・・


こうした会社は、決して少なくはありませんよね。
日本企業でも結構多いのが現状です。

しかし、正直に申し上げて、
私はこのような考えが全く理解できません。
(冒頭のヘルプを求めた方や、外資系企業を
 非難しているわけではないですよ)


この外資系企業で言えば、いざ日本に輸出すると決断したら、
相応の投資を行うはずです。

もし、不十分な調査に基づいて日本進出を決め、
不幸にも失敗してしまえば、その投資は無駄に終わることに
なります。

それでいいんでしょうか?


調査をしたからといって100%の成功が約束されるわけでは
ありません。しかし、失敗の可能性を下げるためにやるのが、
調査です。

しかも、私がご紹介した有料レポートは、
何本か購入してもせいぜい数十万円程度で済む話。

本格展開で投じる数百万~数千万円をドブに捨ててしまう
ような結果をできるだけ避けたいなら、数十万円なんて
たいした金額ではないはずですけどねぇ・・・


さて、たまたまですが、プレジデント最新号(2007.6.4)の
「ビジネススクール流知的武装講座」は、

「マーケティング・リテラシー」

がテーマでした。


筆者の石井淳蔵氏(神戸大学大学院経営学研究科教授)は、

「マーケティング・リテラシー」

を次のように定義しています。

「マーケティングの知識を、
 学び、増やし、使いこなす組織の能力」


そして、マーケティング・リテラシーが低い組織の問題点を
いくつか指摘されているのですが、その冒頭に挙げてあるのが、

・やるべきリサーチをやらずにすます

です。


石井先生は、

「組織にリサーチ専門部署がないと、
 時間がないとか、費用がないといった理由で
 やるべきリサーチをパスしてしまう」

ということが起きやすい点を指摘し、

“「リサーチの時間も費用もなく」
 進めた新商品発売計画が失敗したら、
 いったい誰が責任を取るのか?”

と疑問を呈しています。


“リサーチさえきちんとやっておけば、
 計画が不成功に終わっても反省して次に生かせる。

 リサーチの予測が間違っていたせいか、リサーチの
 結果を無視してマーケターがその商品の市場導入を
 行ったせいか。

 そこを見極めて次に結びつければよい。”


というのが石井先生の考え。私ももちろん同意します。


ところで、石井先生が説く

「マーケティング・リテラシー」

は、特に「調査」の重要性を強調されています。


その意味では、私はむしろ

「リサーチ・リテラシー」

と呼ぶのが適切ではないかと感じました。


というのも、広告や販売促進といった

「マーケティング・コミュニケーション」

については、知識や経験が豊富なマーケターであっても、
意外と、「調査」についての知識が十分ではないからです。

そして、実は、しばしばリサーチ・リテラシーの低さが、
マーケティング企画の立案や実行上の障害となる場合が
ある点です。(私自身、過去なんども経験してきました・・・)


もちろん、すべてのマーケターが、
調査の具体的なノウハウ・テクニックを習得する必要は
ありません。


ただ、調査の意義や、基本的な調査・分析手法の考え方、
データの見方といった最小限のリサーチリテラシーを
持っておく必要性は高いんじゃないでしょうか?

(補足)
具体例として、マーケティング・コミュのトピックを引用してますけど、
トピを立てた方個人に対する非難・中傷の意図はまったくございません。

また、仮にそう受け取れる表現があったとしても、それは個人の人格に
対するものではなく、特定の行動についての指摘です。

記事で本当に伝えたいことは、記事中のような行動を取る企業が
過去に存在していたけれど、、今もやっぱりあるんだなあという
私自身の嘆きです。

投稿者 松尾 順 : 11:04 | コメント (6) | トラックバック

ベロタクシー増えてます。

ミク友さんの日記で知ったんですが、
東京・丸の内に「ベロタクシー」(自転車タクシー)が
走り始めたんですね。


ベロタクシージャパンのHP


を見ると、先月(4月)から開始したようです。


運行エリアは、丸の内周辺だけじゃなくて、
港区、渋谷区、千代田区、中央区の4区をカバー。

運行期間は4月から11月まで。

屋根はあるものの、ドアがありませんので
冬は寒くて乗る人がいないということでしょうか。


料金は初乗り0.5kmまで大人300円。
時速11Kmということですから、急ぎの用には向きませんね。
(言うまでもない)

でも、渋滞してたら逆に早いかも。


ベロタクシーは、東京以外でも、
大阪、京都、名古屋、熊本などですでに走ってますよね。


今年2月に、熊本行きANAの機内で見たドキュメンタリー
番組を思い出しました。

それは、熊本でベロタクシーを始めた若者たちを取材したもの
でした。

ベロタクシーは欧州(ドイツ?)で製造されているようで、
1台約80万円するそうです。


番組に登場した若者は、京都で見たベロタクシーに
感動して地元熊本でやりたくなり、何台か購入して営業を
始めたという経緯だったと思います。

カメラは、ベロタクシーを漕いで1日中走り回る若者たち
(女性もいました)を追いかけてましたが、
夏の炎天下で走るのはなかなか大変そうでした。

でも、健康的な商売ではありますね。
仕事の後のビールがうまいのは間違いなし!


ただ、熊本では多少需要に見込み違いがあったようです。

番組で見たベロタクシー1台に乗ったある日のお客さんの数は、
わずか5組ほど。日商数千円足らず。

まだ始めたばかりで、地元の方にあまり認知されて
いないという背景もあったようですが。


ベロタクシーの料金設定を考えると、
乗る人が地方より格段に多いはずの東京であっても、
そう簡単に儲かる商売ではないんでしょうね。

なお、乗車収入以外の収益源としては、
車体広告のスポンサーを集めるということを
やってます。

投稿者 松尾 順 : 00:56 | コメント (0) | トラックバック

「その店のルールが全然わからない」

「その店のルールが全然わからない」

*『やまだ眼』(山田一成、佐藤雅彦著、毎日新聞社)より


実は、私はサンドイッチチェーンの「サブウェイ」の
サンドイッチを食べたことがありません。

自分の好みのサンドイッチが作れるというのが、
セールスポイントのサブウェイですが、冒頭のとおり

「サブウェイのルールが全然わからない」

のでなんとなく気が引けてしまうんですね。


店員さんに

「初めてなのでオーダーの仕方教えてください」

と素直に聞けばいいんですけどね。今さらねぇ・・・


“サブウェイとかスタバとか、最近増えてる横文字の店、
 あれもこれも選べますとくるから面倒でならねぇなあ、
 そばといったら、黙ってそばが出てくるそば屋を
 見習ってほしいもんだ、なあ熊さん。”

“へい、まったくです、ご隠居!”


『やまだ眼』は、お笑いの山田一成氏の言葉に、
元電通のプランナーとして有名な佐藤雅彦氏の解説が入るという
ユニークなスタイルで、毎日新聞夕刊に掲載されていたものを
単行本化したものです。

人間心理のちょっとした機微を簡潔な言葉で
切り取っていてなかなか面白いです。


「人と同じなのは嫌だけど、人と違うのも嫌だ」


この言葉も、矛盾する消費者心理をうまく表してますよね。


しかし、『やまだ眼』。

でかい文字、余白たっぷりのソフトカバー。
30分足らずで読めてしまうのに

「しおりのひも」

が付いている。

『やまだ眼』(山田一成、佐藤雅彦著、毎日新聞社)

投稿者 松尾 順 : 11:25 | コメント (0) | トラックバック

シャドーサイト:ペッパーランチのケース

先日のペッパーランチ心斎橋店の暴行事件には唖然ですね。

同店の店長と店員の2人が、店内で食事中の20歳の女性を
スタンガンでおどして車で連れ去り、乱暴したのみならず、
女性の財布も奪うという極めて悪質な犯罪。


事件当時2人は制服姿であり、警察の調べに対して、

「インターネットでスタンガンや睡眠薬を購入し、
 女性客を物色していた」

とのことです。


被害者の女性は、本当にお気の毒です。

まさか「ペッパーランチ」のような大手飲食チェーンの店内で
犯罪に巻き込まれるとは予想もしていなかったでしょうね。


今回の事件は組織犯罪ではなく、
あくまで個人が起こした犯罪ではありますが、
同店のブランドへの被害も甚大です。

「ペッパーランチ」は、
一夜にして汚れたブランドになってしまいました。


女性客は、とても入る気がしないでしょう。

ペッパーランチは、私も結構好きでした。
渋谷店などによく行ってましたが、もはや食事を
楽しめそうにないので、しばらくは行く気になれません。


こうした事件が起きると、

「なんでそんな悪質なやつを雇っていたんだ!」

などと、無責任な発言をする人が必ず出てきますが、
それは現実問題としては難しいことです。

この考えが行き過ぎると、

「犯罪歴のある人は雇用しない」

といった雇用差別につながりかねませんし。


さて、今回の事件を受けて、
運営会社の「ペッパーフードサービス」は、5月17日、
Webサイトで真摯な謝罪文を掲載していますね。

→ペッパーフードサービス

同社では取り急ぎ、すべてのコンテンツを隠し、
トップページに謝罪文だけアップしています。


最近知ったのですが、
こうした謝罪に相応しい処置を施したWebサイトのことを

「シャドーサイト」

と呼びます。


「シャドーサイト」は、
企業広報における危機管理の一環としての対応です。

事件発生以前に作成されていた派手なトップページのまま、
謝罪文を掲載しても、企業の気持ちは伝わりません。

そこで、フラッシュ動画を削除したり、
地味な色合いのレイアウトに変更することにより、
サイト全体で、お詫びの気持ちを伝える工夫が必要に
なってきます。

シャドーサイトの体裁や内容ついて、定型のひな型が
あるわけではないそうですが、どんな優良企業でも、
いつどんな形で謝罪をしなければならないかわかりません。

ですから、事前に自社における「シャドーサイト」の仕様を
決めておけば、迅速な対応が可能になりますね。


「ペッパーフードサービス」の場合は、
同社にとっても想定外の事件でしたでしょうし、
おそらく慌てて作成したシャドーサイトだと思います。

しかし、すべてのコンテンツを隠してしまうのは
ちょっとやりすぎかも知れません。


心斎橋店以外の店は平常どおり営業しているでしょうし、
残りのまじめに働いているスタッフの皆さんの士気を維持し、
またブランドを立て直すためにも、基本的な情報はこれまで通り
オープンにしておいて良かったんじゃないでしょうか?

*シャドーサイトについては下記記事を参考にしました。
 この場を借りてお礼申し上げます。

→企業Webサイトの危機管理事例
 (雨宮和弘氏、クロスメディア・コミュニケーションズ)

投稿者 松尾 順 : 10:37 | コメント (0) | トラックバック

Webサイトのユーザビリティ・・・ローカルナビの位置


埼玉県八潮市にあるステンレス容器メーカー、

日東金属工業株式会社

のWebサイト、まず見てもらってもいいでしょうか?


このサイトは、中小製造業のネット活用を支援する
NCネットワークの「エミダス・ホームページ対象2006」の
グランプリを受賞しています。

さすが「グランプリ」を受賞しているサイトだけに、
全体的によくできていますよね。


ただ、私が着目したのは、右サイドに置いてある

「ローカルナビゲーション」(ローカルナビ、以下同様)

です。

ここには、生産工程や主要製品等が表示してあります。


一般に、ローカルナビの位置は、
「右サイド」じゃなくて、「左サイド」ですよね。


このサイトのローカルサイトの場合は、
右側に置いてあったので「おやっ?」と思ったわけです。

ただ、このローカルナビゲーションは、
メニュー毎に項目が変わるわけではないので、
正確にはローカルナビゲーションではなく、
広告的な位置づけとして右側に置いてあるのかもしれません。


続いて、私の古巣のWebサイトをご覧ください!

株式会社電通ワンダーマン

こちらは、先日サイトリニューアルをしたばかりですが、
こちらのローカルナビも右サイドに置いてあります。

つまり、このサイトの場合も一般的な位置とは反対側です。


実は以前から、個人的にはローカルナビは
右側に置いてある方が使いやすいと思ってました。

というのも、ページのスクロールのために、
カーソルは大体、画面の右側に待機させてますよね。

だから、ローカルナビゲーションは右サイドに置いてあった方が
カーソルの移動が少なく楽です。

これが、左サイドに置いてあると、ローカルナビに
行くために画面を横切らなければならなくなりますので、
結構面倒です。

あなたは、どう思いますか?


サイトのユーザビリティ(使い勝手)を
高めるための法則のひとつは「前例に従え」です。

過去のサイトで一般的に採用されてきたレイアウトに
準拠すれば、ユーザーが戸惑うことがないからです。

ですから、ほとんどのサイトで、
ローカルナビゲーションが左サイドに置いてあります。

もちろん、ローカルナビゲーションを左サイドに置くのは、
可変サイズ対応とか、フレームを使用する場合など、
ちゃんとした理由があってのことでしたが。

ただ、左サイドに置かなければならない必然性があればともかく、
そうでなければ、前例にとらわれず、よりユーザビリティの優れた
デザインを考えてみるというのも必要だなあと、日東金属工業や
電通ワンダーマンのサイトを見て思った次第です。


まあ、ローカルナビの位置なんてそれほど重要ではないことです。

でも、サイトの使い勝手の良し悪しは、
結局、このような細かい点を改善するかどうかの積み重ねで
決まってきます。

投稿者 松尾 順 : 09:33 | コメント (5) | トラックバック

10年商品を作る「BMR」(3)

「BMR」(Basic Marketing Relations)は、日本語では

「基盤マーケティングリレーション」

と銘打たれています。


この言葉には、

「マーケティングの押さえるべき要素とその関係」

をモデル化したという意味が含まれているそうです。


なお、

BMRの全体像 > http://www.dohouse.co.jp/word/bmr.html

をご覧になると、ITに強い方なら、
なんだか見覚えのある表現様式だなあと思われるでしょう。

というのも、このモデルの表記は、
データベースの設計法で利用される

「E-Rモデル」

の考え方を踏襲しているからです。
(E-R図の詳細に立ち入るのは、やめときますね)


さて、では、BMRを実際どのように活用するのか、
具体例も交えてご紹介してみましょう。
(詳細は末尾の本をご参照ください)


◆「製品領域」を発想(構想)する

製品(P)は、
どのようなウォンツ(W)を対象にし、
そのウォンツはどのような人(T)が、
どのような時・場面(O)に
抱くものか

をイメージしたものをBMRでは

「製品領域」

と呼び、「(T、O、W)-P」と表現します。

(注)
P:Product
W:Want
T:Target Consumer
O:Occasion


本では、次のような例が示されています。

-製品領域------------

T:働き盛りの30-40代のビジネスマンが、
O:夜、あまり食事を取らずに飲んで帰った時に
W:さっぱり気分を落ち着かせるものがほしい。

P:お茶漬け

---------------------


◆「製品コンセプト」を創出する

「製品領域」を発想することで、製品(P)のカテゴリー
(例示では「お茶漬け」)が決まったら、つぎに
その「製品コンセプト」を創出します。


製品コンセプトは、

どのような製品分野(P)で、
顧客に提供するベネフィット(B)は何であり、
それはどのような製品属性(A)で実現するか

を規定したものです。

「B、A、P」と表現します。


本には「お茶漬け」の製品領域に対応する具体例が
挙げてありませんので、私がひとつ示させてもらうと、
次のようなものがあるでしょうか。

-製品コンセプト------

B:脳天を直撃する刺激で爽快な食後感
A:原材料として、ハバネロをたっぷり配合
P:暴君ハバネロ茶漬け
 *東ハトさんとのコラボ?

---------------------


なお、上記の製品コンセプトを具体的に説明する際には、

「ハバネロをたっぷり入れること(属性:A)により、
 脳天を直撃する刺激が爽快な食後感(ベネフィット:B)を
 与える暴君ハバネロ茶漬け(製品:P)です」

という言い方をします。
 

もうひとつ別の例。
これは、「なぜ売れないのか」(稲垣佳伸著、日本経済新聞社)
に紹介されていたものです。


-製品領域------------

T:一人住まいの若者が
O:時間のない朝食時に
W:手っ取り早くスープを飲みたい

P:インスタントスープ

---------------------

-製品コンセプト------

B:3分で手早く飲める
A:ドライ・パッケージ&一人用小袋
P:インスタントスープ

---------------------

わかりやすいですよね?


「BMR」を利用すると、

ターゲット消費者の「ウォンツ」と製品の「ベネフィット」

を結びつける製品をきっちり構想することができる点が
おわかりでしょうか。


BMRを使い慣れるためには、さまざまな既存商品をネタに、
「BMR」に基づいて製品領域、および製品コンセプトを
記述するとしたらどうなるかなと実際やってみることを
オススメします。


今回でBMRのご紹介は終わりです。

蛇足ながら、BMRに基づいて構想された商品は、

「10年持つ」

ロングセラーになるというのが、BMRの

「ベネフィット」

ということなんでしょうね。


*「10年商品を作るBMR」
(山中正彦監修、ドゥ・ハウス編、ドゥ・ハウス)

*残念ながら、一般書店では入手できません。
 アマゾンの「e託」を利用して販売されています。

投稿者 松尾 順 : 11:55 | コメント (0) | トラックバック

10年商品を作る「BMR」(2)

「BMR」(Basic Marketing Relations)は、
新製品を発想し、開発を進めていく上で有用な切り口を
示してくれる優れたフレームワーク。

*製品単体だけでなく、新規事業全体にも応用可能です。


BMRの全体像はこちらで見ることができます。


この図を見ると、「消費者」と「製品」が左右にドンと
置かれていることがわかりますね。

この2つの要素がマーケティングの「主役」だからです。


さて、消費者の枠で重要なのは、次の3つの視点です。

(T) 特にどういう人達に対してか(Who→Target Consumer)
(O) どこで、いつ(Where、When→Occasion)
(W) 何を欲しているか(What→Wants)


一般消費者全体(General Consumer)の中から、
開発しようとしている製品のターゲットを明確化し、
彼らの製品を使用するシチュエーションや欲求を検討するという
ことです。


一方、製品の枠で重要なのは、次の2つの視点。

(B) 消費者になぜ購入してもらうのか(Why→Benefit)
(A) それをいかに具体化するかの製品属性(How→Attribute)

物理的な存在としての製品(Product)を発想する時、
ユーザーにとってどんな価値、便益を提供するかという視点と、
大きさや形状、重さ、機能、性能といった具体的な製品仕様と
して落とし込む視点の2つが必要だということですね。


そして、このBMRの全体像の中央では、消費者と製品が

(W)Wants:欲求と、(B)Benefit:便益

で結びつけられています。


これは、前回ご紹介したマーケティングの定義そのものです。

「消費者のウォンツと製品のベネフィットを結びつけること」


BMRの中心は、消費者のT、O、W、製品のB、Aですが、
これらと関連する要素がいくつかあります。

まず、消費者の行動に影響を与えるものとしての「環境」
(Environment)があります。

たとえば、景気後退期には購買意欲が減退しますよね。
あるいは、災害が頻発していると防災系製品に対する欲求が
高まったりします。

消費者に製品を届けるためには、「流通チャネル」
(Distributer)の整備や活用が欠かせません。

また、どんな製品を開発できるかには、企業の「研究開発」
(R&D:Research&Development)が大きくかかわっています。

そして、製品にはおおむね「競合」(Competitor)が
存在します。


では、改めてBMRの全要素を列記します。

-------------------------------------------

E(Environment):環境
G(General Consumer):生活者(一般消費者)
T(Target Consumer):ターゲット
O(Occasion):オケージョン
W(Wants):ウォンツ(欲求)
B(Benefit):ベネフィット(便益、価値)
A(Attribute):製品属性
P(Product):製品
R(R&D):技術(研究開発)
D(Distributor):流通チャネル
C(Competitor):競争企業

-------------------------------------------


BMRは、製品開発の企画や、調査企画の仮説立案などに
実際に利用してみると実感されると思いますが、
実に使いやすいツールなのです。

前回も申し上げましたが、検討すべき要素が
網羅されていますし、要素間の関係性が明示されているからです。


(注記)
上記BMRの解説には、私の解釈も若干入っています。
下記解説本の内容通りではない点、あらかじめご了承ください。


「10年商品を作るBMR」
(山中正彦監修、ドゥ・ハウス編、ドゥ・ハウス)

*残念ながら、一般書店では入手できません。
 アマゾンの「e託」を利用して販売されています。

投稿者 松尾 順 : 09:38 | コメント (3) | トラックバック

10年商品を作る「BMR」(1)

「BMR」とは、

Basic Marketing Relations

の略です。


「BMR」は、味の素に在籍されていた山中正彦氏
(現法政大学キャリアデザイン学部教授)によって生み出された
オリジナルな枠組み。

新製品を発想し、開発を進めていく上で有用な切り口を
示してくれる優れたフレームワークです。

私は、数年前に、「BMR」の存在をあるマーケティングの本で知りました。

以来、私は、商品開発だけでなく、マーケティング調査を行う際の
「仮説づくり」「設問出し」にも使える枠組みとして「BMR」を
活用させてもらってきてました。


実は、「BMR」の詳細はこれまで公表されていなかったのですが、
本日(07/05/14)、入門書が発刊されています。

「10年商品を作るBMR」
(山中正彦監修、ドゥ・ハウス編、ドゥ・ハウス)

*残念ながら、一般書店では入手できません。
 アマゾンの「e託」を利用して販売されています。

私は、上記本の出版に当たり、ゲラ原稿のレビューに
参加していたこともあり、完成版をいち早くいただきました。


そこで、本日から何回かに分けて、本書を元に、

「BMR」

のポイントをご紹介したいと思います。

まず、「BMR」の出発点となる

「マーケティング」

の定義ですが、次のとおりです。


「消費者のウォンツと製品のベネフィットを結びつけること」


ここで、‘ベネフィット’は製品の‘価値’のことですので、
言い換えると、

「消費者の欲求と製品価値を結びつける」

のがマーケティングであると言えます。


そして、「消費者の欲求」と「製品の価値」を

「どうやって結びつけるか」

についての切り口を提供しているのが

「BMR」(Basic Marketing Relations)

なんですね。


さて、新商品開発のためのプランニングに使える枠組み
としては、次のようなものがよく知られていますよね。

・3C(Customer、Company、Competitor)
・4P(Product、Price、Place、Promotion)
・5フォーシズ(詳細略)
・バリューチェーン(詳細略)

上記はどれも有効なツールではありますが、
商品開発に重要な要素が‘漏れなく’カバーされている
わけではありません。


その点、「BMR」は、
メーカーの商品開発現場で実践的に生み出された枠組みですので、
商品開発に欠かせない要素が網羅されています。

このため、主に消費者を対象とする商品評価のための
アンケート調査等における「仮説立案」や「設問出し」にも、
大変便利な枠組みにもなるわけです。


えーと、今回は前振りだけですいません。
次回からBMRの具体的な内容について解説します。


お楽しみに!

投稿者 松尾 順 : 13:46 | コメント (0) | トラックバック

ブレーキのないアクセルだけのクルマ

ブレーキのないアクセルだけのクルマ。

ソフトバンク社長、孫正義氏をなにかにたとえるとすると
こんな表現がぴったりでしょう。


同社元常務取締役、現SBIホールディングス代表取締役CEOの
北尾吉孝氏氏は、

“孫さんは止まるを知らない人です”

とおっしゃってますし。


孫氏が、野村證券にいた北尾氏にソフトバンクへの入社を
口説いていた時、北尾氏が、イトーヨーカドーの現名誉会長、
伊藤雅俊氏に相談したところ、

“孫さんは天才だよ、しかし重大な欠陥がある。それは、
 事業欲が強すぎることだ”

と答えたというのは結構有名な話ですよね。


ただ、伊藤氏は言葉を続けて、

“しかし、孫君のところならいいと思うよ。
 彼を止められるのは君くらいかもね”

と入社を後押ししたのです。


実際、北尾氏は、ソフトバンク入社後、
いわば、「暴走するクルマ」である孫氏のブレーキ役として
何度も孫氏を止めてきました。


さて、先日発表されたソフトバンクの2007年3月期連結決算では、
売り上げは前期の2.3倍の二兆五千四百四十二億円、
営業利益は二千七百十億円と、どちらも過去最高。

いろいろあった「ソフトバンクモバイル」も、
蓋を開けてみれば、増収増益。


旧ボーダーフォンの買収に当たっては、

「沈みゆく船を買おうとしているのか」

という議論があったようですが、結果的には、
連結営業利益の6割を携帯事業で稼ぐ構造となっています。


北尾氏は、昨年(06年)にソフトバンクグループを離れて
独立されていますが、北尾氏同社に対する貢献は相当なものが
あったんでしょうね。


冒頭の北尾氏の話は、

「何のために働くのか」
(北尾吉孝著、致知出版)

から。


この本は、なかなかに深い味わいのある内容でした。

投稿者 松尾 順 : 12:02 | コメント (0) | トラックバック

無料の飲料自動販売機

「なにかを無料で提供するので、その代わりに広告を見てね」

というビジネスモデルは、ユーザー側に広告を見る
「面倒」や「手間」があったりするとなかなか普及しにくいもの。

たとえば、電話をかける時に最初に15秒くらいの広告を
聞けば電話代がタダになるといったサービスは、はっきり言えば、
「面倒」なのであまり利用する気にならないですよね。

また、テレビ業界のように、ビデオ録画でCMスキップ可能と
いった抜け道が出てくると頭が痛い・・・


その点、電車内のように、ユーザーが「囚われの身」で
逃げ場がない状態だと広告を見てくれる率も高まりますから、
広告を出す側としては安心感があります。


さて、電車内と同様、ユーザーを囚われの身にして
広告を見せる新しいビジネスが登場!

それは、なんと“無料”の飲料自動販売機です。


自販機中央に設置された19インチの液晶タッチパネルから、
コーヒーやジュースなど好きなものを選ぶと、
紙コップに飲み物が注ぎ終わるまでの30秒の間、
その液晶画面に広告が流れる仕掛け。

しかも、紙コップも、広告と同じ図柄が印刷可能。


広告費用は、紙コップ1杯分で70-80円。

広告単価としてはかなり割高ではありますが、
自販機の設置場所を軸としたエリアマーケティングに
使えそうですね。


この無料飲料自動販売機の登場は、今年6月の見込み。
運営は、コップ式飲料自販機大手、アペックスと広告会社が
共同で行うそうです。

投稿者 松尾 順 : 09:23 | コメント (2) | トラックバック

「オフィスグリコ」・・・3年かけた仕組みづくり

私事で恐縮ですが、私の事務所に本心では置きたいが、
絶対に置かないことにしようと固く心に決めているのが、

「オフィスグリコ」(富山の置き薬的お菓子販売システム)

です。


というのも、私は、

「(酒を)飲むこと」「(なんにせよ)食べること」

については、抑制ができない性質(たち)なもので・・・(^^ゞ


もし本能の誘惑に負け、うっかり置いてしまったら、
お菓子箱1ケース分のお菓子(1ケースに24個入ってます)
を一人で数日中に食べ尽くしてしまうこと必至!

ですから、継続的ダイエット中の私としては、
以前2度ほどグリコさんの営業訪問を受けましたが、
ぐっとこらえて思いとどまったのです。


さて、私事はさておき、「オフィスグリコ」はすばらしい!

2007年3月末現在で、東京や大阪のオフィス8万5千箇所に
菓子箱を設置。単価100円の小銭商売ながら年商は

「26億円」

を達成してます。(日経情報ストラテジー、JUNE 2007)


しかも、全体ではまだ赤字ですが、
全国50箇所の販売拠点のうち、開設から3年以上を経過した
拠点の多くが、営業利益ベースでは黒字化を果たしています。


私がなにより「すばらしい」と思うのは、
事業の立ち上げ・展開に当たってじっくり腰をすえて
取り組んだという点です。

オフィスグリコの構想検討開始は97年頃でした。
そして、99年2月に大阪に第1号販売センターを設置。

その後、本格展開を開始したのは2002年の3月ですから、
実に3年間もの間、薄利商売で利益をだす「仕組みづくり」
に取り組んだのです。

さすが、1粒で300メートルのグリコです。実に粘り強い。

性急に結果を求めるあまり、有望な事業の芽をつぶして
しまいがちな昨今の企業とは違いますね。


さて、この3年間の仕組みづくりの中で、
オフィスグリコでは、多くのものを捨ててきました。
利益を確保するために。


たとえば、代金回収方法。

社員が自由に飲めるオフィスコーヒーシステムは、
企業の総務部門に対して一括請求することができます。
(福利厚生費扱いにできますし)

しかし、お菓子はそうもいかない。
企業から代金をまとめて回収することは困難でした。


そこで、野菜の無人路上販売方式を参考にして、
菓子箱についた貯金箱に、
ユーザー自身で代金を入れてもらうことにしました。

買い手の善意に頼るやり方ですね。

しかし、うっかり入れ忘れたり、ずるして払わない人も
いるのでしょう、回収率は95%だそうです。
(つまり、5%の売り上げロス、しかし意外に回収率は
 高いですね)

でも、確実に回収しようとするための手間が発生しません。

電気代がかかる自動販売機にする必要もなくなったため、
お菓子箱には、普通のプラスチックケースが使えて、
結果的に効率的でした。


また、「単品管理」も捨てました。

単品情報の入力の手間をかけていると
採算が合わないことがわかったからでした。


また、そもそも「単品管理」をする必要性も
低かったのです。

というのも、単品管理の主たる目的は、

売れ筋・死に筋

を把握して在庫の適正化を図ることですが、
お菓子は飽きられやすい商品であるため、単純に、
売れ筋・死に筋という判断はできないからです。


そこで、オフィスグリコでは年間52週分の商品配置計画を
作成し、3回の巡回訪問(商品補充と代金回収のため)で
すべての商品が入れ替わるようにしています。

ただ、単品管理をせず、在庫と販売の効率を最大化を
目指しつつ、商品を頻繁に入れ替えるという「方程式」を
解くのは相当の難題だったようです。

実際、この方程式を解くために発見した一定の「法則」に
ついては、特許申請も行っているそうです。

オフィスグリコでは、上記以外にも、
捨てるべきものはいさぎよくどんどん捨てていきました。


「この事業は一筋縄では行かない」

とわかっていたからこそ、同事業を担当された方々は
とことん頭を絞り、試行錯誤を通じて

「必勝パターン」

を生み出していったのでしょうね。


オフィスグリコのような地に足についた仕事のやり方が、
私は本当に大好きです。


でも、ごめんなさい、
オフィスグリコは、置きたいけれど置けないの。

体重があと10キロ減らせたら考えてもいいんですけど。(笑)

投稿者 松尾 順 : 02:10 | コメント (2) | トラックバック

効率は、愛を育まない

母親やパートナーが作ってくれた

「手料理」

には、外で買ってきた出来合いの惣菜にはない深い愛情を
感じますよね。


なぜでしょうか。

それは、手間をかけているから。つまり、貴重な時間を
たっぷりとかけて作ってくれているからですよね。


以前も同じようなことを書きましたが、
「愛」を相手に伝える最も効果的な方法は、

「あなたのために、自分の時間をたくさん使っていますよ」

ということを何らかの形で示すことです。


ですから、思いを寄せる男性に手編みのセーターや
マフラーをプレゼントするという女性の古典的な告白手法は、
実際、高い効果があったわけです。(笑)


また、マーケティング的な例では、

・プリンターで作成された手紙よりも、
 手書きの手紙をもらった方がうれしいこと

・書店やスーパーなどのPOP広告は、
 手書きの方が効果が高いこと

・旭山動物園の説明パネルは、印刷された立派なものより、
 飼育係が書いた手作りのパネルのほうがよく読まれること

が挙げられます。

手書き文字の効果が高いのは、
それが書き手の個性を感じさせるからというだけでなく、
わざわざ手間(時間)をかけて自分で書いている事実が
相手の好感を引き出しているからだと思います。


さて、私の専門とする

「CRM」(Customer Relationship Management)

は、ベタな言い方をすると、

「お客様と相思相愛の関係になること」

です。


ただ、この点について、
大きな勘違いをしている企業(人)が多いように思います。

大きな勘違いとは、CRMを

「お客様が、自社(商品)を愛してくれるようにすること」

と、考えていることです。

つまり、企業側が一方的にお客様の愛を求めているわけです。
実に独りよがりな考えですよね。
(理念レベルではそうじゃなくても、現実のCRM施策立案段階
 ではどうしても、こうした考えに傾きがちなんですよ・・・)


しかし、お客様に愛してほしければ、お客様の愛を一方的に
求める前に、まず企業側がお客様を愛すべきでは?

そして、このためには、「愛していること」をお客様に
実感させることが必要です。


これは、理想論でもきれいごとでもありません。

感動を与える商品(サービス)を提供している、
顧客満足度の高い企業は実際、

「お客様への愛」

を効果的にお客様に伝えています。


リッツ・カールトンや加賀屋等の取り組みを
お読みになれば、よくおわかりになると思いますが、

「お客様への愛」

を伝えるために彼らがやっていることは、効率を度外視して、

「手間をかける」「時間をかける」

ことなんです。


今、「効率」という言葉を書きましたが、CRMの最大の壁は、

効率至上主義に傾いている現代の企業経営

との矛盾なんですね。


効率とは、端的にいえば、

「できるだけ手間や時間をかけないこと」
(結果的にコストを削減できるから)

です。

しかし、言うまでもないことですが、
効率重視のサービスは、「愛」が伝わりません。


すなわち、

「効率は愛を育まない」

のです。


したがって、

「お客様と相思相愛になる」

という本来のCRMの思想を実践しようとする企業は、
短期的な効率を捨てなければいけません。
(もちろん、「手間の使い方」にはメリハリが必要ですよ)


短期的な効率を捨てることで利益率は低下します。
個別案件だけで見ると、マイナスになることもあるでしょう。

しかし、長期的にはつじつまが合います。

手間をかけている企業が、
長きに渡り存続していることがその証です。
(逆に、短期的な効率を重視している企業ほど、
 意外に短命ではないでしょうか)


ところで、「長期的」というのはどのくらいの長さかなのか、
気になりますか?

経験則的に言えば、最低3年です。


「お客様と3年越しの愛を育む」

という心構えでいればきっと成功します。

投稿者 松尾 順 : 10:39 | コメント (2) | トラックバック

人と同じことが言えて、人と違うことが言える

私が、「プロのマーケター」の端くれとして、
常に重視していることがあります。

それは、

「アイディアの独創性(オリジナリティ)」

です。

逆に言えば、単なる他人の猿マネや焼き直しのアイディアは
絶対に避けたいということです。


ただ、まったく何もないところからオリジナルなアイディアを
生み出すというのは極めて難しい・・・
(一握りの天才を除いては!)

ですから、天才でもなんでもない私としては、
手持ちの情報を組み合わせたり、形を変えたり、発展させること
によって、なんとか多少なりともオリジナリティを持たせようと
するので精一杯です。


こんな私が、心に強く刻んでいる言葉があります。


「人と同じことが言えて、人と違うことが言える」


これは、私が尊敬する東京大学教授、
妹尾堅一郎先生から教えていただいたもの。

「研究者が目指すべき態度」とでも言えるものです。


どんな意味なのか、ご説明しましょう。

まず、

「人と同じことが言える」

とは、自分の専門分野において過去に公表された
様々な理論や実践例、意見などに通暁していて、
求められればそれらについて説明することができること。

すなわち、他人が「既に語ったこと」を知っているから、
自分も言えるということです。


一方、

「人と違うことが言える」

とは、既に人が語ったことではない、
自分なりの新しい理論や考えを生み出すこと。


すなわち、過去に語られなかった自分発の

「新しいこと」

を言うことです。


そして、もし、単に「新しい」というだけでなく、
これまでの定説を覆すような発見や証拠、有用性があると
認められれば、それは

「独創性」や「創造性」の高い価値ある言説・アイディア

として、周囲から高い評価を受けることもあるわけです。


前述したように、これは、大学などで研究を行う
研究者に向けられた言葉です。

関心領域の研究を行うに当たって、
まず先行研究を徹底的にレビューするのは、
「人と同じことが言える」ようになるため。

また、これは、自分が行おうとしている研究の核となる
アイディアが、二番煎じではないかを確かめるためでもある。

新発明の製品を特許出願しようとする際に、
過去に別の人によって同一・類似の発明が出願されていないか
を特許データベースで調べるのと同じような行為ですね。


もし、この過去研究のレビューをおろそかにし、
ひとりよがりなアイディアだけで研究をやってしまうと、

「あなたの言ってることは、既に20年前に立証されてた
 ことじゃないか。だからもはや研究をやる価値はないよ」

などと言われてしまう可能性があります。


さて、私が先ほどの言葉を心に刻んでいる理由は、
研究者だけでなく、斬新なアイディア、二番煎じでない提案が
求められる「マーケター」にとっても意義ある言葉だと
考えているからです。

顧客、消費者は常に、新しい、独創的なアイディアを
求めていますよね。そして、そうした要望に応えることが
できるかどうかが成果に直結するわけです。


ですから、

「人と同じことが言えて、人と違うことが言える」

を目指すことが必要だと思いませんか?


もちろん、これを実践しようとしたら、
まず、自分の専門領域の過去文献・資料を全て読み込むと同時に、
これからも次々と公表されるであろう他人の新たなアイディアも
しっかり捕捉し続けるという、途方もない努力が求められますが。


恥ずかしながら、私はまだ全然できてません・・・!
共にがんばりましょう!

投稿者 松尾 順 : 09:41 | コメント (2) | トラックバック

ヒットの要因のキーワード20

チェッカーズ、おニャん子クラブ、だんご3兄弟などの
プロデュースを手がけた、デジタルハリウッド大学大学院教授、
吉田就彦(よしだ・なりひこ)氏は、自分自身の経験や
他のヒット作品の分析に基づいてヒットの要因を
「20のキーワード」にまとめています。
(日経産業新聞、2007/05/08)


こういうキーワードは発想の助けになりますよね。
というわけで、20のキーワードとそれぞれの簡単な解説をご紹介。

----------------------------------------------

1 必然性
  その時代の人々の心の動きや気分を反映

2 欲求充足
  「競いたい」、「怖いものをみたい」などの欲求を満たす

3 タイミング
  時代のニーズに遅すぎず、早すぎず

4 サービス度
  便利でお得、「買ってもいい」という安心感

5 差別化ユニーク
  唯一無二の企画。過去に似たものがあったら見せ方を工夫

6 発想転換力
  ちょっとした発想の転換がアイディアを生む

7 サイド&ディープ
  登場人物のサイドストーリーで深みを持たせる

8 イベント連鎖
  野球中継中の勝敗予測のような企画連鎖

9 コミュニティ発
  同好の士が集まるコミュニティの声が企画に寄与

10 文化ミックス
  日韓合作映画のような異文化の融合、交流が新鮮な驚き

11 だまさない
  はったりは効かない。本当に優れたものを

12 自ら顧客探し
  ネットを使うなどして、だれでも手に入れやすくする

13 デジタル口コミ
  ネット上の情報交換が大きな情報波及力を持つ

14 コアコミュニティ
  「デジタル口コミ」は、連帯感を持つコアなファンが主導

15 低コスト・高クオリティ
  デジタル技術で、高品質の映像・音楽が低コストで提供可能

16 製作アライアンス
  ドラマの中に企業の宣伝が入り込むといった新たな動き

17 顧客とつながる
  デジタル配信ですばやく流通、顧客の反応も素早く把握

18 チャネル多様化
  映像、音楽のデジタル配信

19 マス&パーソナル
  放送などでの大量配信と双方向のネットでの個別対応の両立

20 デバイス機能
  携帯電話、携帯音楽プレーヤーなど配信端末がヒットを左右

----------------------------------------------


ところで、吉田さんがチェッカーズを売り出した時、
マーケティング戦略上、「差別化」を重視したそうです。


当時の人気男性グループは、かたや典型的なアイドルのシブがき隊、
かたやツッパリ系の横浜銀蝿でした。
(私はリアルタイムで体験してるので、実に懐かしいです・・・)


吉田さんは、「柳の下に二匹目のドジョウはいない」と考え、
上記2つのグループとは異なる立ち位置、すなわち、

「同級生のように身近に感じるグループ」

をチェッカーズに与えたのだそうです。


これは、カッコつけて言えば

「ユニークなポジショニングを与えること」

であり、ベタな言い方をすれば、

「キャラがかぶらないようにする」

ということですね。


なお、吉田さんが学生に説く「ヒットの極意」は、

「考え、感じ、ワープせよ」

です。


「頭から血が出るくらい」に真剣に考え、時代の空気を
感じて、消費者の動きを捉える。

そして、さらにワープして、消費者に新鮮な驚きを
提供しなければ、本物のヒットは生まれないのだそうです。

投稿者 松尾 順 : 10:25 | コメント (0) | トラックバック

言葉の呪縛から思考を解き放て!

ミクシィに「マーケティングコミュ」というのがあって、
いろいろとトピが立つわけなんですが。

最近、

・「ブランド・コミュニティ」の定義がよくわからないので、
 教えてください

・「シチュエーショナル・マーケティング」がどういうものか
 いろいろ調べてもわからないので、他に情報源があったら
 教えてください

といったトピが気になってしょうがありません。

どちらもマーケティングを学んでいる学生さんからのもので、
質問自体がダメというわけではありません。

ただ、どちらの方も、

「言葉」

自体に囚われすぎているように感じるんですよね。


彼らが知りたかった

「ブランド・コミュニティ」

「シチュエーショナル・マーケティング」

のどちらも、まだ比較的新しい概念ですし、
万人が受け入れる確立された「定義」はまだ存在しません。


したがって、大切なのは、上記のような言葉で指し示された
現実の行動や現象(マーケティング施策など)に目を向けて、
それらの行動に共通する

「本質」

を理解することでしょう。


たとえば、

「シチュエーショナル・マーケティング」

について言えば、その本質は、

『ユーザーの置かれた時や場所などの状況によって変化する
ニーズに対応できる(対応する)マーケティング』

と言えるでしょう。(これは、あくまで松尾の見解ですが)


だとすると、こうした取り組みをしている事例は、
「シチュエーショナル・マーケティング」と銘打ってなくても
あちこちで見つけることができます。


また、人によっては

「シチュエーションマーケティング」
「状況マーケティング」
「コンテキストマーケティング」

と異なる言葉で指し示されているものも、
「シチュエーショナル・マーケティング」と同義、あるいは
類義語であることがわかるはずです。


しかし、ここで「言葉ありき」で考えてしまうと、
狭い枠組みでしか物事を見ることができなくなってしまう。

上記の学生さんたちの質問には、
そんな印象を受けているというわけです。
(私の考えすぎかもしれませんが)


そもそも、現実の世界に対して、言葉は常に後付けです。

つまり、

「行動・現象ありき」

です。


そろそろメディア的な賞味期限が切れつつある

「Web2.0」

だって、ユーザー参加型とか、ロングテイルといった
先行事例を観察していたティム・オライリー氏が、
後から強引に括ったものにすぎません。


ですから、例えば、

「Web2.0とは何か」

とか、

「そのサービスは、Web2.0的である・ない」

といった言葉を中心に据えた議論にこだわりすぎるのは
正直なところ、「不毛」だと考えています。
(もちろん、新たな言葉を起点に、別の新たなアイディアが
生まれる可能性はありますが。)


言葉は、その本質において
他のものとの「境界線」を作り出す働きがあります。

つまり、言葉によって物事は区別されるということです。

たとえば、四足の動物を見て「犬」と呼んだ瞬間から、
言葉としては、その動物は犬以外の動物ではなくります。

しかし、そもそも犬という動物がはじめから存在していたわけ
ではありません。私たちが一定の特徴を持つ動物に対して、
勝手に「犬」という名称を与えているだけです。

これは、他のすべての物事においても同じです。


私たちは、言葉を発明することによって、
高度なコミュニケーションを可能にしました。

しかし、上述したように、言葉の呪縛によって思考の広がりが
失われ、タコツボ的議論が繰り返される可能性がある。


アイディア発想をとりわけ大切にすべき私たちマーケターは、
言葉の呪縛から思考を解き放つべきだと改めて思います。

投稿者 松尾 順 : 13:18 | コメント (5) | トラックバック

つぶれる店と繁盛する店

私の事務所の隣のビル1階にあったスペイン料理店が、
最近店を閉めたようです。

まだ、開店して2年ほどでした。

このお店は奥にちょっとしたステージがあり、
月何回かフラメンコやフラメンコギターのショーを
やっていて、そこそこ流行っていると思ってたんですが。


まあ、そういいながら、私自身は、都合3回くらいしか
この店には行ってませんでしたけどね。

今振り返ってみると、
料理はそこそこおいしかったし、値段も決して高くはなかった。

でも、いつ行っても、どうも気分が晴れないというか、
何かが欠けているという感覚と共にお店を出てました。

それで、近いのになんとなく行く気がしなかったというわけです。

気分が晴れなかった理由は、実ははっきりしてます。

それは、「スタッフの人」だったんですよね。
感情のないロボットのような、抑揚のない平坦な挨拶と受け答え。
笑顔ゼロ。過不足はないけれど、義務的・形式的なサービス。

ホスピタリティあふれるサービスを
スタッフ全員に周知徹底させるのは難しいとしても、
せめて、会計を済ませた時に、店の責任者が、
心のこもった笑顔や挨拶で見送ってくれていたなら、
もっとリピートしたのになあと思います。

そういえば、このお店、責任者が誰なのかよくわからなかった。
リーダーの存在感が希薄でした。


一方、友人が絶賛していたのでなにげにチェックしていた
新宿のイタリア家庭料理店、

「プレゴ・プレゴ」

先日、機会を見つけて行ってみたところ、期待以上の満足度でした。

「プレゴ・プレゴ」は、新宿東口から徒歩3分程度。大塚家具iDCの近く。
ベアムス!(BEAMS)の真向かいの雑居ビルの4階。

こなれた値段ながら、どの料理もおいしい。
なにより、スタッフの人たちのきびきびした動きが気持ちよく、
心地よい雰囲気にあふれていました。

周囲を見渡すと女性グループが大半でした。(こちらはオヤジ3人・・・)

新宿駅近くで地の利もいいのですが、それだけに激戦区でも
あるわけです。しかし、このお店なら、おそらくリピーターが
多いんじゃないかと感じました。

庶民的な雰囲気ですので、接待などには向きませんが、
友達同士でわいわいやるお店としては最適でしょう!

私も、また近いうちに行きたいと思ってます。

あ、そうそう、デザートで、

「焼きアイスクリーム」

というのを頼んだのですが、これも最高でした!


結局のところ、味、値段、サービスのそれぞれが平均点以上で
かつバランスが取れていることが、飲食店が繁盛するポイント
なんでしょうね。(当たり前だけど、実現はそう簡単じゃない・・・)

プレゴプレゴの手作りのHPを見ると、リーダー(店長)はじめ、
スタッフみんな若いですね。

スタッフ目当ての女性客も相当多いのかも!

投稿者 松尾 順 : 21:01 | コメント (3) | トラックバック

最後の恋のはじめ方

ゴールデンウィークの谷間、いかがお過ごしでしょうか?
私はバリバリと仕事をしております。

とはいえ、ちょっと肩の力は抜きたいなあ・・・という気持ち。
また、昨日は、現地で映画の買い付けや制作の仕事に関わっている
LA駐在員の古い友人に数年ぶりに会い、旧交を温めてました。


というわけで、たまにはお勧め映画をご紹介。


『最後の恋のはじめ方』(原題:HITCH)


この映画は、私も友人に勧められて見ました。
知られざるラブコメの佳作といったところ。

シナリオがよくできてます。主演のウィル・スミスやっぱり面白い。
脇を固める共演者たちも、いい味出してますね。


さて、ウィル・スミス演じる「ヒッチ」(HITCH)はデートコンサルタント。
もてない男性に対して「恋の手ほどき」をしてあげるのが商売です。

そして、今回のクライアントは会計士のアルバート、30歳くらい?

ちょっと太めのぱっとしない外見、何をやっても不器用な彼が、
取引先の魅力的な女性、「アレグラ」に恋をします。

彼女は親の莫大な遺産を受け継いだ、いわゆるセレブな人。
アルバートにとっては高嶺の花です。

それでも、彼女のことを思うと夜も眠れないアルバートは、
思い切ってヒッチにコンサルティングを依頼しました。

さて、ヒッチが支援することにしたアルバートの恋の行方はいかに・・・


これ以上のストーリーは見てのお楽しみということにしますが、
このドジなアルバートがなんともかわいいんですよ!

彼は、確かにあまりもてそうなじゃないし、
女性との付き合い方がよくわからない、「いるいる、こんな人」
というタイプ。


でも、恋には一途。
また、「誠実」なだけじゃなく、実は言うべきことはズバリと言える
「勇気」と、セレブ社交界のいやみでスノッブな連中を煙に巻ける
「ウイット」、そして、「キュートな口びる」(見ればわかります)を持つ、
実に魅力的な人物です。


そんな「いい奴」をなんとか幸せにしてあげようととがんばるのが
ヒッチなんですね。

ヒッチは、女性のことが本当に好きな男性だけしか助けない。

「行きずりの相手と寝たいから、どうにかしろ」

などという性悪男の仕事の依頼はきっぱり断る。
プロとしての矜持があります。


ところで、HITCHの恋の手ほどきですが、「うまく口説く方法」
というよりは、むしろ「きっかけの作り方」や「失敗しない方法」
を中心に教えています。

うまくいくかどうかは、結局は当人同士の相性ですし、
変によく見せようとしてもいつかはボロがでる。

おそらくヒッチはこう考えているんでしょうね。
クライアントの男性が持つ本来の個性をそのまま相手に出すことは
否定しないのです。


そういえば、ある著名なベンチャー企業の経営者が、

“女性にもてるコツは、なによりもまず「不潔な服装」など
女性に嫌わる点を一つ一つつぶしていくことだ”

と喝破していたのを思い出しました。

ビジネスも同じですが、成功するかどうかの予測は難しいけれど、
失敗するかどうかは、ほぼ100%予測できますからね。

成功の法則はないけれど、失敗の法則はあるのです。
恋愛にもビジネスにも。

ともあれ、この映画、ほんわかハッピーになれますし、
恋はテクニックだけじゃないんだよということを教えてくれる
ナイスムービーです。

投稿者 松尾 順 : 08:46 | コメント (2) | トラックバック

全体的アプローチの勝利:ジュンク堂書店

「何でもありそうで、実際何でもある」

という点が「楽天の強み」とおっしゃっていたのは、
ECコンサルタントの故三石玲子氏でした。

同様のことは、「ヤフーオークション」についても言えます。
あそこには、楽天以上に見つからないものはない。
予想もしない奇妙なものまで出品してありますよね。(笑)

要するに、楽天やヤフーオークションは、
ユーザーの期待感を裏切らない品揃えを達成したことによって
業界ダントツトップの座を手に入れ、このことが、
さらに2位以下との差を広げることにもつながっています。
(Googleの登場によって、この優位性が多少揺らいではいますが・・・)


さて、リアルな世界で、「何でもありそうで、実際何でもある」を
実現している本屋が、

「ジュンク堂書店」

です。


他の書店が、販売点数が少ない専門書の取り扱いを大きく縮小する中、
ジュンク堂書店だけが、年に1回しか売れないような本も取り揃えるという
「逆張り」の戦略を取ってきたのです。

POSシステムの普及によって一般的となった「単品管理」
(アイテム毎の売上・利益、効率を重視)の考え方に立てば、
めったに売れない商品を在庫として持っておくのは販売効率の低下に
つながります。

したがって、こうした死に筋商品は返品し、
売れ筋商品だけに在庫を絞り込むのが論理的には正しい戦略です。


しかし、ジュンク堂の場合、販売効率を低下させることよりも、顧客の

「欲しい本がみつかってうれしい」

という気持ちを優先してきました。


その結果、ジュンク堂ファン、つまりロイヤル顧客をたくさん生み出した。
しかも、1来店あたりの客単価を3500円(一般書店は同1000円程度)と、
他店の3倍以上に引き上げることによって、業績を伸ばすことに成功した
というわけです。


私は若いころ、まだ普及が始まったばかりのPOSデータの分析に
関わっていたのですが、アイテムベースで売れ筋、死に筋を把握し、
また売上、利益、効率などを個別に科学的に分析する単品管理には
大きな意義を感じていました。

しかし、一方で、売れ筋だけに絞り込んだお店には、
選ぶ楽しみ、発見の喜びがなく、消費者の購買意欲を低下させる
という事実にも気づいていました。

客観的なデータに基づく行き過ぎた「分析的・還元論的アプローチ」は、
ビジネスをだめにする場合があるということです。

典型的な「合成の誤謬」ってやつでしょう。

ジュンク堂の場合、不良在庫(つまり返品処理商品)が発生しても、
売り場担当者などが責任をとらされる事はないそうですが、
目先の短期的な数字ではなく、

「顧客にとって魅力のある店とはどんな店なのか」

を追求する「包括的・全体論的アプローチ」が勝利につながった
好事例だと言えますよね。

投稿者 松尾 順 : 13:40 | コメント (0) | トラックバック