シンプルマーケティング(20)U&E

シンプルマーケティングのレビュー最終回です。


私が敬愛してやまないマーケティング・コンサルタント、
森行生さんの著書を20回にわたってご紹介してきました。


ロングランではありましたが、

「レーダー理論」
「購入基準ヒエラルキー」

など、ご紹介していない面白い理論や視点がまだ
いろいろと残っています。

元本はとてもわかりやすく書かれていますので、
まだ読んだことのない方は、ぜひお読みください。


ところで、「シンプルマーケティング」と
他のマーケ本・教科書との違いがおわかりになりますか?

これまでの内容を振り返ればおわかりになると思いますが、
「シンプルマーケティング」には、

・4P(Product, Price, Promotion, Place)や、
・STP(Segmenting, Targeting, Positioning)
・SWOT(Strength, Weakness, Opportunity, Threat)分析

など、定番の話がまったくと言っていいほど出てきません。

つまり、オリジナリティにあふれているわけです。

私が、同書を高く評価している最大の理由はこの点ですし、
また、マインドリーディングのブログ&メルマガで念入りに
ご紹介してきた理由でもあります。


では、最後の話に入りましょう。


標準的なマーケティングの教科書には、
なぜだかあまり登場しない言葉(専門語)に、

「U&E」

というのがあります。

実務(特に外資系企業)ではよく使われるんですけどね。


「U&E」は、

‘Usage & Establishment’

の略称、日本語に訳せば「使用実態」となります。


「U&E」はさまざまな指標によって構成されていますが、
森さんによれば、次の3つが最も重要だそうです。

・知名度
・トライアル
・レギュラー


「知名度」は、特定商品(ブランド)を知っているユーザー
の割合、「トライアル」は、一定期間に1回でも当該商品を
購入したユーザー(いわゆる「初回購入客」)の割合、
「レギュラー」は、2回以上当該商品を購入したユーザー
(いわゆる「固定客」)の割合です。


本ではグラフが示されているのですが、
広告・販売促進などマーケティング投資を増やしていくと、
言うまでもなく、「知名度」「トライアル」「レギュラー」の
割合は増加していきます。


消費者の購買行動としては、

「知名度」→「トライアル」→「レギュラー」

とハードルが高くなっていきますから、
ユーザーの割合も、知名度が最も高く、
トライアル、レギュラーと低下していきますよね。


ここで注意すべきなのは、
知名度はある一定の割合で、
ほぼ横ばい(高原状態)になってしまうことです。

そして、これ以上はいくらマーケティング投資をしても、
知名度の上昇率は極めて小さいため、投資効率が悪化します。

したがって、知名度が高原状態になる地点まできたら、
知名度を高めることを目的とするマーケティングはセーブして、
トライアルやレギュラーの割合を上昇させることに注力すべき
であるわけです。


森さんは、単に「知名度」が上がった、下がったと
一喜一憂するだけでなく、
マーケティング投資の重要な目安として「知名度」を
活用すべきだと指摘しています。

ちなみに、一般的な傾向としては、
知名度が40%を超えると、上昇カーブがいきなり急勾配となり、
60%を超えるとカーブが緩やかになって停滞し始めるため、
このあたりでムダな投資はセーブする必要があります。

なお、業種によるバラツキはあるものの、
低価格の商品なら、平均的には、知名度が60%になると、
トライアルは17%程度になるそうです。


さて、上記3つの指標から、
さらに次の2つの指標を導くことができます。

・コンバージョンレート
・リテンションレート

「コンバージョンレート」は、

「商品の名前は知っていて、購入したことがある人たち」

の割合ですね。


また、「リテンションレート」は、

「商品を一回は買って、レギュラーユーザーになった人たち」

の割合です。


これらの指標は、問題点や課題の抽出や改善策の立案・評価に
役立てることができます。

例えば、「コンバージョンレート」が業界平均よりも
低かったとします。商品名は知られているのに、トライアルする人が
少ないという状況です。

この場合、問題点としては次のようなことが
挙げられますね。

・店に商品が置いていない(流通に問題あり)
・購買意欲を刺激しないメッセージ(広告に問題あり)

こうした仮説に基づいてマネジメントサイクル(Plan-Do-Check)
を回すことで、コンバージョンレートを向上させるというわけです。


では、「リテンションレート」が低い場合の問題としては、
どんな仮説が立てられるでしょうか?

1回は買ったことはあるけど、2回以上買っている人、
つまり、固定客になる人が少ないという状況です。

食品であれば、「味がよくない」という可能性がありますね。
広告ではおいしそうに思えたので買っては見たものの、
実のところまずくて、「二度と食べたくない」と思う人が
多かったのかも知れません・・・


森さんは、

“「U&E」は、いわば戦略の羅針盤であり、
マーケティングの中枢をなす要素のひとつだ”

と述べています。


「U&E」のさまざまな指標を算出するのは、
とても地道な作業です。

しかし、こうした過程を飛ばして、
最初から商品のコンセプトをいじろうとするのは間違いです。
本当の問題は、別のところにあるかも知れないからです。


「大局から見て綿密な調査を重ね、少しずつ核心を絞り込む」

この方法論が、マーケティングの基本中の基本である。

森さんのこの主張に全面的に賛成します。


◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 2006年12月29日 11:18

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