シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番

取り上げる間隔が空いてますが、

「シンプルマーケティング」
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

の内容紹介を続けます!


シンプルマーケティングの中核と言える、

「プロダクトコーン理論」

は、シンプルでわかりやすい

「総合的な商品定義」

であるということを前回書きました。

前回はこちらを参照ください。

再度ポイントをおさえておきましょう。

プロダクトコーンは、次の3つの要素で構成されています。

・規格=企業側の商品定義(ハードな定義)
・ベネフィット=生活者の得するコト、モノ(ソフトな定義)
・エッセンス=商品が持つ性格(擬人化)


実際の商品(サービス)への適用方法の例としては、
シンプルマーケティングに掲載されている

「レストランヒルトップ」
(高層ビルの50階にある架空の店)

の場合、次のような定義になります。

-----------------------------------

規格:50階建てのビルの最上階にあり、一流のシェフと一流の素材、
   美しい夜景が楽しめる

ベネフィット:ねらった女性をおとせる

エッセンス:誘惑

-----------------------------------

なるほど・・・ですね。
森さんをご存知の方ならおわかりですが、
実に森さんらしいスマートな定義です。(笑)


さて、(潜在)顧客とのコミュニケーションにおいては、
プロダクトコーンの3要素をどのように訴求していったらよい
のでしょうか。


同書によれば、

「規格→ベネフィット→エッセンス」

の順番で訴求するメインの対象を移行させるのが基本です。
(もちろん、当該商品の市場や成長、競合状況によって、
メインとすべき訴求対象が変わってきますが)


たとえば、カロリーメイトの場合、
発売当初(82年~)は、

「バランス栄養食」

という「規格」を訴求してましたよね。

しかし、92年には広告コピーを

「朝カロリーメイト、昼カロリーメイト、夜は友人と会食。
 新しいダイエットの提案です」

と変えて、メインの訴求対象を

「ベネフィット」

に移行しています。


同書では、カロリーメイトの訴求対象が「エッセンス」に
移ったかどうかについては触れられていませんので、
私が勝手に追加説明してみます。

近年の広告コピーを振り返ってみると、2000年から、

「食べるケイタイ」「モバイル」


といった表現が使われていましたので、

「手軽な」

というエッセンスが訴求されてきたと思われます。


ともあれ、適切なコミュニケーション戦略が功を奏して、
カロリーメイトは、現在、売上200億円超のロングセラー商品
となっていますよね。


さて、森さんによれば、大半の企業は、
「規格」からいきなり「エッセンス」に移行しがちだそうです。

「ベネフィット」訴求を飛ばして、
イメージ訴求に走ってしまうわけです。

結果として、有名タレント、モデルがにっこり微笑むだけの
コミュニケーションになってしまいます。

これは、「感性マーケティング」の罠にはまっているのだと
同書では指摘されています。


また、イメージ(エッセンス)中心の戦略を実施している業界
では、ベネフィットよりも、むしろ「規格」を訴求の核に
戻した方が効果的だそうです。

たとえば、ビール業界では

「どういうわけかキリンです」

という言葉で代表される、

「イメージによるコミュニケーション戦略」

の時代が長期間続いていました。


しかし、この流れをアサヒビールは、

「コクがあるのにキレがある」

という「辛口、生」のコピーにより断ち切りました。

そして、規格を前面に押し出したスーパードライの大ヒットで
キリンを抜き、トップメーカーへと成長することができたのです。


なぜ、規格を訴求するアサヒビールのコミュニケーションは
成功したのでしょうか?


イメージ(エッセンス)は、「慣習」に似ていると森さんは
説明しています。

当時、「ビールといえばキリン」というイメージ、
言い換えると「常識」に疑問をはさむ人はいませんでした。

まさに、慣習のように、
キリンを選ぶべき理由・根拠を深く考えることもなく、
ビール=キリンと思い込んでいたわけです。

しかし、アサヒは、そこに、明確な味の違い(規格)という
「事実」を提示した。

事実をつきつけることによって、これまでの

「慣習」(ビールといえばキリンという常識)

について、消費者に再考する機会を与えたということでしょうね。


コミュニケーション戦略を分析、また立案するに当たって、
プロダクトコーンの3要素の切り口はかなり使えます!


◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 2006年11月20日 12:12

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.mindreading.jp/mt/mt-tb.cgi/325

このリストは、次のエントリーを参照しています: シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番:

» Voyance Gratuite Immediate from Voyance Gratuite Immediate
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年08月09日 01:38

» voyance par telephone from voyance par telephone
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年08月19日 21:10

» film porno gratuit from film porno gratuit
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年08月27日 06:41

» voyance en ligne gratuite from voyance en ligne gratuite
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年08月28日 10:56

» tarot en ligne from tarot en ligne
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年08月30日 20:24

» voyance amoureuse gratuite from voyance amoureuse gratuite
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年09月05日 15:55

» voyance par telephone from voyance par telephone
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年10月04日 05:11

» www.bennettsbar.com from www.bennettsbar.com
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年10月08日 03:16

» casino en ligne from casino en ligne
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年10月13日 00:02

» www.michaeldkrause.com from www.michaeldkrause.com
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年10月19日 00:08

» devis travaux en ligne from devis travaux en ligne
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年11月12日 19:02

» devis travaux en ligne from devis travaux en ligne
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年11月12日 19:03

» voyance from voyance
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2014年01月18日 12:44

コメント

カロリーメイトの例、面白い(^^)v

> 「手軽な」
> というエッセンスが訴求されてきたと思われます。

確かに、そのとおりですね。
電車内の飲食の発端がカロリーメイトだったという話もあるくらいですから^^

ちなみに「手軽な」は間違いではありませんし、模範解答です。
ただ、私は実践ではもうちょっと「艶のある」言い方をします。
この場合だと、例えば

●わがままな(いつでもどこでも、好きな時に、という意味を込めて。電車内飲食はこれかも(^^;)
●効率的な(時間を有効に使う、時間を買う、という意味で)
●ほっとした(小腹が好いた時に、ちょっと落ち着くため、という意味で)
●ちょっと、ちょっと(小腹が好いた時にがっつりは食べたくない、という意味で。ちょっとウケねらい(笑))

可逆性(エッセンスからベネフィット、ベネフィットからエッセンスへの意味がそれぞれ、ちゃんとつながっているかどうか)の観点から言えば、3番目と4番目は多少無理がありますが^^

ここで気がついたかと思いますが、「手軽な」はオールラウンドのターゲットの時の表現、私の4つの案はそれぞれターゲットやシーンを意識したエッセンスです。
商品の性格を狭めることにはなりますが、性格をはっきりさせる役割を果たすことになります。

つまり、プロダクトコーンは規格が同じであってもターゲットによってベネフィットが違うために、エッセンスも変わるということなんです。
この発想は、ベネフィット中心型の戦略を作る時に、かなり有効です(つまりは規格が似通っていて、規格では差別優位性ができない業界などでよく使います)
-------------------------------
> 森さんをご存知の方ならおわかりですが、
> 実に森さんらしいスマートな定義です。(笑)

いえ、スマートを「ベタな」または「ちょっと、えっちな」と書き換えてくださいな(笑)
ただし、「おやじくさい」は厳禁^^ これを書いた時はまだ35才でしたから…あ、おやじか(^^;

投稿者 森@シストラット : 2006年11月24日 16:27

森さん、松尾です。

>ここで気がついたかと思いますが、「手軽な」はオールラウンドのターゲットの時の表現、私の4つの案はそれぞれターゲットやシーンを意識したエッセンスです。
商品の性格を狭めることにはなりますが、性格をはっきりさせる役割を果たすことになります。

このコメントがささりました。
なるほど。ターゲットによってベネフィットが変わるため、エッセンスも同様に変化するわけですね。これは、機能的ベネフィット、心理的ベネフィットの2つにベネフィットを分ける「プロダクト修正モデル」とも関係ありそうですね。

投稿者 松尾順 : 2006年11月27日 18:50

> ターゲットによってベネフィットが変わるため、エッセンスも同様に変化するわけですね。これは、機能的ベネフィット、心理的ベネフィットの2つにベネフィットを分ける「プロダクト修正モデル」とも関係ありそうですね

そのとおりです。
そして、ここにターゲット設定が大事であることのひとつが現れています。
ターゲットはマーケティングの本には必ず設定する必要があると書かれていますし、企業が使う商品開発シートの類にも必ずあります。
しかし、それが形骸化し、「本来の意味でのターゲットの設定することの大切さ」が分からなくなって、ルーチン化していることが多いのも事実です。

ターゲットをきちんとすると、それによるベネフィットやエッセンスが絞られ、商品がイキイキとしてくるんです。

投稿者 森@シストラット : 2006年11月29日 16:53

コメントしてください




保存しますか?