コンテクスト・リーディング
私は、マーケター向けの各種講座を提供する
「シナプス・マーケティング・カレッジ」
の講師として、初心者を対象に、
マーケティングリサーチの基礎の基礎を学んでもらう
「マーケティング・リサーチ・エッセンス」
を担当しています。
それで、講師としての立場(責任)上、
マーケティングリサーチの教科書や関連本はかたっぱしから
買い揃え、しばしば読み直しているんですが、
どの本にもほとんど説明されていないテクニックがあります。
それは、
「コンテクスト・リーディング」
です。
「コンテクスト・リーディング」は、
アンケート調査結果を集計データとして分析するのではなく、
1枚1枚の調査票(「個票」と言います)に立ち戻り、
設問の頭から最後まで通して眺めるやり方です。
目的は、調査票を通じて、回答者一人ひとりの行動や心理を
深く理解しようとすることです。
このため、本来は「数字」(実数、%)で把握する定量的手法
であるアンケート調査を定性的に、つまり数字抜きで分析する
んですね。
「コンテクスト・リーディング」は、
リサーチの王道から見たら、イレギュラーな方法ですし、
確立された方法論があるわけではないため、
教科書にはほとんど登場しないんでしょう。
(もし詳しく書かれてある本があったらぜひ教えてください)
ただ、コンテクストリーディングからは、
集計結果という、「個」が埋没したデータからは見えてこない
知見が得られます。
ですから、必要に応じ、従来の集計に加えて、
コンテクストリーディングを併用した方がいいのです。
通常、アンケート調査はまず設問単位で集計します。
回答者の性別構成は男性70%、女性30%、
○○製品の保有率は28%、といったようにです。(単純集計)
ただ、これでは大枠しか把握できないので、
「男性、女性別の○○製品の保有率」といった2つ以上の設問の
組み合わせを見ていくわけです。(クロス集計)
このクロス集計、通常は2次元(2つの設問の組み合わせ)、
多くて3次元までです。
というのも、
サンプル数が小さく分割されすぎるのと、
人間の理解限界を超えるからです。
たとえば、仮にサンプル数が十分あったとしても
「地域別性別別年齢別職業別年収別○○製品の保有率」
なんて分析しようとしても、わけわからんですよね。
(もちろん、解決策として多変量解析を採用することもあります)
そこで、おおむね2次元クロスまでの分析で止めるわけですが、
正直なところ、これだとかなり薄っぺらい理解しかできないと
いうのが真実でしょう。
そこで、定量的な把握はできないけれども、より厚みのある
理解ができる「コンテクスト・リーディング」をお勧め
しているわけです。
ただ、問題だと思うのは、紙の調査票が主流だった頃と
比べて、インターネット調査をやることが多くなった昨今、
データはエクセルの表としてしか存在しないため、
「コンテクスト・リーディング」がやりにくくなっています。
インターネット調査でもコンテクストリーディングが
やりやすい仕組みがほしいなあと思います。
*今回は、メルマガ「週刊広報」(Vol.182 2006.11.16)
に掲載されていたコラム
「市場から発想するマーケティング」
(JMAマーケティングマスター、白土栄次氏)
に触発されて書きました。
上記コラムで、「コンテクストリーディング」について
詳しく解説されています。すばらしい内容ですよ。
なお、上記メルマガのバックナンバーはこちらから閲覧できます。
(まだVol.182はアップされていないようです)
投稿者 松尾 順 : 2006年11月17日 12:43
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コメント
紙のときは確かに初票点検や、エラー修正のときに、どんな人か想像しながらできましたね。
調査会社の時の私の中の?ヒット商品として、
主要な項目のオンオフなどをたくさんつなげ、パターンを作成し、どのパターンの人間がどれぐらいいるのかなどを分析する、というのがあります。(多いときは100パターンとかつくる)
Aブランドの購入者は、最初にブランド想起したらそのまま購入まで突っ走るけど、
Bブランドの購入者は、認知後すぐにCブランドを比較検討し、そのあと、店頭でBブランドに決定している、
とか。
これを図解してあげると、顧客の流れ(コンテクスト)がよくわかりますし、クライアントにも好評でした。
投稿者 菅原 : 2006年11月17日 19:17
菅原さん、まいど!
>調査会社の時の私の中の?ヒット商品として、
主要な項目のオンオフなどをたくさんつなげ、パターンを作成し、どのパターンの人間がどれぐらいいるのかなどを分析する、というのがあります。(多いときは100パターンとかつくる)
この分析、すごく面白いですね。
作業は大変だったかと思いますが、クライアントに喜ばれたというのがよくわかります!
投稿者 松尾順 : 2006年11月18日 09:24
当社で開催したセミナーや展示会のブースでいただいたアンケートなど、データ化作業は自分でやるようにしてました。※実は部下達がやりたがらないという背景もありましたが...
「あっ!このヒトメルマガ読者だ!」とか、「へぇー、あそこの会社でさえも、こんなとこに課題あるんだ。」とかとか、
頻度とボリュームが適度だったせいもありますが、仕事を自分のものにしていくのに、とても役立ったと思います。
投稿者 課長007 : 2006年11月18日 13:40
課長007さん、まいど!
データ化作業を自分でやられていたんですか!
大変でしたね。
アンケートはデータ化されてしまうと、単なる数字の羅列にしか見えなくなってしまうものですよね。でも、一人ひとりのアンケート回答結果には、その人の人となりがなんらかの形で反映されているわけです。このことを忘れてしまうのはとてももったいないですよね。
投稿者 松尾順 : 2006年11月19日 10:59
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