過剰なサービスが利益を生む事例

過剰と思えるほどの顧客サービス、非効率で利益率低下を
招きかねない手厚いサービスが高い価値を生み出す時代。

最近つくづくそんなトレンドを感じるのですが、
その好事例のひとつが、食品スーパーの「あおき」です。
(日経ビジネス、2006年11月6日)

静岡に10店舗を展開する「あおき」、
今年10月、江東区豊洲に東京初の店舗を開店しています。

同店には、まだ私は行ったことがありませんが、
人口大理石を敷き詰めた床、鏡張りの天井など内装費は坪100万円超、
百貨店の2倍以上のコストをかけています。
また、入り口付近には自動演奏のピアノが置かれています。


このように、「あおき」の外見は高級スーパーですが、
運営は個人商店的です。

各店舗・各部門の担当者が個別に商品の品揃えを考え、
仕入れを行い、自ら売るという体制になっています。

つまり、現場担当者が、
マーチャンダイザー、バイヤー、セールスの3役を兼ねていて、
昔の個人の八百屋や魚屋さんと実態は同じというわけです。


大手チェーンなどでは、
この3役が機能分化して、それぞれ別のスタッフが担当しています。
しかも、たいていマーチャンダイザーとバイヤーは本部にいて、
各店舗では、本部がまとめて仕入れた商品を販売するだけ。

本部集中のこのやり方は、確かに効率的ではありますが、
個別店舗の異なるニーズには対応できないという弱点を
抱えていますね。


そこで、「あおき」では、あえて逆の非効率なやり方を
取ることで、各店舗での個別対応が可能な顧客サービスの
実現を優先しています。


たとえば、客の一人が

「テレビで見たんだけど、チコリーは置いてないの?」

と聞かれたとしても、店先の担当者が仕入れもやってますから、

「明日来てもらえれば、仕入れておきますよ」

と答えることができます。
(これ、本部集中体制ではまず絶対無理な対応)


また、このやり方は、社員が商品の品揃え、仕入れ、販売の
すべてに責任を持てるので、とてもやりがいのある仕事です。

ですから、社員のモチベーション維持にも効果的ですね。
そして、やる気満々で働く社員は顧客にも好感を与えます。

社員満足度、顧客満足度ともに向上するというわけです。


また、「あおき」には、レジを済ませた後に、
客が自分で袋詰めするための「サッカー台」がありません。

各レジ台には、レジ係に加えて、もう一人、
袋詰めをする「サッカー」がいて、その場で手際よく袋詰め
してくれます。

袋詰めって、割れやすい卵をどこに入れたらいいとか、
結構気を使う面倒な作業ですが、「あおき」の場合、
いつもプロがやってくれるので安心ですよね。


さて、豪華な内装、個別対応が可能な運営体制、手厚いサービス
といった非効率な仕組みを「あおき」が重視しているのは、

単に食品を買うというだけでない、

「あおきという店舗での買い物体験」

全体の満足度向上です。


要するに、価格以外の付加価値で勝負しているんですね。
だから、競合店舗よりも割高な価格設定でも顧客の高い支持を
得ています。

業績を見ると、「あおき」の経常利益率は5%です。
業界平均は同1-2%ですから、
業界屈指の利益を生み出しています。

「効率化」の追求は、
そもそも利益率を高めることが目的のはずですが、
「非効率」を追求するあおきの事例を見ると、
「効率化」の意義が感じられなくなってしまいますね。


今後の高齢化社会では、
食事に関してはあまり量は重要ではなく、
高品質の商品、サービスがより強く志向されていくでしょうから、
「あおき」的やり方は今後もますます有望じゃないでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 2006年11月08日 10:52

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コメント

「キッザニア」とともに話題になっているIHIの造船所跡地、豊洲のららぽーとへの出店ですね。

聞いた話しでは、日本では昔ながらの“暖簾分け制度=店長は一国一城の主”を踏襲しているだけらしいんですが、それだけでは儲けられないので、いわゆる本来の富裕層ではなく“セレブなライフスタイルに憧れて都心のマンション買っちゃってる層”を狙っているとかいないとか?

そう聞いた時に、バブル期のディスコのVIPルームを思い出してしまったのは私だけでしょうか...(泣)

投稿者 課長007 : 2006年11月08日 17:46

課長007さん、まいど!

これからは、本来の富裕層ではなく、
「手の届くちょっとした贅沢」を求める中間層を
狙うのがいいのかもしれませんね。
(団塊の世代のほとんどは中間層です・・・)

投稿者 松尾順 : 2006年11月08日 20:48

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