CRMの好事例:展示場ご来場新聞
CRMの主眼は、
「既存顧客との良好な関係の維持」
であるというのは、
いまさら言わなくても十分おわかりですよね。
ただ、CRMのもうひとつの重要な狙いに
「見込客との良好な関係の維持」
があるという点は、
まだまだあまり浸透していないように思います。
現在の市場は、買い替え需要が主流。
見込客が、時を置かず即座に購買してくれるような商品は
めったにありません。
つまり、ほとんどの商品には「買い替えのタイミング」
というのがあり、そのタイミングにさしかからないと、
購買には至らないのです。
ですから、買い替えのタイミングを無視して、
「こちらが売りたいときに無理やり売ろうとする」
という間欠的で、ハードセル型の「プッシュ営業」は
もはや通用しなくなってきたわけです。
最近は、短期的な販売を目的としない、
ソフトなコミュニケーションを見込客と継続的に行うことで
良好な関係を形成し、買い替えのタイミングがきたら、
むこうから指名してもらうという「プル営業」を
採用している企業が長続きする成功を収めています。
以前も書いたかもしれませんが、私は、
すぐに買ってくれない見込客をあっけなく切り捨てる、
従来の「プッシュ営業」を
「織田信長型マーケティング」
と呼び、一方、見込客がその気になるまで気長に待つ
「プル営業」を
「徳川家康型マーケティング」
と呼んでいます。
さて、「徳川家康型マーケティング」の好事例と言える
面白いマーケティング施策が、
販促会議最新号の12月号(2006.12)に掲載されていました。
簡単にご紹介します。
「積水ハウス」の取り組みです。
全社ではなく、東京南支店だけでの先行的な取り組み
のようです。
同支店では3つの新聞(紙ベース)を発行しています。
うち、見込客に対するソフトなコミュニケーションが、
「展示場ご来場新聞」
です。
これは、展示場に来場してアンケートを書いてくれた
「見込客」に対して、売り込みは一切ない、
キッチン、居間、バスルームなどの住宅に関するトレンド情報
のみが掲載された新聞です。
書き手は展示場の女性社員。
受け取った見込客は、セールスをされないので安心して、
この女性にいろいろと質問してきます。
こうして見込み客との継続的な関係が深まるのが
うかがえますね。
この新聞の成果としては、毎月の受注件数の30%が、
この新聞を受け取っている方たちとなっているそうです。
これこそまさに見込み客維持の理想形でしょう。
残り2つの新聞もCRM施策の理想を実現しています。
「営業担当者新聞」は、既に家を建てた既存客向けの新聞。
やはり宣伝は一切なく、トレンド情報のみ。
成果は、1軒の展示場が年間に契約する以上の棟数を
この新聞を受け取った既存客の紹介で契約しているそうです。
これは、既存顧客との関係維持施策としてすばらしいですね。
そして、「建ててる途中新聞」。
建築中のプロセスやごみ処理の状況などを新聞に仕立てて、
近隣住民に配布するもの。
近隣からの苦情低減になるだけでなく、
建築中の住宅の見学者が増える。
こうした人たちの中から、また新たな見込客や、
顧客を紹介してくれる積水ハウスのファンが
生まれているようです。
この事例のように徳川家康型マーケティングは、
今目の前の潜在顧客を狩り取る「狩猟型」ではなく、
「種」の段階からじっくり育てる「農耕型」と
言い換えることもでき、成果が上がり始めると
継続的に安定した収益が確保できるやり方です。
しかし、短期的な売上を確保するという視点からは、
一見迂遠に見える施策です。
このため、「徳川家康型マーケティング」は、
近視眼的な企業はなかなか実行に移せない施策だと言えます。
結果的にいつも顧客獲得に大変な思いをし続けるのです。
投稿者 松尾 順 : 2006年11月07日 17:55
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コメント
遅ればせながら、是非この記事を「BtoBマーケティング」コミュにトピ立てて紹介させていただければ幸いです。
例えば我が社の見込み客DBに対して「メールニュースだけじゃなく、プッシュしろしろ」という圧力が日に日に増しているのです。
ところが、肝心なベネフィットが質素(泣)なので、そんな見込み客からオプトアウトを食らうリスクを理解してもらうのに一苦労しています。
投稿者 課長007 : 2006年11月08日 17:55
課長007さん、
>例えば我が社の見込み客DBに対して「メールニュースだけじゃなく、プッシュしろしろ」という圧力が日に日に増しているのです。
>ところが、肝心なベネフィットが質素(泣)なので、そんな見込み客からオプトアウトを食らうリスクを理解してもらうのに一苦労しています。
まったく、こういう人がいると困っちゃいますね。
相変わらず、顧客の立場で考えられない人!
自分が顧客だったらプッシュされてどう感じるか、
という想像ができないのが本当に不思議です。
投稿者 松尾順 : 2006年11月08日 20:50
コミュへの掲載、本当にありがとうございました。
感動で眠れなくなっております!!^^
投稿者 課長007 : 2006年11月09日 01:44
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