特許より意匠
ソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン)向けに今年5月から
出荷を開始したシャープの携帯端末「AQUOSケータイ」。
シャープが液晶テレビ「AQUOS」で培った技術を活かして開発した、
モバイル機器向け地上デジタル放送「ワンセグ」対応機種です。
この機種について、競争戦略的な観点から着目すべきなのは、
AQUOSケータイのデザイン、特にスピーカーの形状について
シャープが「意匠権」を取りまくっていることです。
上記完成品の写真からはスピーカーの形状は確認できませんが、
開発中の機種を含む同社製携帯端末の画面の下や、
操作部のあちこちに配置した長方形のスピーカーに関して
10件以上、意匠権を登録しています。
(日経デザイン、October 2006)
この結果、競合他社の携帯機種は丸みをつけたスピーカーを
開発して、シャープの意匠権の侵害を避けています。
競合他社にとっては、もはや長方形のスピーカーを
自社の携帯のデザインとしては採用できない状況に
追い込まれたといえるでしょうね。
それだけデザインの自由度が制約されてしまうわけです。
携帯電話の意匠権は、
最近は年間300件以上新規登録されています。
部分意匠登録制度によって前述のように
スピーカーだけ、あるいはボタンだけという権利も取れます。
製品の機能や性能、品質面での差別化が難しい今、
製品自体が持つ唯一の差別化要素ともいえる「デザインの一定
の形状」をお互いに取り合っているわけです。
考えてみれば、デザインは視覚的に
「似ている・似ていない」
が判断しやすく、競合他社が優れたデザインを持つ製品を
出してきたからといって、おいそれと真似するわけには行きません。
東南アジアの無名企業が、意匠権侵害と知りつつ、
物まね製品を開発・販売することは頻発していますよね。
しかし、日本の大手企業が同じことはできません。
もし、意匠権侵害で訴えられたら、社会的な評判の低下に
つながりかねないですからね。
ところで、人のアイディアを守るための制度として
意匠権よりも私たちになじみのある「特許制度」は、
「自然法則を利用した技術的なアイディア」
が保護の対象です。
ただ、これはあくまで「技術」が対象であって、
この技術を基にした製品を保護するものではありません。
たとえば、世紀の発明といわれた
「青色発光ダイオード」
には、「青色発光」を実現するための異なる技術が
複数開発されています。
このため、お互いに他社の「特許」を侵害することなく、
堂々と「青色発光ダイオード」を開発・販売している企業が
複数あるんですね。
つまり、「特許制度」の場合には、同等の機能や性能、
品質を実現できる別の技術を開発するという形で、
特許権侵害を回避することができるわけです。
しかし、「意匠」の場合、視覚的に比較しやすい
「デザイン」
が対象ですから、権利侵害を回避することが極めて難しい。
このことを踏まえると、
これからは、技術を守る
「特許」
以上に、
デザインを守る
「意匠」
が、企業戦略、また、マーケティングにおいて、
ますます重要になってくると言えますよね。
投稿者 松尾 順 : 2006年10月02日 17:17
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