「隠す」のではなく、「さらす」開発


数日前に、「ロバストデザイン」という考え方をご紹介しました。

>>「ロバストデザイン」


これは、新製品開発に当たっていいコンセプトが生まれたら、
ともかく早めに「形」にして、ユーザーに試してもらい、
問題点、不足点を聞きながら市場で、製品改良を進めていくという
やり方でした。

こうすることで、ターゲットユーザーの「最新」のニーズに
最も適応した製品、つまり、競合他社商品の挑戦にも強い
「ロバスト」(頑健)な仕様(デザイン)が実現できるという
わけです。


実は、スバル(富士重工業)が、
新型軽乗用車「ステラ」の開発に当たって採用した市場調査の
新手法が、かなりロバストデザイン的なアプローチを採用したもの
でした。(日経産業新聞、2006/09/26)


通常、新型車の開発は極秘裏に行われ、ユーザーに見せるのは
デザインが確定した時か、試作車完成時くらいです。

しかし、「ステラ」の場合、構想段階からユーザーへの聞き取り
調査を行い、また、初期のデザインや模型を見せて、
ターゲット層の反応を継続的に把握しました。


興味深いのは、この調査の過程で、
開発者の思い込みがユーザーの反応によって
しばしば覆されたことです。

たとえば、企画段階では、

「室内空間をいかに広くするか」

を議論のベースに検討を行っていました。

この考え方の前提には、

「室内空間は、広ければ広いほど良い」

という思い込みがありますよね。


しかし、調査した子育て中の女性などからは、

「後ろに乗せている子どもとの距離が遠すぎる」

「後部座席に置いている荷物が取りにくい」

という思わぬ回答が出てきました。

つまり、

「室内空間は、広ければ広いほど良いというわけではない」

ということがわかったわけです。


結局、ステラの場合、室内長を当初案よりも30ミリ短縮。
スライド式の後部座席を運転席から気軽に引き寄せられる
ことも可能にしました。

「ステラ」は、今年2006年6月発売ですが、
売れ行きはなかなか好調のようです。


さて、製品開発にしろ、
マーケティングコミュニケーションにしろ、
大事なのは「顧客視点」ですよね。

これは、

「お客様のためにどうしたらいいか?」

という発想ではなく、

「自分が顧客だったらどうして欲しいか?」

という顧客の立場で考えるということです。


でも、実際のところ、これはとても難しい!

自分が開発者、企画者の立場にいると、
不思議と顧客側に立つことがなかなかできない。


だとすれば、開発初期の段階からターゲットユーザーを
巻き込むのが得策ということになります。

ダイレクトに顧客の声を聞けば話は早いですから。


スバルでは、情報漏えいのリスクをあえて犯しても、
初期の段階からターゲットユーザーに情報を

「さらす」

開発手法を今回採用したわけです。


やや逆説的に聞こえるかもしれませんが、

「競争優位性」を長く維持できる、
ユーザーニーズに最適応した製品を世に送り出すためには、

「隠す」

のではなく、むしろ

「さらす」

ということが有効な時代になってきたと
言えるでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 2006年09月28日 10:26

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