「でもでも」モデルと「だけだけ」モデル
「でもでも」モデルの代表例は、
世界一のファーストフードチェーン、「マクドナルド」。
「だけだけ」モデルの代表例は、
日本一の旅館、和倉温泉の「加賀屋」。
この2つのモデルは、サービス業における
「標準化」と「個性化」を基礎に置く考え方です。
マクドナルドは、単位化(分割作業)と作業の標準化
(マニュアル化)を徹底的に推し進め、
グローバルな供給体制を構築することで、
「いつでも、どこでも、誰でも」
同じ商品とサービスが受けられるという
サービスのコモディティ(ありふれた商品)化を
成し遂げていますよね。
だから「でもでも」モデル!
一方、プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」
26年間連続、日本一に輝く「加賀屋」は、
個々の顧客の特性、嗜好、ニーズに極力個別対応します。
例えば、ゆかたは、
他の旅館のようにあらかじめ部屋に置いてありません。
客を出迎えた客室係が、部屋に案内しながら
適切に客の身長、身幅を読み取り、身長は5センチ刻み、
横幅は4タイプから最も目の前の宿泊客に合うサイズを
後で持っていきます。
また、料理も、名古屋から来た客のために、
特別に赤だしのお味噌汁を作るそうです。
この対応は、グループの中の1人であったとしても同じです。
1人だけのために、他の客とは別に柔らかめに炊いた
ご飯を用意することもあります。
加賀屋にも一応、接客マニュアルはあるものの、
旅館で働く人たちが大切にしているのは、
「お一人、お一人、心も顔も異なるお客様に向き合えるのは、
この方のためにと尽くす自分の心しかありません」
という思い。
「あなただけ」のサービスを提供するために、
「できません」「ありません」
とは決して言わないのが加賀屋。
だから、「だけだけモデル」なんです。
さて、「でもでも」モデルと「だけだけ」モデル、
どちらが優れているといった議論のものではありません。
どちらも、固有のベネフィットを提供しています。
「でもでも」モデルが提供するのは、「安心感」。
世界旅行で見知らぬ土地に行ったけど、
現地の食事が自分に合うかどうかわからない時、
勝手知ったるマクドナルドに入れば、とりあえず安心ですよね。
(旅の醍醐味を一部失ってますけど・・・)
一方、「だけだけ」モデルは、
要するに「王様・王女様」扱いをしてくれるということですから、
「自己重要感」(自分は唯一のかけがえのない存在という意識)
を高めてくれます。
マズローの欲求五段階説的に言えば、
「でもでも」モデルは、生存や安全の欲求を、
「だけだけ」モデルは、所属、愛、評価、承認といった欲求を
満たしてくれるのだと言えそうです。
第三次産業として、農林水産業、工業に遅れて発展してきた
サービス産業は、「標準化」による生産性の向上が極めて重要な
製造業の影響を受けているためか、これまでどちらかと言えば、
「でもでも」モデルに偏りすぎていたように思います。
しかし、時代は言うまでもなく「だけだけ」モデルを求めています。
個別対応を重視した手厚い人的サービスが、これからさらに
増えていくように思います。
ただし、「だけだけ」モデルが成功するためには、
優れた人材の採用、育成、そしてリーダーによる適切な動機づけが
必須。
これが簡単ではないことは、昨日書いた青山のレストランの話でも
うかがえます。
加賀屋の場合、経営者の優れた人間性のなせる技か、
「加賀屋にはたくさんの客室があり、
大勢の客室係が働いていますが、私たちは、受け持つ客室を
加賀屋から一晩だけ借り受けるテナントだと考えています。」
「私たちは、一人ひとりが受け持つ客室の経営者なんです。
その意識さえあれば、働かされているといるといった
ネガティブな気持ちにはならないし、毎月のお給料も加賀屋
の社長ではなく、お客さまから頂戴しているという大切な
ポイントに気づくはずです」
とまで、客室係の人が言い切る意識が浸透しています。
だからこそ、日本一を長年続けることができるんでしょう。
*「でもでも」モデル、「だけだけ」モデルは、
妹尾堅一郎先生(東京大学先端科学技術研究センター特任教授)
の提唱(一橋ビジネスレビュー2006 AUG、特集論文
「サービスマネジメントに関する5つのイシューより」
*加賀屋についてのエピソード、引用は、
「加賀屋の流儀」(細井勝著、PHP出版)より。
投稿者 松尾 順 : 2006年09月19日 20:12
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