資生堂のメガブランド戦略:ブランドではなく意味を多様化せよ

マキアージュの初年度の年間マーケティング予算はおよそ40億円。
また、ツバキのそれは50億円だと言われています。

さすが、メガブランドにふさわしい超大型予算。
ただ、そのかなりの部分がタレント契約料に費やされてますよね。


ご存知かとは思いますが、いちおう、
2つのブランドの起用タレントを並べてみましょう。

<マキアージュ(メーキャップ化粧品)>
伊東美咲、蛯原友里、栗山千明、篠原涼子

<ツバキ(ヘアケア分野)>
仲間由紀恵、田中麗奈、上原多香子、広末涼子、観月ありさ、
竹内結子

一つのブランドの顔として、これだけの大物タレントを同時期に
起用するのは他に類を見ません!


ちなみに、ターゲットが性別、幅広い年代にわたる場合、
例えば、通信教育の「ユーキャン」のように、
あらゆる性別・年代をカバーする各種講座を提供している
企業では、いくつかの主要ターゲット・セグメントを意識した
複数タレントを起用していますね。
(現在は、織田裕二、小西真奈美、野際陽子の3人)


しかし、マキアージュやツバキのメインターゲットは
「20-30代の女性」というかなり限定的なセグメント。

多人数のタレントを同時起用する意義はなんでしょうか?


マキアージュの場合、上記ターゲットセグメントに属する
1760万人ユーザーの60%、すなわち、約1千万人をカバーすること
を目標にしています。

限定的な市場セグメントとはいえ、巨大なマス市場。
その過半数をおさえてしまおうとしているわけです。

リーダー企業としてふさわしい王者の戦略ですね。


ただ、やはり資生堂として気がかりだったのは

「消費者ニーズ・嗜好の多様化」

への対応でしょう。

多数のブランドを統廃合して、
いくつかのメガブランドに絞り込んだ場合、

・もしそのブランドが最初からこけたら?
・導入はうまくいっても、そのブランドの陳腐化が進んだら?

というリスクもまた大きくなりますね。


そもそも、以前の「多ブランド化戦略」は、
様々な消費者ニーズに基づく市場細分化を行い、
それぞれに適合していると考えられたブランドを投入することで、
失敗するリスクを低減する狙いがあったはずです。

ただ、前日に書いたように、そもそも予算が分散化したために
各ブランドを十分に育てることができないというジレンマに
陥ってしまい、ことごとく失敗したわけですが。


一方、メガブランド戦略は、
競馬で言えば本命の馬だけに全部のお金をつぎこむようなもの。
当たれば大きいが、外せば損失も莫大。


そこで、資生堂が考えたのが、ブランドの意味(解釈)を
多様化させることだったんだろうと考えています。

ブランディングの定石では、
特定のタレント(普通は1人、せいぜい2人まで)を起用して、
ブランド連想を強化しようとします。

花王のアジエンスがそうでした。

「アジアン・ビューティ」のコンセプトをひっさげて登場した
チャン・ ツィイーの一連の広告の印象は強烈でしたよね。

しかし、資生堂のマーケティング担当の方も指摘されてましたが、
チャン・ ツィイーのイメージがあまりに強かったために、
最近はそろそろ旬を過ぎた感があります。陳腐化が始まりつつある。

そこで、おそらく資生堂では、
マキアージュ、ツバキ、そして52人のお笑いタレントを起用した
ウーノ(男性化粧品)でも、

あえてたくさんのタレントとの連想を同時多発的に形成することによって、
「意味の多様化」を図ったと言えるんじゃないでしょうか。


20-30代の女性というターゲットセグメント。こんなデモグラフィックな
属性で本来は人くくりにはできません。

例えば、同じ28歳の女性でも、ライフスタイルも価値観も様々なはず。
共感するタレントもずいぶん違う。

そんな多様性を持つ現代女性に対しては、異なるタレントを同時に起用して


どうぞお好きなタレントをお選びください!
あなたの好きな解釈で、ブランドを意味づけてください!

という「意味の多様化」がベストのアプローチになるんだと思います。


余談ですが、「ツバキ」のポジショニングについて。

ユニリーバの「ラックス」は、ハリウッド女優を起用することで
「輝くブロンドの髪」を打ち出していますね。

これに対して、花王の「アジエンス」は、
アジア女性の「つややかな黒髪」の魅力を強調することによって、
ラックスのもつブロンドのイメージを「負債化」することに
成功しました。

さらに、「ツバキ」は、日本人女性の髪の美しさ」を強調する
ことで、ポジションをずらしています。

特に大きな違いは、アジエンスにおける「アジアンビューティ」では、
黒髪は黒髪でもストレートヘア。しかし、「ツバキ」の場合は、
ウェーブのかかったボリューム感のあるヘアをイメージさせています。
(これは、日本の女性は、ストレートよりもちょっとウェーブの
 かかったヘアスタイルをより好むという調査結果から導かれた
 ポジショニングのようです)


さて、「ツバキ」では、アイススケート金メダリスト
荒川静香さんを含む6人の女性タレントを新たに起用して
第3弾のブランディングを展開中。

ブランドは絞り込んで、意味(解釈)を多様化する
ブランディング手法はこれからも続けられるようです。

投稿者 松尾 順 : 2006年07月12日 14:03

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コメント

固定化されたブランドというよりは、用途へのイメージを強化するための戦略なのでしょうね、おそらく。
そっちがひとり歩きして欲しいっていう戦略性なのかなって。

投稿者 Jules : 2006年07月12日 17:56

>どうぞお好きなタレントをお選びください!
あなたの好きな解釈で、ブランドを意味づけてください!
という「意味の多様化」がベストのアプローチになるんだと思います。

理想とするタレントを通じて、消費者の好きなようにブランドを解釈させる・・
新しいコミュニケーションだと思いました。
でもあれだけのタレントを起用するとは、タレントを通じたセグメンテーションをCMで行っているとも言えるのでしょうか。しかしあれだけのタレントを起用して「20-30代の女性」をもれなくカバーするとは、タレント起用を通じた保険の掛け方?も、半端じゃないですよ。

投稿者 JUN : 2006年07月21日 01:41

2007年12月、カネボウ化粧品より大型ブランド『COFFRET D`OR』が発売されるそうです。
『MAQuillAGE』と、タレント・セグメンテーション比較をしてみました。
どの様にお考えになりますか??

投稿者 ラストサムライ : 2007年12月01日 19:28

ラストサムライさん、記事拝見しました。

タレント・セグメンテーション比較、興味深いですね。
カネボウとしては、資生堂とガチンコ勝負に出たということでしょうね。

カネボウのタレントは、寄せ集めというか、似たようなタイプのタレントなのでキャラがかぶっていてあまり意味がなさそうな気がしました。(北川景子と沢尻エリカ、柴崎コウと中谷美紀ってそれぞれキャラが近くないですか)ご指摘の通り、常盤貴子だけが異質な存在ですけど。

投稿者 松尾順 : 2007年12月03日 16:15

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